JP3565339B2 - 強撚糸の製造方法、強撚糸、カーペットの製造方法、及びカーペット - Google Patents

強撚糸の製造方法、強撚糸、カーペットの製造方法、及びカーペット Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は強撚糸の製造方法、強撚糸、カーペットの製造方法、及びカーペットに関し、より詳細には、カーペットの使用面の形成に用いる強撚糸の製造方法、前記強撚糸、該強撚糸を使用面の形成に用いたカーペットの製造方法、及び前記カーペットに関する。
【0002】
【従来の技術】
カーペットは、その製造方法や、その表面の組織・構造の相違に起因した外観形状の相違、いわゆる、テクスチャー(texture )などによって分類され、例えば、織カーペットの種類は、その織り方やパイル(カーペットの表面に出ている繊維の束であり、基部から突き出して使用面としての働きをもつ)の形状によって、以下のように分類される。
【0003】
因に、使用面とは直接歩行作用を受ける、繊維製床敷物の部位のことであり、基部とは使用面と一体となる構造体で、1層又は複数層からなり、使用面の保持と寸法安定性の付与、及び/又はクッションの機能を有する部位のことであり、織カーペットでは地組織と言い、後述するタフテッドカーペットではバッキング部と言う。
【0004】
a)織り方による分類
1)ウイルトンカーペット
2)アキスミンスターカーペット
b)パイルの形状による分類
1)カットパイル:パイルの先端が全てカットされたカーペット
2)ループパイル:パイルが全て輪奈状のカーペット
3)カットパイル・ループパイル併用
【0005】
図4に、アキスミンスターカーペットの模式的断面図を示す。図中1は、糸や繊維で構成されたパイルを示しており、パイル1は地組織2から突き出して使用面としての働きをもち、地組織2は覆いたて糸3、よこ糸4、及びしめ糸5から構成されている。なお、パイル1は先端がカットされており、カットされた面がパイル面1aとなる。
【0006】
ところで、カーペットには、見る角度によって濃淡光沢差が生じる(カーペットが汚れているように見える)場合がある。これは、シェーディング現象(くも現象)と呼ばれ、テクスチャーがカットパイルのもの、特にその中でも、プラッシュ(plush )やベロア(velour)といった、一般的なタイプのものに発生し易い。
【0007】
これは、パイル1が一定方向に傾斜する性質を有しており(但し、図4に示したパイル1は傾斜した状態のものではない)、この性質がカットパイルに強く現れ、図5に示したように、パイル面1aの領域S での傾斜方向が順方向であるのに対し、領域S での傾斜方向が逆方向である場合、見る角度によっては、領域S が領域S よりも濃く見えたり、淡く見えたりするために生じる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような問題を解決する方法の一つとして、強撚糸をカーペットの使用面(パイル)に用い、テクスチャーがハードツィスト(hard−twist)に分類されるカーペット(図6)を製造する方法が知られている。
【0009】
ハードツィストは、パイル11一本一本に強い撚りがかけられており、遊び毛(紡績糸を用いたパイル敷物の場合、バッキング剤や基布で固定されていない短い繊維が歩行や清掃により抜け出ること)が少なく、ハードなタッチで、弾力性があり、丈夫なカーペットであり、さらにはパイル糸が強撚の縮れのため、方向性も少なく、立体感が得られ、ムードと個性を有するといった特徴がある。図6は、テクスチャーがハードツィストに分類されるカーペットの模式的断面図である。
このように、ハードツィストには方向性が少ないため、光沢差はパイル面全体に均一に細かく分布するので、プラッシュやベロアといった、一般的なカットパイルのタイプに発生するような濃淡光沢差が生じるのを解消することができる。
【0010】
ところが、強撚糸は強い撚りがかけられており、その特性(縮れた状態になる性質)のため、あらゆる製造機械に利用可能なわけではなく、またもし仮に利用できたとしても、その作業効率が極めて低いといった問題があった。図7に、強撚糸が縮れた状態を模式的に示す。
【0011】
例えば、ジャガード式のアキスミンスター織機を使って、パイル糸を地組織(基部)に織り込んでいく場合には、カーペットの縦方向の各パイル列毎に、使用される複数本のパイル糸が導き入れられたキャリヤーを並べ、各キャリヤーを1織り毎にジャガード機により適宜、垂直移動させ、必要なパイル糸を所定の位置へ横方向に一列に並べ、これをグリッパー(つまみ)で摘んで引き出し、一定長に切断し、そして切断した糸を地組織に挟み込んでいくようになっている。
また、この場合、縦方向に並べられる各キャリヤーに導き入れられる各パイル糸は、通常、チーズ糸管などに巻かれてクリールに掛架されている。
【0012】
しかしながら、パイル糸として強撚糸を用いた場合には、強撚糸の強い縮れによって、グリッパーが糸を摘めないといった、いわゆるミスピックが頻繁に発生し、パイル糸が基布に織り込めないことが多く、その場合、補修作業に非常に多くの時間を費やさなければならない。
