JP3557149B2 - 鋳込みタイミング決定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば義歯のような歯科用や装身具等の小型部品を鋳造する鋳造装置において、融解された金属を鋳型に鋳込むタイミングを決定する鋳込みタイミング決定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳造では、融解する金属ごとに鋳込むための適正なタイミングが存在する。適正な鋳込みタイミングよりも速いタイミングで鋳込むと、融解している金属の粘度が高くなり、鋳型の隅々まで融解金属が行き渡らず、精密な鋳造品を製造できない。逆に、適正なタイミングよりも遅いタイミングで鋳込むと、鋳込み温度が高くなりすぎ、金属自体の蒸発や酸化、組成の変質が生じる上に、鋳型に鋳込まれた時点で、金属が鋳型に焼き付くことがある。そのため、鋳込みタイミングの誤差が鋳造品の品質に大きく影響する。
【0003】
従来、鋳込みタイミングの把握は、長年の経験を持った熟練者が、融解している金属を目視で観察して、金属の微妙な振動や、変形、金属の輝き、色等から、金属全体が適切な粘度に低下したと判断し、鋳込みタイミングとして決定している。
【0004】
適正な鋳込みタイミングは、金属の表面温度と相関関係があるので、赤外線放射温度計を用い、金属の表面温度を測定することによって鋳込みタイミングを自動的に検出することが従来から提案されている。しかし、赤外線の放射率が金属によって異なることと、融解中にも時々刻々と金属の表面状態が変化することによって赤外線放射率の変化がある。更に、融解して粘度が低下し始めた時点から、金属の表面膜(酸化膜等)が部分的に散在、浮遊、移動するので、金属表面の赤外線放射率が不規則に変化する。また、金属によっては、蒸発やガスの発生があって、赤外線を吸収、減衰することもある。そのため、正確で安定した表面温度の検出はかなり困難である。
【0005】
さらに鋳造時には必ずしも新品の金属を使用せずに、鋳造品の不要部分を切り落とした金属を再利用することがある。その場合、金属表面の酸化膜が分厚くなっているので、更に金属温度の真の値を検出することが難しくなる。その他、赤外線放射温度計は、金属表面の微少な一点の温度のみを測定しているので、金属全体の温度を把握することができない。即ち、金属全体が完全に適正な鋳込み温度に達して、適正な粘度に低下しているか否かの判断は困難である。以上の理由から、赤外線放射温度計を使用する方法は、検出した温度の誤差が大きくなって、鋳込みタイミングが不正確となることがあるので、様々な種類の金属や融解条件への対応が困難である。
【0006】
この他に、金属が融解、液化したときに、外形が固体のときと比較して変化することを利用して、鋳込みの最適タイミングを検出しようとする方法も考えられる。しかし、或る種の金属や再利用金属では、金属表面の酸化膜が厚くまたは硬くて、金属内部では充分に融解、液化しているにもかかわらず、外形の変化がごくわずかで、鋳込み最適タイミングを検出することが困難な場合もある。そのため、金属を過熱させ沸騰させることになり、鋳造不良を発生することになる。更に、複数個の小さな金属塊を鋳造用容器に投入して、融解した場合には、それぞれの金属塊が別々に融解、液化するために、単なる形状変化だけを検出する方法では、全体が均等に融解、液化したタイミングを検出、判断することが困難である。このように様々な融解条件に対して信頼性を高く鋳込みタイミングを決定することは非常に困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、適切な鋳込みタイミングを検出することができる鋳込みタイミング検出装置を提供することを目的とし、既に特願平10−29180号として出願した発明を更に改善したものを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明による鋳込みタイミング検定装置の一態様は、内部に金属材料が収容される鋳造用容器を有し、この鋳造用容器を高周波信号によって加熱手段が高周波誘導加熱する。前記鋳造用容器内の金属材料が発する光を受光し、受光器が受光信号を生成する。前記受光信号の急変に基づく周波数成分を周波数成分抽出手段が抽出する。
