JP3541874B2 - 車両のエンジン始動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの始動を好適に行うための、特に、ハイブリッド車等の運転者のキー操作とは別にエンジンを始動する車両のエンジン始動装置に関する。
【0002】
【関連する背景技術】
例えば、特開平6−233411号公報には、この種のエンジン始動装置としてハイブリッド車両の制御装置が開示されている。この公知の制御装置は、エンジンをクランキングしながらその回転数が所定値まで上昇すると、この時点から燃料供給を開始するとともに、その点火時期を制御するものとしている。従って、公知の制御装置によれば、常に同一のクランキング回転数でエンジンが始動されるものと認められる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、エンジンの停止中は吸気マニホールド内が大気圧に近い状態にあるため、スロットルバルブが開かれていないにも拘わらず、クランキング開始初期の充てん効率は極端に高い。このため、クランキングだけの低回転数域であっても、エンジンの始動時にスロットル全開相当の過大な爆発トルクを発生させてしまう。このような過大トルクの発生は、エンジンの振動を大きく車体に伝達させ、運転者に不所望なショック感を与える虞がある。
【0004】
一方、電気モータのみの駆動による走行中、運転者が例えばアクセルペダルを大きく踏み込んだ状況にあっては、エンジンを速やかに始動させると共にその直後からエンジンに充分なトルクを発生させる必要がある。
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、エンジン始動時に不所望な爆発トルクの発生を抑える一方、始動直後からエンジンに所望のトルクを発生させることができる車両のエンジン始動装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の車両のエンジン始動装置(請求項1)は、エンジン始動時の運転者による要求駆動力を検出してクランキング手段によりエンジンのクランキングを開始させ、その要求駆動力に基づいてクランキング中での燃料噴射モードを吸気行程噴射モードと圧縮行程噴射モードとの一方に選択的に切り換えるものとしている。
【0006】
上述したエンジン始動装置によれば、圧縮行程噴射モードではリーン空燃比でも安定した燃焼が得られるため、エンジン始動時の爆発トルクが低く抑えられる。一方、吸気行程噴射モードでは、出力空燃比でエンジン始動時からより大きな爆発トルクが得られる。
好ましくは、検出された要求駆動力が小さければ、制御手段は圧縮行程噴射モードを選択し、要求駆動力が大きければ吸気行程噴射モードを選択することができる。また、エンジン始動装置は要求駆動力の大きさに基づいて、各燃料噴射モードでの最適な空燃比を設定する手段を更に有することが望ましい。すなわち、運転者による要求駆動力が小さい場合、その分だけエンジン始動時の爆発トルクを低く抑え、運転者に不所望なショック感を与えない。これに対し、運転者の要求駆動力が大きい場合、エンジン始動時から大きいトルクを発生させてその要求駆動力に素早く応える。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1を参照すると、本発明のエンジン始動装置を装備した一実施例としてハイブリッド車における駆動系の構成が概略的に示されている。
図1の駆動系について具体的には、ハイブリッド車は駆動源としてエンジン2及び電気モータ4を備えており、エンジン2のクランク軸6と電気モータ4の出力軸8とは互いに伝達クラッチ10を介して断接可能となっている。図示のように、伝達クラッチ10はアクチュエータ12を介してその断接を操作され、アクチュエータ12には例えば、図示しない油圧駆動回路が接続されている。なお、油圧駆動回路を用いたアクチュエータ12の駆動は、電子制御ユニット(ECU)14により制御されている。
【0008】
また、電気モータ4の出力軸8は変速機18に接続されており、この変速機18は例えば、ベルト式無段変速機を内蔵し、その変速プーリ比制御がECU14により行われている。更に、変速機18の出力軸36は発進クラッチ38を介してデファレンシャルギヤ40に接続されている。発進クラッチ38はアクチュエータ42によりその断接を操作され、出力軸36から駆動輪Wへのトルク伝達量を調整することができる。なお、アクチュエータ42の駆動制御もまたECU14により行われている。
【0009】
