JP3542702B2 - ディーゼル機関用弁棒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は船舶,発電などの分野で使用されている大型ディーゼル機関用の排気弁棒に関し、更に詳しくは、少なくとも触火面の耐用性は従来から賞用されているナイモニック80A製の弁棒の耐用性と略同等であり、しかも安価に製造することができるディーゼル機関用弁棒に関する。
【0002】
【従来の技術】
ディーゼル機関用の排気弁棒は、通常、図3で示したように、ステム1の先端に傘部2が形成されている。傘部2の上部周縁はシート面3と指称され、実働時には当該シート面3は図示しない排気弁の弁座との間で衝突を反復する。また、傘部2の下面は触火面4と指称され、当該触火面4は、機関の実働時には、図示しないシリンダの燃焼室において高温の燃焼ガスと対峙する。
【0003】
この弁棒は、燃焼室で重油を爆発燃焼させることにより上下駆動する。重油の爆発燃焼時には、触火面4は高温の燃焼ガスに曝され、同時にシート面3は弁座と気密に接触した状態になっている。そして、排気行程では弁棒が降下し、シート面3と弁座との間隙から排気ガスが排出されていく。
上記した弁棒の駆動過程において、シート面は、その温度が最高温度で350〜400度程度になり、また、触火面の場合は、その中央部が最も高温になり、最高温度で650〜700℃の温度にまで達する。
【0004】
したがって、弁棒の耐用性を考えた場合、弁棒を構成する材料としては、少なくとも触火面の構成材料は700℃以上の耐熱性を有する材料であることが必要になる。一方、シート面の場合は、触火面の場合ほどの耐熱性は要求されない。しかし、シート面はその温度が350〜400℃にある状態で弁座との間で衝撃的な接触を反復するので、高温耐力に優れ、硬さが硬く、耐接触摩耗性に優れた材料であることが必要条件となる。
【0005】
また、重油にはVやSなどが含有されているので、弁棒の駆動過程で、当該弁棒、とりわけ触火面はVやSを含む高温腐食環境に曝されて腐食摩耗が進行する。したがって、弁棒の耐用性を高めることを考えた場合、弁棒、とりわけ触火面の構成材料としては、耐Vアタック性や耐Sアタック性など高温耐食性に優れた材料であることが重要になる。
【0006】
更に、重油の爆発燃焼時には、燃焼灰分を主体とする硬質の粉塵が多量に発生し、それが触火面に激しく衝突して当該触火面の粉塵摩耗を促進する。したがって、弁棒の耐用性を高めることを考えた場合、触火面の構成材料としては、その硬さが高く、耐粉塵摩耗性に優れた材料であることが重要になる。
このように、ディーゼル機関用弁棒の耐用性に影響を与える因子としては、その構成材料の耐熱性,高温耐食性,硬さで規制される耐接触摩耗性や耐粉塵摩耗性などが重要な因子としてある。
【0007】
従来、ディーゼル機関用の弁棒としては、例えば、C:0.25〜0.45重量%,Si:0.75〜2.50重量%,Mn:0.50〜1.50重量%,P:0.040重量%以下,S:0.030重量%以下,Ni:8.00〜15.00重量%,Cr:14.00〜21.00重量%,W:1.50〜3.00重量%,残部:Feの組成を代表例とするオーステナイト系耐熱鋼(SNCRWなど)の一体鍛造材が主に用いられていた。
【0008】
しかしながら、近時、ディーゼル機関の大型化または大出力化が進み、それに伴って運転時の実用温度も高温化しており、弁棒の使用環境は著しく過酷になってきている。そして、上記したオーステナイト系耐熱鋼ではこの過酷な使用環境に対応できず、その耐用性が大幅に低下してしまう。
そのため、従来からは次のような対策を施して耐用性を向上させるための努力がなされている。例えば排気弁全体の機構面では、弁座を水冷式にすることにより弁棒のシート面を冷却する対策や、弁棒ステムの途中に回転羽根を一体的に取り付け、排気ガスで当該回転羽根を旋回させることによりシート面と弁座との接触を均等化する対策が代表例としてある。