【0009】
高周波誘導加熱の特徴として、次の4つがある。
(1)金属全体が液化した直後に、誘導加熱による電磁攪拌現象が発生し、金属の振動が発生し、受光信号が急速に立ち上がる。
(2)金属塊の周辺から加熱され、その高温部分が中心に向かって進行し、電磁攪拌開始の直前で中心部分も高温となり、全体が液化するタイミングで発光光量が急増し、受光信号のレベルが増大する。
(3)電磁攪拌開始のタイミングで金属表面膜の酸化膜が部分的に破れたり、大きく穴が開いたり等の表面状態の急変により発光光量が急変し、受光信号のレベルが増大する。
(4)その他の要因に基づく表面からの発光光量が急変し、受光信号のレベルが増大する。
融解金属の全体が液化したタイミング付近で、上記4種類の現象のいずれかが単独でまたは競合して生じる。いずれも光量の急変または金属独自の振動として、現れ、受光信号の立ち上がりが高速となる。この受光信号の急速な立ち上がりを周波数成分抽出手段によって取り出すことによって、鋳込みタイミングを決定することができる。
【0010】
鋳込み指令信号発生器は、前記周波数成分抽出手段の出力信号が基準信号以上に予め定めた時間継続したときに前記鋳込み指令信号を発生するように構成されている。金属の温度が低い融解前の加熱中に金属塊が鋳造用容器内で何らかの原因によって移動、落下、転倒等が生じると、金属が融解したときと同様の振動またはレベルの急増が受光信号に一瞬生じる。これを誤って検出すると、正確な鋳込みタイミングを決定することができない。そこで、振動またはレベルの急増に基づく受光信号の変化が予め定めた時間にわたって生じたときを鋳込みタイミングとしている。
【0011】
更に、前記鋳込み指令信号発生器は、前記周波数成分抽出手段の出力信号が前記基準信号以上である期間に限り、出力信号を発生する比較器を含む。この場合、前記加熱手段は、前記比較器の出力信号が発生しているとき、低周波信号による振幅変調を前記高周波信号にかけ、前記周波数成分抽出手段は、前記低周波信号の周波数を抽出する。或いは、前記加熱手段は、低周波信号による振幅変調を常に前記高周波信号にかけ、前記比較器の出力信号が発生しているとき、前記低周波信号による振幅変調の割合を増加させる。当初の低周波信号による変調は、その変調割合が小さく、周波数成分抽出手段によって検出されない。
【0012】
このように構成した場合、受光信号のレベルの急変が生じると、いままで印加されていなかった低周波信号による高周波信号の変調が開始されるか、いままで行われていた低周波信号による変調の割合が増加させられる。もし、金属の移動、落下、転倒等による一瞬の受光信号の急変では、まだ金属は充分に融解されてなく、新たに低周波信号による変調をかけても、或いは低周波信号による変調の割合を増加させても、受光信号の急変は一瞬生じるだけであるので、鋳込み指令信号は出力されない。しかし、金属が充分に融解されているならば、低周波信号による変調をかけた場合、或いは低周波信号による変調割合を増加させた場合、振幅変調及び電磁攪拌によって金属が連続的に振動を続け、受光信号のレベルの急変が継続する。従って、比較器の出力信号の発生が継続し、鋳込み指令信号が発生し、より確実に鋳込みタイミングを決定することができる。
【0013】
前記の鋳込みタイミング決定装置において、自動モードにおいて、前記比較器の出力信号が設定時間にわたって継続したとき、前記鋳込み指令信号を発生するタイマと、手動モードにおいて測定された前記比較器の出力信号の発生時から手動鋳込み指令信号の発生時までの計時値を、前記設定時間として前記タイマに設定するタイマ設定部とを、具備するものとできる。
【0014】
