JP3550259B2 - 高速しごき成形性の優れたdi缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

高速しごき成形性の優れたdi缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速しごき成形性に優れ、薄肉化された2ピースアルミニウムDI缶胴として好適なDI缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金板に深絞り成形としごき成形を順次施して缶胴とする2ピースアルミニウムDI缶胴はビールや炭酸飲料などの容器として従来から広く用いられている。このような用途の缶胴材としては、JIS−3004アルミニウム合金硬質板が良好な成形性と強度を有するためもっぱら使用されている。
このJIS−3004アルミニウム合金板は、鋳造、面削、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延という一連の工程で製造される。さらに必要に応じ、冷間圧延の後で仕上げ焼鈍、脱脂洗浄、カッピング用潤滑油塗布が施される。また強度調整のため、冷間圧延に先立ちまたは冷間圧延の途中に、中間焼鈍が施されるのが通例である。
アルミニウムDI缶胴の成形工程は、0.28〜0.37mm程度の厚さの前記JIS−3004アルミニウム合金硬質板をDI成形(カッピング成形⇒リドロー成形⇒3段連続のしごき成形)してストレート缶(この缶の側壁部の厚さは約100〜110μm、後にネッキングとフランジ成形を受ける側壁先端部分の厚さは約150〜180μmとやや厚く設定されている)を得、その後、トリミング(縁切り)、脱脂洗浄、化成処理、内外面塗装、焼き付け加熱を順次施した後、ネッキング成形して開口部の径を縮小し、最後に缶蓋との巻き締めをし易くするためのフランジ成形(口拡げ成形)を行う。その後、飲料などの内容物を充填した後、エンド(蓋)を二重巻き締め加工をして密閉する。
【0003】
しかるに近年、生産性向上を目的として製缶速度の高速化が進み、DI成形機(ボディメーカー)の製缶速度は従来200〜250缶/分だったものが現在では350〜400缶/分程度が普通となり、さらに近年500缶/分という高速ボディメーカーも開発され、今後もさらに高速化が進む動向にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようにDI成形速度が大きくなると「破胴」と称する缶のしごき割れの発生率が増加するという問題があることが判明した。例えば発明者の経験によると、DI成形速度が200缶/分程度では破胴発生率は5PPM(即ち20万缶に1缶の破胴発生)以下であったが、これを350缶/分に高速化すると破胴発生率は50PPM(2万缶に1缶の破胴発生)程度に急増し、約1時間に1回の頻度で破胴が発生した。この破胴が発生すると製缶ラインが停止し、千切れたアルミ片の除去や金型の調整のために数十分間のライン停止を余儀なくされ、生産性の低下が甚だしい。このため高速製缶しても破胴発生率の低い、高速しごき成形性に優れたDI缶胴用アルミニウム合金板が望まれていた。
【0005】
このようなことから、本発明者らは鋭意検討を行い、固溶Si量と引張り強さと耳率を特定の範囲に規制したアルミニウム合金板は、高速しごき成形性が優れることを見出し、さらに検討を進めて本発明を完成するに至った。
本発明は、高速製缶しても破胴発生率の低い、高速しごき成形性に優れたDI缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明(請求項1記載の発明)は、Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、固溶Si量が10〜100PPM、引張り強さが260〜310N/mm2 、耳率が2%以下であることを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板である。
また、本発明(請求項2記載の発明)は、Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、さらにCu、Cr、Znのうち1〜3種をそれぞれ0.3wt%以下含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、固溶Si量が10〜100PPM、引張り強さが260〜310N/mm2 、耳率が2%以下であることを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板である。
【0007】
