JP3543112B2 - カルバミン酸エステルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、二酸化炭素とアミン及びアルコールを用いてカルバミン酸エステルを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリウレタンは、年間500万トン以上の需要がある有用な化合物である。
従来、このものは、アミンとホスゲンから合成されるイソシアナートをアルコールと反応させる方法によって製造されている。しかし、ホスゲンは猛毒であり、またホスゲンの反応では塩酸が多量に発生するため、より環境に優しい合成法の開発が強く望まれていた。
【0003】
ホスゲンを用いないイソシアナートの製造方法としては、カルバミン酸エステルを熱分解する方法が有効とされている。このカルバミン酸エステルの合成方法としては、(1)ニトロ化合物をアルコール存在下に一酸化炭素と反応させる方法、(2)アミンをアルコール存在下に一酸化炭素と反応させる方法、(3)アミン及び有機ハロゲン化合物と二酸化炭素を反応させる方法等が知られている (Journal of Organic Chemistry誌、1999年、64巻、3940頁、およびその引用文献)。
【0004】
しかし、上記(1)及び(2)の反応では毒性ガスである一酸化炭素を加圧下に使用するため、製造設備の維持管理や作業員の安全確保に多大なコストと労力を要し、また(3)の方法ではカルボニル源が二酸化炭素であるが、イソシアナート一分子を合成するのに一分子の有機ハロゲン化物を消費し、かつ一分子のハロゲン化水素が副生するという欠点等があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来のカルバミン酸エステルの合成における上記の問題点を克服し、二酸化炭素を原料としてハロゲンを用いずに、高収率・高選択率でウレタン類を与える工業的に有利なウレタン類の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記従来法の問題点を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ハロゲン化合物を用いずに二酸化炭素からカルバミン酸エステルを製造する方法として、好ましくは、金属触媒の存在下に、アミン及びアルコールと二酸化炭素を反応させる方法が有効であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
第一に、下記一般式(I)で表されるアミンと下記一般式(II)で表されるアルコールと二酸化炭素とを反応させることを特徴とする下記一般式(III)で表されるカルバミン酸エステルの製造方法が提供される。
R1R2NH (I)
(式中、R1は炭化水素基を、R2は炭化水素基又は水素を表す。)
R3OH (II)
(R3は炭化水素基を表す。)
R1R2NC(=O)OR3 (III)
(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ。)
第二に、第一の方法を、金属触媒の存在下で実施することを特徴とするカルバミン酸エステルの製造方法が提供される
第三に、第二の方法において、金属触媒がスズ又はニッケル化合物であることを特徴とするカルバミン酸エステルの製造方法が提供される。
第四に、第一乃至第三何れかの方法を、脱水剤の存在下で実施することを特徴とするカルバミン酸エステルの製造方法が提供される。
第五に、第四の方法において、脱水剤が下記一般式(IV)で表されるアセタール、又はモレキュラシーブであることを特徴とするカルバミン酸エステルの製造方法が提供される。
R4R5C(OR3)2 (IV)
(式中、R4、R5は炭化水素基又は水素を表す。R3は前記と同じ。)
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のカルバミン酸エステルの製造方法は、前記一般式(I)で表されるアミンと前記一般式(II)で表されるアルコールと二酸化炭素とを反応させることを特徴としている。
この反応工程は、基本的には下記反応式で表わされる。
R1R2NH + CO2 + R3OH → R1R2NC(=O)OR3
(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ。)
【0009】
本発明で用いられるアミンは前記一般式(I)で表されるが、式中、R1は脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基であり、またこれらの炭化水素基は二酸化炭素やアルコールと反応しない置換基、例えばアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等で置換されていてもよい。R2は脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基または水素であり、またこれらの炭化水素基は二酸化炭素やアルコールと反応しない置換基、例えばアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等で置換されていてもよい。
【0010】
このようなアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、t−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等が例示される。
【0011】
本発明で用いることのできるアルコールは前記一般式R3OH で表されるが、式中、R3は脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基等の炭化水素基であり、またこれらの炭化水素基は二酸化炭素やアミンと反応しない前記置換基で置換されていても良い。好ましくは脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基である。具体的には例えばメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0012】
このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキサノールなどの脂肪族または脂環式アルコールなどが挙げられる。
本発明においては、前記の一価のアルコールの他にジオールなどの多価アルコールを用いてもよい。
【0013】
本発明においては、上記エステル化反応は、好ましくは金属触媒の存在下で行われる。
