JP3547288B2 - スペクトルのピーク判定方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、EPMA、Auger分析装置、ESCA、蛍光X線分析装置等の分析機器より得られたスペクトルのピーク判定方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
種々の分析装置を用いた測定において、得られたスペクトルから正確なピークの検出を行うことは分析精度の向上という観点から非常に重要である。
【0003】
従来、スペクトルのピークの検出は、測定の結果得られたスペクトルあるいはそれを平滑化処理したスペクトル(以下、これらを総称して原スペクトルと称する)を2次微分して2次微分スペクトルを得、その2次微分スペクトルの負側のピークが閾値以下になったものについてのみ、原スペクトルの当該位置にピークが存在するものとしていたので、半値幅の広いなだらかなピークが検出されない場合があった。
【0004】
その例を図2を参照して説明する。いま原スペクトルが図2(a)に示すようであり、その2次微分スペクトルが図2(b)に示すようであったとする。なお、図2(a)、(b)の横軸は、当該原スペクトルを得るために用いた分析装置の種類によって異なる。例えば、原スペクトルがEPMAや蛍光X線分析装置によって得られたものであれば、横軸は検出されたX線の波長またはエネルギーを表し、Auger分析装置によって得られたものであれば横軸は検出されたAuger電子のエネルギーを表し、ESCAによって得られたものであれば横軸は束縛エネルギーを表す。また、縦軸は通常は強度あるいはカウント値を表すが、その他のものである場合もあり得る。
【0005】
さて、原スペクトルで上に凸になっている部分は、2次微分スペクトルでは負側に凸になる性質がある。図2(a)、(b)においては、原スペクトルで上に凸になっているP1 に対しては2次微分スペクトルの同一位置に負側に凸であるP1′ が現れ、同様に原スペクトルの上に凸になっているP2 ,P3 ,P4 に対しても2次微分スペクトルの同一位置に負側に凸であるP2′ ,P3′ ,P4′ が現れている。
【0006】
そこで、図2(b)に示すように、2次微分スペクトルの値を、図中一点鎖線で示す閾値と比較するのである。閾値が負の値であることは当然である。この閾値は適宜な手法によって定めることができる。例えば、負の一定値としてもよいし、他の従来知られている手法によって定めてもよい。
【0007】
そして、2次微分スペクトルの負側に凸になっている部分の極小値が閾値以下になっているものについては、原スペクトル中の当該極小値の位置に、ノイズではない有意なピークがあると判定するのである。従って、図2(b)においては、原スペクトル中において、P2′ とP3′ の位置にピークがあると判定されることになる。
【0008】
これに対して、図2(a)の原スペクトルを見れば、P1 ,P4 の位置にもピークがあると判断されるのであるが、これらの位置における2次微分スペクトルP1′ ,P4′ の値は閾値より大きいので、P1 ,P4 の位置に有意のピークがあるとは判定されないのである。
【0009】
このように、従来のピーク判定法では、図2(a)のP2 ,P3 のように半値幅の小さいピークは検出されるのであるが、P1 ,P4 のように半値幅の広いピークは検出されない場合があるのである。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものであって、半値幅の広い、なだらかなピークをも検出することができ、以て分析精度の向上を図ることができるスペクトルのピーク判定方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明のスペクトルのピーク判定方法は、2次微分スペクトルの負側に凸の部分の極小値が閾値以下であるものについては原スペクトルの当該位置にピークが存在すると判定し、2次微分スペクトルの負側に凸の部分の極小値が閾値以下でないものについては、その負側に凸の部分の負の部分の面積に基づいて原スペクトルの当該位置におけるピークの有無を判定することを特徴とする。ここで、閾値としてはノイズ標準偏差値を用いることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ実施の形態について説明する。
まず、測定の結果得られたスペクトルを平滑化すると共に、2次微分スペクトルを得る。スペクトルの平滑化は、スペクトルの各点の回りにピークの平均半値幅程度の数の平滑化点をとって行う、サビツキー−ゴーレイ(Savitzky−Golay)法を用いればよい。これによれば、スペクトルの回りにとる平滑化点の数を 2m+1 (mは自然数)、スペクトルのステップ幅をt、スペクトル中のピーク半値幅をwとすると、mは
m=[w/t] …(1)
程度とすればよいことが知られている。ここで、[]は括弧内の整数部分を取るガウス記号を示す。
【0013】
さて、測定の結果得られたスペクトルの各点の値をpi (i=1,2,…,n)とすると、平滑化されたスペクトルの各点の値si は、平滑化フィルタによって定まる係数をfとして
【0014】
【数1】
【0015】
で与えられる。同様に2次微分スペクトルの各点の値di は、2次微分フィルタによって定まる係数をgとして
【0016】
【数2】
【0017】
で与えられる。
【0018】
次に、閾値を定める。この閾値は従来と同様に定めることができることは当然であるが、ここではノイズ標準偏差値Ti を用いるものとする。ノイズ標準偏差値Ti は次のようにして求めることができる。
【0019】
さて、(2) 式と(3) 式から
【0020】
【数3】
【0021】
が得られる。なお、Ajk=gjfkである。
【0022】
ここで、di の分散をσi 2、pi の分散をδi 2とすると、pi は互いに独立であると仮定すれば、誤差伝搬の関係から
【0023】
【数4】
【0024】
となる。なお、pi は互いに独立であるという仮定は厳密には正しくないが、ノイズ標準偏差値を求める計算には実際上差し支えないものである。ここで、測定が統計的な事象であることを利用すれば、
【0025】
【数5】
【0026】
となるから、
【0027】
【数6】
【0028】
