JP3572092B2 - 線維芽細胞成長因子含有フィルム製剤 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は安定な線維芽細胞成長因子(以下、「FGF」ともいう)を含有するフィルム製剤に関する。さらに詳しくは、本発明はFGFに、水溶性セルロ−ス低級アルキルエーテル、さらに必要に応じて多価アルコールおよび界面活性剤から選ばれる可塑剤、さらに緩衝剤、殺菌剤等を配合した安定性の優れたフィルム製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
FGFは1974年にウシの脳下垂体から初めて検出され、1980年代中頃には、2つのタイプ、すなわち等電点(pI)が5〜6の酸性線維芽細胞成長因子(以下、「aFGF」という)、およびpIが9〜10の塩基性線維芽細胞成長因子(以下、「bFGF」という)が精製された。現在では、これらaFGFおよびbFGFに加えて、INT2タンパク質、HST1タンパク質、FGF5、HST2タンパク質/FGF6、およびKGFの7種の成長因子がFGFファミリーに属するとされている。
このうちaFGF、bFGFはヒトの種々の臓器に存在し、線維芽細胞や血管内皮細胞に対して強力な増殖作用がある。その臨床的利用として、糖尿病性皮膚潰瘍、静脈瘤性下腿潰瘍の治療、角膜、皮膚、骨移植の容易化、創傷、骨折、腱の切断時の治療期間短縮が期待されており、将来的には、アルツハイマー病等の脳神経の変性疾患や心筋梗塞への応用も可能と考えられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、FGFは物理化学的に非常に不安定で、酸、アルカリ、熱等ですぐに失活してしまうことから、優れた生理活性物質であるにもかかわらず、医薬品としての開発は容易ではない。
そのため、FGF配合製剤の安定化の試みとして、成長因子を安定化するために充分な水溶性多糖を含有する水性の医薬組成物とする方法(特開昭63−15234)、FGFムテインの水溶液にグリコサミノグリカンを添加する方法(特開平2−40399)、FGFムテインもしくはその水溶液に硫酸化グルカンを添加する方法(特開平2−138223)、FGF蛋白質に水不溶性のヒドロキシプロピルセルロースを配合する方法(特開平4−128239)、FGFとシュークロースオクタスルフェート( SOS)の塩とを結合、もしくは複合体とする方法(特開平4−330017)、FGFとデキストラン硫酸との組み合わせの製剤(国際特許出願 WO 9003797)等が開示されている。
しかしながら、いずれも水性組成物、粉末組成物でのFGFの安定化に限られている。
【0004】
一般に、熱傷、褥瘡、糖尿病性潰瘍等の難治性皮膚潰瘍には、強力な創傷治癒促進作用のあるFGFの投与が有効であると考えられている。上記従来の安定化されたFGFの水性組成物、粉末組成物も通常の手法で、液、軟膏、クリーム、ゲル等の外用剤に調製して潰瘍部位に直接投与することも可能ではある。しかしながら、液剤の場合、ガーゼ等に含浸させて使うために傷口に固着し、ガーゼ交換時に新生上皮を損なうおそれがあり、軟膏、クリーム、ゲルの場合、傷口に手で塗り込まなくてはならず、FGFのような微量で活性の強い物質を扱うには好ましくない。さらに損傷部位は当然痛みを伴うことが考えられ、塗擦時の物理的刺激は痛みの閾値の低い患者にとって過度の刺激となる可能性がある。また、FGFを含有したハイドロゲル製剤(シート状)(国際特許出願WO 9003810)も提案されているが、凹凸のある創傷面への密着性に欠けるため、創傷面と製剤面との間に浸出液が貯留し、雑菌などによる化膿のおそれがある。また、フィルム製剤と異なり、水分を多量に含有しているためFGFの安定性についても問題が残されている。
【0005】
本発明者らは、創傷治癒促進作用を有するFGFを前記の如き難治性皮膚潰瘍の治療に用いるために、従来製剤の欠点を克服し、かつFGFの安定化をはかる方法を鋭意研究したところ、水溶性高分子のフィルム製剤が、患部のサイズに合わして裁断し、創傷部位に置くだけの簡便な方法でFGFを投与でき、しかも深部潰瘍に対して溶解して使用できる製剤であることを見いだした。また、水溶性高分子のフィルム製剤は薄くて柔軟性があるため物理化学的刺激が少なく、追随性があるため凹凸のある傷口にも密着し、微量の活性物質を正確かつ有効に投与することができ、液体で簡単に洗い流すことができるので傷の管理がし易いという、潰瘍部位に適用する製剤として満足すべき特徴を具備している。加えて水溶液中で極めて不安定であるFGFが、含有水分の少ないフィルム製剤中では特定の安定化剤を用いずとも安定であることを見出し本発明を完成するに至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は水溶性のセルロース低級アルキルエーテルをFGFに配合し、必要に応じてさらに多価アルコールおよび界面活性剤から選ばれる可塑剤、並びに緩衝剤、殺菌剤等を配合することを特徴とする安定なFGFフィルム製剤を提供する。