金属触媒の金属原子に特に制限はないが、周期律表第4族(チタン、ジルコニウム、ハフニウム等)、第10属(ニッケル、パラジウム、白金)及び第14族(ゲルマニウム、スズ、鉛等)に含まれる金属原子が好ましく、更に好ましくは第10族及び第14属の金属原子、特にスズ及びニッケルが好ましい。
【0014】
金属触媒の化合物形態に特に制約はないが、有機金属アルコキシド、有機金属酸化物として用いるのが好ましい。
有機金属アルコキシドとしては一般式R6 3−mM(OR7)1+mで表わされるものが好適に用いられる。
(式中、R6はアルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアリール基を表わし、R7はアルキル基を表わし、Mは前記金属原子を表わし、mは0〜3の整数を表わす。)
R6で表されるされるアルキル基は、鎖状、環状のいずれでもよく、直鎖でも分枝鎖でもよいが、好ましくは低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4である。具体的には例えば、メチル、エチル、n−ブチル、イソプロピル、ヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。R6で表わされるアラルキル基は好ましくは炭素数7〜12であり、具体的にはベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、2−ナフチルエチルなどが挙げらる。R6で表わされるアルケニル基は好ましくは炭素数2〜10であり、鎖状、環状のいずれでもよい。具体的には例えばシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、インデニル、ビニル、アリルなどが挙げられる。R6で表わされるアリール基は、好ましくは炭素数6〜14であり、例えばフェニル、トリル、アニシル、ナフチルなどが挙げられる。R7で表わされるアルキル基は好ましくは低級アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4である。具体的には例えばメチル、エチル、n−ブチル、イソプロピル、ヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。Mで表わされる金属原子としては、特に制限はないが、スズが好ましい。また、これらの金属化合物は上記構造を単位とする会合体であってもよい。
有機金属アルコキシドの具体例としては、ジメチルスズジメトキシド、ジエチルスズジメトキシド、ジイソプロピルスズジメトキシド、ジブチルスズジメトキシド、ジフェニルスズジメトキシド、トリブチルスズメトキシド、トリメチルスズエトキシド等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
その他様々な金属化合物が触媒として好適に用いらるが、そのような具体例としては、例えば、酸化スズ(II)、ジメチルスズクロリド、トリブチルスズクロリド、よう化スズ、塩化スズ(II)、酢酸スズ(II)、ニッケル(II)アセチルアセトナート、金属スズなどが例示される。
【0015】
有機金属酸化物としては、一般式(R8)2MOで表わされるものが好適に用いられる。
(式中、R8はアルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアリール基を表わし、Mは金属原子を表わす。)
R8で表わされるアルキル基は、鎖状、環状のいずれでもよく、直鎖でも分枝鎖でもよいが、好ましくは低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4である。具体的には例えば、メチル、エチル、n−ブチル、イソプロピル、ヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。R8で表わされるアラルキル基は好ましくは炭素数7〜12であり、具体的にはベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、2−ナフチルエチルなどが挙げらる。R8で表わされるアルケニル基は好ましくは炭素数2〜10であり、鎖状、環状のいずれでもよい。具体的には例えばシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、インデニル、ビニル、アリルなどが挙げられる。R8で表わされるアリール基は、好ましくは炭素数6〜14であり、例えばフェニル、トリル、アニシル、ナフチルなどが挙げられる。Mで表わされる金属原子としては、特に制限はないが、スズが好ましい。また、これらの有機金属酸化物は上記構造を単位とする会合体であってもよい。有機金属酸化物の具体例としては、ジメチルスズオキサイド、ジエチルスズオキサイド、ジイソプロピルスズオキサイド、ジブチルスズオキサイド、ジフェニルスズオキサイド等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
また、本発明においては、脱水剤の存在下で反応を行うことが好ましい。
脱水剤としては、従来公知の脱水剤が全て使用でき、これらの具体例としては、例えば、一般式(IV)で示されるアセタールなど有機系脱水剤、モレキュラーシーブ(3A)、モレキュラーシーブ(4A)等のゼオライト類、塩化カルシウム(無水)、硫酸カルシウム(無水)、塩化マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム(無水)、炭酸カリウム(無水)、硫化カリウム(無水)、亜硫化カリウム(無水)、硫酸ナトリウム(無水)、亜硫酸ナトリウム(無水)、硫酸銅(無水)などの無機無水塩類等が挙げられる。
【0017】
一般式(IV)で示されるアセタールとしては、2,2−ジメトキシプロパン、2,2−ジエトキシプロパン、1,1−ジメトキシシクロヘキサン、ジメトキシフェニルメタン、1,1−ジメトキシエタンなどが挙げられる。
【0018】
本発明で好ましく使用される脱水剤は、2,2−ジメトキシプロパン、2,2−ジエトキシプロパン、1,1−ジメトキシシクロヘキサン、ジメトキシフェニルメタン、1,1−ジメトキシエタンなどのアセタール及びモレキュラーシーブ(3A)、モレキュラーシーブ(4A)等である。
【0019】
本発明の反応の反応温度は特に制限はないが、室温〜300℃、好ましくは150〜250℃である。反応圧力は特に制限なく、反応に使用する耐圧装置の製造コストなどによって定められるが、通常1〜1000気圧、好ましくは50〜500気圧更に好ましくは100〜300気圧であり、収率向上の観点からできるだけ高圧下で行うのが好ましい。
反応時間は用いる原料であるアミンやアルコールの種類、反応温度、反応圧力など諸条件により異なるが、1〜100時間で充分である。