【0009】
また、弁棒それ自体への対策としては、例えばシート面にステライト合金を盛金して耐接触摩耗性を高める対策や、触火面には例えばインコネル625などの耐蝕合金を盛金する対策などが代表例としてある。
上記した各種の対策のうち、前3者は弁棒の耐用性向上に寄与している。しかし、触火面へのインコネル合金などの盛金に関しては必ずしも充分な効果を発揮していない。
【0010】
このようなことから、最近の大型・大出力ディーゼル機関の弁棒の材料としては、ナイモニック80A(nimonic 80A、以後、N80Aという)の一体鍛造材が主流となりつつある。
このN80Aは、C:0.10重量%以下,Si:1.0重量%以下,Mn:1.0重量%以下,S:0.015重量%以下,Cr:18〜21重量%,Ti:1.8〜2.7重量%,Al:1.0〜1.8重量%,Cu:0.2重量%以下,Fe:3.0重量%以下,Co:2.0重量%以下,B:0.008重量%以下,Zr:0.15重量%以下,Ni:バランス成分の組成を代表例とする時効硬化型のNi基合金である。
【0011】
このNi基合金は、時効硬化処理により、母相中にAl,TiとNiとの金属間化合物(Ni3Al,Ni3Ti)が生成してその硬さが硬くなる。例えば、温度700℃で8時間の時効硬化処理により、その硬さはHRCで37〜38程度になる。また、この合金は、700℃程度の耐熱性を備え、更には、蝕剤として90%Na2SO4と10%NaClとの合剤を用い、温度800℃で20時間の高温耐食試験を行ったときのSアタック値は120mg/cm2程度の値を示し、蝕剤として85%V2O5と15%Na2SO4との合剤を用い、同じく温度800℃で20時間の高温耐食試験を行ったときのVアタック値が20mg/cm2程度の値を示すという優れた高温耐食性も兼ね備えている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
このように、大型で高出力のディーゼル機関用の弁棒材料としては、N80Aは非常に優れた材料である。
しかしながら、このN80AはNiベースの合金であるため高価格である。したがって、この合金の一体鍛造材として製造される弁棒は非常に高価格となってしまうということが以前から問題として指摘されている。
【0013】
本発明は、N80Aの一体鍛造材である弁棒の上記した問題、即ち、優れた耐用性は備えるものの非常に高価格であるという問題を解決し、その耐用性はN80Aの一体鍛造材と同等であるが、製造コストの大幅な低減が可能であるディーゼル機関用弁棒の提供を目的とする。また、使用途上のN80A弁棒における触火面の減耗個所に後述するNi基合金を盛金することにより、N80A一体鍛造材である使用前の弁棒と同等の耐用性を備えた状態に再生した再生弁棒の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために鋭意研究を重ねる過程で、本発明者らは次のような考察を加えた。
まず、最も過酷な環境に曝されるのは触火面である。温度に対してその次に過酷な環境に曝されるのはシート面である。そして、弁棒における傘部の上部およびステムは、前記した触火面よりも低い耐熱性を備えていれば充分である。
【0015】
したがって、N80Aの一体鍛造材である弁棒の場合、傘部の上部およびステムは弁棒の耐用性にとっては過剰品質になっていると考えてよい。
このようなことから、本発明者らは、傘部の上部およびステムの部分は、従来から弁棒の材料として使用されてきたオーステナイト系耐熱鋼の鍛造材で製造し、少なくとも触火面は、N80Aそのもの、またはN80Aと類似特性を有する時効硬化型のNi基合金で構成すれば、その弁棒の実質的な耐用性はN80Aの一体鍛造材と略同等になり、しかも、製造コストは大幅に低減するとの着想を抱いた。
【0016】
