JP3552761B2 - 分散補償方法および分散補償装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、伝送用の光ファイバを伝搬する光信号の波長分散により生ずる、光信号中の遅延時間を相殺することにより分散を補償する方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
文献1:「Technical Digest of OEC’94,14B1−1,1994」には、エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA’s)を用いた場合、1.54μm程度の波長領域(以下、1.55μm帯とも称する)において光信号の損失が極小となることが記載されている。そこで、既に世界中に敷設されている光ファイバを用いて、1.55μm帯の光信号を伝搬させれば、効率良く光信号を伝搬できると考えられる。ところが、既存の光ファイバは、1.3μmの波長の光信号を伝搬する際に波長分散が極小となる分散特性を具えている。このため、1.55μm帯の光信号を伝搬させると周波数分散が発生してしまう。上記文献1には、1.55μm帯において17ps/km−nmの分散が発生することが記載されている。
【0003】
そこで、文献2:「Optical Fiber Communication(OFC’94)会議録」には、波長分散を補償するために、通常の光通信路としての光ファイバの後に、通常の光ファイバの分散特性と波長に関して逆の分散特性を具えた逆分散光ファイバ(DCF)を設ける方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、分散を補償するためには、非常に長い逆分散光ファイバを設けることが必要となるという問題点があった。例えば、文献2によれば、伝送用の光ファイバの分散が17.5ps/km−nmであるのに対して、DCFの分散は−80ps/km−nmである。このため、伝送用光ファイバの長さの約0.22倍(17.5/80倍)程度の長さのDCFが必要となる。従って、数10km、あるいは数100kmに及ぶ伝送用光ファイバを伝搬する光信号の分散を補償するためには、非常に長いDCFが必要となる。
【0005】
このため、1.55μm帯に限らず、光信号の波長分散を容易に補償することができる分散補償方法および装置の実現が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願に係る第1の発明の分散補償方法によれば、TE/TMモード変換素子に直線偏光の光信号を入力し、この光信号をこの光信号の波長に応じて偏光回転させて、偏波面が波長に依存した回転率を有する光信号をこのTE/TMモード変換素子から出力させ、出力されたこの光信号を、伝搬に要する時間が回転率に依存して異なる偏波分散発生手段に入力することにより、この光信号が伝送用の光ファイバを伝送することにより生じる波長分散の分散特性と逆の分散特性を有する逆分散を生じさせ、この逆分散と波長分散の少なくとも一部分とを相殺させることにより、光信号の波長分散を補償することを特徴とする。
【0007】
また、第1の発明の分散補償方法において、好ましくは、偏波分散発生手段として、複屈折光ファイバからなる偏波保存光ファイバを用いると良い。
【0008】
また、第1の発明の分散補償方法において、好ましくは、偏波分散発生手段として、光路長が回転率によって異なる光路長差発生手段を用いる
と良い。
【0009】
また、この出願に係る第2の発明の分散補償装置によれば、直線偏光の光信号を入力し、この光信号をこの光信号の波長に応じて偏光回転させて、偏波面が波長に依存した回転率を有する光信号を出力するTE/TMモード変換素子を具え、このTE/TMモード変換素子の出力端に接続された、伝搬に要する時間が回転率によって異なる偏波分散発生手段を具えてなることを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明の分散補償装置において、好ましくは、偏波分散発生手段として、複屈折光ファイバからなる偏波保存光ファイバを具えてなると良い。