【0013】
また、アキスミンスター織機には、クリール(チーズ)とグリッパーとの間にフィードローラーがなく、グリッパーの張力だけでクリールから糸を引っ張らなければならないため、クリールからグリッパーまでの間に糸の弛みが生じ易く、また多色(12色)の柄のあるカーペットを織ることができる織機であり、縦方向一列に12本の糸が並ぶため、パイル糸として強撚糸を用いた場合には、強撚糸の縮れによって、糸が絡み易いといった問題があり、アキスミンスター織機を使って、強撚糸を織り込んでいくことは非常に無理が有り、また困難であった。
【0014】
他方、色の数が4〜5色と制限され、小柄の繰り返しのデザインの形成に向いている(ワイヤーの打ち込み装置をもつ)ウイルトン織機は、アキスミンスター織機とは違って、クリールから糸をグリッパーで摘んで引き出したりするのではなく、また使用できる色の数も少ないため、強撚糸を織り込んでいく作業は、アキスミンスター織機と比べれば、あまり大きな問題にはなっていなかった(但し、補修作業には多くの時間を費やす必要があった)。
【0015】
しかしながら、織り込んでいくまでの準備工程として、クリールに取り付けられている糸を、ウイルトン織機の打ち込み部まで引っ張っていくときには、やはり強撚糸の縮れによって、糸が絡み易いといった問題があり、絡まった糸については、人手で解いていかなければならないため、非常に手間がかかっていた。
【0016】
ところで、カーペットには、ウイルトン織機やアキスミンスター織機などで製造される織カーペットだけでなく、刺繍カーペットや、接着カーペットや、編みカーペットなどもあり、刺繍カーペットの一つとして、バッキング部(基部)にタフティング機によって糸を刺し込んでパイルを形成し、裏面に接着剤を用いてパイルを固定したタフティングカーペットがある。
【0017】
タフティング機を使ってカーペットを製造する場合、まずクリールに取り付けられている糸を、細いパイプを介して、タフティング機のフィードローラーへ供給するため、強撚糸を用いた場合には、強撚糸の縮れによって、パイプ内で糸が引っかかったり、クリールのところで糸が切れてしまう虞がある。
【0018】
また、タフティング機では、糸を針の穴に通すようになっているが、あまり大きな力で糸を引っ張る構成にはなっていないため、強い縮れのある強撚糸を針の穴に通すことは殆ど不可能である。また、針の穴に通すまでにも、糸が絡み合う虞があり、タフティング機を使って、強撚糸をバッキング部に刺し込んでいくことは殆ど不可能であった。
【0019】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、シェーディング現象の生じないカーペットを容易に製造することのできる強撚糸の製造方法、強撚糸、シェーディング現象の生じないカーペットを容易に製造することのできるカーペットの製造方法、及びカーペットを提供することを目的としている。
【0020】
【課題を解決するための手段及びその効果】
上記目的を達成するために本発明に係る強撚糸の製造方法(1)は、2〜7メートル番手の単糸が複数本、100回/m以上で撚り合わされ、縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながら巻装する第1の工程と、温度が70〜90℃の範囲内、及び時間が20〜40分の範囲内の条件下で、スチーム処理を施す第2の工程とを含む第1の加工処理を施し、縮れた状態への復元を想定した強撚糸を製造することを特徴としている。
【0021】
また、本発明に係る強撚糸(1)は、2〜7メートル番手の単糸が複数本、100回/m以上で撚り合わされた強撚糸において、縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながら巻装する第1の工程と、温度が70〜90℃の範囲内、及び時間が20〜40分の範囲内の条件下で、スチーム処理を施す第2の工程とを含む第1の加工処理が施され、撚りが多いにも拘らず、真っ直ぐな状態が維持されていることを特徴としている。
【0022】
撚りの回数が多い糸(強撚糸)は、通常、図7に示したように、縮れた状態になるが、上記した強撚糸の製造方法(1)によれば、2〜7メートル番手の単糸が複数本、100回/m以上で撚り合わされ、縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながら巻装すること(第1の工程)によって、縮れのない真っ直ぐな状態となった強撚糸を製造することができ、さらに温度が70〜90℃の範囲内、及び時間が20〜40分の範囲内の条件下でのスチーム処理(第2の工程)を施すことによって、縮れのない真っ直ぐな状態を維持することのできる強撚糸を製造することができる。
また、上記した強撚糸(1)によれば、前記第1の加工処理(縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながら巻装する第1の工程と、温度が70〜90℃の範囲内、及び時間が20〜40分の範囲内の条件下で、スチーム処理を施す第2の工程とを含んだ処理)が施され、撚りが多いにも拘らず、真っ直ぐな状態が維持されている。
【0023】