そして、この着想に基づき更に研究を進めた結果、後述する組成の時効硬化型Ni基合金をオーステナイト系耐熱鋼の鍛造材である弁棒に形成されている触火面に盛金することに成功し、本発明の弁棒を開発するに至った。
なお、オーステナイト系耐熱鋼の鍛造材から成る弁棒の触火面に例えばインコネル625(登録商標)などを盛金して耐用性を高めることが試みられていることは前記したとおりである。しかしながら、このインコネル625はその高温耐食性がN80Aより相対的に優れてはいるものの、その硬さはHRCで20前後であり、N80AのHRC40前後に比べると著しく軟質であるため、耐粉塵摩耗性は劣り、N80Aに比べて短時間で減耗するため触火面の構成材料として採用することは不適当である。
【0017】
本発明のディーゼル機関用弁棒は、オーステナイト系耐熱鋼の鍛造材から成る弁棒の触火面に、Cr,Al,Ti,Niを必須成分とし、Cr:10〜30重量%,AlとTi:合量で2.6〜4.6重量%、Co、Mo、W、NbおよびFeの群から選ばれる少なくとも2種:合量で0 . 2〜19重量%、およびNiをバランス成分とする時効硬化型Ni基合金が盛金され、その盛金層の硬さはHRCで30〜48であることを特徴とする(以下、この弁棒を第1弁棒という)。
【0018】
また、本発明の別のディーゼル機関用弁棒は、N80Aの鍛造材から成る使用途上の弁棒の触火面における減耗個所に、Cr:20重量%、Mo:10重量%、Al+Ti:0 . 5重量%以下を含むNi基合金から成り、かつ硬さがHRCで25以下である下盛り層が盛金され、更に前記下盛り層の上に、Cr,Al,Ti,Niを必須成分とし、Cr:10〜30重量%,AlとTi:合量で2.6〜4.6重量%、Co、Mo、W、NbおよびFeの群から選ばれる少なくとも2種:合量で0 . 2〜19重量%、およびNiをバランス成分とする時効硬化型のNi基合金が盛金され、その盛金層の硬さはHRCで30〜48であることを特徴とする(以下、この弁棒を第2弁棒という)。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の第1弁棒Aの傘部近辺を図1に示す。
この第1弁棒Aは、ステム1および傘部2の上部から成る基体1aが前記したSNCRWのようなオーステナイト系耐熱鋼の鍛造材で構成されている。
そして、シート面3には、従来の場合のようにステライト合金3aが盛金されることにより耐接触摩耗性が確保されている。なお、シート面の盛金は、例えばN80Aで行ってもよいが、シート面の温度は最高でも350〜400℃程度であるためステライト合金で充分である。むしろ、ステライト合金の場合は、盛金後の加熱硬化は不要となり、また施工も容易であるという点で好適である。
【0020】
そして、前記した基体1aの触火面に相当する面4には後述する時効硬化型のNi基合金が盛金されて盛金層5が形成されている。そして、この盛金層5の硬さはHRCで30〜48になっている。
用いるNi基合金は、Cr,Al,Ti,およびNiを必須成分とする。
ここで、Crの含有量は10〜30重量%に規制される。Cr含有量が10重量%より少なくなると、基本的には耐酸化性や耐食性が劣化し、弁棒としての必要機能が損なわれるためである。しかし、30重量%より多くすると、盛金層5は過剰に硬くなって割れなどが発生するようになる。
【0021】
Al,Tiはいずれも時効硬化処理時にNiとの間で金属間化合物を生成して盛金層を硬くして耐粉塵摩耗性を向上させるための成分であり、その含有量は合量(Al+Ti)で2 . 6〜4 . 6重量%に設定される。
この含有量が2 . 6重量%より少ない場合は、例えば盛金層に温度720℃で6時間の時効硬化処理を行ったときの当該盛金層の硬さはHRCで30以下となってN80Aの場合の硬さに到達せず、触火面としての充分な耐粉塵摩耗性が得られず、また、含有量が4 . 6重量%より多くしても、盛金層の硬さはHRCで45程度の値で飽和に達するだけではなく、盛金層それ自体の脆化を引き起こすようになる。
