JP3556618B2 - 透過型電波吸収装置と電波反射防止方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電波を透過及び吸収させることによって電波の反射を防止する反射型電波吸収装置及び電波反射防止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電波送信装置から送信される電波は、直接波として受信装置で受信されるだけでなく、例えば、コンクリート壁等の反射体で反射した反射波としても受信装置で受信される。受信装置で直接波及び反射波が受信されると、受信障害等が発生する。
そのため、電波の反射を防止する電波吸収体が開発されている。従来、広帯域型の電波吸収体と狭帯域型の電波吸収体が知られている。
広帯域型の電波吸収体は、例えば、図4に示すように、カーボンの含有量が少ない発泡スチロールと、カーボンの含有量が中くらいの発泡スチロールと、カーボンの含有量が多い発泡スチロールと導体板により構成されている図4では、カーボンの含有量が少ない発泡スチロールは、凹凸状に形成されている。図4に示す電波吸収体は、厚さdが対象電波の波長の1/2以上に設定されている。
また、狭帯域型の電波吸収体は、例えば図5(a)に示すように、ゴムフェライト等により形成された損失性の磁性体または誘電体層と導体板により構成されている。図5(a)に示す電波吸収体では、損失性誘電体層の厚さdが対象電波の波長のほぼ1/4に設定されている。あるいは、図5(b)に示すように、抵抗薄膜(抵抗値が約377Ω)と導体板により構成されている。図5(b)に示す電波吸収体では、抵抗薄膜と導体板の間(空間)の距離dが対象電波の波長のほぼ1/4に設定されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の電波吸収体は、入射波を反射及び透過させないことを基本としている。このため、反射波及び透過波が零となるように、すなわち、対象電波が電波吸収体内で全て吸収されるように誘電体層や抵抗薄膜等を形成する材料を選択する必要があり、誘電体層や抵抗薄膜等を形成する材料の選択の自由度が少ない。このため、対象電波の反射を確実に防止することができない場合もある。
本発明者らは、電波の反射を防止する方法を種々検討した結果、電波の透過を許容することにより、電波吸収体を構成する要素の材料や電波吸収体の形状等の選択の自由度が増加し、電波吸収体を容易に製作することができることを見出した。
そこで、本発明は、製作が容易な透過型電波吸収装置及び電波反射防止方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
請求項1の透過型電波吸収装置は、電波入射側となる単段の誘電体層と、その誘電体層に電波透過側となる単段のインピーダンス層で構成される透過型電波吸収体を備えている。そのため、電波は先ず誘電体層に入り、電波を吸収するとともに、インピーダンス層を介して電波の透過を許容する構成であるので、誘電体層を形成する誘電体等の選択の自由度が増加し、製作が容易となる。
又、請求項2の透過型電波吸収装置は、インピーダンス層を導体で抵抗薄膜に形成する。
請求項3の透過型電波吸収装置は、インピーダンス層をスズ、亜鉛等の導体を薄膜状に形成したものを使用する。
請求項4の透過型電波吸収装置は、誘電体層をガラス、石こうボード、コンクリート等を層状に形成したものを使用する。
請求項5に記載の透過型電波吸収装置を用いれば、例えば、透過型電波吸収体の誘電体層の比誘電率に応じてインピーダンス層のインピーダンスを決定することにより電波の入射領域への反射を確実に防止することができる。
このため、誘電体層を形成する誘電体を自由に選択することができる。また、透過型電波吸収体の誘電体層の比誘電率とインピーダンス層のインピーダンスを選択することによってインピーダンス層を透過する透過電波の電力、すなわち透過電波を少なくすることができる。
請求項6に記載の電波反射防止方法を用いれば、透過型電波吸収体で電波を吸収及び透過させることができるため、例えば、透過型電波吸収体を構成する誘電体層を形成する誘電体等の選択の自由度が増加し、製作が容易となる。
