従来、光導波路のコア材料としては、石英ガラスや多成分ガラス等の無機系の材料が広く用いられている。これらの材料で形成された光導波路は伝搬損失が小さく伝送帯域が広いという特徴を有する。一方、有機系材料は無機系の材料に比べ伝搬損失は大きいが、加工性が良く厚膜化が容易なことや、低価格であること等から、光導波路材料として注目されている。
有機光導波路の作製方法としては、適当な厚さの有機膜を形成した後にパターン加工を施してコア部とし、オーバークラッドとしてコア部よりも屈折率の低い有機ポリマをその上に塗布する方法が一般的である。
パターン加工の方法としては、特開平9−222524号公報(特許文献1)に開示されている切削による方法やウエットエッチングによる方法等があるが、酸素ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)による加工は簡便であり高精度の加工が可能なことから広く用いられている。
しかしながら、酸素ガスを用いたRIEでは、有機ポリマとのエッチング選択比が小さいことから、ノボラック樹脂系のポジ型レジストをマスクとして用いることができない。
そのため、有機ポリマとのエッチング選択比が大きいシリコン含有レジストをマスクとして用いる方法が知られている。ところが、この方法では、RIE後にレジストを除去する必要があり、酸素イオンによりレジスト表面が変質することから、有機溶剤による剥離が困難であった。
また、特開平4―9807号公報(特許文献2)や特開平8−75942号公報(特許文献3)に開示されているように、有機ポリマの上に感光性レジストのパターンを転写した銅やアルミニウム等の金属を中間マスクとして用いることにより、酸素ガスによるRIEによりコア部の加工を行う方法がある。
この方法による有機光導波路の製造方法について図5を参照して説明する。
1) まず、図5(a)に示すように、基板31上に、バッファ層32として有機ポリマをスピンコートにより塗布し、焼成する。
2) 続いてコア部33となる、バッファ層32よりも屈折率の高い有機ポリマをスピンコートにより塗布し、焼成する。
3) さらにこの上に金属マスク37として、銅やアルミニウムをスパッタ法等により成膜する。
4) 次に、フォトレジスト36を塗布し、フォトリソ工程によりフォトレジスト36のパターニングを行う。
5) 次に、図5(b)に示すように、イオンミリングやウエットエッチングによりマスクパターンを金属マスク37に転写する。
6) 次に、図5(c)に示すように、酸素ガスを用いたRIEにより有機ポリマをエッチングしてコア部33に加工する。
7) その後、図5(d)に示すように、金属マスク37をウエットエッチングにより除去し、図5(e)(f)に示すように、オーバークラッド35として、コア部33よりも屈折率の低い有機ポリマをスピンコートにより塗布、焼成する。従来、このような工程で有機光導波路を作製していた。
特開平9−222524号公報
特開平4―9807号公報
特開平8−75942号公報
しかしながら、上述したように、有機ポリマをオーバークラッドとした有機光導波路では、有機ポリマを段差のあるコア部33を覆うようにスピンコートにより塗布するため、図5(e)に示すように、有機光導波路の側部でオーバークラッド35が厚く形成される部分が生じたり、あるいは、図5(f)に示すような埋め込み型の導波路となる。
このような有機光導波路を半導体レーザ等の他の光学素子と結合させるためには、側部のオーバークラッド35をさらに加工する必要があり、そのため、従来の有機光導波路では他の光学素子を同一基板上に集積化することが困難であった。
また、オーバークラッド35を形成せずに、空気をオーバークラッドとして利用することも可能であるが、この場合、屈折率差が大きくなりすぎることや、コア部の保護ができないこと等が問題であった。
