JP3544032B2 - ポリビニルアルコール系重合体組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はポリビニルアルコール系重合体組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般にポリビニルアルコール系重合体(以下PVAと略する)としては平均粒径200〜1000μmの粉末状PVAが工業的に生産されている。
PVAは造膜性および強度に優れていることから、紙用コーティング剤(クリアーコーティング剤,顔料コーティング剤)および紙用内添剤などの紙用改質剤;紙,木材および無機物などの接着剤;経糸糊剤;およびセメントなど無機質成形物やモルタル用改質剤など各種用途に幅広く使用されている。
【0003】
通常PVAは水溶液の形態で使用されるが、高剪断速度での塗工においては粘度上昇,塗膜のスジ状化および塗工液の飛散などの問題が生じることから、小粒径のPVAを用いた水性スラリーの検討が行われてきた。また、一方で、セメントのような無機質成形物の製造方法に代表される抄造方法においては水性スラリー中のPVA粒子からPVAが液相部へ溶出し、成形物中への歩留まりが悪くなったり、排水へPVAが流出するなどの問題が生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、実質的に冷水(または温水)には不溶であって、溶出率が極めて少なく、且つ熱水に対しては速やかに溶解するPVA系重合体粉末と、石灰質粉末とからなるPVA系重合体組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、PVA系粉末100重量部に対して石灰質粉末を2重量部以上含有し、該PVA系粉末の40℃の水への溶出率が2%以下であるPVA系重合体組成物を見いだし、本発明を完成させた。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明のPVA系重合体組成物はPVA系粉末100重量部に対して石灰質粉末が2重量部以上含有されていることが必要である。石灰質粉末が2重量部より少ないと、PVA系粉末の冷水への溶出率の低減に関する効果が充分に発現しないため好ましくない。冷水への溶出率の低減の観点から、石灰質粉末の含有量の下限の好適な範囲は10重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、100重量部以上が最も好ましい。石灰質粉末の含有量の上限には特に制限はないが、10000重量部以下が好ましく、1000重量部以下がより好ましい。
本発明における石灰質粉末とは、普通ポルトランドセメント,生石灰、消石灰などの中から1種以上が用いられる。この際に、シリカ質粉末を本発明の特徴を損なわない範囲で添加してもよい。
【0007】
本発明に使用されるPVAはその製法に特に制限はない。一般には、ポリビニルエステルの加水分解あるいはアルコリシスによって製造される。ポリビニルエステルとしては、ビニルエステルの単独重合体、2種以上のビニルエステルの共重合体およびビニルエステルと他のエチレン性不飽和単量体との共重合体が含まれる。ここで、ビニルエステルとしては、ギ酸ビニル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,バーサティック酸ビニル,ピバリン酸ビニル等が使用できるが、その中でも工業的には安価な酢酸ビニルが一般的に用いられる。本発明に用いられるPVAは、他の単量体と共重合を行ってもよく、また連鎖移動剤を使用してポリマー末端を修飾したものも使用できる。ビニルエステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、ビニルエステルと共重合可能なものであれば特に制限はなく、α−オレフィン,ハロゲン含有単量体,カルボン酸含有単量体,(メタ)アクリル酸エステル,ビニルエーテル,スルホン酸基含有単量体,アミド基含有単量体,アミノ基含有単量体,第4級アンモニウム塩基含有単量体,シリル基含有単量体,水酸基含有単量体,アセチル基含有単量体等が挙げられる。
【0008】
本発明におけるPVAの重合度および鹸化度には制限は無く、目的に応じて最適な鹸化度および重合度に設定されたものを使用することができる。
重合度の好適な範囲は500〜20000であり、これより低いと冷水での溶出が多くなり、これより高いと熱水での溶解性が悪くなる等の問題が生じる。重合度のより好適な範囲は1000〜18000であり、1500〜8000が最も好ましい。
鹸化度の好適な範囲は80〜100モル%であり、80モル%より低いと冷水で溶出が多くなったり、熱水に不溶になる等の問題が生じる。鹸化度のより好適な範囲は88〜100モル%であり、95〜100モル%が最も好ましい。