【0011】
また、第2の発明の分散補償装置において、好ましくは、偏波分散発生手段として、光路長が回転率によって異なる光路長差発生手段を具えてなると良い。
【0012】
また、この光路長差発生手段は、偏波ビームスプリッタ、反射手段、互いに光路長の異なる第1の光路および第2の光路を具え、
この偏波ビームスプリッタは、TE/TMモード変換素子から出力した光信号を互いに偏波面の直交する偏光に分離して、それぞれ第1の光路と第2の光路とに出射する構成となっており、
反射手段は、第1の光路の終点および第2の光路の終点にそれぞれ設けてあり、各光路を進んできた光をそれぞれ偏波面を90°回転させて偏波ビームスプリッタのそれぞれの出射端に入射させる構成となっていることが望ましい。
【0013】
尚、理想的には、波長分散と逆分散とを完全に相殺することが望ましいが、第1および第2の発明における分散補償には、波長分散と逆分散とを部分的に相殺して波長分散を低減する場合も含む。
【0014】
【作用】
TE/TMモード変換素子は、従来、光波長フィルタとして用いられている。光波長フィルタとして用いる場合は、TE/TMモード変換素子に直線偏光の光を入射し、TE/TMモード変換されて、入射光の偏波面と直交する偏波面となった特定波長の光のみを偏光子によって分離して取り出していた。特定波長におけるTE/TMモード変換の偏光回転率は、通常100%(偏波面の回転角度は90°)である。
【0015】
ところで、TE/TMモード変換素子においては、特定波長の光だけでなく、特定波長の直近の波長の入射光も、偏光回転の回転率がほぼ100〜ほぼ0%の範囲(偏波面の回転角は、ほぼ90°〜ほぼ0°の範囲)で偏光変換される。即ち、偏波面が波長に依存して回転する。
【0016】
そこで、この出願に係る各発明では、第1段階として、TE/TMモード変換素子の特定波長の直近の波長において、光信号を当該光信号の波長に応じて偏光回転させることにより、波長に依存した偏波面の回転率を生じた光信号を出力させる。
【0017】
次に、この特定波長の直近の波長の入射光も連続的に偏光変換される様子について、図2を参照して説明する。図2の(A)は、変換素子にTE波を入射した場合の偏光回転率の説明に供するグラフである。このグラフの横軸は波長を表し、左側の縦軸は偏光の回転率を表している。また、このグラフ中の曲線Iは、変換素子における偏光回転率を表している。曲線Iで示すように、偏光回転率は特定波長λ M において極大となっている。そして、その特定波長の直近の波長においても、偏光回転率がほぼ100〜ほぼ0%の範囲(偏波面の回転角は、ほぼ90°〜ほぼ0°の範囲)で連続的に偏光変換される。図2の(A)中にΔλで示された、この直近の波長の範囲は1〜2nm程度である。
【0018】
次に、図2の(A)のグラフ中のZで示す点線で囲まれた部分の拡大図を図2の(B)に示す。図2の(B)に示す領域は、特定波長よりも長波長側の領域である。従って、この領域においては、波長が短くなる程偏波面の回転率が大きくなる。
【0019】
ここで、この領域中の波長λ0 の光信号を変換素子に入射した場合を考える。光信号はこの波長λ0 を中心波長として、その前後に変調周波数程度の波長の幅を持っている。従って、光信号の中心波長λ0 よりも僅かに長い波長λL の光は、波長λ0 の光よりも回転率が小さくなる(即ち、回転角度が0°により近くなる)。一方、この中心波長λ0 よりも僅かに短い波長λS の光は、波長λ0 の光よりも回転率が大きくなる(即ち、回転角度が90°により近くなる)。
【0020】
このように、TE/TMモード変換素子に、中心波長λ0 の光信号を入力すると、光信号の偏波面は、波長に依存して回転し、ここでは、波長の短い領域ほど回転率が大きくなった、出力光を得ることができる。
【0021】