また、金属マスクやシリコン含有レジストをマスクとして、RIEにより加工を行った場合、マスク材料が起因となり有機ポリマ上に残渣が生じやすく、さらにまた、RIE後にマスクの除去を行うことが必要となる。しかも、金属は一般に有機ポリマとの密着性が悪いため、マスクとして利用した場合、剥がれが生じやすく、高精度のパターニングを行うことが困難であった。
本発明は、これらの課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、他の光学素子との集積化が容易であると共に、RIEによる加工で残渣の発生が少なく、かつ、製造工程の簡略化が可能な有機光導波路の提供、及びその製造方法、並びに、該有機光導波路と半導体レーザや受光素子等の光学素子とが同一基板上に集積化された光学部品の提供にある。
本発明の有機光導波路は、上記の課題を解決するために、基板と、該基板上に形成された有機ポリマからなるコア部と、該コア部をコア部が形成されている側の基板表面を含めて覆う、コア部よりも低い屈折率を有する無機誘電体からなる層状のクラッド部とを有し、該クラッド部の厚みは上記コア部よりも薄く、上記コア部を覆った部分のクラッド部が該コア部と同様の外形を成し、上記コア部の側方における上記基板表面を覆った部分のクラッド部が光学素子の搭載部となっていることを特徴としており、さらに好ましくは、クラッド部となる無機誘電体が、スパッタ法やCVD法、蒸着法等を用いて成膜されていることである。
また、本発明の光学部品は、上記の課題を解決するために、本発明の有機光導波路を備え、該有機光導波路における上記搭載部に光学素子が搭載されていることを特徴としている。
また、本発明の光学部品の製造方法は、上記課題を解決するために、基板上に形成された、有機ポリマからなるコア部を、該コア部が形成されている側の基板表面を含めて覆うように、クラッド部となる該コア部よりも低い屈折率を有する無機誘電体層を、CVD法、スパッタ法、或いは蒸着法にて上記コア部よりも薄い層状に形成する工程と、上記工程で形成された層状のクラッド部上であって、上記コア部側方における上記基板表面を覆った部分のクラッド部上に、光学素子を搭載する工程とを有することを特徴としている。
上記の構成及び方法によれば、クラッド部がコア部よりも低い屈折率を有する無機誘電体からなるので、クラッド部の形成に、有機ポリマでは用いることができなかった、スパッタ法やCVD法、蒸着法等を用いることができ、容易にコア部と同様の形状にクラッド部を形成できる。
その結果、従来のようにクラッド部の側部に加工を施さずとも他の光学素子との結合性の良い有機光導波路が得られ、他の光学素子との集積化が可能になると共に、製造工程の簡略化も図れる。
そして、本発明の有機光導波路は、他の光学素子との集積化が容易であると共に、RIEによる加工で残渣の発生が少なく、かつ、製造工程の簡略化が可能な有機光導波路であるので、このような有機光導波路を構成要素とすることにより、高精度加工が施された集積性の高い光学部品を安価に得ることができる。
本発明の有機光導波路、光学部品は、さらに、上記クラッド部の一部が、コア部加工時のマスクともなるマスク兼用のクラッド部であることが好ましい。
本発明の光学部品の製造方法は、さらに、加工されて上記コア部となる上記有機ポリマ層を形成する工程と、上記有機ポリマ層上に上記クラッド部の一部となる上記コア部よりも低い屈折率を有する無機誘電体層を形成する工程と、上記無機誘電体層を上記コア部の上面のみ覆う形状に加工する工程と、上記の加工済み無機誘電体層をマスクとしてドライエッチングにより有機ポリマ層をコア部に加工する工程とを有することを特徴としている。
このような構成及び製造方法によれば、コア部の上面を覆うクラッド部をコア部加工用のマスクとして用いるので、コア部の加工後にマスクを除去する必要がなくなり、有機光導波路の作製工程を減らすことができ、かつ、マスク除去時に他の素子へ悪影響が及ぶことも防ぐことができる。ここで、マスク兼上部クラッド部とするには、無機誘電体の中でも、酸素ガスを用いたRIEで有機ポリマに対する選択比が大きいものを選択する必要がある。