また、本発明(請求項3記載の発明)は、Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に560〜630℃で3時間以上、続いて400〜530℃で1時間以上の2段均質化処理を施した後、開始温度を400〜550℃にして熱間粗圧延を行い、続いて熱間仕上圧延を、3スタンド以上のタンデム圧延機を使用し、開始温度を300〜400℃、圧下率を80%以上、最終パスの圧延速度を250〜400メートル/分、コイル巻取り温度を300〜330℃にして行い、コイル巻取り後少なくとも250℃に達するまでの冷却を70℃/時間以下の速度で徐冷して完全に再結晶させ、続いて350〜400℃に加熱後100℃まで60℃/分以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施し、さらに圧下率60〜90%の最終冷間圧延を施し、その後必要に応じ130℃以下で仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板の製造方法である。
また、本発明(請求項4記載の発明)は、Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、さらにCu、Cr、Znのうち1〜3種をそれぞれ0.3wt%以下含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に560〜630℃で3時間以上、続いて400〜530℃で1時間以上の2段均質化処理を施した後、開始温度を400〜550℃にして熱間粗圧延を行い、続いて熱間仕上圧延を、3スタンド以上のタンデム圧延機を使用し、開始温度を300〜400℃、圧下率を80%以上、最終パスの圧延速度を250〜400メートル/分、コイル巻取り温度を300〜330℃にして行い、コイル巻取り後少なくとも250℃に達するまでの冷却を70℃/時間以下の速度で徐冷して完全に再結晶させ、続いて350〜400℃に加熱後100℃まで60℃/分以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施し、さらに圧下率60〜90%の最終冷間圧延を施し、その後必要に応じ130℃以下で仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板の製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の合金組成について詳細に説明する。
Mgはアルミニウム合金板に強度を付与し缶胴としての耐圧強度を確保するために添加する。添加量が0.7wt%未満では強度が不十分で、缶とした場合の耐圧強度が不足する。また添加量が1.3wt%を超えるとアルミニウム合金板の強度が高すぎるためとDI成形時に加工硬化し易くなるために、高速製缶での破胴の発生頻度が増加する。Mgの最適添加量は、他元素の添加量や製造条件によりやや変化するが、耐圧強度としごき成形性のバランスの良好な範囲は0.8〜1.2wt%、さらに望ましくは0.85〜1.15wt%の範囲である。
【0009】
Mnは耐圧強度を向上させるとともに、しごき成形性を向上させるために添加する。DI成形においてはエマルジョン型またはソルブル型の潤滑材が通常使用されるが、Mn添加量が少ない場合はこれだけでは潤滑性が不十分であり、アルミニウム合金板と金型との凝着によるビルトアップが発生してゴーリングまたはスコアリングと呼ばれる擦り傷や焼き付きが発生する。
Mnはα−Al12(Fe,Mn)Si 、AlMn 、Al(FeMn) などの金属間化合物(晶出化合物)を形成し、この晶出化合物が固体潤滑作用を有しビルトアップの発生を抑制するため、上記のゴーリング等の発生を防ぐ効果がある。またMnはα−Al12(Fe,Mn)Si を形成し、高速しごき成形での破胴を抑制する効果を有する。
Mn添加量が0.8wt%未満ではしごき成形性が不十分であるとともに耐圧強度も不足する。Mn添加量が1.3wt%を超えるとしごき成形性および耐圧強度向上効果が飽和する上、後述のFeと結合してAl−Mn−Fe系の巨大な初晶化合物が溶解鋳造時に発生し易くなり、これが圧延後も残存するため成形時に割れやピンホールが発生する危険が増大する。Mnの最適添加量の範囲は0.9〜1.1wt%の範囲である。
【0010】
Feは前記Mnの晶出化合物の生成を促進するとともにその分布状態を均一化し、DI成形中のゴーリング等の発生を防止するために添加する。Fe添加量が0.3wt%未満では効果が不十分であり、0.7wt%を超えると前記Al−Mn−Fe系の巨大初晶化合物が発生し易くなりピンホール等の原因になるとともに耳率が増加する。Feの最適添加量の範囲は0.35〜0.45wt%である。
【0011】
