JP3566951B2 - Ni基高温強度部材およびその製造方法ならびにその部材用皮膜形成材料 - Google Patents

Ni基高温強度部材およびその製造方法ならびにその部材用皮膜形成材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスタービンやジェットエンジン等の高温被曝部分に用いられる高温強度部材、とくにNi基単結晶合金製およびNi基一方向凝固合金製の動・靜翼基材の表面に、塑性加工歪などに起因する高温強度の低下を防ぐとともに、高温の燃焼ガスによる腐食損傷を防ぐために好適に用いられる皮膜を設けてなるNi基高温強度部材およびその製造方法とその部材用皮膜形成材料に関するものである。また、本発明の技術は、基材中にBを含まない多結晶Ni基合金および含B多結晶Ni基合金であっても、B含有量が該基材を覆う被覆層中のB含有量よりも少ない場合のNi基多結晶合金に対しても有効である。
【0002】
【従来の技術】
近年、ガスタービンは、熱効率の向上のために作動ガス温度の高温化を目指した研究が行われ、現在では既に、タービン入口温度が1500℃を超えるまでになっており、さらなる高温化技術の開発が求められている。
このようなガスタービンの高温化技術は、高温の燃焼ガスに直接曝されるタービン翼部材用材料の進歩(耐高温酸化性,熱遮断を目的とした皮膜の開発を含む)と、翼の冷却技術の開発に負うところが大きく、現在も重要な研究課題となっている。
特に、タービン動翼は、運転環境下における遠心力によるクリープ,タービンの起動,停止による熱疲労、機械的振動による高サイクル疲労、さらに燃焼ガス中に含まれる海塩粒子、硫黄、バナジウムなどの不純物による腐食作用を受けるため、翼部材研究の中心的対象となっている。
【0003】
従来のタービン翼部材としてのNi基合金の研究開発状況を概観すると、次のように要約される。
▲1▼ 多量のγ’相と呼ばれる金属間化合物[Ni(Al,Ti)]の析出・分散による合金の強化、
▲2▼ 母相γとγ’両相の固溶強化、また両相の組成の微妙なバランスによる結晶界面の原子配列を考慮した合金手法の開発とその成果を利用した合金の開発、
▲3▼ 真空溶解技術の採用による微量不純物,気体類の影響の除去による高品質合金製造方法の確立、
▲4▼ 鍛造成形から精密鋳造技術への転換による高性能翼材の開発(冷却機構分野における自由度の拡大)、
▲5▼ 合金の一方向凝固法の開発による等軸晶から柱状晶翼材の製品化、
▲6▼ 多結晶合金の結晶粒界に起因する材料強度劣化を解消した単結晶翼材の開発、
▲7▼ 単結晶翼材の化学成分は、Ni:55〜70mass%を主成分として、その他にCr:2〜15mass%、Co:3〜13mass%、Mo:0.4〜8mass%、W:4.5〜8mass%、Ta:2〜12mass%、Re:3〜6mass%、Al:3.4〜6mass%、Ti:0.2〜4.7mass%、Hf:0.04〜0.2mass%、C:0.06〜0.15mass%,B:0.001〜0.02mass%,Zr:0.01〜0.1mass%,Hf:0.8〜1.5mass%など元素が添加されたものである。ただし、これらの合金類は、耐高温酸化性に有効なCrやAlの含有量が比較的少ないため、耐高温酸化性,耐高温腐食性(以下、耐高温環境性)の表面処理皮膜を施工することによって、はじめて、優れた高温強度を発揮するようになる。
▲8▼ ガスタービンやジェットエンジン等の高温被爆部材に対しては、その他、“MCrAlX合金”と呼ばれる耐高温酸化性に優れた合金皮膜が施工されている。ここで、Mは、Ni,CoあるいはFeの単独、あるいはこれらの複数の元素からなる合金、Xは、Y,Hf,Sc,Ce,La,Th,Bなどの元素を示す。
こうしたMCrAlX合金であっても、使用目的に応じた種々の化学組成のものが多数提案されており、これらの合金に関する先行技術を列挙すれば、次の通りである。
特開昭58−37145号公報、特開昭58−37146号公報、特開昭59−6352号公報、特開昭59−89745号公報、特開昭50−29436号公報、特開昭51−30530号公報、特開昭50−158531号公報、特開昭51−10131号公報、特開昭52−33842号公報、特開昭55−115941号公報、特開昭53−112234号公報、特開昭52−66836号公報、特開昭52−88226号公報、特開昭53−33931号公報、特開昭58−141355号公報、特開昭56−108850号公報、特開昭54−16325号公報、特開昭57−155338号公報、特開昭52−3522号公報、特開昭54−66342号公報、特開昭59−118847号公報、特開昭56−62956号公報、特開昭51−33717号公報、特開昭54−65718号公報、特開昭56−93847号公報、特開昭51−94413号公報、特開昭56−119766号公報、特開昭55−161041号公報、特開昭55−113871号公報、特開昭53−85829号公報、特開昭57−185955号公報、特開昭52−117826号公報、特開昭60−141842号公報、特開昭57−177952号公報、特開昭59−1654号公報。
これらの合金類は、主に多結晶合金翼材の耐高温環境性用皮膜として開発されてきたが、単結晶合金や一方向凝固合金にも有効であり、広く採用されている。
【0004】
一方、Ni基合金の中で、とくにNi基単結晶合金やNi基一方向凝固合金は、塑性加工や衝撃さらには、タービン翼として実機の運転環境下で疲労や熱疲労損傷を受けた状態で高温に加熱されると、加工や衝撃による残留歪の部分が変質して変質層を形成(図4参照)するという特徴がある。この変質層の部分は、光学顕微鏡による観察では、判別できないほどの微細な結晶の集合体、あるいはその予備状態にあるものと考えられるが、非常に脆く僅かな応力の負荷によって簡単に小さな亀裂を多数発生して破壊の起点となることが、本発明者らの実験によって確認された(図5参照)。
かかる基材表面に顕れる変質層に起因する高温強度の低下に対し、従来、これに着目してその防止を表面被覆によって図る技術については全く研究されておらず、先行のMCrAlX合金皮膜の用途は、もっぱら高温の燃焼ガスに起因する腐食損傷を対象とした耐高温環境性の向上にのみ向けられていることは周知の通りである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、Ni基合金、とくにNi基単結晶合金製およびNi基一方向凝固合金製の従来翼部材が抱えている以下に述べるような課題を、解決することにある。
▲1▼ Ni基単結晶合金製翼部材およびNi基一方向凝固合金製翼部材は、その製造工程,タービン翼としての運転中はもとより、保護皮膜の形成工程などにおいて、僅かな機械加工歪の発生やブラスト処理による粗面化などを受けた後、これが高温に加熱されると、それらの影響部に微細な結晶が多数生成した変質層を発生するという特徴がある。この変質層は、脆弱で小さな応力の負荷によって、微細な亀裂を多数発生し、これが起点となって高温強度が著しく劣化する。
▲2▼ 歪や機械加工を受けた状態のNi基単結晶合金製およびNi基一方向凝固合金製翼部材の表面に対して、従来のMCrAlX合金溶射皮膜のみを形成した場合、前記変質層の生成に伴う高温強度の低下を防ぐことができない。
▲3▼ 以上の結果、材料工学的には優れた高温強度を有するNi基単結晶合金およびNi基一方向凝固合金製の動・靜翼部材であっても、現状の技術では、その優位性を十分に発揮させることができない状況にある。
