JP3551984B2 - アクリジン誘導体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、新規アクリジン誘導体に関する。本発明による前記アクリジン誘導体は化学発光物質であるので、そのアクリジン誘導体を標識物質あるいは発光基質として用いて、例えば被検物質の検出を行うことができる。
【0002】
【従来の技術】
発光反応は大別すると、生物発光と化学発光に分けられ、種々のメカニズムで起こることが知られている。生物発光は蛍や海蛍に見られるような生体内物質の関連で発光反応を起こすものを指し、酵素とその形態の変化で発光反応を起こす基質の組み合わせで発現することが解明されている。例えば、酵素を利用したものでは、蛍の発光反応の発光原理であるルシフェラーゼによるルシフェリンとATP(アデノシン三リン酸)を反応させて発光させる系や、ペルオキシダーゼによるルミノールと過酸化水素による発光反応、アルカリフォスファターゼによる安定化ジオキセタン化合物の脱リン酸による発光反応が知られている。
【0003】
一方、化学発光は化学物質とその励起状態を経由させる能力のある活性化試薬の組み合わせで人為的に発現させる反応に代表される。例えば、アクリジニウムエステルのアルカリ性過酸化水素による発光や、過シュウ酸と蛍光物質を用いた発光反応が知られている。
【0004】
発光反応は光電子倍増管を用いることにより、非常に微量な反応でも検出することが可能であり、発光物質や酵素をラジオアイソトープの代わりに標識物質として用い、検体中に含まれる微量物質(例えば、抗原、抗体といった生理活性物質等)の検出に応用したいという試みが従来よりなされてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この中の安定化ジオキセタンは、アダマンチリデンアダマンタン−1,2−ジオキセタンが25℃において半減期20年以上の安定な物質であることが判明して以来、標識物質として利用するための研究が続けられてきた。しかしながら、この物質の利用はすぐには実現しなかった。その理由は、ジオキセタンの開裂に150〜250℃の加熱が必要であり、この条件は水性媒質中の生物学的分析には不向きであったためであり、更に、アダマンタンは非常に蛍光強度の弱い物質であり、ジオキセタン開裂のエネルギーにより励起や発光反応が起こっても検出が困難であるという問題点を有していたためである。
【0006】
これらの問題点を解決するために、シャープ等は4−(ヒドロキシ−2−ナフチル)−4−メトキシピロ〔1,2−ジオキセタン−3,2’−アダマンタノン〕を合成し、更に、アダマンタノンとジオキセタンにキサンテンやフルオレイン等が結合した化合物も合成して、安定性及び発光強度の検討を行った(特表平3−505739号公報)。これらの物質は、安定性は保たれ、酵素による脱リン酸を引き金とした発光反応も見られたが、発光強度が弱いので、酵素基質としての発光検出系に用途が限定されていた。
【0007】
安定な化合物を合成すると発光させるのが困難で、発光しやすくすると安定性に欠けるというジオキセタン化合物の欠点を補うため、ウッドヘッド等はN−メチルアクリジニウム−9−カルボキシレートのフェノールエステルにアルカリ性過酸化水素を加えることにより、ジオキセタンを生成、分解させ発光反応が得られることを示し、更に、フェノールエステルに蛋白に対する架橋剤を結合し、ジオキセタンを合成することなく、その前駆体を標識物として使用できることを示した(GB2112779号明細書)。しかし、この物質も中性水溶液中での安定性が不十分であり、発光持続時間も短いという問題点を有している。
また、特開平6−9566号公報には、アクリジン誘導体の中性水溶液中での不安定性を改善するために、アクリジニウム−9−カルボン酸フェノールエステルのアクリジン環のペリ位及びフェノキシ環の一方のオルト位にアルキル基を導入したアクリジン誘導体が開示されている。しかしながら、この化合物は発光持続時間が短く、また、実用的には更なる安定化が必要である。
【0008】
一方、マックカップラ等はDNAを検出する際に、ピレン等の色素を標識物質とし、この物質に紫外線照射することによって溶存酸素から生じる一重項酸素を利用して、9−(アダマンチリデン)−N−メチルアクリダンにジオキセタンを生じさせ、その熱分解時に発する発光を検出する方法を開発した(EP公開0345776号公報)。これは、メチルアクリダンの蛍光強度が強く発光反応に用いることには適しているものの、アダマンタン−ジオキセタンに結合すると安定性に欠け、この物質を直接標識する事が困難であるために考えられた方法である。
【0009】
以上のように、アダマンタンで安定化したジオキセタンとアクリジニウム誘導体を結合して発光物質として利用しようという試みは、中性領域水溶液中での試薬としての安定性と、穏やかな発光反応開始試薬による発光反応の発現という技術的課題の両立が難しいことから、今日まで実現されていなかった。従って、本発明の目的は、安定性に優れ且つ発光強度の強い新規な化学発光物質を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記の目的は、本発明による新規アクリジン誘導体によって達成することができる。即ち、本発明は、一般式(I):