周波数成分抽出手段の出力信号が基準信号以上である状態をどの程度維持したら鋳込みタイミングに達したと判断するかを決める設定時間をどのように決定するかは、かなり経験に基づくものである。そこで、手動モードにおいて、周波数成分抽出手段の出力信号が基準信号以上である状態になったときから、計時を開始し、鋳込みタイミングに達したと経験豊かな作業員が判断したときに、手動鋳込み指令信号を発生し、計時を中止させる。この間の時間を設定時間としてタイマに設定する。これによって、自動モードとしたとき、経験豊かな作業員が決定した設定時間を用いて、鋳込みタイミングを決定できる。
【0015】
本発明による一態様の鋳込みタイミング決定装置は、前記受光信号の変化率が最大または最小である時点の前記受光信号を基準信号として保持する基準信号保持手段を、具備するものとできる。金属の融解温度の高低、金属量の大小や形状、金属から出るガス、鋳造用容器の汚れ、鋳造用容器内への金属の置き方等によって、融解金属の発光光量及び受光光量が増減し、これらに起因して受光信号のレベル変動が生じる。そこで、基準信号もこのレベル変動に応じて変化させる必要がある。一般に金属の温度上昇は加熱開始直後には比較的急速に上昇し、融解、液化開始前には上昇率が低下し、液化開始の時点から全体が液化するまでは殆ど温度上昇が停止する。従って、受光器の受光信号も温度上昇と同様な傾向を持ち、そのレベルは上述した各変動要因に対応している。従って、受光信号のレベルの変動率が最大になった時点(加熱開始直後の時点)または変化率が最小になった時点(液化開始の時点)の受光信号を基準信号として保持している。上述したような変動要因があっても、基準信号が変動要因に対応して変化しているので、鋳込みタイミングの精度劣化を防止できる。
【0016】
前記鋳込み指令信号の発生に応動して、前記加熱手段が、前記振幅変調を停止することもできる。鋳込みタイミング信号は、例えば鋳造用容器から融解金属を鋳込ませる機構部の駆動信号として使用することがある。この機構部を駆動する前に、融解、液化した金属の温度と粘度が全体的により確実に同一の状態に行き渡るようにするための時間が係留時間として設定され、この係留時間の経過後に実際の鋳込みが行われる。この係留時間の間、低周波信号による変調を停止して、鋳造用容器内の融解金属を安定、静止させて、鋳込み時の金属の流れる形状を安定化させている。
【0017】
なお、上述したような鋳込みタイミング決定装置が鋳込み指令信号を発生したのに応動して、鋳造用容器から鋳型に融解金属を鋳込ませる鋳込み指令部を設けることによって鋳造装置を構成することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の第1実施形態の鋳込みタイミング決定装置は、図1に示すように、例えば義歯等の小型部品の鋳造装置に実施されている。
【0019】
この鋳造装置は、チャンバー2を有し、チャンバー2の上部に鋳造用容器、例えば坩堝4が配置されている。坩堝4の下方に鋳型6が配置されている。坩堝4は、縦方向に2分割されたものを合わせたもので、内部に収容された金属8が融解されたとき、坩堝4の下方が両側に開いて、融解された金属8が鋳型6に鋳込まれる。この坩堝4の構成及び坩堝4の解放機構は公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0020】
坩堝4は、加熱手段によって高周波誘導加熱される。この加熱手段は、坩堝4の外周面に配置された高周波誘導加熱コイル10を有している。このコイル10は、共振用コンデンサ12と並列に接続され、タンク回路13を形成している。このタンク回路13は、整合用変圧器14の二次側に接続されている。整合用変圧器14の一次側は、サイリスタ、IGBT、電力用FETまたは電力用バイポーラトランジスタなどの半導体スイッチング素子を含む高周波誘導加熱用のインバータ16の出力側に接続されている。
【0021】