本発明の有機光導波路、光学部品においては、クラッド部の周囲に遮光膜が形成されている構成とすることもできる。
また、本発明の光学部品の製造方法においては、クラッド部となる無機誘電体層を覆うように遮光膜を形成する工程をさらに含むものとしてもよい。
光導波路の周囲が遮光膜にて覆われるため、不必要な光が光導波路へ進入することが阻止され、混信を防止できる。しかも、遮光膜としては、光透過率の低い樹脂や、アルミニウム,銅等の金属が用いられる中、一般に有機ポリマは金属膜との密着性が悪く、金属膜からなる遮光膜の場合剥がれ等の問題があったが、本発明においては、無機誘電体層をクラッド部として備えているので、金属膜からなる遮光膜の密着性が向上し、剥れ難くなる。
また、この場合、上記光学素子のボンディングあるいは配線に用いるパッドを上記遮光膜の形成と同一工程で形成するようにすることで、光学部品の製造工程をさらに簡略化して、価格のさらなる低減が可能となる。
本発明の有機光導波路、光学部品におけるクラッド部を形成する無機誘電体としては、酸化シリコンが好ましい。
酸化シリコンは一般にポリイミドやPMMA等の有機ポリマよりも屈折率が低いため、クラッド部として利用することができるだけでなく、酸素ガスを用いたRIEで有機ポリマに対する選択比が大きいため、有機ポリマ層をコア部に加工するときのマスクとして利用することもできる。
したがって、クラッド部に酸化シリコンを用いることで、請求項11に記載した製造方法を採用でき、その結果、コア部の加工のためのマスクの除去が必要なくなって製造工程の簡略化が図れると共に、マスクとして利用した時にアルミ等の金属に比べ、酸素イオンによりスパッタされにくいため、残渣の発生を少なくすることもできる。
また、本発明の有機光導波路、光学部品におけるコア部を形成する有機ポリマの主成分としては、ポリイミドや、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン等を用いることができるが、その中でもポリイミドが好ましい。
ポリイミドは酸素ガスによるRIEでの加工性が良く、透過率も高い。また、耐熱性が高いため、同一基板上に半導体レーザを配置してもオーミック電極形成時の熱処理を問題無く行うことができ、他の素子との集積化を容易に図れることができる。
また、ポリイミドの中でも、シラン無添加のポリイミド、及びフッ素化ポリイミドの2つが特に好ましい。
これはつまり、シランが含まれていると、酸素ガスによるRIEで珪素成分がエッチングされずに残り、残渣発生の原因となるためである。シラン無添加のポリイミドを用いることにより、より確実に残渣の発生を低減できる。
フッ素化ポリイミドは透過率が高く、伝搬損失の少ない光導波路を得ることができるため好ましい。また耐熱性も高く、かつ、酸素ガスによるRIEでフッ素成分が発生するため、例えば、マスクや基板から珪素成分が生じても、エッチングされ易くなり、残渣の発生を低減できる。フッ素化ポリイミドとしては、ポリイミドの酸二無水物、或いはジアミン或いはこの両方をフッ素化したもの等を用いることができる。
また、本発明の有機光導波路、光学部品においては、コア部とクラッド部との間に、有機ポリマ層と無機誘電体層との密着性を向上させるための密着層を形成した構成とすることが好ましく、そして、さらに好ましくは、密着層が、コア部となる有機ポリマを熱重合させる前に形成されたものであることである。
同様に、本発明の光学部品の製造方法においても、有機ポリマ層上に無機誘電体層を形成する前に、有機ポリマと無機誘電体との密着性を向上させるための密着層を形成する工程を含むことが好ましく、かつ、密着層を形成する工程が、有機ポリマを熱重合させる前に実施されることがより好ましい。
有機ポリマ層と無機誘電体層とは、さほど密着性が良いとは言えないため、両層の間に両方の材料に対して接着力のある密着層を形成することで、有機ポリマ層と無機誘電体層との密着性が向上され、例えば、高温での熱処理を行ったり、スライシング等の機械的負荷がかかったりしても剥離することがなくなる。しかも、本発明においてはマスクでもあるので、有機ポリマとの密着性を向上させることで、マスクとして利用したときの加工精度の向上も期待できる。