【0020】
また、本発明の反応は、特に溶媒を必要としないが、反応を阻害しないような溶媒を用いることもできる。このような溶媒としては、例えば、炭化水素類、エーテル類などが挙げられ、具体的には、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどが例示される。
【0021】
本発明方法は、バッチ式あるいは連続式の何れの方式でも実施可能である。
バッチ方式は、例えば、次のようにして行われる。
攪拌装置を具備したオートクレーブに、アミン、アルコール、触媒及び脱水剤を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスをボンベ圧まで充填し、密封する。その後、オートクーブ内を攪拌しながら設定温度まで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより内圧を調整し、所定時間反応させた後、生成するカルバミン酸エステルを所望の手段で分離する。
連続方式の場合は次のようにすればよい。
攪拌装置を具備したオートクレーブに、アミン、アルコール及び触媒を仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスをボンベ圧まで充填し、密封する。別途に脱水剤を脱水塔に充填する。オートクレーブを冷却装置、高圧循環ポンプ及び脱水塔に連結し、循環システムを構築する。その後、オートクーブ内を攪拌しながら設定温度まで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより内圧を調整後、高圧ポンプにより反応液を所定時間循環させた後、生成するカルバミン酸エステルを適宜、所望の手段で分離する。
【0022】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0023】
実施例1(バッチシステム)
撹洋装置を具備した20m1容積の窓付きオートクレーブに、t−ブチルアミン 10mmol、2,2−ジエトキシプロパン20mmol、エタノール100mmol及びジブチルスズオキシド(触媒)0.2mmolを仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスを充填し、密封した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ200℃にまで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより、内圧を300気圧に昇圧後、24時間反応させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した。N−ブチルエチルカーボメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で71.6%であった。
【0024】
実施例2(連続システム)
攪拌装置を具備した20m1容積の窓付きオートクレーブに、t−ブチルアミン 10mmol、メタノール100mmol及びジブチルスズオキシド(触媒)0.2mmolを仕込んだ後、炭酸ガスボンベから液化炭酸ガスをボンベ圧まで充填し、密封した。別途にモレキュラーシーブ3A(脱水剤)12gを脱水塔に充填した。オートクレーブを冷却装置、高圧循環ポンプ及び脱水塔に連結し、循環システムを構築した。その後、オートクレーブ内を攪拌しつつ200℃にまで加熱し、炭酸ガスをさらに充填することにより、内圧を300気圧に昇圧後、高圧ポンプにより反応液を24時間循環させた。冷却後、残存する炭酸ガスを放出し、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した、N-t-ブチルエチルカーバメートの収率は仕込みのt−ブチルアミン基準で27%であった。
【0025】
実施例3〜47
実施例1において、原料及び反応条件を表1〜3記載のようにした以外は実施例1と同様にして種々のカルバミン酸エステルを合成した。その結果を表1〜2に示す。
なお、実施例10は、t−ブチルアミン 10mmol、メタノール100mmol、アセタール20mmol、及びジブチルスズオキシド(触媒)0.2mmolを仕込んで実施し、実施例34は、t−ブチルアミン 5mmol、エタノール50mmol、アセタール10mmol、及びジブチルスズオキシド(触媒)0.1mmolを仕込んで実施した。
また、表1及び表2において、Meはメチル基、Eeはエチル基、Buはブチル基、i-イソプロピル基、t-Buはt-ブチル基、Cyはシクロヘキシル基を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【発明の効果】
本発明方法によれば、ポリウレタンの原料として有用なカルバミン酸エステルを、環境に悪影響を与える一酸化炭素やハロゲンを用いることなく、高収率、高選択率で得ることができる。
すなわち、本発明方法は、原料として、環境に無害で毒性のない二酸化炭素、安価で取り扱いやすいアミン及びアルコールを用いることから、安全かつ簡易な設備でカルバミン酸エステルを高収率・高選択率で得ることができるので、工業的に極めて有利な方法ということができる。
Claims (5)
- 下記一般式(I)で表されるアミンと下記一般式(II)で表されるアルコールと二酸化炭素とを反応させることを特徴とする下記一般式(III)で表されるカルバミン酸エステルの製造方法。
R1R2NH (I)
(式中、R1は炭化水素基を、R2は炭化水素基又は水素を表す。)
R3OH (II)
(R3は炭化水素基を表す。)
R1R2NC(=O)OR3 (III)
(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ) - 金属触媒の存在下で反応を実施することを特徴とする請求項1記載のカルバミン酸エステルの製造方法
- 金属触媒がスズ又はニッケル化合物であることを特徴とする請求項2記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
- 脱水剤の存在下で反応を実施することを特徴とする請求項1乃至3何れか記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
- 脱水剤が下記一般式(IV)で表されるアセタール、又はモレキュラシーブであることを特徴とする請求項4記載のカルバミン酸エステルの製造方法。
R4R5C(OR3)2 (IV)
(式中、R4、R5は炭化水素基又は水素を表す。R3は前記と同じ。)
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