ハイブリッド車のエンジン2としては例えば、筒内噴射型の火花点火式ガソリンエンジンが適用されており、それ故、燃料噴射弁44はその燃焼室内に直接、燃料を噴射可能に設けられている。また、燃料噴射弁44及び点火栓46はECU14によりそれぞれ作動を制御されている。
電気モータ4は図示しないバッテリから電力の供給を受けて出力トルクを発生させる一方、その発電による電力をバッテリに充電可能であり、これらの間の電力送受制御もまたECU14により行われる。
【0010】
エンジン2の回転数は回転数センサ48により検出可能であり、この回転数センサ48から出力されるセンサ信号はECU14に供給される。
また、運転者によるアクセルペダル50の踏み込み量はアクセルポジションセンサ52(要求駆動力検出手段)により検出され、その検出信号はECU14に供給される。
【0011】
上述した駆動系の構成から明らかなように、図1のハイブリッド車は伝達クラッチ10の接続を断たれると、エンジン2を停止させた状態で電気モータ4のみの駆動により定常走行が可能である。
本実施例のエンジン始動装置は例えば、上述の定常走行時、つまり、エンジン2の運転が停止されている状態で、必要に応じてエンジン2の始動を行うことができる。具体的には、ECU14は予め用意されたエンジン始動用プログラム(エンジン始動制御ルーチン)を有しており、実施例のエンジン始動装置は、このエンジン始動制御ルーチンにおいて機能することができる。
【0012】
図2を参照すると、エンジン始動制御ルーチンのフローチャートが示されており、以下、このフローチャートに沿ってエンジン始動装置の作動を詳細に説明する。
始めにステップS10では、エンジン2の始動要求の有無が判別される。この判別は例えば、ECU14内の判別回路(特に図示せず)にて行うことができ、この判別回路では運転者による加速要求やバッテリ充電状態、また、エアコンなどの電装機器の使用による電力消費等の情報から、所定の判別条件に基づいてエンジン2を始動するべきか否かが判別される。この判別回路にてエンジン2の始動要求があるものとして判別されないうちは、次のステップS12が実行されることはない。
【0013】
ここで図3を参照すると、エンジン始動制御ルーチンの実行に伴うエンジン回転数Ne、モータ出力Tm、車速V等の時間的な変化を並列的に表したタイムチャートが示されている。
同図に示されるように、ある時刻t0においてハイブリッド車が車速V0にて定常走行を行っているとき、電気モータ4の出力は所定値Tm0に保持され、エンジン2は停止された状態にある(Ne=0)。
【0014】
例えば、このような定常走行中にバッテリを充電したり、より多くの電力供給を行う必要があると判断された場合、上述した判別回路においてエンジン2の始動要求があるとの判別が成立する。
いま、時刻t1にエンジン2の始動要求があると判別されたとき、ステップS10での判別結果は真(Yes)であり、次にステップS12以降が実行される。この後、制御ルーチンの進行に伴い、エンジン始動装置が具体的に機能する。
【0015】
ステップS12では先ず、エンジン2のクランキングが実行される。具体的には、ECU14はアクチュエータ12を駆動して伝達クラッチ10を接続させるとともに、走行トルクに加えてクランキングに必要なトルクを発生させるべく、電気モータ4の出力を増加させる。この結果、時刻t2からモータ出力が緩やかに立ち上げられる(図3中1点鎖線)とともに、エンジン回転数もまた次第に上昇する(クランキング手段)。
【0016】
更に、次のステップS14では、アクセル踏み込み量に基づいて燃料噴射モードが決定される。具体的には、ECU14はアクセルポジション信号APSに基づいて予め用意されたマップから燃料噴射モードを決定することができる。
図4を参照すると、上述したマップの一例が示されている。図4のマップはアクセル踏み込み量に基づいて始動時の空燃比を設定するものであり、その特性上、アクセル踏み込み量が所定値AP1〜AP2までの間では、踏み込み量が大きいほど、その分だけ空燃比がリッチ側に設定される。そして、燃料噴射モードは、始動時の空燃比が所定の基準値AF0となるアクセル踏み込み量AP0を閾値として、この閾値AP0より踏み込み量が小さい領域では圧縮行程噴射モード、閾値AP O より大きい領域では吸気行程噴射モードがそれぞれ選択される。なお、アクセル踏み込み量が所定値AP1〜AP2の領域外にはそれぞれ、始動時空燃比の設定に不感帯が設けられており、それ故、アクセル踏み込み量が所定値AP1より小さい領域では、始動時空燃比は常に上限値AF1に設定される。また、所定値AP2より大きい領域では、始動時空燃比は常に下限値AF2に設定される。
【0017】
なお、図4のマップの特性は適宜その書き換えが可能であり、実際のエンジン2の始動時における過渡特性に合わせて適切にその空燃比曲線や、閾値AP0の具体的な値がマッチングされたり学習されることが望ましい。