また、有機ポリマを熱重合させた後では、表面に活性な官能基が少なくなる場合があり、特に有機ポリマとしてフッ素化ポリイミドを用いた場合、熱重合してイミド化した後では、有機ポリマ層と密着層との密着性が悪くなる。そのため、上記のように、有機ポリマを熱重合する前に密着層を形成することにより、より確実に有機ポリマ層と無機誘電体層との密着性を向上させることができる。
密着層としてはコア部よりも屈折率の低い材料が望ましいが、コア部の厚みに比べて密着層の膜厚を十分薄くすることで、屈折率については特に問題なく、シロキサン変成ポリイミド等の有機ポリマやアミノフェニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等を用いることができる。
また、本発明の光学部品の製造方法においては、密着層を形成するのではなく、有機ポリマ層上に無機誘電体層を形成する前に、有機ポリマ層の表面をプラズマ処理する工程を有するようにしてもよい。
有機ポリマ層の表面をプラズマ処理することにより、有機ポリマの表面が物理的、あるいは化学的に変化するため、無機誘電体膜との密着性を向上させることができる。その結果、例えば、高温での熱処理を行ったり、スライシング等の機械的負荷がかかったりしても剥離することがなくなる。
プラズマ処理としては、少なくとも酸素元素を含むガスによるプラズマ処理、及び少なくとも窒素元素を含むガスによるプラズマ処理の2つが特に好ましい。
前者は、酸素プラズマによりプラズマ処理を行うことにより、有機ポリマがエッチングされ、表面が粗面化されるため、有機ポリマと無機誘電体膜との密着性を向上させることができる。後者は、窒素プラズマによりプラズマ処理を行うことにより、表面に活性な官能基が生成されるため、有機ポリマと無機誘電体膜との密着性を向上させることができる。
本発明により、従来の有機ポリマからなるクラッド部を備えた有機光導波路に比べ、製造工程の簡略化を図りながら、半導体レーザ等の他の光学素子との結合性が良く、集積化も容易な有機光導波路を得ることができるという効果を奏する。
また、本発明により、高精度加工が施された集積性の高い光学部品を安価に得ることができるという効果を奏する。
〔実施の形態1〕
本発明に係る実施の一形態を、図1および図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。
図1は、本発明に係る有機光導波路の一例の断面を表す概略図である。図1を基に、本発明に係る有機光導波路の一例を説明する。
有機光導波路はシリコン等からなる基板1を有している。この基板1上には、バッファ層2としてスパッタ法やCVD法により形成された酸化シリコン膜が約5μmの厚さで形成され、その上に任意の形状の有機ポリマからなるコア部3が形成されている。そして、コア部3の上には上部クラッドであり、かつコア部3の加工時にマスクとなる無機誘電体からなるマスク兼クラッド4が形成され、さらにその上にコア部3を覆うように、同じく無機誘電体からなる数μm厚のオーバークラッド5が形成されている。
マスク兼クラッド4及びオーバークラッド5となる無機誘電体には、コア部3より屈折率の低い材料が選択される。コア部3より屈折率の低い無機誘電体としては、例えば、酸化シリコン等を用いることができる。そして、その成膜方法としては、CVD法やスパッタ法、蒸着法等が用いられる。
なお、上記バッファ層2としてはコア部3より屈折率の低い有機ポリマを使用してもよい。また、オーバークラッド5の周囲を厚さ1μm程度のアルミニウム等の金属からなる遮光膜で覆ってもよい。遮光膜で覆うことで有機光導波路の外部から不必要な光が有機光導波路に混信することを防止することができる。
次に、上記有機光導波路の作製方法の一例を図2を基に説明する。