【化3】
(式中、nは1〜3の整数であり、R1 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、非置換若しくは置換フェニル基、又はスクシンイミジル基であり、R2 及びR3 は、同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、非置換若しくは置換アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基又はハロゲン原子である)
で表されるアクリジン誘導体又はその塩に関するものである。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「炭素数1〜4のアルキル基」は、直鎖状若しくは分枝状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、又はt−ブチル基である。置換フェニル基の置換基は、特に限定されるものではないが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、非置換若しくは置換アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子又はスクシンイミジル基であり、これらの同一若しくは異なる置換基1〜5個(好ましくは1〜3個)を担持していることができる。更に、前記の置換基1〜5個で置換されたフェニル基1〜3個で置換されたフェニル基も含まれる。
【0012】
好ましい非置換若しくは置換フェニル基は、一般式(II):
【化4】
(式中、R4 、R5 及びR6 は、同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、非置換若しくは置換アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子又はスクシンイミジル基である)
で表される基である。
「置換されたアミノ基」は、炭素数1〜4のアルキル基1個又は同一若しくは異なる2個で置換されたアミノ基であり、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基等である。「ハロゲン原子」は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はフッ素原子である。
【0013】
前記一般式(I)で表されるアクリジン誘導体がカルボキシル基及び/又はアミノ基を有する場合には、それらの塩も本発明に含まれる。カルボン酸塩としては、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の塩を挙げることができる。
前記一般式(I)において、R1 がパラニトロフェニル基であり、R2 及びR3 が水素原子である化合物が好ましい。更に、R1 が2−メチル−4−ニトロフェニル基であり、R2 がメチル基であり、R3 が水素原子である化合物は安定性の面で有利な点があるので好ましい。
【0014】
本発明のアクリジン誘導体は、それ自体公知の方法によって調製することができる。本発明誘導体の調製工程の代表例を図1に示す。すなわち、前記一般式(I)において、R1 が炭素数1〜4のアルキル基であるアクリジン誘導体を調製する場合には、9(10H)−アクリドンを出発原料として、アルカリ金属水酸化物〔例えば、水酸化カリウム(KOH)又は水酸化ナトリウム〕を含む無水有機溶液〔例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)溶液〕中で還流加熱した後、ハロゲン化脂肪酸エステル〔X(CH2 )nCO2 R(ここでRは炭素数1〜4のアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、nは前記と同じ意味である)〕を加えて反応させ、9−オキソ−10(9H)−アクリジン脂肪酸アルキルエステルを合成する。ハロゲン化脂肪酸アルキルエステルとしては、例えば、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸プロピル、クロロ酢酸ブチル、クロロプロピオン酸メチル、クロロプロピオン酸エチル、クロロプロピオン酸プロピル、クロロプロピオン酸ブチル、クロロ酪酸メチル、クロロ酪酸エチル、クロロ酪酸プロピル、クロロ酪酸ブチル、あるいはこれらの臭化物、例えば、ブロムプロピオン酸メチル、ブロムプロピオン酸エチル、ブロムプロピオン酸プロピル、ブロムプロピオン酸ブチル、ブロム酪酸メチル、ブロム酪酸エチル、ブロム酪酸プロピル、又はブロム酪酸ブチルを用いることができる。
【0015】
次いで、例えば、三塩化チタンアルミニウム還元型を含むテトラヒドロフラン(THF)懸濁液に水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4 )及びトリエチルアミン(TEA)を加えて、そこに上記の生成物と2−アダマンタノンを添加して反応させる。反応混合物を酢酸エチル等で抽出し、溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して本発明物質の前駆物質である9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジン脂肪酸エステル(以下、トリシクロデシリデン置換アクリジン誘導体と称することがある)を得ることができる。