SiはMnと結合し固体潤滑作用を有するα−Al12(Fe,Mn)Si 金属間化合物を形成し、DI成形時のビルトアップの発生を抑制し、ゴーリング等の発生を防ぐ効果があるとともに高速しごき成形における破胴の発生を抑制する効果を有する。Si添加量が0.1wt%未満ではゴーリング防止効果が不足し、0.5wt%を超えると脆いMg−Si系金属間化合物が多くなり、高速製缶した場合に破胴の発生頻度が増加する。Siの最適添加量の範囲は0.14〜0.35wt%である。
【0012】
Ti、またはTiおよびBは鋳塊組織を均一微細化するために添加する。Tiが0.005wt%未満では鋳塊組織の均一微細化効果が得られず、また0.05wt%を超えるとAl−Ti系の巨大初晶化合物が溶解鋳造時に発生し易くなり、これが圧延後も残存するため成形時に割れやピンホールが発生する危険性が増大する。BはTiと共存させるとTiの鋳塊結晶粒の均一微細化効果を助長する効果がある。Bが0.0001wt%未満ではその効果が無く、0.01wt%を超えるとTi−B系の巨大初晶化合物が溶解鋳造時に発生し易くなり、これが圧延後も残存するため成形時に割れやピンホールが発生する危険が増大する。Tiは0.01〜0.03wt%、Bは0.0002〜0.001wt%の範囲で同時に含有させるのが望ましい。
【0013】
CuまたはCrまたはZnは耐圧強度を向上させるので必要に応じて(例えばサイダーなどの高圧炭酸飲料缶用とする場合など)各々0.3wt%までは添加しても良い。添加量が0.3wt%を超えるとアルミニウム合金板の強度が高くなりすぎ、高速製缶での破胴率が増加する。
【0014】
その他の不可避不純物についてはJIS3004合金に規定される範囲内であれば特に問題は無い。
【0015】
次にアルミニウム合金板の固溶Si量の限定理由について述べる。固溶Siは3段のしごき成形中のアルミ材料の回復を抑制する効果を有し、高速製缶での破胴を抑制する効果がある。高速製缶した場合は初段しごき後の材料の発熱が著しく、瞬間的に150〜200℃にも達する。この時固溶Si量が10PPM未満と少ない場合は初段しごき加工を受けた缶の側壁が回復・軟化し、このため2段目のしごき加工において加工硬化し易く、従って2段目のしごき加工後の缶壁の硬さが大きくなり、3段目の最終しごき加工において割れ(破胴)が発生し易くなる。逆に固溶Siが多すぎる場合はアルミニウム合金板の強度が高すぎ、やはり破胴率が増加する。望ましい固溶Si量の範囲は20〜80PPM、最適範囲は40〜60PPMである。
【0016】
次にアルミニウム合金板の引張り強さの限定理由について述べる。引張り強さが大きいと2段目のしごき加工後の缶壁の硬さが大きくなり、3段目の最終しごき加工において割れ(破胴)が発生し易くなる。このためアルミニウム合金板の引張り強さは高速製缶する場合は310N/mm以下であることが必要である。但し、引張り強さが260N/mm未満では缶として必要な耐圧強度を得ることができない。望ましい引張り強さの範囲は270〜300N/mm、さらに望ましくは280〜290N/mmである。
【0017】
次にアルミニウム合金板の耳率の限定理由について述べる。耳率が大きいとしごき加工に先立って行われるカッピング加工およびリドロー加工において側壁に偏肉が生じ、圧延方向およびそれと直角方向において側壁の厚さが数μm厚くなる。これを次工程のしごき加工において均一な厚さにしごく訳であるが、偏肉の部分では過大な変形抵抗が発生しこの抵抗がしごき中の薄い側壁に引張り応力としてかかるため破胴が発生し易い。高速製缶においては特にこの引張り応力が増大するため、耳率は2%以下、望ましくは1.5%以下に規制する必要がある。
【0018】
次に本発明における製造条件について説明する。
前記合金組成を有するアルミニウム合金を常法によりDC鋳造法(半連続鋳造法)により鋳造する。
次いで前記鋳塊に対し、必要に応じ面削後、Mnなどの添加元素のミクロ的偏析を拡散・消滅させ固溶原子の分布を均一化し耳率と破胴率を低下させるために、均質化処理を施す。本発明においては耳率を2%以下に制限するために、特に2段の均質化処理を施す。第1段の均質化処理温度が560℃未満、あるいは保持温度が3時間未満では冷間圧延材の耳率が大きく破胴率が高い。一方、均質化処理温度が630℃を超えると、鋳塊表面に膨れが発生したり鋳塊が溶融するなどの問題が生じ、また晶出化合物が粗大化するため製缶時にピンホールが発生する危険がある。第1段の均質化処理条件は590〜620℃の温度で6〜12時間の保持をするのが生産性と効果を考慮した上で最も好ましい。続いて第2段の均質化処理を施すが、これは第1段で均一に固溶させたMnを、晶出物とAlマトリクスの界面に析出させ、耳率を低下させるために施す。この第2段の均質化処理を施さずに熱間圧延した場合は、熱間粗圧延中にMnがAlマトリクス中に微細に析出し耳率低減に有利な立方体方位の再結晶粒の熱間仕上げ圧延工程での形成を妨害するため、冷間圧延材の耳率が大きく破胴率も高くなる。この第2段の均質化処理は、第1段の均質化処理が終了した後一旦室温まで冷却した後で施しても、或いは第1段の均質化処理が終了した後そのまま続けて施してもよい。第2段の均質化処理の温度が530℃を超えるか、あるいは保持温度が1時間未満では耳率低減効果が不十分であり、第2段の均質化処理の温度が400℃未満では鋳塊温度が低すぎるため熱間変形抵抗が増大し熱間圧延が困難となる。