1) 図2(a)に示すように、シリコンからなる基板1上にバッファ層2として、酸化シリコンをスパッタリング法により数μmの厚さで成膜する。ここで、基板1の表面は、予め、研磨、ポリッシング加工を施しておく。
2) 次に、基板1上にコア部3としてのポリイミド等の有機ポリマをスピンコート法により塗布し、その後、有機ポリマの焼成を行う。ここで有機ポリマの膜厚は、光導波路の所望の特性により選択される。
3) 次に、図2(b)に示すように、コア部3上に、マスク兼クラッド4として酸化シリコンを、プラズマCVD法により形成する。さらに、この酸化シリコン膜の上に、マスク兼クラッド4のマスクとしてフォトレジスト6を塗布する。
4) 次に、図2(c)に示すように、フォトリソグラフィーにより、フォトレジスト6を任意の形状にパターニングし、CF4ガスによるRIEにより、マスク兼クラッド4にパターンを転写する。
5) 次に、図2(d)に示すように、マスク兼クラッド4をマスクとして、酸素ガスによるRIEにより、コア部3の不要部分を除去する。このとき、フォトレジスト6も同時に除去される。
6) 次に、図2(e)に示すように、オーバークラッド5として、酸化シリコンをプラズマCVD法により成膜する。これにて、上記有機光導波路が得られる。
このような構成の有機光導波路では、オーバークラッドとして有機ポリマではなく、無機誘電体を用いているため、CVD法やスパッタ法により、コア部3と同一形状にコア部3を覆うオーバークラッド5を容易に形成できる。その結果、例えば半導体レーザ等の他の光学素子と容易に結合させることが可能となる。また、同一基板上で他の素子と結合させることが容易になるので、光学素子の集積化が図れる。
また、コア部3のマスクとして用いている無機誘電体からなるマスク兼クラッド4は、上部クラッドとしてそのまま用いることができるため、従来のようにマスクを除去する工程が必要なくなり、製造工程を削減できる。しかも、無機誘電体からなるマスクであるので、金属膜をマスクとした場合よりもRIEによるコア部3を加工の際のエッチング残渣の発生を少なくすることができる。
なお、上記の製造工程は一例であり、RIE以外の加工方法で有機ポリマの加工を行ったり、一部を変更した工程を用いても良い。
以下、本発明に係る有機光導波路の各部の材質や成膜方法等について、より詳細に説明する。コア部3を形成する有機ポリマ材料としては、透過率の高い材料が望ましく、また、半導体レーザとの集積化を考えた場合、オーミック電極形成時に熱処理が必要なため、約300℃以上の耐熱性が必要となる。このことから、有機ポリマの中でも耐熱性が高く、比較的透過率の高いポリイミドをコア材料として用いることが望ましい。そして、詳細には後述するが、酸素ガスを用いたRIEによる加工時のエッチング残渣の発生が少ないといった利点から、ポリイミドの中でも、シラン無添加のポリイミドとフッ素化ポリイミドが望ましい。特に、フッ素化ポリイミドを用いることで、近赤外領域での透過率がより高くなり、特に通信用途に最適の低損失有機光導波路を得ることができる。
ポリイミド等の有機ポリマの屈折率は一般に1.6前後であるため、マスク兼クラッド4およびオーバークラッド5の無機誘電体材料としては、屈折率1.46の酸化シリコンを用いることができる。酸化シリコンは、CVD法やスパッタ法、蒸着法により容易にコア部3と同一形状に製膜することが可能である。また、無機誘電体膜は金属膜に比べ酸素プラズマによりスパッタされにくいため、金属膜をマスクとした場合よりもRIEによるコア部3を加工の際のエッチング残渣の発生を少なくすることが可能となる。
ここで、このエッチング残渣の発生状態は、マスク材料以外に、加工される側の有機ポリマ材料によって異なる。マスク材料として、アルミニウムと酸化シリコンの2種類、有機ポリマ材料としてアミノシランを26mol%含有するポリイミド(ポリイミドA:商品名PIG、チッソ(株)製)と、シラン無添加ポリイミド(ポリイミドB:商品名PIG、チッソ(株)製のシランを無添加にしたもの)と、フッ素化ポリイミド(ポリイミドC:商品名OPI−N2005、日立化成製)の3種類の組み合わせで、酸素ガスによるRIEを実施し、エッチング残渣の状態を比較した。その結果を表1に示す。