【0016】
こうして得られた前記前駆物質(トリシクロデシリデン置換アクリジン誘導体)を塩化メチレン等の適当な有機溶媒に溶解し、酸素を通じながらナトリウム光を照射することにより、本発明の1化合物であるジオキセタン体のジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−脂肪酸エステルを得ることができる。
【0017】
また、前記一般式(I)において、R1 が非置換若しくは置換フェニル基又はスクシンイミジル基であるアクリジン誘導体を調製する場合には、前記前駆物質(トリシクロデシリデン置換アクリジン誘導体)をエタノール等の適当な有機溶媒に溶解し、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)を用いてアルカリ加水分解し、エステル体を遊離カルボキシル体とした後、脱水縮合剤〔例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)〕の存在下で非置換若しくは置換フェノール又はN−ヒドロキシスクシンイミドとのエステル体を合成する。この置換基としては、フェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基、2,6−ジメチル−4−ニトロフェニル基、トリクロロフェニル基、ジクロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ペンタブロモフェニル基、ペンタクロロフェニル基、4−メトキシカルボニルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−ニトロ−3−トリフルオロメチルフェニル基、ジフルオロフェニル基、スクシンイミジル基等である。
【0018】
こうして得られたエステル体としては、具体的には、フェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、4−ニトロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、2,4−ジニトロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、2,6−ジメチル−4−ニトロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、2,4,6−トリクロロフェニル
9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、ジクロロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、ペンタフルオロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、ペンタブロモフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、ペンタクロロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、4−メトキシカルボニルフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート、スクシンイミジル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート等を挙げることができる。
【0019】
前記のエステル体に酸素を通じながらナトリウム光を照射することにより、本発明の化合物であるジオキセタン体、例えば、フェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート、4−ニトロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート等を得ることができる。
本発明によるアクリジン誘導体において、遊離化合物を塩に変え、塩を遊離化合物又は別の塩に変えることができる。
【0020】
本発明によるアクリジン誘導体は、発光物質であり、しかも従来のアクリジン誘導体等と比較して、中性付近の水溶液中での保存安定性が格段に優れている。例えば、従来技術の代表的発光アクリジン誘導体である9−フェノキシカルボニル−10−メチルアクリジニウムフルオロスルホネート(PMA)の中性水溶液中での保存安定性は、1カ月で約80%発光量が低下するのに対し、本発明のアクリジン誘導体、例えば、フェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテートは、中性水溶液中に1カ月保存しても、ほとんど発光量の低下はみられなかった。
【0021】