▲4▼ また、従来のMCrAlX合金皮膜は、もっぱら燃焼ガスによる腐食に耐えるように工夫されているだけであって、Ni基単結晶合金やNi基一方向凝固合金の内部変質層に起因する高温強度の低下を抑制するという視点に立って開発されたものではない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、Ni基単結晶合金やNi基一方向凝固合金からなる高温強度部材が抱えている上述した課題、すなわち塑性加工によって誘発される結晶制御の崩壊(広義の意味における再結晶)に起因する部材の高温強度の低下を防ぐために、溶射法または電子ビーム蒸着法(以下、単に「蒸着法」という)によって、Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含むMCrAlX合金の被覆層(皮膜)を形成するとともに、さらには既知のMCrAlX合金(Bを含まない合金)や耐熱性セラミックス等の被覆層をも積層させることにした。このことにより、高温の燃焼ガスによる酸化や腐食傷にたいしても十分な抵抗性を示すNi基高温強度部材を提案するものである。
【0007】
すなわち、本発明の特徴は、下記の要旨構成(1)〜()によって示すことができる。
) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートを設けてなるNi基高温強度部材。
) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートを設けてなり、かつそのアンダーコートもしくはオーバーコートのいずれか少なくとも一方の表面には、Al拡散浸透層を形成してなるNi基高温強度部材。
) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、耐熱性セラミックスの被覆層であるオーバーコートを設けてなるNi基高温強度部材。
) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートを設け、さらにそのオーバーコートの上に耐熱性セラミックスの被覆層であるトップコートを設けてなるNi基高温強度部材。
【0008】
そして、上記各Ni基高温強度部材は、それぞれ下記の(i)(iii)の方法によって製造することができる。
(i) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含む耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって形成し、次いで、その上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって積層形成することを特徴とするNi基高温強度部材の製造方法。
(ii) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含む耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって形成し、次いで、その上に、耐熱性セラミックスの被覆層を溶射法または蒸着法によって形成することを特徴とするNi基高温強度部材の製造方法。
(iii) Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含む耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって形成し、次いで、その上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層を形成し、さらにその後、最外層として、耐熱性セラミックスの被覆層を積層形成することを特徴とするNi基高温強度部材の製造方法。
【0009】
また、本発明は、上記Ni基高温強度部材の製造に当たっては、下記の要旨構成で示される皮膜形成材料を用いる。
▲1▼ 耐熱合金中に、金属(M) 11 12で表示される金属硼化物および/またはBCおよびNBのいずれか少なくとも1種の非金属硼化物からなる硼化物を硼素(B)量として0.1〜5.0mass%含有し、残部が、Co,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種の元素を含む合金に対し、Y,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,Pt,TiおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加した耐熱合金からなることを特徴とするNi基高温強度部材用皮膜形成材料。
▲2▼ 耐熱合金中に、金属(M) 11 12で表示される金属硼化物および/またはBCおよびNBのいずれか少なくとも1種の非金属硼化物からなる硼化物を、硼素(B)量として0.1〜5.0mass%含有し、残部が、Co,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種の元素を含む合金に対し、Y,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,Pt,TiおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加した耐熱合金からなり、少なくとも80%が5〜100μmの大きさの粒径をもつ粉粒体であることを特徴とするNi基高温強度部材用皮膜形成材料。
【0010】
なお、本発明においては、
(i) 金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートもしくは、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートのいずれか少なくとも一方の表面に、Al拡散浸透層を形成することが好ましく、
(ii) アンダーコート、オーバーコートおよび/またはトップコート形成後に、熱処理を施すことが好ましく、
(iii) 熱合金中に含まれる硼化物は、金属硼化物が、金属(M)1 111 12で表示される化合物であり、また非金属硼化物が、B4Cおよび/またはNBからなる化合物であって、その含有量は硼素(B)量として0.1〜5,0mass%含有していることが好ましく、
(iv) 耐熱合金は、Co,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種の元素を含む合金に対し、さらにY,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,PtおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加してなる合金であることが好ましく、
(v) 耐熱性セラミックスは、Y23,CaO,MgO,Yb23,Sc23およびCeO2から選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むZrO2系セラミックスであること、
が好ましい実施の形態である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、Ni基合金基材、とくにNi基単結晶合金製基材およびNi基一方向凝固合金製基材の冶金的特徴を明らかにした後、上記課題の解決手段として開発した本発明について、主としてNi基単結晶合金の例で説明する。
(1)Ni基単結晶合金の冶金的特徴と実用上の問題点
そもそもNi基単結晶合金は、従来から汎用されている多くのNi基多結晶合金が抱えている課題を解決するために開発されてきた経緯がある。すなわち、通常の多結晶Ni基合金では、結晶粒界部にガスタービンの実用環境条件において、不純物元素をはじめ、各種の炭化物,金属間化合物などの濃縮や析出を起こしやすいうえ、これらが成長することによって、粒界の結合力が低下して、機械的な破壊の起点となる。
【0012】
また、上記結晶粒界では、燃焼ガス中に含まれている硫黄,バナジウム,塩化物さらには水蒸気などの酸化性物質の侵入が容易になるため、しばしば粒界腐食損傷を誘発する原因ともなっている。
【0013】