【0022】
また、このNi基合金には、Co,Mo,W,Nb,Feの少なくとも2種を添加して、高温強度と高温耐食性の向上が行われる。その場合、上記成分の添加量はそれぞれ0 . 1重量%以上で、かつそれらの合量(Co+Mo+W+Nb+Fe)は24 . 7重量%以下に規制される。
この合量を24 . 7重量%より多くすると、バランス成分であるNiの相対的な量が減少し、そのため、前記したAl,Tiとの金属間化合物の生成量も減少することになり、その結果として、盛金層の硬さの低下が引き起こされるからである。
【0023】
なお、このNi基合金には、更に、B,N,Ca,Mn,Cu,Zr,V,C,希土類元素の1種または2種以上が、それぞれ、0.0001〜5重量%含有されていても、同様の効果が発揮される。
このようなNi基合金としては、例えば前記したN80Aをあげることができる。また、次のようなNi基合金は、時効硬化処理後の硬さがN80Aと略同等であり、しかも耐熱性,高温耐食性のうちSアタック値はN80Aよりも優れているので好適である。
【0024】
すなわち、そのNi基合金はUdimet520(以後、U520という)と指称され、その組成が、C:0.02〜0.06重量%,Si:0.5重量%以下,Mn:2.0重量%以下,S:0.010重量%以下,Cr:18〜20重量%,Co:11〜13重量%,Mo:5.5〜6.5重量%,W:0.9〜1.2重量%,Ti:2.9〜3.27重量%,Al:1.9〜2.0重量%,Cu:0.1重量%以下,Fe:2.0重量%以下,B:0.04〜0.010重量%,バランス成分:Ni、のものである。
【0025】
このU520の耐熱性は850℃でN80Aの700℃より高く、また前記と同様の高温耐食試験におけるSアタック値,Vアタック値は、それぞれ、4.1mg/cm2,35.1mg/cm2である。そして、盛金したのちの時効硬化処理(700℃で8時間の条件)により、その硬さはHRCで35〜42程度にすることができる。
【0026】
本発明の第1弁棒Aは次のようにして製造することができる。
まず、オーステナイト系耐熱鋼を鍛造して所望形状の弁棒が成形される。
ついで、弁棒の触火面に前記したNi基合金が盛金される。この盛金に際しては、粉末を用いた肉盛溶接法が適用される。具体的には、前記Ni基合金の粉末を用いた公知のプラズマアーク法である。盛金する厚みは格別限定されないが、あまり薄いと弁棒の耐用性を規制する盛金層としては不充分であり、逆にあまり厚くすると割れなどが発生するようになるので、通常、3〜10mmの範囲に設定することが好ましい。
【0027】
所望厚みの盛金層を形成したのち、当該盛金層に時効硬化処理を行って、その硬さをHRCで30〜48にしてN80Aの場合と大差のない硬さにする。
具体的には、盛金終了後、その盛金層を所定時間加熱する。そのとき、弁棒の大きさ,盛金の層数,盛金後の歪取りなどにより盛金層の熱履歴は変化するが、時効硬化後の硬さをHRCで30〜48にするためには、温度700±100℃にし、また加熱時間は、盛金層における成分組成によっても異なってくるが1〜20時間程度でよい。ただし、一般的には6〜8時間程度の加熱で硬さは飽和値に達する。
【0028】
この熱処理に際しては、弁棒全体を熱処理炉に投入して行うことができる。しかし、この熱処理は、弁棒表面に酸化層が生成するので、後ほどその酸化層を切削除去することが必要になる。したがって、後述する第2弁棒(取り代のない再生弁棒)に対しては、この熱処理を適用することはできない。
より簡便な熱処理としては、溶接台に弁棒をセットし、それを回転させながら当該弁棒の触火面に前記した粉末プラズマアーク法で盛金層を形成し、ついで傘部のみを例えばバーナー加熱し、実体連続測温を行って熱処理温度を制御する方法をあげることができる。この方法は、安定して盛金層の硬さを目標値にすることができるので好適である。