本発明によるアクリジン誘導体は、検体中の特定物質を検出する従来公知のあらゆる分析手段において、発光標識物質として用いることができる。特に、生体液体試料中に含まれる微量の生理活性物質を免疫学的に、あるいは核酸の親和性を利用し、又はクロマトグラフフィーを利用して測定する方法、酵素免疫学的、分子生物学的に測定する方法や装置あるいはキット等に利用するのが好ましい。例えば、サンドイッチ法と呼ばれる免疫学的測定に利用する場合には、まず、ポリスチレンなどの不溶性担体に固定化した特定物質に対する抗体に、試料を接触させることで試料中に含まれる特定物質は、抗体との親和力により上記不溶性担体上に結合する。次に、特定物質に対する抗体(モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体)に本発明新規発光物質を従来公知の手段(例えば、物理吸着法あるいは化学的結合)で担持した標識抗体を、前記の不溶性担体に接触させる。この操作により標識抗体は、不溶性担体上に結合している特定物質の量に相関した分だけ不溶性担体上に結合する。次に、不溶性担体上に結合していない過剰の標識抗体を洗浄操作等により分離してから化学発光測定を行う。
【0022】
本発明のアクリジン誘導体は、強アルカリ溶液の添加により強く発光させることができる。従って、化学発光を誘発する試薬としては、通常、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を使用することができる。このような化学発光を誘発する試薬を、先の不溶性担体上に結合している標識抗体に接触させ、本発明の新規発光物質を化学反応により発光させることができる。この時の発光強度は、試料中の特定物質濃度に相関しているので、発光強度をフォトンカウンタ等により測定することで、試料中の特定物質濃度を求めることができる。
更に本発明によれば、前記抗体を用いた免疫学的検出法だけではなく、核酸に対しても、その核酸と相補的な核酸との親和性を利用し、目的の核酸を検出することができる。
【0023】
特定物質が含まれる被検試料としては、血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液等の生体液や、細胞及び組織抽出物等を挙げることができ、特定物質としては、各種タンパク質、多糖類、脂質、核酸等が挙げられ、より具体的には、フィブリノーゲン、アルブミン、AFP、CRP、又はHBs抗体、HBc抗体、HC抗体、HIV抗体、HTLV抗体、あるいはこれらの抗原、ホルモン等や、抗てんかん薬及びジゴキシン等の各種薬剤等を挙げることができる。また、特定物質が核酸であれば特定の塩基配列を有するDNA断片などが挙げられる。
【0024】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。また、以下の実施例において、融点は、柳本微量融点測定装置を用い測定し、すべて未補正である。赤外線吸収(IR)スペクトルは、日本分光FT/IR−200型を用いて測定した。 1H−NMRスペクトルは、バリアンVXR−200型(200MHz)を用い、内部標準にテトラメチルシランを用いて測定した。紫外線吸収(UV)スペクトルは、日本分光UVIDEC610−C、島津UV2100PCを用いて測定した。蛍光スペクトルは、日立分光蛍光光度計F−4000を用いて測定し、発光は、ラボサイエンス社ルミホトメーターTD−4000を用いて測定した。光反応は、1000W高圧ナトリウムランプを用いて行った。シリカゲルクロマトグラフィーは、E.Merck Kiesel 60(70〜230メッシュ)を用いた。ポリマー担持ローズベンガルは〔(R.S.Feinberg et al.,Tetrahedron,30,3209,(1974)及びA.P.Schaap et al.,J.Am.Chem.Soc.,97,3741,(1975)〕に従って合成した。
【0025】
実施例1:エチル 9−オキソ−10(9H)−アクリジンアセテート〔10〕の合成
9(10H)−アクリドン(10g,51mmol)と水酸化カリウム(3.7g,67mmol)の無水ジメチルホルムアミド(150ml)溶液を200℃に加熱し、水分を共沸させた後、反応溶液を室温まで放冷後、クロロ酢酸エチル(17ml,0.15mol)を滴下した。反応溶液を室温で1時間撹拌させた。反応懸濁液を氷水に注ぎ、析出した結晶を濾取し、乾燥した。結晶をクロロホルム(100ml)で2回洗い、クロロホルム層の溶媒を減圧留去し、標記の生成物〔10〕(13g、46mmol)を得た。物性値は以下のとおりであった。
融点:179〜180℃(エタノール)
IR ν(KBr):1747、1609、1495cm−1
UV λMAX CH3CN nm(log ε):390(4.04),372(3.92),250(4.68)
1H−NMR(CDCl3 )δ:1.25(3H,t,J=7Hz),4.23(2H,q,J=7Hz),5.43(3H,s),7.36(2H,td,J=1,8Hz),7.72(2H,dd,J=2,20Hz),7.84(2H,td,J=1,3Hz),8.36(2H,dd,J=2,8Hz)
元素分析:C17 H15 NO3 (分子量=281.38)に対して:
計算値:C=72.58;H=5.37;N=4.98
実測値:C=72.49;H=5.43;N=4.92
【0026】
実施例2:エチル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート〔11a〕の合成