尚、上述した様に、光信号の中心波長λ0 が特定波長よりも僅かに長波長の場合は、波長が短い程回転率が大きくなるが、一方、光信号の中心波長が特定波長よりも僅かに短波長の場合は、逆に波長が長い程回転率が大きくなる。
【0022】
さらに、この出願に係る各発明では、第2段階として、出力された光信号を、伝搬に要する時間が回転率に依存して異なる偏波分散発生手段に入力する。光信号は、この偏波分散発生手段を伝搬することによって、偏波面の回転角度(回転率)に依存した遅延(以下、偏波分散とも称する)を生じる。光信号の回転率は周波数に依存しているので、光信号に波長分散を生じさせることができる。この出願に係る各発明では、この波長分散として、光信号が伝送用の光ファイバを伝送することにより生じる波長分散の分散特性と逆の分散特性を有する逆分散を生じさせる。
【0023】
そして、この伝送用光ファイバによる波長分散とこの逆分散とを少なくとも部分的に相殺させることにより、光信号の分散の補償を図ることができる。
【0024】
【実施例】
以下、図面を参照して、この出願に係る第1の発明の分散補償方法装置および第2の発明の分散補償装置の実施例について併せて説明する。尚、参照する図面は、これらの発明が理解できる程度に、各構成成分の大きさ、形状および配置関係を概略的に示してあるにすぎない。従って、これらの発明は図示例にのみ限定されるものでない。
【0025】
<第1実施例>
第1実施例では、TE/TMモード変換素子(変換素子)10として音響光学(AO)素子を用い、偏波分散発生手段として複屈折光ファイバからなる偏波保存光ファイバ12を用いた例について説明する。
【0026】
図1は、第1実施例の分散補償装置の構成の説明に供する図である。図1に示す様に、変換素子の出力端に偏波保存光ファイバを接続している。
【0027】
この実施例で用いる変換素子は、音響光学効果を示すXカットLiNbO3基板14に、光導波路16を具えている。そして、この光導波路16上に、表面弾性波(SAW)を励起するための櫛形電極(IDT)およびSAW導波路を含むモード変換域には、電極(IDT)により励起されたSAWを用いている。この櫛形電極18は互い違いに対向した歯を有する櫛状の電極からなる。尚、図1では、櫛形電極18は模式的に示している。尚、変換素子の特定波長は、電極の歯の周波数で制御することができ、特定波長のモード変換による回転率のピーク値は、電極により励起されるSAWのパワーによって制御することができる。
【0028】
そして、変換素子の出力端16bには、偏波保存光ファイバ12を接続している。
【0029】
そして、この分散補償装置によって予め逆分散を生じさせた光信号を伝送用の光ファイバ(図示せず)に入射させる。その結果、伝送用の光ファイバを伝搬することによって生じる波長分散とこの逆分散とを相殺することができる。従って、光信号の分散による遅延を低減し、信号の劣化を防ぐことができる。
【0030】
以下、変換素子16の入力端16aにTE波の光信号を入射する場合について説明する。
【0031】
ここでは、光信号として、変換素子16においてモード変換される特定波長λM の直近の波長であり、かつ、この特定波長λM よりも僅かに長波長側の中心波長λ0 を有する光信号を入力する。特定波長λM の長波長側では、波長が短い程(特定波長に近い程)偏波面の回転角度が大きくなる(回転率が高くなる)。従って、光信号は、波長に依存した回転率を有することになる。
【0032】
ところで、この実施例において、光導波路16は、XカットLiNbO3 基板14に設けられているため、複屈折性を有する。モード変換によって波長に依存した回転率が生じた光信号は、この光導波路16を伝搬する際に、TE波とTM波とに分離されて伝搬する。その結果、光信号中の波長が短い成分程、回転率が大きいので、TM波に分離される割合が多くなり、TE波に分離される割合が少なくなる。一方、波長が長い成分程、回転率が小さいので、TM波に分離される割合が少なくなり、TE波に分離される割合が多くなる。その結果、出力端16bから出射される光信号は、短い波長成分程遅延した分散特性を有する波長分散を生じる。