【0019】
次いで上記の均質化処理の終了した鋳塊に対し熱間粗圧延を行う。熱間粗圧延は常法により、リバース式の熱間粗圧延機により行うが、その開始温度は400〜550℃の範囲で行う。熱間粗圧延開始温度が400℃未満では熱間変形抵抗性が大きく、熱間粗圧延が困難である。また熱間粗圧延開始温度が550℃を超えると、表面のはがれや焼き付きなどが多く表面品質が低下する。圧延開始温度の好ましい範囲は420〜450℃である。
【0020】
次いで熱間粗圧延終了後、3スタンド以上(好ましくは4〜5スタンド)のタンデム圧延機を使用し、熱間仕上げ圧延を施すが、その開始温度を300〜400℃、トータルの圧下率を85%以上、最終パスの圧延速度を250〜400メートル/分、コイル巻き取り温度が300〜330℃となるように圧延する。タンデム圧延機のスタンド数が2以下では熱間圧延による立方体方位の再結晶粒の発達が不十分であり冷間圧延板の耳率が高く高速製缶での破胴率も高い。熱間仕上げ圧延の開始温度が300℃未満ではエッジ割れのため熱間圧延が困難であり、400℃を超えると冷間圧延板の耳率が高いため破胴率が高い。またトータルの圧下率(仕上げ圧延開始⇒終了の板厚で定義)が85%未満か、最終パスの圧延速度が250メートル/分未満か、コイル巻き取り温度が300℃未満では、熱間圧延による立方体方位の再結晶粒の発達が不十分であり、冷間圧延板の耳率が高く高速製缶での破胴率も高い。また最終パスの圧延速度が400メートル/分を超えるか、コイル巻き取り温度が330℃を超えると表面品質が悪化する。
【0021】
熱間仕上げ圧延を終了した後、巻き取られた熱延コイルは、少なくとも250℃に達するまでは70℃/時間以下の冷却速度で徐冷する。これは熱延コイルの全長・全巾において完全に再結晶を完了させ、冷間圧延板の耳率と破胴率を低く押さえるため必要である。250℃までの冷却速度が70℃/時間を超えると部分的に非再結晶組織が残存し、耳率と破胴率が高い箇所が残る。また250℃以下ならばもはやそれ以上の再結晶は進行しないので冷却速度は特に規制する必要がない。なおこの冷却方法についてであるが、大型のコイルであれば熱容量が大きいため自然放冷しても本発明条件に入るが、小型のコイルの場合熱容量が小さく冷え易いので炉中冷却、或いは断熱材を被覆するなどの手段をとればよい。
【0022】
次いで高速製缶での破胴率を改善するために、熱間圧延中、およびその後の冷却中に析出した微細な MgSi析出物を固溶させて必要量の固溶Siを確保するための溶体化熱処理を行う。溶体化熱処理の温度が350℃未満では固溶Si量が不足、400℃を超えると冷間圧延板の強度が高すぎいずれも高速製缶での破胴率が高くなる。この溶体化処理は連続焼鈍炉で行うのが効率的であり、材料温度が350〜400℃に達した時点でSiは固溶するので保持は特に必要ではなく、材料温度が所要温度に達したら直ちに冷却しても良い。なお保持しても良いが、その場合は生産性を考慮すると概ね10分以内の保持が望ましい。但し、冷却速度は100℃までは、60℃/分以上とすることが必要である。これは冷却中に再び MgSiが析出し固溶Si量が減ずるのを防止するためであり、強制空冷、ミスト冷却、水冷などの手段で冷却すればよい。100℃までの冷却速度が60℃/分未満では、冷却中に再び MgSiが析出し固溶Si量が減じて高速製缶での破胴率が大きくなる。100℃まで冷却してしまえば、より低温での析出は殆ど起こらないと考えてよいので、100℃以下での冷却速度は特に制限しなくともよい。
【0023】
次いで常法により製品板厚まで最終冷間圧延を行う。この冷間圧延は缶胴として必要な耐圧強度を付与するために行う。最終冷間圧延率は60〜90%の範囲で1パスまたは複数のパスにより実施すれば良い。最終冷間圧延率が60%未満では耐圧強度が不足し、90%を超えると強度が高すぎ、破胴率が増加する。
【0024】
さらに最終冷間圧延後に必要に応じ仕上げ焼鈍を施す。この仕上げ焼鈍を実施する目的は、最終冷間圧延した素板の伸びが小さい場合に素板に適度な延性を付与しカップ底のしわやカップ割れの発生を防止するためである。但し仕上げ焼鈍を施す場合はその温度は130℃以下とする必要がある。仕上げ焼鈍温度が130℃を超えるとDI成形時に加工硬化し易くなり、破胴の発生頻度が増加する。仕上げ焼鈍を施す場合の望ましい条件は100〜120℃で1〜5時間である。