このような結晶粒界に起因する問題点を解消するため、従来、合金中に粒界強化元素(例えば、C,B,Zr,Hfなど)を添加した多結晶合金が開発されている。しかし、この合金は、融点の低い共晶γ’が生成されやすいため、溶体化処理温度を低くしなければならず、合金の高温強度向上の観点からは好ましくない。
【0014】
Ni基単結晶合金は、上述したような多結晶合金が抱えている冶金学的問題点を解消することを目的として開発されたものである。すなわち、Ni基単結晶合金では、破壊の原因となる結晶粒界がないうえ、共晶γ’相の析出の心配がないため、合金の高温溶体化処理が可能となる利点がある。そして、溶体化温度の高温化は、微細なγ’相を均等に析出−分散させることになるので、合金の高温強度を著しく向上させることができる。
【0015】
しかし、その一方で、Ni基単結晶合金には、多結晶合金には見られない新たな問題点のあることがわかってきた。それは、単結晶合金に予め数%程度(2%〜8%)の歪を付与したり、機械的な塑性加工を与えたのち、熱処理をしたり、あるいはガスタービンの運転環境に暴露したりすると、加工部およびその熱影響部が変質層となって現出し、このなかには微細な結晶が無数に発生しているらしいことが判明した(ここでは、この現象を「再結晶現象」と呼ぶ。図4参照)。かかる再結晶部は、非常に脆くかつ高温強度に乏しいため、僅かな応力の負荷によって、結晶粒界を起点として多数の割れが発生し、単結晶合金全体の強度を著しく低下させるとういう問題点があった(図5参照)。
【0016】
このような再結晶域の生成は、塑性加工時ではなく、その後、この単結晶合金を加熱したようなときに発生するため、未然に防止策を施すことが非常に困難である。しかも、この再結晶は、比較的低い温度で析出する。例えば、一般の多結晶合金製ガスタービンの動・静翼に、MCrAlX合金の溶射皮膜を施工した後、溶体化処理や時効処理などの熱処理を行った場合でも発現する。
【0017】
そのため、耐高温環境性を向上させるには、MCrAlX合金を単に施工しただけでは、基材の再結晶現象に伴う高温強度の著しい低下を防止することはできない。また、上述した理由によって、基材そのものに元素を添加する手法にも限界がある。
【0018】
なお、Ni基単結晶合金製基材に、歪や塑性変形が発生する危険性のある環境条件としては、例えば翼材の場合、その製造時、粗面化処理時、溶射時、運転時、ガスタービンの組立時、運搬時、検査時、ガスタービンの運転中における燃焼ガス中に含まれている微細な固形粒子の衝突、単結晶合金翼表面に施工された保護皮膜のリコーティング時におけるブラスト処理あるいは研磨処理時など、多くの場合が考えられる。
したがって、再結晶現象発生の有無を予想することは困難であり、Ni基単結晶合金製基材自身もしくは保護皮膜を設けて、該基材の高温強度を向上させることが必要である。
さらに、上記の例では、ガスタービンの運転中、Ni基単結晶合金翼材の表面には、局部的に熱疲労に伴う割れや焼損が発生することがある。このような補修には、該部材表面をグラインダーによって研削し、次いで溶接肉盛施工を行ない、形状を復元することが多い。ただし、このような加工には必ず、塑性加工に起因する変質層が不可避に発生する。
なお、上述したNi基単結晶合金に顕れる再結晶現象とその影響は、程度の差こそあれ、Ni基一方向凝固合金にも同じように認められるものである。
【0019】
(2)従来のMCrAlX合金皮膜の高温挙動と実用上の問題点
前述したように、従来のMCrAlX合金は、ガスタービンやジェットエンジン用として汎用されているNi基合金やCo基合金製の動翼あるいは静翼の表面に、これらの保護皮膜形成材料として用いられる高温燃焼ガスによる酸化や腐食による化学的損傷を防止するための材料として有用である。この意味において、従来のMCrAlX合金皮膜材料中には、Cr,Alを必ず含有し、高温環境に被曝されると、皮膜の表面に保護性のCrやAlなどの緻密な酸化膜が生成するように工夫されている。
つまり、従来のMCrAlX合金の皮膜というのは、動翼や静翼の基材合金の種類、即ち、Ni基合金でもCo基合金でも、また、多結晶合金,一方向凝固合金,単結晶合金ならびに冶金的材質の区別に関係なく利用されてきた。
【0020】
一方、ガスタービンの高温化に伴なって、動翼や静翼の基材温度もまた次第に高温化してきており、そのために、基材とMCrAlX合金皮膜との界面における金属元素の相互拡散現象が目立つようになってきた。その結果、基材中へ拡散したMCrAlX合金皮膜中のAl,Co,Crなどの金属成分が、基材の高温強度を担っているγ’相と反応して、これを分解するため、基材の高温強度が著しく劣化させるという現象が見られた。
【0021】
発明者らは、この対策として、MCrAlX合金粉末材料中に酸化物を添加して、高温環境下におけるMCrAlX合金成分の基材への拡散移動を金属酸化物の添加によって抑制する技術を提案してきた(例えば、特開平10−265933号公報(特許第2991991号),特開平10−265934号公報(特許第2991990号)。しかし、最近、MCrAlX合金への金属酸化物の添加だけにこだわらず、さらにこの金属酸化物に代わる他の成分の添加についても研究を行った。
【0022】
その結果、Ni基単結晶合金に対し、硼化物を含むMCrAlX合金の被覆層を設けてなることが有効であるとの結論に達した。即ち、従来の金属酸化物含有MCrAlX合金に代え、硼化物含有MCrAlX合金を、Ni基合金基材への被覆材料として用いることにしたものである。このB含有MCrAlX合金の特徴は、この合金がもともと有する高温燃焼ガスに対する優れた保護作用に加え、被覆材料成分のうちの硼化物が基材中に拡散移動した場合に、その硼化物がNi基単結晶合金中の変質層部へ濃縮したり分散する作用のために、単結晶合金の高温強度の低下を抑制できることにある。
とくに、その硼化物を金属硼化物および/または非金属硼化物の形態でMCrAlX合金マトリックス中に添加する。たとえば、硼素を、結晶粒界強化作用を有するZrBやHfBとして、また、BCとして、該MCrAlX合金中に固溶させると、これらの硼化物が、Ni基単結晶合金の再結晶現象に起因する高温強度低下を、上述した作用によって効果的に抑制することとなる。
【0023】
なお、従来のMCrAlX合金でもBを含有しているものがある(特開昭56−93847号公報,特公昭54−16325号公報,特開昭57−155338号公報,特開昭58−141355号公報,特開昭60−141842号公報,特開平1−59348号公報)。しかし、これらの合金は、Bの添加量がせいぜい0.005〜0.8wt%程度である。その理由は、このBを多量に添加すると、低融点の金属硼化物を形成して、耐食性や耐酸化性を低下させるので好ましくないということにある。これは、MCrAlX合金皮膜の作用を、もっぱら燃焼ガス対策のみに着目しているためである。
【0024】
また、上記従来合金は、上述したように、MCrAlX合金中に少量の金属硼素(B)のみが含まれているが、その対象(用途)が多結晶材であり、本発明のようなNi基単結晶合金やNi基一方向凝固合金の表面処理、とくに溶射皮膜形成材料ではない。この意味において、Ni基単結晶合金の表面近傍で生成する変質層に対し有効な硼化物含有MCrAlX合金についての示唆ではない。
【0025】
(3) B含有MCrAlX合金粉末の製造方法
以下、MCrAlX合金中に硼化物を添加して分散含有させる方法について説明する。溶射法などに用いられるMCrAlX合金粉末を調整する場合、合金中に、硼化物の粉末を単に物理的に混合しただけでは、たとえそれぞれの粒径が同等であったとしても、均等に分散させることはできない。その理由は、MCrAlX合金と硼化物の比重に大きな差があるためである。特に、MCrAlX合金に比較すると、硼化物というのは金属種によって大きな比重差が存在する。たとえば、BN(2.34),BC(2.51),ZrB(6.17),HfB(10.5),TaB(12.38),W(11.0)のような差がある。ここで、( )内の数字は比重を示す。