インバータ16の入力側は、サイリスタ、IGBT、電力用FETまたは電力用バイポーラトランジスタなどの半導体スイッチング素子を含む直流出力電圧制御型整流回路18の出力側に接続されている。整流回路18の入力側は、商用交流電源20に接続されている。
【0022】
整流回路18には、整流回路制御回路22が付設され、この制御回路22は、定電圧制御用基準信号を有し、かつインバータ16の出力電圧を検出し、この出力電圧が定電圧制御用基準信号に対応する定電圧となるように整流回路18の半導体スイッチング素子をフィードバック制御している。
【0023】
インバータ16には、インバータ制御回路26が付設されている。この制御回路26は、インバータ16の出力電圧と出力電流の位相とを検出し、タンク回路13の共振周波数にインバータ16の出力周波数が整合するようにインバータ16のスイッチング素子のスイッチング周波数を追尾制御している。
【0024】
インバータ制御回路26には、低周波発振回路24の出力信号を可変利得増幅器25で増幅した低周波信号iが供給されている。この低周波信号の周波数は、約10Hzである。この低周波信号としては、正弦波、矩形波またはこれらの合成波等の各種波形の信号を使用することができる。低周波信号は、金属8の機械的な慣性から余り高周波にすると、後述する融解時の融解金属の形状変化による振動が少なくなり、融解の検出が困難になる。変調波形、大きさ及び周波数の選定は、金属8の種類、重量、形状及び坩堝4の形状などの各種条件によって最適な状態が存在するが、できるだけ幅広い種類の金属に対して有効な状態に設定される必要がある。従って、上記10Hzという低周波信号の周波数は単なる一例に過ぎない。
【0025】
インバータ制御回路26は、インバータ16の出力電圧と出力電流の位相差を検出し、タンク回路13の共振周波数にインバータの出力周波数を整合させて、常にタンク回路13の共振電流が最高となるようにしている。ここで、低周波の変調信号によって出力電圧と電流との間に強制的に位相差をわずかに発生させている。位相差があると、タンク回路13の共振周波数と、インバータ16の出力周波数とが僅かに不整合となり、タンク回路13の共振電流が減少する。この不整合と整合の状態が変調信号によって周期的に作られるので、タンク回路13の共振電流の大きさが変調信号によって振幅変調される。
【0026】
なお、振幅変調によるインバータ16の出力電圧の変動が、整流回路制御回路22の定電圧制御に影響を与えないように、変調信号周期に比べて、整流回路制御回路22の定電圧制御の応答時間を充分に遅らせてある。コイル10、コンデンサ12、変圧器14、インバータ16、整流回路18、整流回路制御回路22、インバータ制御回路26、可変利得増幅器25、低周波発振回路24によって、加熱手段が構成されている。
【0027】
チャンバー2の上部には、坩堝4内の金属8が融解されて発生する光を透過させる覗き窓28が、取り付けられている。この覗き窓28を透過した融解金属の発生する光を受光する受光器30が設けられている。受光器30には、例えば赤外線フォトダイオードまたは焦電型センサーが使用できる。
【0028】
坩堝4内の金属8が加熱されるに従って金属8の温度が上昇し、この温度上昇にほぼ比例して、金属8の発光光量が増加し始める。この光量増加を受光器30が受光信号aとして出力し、負荷抵抗器32の両端間に電圧として出力される。この電圧が周波数成分抽出手段、例えばフィルタ手段、より詳しくは低域遮断(ハイパスフィルタ)34に入力される。この低域遮断フィルタ34は、低周波発振回路24が発生する低周波信号の周波数以上の周波数成分を通過させ、これよりも低い周波数成分を遮断するように構成されている。更に、ノイズ混入による誤動作を防止するため、低周波発振回路24の低周波信号の周波数のみを通過させるバンドパスフィルタを使用することもある。
【0029】