この例のように、時刻t1においてアクセルペダル50の踏み込み量に極端な変化がなく、例えばそのままの踏み込み量AP1が保持されている場合、図4のマップから始動時空燃比は下限値AF2に設定されるとともに、燃料噴射モードは圧縮行程噴射モードに決定される。
【0018】
次のステップS16では、エンジン2において燃料噴射及び点火が既に開始されているか否かが判別され、その結果が偽(No)である場合、次のステップS18が実行される。
更にステップS18では、エンジン回転数Neが所定の始動回転数NeAに達したか否かが判別される。この始動回転数NeAは例えば、アクセルポジション信号APSに基づきECU14にて決定することができ、ECU14は別途、アクセル踏み込み量に基づいて始動回転数NeAを決定するためのマップを用意している。このマップは例えば、アクセル踏み込み量が小さいほど、エンジン始動時のショックを低減するために始動回転数NeAが高く設定される特性を有しており、それ故、アクセル踏み込み量が上述した所定値AP1であるとき、始動回転数は最高値Ne1(例えば1200rpm)に設定される。
【0019】
従って、クランキングによる回転数が始動回転数Ne1に達するまでの間は、これまでのステップS10〜S18が単に繰り返し実行され、始動回転数Ne1に達すると、次にステップS20が実行される。
ステップS20では、上述のステップS14にて決定された燃料噴射モード、つまり、圧縮行程噴射モードに基づき、燃料噴射及び点火が開始される。この場合、ECU14は燃料噴射弁44及び点火栓46への通電を開始するので、図3中1点鎖線で示されるように時刻t4での燃料噴射時期は、クランク軸6の回転角でみて所定の角度FI1(例えば40゜BTDC)に設定されており、また、このとき始動時空燃比は上限値AF1である。
【0020】
ステップS20が実行された後は、次回のルーチンからステップS16での判別結果は真であるため、ステップS18,S20が実行されることはない。また、ステップS14は単に実行されるだけである。なお、燃料噴射モードが一旦決定された後は、このステップS14を迂回するための判別ステップを追加してもよい。
【0021】
この後、エンジン2が完全に始動されると(時刻t5)、ECU14はエンジン始動制御ルーチンを終了する。また、電気モータ4はその出力を停止し(Tm=0)、エンジン2の駆動により発電機として働く。なお、車速はエンジン2の駆動によって引き続き一定車速V0に維持される。
ところで、上述したステップS10では、バッテリ充電状態や電装機器の使用による電力消費等の情報の他に、運転者によるアクセルペダル50の踏み込みからもエンジン2の始動要求が成立する場合があり、以下には、運転者によるアクセルペダル50の踏み込み、つまり、素早い加速要求がなされた場合におけるエンジン始動装置の作動を説明する。
【0022】
いま、時刻t1において運転者がアクセルペダル50を大きく踏み込むと、そのセンサ信号APSがECU14に入力される。上述した判別回路ではこのセンサ信号APSに基づいて、運転者から加速要求がなされており、それ故、モータ出力を補うべくエンジン2を始動させる必要があるとの判別が成立する(ステップS10)。
【0023】
この場合も上述した手順と同様に、時刻t2からクランキングが実行される(ステップS12)。この場合、図3中の実線で示されるようにモータ出力Tmの立ち上げは、上述した定常走行中の場合(1点鎖線)よりも急に行われる。
一方、燃料噴射モードは、例えば所定値AP2を超える領域でのアクセル踏み込み量に基づいて、図4のマップから吸気行程噴射モードに決定され(ステップS14)、またその始動時空燃比は下限値AF2に設定される。
【0024】
なお、始動回転数NeAは、上述した別途のアクセル踏み込み量−始動回転数マップから最低値Ne2(例えば400rpm)に設定される。この場合、図3中実線で示されるように、エンジン回転数が始動回転数Ne1に達した時点(時刻t3)から空燃比AF2にて燃料噴射が開始される。また、吸気行程噴射モードでの燃料噴射時期は所定の回転角FI2(例えば300゜BTDC)である。
【0025】
エンジン2が完全に始動されると(時刻t5)、ECU14はエンジン始動制御ルーチンを終了し、ECU14はその空燃比を次第にストイキオに移行させる。この後、エンジン2及び電気モータ4の協働により所望の要求トルクが出力され、この出力トルクが図1の駆動系を介して駆動輪Wに伝達される結果、駆動輪Wから運転者による要求駆動力が発揮されて図3中実線で示されるように車速が次第に増加していく。