表1に示すように、マスクがアルミニウムのものではすべてのサンプルで残渣が基板全面に発生した。一方、酸化シリコンをマスクとした場合は、シラン成分を含むポリイミド(ポリイミドA)のみで残渣が発生し、シラン無添加のポリイミド(ポリイミドB)とフッ素化ポリイミド(ポリイミドC)では残渣は発生しなかった。なお、RIEの下部電極は炭素板により覆うことにより、下部電極が起因となる残渣の発生を無くしている。
アルミニウム等の金属をマスクとした場合、酸素ガスでのRIE中に金属マスクがスパッタされやすく、スパッタされたマスクが有機ポリイミド上に残り、残渣の原因となる。一方、酸化シリコン等の無機誘電体をマスクとした場合は、無機誘電体が比較的スパッタされにくいため、残渣の発生が少なくなる。
また、シラン含有のポリイミドでは、珪素成分が酸素ガスでのRIEではエッチングされずに残るため、これが原因となって残渣が発生する。したがって、シラン無添加のポリイミドを用いることにより残渣の発生を抑制することができる。
さらにまた、フッ素化ポリイミドを用いた場合、RIE中にフッ素成分が放出されるため、残渣の原因となる珪素成分がエッチングされ、残渣の発生を無くすことができる。以上のことから、有機ポリマ材料としては、フッ素化ポリイミド、あるいはシラン無添加のポリイミドを用いることが望ましい。
一方、有機ポリマと無機誘電体とは一般に密着性が悪く、300℃程度の熱処理を行うと剥離が生じやすい。このため、有機光導波路と半導体レーザとを同一基板に集積化することが困難となる。特に、フッ素化ポリイミドはフッ素成分の影響で密着性が悪く問題となる。この密着性は、プラズマによる有機ポリマの表面処理、或いは、密着剤からなる密着層を設けることで改善できる。
まず、プラズマ処理による改善効果について説明する。有機ポリマとして、フッ素化ポリイミド(商品名OPI−N1005、日立化成製)を用い、酸素ガスと窒素ガスによるプラズマ処理を行い、密着性が改善できるかを調べた。
プラズマ処理はプラズマCVD装置(サムコインターナショナル製、ModelPD200−ST)を用いて、圧力0.6Torr、ガス流量50SCCM、RFパワー250Wの条件で5分間行った。プラズマ処理後に連続して同じCVD装置を用いてマスクとなる酸化シリコンを2μmの厚みで成膜し、前述の工程にしたがい、有機光導波路を作製した。比較のため、プラズマ処理を行わないサンプルも作製した。
作製したサンプルを300℃のホットプレートにより5分間加熱し、その後、スライシングを行って機械的負荷をかけ、剥離の有無を調べた。
その結果、プラズマ処理を行わないサンプルでは、酸化シリコンが剥離し、一方の酸素および窒素ガスによるプラズマ処理を行ったサンプルでは、剥離は生じず、フッ素化ポリイミドとの密着性が向上していた。
また、プラズマ処理を行ったフッ素化ポリイミドの表面をSEMにより観察したところ、酸素プラズマ処理を行ったサンプルでは0.5μm以下程度の微少な凹凸が多数生じていたのに対し、窒素プラズマ処理を行ったサンプルでは変化が見られなかった。このことから、酸素プラズマ処理での密着性の向上はフッ素化ポリイミド表面の粗面化によると考えられる。一方、窒素プラズマ処理では、何らかの化学的変化により表面に活性な官能基が生成されていると考えられる。これらの結果は、フッ素化ポリイミドのみではなく他のポリイミドや有機ポリマでも同様であった。
以上のように、有機ポリマの表面を酸素あるいは窒素ガスによるプラズマ処理を行った後にマスク兼クラッド4となる無機誘電体を成膜することにより、有機ポリマと無機誘電体との密着性を向上させることが可能となり、耐熱性が高く、例えば、半導体レーザを同一基板上にハイブリッドに配置することが容易となる。