本発明に用いられるFGFの例としては、遺伝子操作技術によりクローン化されたヒトFGF遺伝子を微生物や動物細胞で発現させることにより大量生産が可能となった組み換え型のFGFが挙げられる。その配合量はフィルム製剤中に5μg〜10mg/(10×10)cm2である。
本発明に用いる水溶性のセルロ−ス低級アルキルエーテルとしては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられ、特にヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。これら水溶性セルロース低級アルキルエーテルの粘度範囲は5〜50,000cps(2%水溶液、20℃、B型粘度計)が好ましい。
上記水溶性セルロース低級アルキルエーテルの配合量は、FGF1重量部に対して50〜1,500,000重量部、さらに好ましくは100〜250,000重量部、最も好ましくは300〜2,000重量部の範囲である。
【0007】
本発明のフィルム製剤には、製剤の柔軟性を改善する目的でグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等の界面活性剤から選ばれる可塑剤を添加することができる。その添加量は、全製剤重量の0.3〜80重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは5〜60重量%である。添加量が80重量%を越えると、フィルム製剤としての形状が保てず好ましくない。
【0008】
本発明のフィルム製剤は、さらに必要に応じて緩衝剤、殺菌剤を配合することができる。
本発明のフィルム製剤に用いる緩衝剤としては、リン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤などが挙げられる。そのpHは4.5〜7.5であり、好ましくはpH5.0〜6.5である。
本発明のフィルム製剤に用いる殺菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。その配合量は0.0005〜0.1重量%であり、好ましくは0.001〜0.1重量%である。
本発明のフィルム製剤の厚みとしては、5〜500μm、好ましくは10〜100μmである。製剤の厚みが5μm以下の場合は、フィルムの強度が弱くなり、破損が生じやすく、取扱いが難しいため好ましくない。逆に500μmを越えると、柔軟性に欠け、傷口への密着性が悪くなるため好ましくない。
【0009】
本発明のフィルム製剤の一般的な製法としては、まず水または緩衝液に必要に応じて可塑剤、殺菌剤を加え、ついで水溶性セルロース低級アルキルエーテルを徐々に添加し、分散溶解させた後、FGFを含有する緩衝液を徐々に添加し、撹拌して均一な溶液にする。この溶液を脱気した後、展延、乾燥してFGF含有フィルム製剤とする。この場合、乾燥温度が高すぎるとFGFが失活するおそれがあるので、乾燥温度は30〜50℃程度のなるべく低い温度が好ましい。
【0010】
【実施例】
つぎに実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
実施例1
水(92.33g)にヒドロキシプロピルセルロース(HPC−M)1)(6.0g)を徐々に添加し、粒子が完全に分散溶解するまで撹拌を続ける。この液を撹拌しながら、5mg/mlのヒトbFGFを含有するクエン酸塩緩衝液(1.67ml)を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を続ける。脱気した後、展延、乾燥し、フィルム製剤を作製する。
【0011】
実施例2
水(88.5g)を70℃以上に加温しながら、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(HPMC 2910)2)(9.0g)を徐々に添加する。均一な熱水スラリーとなった後、外部から冷却しながら撹拌し、5mg/mlのヒトbFGFを含有するクエン酸塩緩衝液(1.67ml)を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を続ける。脱気した後、展延、乾燥し、フィルム製剤を作製する。