図2(a)に金属8の融解開始からの受光器30の受光信号aのレベル変化を示す。加熱期間t1では加熱開始直後、金属8の温度上昇が少なく、受光信号aは殆ど変化しない。やがて、加熱が進むと、金属8の温度上昇が急速となり、赤熱し始める。金属8が融解直前期間t2に入ると、次第に温度上昇が緩やかになって、受光信号aの上昇変化も緩やかになる。更に進むと、温度上昇は非常に僅かとなり、融解期間t3に入る。融解期間t3では、金属8の融解、液化が開始され、金属8の周辺から液化が始まる。この間には温度上昇が殆どないため、受光信号aも変化しない。全体が液化した後、更に加熱すると、沸騰が始まり、図2(a)に点線で示すように受光信号aは急速に上昇する。
【0030】
図2(a)における加熱期間t1及び融解直前期間t2では、充分に融解が行われていないので、低周波信号による変調の影響は、受光信号aには殆ど現れてなく、受光信号aの変化は、低域遮断フィルタ34の遮断周波数よりも充分に低い周波数成分であるので、低域遮断フィルタ34の出力信号bには、図2(b)に示すように殆ど信号として現れない。
【0031】
融解期間t3に入って金属8が次第に変化し、ほぼ全体が液化し終わった時点で、金属8は、電磁攪拌による振動の急増、表面酸化膜の破壊、発光光量の急増等により、受光器30の受光信号aが急激な変化を発生し、受光信号aの高域周波数成分が受光信号aに現れる。そのため、低域遮断フィルタ34の出力信号bには、図2(b)に示すような振動波形が発生する。この出力信号bは、全波整流回路36に入力されて、全波整流され、出力信号cを発生する。出力信号cの波形を図2(c)に示す。更に、出力信号cは、高域遮断フィルタ38、例えば平滑回路に入力され、平滑されて、出力信号dとして電圧比較器40に入力される。なお、全波整流回路36に代えて半波整流回路を使用することもできる。
【0032】
受光信号aは、基準信号生成手段を構成する微分値ピーク検出回路35とサンプルホールド回路42にそれぞれ供給されている。微分値ピーク検出回路35は、図2(a)に示す受光信号aの微分値を求めるもので、微分値ピーク検出回路35内部の微分値波形を図2(e1)に示す。この微分値波形において最初のピーク値が発生したとき、微分値ピーク検出回路35は、微分値の最大値ピークを検出し、その出力として図2(e2)に示すタイミング信号eを発生する。微分値ピーク検出回路35の発生したタイミング信号eは、サンプルホールド回路42に加えられ、サンプルホールドタイミング信号として使用される。サンプルホールド回路42は、タイミング信号が入力されると、その時点での受光信号aのレベルをサンプルホールドし、そのレベルを図2(f)に示すように基準信号fとして電圧比較器40に供給する。この基準信号fは、加熱期間t1における加熱が開始され、金属8の温度上昇率が最大になった時点の受光信号のレベルを表している。
【0033】
なお、微分値ピーク検出回路35で微分値ピークのタイミングを検出しているが、図2(e1)の微分値における微分値が最小になる時点(受光信号aの変化率が最小になる時点)、即ち、金属8の融解、液化直前のタイミングを表す信号を、サンプルホールドタイミング信号として出力してもよい。
【0034】
電圧比較器40は、高域遮断フィルタ38の出力信号dと、サンプルホールド回路42の基準信号fとを比較し、出力信号dが基準信号fのレベルを超えている期間、図2(g)に示すように比較出力信号gを出力する。
【0035】
比較出力信号gは、可変利得増幅器25に利得制御信号として供給される。可変利得増幅器25は、利得制御信号が供給されるまでは、利得を非常に小さくしており、低周波信号iのレベルは小さく、インバータ制御回路26において行われる振幅変調の割合を小さくしている。可変利得増幅器25は、利得制御信号が電圧比較器40から供給されると、その時点から利得を大きくし、低周波信号iのレベルを大きくし、インバータ制御回路26に供給する。従って、インバータ制御回路26は、振幅変調の割合が大きくなった状態で、振幅変調を行う。
【0036】