【0025】
さらに、必要に応じ、上記の最終冷間圧延合金板または最終冷間圧延後に仕上げ焼鈍を施した合金板に対し常法により洗浄、矯正、カッピング用潤滑油塗布を施す。これは当業者においては通常実施している仕上げ処理である。
以上に説明した製造方法によるアルミニウム合金板は高速しごき成形性が優れるため、特に高速製缶用のDI缶胴用材料として非常に好適である。
【0026】
【実施例】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)
本発明の実施例として表1に示すNo. A〜Fの組成の各種アルミニウム合金を、また比較例としてG〜Pの組成の各種アルミニウム合金を常法により溶解鋳造し、面削後、615℃で8時間の第1段均質化処理を施した後、500℃で2時間の第2段均質化処理を施した。次いでリバース式の熱間粗圧延機により開始温度430℃で厚さ490mmから25mmまで熱間粗圧延した。続いて4タンデム式の熱間仕上げ圧延機により開始温度350℃、終了板厚2mm(圧下率92%)、最終パスでの圧延速度300メートル/分、コイル巻き取り温度310℃で熱間仕上げ圧延した。その後250℃までに達する冷却速度が20℃/時間になるように放冷し、その後室温に達するまではファン空冷した。次いで連続焼鈍炉を使用し、380℃に達するまで750℃/分の加熱速度で加熱し、ただちに冷却した。この時、100℃に達するまでの冷却速度は550℃/分であった。その後、最終冷延を0.30mmまで施し(最終冷延率85%、冷延パス数は3回)、最後に常法により洗浄、矯正、カッピング用潤滑油の塗布を施し、DI缶胴用アルミニウム合金板とした。
【0027】
このようにして得られたアルミニウム合金板に対し、引張り試験によりベーク相当処理(205℃×20分)前後の強度を測定し、カップ耳率を測定し、また製缶ラインにて350ml容量のDI缶胴(側壁板厚105μm、最終第3しごき率40%)に製缶速度200缶/分と400缶/分の2通りの製缶速度で各100万缶を加工し、しごき割れの発生率を評価した。また製缶した缶の205℃×20分のベーク処理後の耐圧強度を水圧負荷法にて測定した。また熱フェノールにアルミニウム合金板を溶解し、固化防止のためベンジルアルコールを加えた後、ポアサイズ0.1μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液をICP分析装置で分析し、Si固溶量を測定した。また従来アルミニウム合金板としてNo. Q(熱延⇒冷延⇒CAL焼鈍⇒冷延工程によるもの)とNo. R(熱延⇒バッチ焼鈍⇒冷延工程によるもの)とNo. S(熱延⇒CAL焼鈍⇒冷延工程によるもの)を同時に製缶し比較した。以上の結果を表2に示す。
【0028】
【表1】
Figure 0003550259
【0029】
【表2】
Figure 0003550259
【0030】
表2から明らかなように、本発明組成であるNo. A〜Fは製缶速度200缶/分と400缶/分のいずれの条件においても破胴の発生率は2PPM以下と低く、製缶上も何の問題もない。これに対し、Mg量の少ないNo. Gはベーク後強度が低く従って耐圧強度が低く、Mn量の少ないNo. H、およびFe、Si量の少ないNo. Iはゴーリングが発生し金型が焼き付いたため連続した製缶が不可能であった。またTi、Bの無添加のNo. Jは鋳塊組織が粗く、缶にした時に肌荒れ状の外観不良が発生した。またMg量の多いNo. Kは破胴率が高く、Mn量の多いNo. Lはピンホールが発生し、Fe、Si、Ti、Bの多いNo. M、Nは破胴率が高くピンホールが発生した。またCu、Cr、Znの多いNo. O、Pは破胴率が高い。さらに従来材No. Q、R、Sは、組成は本発明範囲内ではあるが、固溶Si量、耳率、引張り強さのいずれかが外れ、400缶/分で高速製缶した時の破胴率が高い。
【0031】
(実施例2)
実施例1のNo. Dのアルミニウム合金を、常法により溶解鋳造し、面削後、均質化処理を施し、熱間圧延、焼鈍、冷間圧延、仕上げ焼鈍を施した。その詳細な条件を表3に示す。
【0032】
このようにして得たアルミニウム合金板を実施例1と同様に評価した。その結果を表4に示す。
【0033】
【表3】
Figure 0003550259
【0034】
【表4】
Figure 0003550259
【0035】