無水三塩化チタンアルミニウム還元型(3.0g,15mmol)のテトラヒドロフラン(120ml)懸濁液中に、氷冷下で水素化アルミニウムリチウム(0.28g,7.6mmol)を加えて10分間撹拌した後、トリエチルアミン(1.1ml,7.6mmol)を加えた。この反応混合物を90分間加熱還流した後、実施例1で得たアクリドン体〔10〕(0.5g,2.4mmol)と2−アダマンタノン(0.36g,2.4mmol)の無水テトラヒドロフラン(30ml)溶液を滴下し、更に還流を39時間行った。反応混合物を室温に戻し、氷冷下で、氷水(60ml)を少量ずつ加え、酢酸エチルにより3回抽出を行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製し、標記のオレフィン体〔11a〕(0.49g,1.5mmol)を無色結晶として得た。物性値は以下のとおりであった。
融点:219〜217℃(エタノール)
IR ν(KBr):2907,1751,1458cm−1
UV λMAX CH3CN nm(log ε):334(3.90),286(3.99),258(4.20),225(4.55)
1H−NMR(CDCl3 )δ:1.27(3H,t,J=7Hz),1.55−2.21(12H,m),3.41−3.44(2H,m),4.27(2H,q,J=7Hz),4.64(2H,s),6.77(2H,dd,J=1,8Hz),6.98(2H,td,J=1,10Hz),7.11−7.27(6H,m)
元素分析:C27 H29NO2 (分子量=399.53)に対して:
計算値:C=81.17;H=7.32;N=3.51
実測値:C=80.82;H=7.36;N=3.47
【0027】
実施例3:9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デシリデン)−10−アクリジン酢酸〔11〕の合成
実施例2で得たオレフィン体〔11a〕(0.40g,0.98mmol)のエタノール(4.5ml)及び15%水酸化ナトリウム水溶液(1.5ml)への懸濁液を、10分間加熱還流した。減圧留去によりエタノールを除いた後、氷冷下で塩酸により中和し、酢酸エチルにより3回抽出した。有機層を水及び飽和食塩水により洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた標記の遊離カルボキシル体〔11〕は精製操作を行わずに次の反応に用いた。物性値は以下のとおりであった。
IR ν(KBr):2906、1738、1458cm−1
1H−NMR(d6 −DMSO)δ:1.3−2.3(12H,m),5.39(2H,s),6.91(2H,d,J=7Hz),7.01(2H,t,J=7Hz),7.08−7.15(4H,m)
【0028】
実施例4:フェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート〔11b〕の合成
実施例3で得た遊離カルボキシル体〔11〕(0.93g,2.5mmol)とジシクロヘキシルカルボジイミド(0.62g,3.0mmol)の塩化メチレン懸濁液にフェノール(0.24g,2.5mmol)を加え、15時間反応させた。濾過後、溶媒を留去しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、標記のフェニルエステル体〔11b〕(0.95g,2.1mmol)を無色結晶として得た。物性値は以下のとおりであった。
融点:218〜219.5℃(ジクロロメタン−ヘキサン)
IR ν(KBr):2908,1771,1591,1458cm−1
UV λMAX CH3CN nm(log ε):334(4.00),286(4.05),256(4.32),224(4.65)
1H−NMR(CDCl3 )δ:1.2−2.3(12H,m),3.4−3.49(2H,m),4.90(2H,s),6.95(2H,t,J=8Hz),7.01−7.33(9H,m),7.37(2H,t,J=7Hz)
元素分析:C31H29NO2 (分子量=447.58)に対して:
計算値:C=83.19;H=6.53;N=3.13
実測値:C=83.49;H=6.22;N=3.15
【0029】
実施例5:4−ニトロフェニル 9,10−ジヒドロ−9−(トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デシリデン)−10−アクリジンアセテート〔11c〕の合成実施例3で得た遊離カルボキシル体〔11〕(0.93g,2.5mmol)とジシクロヘキシルカルボジイミド(0.62g,2.8mmol)の塩化メチレン懸濁液に4−ニトロフェノール(0.35g,2.5mmol)を加え、15時間反応させた。濾過後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、4−ニトロフェニルエステル体〔11c〕(1.1g,2.2mmol)を黄色結晶として得た。物性値は以下のとおりであった。
融点:221.5〜223℃(ブタノール)
IR ν(KBr):2906,1792,1532,1459cm−1
UV λMAX CH3CN nm(log ε):332(4.01),258(4.37),225(4.66)