すなわち、上記した強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、は上記した強撚糸(1)については、撚りが多いにも拘らず、縮れのない真っ直ぐな状態になっているので、例えば、アキスミンスター織機で地組織(基部)に織り込んでいく一連の作業を行ったとしても、ミスピックが頻繁に発生したり、糸が絡んでしまうといった事態が発生したりするのを回避し、作業の効率化を図ることができる。
【0024】
ところで、作業の効率化が図られたとしても、強撚糸がもつ本来の特性(縮れた状態になる性質)が失われたままでは、テクスチャーがハードツィストに分類される、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを実現することはできない。
【0025】
しかしながら、上記した強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、は上記した強撚糸(1)については、所定の条件下でのスチーム処理とエージング処理とを施すことにより、縮れた状態、すなわち強撚糸がもつ本来の特性が復元可能であるので、上記問題を解消することができる。
従って、上記した強撚糸の製造方法(1)によれば、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを製造することはもちろんのこと、作業効率の向上も図ることのできる強撚糸を製造することができる。
【0026】
また、本発明に係る強撚糸()は、上記強撚糸(1)であって、70〜100重量%が羊毛繊維であり、0〜30重量%が羊毛以外の繊維であり、0〜10重量%が熱融着性繊維であることを特徴としている。
【0027】
上記した強撚糸()によれば、70重量%以上が羊毛繊維であるため、羊毛(ウール)本来の風合いや色合い、そして羊毛特有の機能を備え、さらに羊毛以外の繊維(例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル、メルトナイロン、メルトポリエステル、静電防止繊維)や、熱融着性繊維が適量に含まれている場合もあるため、その他の機能をも兼ね備えたものとすることができる。
【0028】
また、本発明に係るカーペットの製造方法(1)は、上記強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、若しくは上記強撚糸(1)又は(2)を、使用面の形成に用いたカーペットの製造方法であって、前記使用面と基部との一体化を図った後、温度が50℃以上の条件下で、スチーム処理を施す第3の工程と、エージング処理を施す第4の工程とを含む第2の加工処理を施すことを特徴としている。
【0029】
上記したカーペットの製造方法(1)によれば、上記強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、若しくは上記強撚糸(1)又は(2)、すなわち撚りが多いにも拘らず、縮れのない真っ直ぐな状態の強撚糸を使用面の形成に用いてカーペットを製造するので、作業の効率化を図ることができる。
【0030】
さらに、上記したカーペットの製造方法(1)によれば、作業の効率化を図るだけでなく、前記使用面と基部との一体化を図った後、例えば、パイル糸を地組織へ織り込んだ後、最終的処理として、温度が50℃以上の条件下でのスチーム処理(第3の工程)とエージング(熟成)処理(第4の工程)とを施すことによって、縮れた状態、すなわち強撚糸がもつ本来の特性を復元することができるので、テクスチャーがハードツィストに分類される、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを製造することができる。
従って、上記したカーペットの製造方法(1)によれば、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを製造することはもちろんのこと、作業効率の向上も図ることができる。
【0031】
また、本発明に係るカーペット(1)は、上記強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、若しくは上記強撚糸(1)又は(2)を、使用面の形成に用いたカーペットであって、前記使用面と基部との一体化を図った後、温度が50℃以上の条件下で、スチーム処理を施す第3の工程と、エージング処理を施す第4の工程とを含む第2の加工処理が施され、強撚糸の縮れた状態が復元されていることを特徴としている。
【0032】
上記したカーペット(1)によれば、上記強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、若しくは上記強撚糸(1)又は(2)、すなわち撚りが多いにも拘らず、縮れのない真っ直ぐな状態の強撚糸を使用面の形成に用いたカーペットであるので、作業効率の良いカーペットを実現することができる。
【0033】
さらに、上記したカーペット(1)によれば、縮れた状態、すなわち強撚糸がもつ本来の特性が復元されているので、テクスチャーがハードツィストに分類される、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを実現することができる。