【0026】
そこで、本発明では、MCrAlX合金粉末に対する硼化物の添加を、下記のような方法で実施し、微細な粉末粒子の一粒一粒に至るまで、MCrAlX合金と硼化物が必ず共存する分散含有状態になるように工夫した。
【0027】
a.造粒法:MCrAlX合金,硼化物とも粒径3μm以下、好ましくは1μm以下の微粉末とし(これを一次粒子と呼ぶ)、これを塩化ビニルアルコールのような有機質バインダーを用いて、粒径5〜80μmの二次粒子にして、溶射用粉末などとする。
b.造粉焼結法:上記二次粒子あるいは一次粒子を用いて真空中もしくは不活性ガスの電子炉中で小塊状(粒径3mm〜20mm)に焼結した後、これを粉砕して5〜80μmの粒径として、溶射用粉末などとする。
c.溶融粉砕法:MCrAlX合金と硼化物を真空炉中で加熱溶融して、よく混合した後、炉冷し、その後粉砕して所定の粒径の粉末とする。
d.溶融噴霧法:MCrAlX合金と硼化物を真空炉中で加熱溶融した後、これをAr,Heなどの不活性ガスを用いて、実質的に酸素を含まない容器中へ噴霧して所定の粒径の粉末とする。
【0028】
次に、MCrAlX合金に対する硼化物の添加量について説明する。前述したように、金属硼化物や非金属硼化物からなる硼化物は、比重差が大きく違うため、単に硼化物として添加量を決定すると、Ni基単結晶合金の高温強度の低下を抑制する作用を担うB含有量が大きく変わることとなる。そこで、本発明では、添加する硼化物が金属硼化物であっても、また、非金属硼化物であっても、すべてその化合物中に含まれているBの量を規制することとし、B含有量として、0.1〜5.0mass%、好ましくは0.9〜5.0 mass%に規制することにした。それは、B含有量が0.1mass%より少ないとNi基単結晶機材の表層に現われる変質層の生成に伴う高温強度の低下を抑制する効果が十分でなく、一方、5.0mass%以上に多くしても、その効果が格別に向上することはないので、これを上限とする。
【0029】
本発明において使用可能な金属硼化物としては、次のような種類があるが、この例示のものだけには限られない。
【0030】
【表1】
Figure 0003566951
【0031】
上記表1(ここで、Mは金属元素を示す。)に明らかなように、本発明において使用可能な金属硼化物としては、金属元素の種類に関係なく、金属硼化物であればほとんどの化合物が使用できる。この理由は、これらの金属硼化物をNi基単結晶合金基材の表面に被覆した後、高温に加熱すると、硼素(B)が速やかに単結晶合金基材中に拡散して、変質層部分の強化作用に寄与することになるからである。
なお、硼素(B)の合金基材中への侵入によるこの変質層の強化メカニズムは、完全に解明したわけではないが、変質層中に生成した微細な再結晶の粒界にBが拡散浸透して、粒界の結合力を向上させる結果と考えている。
【0032】
上記反応において、金属硼化物を構成している金属もBと一緒に拡散するので、好ましくは、Ni基単結晶合金中に含まれる成分と同じ金属、例えば、Ni,Cr,W,Mo,Co,Al,Ti,Nb,Ta,およびHfなどの金属硼化物が、Ni基単結晶合金中に異種の金属成分が拡散して新しい未知の金属間化合物が生成しないようにするためにも好ましいことである。とくに、Zrの硼化物は、金属Zr自体が結晶粒界強化作用を発揮するため好都合である。
【0033】
上掲の表1に示すように、金属硼化物の化学式は、M 11 12の化合物が知られているが、なお、市販の金属硼化物の場合、TiBやTiBが混在したり、NiB中にNi、NiBときにはNiBも共存していることがあるが、これらの金属硼化物についても同様の効果が認められるので,金属(M)および硼素(B)の原子数はとくに限定されるものではない。
【0034】
一方、非金属硼化物の例としては、BC,BNなどが好適に用いられる。これらの硼化物は、単独での使用が可能であるが、金属硼化物と混合したり、BCとBNを混合しても、Ni基単結晶合金の熱疲労強度の低下を抑制する機能を発揮する。とくに、BCの被覆層は、Ni基単結晶基材が高温に加熱されると、BとともにCも基材内部に拡散すると共に、両者が協働して基材の再結晶に伴う微細な結晶粒界の強化に寄与する点で有効である。
また、本発明において硼化物を含有するMCrAlX合金の被覆層を設ける効果は、Bを含まない多結晶Ni基合金や、Bは含むもののその含有量が本発明の硼化物含有MCrAlX合金被覆層中のB含有量より少ない多結晶Ni基合金に適用する場合にも、強化作用を発揮するので、これらの合金に対しても有効である。
【0035】
(4) 溶射法による硼化物含有耐熱合金(MCrAlX)の被覆層(アンダーコート)の形成
Ni基単結晶合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金からなる硼化物の被覆層を形成する方法としては、代表的には溶射法を採用する。即ち、本発明の上述した作用効果を十分に発揮できるようにするためには、前記基材表面に、アンダーコートとしての硼化物含有耐熱合金被覆層を形成したとき、該硼化物被覆層(アンダーコート)から、Ni基単結晶合金基材表面へのBの良好な拡散移動が起るようにすると共に、硼化物含有耐熱合金皮膜の表面では、緻密で耐酸化性に優れたAlやCrなどの酸化膜を形成するようにすることが大切である。そして、このことによって、該アンダーコート溶射被覆層自体の溶射粒子の相互結合力、さらには後で述べるオーバーコートとして形成する硼化物を含まないMCrAlX耐熱合金被覆層との良好な密着性を確保することが大切である。
この目的を達成するための最大の課題は、アンダーコートの硼化物被覆層中に含まれる酸化物量の管理と、その限界含有量を決定することである。例えば、アンダーコートを大気中で溶射法によって形成すると、溶射熱源中あるいは熱源近傍に多量の空気が混入して、溶射材料粒子を酸化するため、粒子の相互結合力や基材合金との付着力が低下する原因となるほか、これらの酸化物は、Bの拡散を抑制するとともに、オーバーコートとの結合力の低下などを招き、大きな障害となる。
【0036】
このため本発明では、アンダーコート中に含まれる酸化物量を、酸素量に換算して、1.5mass%以下に管理することとした。すなわち、大気プラズマ溶射法,減圧プラズマ溶射法,爆発溶射法,高速フレーム溶射法などのいずれかの方法によって溶射する場合でも、酸素含有量は1.5mass%以下に制御する。なお、溶射法の種類は、特に規制されるものではない。具体的には、高速フレーム溶射法,減圧プラズマ溶射法などの方法を採用することが好ましい。
【0037】
(5) 蒸着法等による硼化物含有耐熱合金(B含有MCrAlX合金)被覆層(アンダーコート)の形成
硼化物被覆層中に含まれる酸素量を1.5mass%以下に抑制することができる方法であれば、上述した溶射用でなくとも、例えば、PVD法(物理的蒸着法)を採用しても、本発明の要請に応えられるアンダーコートを形成することができる。たとえば、図1は、電子ビームを熱源としたPVD装置(EB−PVD)を用い、被覆材料1に電子銃2からビームを照射して材料の微細な蒸気(矢印)を蒸発させ、単結晶合金3に蒸着させる装置の図である。この装置は、真空容器4中に収納され、その容器には真空ポンプ5およびAr,Heなどの不活性ガスの導入管6が配設されているので、容器中の雰囲気はある程度、自由に調整できるようになっている。従って、実質的に空気(酸素)がなく、不活性ガス雰囲気中で蒸着できるので、形成される皮膜中には殆んど酸化物が含まれない。なお、この装置には、単結晶合金を加熱するためのヒータ7が配設されているととともに、単結晶合金と被覆材料とをそれぞれ電極とする直流電源8に接続されている。従って、蒸着前処理としての不活性ガスによる浄化処理やイオン化した蒸着粒子を、単結晶合金面へ衝突させることができるので、皮膜の密着性を向上させることができる。
