JP3559569B2 - インクジェット用記録液及びこれを用いるインクジェット記録方法並びにインクジェット記録装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、インクジェットプリンターに適した記録液に関し、更に記録ヘッドのオリフイスから熱エネルギーの作用により記録液を飛翔させて記録を行う記録方法にとりわけ適した記録液及び該記録液を用いるインクジェット記録方法並びにインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、記録時の騒音の発生が少なく、高集積のヘッドを使用することにより、高解像の記録画像が高速で得られるという利点を有している。
【0003】
このようなインクジェット記録方式では、インクとして各種の水溶性染料を、水、又は水と有機溶剤との混合液に溶解させたものが使用されているが、水溶性染料を用いた場合には、これらの水溶性染料は本来耐光性が劣るため、記録画像の耐光性が問題になる場合が多く、又インクが水溶性であるため、記録画像の耐水性が問題となる場合が多い。即ち、記録画像に雨、汗、或るいは飲食用の水がかかったりした場合、記録画像が滲んだり、消失したりすることがある。
【0004】
一方、ボールペン等の染料を用いた文房具においても同様の問題があり、耐光性、耐水性の問題を解決するために種々の文房具用水性顔料インクの提案がなされている。
【0005】
水性顔料インク実用化のため、分散安定性、ペン先でのインクの固化防止、ボールペンのボールの摩耗防止を検討している例として、特開昭58−80368号、同61−200182号、同61−247774号、同61−272278号、同62−568号、同62−101671号及び同62−101672号の各号公報等が開示されているが、最近では、水性顔料インクを用いたボールペンや、マーカーが商品として市販されるようになってきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の文房具用水性顔料インクを、記録ヘッドのオリフイスから記録液を飛翔させて記録を行う方式のインクジェット記録装置に使用した場合には、吐出安定性に著しい障害を起こし、印字不良を発生するという欠点があった。
【0007】
特に、熱エネルギーを付与して液滴を吐出させて記録を行うインクジェット方式においては、従来の顔料インクを使用する場合、インクにパルスを印加するとその熱により薄膜抵抗体上に堆積物ができ、インクの発泡が不完全になるために吐出の乱れや不吐出が発生したり、薄膜抵抗体上に堆積物が発生していなくても発泡が不完全で、液滴の吐出が印加パルスに応答できずに不吐出が発生する場合がある。
【0008】
つまり、インクをノズル先端から安定に吐出させるためには、インクが薄膜抵抗体上で所望の体積で発泡し、更に、所望の時間で発泡と消泡を繰り返すことができる性能をも有していなければならないが、従来の文房具用インクではそれらの性能を満足していないので、インクジェット記録装置に充填し記録を行わせると上記のような種々の不都合を生ずる。
【0009】
本発明の目的は、前記した従来技術の問題点を解消し、印字物の堅牢性に優れることは勿論のこと、駆動条件の変動や長時間の使用でも常に安定した吐出を行うことが可能で、長期保存安定性に優れたインクジェット用記録液を提供することにある。
【0010】
更に本発明は、上記特定のインクジェット用記録液を用いた、特定のインクジェット記録方法並びにインクジェット記録装置の提供をもその目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明により、水性液媒体中にフッ素化処理したカーボンブラックを含んでいることを特徴とするインクジェット用記録液及びこれを用いるインクジェット記録方法並びにインクジェット記録装置が提供される。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の記録液は顔料分散液を含有するものであるが、インクジェット記録方式において、実用的に要求される熱安定性を具備している。
【0013】
即ち、インクジェット記録装置は50μm以下の吐出口からインクを吐出させるものであり、顔料インクのような分散系を用いる場合、その粘性、分散体の粒子径は吐出特性に大きな影響を与える。
【0014】
本発明者らは、カーボンブラックを使用した水性顔料インクにおいて、インクの分散安定性を高める方法を鋭意検討して、カーボンブラックの濡れ性が、分散安定性に影響を及ぼしていることを見出し、カーボンブラックをフッ素化処理した顔料を用いてインクを調製すると、室温及び60℃で3か月保存後も、経時変化は全く生じないことを確認することができた。
【0015】
カーボンブラックをフッ素化処理すると、分散安定性が良好となる理由は定かではないが、推測によれば、カーボンブラックの表面の比較的ゆるく炭素に結合するフッ素化合物が、濡れ性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0016】
本発明の記録液に含有されるカーボンブラックは、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.4000B、No.40、No.45、No.52、CF9、No.10B(三菱化成製)、Regal 660R、Reagal 330R(キャボット製)、PRINTEX35(デグッサ製)等の市販品、更には本目的のために新たに製造されたものが使用可能である。本発明で使用するカーボンブラックの量は、重量比で3〜20重量%で用いることが好ましい。
【0017】
本発明の記録液には、分散剤として顔料分散に用いられる水溶性樹脂を使用してもよい。水溶性樹脂としては、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、或るいは、これらの塩等が挙げられる。
【0018】
分散樹脂の重量平均分子量の測定方法としては、種々の方法が挙げられるが、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)等で測定するのが一般的である。尚、前記水溶性樹脂は、記録液全重量に対して、5重量%以下の範囲で含有される事が好ましい。