【0034】
また、本発明に係るカーペット()は、上記カーペット(1)であって、ウイルトンカーペット、アキスミンスターカーペット、及びタフテッドカーペットのうちのいずれかであることを特徴としている。
【0035】
従来の強撚糸を使用面の形成に用いて、カーペットを製造する場合には、強撚糸の縮れによって、ウイルトン織機では非常に作業効率が悪く、アキスミンスター織機やタフティング機では殆ど製造が不可能であった。
しかしながら、上記したカーペット()によれば、縮れのない真っ直ぐな状態の強撚糸を使用面に用いて製造されたカーペットであるので、ウイルトン織機、アキスミンスター織機、タフティング機いずれを使っても、効率良く良品のカーペットを実現することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る強撚糸の製造方法、強撚糸、カーペットの製造方法、及びカーペットの実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)の処理工程を示したフローチャートである。
【0037】
まず、紡績加工を施して、太さが2〜7メートル番手であり、羊毛繊維が70〜100%重量%を占め、羊毛以外の繊維が0〜30重量%を占めている単糸を作成し(工程a1)、この単糸を2〜4本、100回/m以上で撚り合わせて(工程a2)、一定の長さに綛枠で巻き取り(工程a3)、次に、撚り合わせた糸(強撚糸)に染色加工(綛染め)を施す(工程a4)。なお、前記単糸と一緒に熱融着性フィラメントを一緒に撚り合わせたり、染色加工を施す前に、薬品セットを施すと、強撚糸の縮れた風合いを長期間維持したり、遊び毛を少なくすることができる。
【0038】
薬品セットとしては、例えば、モノエタノールアミン亜硫酸塩を主成分とする羊毛セット剤、化研工業株式会社製のウールセットM7(商品名)を、40〜60℃の温度範囲、及び5〜10分の時間範囲の条件下で使用する方法が挙げられる。なお、このときの使用量としては5〜10%OWF(on the weight of fiber:セットを施す糸の重量に対する割合)が望ましい。
【0039】
次に、綛の状態から、縮れた状態にある強撚糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながらコーン糸管に巻き取り(工程a5)、その後、巻き取った強撚糸を、温度が70℃以上、時間が20分以上の条件下でスチーム処理を施す(工程a6)。
【0040】
図2は、実施の形態に係る強撚糸の製造方法(2)の処理工程を示したフローチャートである。まず、原料染めによる染色加工を施し(工程b1)、次に、紡績加工を施して、太さが2〜7メートル番手であり、羊毛繊維が70〜100%重量%を占め、羊毛以外の繊維が0〜30重量%を占めている単糸を作成し(工程b2)、この単糸を2〜4本、100回/m以上で撚り合わせて(工程b3)、一定の長さに綛枠で巻き取り、その後、糸洗いを行う(工程b4)。
【0041】
次に、綛の状態から、縮れた状態にある強撚糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながらコーン糸管に巻き取り(工程b5)、その後、巻き取った強撚糸を、温度が70℃以上、時間が20分以上の条件下でスチーム処理を施す(工程b6)。なお、ここでは撚り合わせた糸を一旦、綛枠で巻き取る作業を行っているが、糸洗いを行う必要がなければ、工程b4を飛ばしても良い。
【0042】
上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)又は(2)によれば、撚りの回数が100回/m以上で縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながらコーン糸管に巻き取ること(工程a5、b5)によって、縮れのない真っ直ぐな状態となった強撚糸を製造することができ、さらに温度が70℃以上、及び時間が20分以上の条件下でのスチーム処理(工程a6、b6)を施すことによって、縮れのない真っ直ぐな状態を維持することのできる強撚糸を製造することができる。
【0043】
すなわち、上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)又は(2)により製造された強撚糸については、撚りが多いにも拘らず、縮れのない真っ直ぐな状態になっているので、例えば、アキスミンスター織機で地組織(基部)に織り込んでいく一連の作業を行ったとしても、ミスピックが頻繁に発生したり、糸が絡んでしまうといった事態が発生したりするのを回避し、作業の効率化を図ることができる。
【0044】
ところで、作業の効率化が図られたとしても、強撚糸がもつ本来の特性(縮れた状態になる性質)が失われたままでは、テクスチャーがハードツィストに分類される、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを実現することはできない。
【0045】