【0029】
なお、盛金する前記Ni基合金と盛金されるSNCRWなどのオーステナイト系耐熱鋼とは互いの組成が大幅に相違しているので、盛金時に当該盛金層に割れなどの組織欠陥が発生しやすい。
このような問題が発生することを防止するためには、オーステナイト系耐熱鋼弁棒の触火面に一旦下盛り層を形成したのち、その上に前記した盛金層を形成することが好ましい。
【0030】
この下盛り層の形成に用いる材料としては、時効硬化成分であるAlやTiをあまり含有しないNi基合金であって、高温耐食性を有することは勿論のこと、靭性が高く、肉盛り後にあっても軟質である材料が好適である。
具体的には、インコネル625(登録商標;Cr:20重量%、Mo:10重量%、Al+Ti:0 . 5重量%以下)から成り、肉盛り後の硬さがHRCで25以下になるNi基合金が好適である。
【0031】
次に、本発明の第2弁棒について説明する。
この第2弁棒は、N80Aの一体鍛造材として製造されて実機に組み込まれて使用されることによりその触火面が減耗して補修が必要となった弁棒の当該減耗個所に盛金して再生したものである。その第2弁棒Bを一部切欠断面図として図2に示す。
【0032】
この第2弁棒Bは、図2で示したように、ステム1’および傘部2’はいずれもN80Aで構成されており、その触火面4’は長期間の実使用により中央部ほど激しく減耗した減耗個所になっている。
そして、この減耗個所(触火面)4’には下盛り層6が盛金され、更にその上には盛金層5が形成されて全体として平滑な新しい触火面を形成している。
【0033】
ここで、盛金層5の材料は、第1弁棒Aの盛金層に用いた同じNi基合金である。具体的には、N80Aを好適例としてあげることができる。
そして、この第2弁棒Bの場合は、減耗個所4’と上記盛金層5の間に下盛り層6を介在させることを必須とする。この下盛り層6を盛金することなく、減耗個所4’に直接前記したN80AのようなNi基合金を盛金すると、N80Aから成る減耗個所4’では、当該N80Aの粒界溶融が起こり、そのことによって盛金層5に割れなどが頻発するようになるからである。
【0034】
この下盛り層6の形成に用いる材料としては、時効硬化成分であるAlやTiをあまり含有しないNi基合金であって、高温耐食性を有することは勿論のこと、靭性が高く、肉盛り後にあっても軟質であり、そして減耗個所4’を構成するN80Aよりも溶融点の低い材料であることが好適である。
具体的には、第1弁棒Aの下盛り層として用いた好適な材料が、この第2弁棒Bの場合も、好適な下盛り層の材料として使用される。
【0035】
【実施例】
実施例1〜5,比較例1〜7
1.盛金の成分と盛金層との関係
C:0.25重量%,Si:1.0重量%,Ni:10重量%,Cr:20.0重量%,W:2.0重量%,残部Feから成り、直径200mmのオーステナイト系耐熱鋼の鍛造基盤材(これを基盤材1とする)と、SUS304から成り直径200mmの基盤材(これを基盤材2という)を用意した。
【0036】
各基盤材の型面に、粉末プラズマアーク法により、下盛り層を介して表1,2で示した組成の各種合金を盛金して厚み10mmの盛金層を形成した。なお、比較例1,比較例5,比較例6の場合は下盛り層を介在させることなく盛金層を直接基盤材の上に形成した。また、比較例7は、試作バルブである。
なお、下盛り層の材料としてはインコネル625(登録商標;Cr:20重量%,Mo:10重量%,Al+Ti:0.5重量%以下)を用い、その厚みは全て5mmとした。
【0037】
得られた材料のうち、実施例1〜5,比較例1〜4については温度720℃で6時間の熱処理(時効硬化処理)を行って硬さ(HRC)を測定し、また、比較例5〜7については熱処理を行うことなくそのまま硬さ(HRC)を測定した。
以上の結果を一括して表1,2に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1,2から以下のことが判明する。