1H−NMR(CDCl3 )δ:1.2−2.4(12H,m),3.4−3.48(2H,m),5.02(2H,s),7.02(4H,t,J=8Hz),7.23(2H,t,J=8Hz),7.42(2H,t,J=8Hz),7.63(2H,t,J=7Hz),8.15(2H,d,J=8Hz)
元素分析:C31H28N2 O4 (分子量=492.58)に対して:
計算値:C=75.59;H=5.72;N=5.69
実測値:C=75.36;H=6.31;N=5.50
【0030】
実施例6:エチル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12a〕の合成
実施例2で得たオレフィン体〔11a〕(40mg,0.12mmol)の塩化メチレン(15ml)溶液に、ポリマー担持ローズベンガル(0.10mg)を加えて、酸素を通じながら−78℃でナトリウム光を1時間照射した。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(SiO2 ,ヘキサン:酢酸エチル=10:1)でモニターした。1時間後、原料が完全消失し、より極性の高い物質への完全変換が認められた。反応懸濁液を濾過してポリマーを取り除き、更に塩化メチレンでポリマーを洗浄した。洗液をあわせた溶媒を0℃で減圧留去し、標記のジオキセタン体〔12a〕(43mg)を無色結晶として得た。物性値は以下のとおりであった。
1H−NMR(CDCl3 )δ:0.55−0.67(2H,m),1.27(3H,t,J=7Hz),1.12−1.86(10H,m),2.26−2.29(2H,m),4.28(2H,q,J=7Hz),4.65(2H,s),6.82(2H,d,J=8Hz),7.15−7.41(4H,m),8.22(2H,dd,J=8,2Hz)
【0031】
実施例7:フェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12b〕の合成
実施例4で得たフェニルエステル体〔11b〕(30mg,0.067mmol)の塩化メチレン(15ml)溶液に、ポリマー担持ローズベンガル(0.10mg)を加えて、酸素を通じながら−78℃でナトリウム光を1.5時間照射した。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(SiO2 ,ヘキサン:酢酸エチル=10:1)でモニターした。1.5時間後、原料が完全消失し、より極性の高い物質への完全変換が認められた。反応懸濁液を濾過してポリマーを取り除き、更に塩化メチレンでポリマーを洗浄した。洗液をあわせた溶媒を0℃で減圧留去し、標記のジオキセタン体〔12b〕を無色結晶として得た。物性値は以下のとおりであった。
1H−NMR(CDCl3 )δ:0.68(2H,d,J=15Hz),1.10−2.20(10H,m),2.30(2H,s),4.90(2H,s),7.01(2H,d,J=12Hz),7.11(2H,d,J=12Hz),7.20−7.50(7H,m),8.24(2H,dd,J=8,2Hz),
【0032】
実施例8:4−ニトロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.1 3.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12c〕の合成
実施例5で得た4−ニトロフェニルエステル体〔11c〕(30mg,0.061mmol)の塩化メチレン(15ml)溶液に、ポリマー担持ローズベンガル(0.10mg)を加えて、酸素を通じながら−78℃でナトリウム光を2.5時間照射した。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(SiO2 ,ヘキサン:酢酸エチル=10:1)でモニターした。2.5時間後、原料が完全消失し、より極性の高い物質への完全変換が認められた。反応懸濁液を濾過してポリマーを取り除き、更に塩化メチレンでポリマーを洗浄した。洗液をあわせた溶媒を0℃で減圧留去し、標記のジオキセタン体〔12c〕を黄色結晶として得た。物性値は以下のとおりであった。
1H−NMR(CDCl3 )δ:0.68(2H,d,J=15Hz),1.10−2.20(10H,m),2.30(2H,s),4.90(2H,s),7.01(2H,d,J=12Hz),7.11(2H,d,J=12Hz),7.20−7.50(7H,m),8.24(2H,dd,J=8,2Hz)
【0033】
実施例9:その他のジオキセタン体の合成
実施例4のフェノールに換えて、ペンタフルオロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、4−メトキシカルボニルフェノール、及びスクシンイミドをそれぞれ用いること以外は実施例4と同様の合成操作を行い、こうして得られたそれぞれの生成物について、実施例6と同様の操作を行い、それぞれペンタフルオロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート、2,4−ジニトロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート、2,4,6−トリクロロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート、4−メトキシカルボニルフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート、スクシンイミジル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテートを得た。