【0009】
本発明におけるPVAの形状に制限はないが、粒子径がJIS標準ふるいで32メッシュパスであること、すなわち、最大粒径がJIS標準ふるい32メッシュパス(500μm以下)であることが好ましい。32メッシュパスより大きい粗粒の場合には、熱水での溶解性が悪くなったり、成形物に添加した場合に成形物に欠陥を生じ、強度の低下や外観が悪化する等の悪影響を及ぼしたり、PVAを添加することによるバインダー効果や改質効果が充分に発現しないなどの問題が生じ好ましくない。
最大粒径は42メッシュパス(350μm以下)がより好ましく、さらには60メッシュパス(250μm以下)が最も好ましい。
一方、粒径が極めて小さくなると低温(冷水または温水)での溶出が多くなる等の問題が生じ、あまり好ましくない。最小粒径は350メッシュオン(44μm以上)が好ましく、200メッシュオン(75μm以上)がより好ましく、140メッシュオン(106μm以上)が最も好ましい。
【0010】
上記の粒子径に調節する方法には制限はなく、例えば、乾式粉砕,湿式粉砕,ジェットミル等を用いて機械的に粉砕する方法やPVA水溶液をスプレードライすることによって得る方法、PVA溶液を非溶媒に添加してPVAを沈殿する方法等がある。これらの中でも乾式粉砕や湿式粉砕のような機械的粉砕方法がそのプロセスの簡便さから好んで用いられている。
【0011】
本発明のPVA系重合体組成物の製造方法としては、PVA粉末と石灰質粉末を混合した後、エージングすることが好ましい。
エージング条件としては、下記の条件が好ましい。
(1)エージング温度が80℃未満の場合には、1日間以上行うことが必要である。エージング時間の好適な範囲は、温度条件によっても異なるが、2日間以上が好ましく、10日間以上がより好ましい。また室温付近以下の温度でエージングを行う場合には、30日間以上エージングすることが好ましい。エージング温度の下限には制限はないが、冷水に対する溶出率を低減する目的からは10℃以上が好ましい。
(2)エージング温度が80℃以上の場合には、10分間以上行うことが必要である。この際のエージング温度の上限には特に制限はないが、PVAの熱劣化等の観点から、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。エージング時間の上限には特に制限はなく、エージング温度における最適な時間を設定できる。しかし、PVAの熱劣化などの観点から20日間以下であることが好ましい。
(3)上記の(1)と(2)の条件を併用する条件も可能である。
上記の(1)〜(3)のエージング方法に制限はなく、ロータリーキルンのような撹拌下で行ってもよいし、静置下で行ってもよい。
【0012】
本発明のPVA組成物の特徴は、比較的低温の水に分散させた時にPVAの溶出が極めて少なく、且つ熱水での溶解性が良好なことにある。
低温での溶出率は、40℃の水に分散させた時に、2.0%以下であることが必要であり、1.0%以下がより好ましく、最も好ましくは0.8%以下である。低温での溶出率が2.0%よりも大の場合には、PVA粒子を含む水性スラリーを抄造方法などによって成形する際の歩留まりの低下や濾液中にPVAが混入することによって排水処理が必要になる等の問題が生じる。
熱水での溶解性には特に制限はないが、70℃の水に50%以上溶解することが好ましく、80%以上溶解することがより好ましく、90%以上溶解することが最も好ましい。70℃における溶解率が50%未満の場合には、PVAを添加することによるバインダー効果や改質効果が低下し、好ましくない。
【0013】
本発明において溶出率(溶解率)とは、下記の式で導き出されるものである。
溶出率、溶解率(%)={(水相に溶出また溶解したPVAの重量)÷(水に分散させたPVAの重量)}×100
【0014】
本発明において、本発明の特徴を損なわない範囲で、酸化防止剤,紫外線吸収剤,滑剤,着色剤,熱安定剤,可塑剤,防腐剤,防かび剤,PVAに対する凝集剤やゲル化剤,無機塩類,繊維質材料,無機鉱物,あるいは他の高分子化合物を加えて使用してもよい。
【0015】
本発明のPVA組成物は、実質的に冷水(または温水)には不溶であって、溶出率が極めて少なく、且つ熱水に対しては速やかに溶解するPVA系重合体粉末と、石灰質粉末とからなる組成物であり、セメントなど無機質成形物やモルタル用改質剤など各種用途に有用である。
【0016】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例によりなんら制限されるものではない。尚、以下で「部」および「%」は特に断りのない限り、それぞれ「重量部」および「重量%」である。