なお、蒸着法としては、上記の方法以外の方法として、レーザやジュール熱源を用いる蒸着法、高周波励起式のEP−PVD法、スパッタリング法なども使用でき、熱CVD法、プラズマCVD法によっても上述したアンダーコートの形成は可能である。
【0038】
上記アンダーコート(硼化物含有MCrAlX合金の被覆層)の厚さは、3〜300μm程度の範囲が好適である。その理由は、硼化物の膜厚が3μmより薄いと、Bを含有させることの作用効果が十分でなく、一方、300μmより厚くしても、その粒界強化に格別の効果の向上が認められず、また合金基材の内部に侵入したBが粒界強化以外に、他の合金成分と反応して、低融点共晶などを生成するようになるので好ましくないからである。
【0039】
(6) 耐熱合金被覆層(オーバーコート)の形成
本発明の他の実施形態としては、Ni基単結晶合金等の基材表面に、まず、上述したように、金属硼化物および/または非金属硼化物からなる硼化物含有MCrAlX合金の被覆層をアンダーコートとして形成した後、その上に、耐高温環境性を付与するための耐熱合金であるMCrAlX合金(Bを含有しないもの)の被覆層をオーバーコートを形成したものが考えられる。この実施形態は、前記硼化物含有MCrAlX合金の被覆層(アンダーコート)中の硼化物の作用を十分に発揮させるとともに、高温環境から受ける各種の作用、例えば燃焼ガスによる酸化反応やS化合物による硫化腐食などの化学的損傷にも耐え得るようにするものである。
そのために、本発明では、前記硼化物含有耐熱合金被覆層(アンダーコート)の上に、耐高温環境性を示すBを含まない耐熱合金の被覆層をオーバーコートとして、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法などの溶射法を用いて積層形成することにしたのである。
アンダーコートの上にオーバーコートを重ねて積層する理由は、硼化物含有耐熱合金の被覆層であるアンダーコートだけでは、耐高温環境性が十分でないうえ、特に高温下においてはアンダーコートが、酸化現象によって消耗するので、膜厚0.1〜50μm程度の膜厚では、アンダーコートの寿命が甚しく、短くなるおそれがあるためである。
なお、オバーコートは、50〜500μm程度の膜厚とすることが好ましい。
【0040】
本発明において、アンダーコートあるいはオーバーコートである耐熱合金被覆層に用いる耐熱合金としては、「MCrAlX合金」を用いることが望ましい。その主要化学成分はCo,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種を含む合金に対し、Y,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,PtおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加してなるものである。
【0041】
上記MCrAlX合金からなる耐熱合金被覆層は、Ni基合金基材の表面に直接形成する硼化物含有耐熱合金もまた、硼化物を含まない耐熱合金の場合も、これらの被覆層どうしの良好な密着性を確保し、かつ、高温ガスによる外部からの酸化反応や腐食反応に十分耐え得るためにも、下記組成のものが好適に用いられる。
M成分として、Ni:0〜75mass%、Co:0〜70mass%、Fe:0〜30mass%、
Cr:5〜70mass%、Al:1〜29mass%、
X成分として、Y:0〜5mass%、Hf:0〜10mass%、Ta:1〜20mass%、Si:0.1〜14mass%、B:0〜0.1mass%、C:0〜0.25mass%、Mn:0〜10mass%、Zr:0〜3mass%、W:0〜5.5mass%、Pt:0〜2.0mass%
【0042】
ただし、MCrAlX合金のみからなる上記耐熱合金の溶射皮膜、すなわちオーバーコートの形成に当っては、このオーバーコート中に含まれる酸化物量の管理とその限界含有量を検討することが、アンダーコートの場合と同様に重要である。すなわち、前記MCrAlX合金を大気中で溶射すると、熱原中あるいは熱源近傍に多量の空気が混入して、溶射材料粒子を酸化させるため、粒子の相互結合力や合金基材との付着力を低下させる他、これらの酸化物が硼化物アンダーコート中のB原子の拡散を抑制し、さらには、皮膜表面においてAlやCrの如き均質な保護性酸化膜の均質かつ緻密な膜の生成を妨げるなど、大きな障害となるからである。
このため本発明では、オーバーコート中に含まれる耐熱合金(MCrAlX合金)中の酸化物量を、酸素量として1.5mass%以下に管理することとした。すなわち、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、爆発溶射法、高速フレーム溶射法などのいずれの方法を施工する場合でも、溶射雰囲気中の酸素含有量を1.5mass%以下に制御することにしたのである。
【0043】
(7) Al拡散層の形成
本発明において、上記硼化物含有耐熱合金(B含有MCrAlX合金)のアンダーコートや耐熱合金(MCrAlX合金)のオーバーコートの表面には、さらに、CVD法や粉末法などのアルミニウム拡散浸透処理法を適用してAl拡散層を形成することが好ましい。
たとえば、CVD法は、真空容器中に有機または無機アルミニウム化合物(主としてハロゲン化合物)ガスを導入し、これに熱や低温プラズマを照射して化学反応を促進させて、アルミニウム化合物からAlを遊離させる方法、あるいは、真空容器中にHガスを導入して、その化学的還元力によって、Alを遊離させた後(遊離したAl粒子は1μm以下の微粒子)、これを硼化物含有耐熱合金のアンダーコートや耐熱合金のみからなるオーバーコートの表面に析出させると同時に、内部へも拡散浸透させる方法である。また、前記粉末法は、Al粉またはAl合金粉末とNHCl,NHFなどのハロゲン化合物、Al粉末などの混合物中に非処理部材を埋没させ、その後、ArガスあるいはHガスを流しつつ、800〜1000℃,1〜20時間加熱することによって、表面にAl濃度の高い拡散層を形成させる方法である。
【0044】
(8) セラミックス被覆層(トップコート)の形成
さらに、本発明では、前記硼化物含有耐熱合金アンダーコートおよび/または、耐熱合金(MCrAlX合金)の被覆層であるオーバーコート、または前記Al拡散層の表面に、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法および蒸着法(EB−PVD)などによって、必要に応じてさらに、酸化物含有ZrO系セラミックスからなるトップコート(膜厚:30〜500μm)を形成し、高温強度のさらになる改善を図ることが、より好ましい実施態様となる。
上記ZrO系セラミックスのトップコートは、Y,CeO,CaO,Sc,MgO,YbおよびCeOのうちから選ばれる1種以上の酸化物を含むZrO系セラミックスが用いられる。これをトップコートとして用いる理由は、主として燃料の燃焼炎から放出される高温の輻射熱を防ぐためである。なお、このトップコート中にZrO以外の酸化物を含有させる理由は、ZrO単独では、高温に加熱されたり、冷却された際、その結晶形が単斜晶⇔正方晶⇔立方晶に変化し、それに伴って大きな体積変化(4〜7%)を招いて自ら壊すため、かかる酸化物は5〜40mass%程度として、体積変化率を緩和させることが望ましい。
【0045】
(9) 基材および皮膜に対する熱処理
単相または複数層からなる本発明に係る上述した被覆層の施工後、形成された溶射皮膜等に対し、熱処理、たとえば下記の溶体化処理や時効処理を行うと、これらの皮膜中のB(Ni−B合金、B含有MCrAlX合金)が、Ni基単結晶合金基材の塑性加工部に生成する変質層部に拡散浸透して、その脆化特性を改善する効果がより一層効果的に発揮される。
▲1▼ 液体処理:1273K〜1573K,1〜20h
▲2▼ 時効処理: 973K〜1273K,1〜 5h
【0046】