請求項7に記載の電波反射防止方法を用いれば、少ない種類の透過型電波吸収体により所望の特性を得ることができるため、コストが安くなる。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
本発明の透過型電波吸収装置で用いる透過型電波吸収体の一実施の形態の概略図を図1に示す。本実施の形態の透過型電波吸収体1は、誘電体層10とインピーダンス層20により構成されている。誘電体層10は、例えば、ガラス、石こうボード、コンクリート等の誘電体を層状に形成したものである。インピーダンス層20は、例えば、スズ、亜鉛等の抵抗体を誘電体層10に貼着あるいは塗布することによって薄膜状に形成したものである。
透過型電波吸収体1は、領域1(例えば、自由空間等)と領域3(例えば、自由空間や壁等)の間に設けられる。このとき、透過型電波吸収体1は、誘電体層10が電波入射側、インピーダンス層20が電波透過側となるように配置される。
【0006】
ここで、図1に示すようにx軸、y軸、z軸で表される3次元座標を定義し、電波の入射方向及び透過型電波吸収体1の厚さ方向をz軸方向に、透過型電波吸収体1の電波入射面をx−y平面に平行に配置する。この場合、入射波Eiは、領域1のz軸の−∞方向から誘電体層10に入射する。
領域i(i=1,2,3)の固有インピーダンスをZiとすると、Ziは(1)式により表される。
【数2】
なお、εiは領域iの誘電率、μiは領域iの透磁率、εriは自由空間に対する領域iの比誘電率、μriは自由空間に対する領域iの比透磁率、Z0は自由空間の固有インピーダンス(約377Ω)である。また、固有インピーダンスは、自由空間を平面波が伝播する時の電界と磁界の比である。
領域1は自由空間であり(Z1=Z0)、領域3は自由空間あるいはコンクリート等の壁である。簡単のために、領域2の誘電体層10が磁性体でないとすると、[μr1=μr2=μr3=1]とおくことができる。
誘電体層10の厚さをd、誘電体層10の比誘電率をεr、電波入射側の領域1の固有インピーダンスをZ0、誘電体層10(領域2)の固有インピーダンスをZm、インピーダンス層20のインピーダンスをZs、領域3の固有インピーダンスをZ3とすると、図1は、図2に示す等価回路で表すことができる。
図2に示す等価回路おいて、端子1−1より左側は入射側の領域1を表し、端子1−1と端子2−2間は誘電体層10を表し、端子2−2と端子3−3間はインピーダンス層20を表し、端子3−3より右側は透過側の領域3を表している。
【0007】
図2において、端子2−2から右側を見たインピーダンスZs3は、インピーダンス層20のインピーダンスZsと透過側の領域3の固有インピーダンスZ3により、(2)式のように表される。
【数3】
ここで、εr2=εr、Z2=Zmであるから、インピーダンス層20のインピーダンスZmは、(1)式より[Zm=(1/εr)1/2Z0]で表される。
そして、Qマッチングセクションの整合回路設計法を用いれば、(3)式を満足するように構成することにより、図2の端子1−1より左側への電波の反射を防止する(入射側の領域1への反射波Erをなくす)ことができる。すなわち、(3)式を満足するように構成することにより、誘電体層10に入射した電波のうち、誘電体層10のインピーダンス層20側の面で反射した電波は、誘電体層10の表面で反射した電波と相殺される。また、誘電体層10からインピーダンス層20に透過した電波は、一部がインピーダンス層20で吸収され、残りは領域3に透過することになる。
【数4】
ここで、λ0は領域1への反射を防止したい電波(対象電波)の自由空間における波長を示し、λmは対象電波の誘電体層内における波長を示す。
【0008】
(1)式、(2)式及び(3)式より、誘電体層10に入射した電波が領域1側へ反射するのを防止するためには、インピーダンス層20のインピーダンスZsを(4)式で定まる値に設定すればよいことがわかる。
【数5】
【0009】