しかしながら、上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)又は(2)により製造された強撚糸については、所定の条件下でのスチーム処理(後述する工程a10)とエージング処理(後述する工程a11)とを施すことにより、縮れた状態、すなわち強撚糸がもつ本来の特性が復元可能であるので、上記問題を解消することができる。
従って、上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)又は(2)によれば、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを製造することはもちろんのこと、作業効率の向上も図ることのできる強撚糸を製造することができる。
【0046】
図3は、実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)の処理工程を示したフローチャートである。但し、ここでは上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸を、使用面の形成に用いるカーペットを、アキスミンスター織機を使って製造する場合について説明する。
【0047】
まず、準備段階として、コーン糸管に巻き取られた、縮れのない真っ直ぐな状態になっている前記強撚糸をチーズ糸管に巻き直し、これをクリールに掛架したり、強撚糸をキャリヤーへ導いたり、キャリヤーを各パイル列毎に並べたりし(工程a7)、準備が完了すると、ジャガード機やグリッパーなどを使って、前記強撚糸を摘んで引き出し、一定長に切断し、そして切断した糸を地組織(基部)に挟み込ませていき、使用面となる前記強撚糸と地組織とを一体にする(工程a8)。
その後、パイル面にブラッシング(シャーリング)を施して、パイルの乱れを整え(工程a9)、温度が50℃以上の条件下でのスチーム処理(工程a10)とエージング処理(工程a11)とを施す。なお、前記スチーム処理を施す場合には、飽和水蒸気を使用する方がより好ましい。
【0048】
上記実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)によれば、上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)により製造された強撚糸、すなわち撚りが多いにも拘らず、縮れのない真っ直ぐな状態の強撚糸を使用面の形成に用いてカーペットを製造するので、作業の効率化を図ることができる。
【0049】
さらに、上記実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)によれば、作業の効率化を図るだけでなく、前記強撚糸と前記地組織とを一体にした後、温度が50℃の以上の条件下でのスチーム処理(工程a10)とエージング処理(工程a11)とを施すことによって、縮れた状態、すなわち強撚糸がもつ本来の特性を復元することができるので、テクスチャーがハードツィストに分類される、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを製造することができる。
従って、上記実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)によれば、シェーディング現象の生じない良質のカーペットを製造することはもちろんのこと、作業効率の向上も図ることができる。
【0050】
なお、上記実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)では、アキスミンスター織機を使って、カーペットを製造する場合についてのみ説明しているが、別の実施の形態に係るカーペットの製造方法では、ウイルトン織機やタフティング機を使って、カーペットを製造するようにしても良い。
【0051】
【実施例及び比較例】
以下、本発明の実施例に係る強撚糸の製造方法、強撚糸、カーペットの製造方法、及びカーペットについて説明する。
【0052】
★実施例1〜4、及び比較例1、2
本実施例に係る強撚糸の製造方法では、上記実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)を採用し、まず、紡績加工を施して(工程a1)、太さが2〜7メートル番手であり、羊毛繊維が70〜100%重量%を占め、羊毛以外の繊維(例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル、メルトナイロン、メルトポリエステル、静電防止繊維)が0〜30重量%を占めている単糸(コーン糸管状)を2〜4本、100回/m以上で撚り合わせ(工程a2)、一定の長さに綛枠で巻き取り(工程a3)、次に、撚り合わせた糸(強撚糸)に染色加工を施し(工程a4)、下記の表1に示すタイプA〜Cの糸を用意した。
【0053】
【表1】
Figure 0003565339
【0054】