また、Ni基単結晶合金基材に対しても上記の熱処理は有効である。それは、前記合金基材の場合、多結晶合金基材に比較して、γ’相の析出温度が高いため、機械加工を受けた単結晶合金部材は、変質層生成の有無やめっき膜や溶射皮膜等の形成の有無にかかわらず、各種の熱処理を施すこととしている。即ち、この熱処理によって基材の変質層部へのBの拡散が効率よく進行し、その結果として、変質層の生成に伴う合金部材の強度劣化を抑制することができるようになる。
基材に与えるこの種の熱処理条件としては、下記の条件が好ましい。
▲1▼ 液体処理:1350K×1〜20h
▲2▼ 時効処理:1143K×1〜 5h
時効処理:1353K×1〜 5h
【0047】
なお、Ni基合金基材や前記皮膜を、上述した熱処理を行わずとも、Ni基単結晶合金翼部材の場合、実機ガスタービン環境に曝されると、翼部材温度は最高で1170K〜1200K程度に加熱されるので、この条件においても上記皮膜から基材変質層へのBの拡散が行われ、初期の目的が達成されることがある。
このような場合、Ni基単結晶合金基材、Ni基一方向凝固合金基材、Ni基多結晶合金基材などのガスタービン動静翼部材の熱処理として、下記のような条件が好適である。
▲1▼ 液体処理:1273K〜1573K,1〜20h
▲2▼ 時効処理: 973K〜1273K,1〜15h
【0048】
(10) 本発明に係るNi基合金部材の被覆層断面構造
図2は、本発明に係るNi基高温強度部材の断面構造例を示したものである。
▲1▼ 図2(a)は、Ni基単結晶合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する硼化物含有耐熱合金の被覆層(アンダーコート)を形成した場合の断面である。ここで21は合金基材、22は溶射法、各種のPVD法、CVD法によって形成された硼化物含有耐熱合金被覆層である。
▲2▼ 図2(b)は、硼化物含有耐熱合金の被覆層(アンダーコート)22の上に、アルミニウム拡散浸透処理を施した場合の断面構造図である。このAl拡散処理は高温処理(700〜1000℃)であるため、Alの一部が硼化物被覆層であるアンダーコート中に拡散するとともに、基材中にBとともに侵入したものになるが、ここではアンダーコート中への拡散現象のみを図示した。ここで、図中の23は、Al拡散層(含浸層)を示し、24はAl濃度の高い層を示したものである。
従って、Al拡散層とは、実質に基材中に拡散浸透(含浸)した部分23とその表面を被う被覆層(Al皮膜)24とからなるものと言える。
▲3▼ 図2(c)は、硼化物含有MCrAlX合金の被覆層22(アンダーコート)の上に、Bを含まない耐熱合金被覆層としてMCrAlX合金のみによるオーバーコート25を形成した場合の断面構造図である。このオーバーコート25は、アンダーコートおよび基材の高温燃焼ガスによる酸化や腐食を防ぐとともに、硼化物アンダーコートとの優れた密着性を確保しつつ、アンダーコート中からBが基材中へ拡散して変質層の生成に伴う基材の高温強度の低下を抑制する役目を果すものである。
▲4▼ 図2(d)は、(c)に示した構造の複合皮膜に対して、Al拡散浸透処理を施したものの断面構造を示したものである。この例は、上述した耐熱合金被覆層25のみでも、耐高温環境性を示しているが、Ni基単結晶合金製翼材が用いられている最近のガスタービンは、従来の多結晶合金製翼材よりも一段と高温になる。そこで、保護皮膜の耐高温環境性をより一層発揮させるために最外層のAl濃度を向上させたものである。
なお、Al拡散浸透処理は、既知の気相法(CVD法)や粉末法(例えば、本発明者の一人が出願した特許第2960664号、特許第2960665号参照)に従うことが望ましい。
▲5▼ 図2(e)は、Bを含まないMCrAlX合金による耐熱合金のオーバーコートの上に、さらにZrO系セラミックスの被覆層26を、トップコートとして設けたものの断面構造図である。ガスタービンなどでは、燃焼フレームを熱源とする強い輻射熱が発生するため、熱伝導率の低い、ZrO系セラミックス被覆層を最外層に設けて輻射熱障害を防止するものである。該ZrO系セラミックスとしては、Y,CeO,CaO,Yb,Sc,MgOのなかから選ばれるいずれか少なくとも1種の酸化物を含むZrO系セラミックスが好適である。
▲6▼ 図2(f)は、Ni基単結晶基材の上に、硼化物含有MCrAlX合金皮膜を施工した後、その上に直接ZrOセラミックス皮膜を形成させたものである。
【0049】
【実施例】
<実施例1>
この実施例では、表2に示すような化学成分を有するNi基単結晶合金(A合金)Ni基一方向凝固合金(B合金)とともに、比較例としてNi基多結晶合金(C合金)を用い、合金の塑性加工に伴う変質層の発生の有無を調査した。これらの供試材の熱処理条件をこの表2の下段にそれぞれ記載した。
また、表3には、この実施例に供試した硼化物含有MCrAlX合金中の金属硼化物と非金属硼化物の種類とその組合せ、表4には、MCrAlX合金の化学成分、表5には、塑性加工後に実施した熱処理条件について示した。
【0050】
【表2】
Figure 0003566951
【0051】
【表3】
Figure 0003566951
【0052】
【表4】
Figure 0003566951
【0053】
【表5】
Figure 0003566951
【0054】
(試験片の調整)
表2記載のNi基単結晶合金基材(寸法:直径10mm×長10mm)に対し、室温で下記のような条件の塑性加工を施した。
(1) ブリネル硬度計の鋼球を980Nで押し付けた。
(2) 旋盤加工により、試験片の表面を約1mm切削
(3) JIS Z 0312に規定されている溶融アルミナグリット(1mm〜2mm)を用いて試験片に強く吹き付けたもの
加工後の試験片は、表5記載のAとCの条件で熱処理を施したのち冷却し、その断面を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡によって観察した。
表6は、顕鏡結果を要約したものである。塑性加工を与えない試験片(試験片No.1)は、変質層が全く認められなかった。これに対し、塑性加工を施した試験片(No.2〜7)は、熱処理条件の相違、塑性加工法の種類にかかわらず変質層が発生し、特に旋盤加工した試験片ではmax50μmに達する変質層が生成していた。この変質層は、粗大γ’析出相とγ相から構成されており、また、変質層と未変化部での境界では(健全部)高温強度因子のγ’相の分解らしい現象が認められ、高温強度の低下に結び付く要因の生成が確認された。
【0055】
【表6】
Figure 0003566951
【0056】
(実施例2)
この実施例では、Ni基単結晶合金とNi基一方向凝固合金を用いて、塑性加工,熱処理,硼化物含有MCrAlX合金の皮膜層などの違いによる影響を、高温疲労試験によって調査した。
(1)疲労試験要領と試験片の調整
疲労試験には、最大負荷5ton,ストローク50mm(伸び圧縮とも),振動数0.01〜20Hzの性能を有する電気油圧サーボ弁式疲労試験装置を用い、試験片の加熱は、高周波誘導加熱方式を採用し、950℃大気中,応力比R=−1,正弦応力波形,周波数10Hzの条件で実施した。
【0057】
一方、疲労試験用材料としては、Ni基単結晶合金とNi基一方向凝固合金の2種とし、また、塑性歪の付与方法には、次のような方法を採用した。
(a) 型鍛錬による圧縮歪の付与
図3(a)に示すような凸部付き丸棒(図中の寸法はmm単位である)を切り出した後、凸部に半径方向に換算して、室温で約8.3%に相当する圧縮歪を型鍛造(図3(b))して与えた。その後、表5記載の熱処理を行った後、試験片の中心部から図3(c)に示すように、平行部直径4mm,平行部長さ10mmの平滑棒疲労試験片に加工した。
(b) 旋盤加工による歪の付与
供試材を旋盤によって半径を約1mm切削し、その後1353K×100hの熱処理を施したものから、疲労試験片を切り出した。旋盤加工の条件は切り込む深さ0.2〜0.25mm,送り量0.051〜0.2mmの範囲に変化させた。