【0034】
実施例10:発光量の測定−1
実施例8で得た4−ニトロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12c〕を10ng/mlとなるようにジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はジメチルスルホキシドにそれぞれ溶解して各溶液を調製し、得られた溶液それぞれ100μlをガラスチューブに採り、ルミホトメーターのホルダーにセットし、発光開始液として0.1M水酸化ナトリウム溶液100μlを注入し、発光量を5秒おきに120秒間にわたって計25回測定し、これを合計した値を発光量とした。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例11:発光量の測定−2
実施例7で得たフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12b〕を10ng/mlとなるようにジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、又はジメチルスルホキシドに溶解させて各溶液を調製し、以下、実施例10と同様の操作により発光量を測定した。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例11:発光量の測定−3
実施例9で得たペンタフルオロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテートを10ng/mlとなるようにジオキサン、ジメチルスルホキシド、又はメトキシエタノールに溶解して各溶液を調製し、以下、実施例10と同様の操作により発光量を測定した。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
実施例12:水溶液中での安定性
実施例8で得た4−ニトロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12c〕1ngを含むジメチルスルホキシド溶液100μlに蒸留水100μlを加えた際の発光をルミホトメーターで観察したところ、発光反応は認められなかった。続いてこの溶液に0.1M水酸化ナトリウム溶液を100μl加えたところ、発光反応が発現した。そのときの結果を図2に示す(2分の時点でアルカリを添加)。なお、図2(及び後述の図3)の縦軸の発光量は発光カウント数である。
本実施例の結果は、上記化合物〔12c〕が水溶液中では安定なジオキセタン体を維持していること、そしてアルカリを添加することによって起きるエステル分解で4−ニトロフェノールが脱離することが引き金となって発光反応が起きることを示している。
更に、前記化合物〔12c〕1ngを含むジメチルスルホキシド溶液100μlに蒸留水100μlを加えて、4℃で1ヶ月保存した後、この溶液に0.1M水酸化ナトリウム溶液を100μl加えたところ、発光反応が発現した。そのときの発光量は、調製直後と同程度の値であった。
【0041】
実施例13:発光スペクトルの観察
実施例8で得た4−ニトロフェニル ジスピロ〔アクリジン−9(10H),3’−〔1,2〕ジオキセタン−4,2”−トリシクロ〔3.3.1.13.7 〕デカン〕−10−アセテート〔12c〕1ngをジメチルスルホキシド1mlに溶解して蛍光測定用セルに採り、0.1N水酸化ナトリウム溶液1mlを加えて、即時に蛍光光度計にセットして、キセノンランプを消した状態で350〜600nmの間を480nm/分のスピードでスキャンニングした。結果を図3に示す。図3の波長の単位はnmである。
このスペクトルは、エチル 9−オキソ−10(9H)−アクリジンアセテートの蛍光スペクトルと同一のものであり、このことからアルカリ性エステル分解で4−ニトロフェノールが脱離することによって起きる発光反応は、9位のジオキセタンが開列するときのエネルギーがアクリドンを励起し、その後、基底状態に戻るときに起きていることが確認できた。
【0042】
【発明の効果】
本発明による新規のアクリジン誘導体は、中性領域水溶液中で安定であり、アルカリを添加するだけで発光反応を開始することができ、しかも発光強度も強い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるアクリジン誘導体の合成工程を示す説明図である。
【図2】実施例12で行った、本発明によるアクリジン誘導体に蒸留水及び水酸化ナトリウムを添加した場合の発光反応の変化を示すグラフである。
【図3】実施例13で行った、本発明によるアクリジン誘導体に水酸化ナトリウムを添加して起こした発光反応における波長と発光量との関係を示すグラフである。
Claims (3)
- 請求項1に記載のアクリジン誘導体を標識物質あるいは発光基質として用いることを特徴とする、被検試料中の検査対象物質の検出方法。
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