次に、密着剤からなる密着層を用いた場合の改善処理について説明する。有機ポリマとして、フッ素化ポリイミドを用い、マスク兼クラッド4としての無機誘電体を成膜する前に密着層として、シロキサン変成ポリイミド(密着剤)をスピンコートにより約500Åの厚みに成膜した。そして、前述した工程により、有機光導波路を作製した。
その結果、密着剤を用いない場合に比べて密着性が向上し、300℃の熱処理を行っても剥離が生じなくなった。しかしながら、スライシングによる負荷をかけたところ、剥離が生じた。これは、熱重合してイミド化したフッ素化ポリイミドでは密着剤として用いたポリイミドとの密着性が悪く、この部分から剥離が生じたためと考えられる。
そこで、フッ素化ポリイミドの熱処理は100℃、200℃、350℃の3段階で行っているが、350℃の熱処理を行う前に密着剤としてのシロキサン変成ポリイミドを成膜し、その後、350℃の熱処理を行ってみた。これによれば、密着剤とフッ素化ポリイミドとの密着性が向上し、その結果、スライシングによる負荷をかけても無機誘電体膜である酸化シリコンが剥離しなくなった。
以上のように、有機ポリマと無機誘電体の間に密着層を設けることにより、有機ポリマと無機誘電体との密着性を向上させることができる。また、有機ポリマが熱重合する前に密着層を形成することにより、さらに有機ポリマと無機誘電体膜との密着性を向上させることが可能となる。
密着層を成す密着剤は有機ポリマ材料によって選択されるものであり、もちろんシロキサン変成ポリイミド以外の材料を用いても良く、他の有機ポリマやアミノフェニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等を用いても良い。
次に、上述してきた方法により作製した有機光導波路の伝搬損失について説明する。コア部3材料として、ポリイミド(商品名PIX−3400、日立化成製)、シロキサン無添加ポリイミド(商品名PIG、チッソ製)、フッ素化ポリイミド(商品名OPI−N1005、日立化成製)を用いた。コア部3の膜厚40μm、幅50μmのマルチモード光導波路を上述した工程により作製した。マスク兼クラッド4およびオーバークラッド5としての無機誘電体に、2μm厚の酸化シリコンを用いた。また、有機ポリマと無機誘電体である酸化シリコンとの密着性を向上させるために窒素ガスによるプラズマ処理を行った。
そして、長さの異なる有機光導波路を作製し、カットバック法により波長650nmでの伝搬損失を測定したところ、PIX−3400で34.0dB/cm、PIGで9.9dB/cm、OPI−N1005で3.2dB/cmの値が得られた。
なお、ここではオーバークラッド5を別途設ける構成としたが、マスク兼クラッド4がコア部3の上部クラッドとして機能するので、このマスク兼クラッド4にて屈折率差が大きくなり過ぎる問題や、コア部3の保護の問題を低減できる。オーバークラッド5を形成しない構成では、空気をサイドクラッドとすればよい。
〔実施の形態2〕
本発明に係る実施の他の形態を、図3および図4に基づいて説明すれば、以下の通りである。
尚、説明の便宜上、前記実施の形態にて示した部材と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付記し、その説明を省略する。
図3は、本発明に係る光学部品の一例である双方向光通信モジュール8を表すもので(a)が概略図、(b)が光送信部の断面図である。図3を基に本発明に係る光学部品の一例を説明する。
図3(a)において、送信用光導波路9と受信用光導波路10は、前述の実施の形態1において説明した有機光導波路である。有機光導波路の表面には、図3(b)に示すように、遮光膜16として、アルミニウム膜17、TiW膜18、金膜19がこの順にそれぞれ1μm、2000Å、2000Åの厚さで形成されている。
有機光導波路の周囲を金属で覆うことにより、有機光導波路の外部から不必要な光が有機光導波路に混信することを防止することができ、例えば、図3に示した双方向光通信モジュール8では、送信用光導波路9と受信用光導波路10とのクロストークを防止することができる。また、光導波路内の光が外部に漏れにくくなり、伝搬損失を少なくする効果もある。