表4から明らかなように、本発明工程によるNo. 1〜8はいずれも固溶Si量、引張り強さ、耳率が所定範囲内であり、高速製缶した時の破胴率が低く、製缶上の問題点もない。これに対し、均質化処理条件の外れるNo. 9、10、11、12は耳率が高く破胴率が高い。また熱間粗圧延と熱間仕上げ圧延開始温度の高いNo. 13は缶の表面品質が劣り耳率も高く高速製缶での破胴率が高い。熱間仕上げ圧延を2スタンドで実施したNo. 14は耳率が高く破胴率が高い。熱間仕上げ圧延条件の外れるNo. 15、16、熱間圧延後の冷却の速いNo. 17は耳率が高く破胴率が高い。溶体化熱処理の無いNo. 18と溶体化熱処理温度の低いNo. 19はSi固溶量が低く高速での破胴率が高い。また溶体化熱処理温度の高いNo. 20、21はSi固溶量が高すぎ、やはり高速での破胴率が高い。溶体化熱処理後の冷却の遅いNo. 22はSi固溶量が低く高速での破胴率が高い。最終冷延率の低いNo. 23は耐圧強度が不足し、逆に最終冷延率が高すぎるNo. 24、25は引張り強さが高すぎ破胴率が高い。仕上げ焼鈍温度の高いNo. 26も破胴率が高い。
【0036】
【発明の効果】
以上に詳細に説明したように、本発明の製造方法によれば、高速製缶しても破胴発生率の低い、高速しごき成形性に優れたDI缶胴用アルミニウム合金板が得られ、缶の生産性を向上できるので工業上顕著な効果を奏する。

Claims (4)

  1. Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、固溶Si量が10〜100PPM、引張り強さが260〜310N/mm2 、耳率が2%以下であることを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板。
  2. Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、さらにCu、Cr、Znのうち1〜3種をそれぞれ0.3wt%以下含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、固溶Si量が10〜100PPM、引張り強さが260〜310N/mm2 、耳率が2%以下であることを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板。
  3. Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に560〜630℃で3時間以上、続いて400〜530℃で1時間以上の2段均質化処理を施した後、開始温度を400〜550℃にして熱間粗圧延を行い、続いて熱間仕上圧延を、3スタンド以上のタンデム圧延機を使用し、開始温度を300〜400℃、圧下率を80%以上、最終パスの圧延速度を250〜400メートル/分、コイル巻取り温度を300〜330℃にして行い、コイル巻取り後少なくとも250℃に達するまでの冷却を70℃/時間以下の速度で徐冷して完全に再結晶させ、続いて350〜400℃に加熱後100℃まで60℃/分以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施し、さらに圧下率60〜90%の最終冷間圧延を施し、その後必要に応じ130℃以下で仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
  4. Mg0.7〜1.3wt%、Mn0.8〜1.3wt%、Fe0.3〜0.7wt%、Si0.1〜0.5wt%、Ti0.005〜0.05wt%を単独で、もしくはB0.0001〜0.1wt%と組み合わせて含有し、さらにCu、Cr、Znのうち1〜3種をそれぞれ0.3wt%以下含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に560〜630℃で3時間以上、続いて400〜530℃で1時間以上の2段均質化処理を施した後、開始温度を400〜550℃にして熱間粗圧延を行い、続いて熱間仕上圧延を、3スタンド以上のタンデム圧延機を使用し、開始温度を300〜400℃、圧下率を80%以上、最終パスの圧延速度を250〜400メートル/分、コイル巻取り温度を300〜330℃にして行い、コイル巻取り後少なくとも250℃に達するまでの冷却を70℃/時間以下の速度で徐冷して完全に再結晶させ、続いて350〜400℃に加熱後100℃まで60℃/分以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施し、さらに圧下率60〜90%の最終冷間圧延を施し、その後必要に応じ130℃以下で仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする高速しごき成形性の優れたDI缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
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