【0026】
上述したエンジン始動装置によれば、定常走行中に運転者による大きな要求駆動力がない状況でエンジン2を始動させる場合は、圧縮行程噴射モードにてエンジン2が始動されるので、その始動時の爆発トルクが小さく抑えられ、運転者に不所望なショック感を与えることがない。従って、ハイブリッド車の静粛性や乗り心地の向上に大きく寄与する。
【0027】
一方、運転者により素早い加速要求がなされた状況にあっては、そのアクセルペダルの踏み込み量、つまり、要求駆動力の大きさに基づいて始動時の燃料噴射モードが吸気行程噴射モードに決定されるので、エンジン2の始動直後から大きいトルクが得られ、運転者の要求に応じた駆動力を駆動輪Wに充分に発揮させることができる。この結果、ハイブリッド車は速やかにエンジン2及び電気モータ4による加速を行うことができ、良好なアクセルレスポンスが得られる。
【0028】
本発明のエンジン始動装置は上述した一実施例の制約を受けることなく、種々に変形して実施可能であり、エンジン始動装置が装備されるべきハイブリッド車の形式やエンジン2及び電気モータ4の仕様、また、駆動系の構成等は種々に変更可能であるし、クランキング手段としてスタータを装備していてもよい。
また、上述した制御ルーチンのステップS14では、単にアクセル踏み込み量から燃料噴射モード及び空燃比を決定しているが、例えばアクセル踏み込み量の変化率を求め、この変化率の大小に基づいてこれらを決定するようにしてもよい。この場合、アクセルペダル50の踏み込み初期からその変化率が大きい場合は、運転者により素早い加速要求がなされているものと認められるので、その踏み込み初期の時点から吸気行程噴射モードとして決定し、空燃比をリッチ側に設定することができる。
【0029】
なお、上述の実施例にあっては、定常走行中でのエンジン始動制御について説明しているが、加減速走行中、或いは停車中であっても同様にこの制御を実行可能であることはいうまでもない。
更に、上述の実施例においては、本発明のエンジン始動装置をハイブリッド車に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、車両停止時にエンジンを自動的に停止・始動するような運転者のキー操作とは別にエンジンを始動する車両であれば、本発明を適用することができる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の車両のエンジン始動装置(請求項1)によれば、運転者による要求駆動力の大きさに基づき、エンジンのクランキング中での燃焼噴射モードを吸気行程噴射モード又は圧縮行程噴射モードの何れにて切り換えるので、エンジンの始動ショックを抑えることができ、しかも始動直後から充分なトルクを発生させることで、車両の乗り心地や動力性能を大きく向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施例のエンジン始動装置が組み込まれたハイブリッド車の駆動系の構成を示した概略図である。
【図2】エンジン始動制御ルーチンのフローチャートである。
【図3】エンジン始動装置の機能を説明するためのタイムチャートである。
【図4】燃料噴射モードの決定に用いるマップの一例である。
【符号の説明】
2 エンジン
4 電気モータ
10 伝達クラッチ
12 アクチュエータ
14 ECU(制御手段)
44 燃料噴射弁
46 点火栓
52 アクセルポジションセンサ
Claims (1)
- 運転者の停止・始動操作とは別にエンジンを停止・始動する車両において、
運転者による要求駆動力を検出する要求駆動力検出手段と、
前記エンジンのクランキングを行うクランキング手段と、
前記エンジンの燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、
前記クランキング手段及び前記燃料噴射弁の作動を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記検出された要求駆動力がエンジンの始動を要求すべく増加されたとき、前記クランキング手段を作動させて前記エンジンのクランキングを開始させ、
前記検出された要求駆動力の大きさに基づいて、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射時期が吸気行程中に含まれる吸気行程噴射モードと圧縮行程中に含まれる圧縮行程噴射モードとの一方に、前記クランキング中での前記燃料噴射弁による燃料噴射モードを選択的に切り換えることを特徴とする車両のエンジン始動装置。
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