【0033】
そして、XカットのLiNbO3 基板14を用いる場合、光導波路16のTM波に対する屈折率nM は、このTM波と直交する偏波面を有するTE波に対する屈折率nE よりも大きくなる。その結果、この導波路を伝搬するTM波の伝搬速度は、TE波の伝搬速度よりも遅くなる。このため、出力端16bから出射した光信号では、TE波に対するTM波の遅延が生じている。
【0034】
ところで、以下に説明するように、変換素子10の光導波路16による遅延だけでは、光信号の周波数分散を完全に相殺するだけの逆分散を得ることは困難である。
【0035】
例えば、変調周波数が10GHzの光信号は、0.14nm程度の波長の幅を有している。この光信号を、文献1に記載の伝送用の光ファイバを80km伝搬した場合、周波数分散により200ps程度の遅延が生じる。この伝送用の光ファイバでは、長波長の光の伝搬速度が、短波長の光の伝搬速度よりも遅い。この遅延を相殺するためには、逆分散により、長い波長成分に対して短い波長成分に200ps分の遅延を生じさせる必要がある。
【0036】
一般に、光信号の周波数分散(dτ/dλ)は、下記の(1)式で与えられる。
【0037】
dτ/dλ=L×dV−1/dλ・・・(1)
(但し、τは遅延時間、λは波長、Vは伝搬速度、Lは伝搬距離を表す。)
光信号が伝搬距離Lを伝搬した場合の周波数分散による遅延時間Δτは、(1)式より下記の(2)式として導出される。
【0038】
Δτ=L×ΔV/V2 ・・・(2)
(但し、ΔVは伝搬速度差を表す。)
第1実施例の変換素子の光導波路16では、TE波に対する屈折率はnE2.14であり、TM波に対する屈折率nMは2.22である。従って、この光導波路16を伝搬するTE波とTM波との伝搬速度差ΔVは下記の式(3)で表される。
【0039】
ΔV=VE −VM =C/nE −C/nM ・・・(3)
≒0.5cm/ns
(但し、C=30cm/ns)
また、伝搬距離Lとなる変換素子16の長さは、せいぜい10cmであるので、上記(2)式に、ΔV=0.5cm/ns、V=30cm/nsおよびL=10cmを代入すると、光導波路16による遅延時間Δτはせいぜい約6psとなる。
【0040】
従って、伝送用光ファイバによる波長分散による遅延(約200ps)を充分に補償するためには、変換素子10から出力された光信号にさらに逆分散を生じさせて、充分な遅延を生じさせることが必要となる。
【0041】
そこで、第1実施例では、変換素子10から出力された光信号を、偏波分散発生手段としての、複屈折光ファイバからなる偏波保存光ファイバ12を導波させる。この偏波保存光ファイバ12は、2つの互いに直交する偏波モードを有している。以下、屈折率が小さく、伝搬速度の速い偏波モードを高速偏波モード、屈折率が大きく、伝搬速度の遅い偏波モードを低速偏波モードと称する。
【0042】
偏波保存光ファイバ12と変換素子10との接続にあたっては、変換素子10から出射されたTE波の偏波面と高速偏波モードとを一致させ、TM波の偏波面と低速偏波モードとを一致させると良い。
【0043】
波長に依存した回転率を有する光信号は、この偏波保存光ファイバ12を伝搬する際に、光導波路16を伝搬したときと同様に、高速偏波モードと低速偏波モードとに分離されて伝搬する。その結果、光信号中の波長が短い成分程、回転率が大きいので低速偏波モード分離される割合が多くなり、高速偏波モードに分離される割合が少なくなる。一方、波長が長い成分程、回転率が小さいので高速偏波モード分離される割合が多くなり、低速偏波モードに分離される割合が少なくなる。その結果、偏波保存光ファイバ12の出射端12bから出射される光信号は、短い波長成分程より遅延した分散特性を有する波長分散(逆分散)を生じる。従って、偏波保存光ファイバ12の長さを適当にとることにより、分散を補償するのに充分な逆分散を得ることができる。
【0044】