(2) 溶射皮膜の形成
疲労試験片の平行部全面にわたって、減圧プラズマ溶射法によって、表3に記載の硼化物のうち、記号A,B,E,F,Gを用い、これらをそれぞれ表4に記載のMCrAlX合金粉末中に、重量比率で75%になるように添加した溶射材料を、それぞれ150μm厚に施工した。
(3) 疲労試験結果
Ni基単結晶合金について実施した結果を表7に示した。この結果は、Ni基単結晶合金のバージン材(塑性加工しない試験片No.1)の強度を100として、他の試験片の平均強度比で比較したものである。この結果から明らかなように、塑性加工を与えない合金では、硼化物含有MCrAlX合金被覆層に関係なく疲労強度上の変化は少なく、大気環境による酸化反応を幾分抑制している程度であった。
これに対し、試験片に予め型鍛錬したもの(No.4)や旋盤加工を施したもの(No.8)では、熱処理によって再結晶化現象が発生するため、疲労強度は極端に低下し、単結晶合金として致命的な強度低下を示した。しかし、予め硼化物を含有するMCrAlX合金の被覆層(アンダーコート)を形成しておくと、試験片No.5,7,9,11,12に見られるように、疲労強度の低下は非常に少なく、再結晶化に伴う強度低下をほぼ防ぐことが可能であった。この傾向は硼化物を含まないMCrAlX合金を被覆した場合(試験片No.6,10)に認められるが、強度低下率の軽減効果が少ない。MCrAlX合金のみの被覆層を有するものは、耐高温環境性の効果によるものと考えられる。
また、硼化物のアンダーコートを形成する効果は、試験片No.11,12の結果から明らかなように、2種類の金属硼化物を用いても、また、金属/非金属硼化物の混合物を使用しても、Ni基単結晶合金の疲労強度の低下を抑制する効果が認められることがわかった。
【0058】
【表7】
Figure 0003566951
【0059】
一方、Ni基一方向凝固合金について実施した結果を表8に示した。Ni基一方向凝固合金では塑性加工の影響を単結晶合金ほど強く受けないが、ここでも疲労強度は、約50程度低下する(試験片No.4,8)。これに対し、硼化物を含むMCrAlX合金を形成したものでは(試験片No.5,7,9,11,12)、塑性加工を与えない合金の疲労強度(試験片No.1)に匹敵する強度を維持しておりNi基単結晶合金と同様に、含MCrAlX合金の被覆層(皮膜)が得られた。
【0060】
【表8】
Figure 0003566951
【0061】
(実施例3)
この実施例では、Ni基単結晶合金製の疲労試験片について、実施例2で採用した塑性加工法として旋盤による切削加工、熱処理条件として表5中のA条件の熱処理を行った後、皮膜形成法として、減圧プラズマ溶射法によって、表3記載の硼化物のうち(A)(B)(F)(G)を用いたB含有MCrAlX合金の溶射被覆層を、150μm厚に形成した。なお、この溶射皮膜中に占める硼化物の含有量は、Bとして2mass%である。
以上のような要領で成膜した試験片について実施例2記載の熱疲労試験条件によって試験した。上記試験片による1223Kにおける疲労試験結果を表9に示した。この結果から明らかなように、さきに実施例2で得られた比較例の塑性加工を与えない例(試験片No.1)、また塑性加工を与えたものの、硼化物を含まない皮膜を形成した条件(No.2)の疲労強度試験結果を併記し、これらの測定値を基準として比較した。これらの結果を要約すると、Ni基単結晶合金に塑性加工を与えると、その疲労強度はバージン材(No.1)32%程度に低下するが、硼化物を含むMCrAlX合金の皮膜試験(No.4,5,6,7)の疲労強度は、バージン材の強度とほぼ同等にまで回復し、塑性加工による変質層の生成に起因する強度低下を抑制していることが認められる。また、硼化物としては、金属硼化物単独(No4,5)、2種の金属硼化物の混合(No.6)、また金属硼化物と非金属硼化物の混合硼化物を含むMCrAlX合金皮膜を形成したもの(No.7)においても、ほぼ同等の強度低下の抑制効果が認められた。
【0062】
【表9】
Figure 0003566951
【0063】
(実施例4)
この実施例では、Ni基単結晶合金とNi基一方向凝固合金の表面に形成した本発明に適合する被覆層についての耐熱衝撃性を調査した。
(1) 供試基材と試験片の形状寸法
供試基材として、表2記載の単結晶合金と一方向凝固合金を用い、これを直径15mm×長さ50mmの丸棒試験片に仕上げた。
(2) 試験片に対する塑性加工の有無
前記丸棒試験片の加工に対し、実施例1記載の旋盤加工条件のものを製作した。
(3)供試皮膜の種類と皮膜形成方法
本発明の硼化物含有M CrAl X合金の被覆層として、表3記載のA,E,F,Gの硼化物をBとして 4mass %含むM CrAl X合金を用いて、減圧プラズマ溶射法によって、供試基材の表面に 100 μ m 厚の皮膜を施工した後、その上に Zr 2 系セラミックスとして、 8 %Y 2 3 Zr 2 を用いて、大気プラズマ溶射法によって、 300 μ m 厚の2層構造皮膜を形成した。なお、比較のため、硼化物を含まないM CrAl X合金/ Zr 2 セラミックスの2層構造皮膜を供試した。
(4)熱衝撃試験条件
950 ℃に維持した電気炉に試験片を 15min 静置して加熱し、その後 25 ℃の水中に投入して冷却する操作を1サイクルとし、これを 10 サイクル繰返し、皮膜の外観変化と剥離の有無を調査した。
(5)試験結果
試験結果を表9に要約した。この結果から明らかなように、基材上にアンダーコートとしてB含有M CrAl X合金を施した後、 Zr 2 系セラミックス質のトップコートを形成した複合皮膜(試験片 No.1 6 )も、アンダーコートとして硼化物を含むM CrAl X合金を施工した場合(試験片 No.2 5 7 10 )も、ともに優れた熱衝撃抵抗を発揮して、トップコートには、割れや剥離は全く認められなかった。
【0065】
なお、熱衝撃試験後の試験片を切断し、その断面を光学顕微鏡で観察したところ、すべての基材の最外部(皮膜との接合界面)には、変質層の生成が認められる一方、アンダーコートとも良好な密着性を示し、局部的な剥離は全く認められなかった。
【0066】
【表10】
Figure 0003566951
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、予め歪や塑性加工を受けた従来のNi基単結晶合金およびNi基一方向凝固合金基材は、これらが高温に加熱されると、表面に再結晶化を伴う変質層を生成し、これが起点となって僅かな負荷応力によっても容易に破壊されるようになり、この種の合金が有する優れた高温強度を発揮することができないという致命的な欠陥があった。これに対し、本発明によれば、このようなNi基単結晶合金の表面に金属硼化物および/または非金属硼化物を含むMCrAlX合金皮膜を溶射法や電子ビーム蒸着法によって形成させたり、さらにその上にセラミックス質被覆層であるトップコートを積層させることによって、該Ni基単結晶合金が高温に加熱された際に生成する再結晶粒界にB、ときにはZr,C,Hfなどが拡散移動して、再結晶粒界の相互結合力を強化して前記基材本来の強度を発揮させることができるようになる。
【0068】
そして、本発明の他の実施形態によれば、たとえば前記硼化物含有MCrAlX合金被覆層(アンダーコート)とMCrAlX合金被覆層(オーバーコート)との積層、さらには、ZrO系セラミックス被覆層(トップコート)の積層形成などによって、高温環境中における燃焼ガス成分に対する物理・化学的作用をさらに向上させることができる。
【0069】
これらの効果は、Ni基単結晶合金やNi基一方向凝固合金製のガスタービン翼部材などのように、製造・組立工程はもとより、運転中または運転後の皮膜再処理工程などにおける歪の付与や塑性加工を伴う機会が多い高温強度部材に適用した場合に、上記危険因子を完全に払拭することができ有効である。