さらにまた、一般に有機ポリマは金属膜と密着性が悪いが、無機誘電体をオーバークラッド5とすることにより、遮光膜16としての金属膜との密着性を向上させることができる。遮光膜16としてはアルミニウム以外に銅や金等の金属や、光透過率の低い樹脂等を用いることができる。有機光導波路のその他の構成は図1で示したものと同様であり説明を省略する。
双方向光通信モジュール8の一端には、プラスチック光ファイバー11が送信用光導波路9と受信用光導波路10に対向して設置される。送信用光導波路9の他端には、ボンディングパッド15の上に半導体レーザ12が設置されている。
受信用光導波路10の他端の受信用光導波路10の下部には、基板1にモノリシックに形成されたフォトダイオード13が設置されている。実施の形態1で説明したような有機光導波路を用いることにより、半導体レーザ12やフォトダイオード13と有機光導波路とを同一基板上に容易に形成することが可能となる。
このような構成において、半導体レーザ12からの出射光は送信用光導波路9を伝搬して、プラスチック光ファイバー11に結合される。プラスチック光ファイバー11を伝搬してきた受信光は受信用光導波路10に結合され、受信用光導波路10を伝搬してフォトダイオード13で受信される。フォトダイオード13の上部のバッファ層をなくすことで受信用光導波路10を伝搬してきた受信光がフォトダイオード13に結合する。
この双方向光通信モジュール8では送信光と受信光を有機光導波路により分離しているため、1本のプラスチック光ファイバー11により、同時双方向通信を行うことができる。また、有機光導波路は厚膜形成が容易であるため、大口径のプラスチック光ファイバー11と高効率で結合させることが可能となる。なお、図中14は、双方向光通信モジュール8の制御装置である。
以上のように、クラッド部(オーバークラッド5、マスク兼クラッド4)として無機誘電体を用いた有機光導波路を構成要素としていることにより、有機光導波路と他の光学素子と容易に結合させることができ、安価で集積性の高い光学部品を得ることができる。
また、断面図に示すように、ボンディングパッド15は遮光膜16と同様にアルミニウム膜17、TiW膜18、金膜19から構成されており、遮光膜16と同一工程により形成される。この形成工程を図4を基に説明する。
1) まず、図2で説明した有機光導波路の作製工程により送信用光導波路9を作製する(図4(a)参照)。
2) 次に、図4(b)に示すように、有機光導波路の遮光膜16および半導体レーザ12のボンディングパッド15としてアルミニウム膜17を約1μm、TiW膜18を約2000Å、金膜19を約2000Åをこの順にそれぞれスパッタ法により製膜する。
3) 次に、図4(c)に示すように、フォトレジスト6を塗布して、フォトリソグラフィーによりボンディングパッド15および遮光膜16部以外のフォトレジスト6を除去する。
4) 次に、図4(d)に示すように、ウエットエッチングにより金膜19、TiW膜18、アルミニウム膜17の不要部分を除去する。
5) 次に、図4(e)に示すように、ボンディングパッド15上に厚さ1μm程度のインジウムシートを貼り、その上に半導体レーザ12を設置し、約300℃の熱処理を行うことにより半導体レーザ12をボンディングパッド15にボンディングする。
以上のように、遮光膜16とボンディングパッド15を同一工程により形成することにより、製造工程を簡略化することができ、安価な光学部品を得ることができる。ボンディングパッド15の構成は上述したアルミニウム膜17、TiW膜18、金膜19の3層に限ったものではなく、例えば、アルミニウムの下に熱伝導率の高い材料をヒートシンクとして形成してもよい。
もちろん、ここで説明した構成は、本発明に係る一構成例であり、他の光通信装置や光集積回路に本発明の有機光導波路を用いることにより、安価で集積性が高く、信頼性の高い光学部品を得ることができる。