(3)式及び(4)式から、誘電体層10の比誘電率εr、対象電波の周波数f0が定まると(周波数f0から波長λ0が定まる)、対象電波が領域1に反射するのを防止するための誘電体層10の厚さdとインピーダンス層20のインピーダンスZsが定まる。
ここで、(4)式から、Zsが正であるためには、[εr≧Z0/Z3]でなければならない。特に、[εr=Z0/Z3]の場合には、[Zs=∞]となってインピーダンス層20の無い電波吸収体となる。
【0010】
ところで、図2の端子2−2から右側に透過する透過波(誘電体層10を介してインピーダンス層20及び領域3に透過する電波)は、端子2−2から右側を見たインピーダンスZs3によって吸収される。ここで、インピーダンスZs3はインピーダンスZsとZ3の組み合わせであるから、領域3への透過波Etの透過電力係数Tpは(5)式で表される。なお、インピーダンス層20で吸収される電力の吸収電力係数Apは、[Ap=1−Tp]で表される。
【数6】
ここで、Ps、P3は、それぞれインピーダンスZs、Z3で消費される電力である。なお、簡略化するためにインピーダンスZ3を純抵抗とした。
【0011】
領域1と領域3が同じ空間である場合には、[Z3=Z0]である。この場合には、(4)式及び(5)式は(6)式及び(7)式のように簡略化される。
【数7】
【数8】
【0012】
領域1及び領域3を同じ空間とした場合の、誘電体層10の比誘電率εr、インピーダンス層20のインピーダンス(この場合は純抵抗)Zs、透過電力係数Tp等の関係を図3に示す。
図3から、誘電体層10の比誘電率εrが大きいほど、誘電体層10の厚さdが小さくなっていることが分かる。すなわち、誘電体層10の比誘電率εrが大きいほど、誘電体層10の厚さを薄くすることができる。
また、誘電体層10の比誘電率εrが大きいほど、インピーダンス層20のインピーダンスZsが小さくなっていることが分かる。
また、誘電体層10の比誘電率εrが大きいほど、透過電力係数Tpが小さくなっていることが分かる。すなわち、誘電体層10の比誘電率が大きいほど、領域3に透過する電波を少なくすることできる。
このように、本実施の形態の透過型電波吸収体を用いることにより、対象電波の入射側への反射を防止しながら、誘電体層の比誘電率、厚さ、透過電力係数等を任意に設定することができる。すなわち、誘電体層を形成する誘電体の選択、透過型電波吸収体の厚さの設定、透過電力係数の設定等の自由度が増加する。これにより、製作が容易となる。
【0013】
なお、透過型電波吸収体により構成される透過型電波吸収装置の厚さや透過電力係数等を任意に設定可能とするために、種々の比誘電率εrの誘電体層を有する透過型電波吸収体を用意しておくことはコストが高くなる。コストを安くするためには、透過型電波吸収体の種類を少なくすることが好ましい。
少ない種類の透過型電波吸収体によって、透過型電波吸収装置の厚さや透過電力係数等を任意に設定可能とするには、例えば、透過型電波吸収体を多段化して透過型電波吸収装置を構成する方法が考えられる。
例えば、同じ種類の透過型電波吸収体を複数段重ねる。一般に、透過電力係数がTpである透過型電波吸収体をn段に重ねた透過型電波吸収装置の透過電力係数Tpnは、(8)式により表される。
【数9】
すなわち、透過電力係数Tpの透過型電波吸収体をn段に重ねた透過型電波吸収装置の透過電力係数Tpnは、透過型電波吸収体の透過電力係数TpのdB表示でn倍となる。ただし、透過型電波吸収装置の厚さは、透過型電波吸収体の厚さのn倍となる。
例えば、比誘電率εrが[εr=10]の透過型電波吸収体を2段に重ねて透過型電波吸収装置を構成すると、透過型電波吸収装置の透過電力係数Tp2は[Tp=0.1×0.1=0.01(−20dB)]となる。
あるいは、必要最小限の種類の透過型電波吸収体を用意しておき、複数種類の透過型電波吸収体を多段に重ねて透過型電波吸収装置を構成することもできる。透過型電波吸収装置を構成する透過型電波吸収体の種類や数等は、適宜変更可能である。
【0014】