次に、綛の状態から、縮れた状態にある強撚糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながらコーン糸管に巻き取り(工程a5)、その後、巻き取った強撚糸を所定の条件下でのスチーム処理(工程a6)を施し、製造された強撚糸の縮れ状態を観察した。表2は、スチーム処理の条件と、該条件下で製造された強撚糸の縮れ状態の観察結果とを示したものである。
【0055】
【表2】
Figure 0003565339
【0056】
上記結果から明らかなように、温度が70℃以上で、時間が20分以上の条件下で、スチーム処理が施されたものについては(実施例1〜4)、縮れ状態が発見されなかった。
【0057】
★実施例5〜7、及び比較例3
本実施例に係るカーペットの製造方法では、上記実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)を採用し、さらには上記実施例1に係る強撚糸の製造方法により製造された強撚糸を、カーペットの使用面の形成に用いた。
【0058】
まず、準備処理を施し(工程a7)、準備が完了すると、ジャガード機やグリッパーなどを使って、前記強撚糸を摘んで引き出し、一定長に切断し、そして切断した糸を地組織(基部)に挟み込ませていき、使用面となる前記強撚糸と地組織とを一体にし(工程a8)、パイル面にブラッシング(シャーリング)を施して、パイルの乱れを整え(工程a9)、その後、所定の条件下でのスチーム処理(工程a10)とエージング処理(工程a11)とを施し、製造されたカーペットの状態を観察した。表3は、スチーム処理の条件と、該条件下で製造されたカーペットの品質とを示したものである。
【0059】
【表3】
Figure 0003565339
【0060】
上記結果から明らかなように、温度が50℃以上の条件下で、スチーム処理が施されたものについては(実施例5〜7)、パイル糸の強い縮れが復元されており、遊び毛が少なく、ハードなタッチで、弾力性があり、立体感が得られ、シェーディング現象の生じない良質のカーペット(特に、温度が60℃以上の場合、より品質が良かった)であったが、温度が40℃の条件下で、スチーム処理が施されたものについては(比較例3)、パイル糸の強い縮れがほとんど復元されていなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る強撚糸の製造方法(1)の処理工程を示したフローチャートである。
【図2】実施の形態に係る強撚糸の製造方法(2)の処理工程を示したフローチャートである。
【図3】実施の形態に係るカーペットの製造方法(1)の処理工程を示したフローチャートである。
【図4】アキスミンスターカーペットの模式的断面図を示す。
【図5】カーペットの模式的平面図を示す。
【図6】テクスチャーがハードツィストに分類されるカーペットの模式的断面図を示す。
【図7】強撚糸の斜視図を示す。
【符号の説明】
1、11 パイル
1a パイル面
2 地組織

Claims (6)

  1. 2〜7メートル番手の単糸が複数本、100回/m以上で撚り合わされ、縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながら巻装する第1の工程と、
    温度が70〜90℃の範囲内、及び時間が20〜40分の範囲内の条件下で、スチーム処理を施す第2の工程とを含む第1の加工処理を施し
    縮れた状態への復元を想定した強撚糸を製造することを特徴とする強撚糸の製造方法。
  2. 2〜7メートル番手の単糸が複数本、100回/m以上で撚り合わされた強撚糸において、
    縮れた状態にある糸を真っ直ぐな状態になるまで、テンションを掛けながら巻装する第1の工程と、
    温度が70〜90℃の範囲内、及び時間が20〜40分の範囲内の条件下で、スチーム処理を施す第2の工程とを含む第1の加工処理が施され、撚りが多いにも拘らず、真っ直ぐな状態が維持されていることを特徴とする強撚糸。
  3. 請求項2記載の強撚糸であって、70〜100重量%が羊毛繊維であり、0〜30重量%が羊毛以外の繊維であり、0〜10重量%が熱融着性繊維であることを特徴とする強撚糸。
  4. 請求項1記載の強撚糸の製造方法により製造された強撚糸、若しくは請求項2又は請求項3記載の強撚糸を、使用面の形成に用いたカーペットの製造方法であって、
    前記使用面と基部との一体化を図った後、温度が50℃以上の条件下で、スチーム処理を施す第3の工程と、
    エージング処理を施す第4の工程とを含む第2の加工処理を施すことを特徴とするカーペットの製造方法。
  5. 請求項1記載の強撚糸の製造方法により製造された強撚糸、若しくは請求項2又は請求項3記載の強撚糸を、使用面の形成に用いたカーペットであって、
    前記使用面と基部との一体化を図った後、温度が50℃以上の条件下で、スチーム処理を施す第3の工程と、
    エージング処理を施す第4の工程とを含む第2の加工処理が施され、強撚糸の縮れた状態が復元されていることを特徴とするカーペット。
  6. 請求項5記載のカーペットであって、ウイルトンカーペット、アキスミンスターカーペット、及びタフテッドカーペットのうちのいずれかであることを特徴とするカーペット。
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