次に、分散を補償するに必要な偏波保存光ファイバ12の長さについて説明する。
【0045】
先ず、(1)式を変形すると、下記の(4)式が導出される。
【0046】
(dτ/dλ)/L=2Δn/(CΔλ3)・・・(4)
但し、Δλ3はピークの波長幅、Δnは屈折率差、Cは光速を表す。
【0047】
この実施例で用いる偏波保存光ファイバ12の各モードの屈折率は、高速偏波モードでは1.453であり、低速偏波モード保存では1.447である。従って、両偏波モード間の屈折率差Δnは6×10−4である。
【0048】
上記(4)式に、C=30cm/ns、Δτ=200ps(=0.2ns)、Δλ3 =2nmおよびΔn=6×10−4をそれぞれ代入すると、波長分散は偏波保存ファイバ1kあたり−2000ps/km・nmであり、波長分散による10GHzでの200psの遅延時間を補償するのに要する偏波保存光ファイバ12の長さLは、約720mとなる。
【0049】
一方、従来の逆分散光ファイバ(DCF)を用いて、波長分散による200psの遅延を補償するためには、80kmの0.22倍、即ち17kmあまりの長さのDCFが必要となる。この点、この実施例では、偏波保存光ファイバの長さは僅か1/25の720mで済むので、容易に分散を補償することができる。
【0050】
尚、第1実施例では、送信側で、分散補償装置により予め逆分散を生じさせた光信号を伝送用光ファイバに入射することにより分散の補償を図ったが、受信側で、伝送用光ファイバを伝搬してきて波長分散の生じた光信号の分散を補償しても良い。但し、その場合は、光信号を偏光素子を用いて直線偏光にしてから変換素子に入射する必要がある。
【0051】
また、この実施例では、変換素子の特定波長を、光信号の中心波長よりも短波長としたが、変換素子の特定波長を光信号の中心波長よりも長波長とすることもできる。その場合、偏波保持光ファイバの出射端から出射される光信号の分散の波長特性は、この実施例における光信号の波長特性とは逆になる。光信号にどのような分散特性の逆分散を生じさせるかは、伝送用光ファイバによって生じる波長分散、即ち補償される波長分散の波長特性によって決めれば良い。
【0052】
また、この実施例では用いたAO素子の変換素子は、複数のマイクロ波を合成して電極に印加すると、複数の波長のSAWを同時に発生させることができる。各波長のSAWはそれぞれ特定波長となる。その結果、複数の特定波長それぞれに対応した複数の光信号に対して同時に分散補償を行うことができる。例えば、図3に、5つの波長のSAWを励起した場合のモード変換の様子を示す。図3の横軸は波長を表し、縦軸は回転率を表す。図3では、各特定波長λM1〜λM5よりもそれぞれ僅かに長波長側の中心波長λ1 〜λ5 の光信号の偏波面を波長に応じてそれぞれ同時に回転させることができる。従って、AO素子の変換素子は、波長多重された光信号の分散補償に用いて好適である。
【0053】
<第2実施例>
第2実施例では、2つの分散補償装置を接続して用いた一例について説明する。
【0054】
上述の第1実施例では、変換素子の特定波長の直近に、光信号の中心波長が有った。このため、中心波長においても光信号の偏波端面が回転していた。その結果、中心波長においても光信号がTE波とTM波とに分離されて光導波路を伝搬する。その結果、中心波長においてTM波の成分がTE波の成分に対して遅延を生じる。
【0055】
ところで、中心波長においては、光信号は、TE波とTM波とに分離されずに、TE波またはTM波いずれか一方の偏光として伝搬することが望ましい。
【0056】
そこで、第2実施例では、2つの補償分散装置を接続して用いることにより、光信号の中心波長の入射時の偏波面を変換素子により回転させることなく伝搬させる。
【0057】
図4は、第2実施例で用いる分散補償装置の構成の説明に供する図である。
【0058】
第2実施例では、第1実施例で用いた分散補償装置を2段接続している。但し、接続にあたっては、第1段目の変換素子10でのTE波、即ち、第1段目の偏波保持光ファイバ12の出射端での高速偏波モードが、第2段目の変換素子10aにTM波として入射する様に接続する。