実施例に示す物性値は以下の方法により測定した。
[低温溶出率]
40℃の水400gにPVAの濃度が2%となるように分散させ、30分間撹拌した後、ガラス繊維濾紙(アドバンテック GA−100)を使用し吸引濾過した濾液のPVA濃度を測定し、下記の式に基づき溶出率を測定した。
溶出率(%)={(濾液のPVA濃度)÷(仕込みPVAが完溶したときの濃度)}×100
[熱水溶解率]
水温が70℃であること以外は上記の低温溶出率の測定方法と同じ。
[粒子径]
JIS標準ふるいで1時間振盪し、目的とする最大粒径と最小粒径の範囲のPVA粒子を得た。
【0017】
実施例1
平均重合度1750,鹸化度99.7モル%のポリビニルアルコールを粉砕し、JIS標準ふるいで80メッシュパス〜200メッシュオンのPVA粒子を分級した。該PVA粒子100重量部に対して普通ポルトランドセメント100重量部を均一に混合し、120℃で30分間,室温(以下RTと略する)で30日間エージングしてPVA組成物を得た。
このPVA組成物の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0018】
実施例2
エージング条件が70℃で10日間,室温で15日間であること以外は、実施例1と同じ方法でPVA組成物を得た。
このPVA粒子の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0019】
実施例3
エージング条件が30℃で60日であること以外は実施例1と同じ方法でPVA組成物を得た。
このPVA粒子の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0020】
実施例4
実施例1と同じPVAを使用し、粒径がJIS標準ふるいで80メッシュパス〜200メッシュオンのPVA粒子を分級した。該PVA粒子100重量部に対して普通ポルトランドセメント50重量部を均一混合し、140℃で30分間,さらに室温で2時間エージングした。
このPVA粒子の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0021】
比較例1
平均重合度1750,鹸化度99.7モル%のポリビニルアルコールを粉砕し、JIS標準ふるいで80メッシュパス〜200メッシュオンのPVA粒子を分級してPVA粉末を得た。
このPVA粒子の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0022】
比較例2
平均重合度1750,鹸化度99.7モル%のポリビニルアルコールを粉砕し、JIS標準ふるいで80メッシュパス〜200メッシュオンのPVA粒子を分級し、120℃で30分間熱処理しPVA粉末を得た。
このPVA粉末の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0023】
比較例3
エージングを70℃で2時間行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPVA組成物を得た。
このPVA粉末の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0024】
比較例4
ポルトランドセメントがPVA100重量部に対して1重量部であること以外は、実施例1と同じ方法でPVA組成物を得た。
このPVA粉末の低温溶出率と熱水溶解率を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【発明の効果】
本発明のPVA系重合体組成物は、実質的に冷水(または温水)には不溶であって溶出率が極めて少なく、且つ熱水に対しては速やかに溶解するPVA系重合体粉末と石灰質粉末とからなり、セメントなど無機質成形物やモルタル用改質剤など各種用途に有用である。
Claims (3)
- ポリビニルアルコール系粉末100重量部に対して石灰質粉末を2重量部以上含有し、該ポリビニルアルコール系粉末の40℃の水への溶出率が2%以下であるポリビニルアルコール系重合体組成物。
- ポリビニルアルコール系重合体粉末と石灰質粉末の混合物を80℃以上の温度で10分間以上エージングすることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール重合体組成物の製造方法。
- ポリビニルアルコール系重合体粉末と石灰質粉末の混合物を80℃未満の温度で1日間以上エージングすることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール重合体組成物の製造方法。
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