【0012】
実施例3
水(88.5g)を70℃以上に加温しながら、メチルセルロース(MC)3)(9.0g)を徐々に添加する。均一な熱水スラリーとなった後、外部から冷却しながら撹拌し、5mg/mlのヒトbFGFを含有するクエン酸塩緩衝液(1.67ml)を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を続ける。脱気した後、展延、乾燥し、フィルム製剤を作製する。
【0013】
実施例4
下記表1に示す配合成分に従い、フィルム製剤A〜Dを作製する。すなわち、水または緩衝液(78.33g)に可塑剤(1.0g)、およびフィルム製剤Dの場合にはさらに殺菌剤(1.0mg)を加え、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)(19.0g)を徐々に添加し、粒子が完全に分散溶解するまで撹拌を続ける。この液を撹拌しながら、5mg/mlのヒトbFGFを含有するクエン酸塩緩衝液(1.67ml)を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を続ける。脱気した後、展延、乾燥し、フィルム製剤A〜Dを作製する。
【0014】
【表1】
1)HPC−M(日本曹達株式会社製)/粘度150〜400センチポイズ/ヒドロキシプロピル基52.4〜77.5%
2)TC−5S(信越化学工業製)/粘度15.0センチポイズ/メトキシル基28.0〜30.0%/ヒドロキシプロピル基7.0〜12.0%
3)メトローズSM−15(信越化学工業製)/粘度13.0〜18.0センチポイズ/メトキシル基27.5〜31.5%
4)HPC−L(日本曹達株式会社製) /粘度6.0〜10.0センチポイズ/ヒドロキシプロピル基52.4〜77.5%
【0015】
試験例1
本発明のFGF含有フィルム製剤中のFGFの安定性を検討した。
(試験試料の作製)
本実験に用いたフィルム製剤は、以下の様にして製造した。
水(93.35g)にヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(6.20g)を徐々に添加し、粒子が完全に分散溶解するまで撹拌を続ける。この液を撹拌しながら、5mg/mlのヒトbFGFを含有するクエン酸塩緩衝液(3.8ml)を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を続ける。脱気した後、展延、乾燥し、フィルム製剤を作製し、これを試料とする。
(方法)
ヒトbFGF含有等張リン酸緩衝液(pH7.4)および、ヒトbFGF含有フィルム製剤を15℃の恒温室に保存した。その後HPLC法によってbFGFの残存率を測定し、その結果を表2に示す。
【0016】
(結果)
【表2】
表2に示す結果から、本発明のフィルム製剤はbFGFを安定に保持することがわかる。
【0017】
試験例2[創傷治療に及ぼす効果]
本発明のFGF含有フィルム製剤の創傷治療に及ぼす影響を、遺伝的糖尿病マウスの皮膚全層切除モデルを用いて検討した。
(試験試料の作製)
本実験に用いたフィルム製剤は、以下の様にして製造した。
水(93.35g)にヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(6.20g)を徐々に添加し、粒子が完全に分散溶解するまで撹拌を続ける。この液を撹拌しながら、5mg/mlのヒトbFGFを含有するクエン酸塩緩衝液(3.8ml)を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を続ける。脱気した後、展延、乾燥し、フィルム製剤を作製し、これを試料3とする。また、ヒトbFGFを添加せずに同様に製造したものを試料1とする。
コントロールとしては生理食塩液(20μl/site)を用い、またヒトbFGFを生理食塩水で所定濃度になるように調製したものを試料2とした。
なお、試料1および試料3は、用時に細切(1.4cm×1.4cm)して使用した。
試験群の構成を表3に示す。
【0018】
【表3】
【0019】
(試験方法)
試験前日にマウスの背部を電気バリカンと電気シェーバーを用いて丁寧に剪毛し、エーテル麻酔下で、背部皮膚を消毒用エタノールにて清拭後、外科用湾曲ハサミを用いて背部正中部に円形の皮膚全層切除創(2cm2)を作成した。