(1) まず、実施例5で明らかなように、本発明によれば、欠陥発生を防止した状態で、オーステナイト系耐熱鋼の鍛造材にN80Aを盛金することができる。そして、そのときの盛金層の硬さは1例としてHRCで38.5であった。
(2) 一方、比較例1〜4は、いずれも、盛金層に欠陥は発生していないが、その盛金層の硬さはHRCで14〜29程度であり、N80Aの場合に比べて非常に軟質である。これは、実施例1〜5,比較例1〜4におけるCr含有量は略同じであるにもかかわらず、比較例1〜4におけるAl+Ti量が2 . 6重量%より少ないため、充分に析出硬化が起こらないからである。
【0041】
したがって、比較例1〜4の材料は弁棒の触火面の構成材料としては、耐粉塵摩耗性の点で不適切であり、N80Aに代替する材料にはなり得ない。
(3) 盛金層の硬さの点でいえば、比較例5〜7は、いずれも、その基盤材の種類とは無関係にHRCで40以上とN80Aの場合よりも硬い。これはCr含有量が30重量%を大幅に超えているからである。しかしながら、その盛金層はいずれも割れが発生したり、熱衝撃試験時に破壊したりしており、弁棒の構成材料として採用することはできない。
【0042】
(4) 以上のことから、弁棒の本体にオーステナイト系耐熱鋼の鍛造材を用い、かつその触火面がN80Aと同等の特性を有する弁棒を製造しようとする場合には、実施例4のU520に代表されるNi基合金、すなわち、Cr含有量が10〜30重量%に規制され、AlとTiの含有量が合量で2.6以上であり、Cr、Mo、W、Co、Nbの2種以上の含有量が合量で19重量%以下に規制されているNi基合金で盛金すればよいことになる。
【0043】
2.実際の大型弁棒の製造
前記した基盤材1と同種のオーステナイト系耐熱鋼を鍛造して傘径440mm(重量160kg)の弁棒(1)と、傘径340mm(重量72kg)の弁棒(2)を成形した。
これら各弁棒の触火面に、まず、インコネル625(登録商標)を盛金して厚み5mmの下盛り層を形成した。
【0044】
ついで、弁棒(1)については、その下盛り層の上に、U520を用いて粉末プラズマアーク法で厚み5mmの盛金層を形成し、盛金終了時点におけるその盛金層の硬さ(HRC)を測定した。
その後、シート面にステライト合金を盛金し、温度700℃で15分の歪取り加熱を行い、その終了時点における盛金層の硬さ(HRC)を測定した。
【0045】
ついで、盛金層に温度700℃で8時間のバーナー加熱を行い、その終了時点における盛金層の硬さ(HRC)を測定した。
一方、弁棒(2)については、その下盛り層の上に、N80Aを用いて粉末プラズマアーク法で厚み5mmの盛金層を形成し、盛金終了時点におけるその盛金層の硬さ(HRC)を測定した。
【0046】
その後、シート面にステライト合金を盛金し、温度700℃で30分の歪取り加熱を行い、その終了時点における盛金層の硬さ(HRC)を測定した。
ついで、盛金層に温度700℃で6時間のバーナー加熱を行い、その終了時点における盛金層の硬さ(HRC)を測定した。
なお、硬さの測定は、いずれの場合も、触火面における直交する2本の直径(R)上において、1/3R,2/3R,外周近辺の計12点で行い、その平均値を求めた。
【0047】
また、前記した歪取り加熱処理および時効硬化処理後の弁棒(1),(2)につき、染色探傷を行って欠陥発生の有無を調べ、ついで、盛金層の全面に5MHzの超音波をスキャンニングして反射エコーを測定し、F’<20%の場合をもって欠陥なしと判定する超音波探傷を行い、更に弁棒を温度250℃,350℃,450℃に加熱したのち、各段階ごとに温度100℃の沸騰水に投入して、割れの発生の有無を染色探傷する熱衝撃試験を行った。
【0048】