【0059】
第2段目の変換素子10aにおいては、TM波として入射した光のうち、特定波長の光がTE波にモード変換される。そして、TE波を高速偏波モードに対応させ、TM波を低速偏波モードに対応させて、第2段目の偏波保存光ファイバ12aに光信号を入射させる。その結果、第1段目では、TM波にモード変換される特定波長λA での伝搬速度が遅くなり、一方、第2段目では、TE波にモード変換される特定波長λB の伝搬速度が速くなる。
【0060】
この実施例では、光信号の中心波長λ0 を挟んで、第1段目の変換素子の特定波長λA を中心波長よりも短波長にし、一方、第2段目の特定波長λB を中心波長よりも長波長とする。そして、中心波長λ0 において、ちょうど遅延が0となるようにする。
【0061】
第2実施例における遅延量の波長依存性を図5のグラフに示す。図5のグラフの横軸は波長を表し、縦軸は遅延量を表している。また、グラフ中の曲線IIは、遅延量の波長依存性を表している。曲線IIのうち、図5中でAで示す左側の上に凸の部分は、第1段目の分散補償装置による遅延分である。一方、Bで示す右側の下に凸の部分は、第2段目の分散補償装置による遅延分である。但し、第2段目では、負の遅延であるので実際には早くなっている。
【0062】
このように、第2実施例では、中心波長の光信号の遅延を0としたまま、光信号に、短波長ほど遅延した逆分散を生じさせることができる。
【0063】
<第3実施例>
第3実施例では、偏波分散発生手段として、光路長が回転率によって異なる光路長差発生手段20を設けた例について説明する。
【0064】
図6は、第3実施例で用いる分散補償装置の構成の説明に供する図である。第3実施例の分散補償装置は、TE/TMモード変換素子10および光路差発生手段20を具えている。この変換素子10は、第1実施例で用いた変換素子10と同一の構造を有している。また、この光路長差発生手段20は、偏波ビームスプリッタ(以下、PBSとも略称する)22、反射手段24、互いに光路長の異なる第1の光路26および第2の光路28を具えている。
【0065】
この実施例においても第1実施例と同じく、変換素子10の出力端16bから出射した光信号は、波長に依存した回転率を有しており、長波長成分を主に含むTE波と短波長成分を主に含むTM波と分離している。そして、この実施例では、出射した光信号を光路長差発生手段20に入射する。
【0066】
以下、この実施例の光路長差発生手段20について説明する。
【0067】
TE/TMモード変換素子10から出力した光信号は先ず、偏波ビームスプリッタ(PBS)22に入射する。このPBS22において、光信号は、互いに偏波面の直交する偏光に分離し、第1の光路26と第2の光路28とにそれぞれ出射する。ここでは、第2の光路28の光路長L2 を第1の光路26の光路長L1 よりも長くする。そして、第1の光路26へ光信号のTM波成分を入射し、第2の光路28へは光信号のTE波成分を入射する。
【0068】
第1の光路26の終点および第2の光路28の終点には、それぞれ反射手段24aおよび24bが設けてある。この反射手段24aおよび24bは、ファラデー回転子および全反射鏡(図示せず)からなり、各光路26および28を進んできたTE波成分およびTM波成分をそれぞれその偏波面を90°回転させてPBS22のそれぞれの出射端に入射させる。
【0069】
第1の光路26に対して第2の光路28の伝搬距離が長いので、第2の光路28を伝搬したTM波成分は、第1の光路を伝搬したTE波成分に対して遅延を生じる。この遅延時間τは、第1の光路26と第2の光路28との光路長差をΔLとし、伝搬速度をVと表すと、下記の(6)式で表される。
【0070】
τ=2×ΔL/V・・・(6)
この(6)から、遅延時間τを生じさせるために必要な光路長差ΔLは、下記の(7)式で表される。
【0071】
ΔL=τ×V/2・・・(7)