【0019】
又、一般にインクジェット用記録液に要求される性能としては、前記したインクの粘度、表面張力、pH等の物性が挙げられるが、水性顔料インクのような分散系では、これらの物性を満足していても、とりわけ、熱エネルギーを付与して液滴を吐出させて記録を行うインクジェット方式においては、インクの発泡が不安定となる場合がある。
【0020】
本発明者らは水性顔料インクで熱的に安定で、更に、最適な発泡が可能なインクの性能を鋭意研究した結果、好ましくは記録液においてカーボンブラックと水溶性樹脂の比率が3:1以下の範囲であると抵抗体上においてインクがどのような駆動条件でも正確に発泡し、更には、長期に亘っても薄膜抵抗体上に堆積物を発生しないことを見出した。
【0021】
すなわち、カーボンブラックに対して多量に余剰の水溶性樹脂がインク中に存在すると、薄膜抵抗体上において所定の熱エネルギーを与えても、インクが発泡しなかったり、パルス印加時の熱によってこれらの余剰の水溶性樹脂が不溶物となり薄膜抵抗体上に堆積してしまい、不吐出や印字の乱れを引き起す原因となっていた。
【0022】
更に、本発明の記録液は、好ましくは、記録液全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが、前記水溶性樹脂の溶解性を向上させ、一層の長期保存性に優れた記録液とすることができるので望ましい。
【0023】
本発明の記録液において好適な水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒であり、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0024】
水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等の有機アミン類;メチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0025】
吐出の安定性を得るためにはエタノール、或るいは、イソプロピルアルコールを3%以上添加することが効果的であることを見出した。これはエタノール、イソプロピルアルコール溶剤を添加することによって記録液の薄膜抵抗体上での発泡をより安定に行うことができるからと考えられる。しかし、エタノール、イソプロピルアルコール溶剤を過剰に加えると印字物の印字品位が損なわれるという欠点が生じるため、エタノール、イソプロピルアルコール溶剤の適切な濃度は3〜10%であることが判った。更にエタノール、イソプロピルアルコール溶剤の効果として、分散液にこれら溶剤を添加することにより、分散時における泡の発生を押え、効率的な分散が行えることが挙げられる。
【0026】
本発明の記録液中の上記水溶性有機溶剤の含有量は、一般には記録液全重量の13〜50重量%の範囲であり、又、使用する水は記録液全重量の10〜90重量%の範囲である。
【0027】
又、本発明の記録液は、上記の成分の他に必要に応じて所望の物性値を持つ記録液とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を添加することができ、更に、市販の水溶性染料等を添加することも可能である。
【0028】
本発明に使用される界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類等の非イオン性界面活性剤があり、これらの1種又は2種以上を適宜選択して使用できる。その使用量は分散剤により異なるが、インク全量に対して0.01〜5重量%の範囲が望ましい。
【0029】
この際、記録液の表面張力が30dyne/cm以上になるように、活性剤の添加量を決定する事が好ましい。何故なら、記録液の表面張力がこれより小さい値を示す事は、本発明のような記録方式においてはノズル先端の濡れによる印字よれ等好ましくない事態を引き起ことになるからである。
【0030】
上記のように、本発明の記録液の調製方法としては、前記のカーボンブラックの分散液に前記した水溶性溶剤や、水等を添加して記録液とする。又、この分散液中に必要に応じて水溶性溶剤、消泡剤等を添加してもよく、分散液そのものを記録液としてもよい。更に、必要に応じて遠心分離処理を行ってもよい。
【0031】
本発明に使用する分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル等が挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル、コボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0032】
本発明において、所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、分散機の粉砕メデイアのサイズを小さくする、粉砕メデイアの充填率を大きくする、又、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルターや遠心分離機分等で分級する、等々の手法が用いられるが、これらの手法を組合せてもよい。
【0033】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこれらのみに限定されるものではない。尚、文中の部及び%の表示は、特に指定のない限り重量基準を意味する。
【0034】
実施例1
(顔料分散液の調製)
スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体 1部
(酸価174、平均分子量18000)
モノエタノールアミン 0.5部
イオン交換水 78.5部
エチレングリコール 5部
上記成分を混合し、ウオーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この際、溶解させる樹脂の濃度が低いと完全に溶解しないことがあるため樹脂を溶解する際は高濃度溶液を予め作成しておき、希釈して所望の樹脂溶液を調製してもよい。この溶液に、室温でF2 により500mmHgにおいて60分間フッ素化処理したカーボンブラック(MCF−88,三菱化成製)10部、エタノール5部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