従って、本発明によれば、この種の合金製ガスタービン翼部材の品質および生産性の向上に資するとともにガスタービンの長期安定運転と発電単価の低減に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子ビーム熱源を有するPVD装置の概要を示す略線図である。
【図2】本発明の硼化物含有耐熱合金被覆層を利用してNi基単結晶合金またはNi基一方向凝固合金部材上に、耐熱合金による被覆層を形成した場合の積層構造の例を示す断面図である。
【図3】凸部付き丸棒素材に対する凸部の型鍛造による応力の負荷とその丸棒からの高温疲労強度試験片の採取要領を示す図である。
【図4】塑性加工部に生成する変質層の形状例を示す金属顕微鏡写真である。
【図5】疲労試験片の破断面の状況と変質層が、破壊の起点となっていることを示す金属顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 被覆材料
2 電子ビーム銃
3 Ni基単結晶合金基材
4 真空容器
5 真空ポンプ
6 不活性ガスの導入管
7 基材加熱用ヒータ
8 直流電源
21 Ni基合金基材
22 硼化物を含む耐熱合金被覆層(アンダーコート)
23 Al拡散層(低濃度)
24 耐熱合金被覆層(オーバーコート)
25 Al拡散層(高濃度)
26 セラミックス被覆層(トップコート)
31 疲労試験片
32 疲労試験片の中央につくられた凸部を示し、矢印の方向から圧力が負荷さている状況を示す。
33 疲労試験を行う際の固定部

Claims (14)

  1. Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートを設けてなるNi基高温強度部材。
  2. Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、耐熱性セラミックスの被覆層であるオーバーコートを設けてなるNi基高温強度部材。
  3. Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートを設け、そのアンダーコートの上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートを設け、さらにそのオーバーコートの上に耐熱性セラミックスの被覆層であるトップコートを設けてなるNi基高温強度部材。
  4. 金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートもしくは硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートのいずれか少なくとも一方の表面に、Al拡散浸透層を形成してなることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のNi基高温強度部材。
  5. 耐熱合金中に含まれる硼化物は、金属硼化物が、金属(M)1 111 12で表示される化合物であり、また非金属硼化物が、B4Cおよび/またはNBからなる化合物であって、その含有量は硼素(B)量として0.1〜5,0mass%含有していることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のNi基高温強度部材。
  6. 耐熱合金は、Co,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種の元素を含む合金に対し、さらにY,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,PtおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加してなる合金であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のNi基高温強度部材。
  7. 耐熱性セラミックスは、Y23,CaO,MgO,Yb23,Sc23およびCeO2から選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むZrO2系セラミックスであることを特徴とする請求項またはに記載のNi基高温強度部材。
  8. Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含む耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって形成し、次いで、その上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって積層形成することを特徴とするNi基高温強度部材の製造方法。
  9. Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含む耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって形成し、次いで、その上に、耐熱性セラミックスの被覆層を溶射法または蒸着法によって形成することを特徴とするNi基高温強度部材の製造方法。
  10. Ni基合金基材の表面に、金属硼化物および/または非金属硼化物を含む耐熱合金の被覆層を溶射法または蒸着法によって形成し、次いで、その上に、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層を形成し、さらにその後、最外層として、耐熱性セラミックスの被覆層を積層形成することを特徴とするNi基高温強度部材の製造方法。
  11. 金属硼化物および/または非金属硼化物を含有する耐熱合金の被覆層であるアンダーコートもしくは、硼化物を含まない耐熱合金の被覆層であるオーバーコートのいずれか少なくとも一方の表面に、Al拡散浸透層を施すことを特徴とする請求項10のいずれか1項に記載のNi基高温強度部材の製造方法。
  12. アンダーコート、オーバーコートおよび/またはトップコート形成後に、熱処理を施すことを特徴とする請求項10のいずれか1項に記載のNi基高温強度部材の製造方法。
  13. 耐熱合金中に、金属(M)1 111 12で表示される金属硼化物および/またはB4CおよびNBのいずれか少なくとも1種の非金属硼化物からなる硼化物を硼素(B)量として0.1〜5.0mass%含有し、残部が、Co,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種の元素を含む合金に対し、Y,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,Pt,TiおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加した耐熱合金からなることを特徴とするNi基高温強度部材用皮膜形成材料。
  14. 耐熱合金中に、金属(M)1 111 12で表示される金属硼化物および/またはB4CおよびNBのいずれか少なくとも1種の非金属硼化物からなる硼化物を、硼素(B)量として0.1〜5.0mass%含有し、残部が、Co,Ni,Cr,FeおよびAlのうちから選ばれる少なくとも2種の元素を含む合金に対し、Y,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,Pt,TiおよびMnのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を添加した耐熱合金からなり、少なくとも80%が5〜100μmの大きさの粒径をもつ粉粒体であることを特徴とするNi基高温強度部材用皮膜形成材料。
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