従って、例えば、200psの遅延時間τを生じさせるためには、V=30cm/nsとすると、(7)式から、光路長差ΔLは約3cmあれば良い。尚、ピークの半値幅を1nmとすると、10GHz(0.14nm)の変調で200psなので、実際には3×(1/0.14)=21.4cm必要となる。
【0072】
第1の光路26および第2の光路28からPBS22に再び入射した光は、PBS22で合波され、それぞれ偏波面が90°回転しているので、合波されてPBS22から分散補償装置の外部へ出射される。出射された光信号は、伝送用の光ファイバ(図示せず)に入射される。
【0073】
尚、上述した第3実施例では、変換素子から出射した信号光を空中を伝搬させて光路長差を設けたが、例えば、通常の光ファイバ中を伝搬させることにより光路長差を設けても良い。
【0074】
<第4実施例>
第4実施例では、複屈折性をほとんど有さない導波路36を有するTE/TMモード変換素子30を用いる例について説明する。
【0075】
図7は、第4実施例で用いる分散補償装置の構成の説明に供する図である。
【0076】
第4実施例で用いる分散補償装置は、変換素子30と偏波分散発生手段としての偏波保存光ファイバ12とを具えている。この偏波保存光ファイバ12は、第1実施例で用いたものと同一の構造である。
【0077】
この実施例で用いる変換素子30は、波長フィルタ32と偏光変換器34とを具えている。この変換素子30に入射した光信号は、この波長フィルタ34によって、図2に示した特定と相似して、長波長成分と短波長成分とに分離される。分離された光信号はそれぞれ個別の導波路36aおよび36bを伝搬する。この導波路の一方には、偏光変換器34が設けてある。ここでは、長波長成分が伝搬する導波路36aに偏光変換器を設ける。この偏光変換器34により長波長成分の光はその偏波面が90°回転する。そして、90°偏光回転した長波長成分と短波長成分とは、合波されて変化素子30の出力端36cから出射される。
【0078】
出力端36cから出射された光信号は、変換素子30に接続された偏波保存光ファイバ12に入力される。ここでは、短波長成分に、長波長成分に対して遅延を生じさせるために、長波長成分を偏波保存ファイバ12の高速偏波モードとし、短波長成分を低速偏波モードとして、偏波保存ファイバ12に入力する。その結果、偏波保存光ファイバ12の出射端12cからは、逆分散の生じた光信号が出射される。そして、この光信号を伝送用の光ファイバ(図示せず)に入力することにより分散の補償を図ることができる。
【0079】
上述した実施例は、これらの発明を特定の材料を使用し、特定の条件で構成した例について説明したが、これらの発明は多くの偏光および変形を行うことができる。例えば、上述した実施例では、TE/TMモード変換素子として、音響光学(AO)素子を用いたが、これらの発明では、TE/TMモード変換素子として、電気光学(EO)素子を用いても良い。EO素子においては、チューニング電圧によって特定波長を制御することができる。
【0080】
尚、特定波長の偏光回転率は、例えばAO素子やEO素子においては、印加電圧の大きさによって、100%〜0%の範囲で調節することができる。
【0081】
【発明の効果】
そこで、この出願に係る各発明では、第1段階として、TE/TMモード変換素子の、モード変換される特定波長の直近の波長において、光信号を当該光信号の波長に応じて偏光回転させることにより、波長に依存した偏波面の回転率を有する光信号を出力させる。
【0082】
さらに、この出願に係る各発明では、第2段階として、出力された光信号を、伝搬に要する時間が前記回転率によって異なる偏波分散発生手段に入力する。光信号は、この偏波分散発生手段を伝搬することによって、偏波面の回転角度(回転率)に依存した遅延を生じる。光信号の回転率は周波数に依存している。従って、光信号に波長分散を生じさせることができる。この出願に係る各発明では、この波長分散として、光信号が伝送用の光ファイバを伝送することにより生じる波長分散の分散特性と逆の分散特性を有する逆分散を生じさせる。