また、透過型電波吸収体を所定段数重ねて透過型電波吸収装置を構成する代わりに、誘電体層を所定段数重ねて所定周波数f0の電波の反射を防止することができる透過型電波吸収装置を構成することもできる。
例えば、n段に重ねた同じ種類の誘電体層とインピーダンス層により透過型電波吸収装置を構成する。あるいは、n段に重ねた複数種類の誘電体層とインピーダンス層により等価型電波吸収装置を構成する。インピーダンス層のインピーダンスは、電波が入射側に反射しないように設定される。なお、インピーダンス層は、電波透過側に1層だけ設けてもよいし、電波透過側と任意の誘電体層の間に設けてもよい。
この場合には、誘電体層を構成する誘電体の種類を必要最小限の数(1種類を含む)にすることができる。
透過型電波吸収装置を構成する誘電体層の種類や数、インピーダンス層の数等は、適宜変更可能である。
【0015】
本発明は、実施の形態で説明した構成に限定されることなく、種々の変更、追加、削除が可能である。
例えば、インピーダンス層として抵抗薄膜を用いた場合について説明したが、インピーダンス層は抵抗薄膜に限定されない。
磁性を有しない誘電体層について説明したが、磁性を有する誘電体層を用いることもできる。
誘電体層の損失を考慮しなかったが、誘電体層として損失性誘電体層を用いることもできる。
また、誘電体層の厚さdを、d=λ0/[4(εr)1/2]に設定したが、誘電体層の厚さdはこの値に限定されず種々変更可能である。この場合には、例えば、誘電体の誘電率やインピーダンス層のインピーダンス等を選択することによって入射側への電波の反射を防止する。
【0016】
【発明の効果】
請求項1、請求項2に記載の透過型電波吸収装置は、透過型電波吸収体の誘電体層を形成する誘電体の選択の自由度等が増加し製作が容易となる。
請求項3の透過型電波吸収装置は、インピーダンス層をスズ等の導体を薄膜状に形成したものを使用するため、容易に製作できる。
請求項4の透過型電波吸収装置は、誘電体層をガラス等を層状に形成したものを使用するので容易に製作できる。
また、請求項5に記載の透過型電波吸収装置を用いれば、入射側への電波の反射を防止しながら、厚さや透過電力係数等を任意に設定することができる。
請求項6に記載の電波反射防止方法を用いれば、透過型電波吸収体で電波を吸収及び透過させることができるため、例えば、透過型電波吸収体を構成する誘電体層を形成する誘電体等の選択の自由度が増加し、製作が容易となる。
請求項7に記載の電波反射防止方法を用いれば、少ない種類の透過型電波吸収体により所望の特性を得ることができるため、コストが安くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の透過型電波吸収装置で用いる透過型電波吸収体の一実施の形態を示す図である。
【図2】図1の等価回路を示す図である。
【図3】本発明の透過型電波吸収装置で用いる透過型電波吸収体の特性を示す図である。
【図4】従来の電波吸収体を示す図である。
【図5】従来の電波吸収体を示す図である。
【符号の説明】
1 透過型電波吸収体
10 誘電体層
20 インピーダンス層
Claims (7)
- 電波入射側となる単段の誘電体層と、その誘電体層に電波透過側となる単段のインピーダンス層で構成される透過型電波吸収体を備えることを特徴とする透過型電波吸収装置。
- 請求項1に記載のインピーダンス層は、導体で抵抗薄膜に形成してあることを特徴とする透過型電波吸収装置。
- 請求項2に記載のインピーダンス層はスズ、亜鉛等の導体を薄膜状に形成してなることを特徴とする透過型電波吸収装置。
- 請求項1又は請求項2に記載の誘電体層はガラス、石こうボード、コンクリート等を層状に形成してなる透過型電波吸収装置。
- 誘電体層と導体で抵抗薄膜に形成のインピーダンス層を備える透過型電波吸収体を、誘電体層側が電波入射側となるように配設することによって電波の反射を防止する電波反射防止方法。
- 請求項6に記載の電波反射防止方法であって、複数の透過型電波吸収体を多段に配設する電波反射防止方法。
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