以上の結果を一括して表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から明らかなように、本発明によれば、全く欠陥を発生させることなくその触火面がN80Aと同等の硬さを有する大型弁棒を製造することができる。なお、表3で示した盛金層の盛金終了時点における硬さは表1,2の場合の値30.7より高くなっているが、これは弁棒(1),(2)が直径200mmの基盤材1に比べて大型であり、そのため盛金時の熱で盛金層が自熱硬化しているからである。
【0051】
実施例6
傘部400mmのN80Aの一体鍛造材から成り、実機に組み込まれて補修を必要とする段階にまで損耗した弁棒を用意した。この弁棒は、その実使用前における触火面の硬さはHRCで40程度のものである。
この弁棒の触火面は、その中央部が深さ最大20mm程度すり鉢状に減耗している。
【0052】
この減耗個所にまずインコネル625(登録商標)を盛金して表面平滑な下盛り層を形成し、ついで、その下盛り層の上にN80Aを用いた粉末プラズマアーク法で厚み5mmの盛金層を形成した。
そして、この盛金層を前記した弁棒(2)の場合と同じように温度700℃で6時間加熱して再生弁棒とした。盛金層の硬さはHRCで38.2となり、充分に再使用可能な状態に補修された。
【0053】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明のディーゼル機関用弁棒は、N80Aに比べれば安価なオーステナイト系耐熱鋼の鍛造材で弁棒本体を構成し、最も過酷な環境下に曝される触火面にはN80A相当の時効硬化型Ni基合金から成る盛金層を形成することにより、従来から賞用されているN80Aの一体鍛造材の弁棒と同等の耐用性を発揮する。したがって、本発明の弁棒は、N80Aの一体鍛造材の弁棒に比べて超かに安価であるにもかかわらず、その耐用性は同等であるということからして、その工業的価値は極めて大である。
【0054】
また、請求項3の弁棒は、使用途上の高価なN80Aの弁棒を再生したものであり、その有用性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の弁棒Aを示す一部切欠断面図である。
【図2】本発明の弁棒Bを示す一部切欠断面図である。
【図3】従来の弁棒を示す側面図である。
【符号の説明】
1,1’ ステム
2,2’ 傘部
3 シート面
3a ステライト合金
4、4’ 触火面
5 盛金層
6 下盛り層
Claims (3)
- オーステナイト系耐熱鋼の鍛造材から成る弁棒の触火面に、Cr,Al,Ti,Niを必須成分とし、Cr:10〜30重量%,AlとTi:合量で2.6〜4.6重量%、Co、Mo、W、NbおよびFeの群から選ばれる少なくとも2種:合量で0 . 2〜19重量%、およびNiをバランス成分とする時効硬化型のNi基合金が盛金され、その盛金層の硬さはHRCで30〜48であることを特徴とするディーゼル機関用弁棒。
- 前記触火面と前記盛金層との間には、Cr:20重量%、Mo:10重量%、Al+Ti:0 . 5重量%以下を含むNi基合金から成り、かつ硬さがHRCで25以下である下盛り層が介在している請求項1のディーゼル機関用弁棒。
- Ni基合金の鍛造材から成る使用途上の弁棒の触火面の減耗個所に、Cr:20重量%、Mo:10重量%、Al+Ti:0 . 5重量%以下を含むNi基合金から成り、かつ硬さがHRCで25以下である下盛り層が盛金され、更に前記下盛り層の上に、Cr,Al,Ti,Niを必須成分とし、Cr:10〜30重量%,AlとTi:合量で2.6〜4.6重量%、Co、Mo、W、NbおよびFeの群から選ばれる少なくとも2種:合量で0 . 2〜19重量%、およびNiをバランス成分とする時効硬化型のNi基合金が盛金され、その盛金層の硬さはHRCで30〜48であることを特徴とするディーゼル機関用弁棒。
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