【0083】
そして、この伝送用光ファイバによる波長分散とこの逆分散とを少なくとも部分的に相殺させることにより、光信号の分散の補償を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例で用いる分散補償装置の説明に供する図である。
【図2】(A)は、TE波を入射したTE/TMモード変換素子における偏波面の回転角度(偏波面の回転率)の説明に供するグラフであり、(B)は、(A)の部分拡大図である。
【図3】複数の波長のSAWを提起した場合の回転率の説明に供する図である。
【図4】第2実施例で用いる分散補償装置の構成の説明に供する図である。
【図5】第2実施例の分散補償装置における遅延量の波長依存性を示すグラフである。
【図6】第3実施例で用いる分散補償装置の構成の説明に供する図である。
【図7】第4実施例で用いる分散補償装置の構成の説明に供する図である。
【符号の説明】
10、10a:TE/TMモード変換素子(変換素子)
12、12a:偏波保存光ファイバ
12b:出射端
14:LiNbO3 基板
16:光導波路
16a:入力端
16b:出力端
18:電極
20:光路長差発生手段
22:偏光ビームスプリッタ(PBS)
24a、24b:反射手段
26:第1の光路
28:第2の光路
30:TE/TMモード変換素子(変換素子)
32:波長フィルタ
34:偏光変換器
36、36a、36b:光導波路
36c:出力端
Claims (7)
- TE/TMモード変換素子に直線偏光の光信号を入力し、該光信号を当該光信号の波長に応じて偏光回転させて、偏波面が波長に依存した回転率を有する光信号を当該TE/TMモード変換素子から出力させ、
出力された該光信号を、伝搬に要する時間が前記回転率に依存して異なる偏波分散発生手段に入力することにより、該光信号が伝送用の光ファイバを伝送することにより生じる波長分散の分散特性と逆の分散特性を有する逆分散を生じさせ、
該逆分散と前記波長分散の少なくとも一部分とを相殺させることにより、光信号の波長分散を補償する
ことを特徴とする分散補償方法。 - 請求項1に記載の分散補償方法において、
前記偏波分散発生手段として、複屈折光ファイバからなる偏波保存光ファイバを用いる
ことを特徴とする分散補償方法。 - 請求項1に記載の分散補償方法において、
前記偏波分散発生手段として、光路長が前記回転率によって異なる光路長差発生手段を用いる
ことを特徴とする分散補償方法。 - 直線偏光の光信号を入力し、該光信号を当該光信号の波長に応じて偏光回転させて、偏波面が波長に依存した回転率を有する光信号を出力するTE/TMモード変換素子を具え、
当該TE/TMモード変換素子の出力端に接続された、伝搬に要する時間が前記回転率によって異なる偏波分散発生手段を具えてなる
ことを特徴とする分散補償装置。 - 請求項4に記載の分散補償装置において、
前記偏波分散発生手段として、複屈折光ファイバからなる偏波保存光ファイバを具えてなる
ことを特徴とする分散補償装置。 - 請求項4に記載の分散補償装置において、
前記偏波分散発生手段として、光路長が前記回転率によって異なる光路長差発生手段を具えてなる
ことを特徴とする分散補償装置。 - 請求項6に記載の分散補償装置において、
前記光路長差発生手段は、偏波ビームスプリッタ、反射手段、互いに光路長の異なる第1の光路および第2の光路を具え、
該偏波ビームスプリッタは、前記TE/TMモード変換素子から出力した光信号を互いに偏波面の直交する偏光に分離して、それぞれ第1の光路と第2の光路とに出射する構成となっており、
前記反射手段は、前記第1の光路の終点および前記第2の光路の終点にそれぞれ設けてあり、各光路を進んできた光をそれぞれ偏波面を90°回転させて前記偏波ビームスプリッタのそれぞれの出射端に入射させる構成となっている
ことを特徴とする分散補償装置。
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