で与えられることになる。この(7) 式を計算するのは容易ではないが、平滑化されたスペクトルの各点の値si と、測定によって得られたスペクトルpi とは大きな変化がないのが通常であるので
si ≒pi …(8)
としても大きな誤りはなく、しかも上述したようにpi は互いに独立であると仮定することができるのと同様に、si も互いに独立であると仮定することができるので、(3) 式から2次微分スペクトルの分散σi 2は、
【0029】
【数7】
【0030】
としてよく、従って、2次微分スペクトルの標準偏差σi は
【0031】
【数8】
【0032】
で与えられることになる。
そして、正の係数aを導入して、ノイズ標準偏差値Ti を次のように定める。
【0033】
【数9】
【0034】
このノイズ標準偏差値Ti を閾値として用いるのである。ここで、正の係数aは経験的、実験的に定めればよいが、通常は 0.5〜 3程度の範囲で設定すればよいことが確認されている。
【0035】
次に、ピークの判定について説明する。いま、平滑化したスペクトルが図1(a)に示すようであり、その2次微分スペクトルが図1(b)に示すようであるとする。なお、図1(a)に示すスペクトルは図2(a)に示す原スペクトルと同じであり、図1(b)に示す2次微分スペクトルは図2(b)に示す2次微分スペクトルと同じである。図1(b)では閾値は直線で示されているが、ノイズ標準偏差値Ti を結ぶ線は実際には曲線になる。
【0036】
さて、まず、2次微分スペクトルの負側に凸になっている部分の極小値をピークの候補点として、各ピーク候補点について、その負側の面積を求める。従って図1(b)の場合、P1′,P2′,P3′,P4′の位置がピークの候補点として抽出され、これらの候補点について図1(b)の斜線部で示すように、その負側の面積を求める。ここでは候補点P1′,P2′,P3′,P4′の部分の負側の面積をそれぞれS1 ,S2 ,S3 ,S4 とする。
【0037】
そして、ピークの候補点が次の▲1▼、▲2▼の何れか一方の条件を満足する場合に平滑化されたスペクトルの当該候補点の位置にピークが存在すると判定する。
【0038】
▲1▼ピークの候補点の値が閾値以下である場合。これは従来と同じ判定条件である。
従って、図1(b)に示す場合には、この条件によってピークの候補点P2′、P3′の位置にピークが存在すると判定される。
【0039】
▲2▼ピークの候補点の値が閾値より大きい場合であっても、当該候補点の部分の負側の面積が、▲1▼の条件でピークがあると判定された位置の部分の負側の面積の最大もしくは最小あるいはそれらの平均のものの所定係数倍以上である場合。
【0040】
例えば、▲1▼の条件を満足しないあるピークの候補点の部分の負側の面積をSx とし、▲1▼の条件でピークがあると判定された位置の部分の負側の面積の最大のものをSMAX としたとき、
Sx ≧b・SMAX …(12)
を満足する場合には、平滑化されたスペクトルの当該候補点の位置にピークが存在すると判定するようにするのである。ここで、bは正の係数であり、この値は実験的、経験的に設定すればよい。
【0041】
また、▲1▼の条件を満足しないあるピークの候補点の部分の負側の面積をSx とし、▲1▼の条件でピークがあると判定された位置の部分の負側の面積の最小のものをSMIN としたとき、
Sx ≧c・SMIN …(13)
を満足する場合に、平滑化されたスペクトルの当該候補点の位置にピークが存在すると判定するようにしてもよい。ここで、cは正の係数であり、この値は実験的、経験的に設定すればよい。
【0042】
更には、▲1▼の条件を満足しないあるピークの候補点の部分の負側の面積をSx とし、▲1▼の条件でピークがあると判定された全ての位置の部分の負側の面積を合計した値をSTOT としたとき、
Sx ≧d・STOT …(14)
を満足する場合に、平滑化されたスペクトルの当該候補点の位置にピークが存在すると判定するようにしてもよい。ここで、dは正の係数であり、この値は実験的、経験的に設定すればよい。
【0043】
また更には、以上の3つの条件の他にも負側の面積について適宜な条件を設定することも可能であることは当然であり、それらの条件の何れか一つを▲2▼の条件とすればよい。従って、図1(b)に示す場合、P1′,P4′の二つのピークの候補点は▲1▼の条件は満足しないが、▲2▼の条件は満足する可能性があり、平滑化されたスペクトルの当該候補点の位置にピークが存在すると判定される場合があることになる。
【0044】
以上のようであるので、上述した処理を行うプログラムを作成して種々の分析装置に搭載し、測定の結果得られたスペクトルに対して上述した処理を実行させることによって、従来では検出されなかった半値幅の広いなだらかなピークをも検出することが可能となるので分析精度の向上を図ることができるものである。
【0045】
なお、上述したような方法でノイズ標準偏差値が計算できるのは、信号検出の際、確率事象に基づいてノイズが発生する場合であり、本発明はそれに当てはまるEPMA、Auger分析装置、ESCA、蛍光X線分析装置等の分析機器より得られたスペクトルのピーク判定に適用することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記の説明では測定の結果得られたスペクトルを平滑化するものとしたが、これは必須の要件ではなく省略することも可能である。その場合には(3) 式のsi+j としてはpi+j を用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るスペクトルのピーク判定方法を説明するための図である。
【図2】従来のスペクトルのピーク判定方法を説明するための図である。
Claims (2)
- 2次微分スペクトルの負側に凸の部分の極小値が閾値以下であるものについては原スペクトルの当該位置にピークが存在すると判定し、
2次微分スペクトルの負側に凸の部分の極小値が閾値以下でないものについては、その負側に凸の部分の負の部分の面積に基づいて原スペクトルの当該位置におけるピークの有無を判定する
ことを特徴とするスペクトルのピーク判定方法。 - 閾値はノイズ標準偏差値であることを特徴とする請求項1記載のスペクトルのピーク判定方法。
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