皮膚切除後、各試料を1日1回5日間(計5回)滴下あるいは貼付し、傷面をBIOCLUSIVER(ジョンソン&ジョンソンメディカル) により被覆した。傷面を2〜4日間隔でプラスチックシートにトレース後、トレース方式図形解析システムにより創傷面積を測定し、切除直後の面積に対する比率を算出して創傷治癒効果を求めた(図1)。さらに創傷面の血管新生・肉芽形成の程度を肉眼的にスコアー付けし(0:無影響、1:軽度、3:中程度、4:強度)、経日変化を調べた(図2および図3)。
【0020】
(統計解析)
各試料群の面積変動率の平均値と標準偏差を算出し、ハートリイ(Hartley)の検定で等分散の場合は一元配置分散分析で、不等分散の場合はクラスカル−ウオリス(Kruskal−Wallis)のH検定を実施した。その結果、5%で有意差が認められた場合、コントロール群と試料2投与群および試料1投与群と試料3投与群との差を多重比較した。また、創傷面の血管新生・肉芽形成の肉眼的スコアーの比較には、クラスカル−ウオリスのH検定を用いた。
【0021】
(結果)
図1の結果では、コントロール群および試料1投与群の創傷面積は徐々に縮小し、切除後18日目の創傷面積はそれぞれ平均25.5%および23.4%であった。一方、試料2および試料3投与群の創傷面積は、コントロールおよび試料1投与群と比較して、投与4日目より急速にかつ有意に縮小し、切除後18日目の創傷面積はそれぞれ平均0.4%および2.6%で明らかな創傷治癒促進作用を示した。また、試料2と試料3の創傷面積推移に統計学的な差は認められなかった。
図2および3の結果より、試料2および試料3の血管新生,肉芽形成は、コントロールおよび試料1と比較していずれも早期に強く認められ創傷治癒促進に寄与したものと考えられた。また、血管新生および肉芽形成の程度において、試料2と試料3の両群間に差は認められなかった。
以上の結果から、本発明のヒトbFGF含有フィルム製剤は創傷治癒剤として有効であることがわかる。
【0022】
【発明の効果】
本発明は、薬効成分であるFGFと水溶性セルロース低級アルキルエーテル、および必要に応じて特定の可塑剤、緩衝剤、殺菌剤等を配合してフィルム製剤とすることにより、薬効成分のFGFを物理化学的に安定に保持し得る、皮膚潰瘍部位に直接適用可能な製剤を提供する。
本発明のFGF含有フィルム製剤は、創傷治癒剤として皮膚潰瘍部位に適用するに際して、創傷部位に単に置くだけの簡便な方法で主薬成分を投与でき、また製剤が薄く柔軟性があるため、患部への刺激が少なく、患者に投与時の痛みを感じさせることがないという利点を有する。さらに、本発明のFGF含有フィルム製剤は追随性があるので凹凸のある創傷部にも密着し、微量の活性物質(FGF)を正確に患部に投与することができる。さらに製剤を液体で簡単に洗い流すことができるので、傷の管理がしやすいという優れた皮膚潰瘍治療剤としての特徴を持つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】生理食塩液(コントロール)、ヒトbFGF不含フィルム製剤(試料1)、ヒトbFGF含有生理食塩液(試料2)および本発明のヒトbFGF含有フィルム製剤(試料3)を適用した場合の、マウス皮膚全層切除モデルにおける創傷面積の変化率の経日変化を示すグラフ。
【図2】生理食塩液(コントロール)、ヒトbFGF不含フィルム製剤(試料1)、ヒトbFGF含有生理食塩液(試料2)および本発明のヒトbFGF含有フィルム製剤(試料3)を適用した場合の、マウス皮膚全層切除モデルにおける創傷部位の血管新生の程度の経日変化を示すグラフ。
【図3】生理食塩液(コントロール)、ヒトbFGF不含フィルム製剤(試料1)、ヒトbFGF含有生理食塩液(試料2)および本発明のヒトbFGF含有フィルム製剤(試料3)を適用した場合の、マウス皮膚全層切除モデルにおける創傷部位の肉芽形成の程度の経日変化を示すグラフ。
Claims (4)
- 水溶性セルロース低級アルキルエーテルを含有し、安定化剤を含まない安定な繊維芽細胞成長因子(FGF)含有フィルム製剤。
- 水溶性セルロース低級アルキルエーテルが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびメチルセルロースから選ばれる1種または2種以上であり、その配合量が繊維芽細胞成長因子(FGF)1重量部に対して50〜1,500,000重量部の範囲内にある請求項1の繊維芽細胞成長因子(FGF)含有フィルム製剤。
- 多価アルコールおよび/または界面活性剤をさらに配合する請求項1の繊維芽細胞成長因子(FGF)含有フィルム製剤。
- 多価アルコールおよび/または界面活性剤の配合量が全製剤重量の0.3〜80%重量の範囲である請求項3の繊維芽細胞成長因子(FGF)含有フィルム製剤。
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