全体が液化した金属8の電磁攪拌による振動の急増、表面の酸化膜などの破れ、発光光量の急増を検出して、比較出力信号gが出力され、直ちに引き続いて大きく振幅変調が加えられる結果、金属8の振動が連続して発生し始める。金属8の振動が続く限り、比較出力信号gは連続して出力される。
【0037】
一方、金属8の液化が全体的に進んでなく、単に金属塊が鋳造用用容器4内で瞬間的に移動したり、落下したり、転倒したりした場合には、比較出力信号gが瞬間的に出力され、大きな振幅変調が加えられるが、金属8全体の融解が進んでいないので、引き続いて金属8の振動が発生せず、振動がとぎれる。その結果、比較出力信号gが消失し、振幅変調の割合が低下し、再び加熱だけが、継続される。
【0038】
比較出力信号gは、タイマ回路43にも供給されている。タイマ回路43は、比較出力信号gが予め定めた設定時間にわたって供給されたとき、タイマ出力信号hを鋳込みタイミング信号として出力し、坩堝操作機構44が駆動される。従って、上述したように、瞬間的に比較出力信号gが発生した場合には、鋳込みタイミング信号は発生しないが、金属の液化が全体に進んでおり、比較出力信号gが設定時間を超えて継続して発生した場合には、鋳込みタイミング信号を発生する。
【0039】
坩堝操作機構44では、鋳込みタイミング信号を受けると、直ちに鋳型6に融解金属を鋳込まずに、1乃至3秒間程度は、係留と呼ばれる時間をおく。これは金属全体が液化し、充分に金属温度と粘度が全体的に同一になるようにするためである。この係留時間の経過後に坩堝4から鋳型6に融解金属が鋳込まれる。従って、この係留時間中には、次の鋳込みにおいて金属の流れ状態を安定化するために、インバータ制御回路26による振幅変調を中止している。例えば、図示していないが、鋳込みタイミング信号を利得可変増幅器25に供給し、その利得を零の状態とする。
【0040】
タイマ回路43の設定時間は、実験の結果、金属の融点温度が高いほど長く、低くなるほど短くなる傾向があることが分かっている。従って、自動鋳造運転に先立って、融解しようとする金属の融点温度とタイマ設定時間との関係に基づいてタイマ時間を設定する。
【0041】
更に、各金属の独自の融解特性から、更に微妙なタイマ時間設定が必要な場合には予め決められているタイマ時間を加減して、調整、設定することで更にきめの細かい鋳造が可能となる。
【0042】
微分値ピーク検出器35、サンプルホールド回路42、全波整流回路36、高域遮断フィルタ38、電圧比較器40及びタイマ回路43が鋳込み指令信号発生器を構成している。
【0043】
第1の実施の形態では、当初から低周波信号による振幅変調を行ったが、比較出力信号gが発生するまで可変利得増幅器25の利得を零としておいて、振幅変調をかけず、比較出力信号gが発生した時点で、可変利得増幅器25の利得を大きくして、低周波信号による変調をかけるようにしてもよい。
【0044】
第2の実施の形態の鋳込みタイミング決定装置を実施した鋳造装置は、図1の鋳造装置とほぼ同一の内容であるが、第1の実施の形態の鋳込みタイミング決定装置を利用して、熟練した作業員、例えば技工士が手動で坩堝操作信号をスイッチ入力して鋳込んだ場合に、自動的に本発明による鋳込みタイミング決定装置が検出した電磁攪拌による振動、金属の発光光量の急変等のタイミングとの時間差を検出記憶し、それを自動的にタイマ回路42のタイマ時間に変換、記憶、設定し、以後は技工士の鋳込み操作を自動的に再現するものである。
【0045】
以下、図3を参照して第2の実施の形態について説明する。図3の鋳造装置では、第1の実施の形態の鋳造装置に自動鋳込みスイッチ46とタイマ時間計測記憶回路48及びモード切替スイッチ50を追加してある。第1の実施の形態の構成要素と同様部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0046】