【0035】
分散機 サンドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メデイア ジルコニウムビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率 50%(体積)
粉砕時間 3時間
更に遠心分離処理(12000RPM,20分間)を行ない、粗大粒子を除去して分散液とした。
【0036】
(インクAの調製)
上記分散液 50部
グリセリン 8部
エチレングリコール 10部
エタノール 4部
イオン交換水、pH調整剤 IN−HCl 28部
分散液、グリセリン、エチレングリコール、エタノール、イオン交換水(15部)混合し、IN−HClでpHを7〜9に調整後、イオン交換水を加え、全量を100部とした。上記成分を混合し、1時間撹拌し、pH7.3のインクAを得た。
【0037】
実施例2
(顔料分散液の調製)
エチレングリコール 5部
エタノール 5部
イオン交換水 80部
上記の成分を混合し、この溶液に室温でF2により500mmHgにおいて60分間フッ素化処理したカーボンブラック10部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
【0038】
分散機 サンドグラインダー:(株)アイメックス製
粉砕メデイア ジルコニウムビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率 50%(体積)
粉砕時間 3時間
更に遠心分離処理(12000RPM,20分間)を行い、粗大粒子を除去して分散液とした。
【0039】
(インクBの調製)
上記分散液 50部
グリセリン 8部
エチレングリコール 10部
エタノール 4部
イオン交換水、pH調整剤 IN−HCl 28部
分散液、グリセリン、エチレングリコール、エタノール、イオン交換水(15部)を混合し、イオン交換水を加え全量を100部とした。上記成分を混合し、1時間撹拌し、インクBを得た。
【0040】
実施例3
(顔料分散液の調製)
アクリル酸−アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体 5部
(酸価80、平均分子量6700)
モノエタノールアミン 2部
イオン交換水 68部
エチレングリコール 5部
上記成分を混合し、ウオーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に、室温でF2 により500mmHgにおいて60分間フッ素化処理したカーボンブラック(#45,三菱化成製)15部、エタノール5部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
【0041】
分散機 サンドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メデイア ガラスビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率 60%(体積)
粉砕時間 3時間
更に遠心分離処理(20000RPM,20分間)を行い、粗大粒子を除去して分散液とした。
【0042】
(インクCの調製)
上記分散液 40部
チオジグリコール 10部
エチレングリコール 10部
エタノール 4部
イオン交換水、pH調整剤 36部
分散液、チオジグリコール、エチレングリコール、エタノール、イオン交換水15部を加え、INの酢酸リチウムでpHを7〜9に調整後、イオン交換水を加え、全量を100部とした。上記成分を混合し、1時間撹拌し、pH8.3のインクCを得た。
【0046】
(駆動条件と吐出安定性試験: T1)
駆動条件を25V,30Vに設定し、各々の電圧で周波数2kHz,4kHzの2種の条件により、室温で印字を行い、印字の乱れ、欠け、不吐出等の有無を観察し、吐出安定性を評価した。
【0047】
A:一文字目から綺麗に吐出し、連続印字中に印字の乱れ、欠け、不吐出が全くないもの
B:文字部分は綺麗に吐出するが、べた印字の部分で数カ所の不吐出が発生するもの
C:文字部分においても、数文字印字させると不吐出が発生し、文字の判読が不可能な程印字の乱れを生ずるもの。
【0048】
(インクの保存試験:T2)
各インクを60℃で4週間保存した後、粘度と保存瓶の底に付着した沈殿物の量を目視にて観察した。
【0049】
A:沈殿物が見られないもの
B:瓶の底にわずかに沈殿物が見られるが、実用的には問題がないもの
C:沈殿物が著しく発生しているもの
以上による評価結果を、下記の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【発明の効果】
上記のように、本発明のインクジェット用記録液及びこれを用いるインクジェット記録方法並びにインクジェット記録装置は、印字物の堅牢性に優れることは勿論のこと、長期保存安定性に優れる記録液を用いるので、駆動条件の変動や長時間の使用でも常に安定した吐出を行うことが可能となるという効果を奏する。
Claims (5)
- 水性液媒体中にフッ素化処理したカーボンブラックを分散状態で含んでいることを特徴とするインクジェット用記録液。
- フッ素化処理したカーボンブラックが、F2中に放置されたカーボンブラックである請求項1に記載のインクジェット用記録液。
- インクジェット記録方法において、エネルギー発生素子が、電気エネルギーを与えることによって発熱し、記録用インクに状態変化を生ぜしめて吐出を行わせるための電気熱変換体であって、且つ、該インクが、請求項1又は2に記載のインクジェット用記録液であることを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項1又は2に記載のインクジェット用記録液とそれを吐出させる記録ヘッドとを備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
- 記録ヘッドが、インクジェット用記録液に熱エネルギーを付与して該記録液を液滴として吐出させるものである請求項4に記載のインクジェット記録装置。
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