先ず、手動鋳込みモードにモード切換スイッチ50を切り換える。即ち、モード切換スイッチ50の接点を手動鋳込みスイッチ46の出力信号j側に切り換える。手動鋳込みスイッチ46は、熟練の技工士が融解している金属を目視で観察して鋳込みタイミングを決定し、手動で鋳込みスイッチ46を操作して鋳込む場合に操作するスイッチである。手動鋳込みスイッチ46の出力信号jは、モード切換スイッチ50を介して坩堝操作機構44に供給され、坩堝操作機構44が駆動されて、融解、液化金属が鋳型6に鋳込まれる。このとき、同時に、手動鋳込みスイッチ46の出力信号jはタイマ時間計測記憶回路48に供給されている。タイマ時間計測記憶回路48は、これに電圧比較器40の出力信号gが供給されたとき、計時を開始している。即ち、金属全体が液化した金属が電磁攪拌による振動の急増、表面酸化膜の破壊、発光光量の急増が生じたときに、タイマ時間計測記憶回路48による計時が開始され、手動鋳込みスイッチ46の出力信号がタイマ時間計測記憶回路48に供給されたとき、即ち、技工士が最適の鋳込みタイミングと判断したとき、計時が中止され、計時開始時から計時中止時までの時間が記憶される。
【0047】
モード切換スイッチ50を自動モードに切り換えたとき、即ちモード切換スイッチ50の接点をタイマ42の出力側に切り換えられたとき、タイマ時間計測記憶回路48に記憶されていた計時値が、設定値としてタイマ42に設定される。これによって、自動モードに設定した後には、熟練の技工士が操作した鋳込み操作を自動的に再現することができる。なお、タイマ時間計測記憶回路48が計時を中止したとき、直ちにタイマ42に計時値を設定してもよい。
【0048】
上記の両実施の形態では、受光器としてフォトダイオードや焦電センサを使用したが、受光器としてはCCD等の画像センサを使用して、融解されている金属の光量を検出して、受光信号を生成してもよい。これに並行して実際に融解している金属の状態を画像検出して、操作者にビデオ画像を出力することや、コンピュータによって画像処理した画像表示を出力することで、より高精度で、操作しやすい装置とすることも考えられる。上記の実施の形態では、アナログ信号処理回路を主として説明したが、コンピュータを利用し、受光器30の出力信号をディジタル値に変換し、微分値ピーク検出回路35、サンプルホールド回路42、低域遮断フィルタ34、全波整流回路36、高域遮断フィルタ、電圧比較器40、タイマ42、坩堝操作部44等をディジタル化することもできる。
【0049】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、電磁攪拌の発生や、金属表情対の発光光量の急変や金属表面膜の一部破壊による発光光量の急変等に基づく受光信号の急速な変化を検出するようにしているので、最適な鋳込みタイミングを決定することができる。さらに、受光信号の急速な変化が所定時間継続したときを鋳込みタイミングと決定しているので、鋳造容器内での金属の移動等による瞬間的な受光信号の急変を誤って鋳込みタイミングと決定することはない。特に、瞬間的な受光信号の急変が生じた後、低周波信号による振幅変調をかけるか、或いは今までよりも振幅変調の割合を増加させているので、瞬間的な受光信号の急変でない場合には、より大きなレベルで受光信号の変化が生じ、より正確に鋳込みタイミングを決定することができる。また、受光信号が急変している時間がどの程度続くと鋳込みタイミングであるか決定するための設定時間を、手動モードにおいて熟練した作業者が作業しているときの設定時間に相当する時間を測定し、これをタイマに設定するように構成しているので、熟練した作業者の作業を再現することができる。また、実際に金属の融解を行っている状態における受光信号の変化率が最大または最小の時点の受光信号を、受光信号が急変したと判断するための基準信号として使用しているので、融解される金属の種類が異なる場合や融解される金属の量や形状が異なる場合等の様々な融解条件が異なっていても、最適な基準信号を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の鋳込みタイミング決定装置を実施した鋳造装置のブロック図である。
【図2】図1の鋳造装置の各部の信号波形を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態の鋳込みタイミング決定装置を実施した鋳造装置のブロック図である。
【符号の説明】
4 坩堝(鋳造用容器)
10 高周波誘導加熱コイル(加熱手段)
16 インバータ(加熱手段)
24 低周波発振器
26 インバータ制御回路(加熱手段)
34 低域遮断フィルタ(周波数成分抽出手段)
40 電圧比較器(鋳込み指令信号発生器)
43 タイマ(鋳込み指令信号発生器)

Claims (6)

  1. 内部に金属材料が収容される鋳造用容器と、
    前記鋳造用容器を高周波信号によって高周波誘導加熱する加熱手段と、
    前記鋳造用容器内の金属材料が発する光を受光し、受光信号を生成する受光器と、
    前記受光信号の急変に基づく周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段と、
    この周波数成分抽出手段の出力信号が基準信号以上に予め定めた時間継続したときに鋳込み指令信号を発生する鋳込み指令信号発生器とを、
    具備し、前記鋳込み指令信号発生器は、前記周波数成分抽出手段の出力信号が前記基準信号以上である期間に限り、出力信号を発生する比較器を、含み、
    前記加熱手段は、前記比較器の出力信号が発生しているとき、低周波信号による振幅変調を前記高周波信号にかけ、
    前記周波数成分抽出手段は、前記低周波信号の周波数を抽出する
    鋳込みタイミング決定装置。
  2. 内部に金属材料が収容される鋳造用容器と、
    前記鋳造用容器を高周波信号によって高周波誘導加熱する加熱手段と、
    前記鋳造用容器内の金属材料が発する光を受光し、受光信号を生成する受光器と、
    前記受光信号の急変に基づく周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段と、
    この周波数成分抽出手段の出力信号が基準信号以上に予め定めた時間継続したときに鋳込み指令信号を発生する鋳込み指令信号発生器とを、
    具備し、前記鋳込み指令信号発生器は、前記周波数成分抽出手段の出力信号が前記基準信号以上である期間に限り、出力信号を発生する比較器を、含み、
    前記加熱手段は、低周波信号による振幅変調を前記高周波信号にかけており、前記比較器の出力信号が発生しているとき、前記低周波信号による振幅変調の割合を増加させ、
    前記周波数成分抽出手段は、前記低周波信号の周波数を抽出する
    鋳込みタイミング決定装置。
  3. 請求項1または2記載の鋳込みタイミング決定装置において、
    自動モードにおいて、前記比較器の出力信号が設定時間に亘って継続したとき、前記鋳込み指令信号を発生するタイマと、
    手動モードにおいて測定した前記比較器の出力信号の発生時から手動鋳込み指令信号を発生時までの計時値を、前記設定時間として前記タイマに設定するタイマ設定部とを、
    具備する鋳込みタイミング決定装置。
  4. 請求項1または2記載の鋳込みタイミング決定装置において、
    前記受光信号の変化率が最大または最小である時点の前記受光信号を基準信号として保持する基準信号保持手段を、具備する鋳込みタイミング決定装置。
  5. 請求項1または2記載の鋳込みタイミング決定装置において、
    前記鋳込み指令信号の発生に応動して、前記加熱手段が、前記振幅変調を停止する鋳込みタイミング決定装置。
  6. 請求項4記載の鋳込みタイミング決定装置において、前記基準信号保持手段は、前記受光信号の微分値のピーク値を検出する微分値ピーク検出回路が、前記微分値の最大ピーク値を検出したときに、前記受光信号を前記基準信号として保持する鋳込みタイミング決定装置。
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