JP3513615B2 - 花、果実等からの清酒酵母の分離方法 - Google Patents

花、果実等からの清酒酵母の分離方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、花、果実等から清
酒酵母を分離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】特開平9−294580号公報には、
「酢酸イソアミル及びβ−フェネチルアルコールを多く
生成するサッカロミセス・セレビシエーに属する酵母を
野生イチゴ果実から分離・検索し、その酵母を用いて香
気の豊かな焼酎を製造する香気性の豊かな酵母及びそれ
を用いた焼酎製造方法」が記載されている。
【0003】また、日本醸造協会誌、(93)、〔1
0〕、(1998)、穂坂賢、小室友香理、山中万里、
山浦敬人、中田久保、坂井劭、P.833−840,に
は、「清酒もろみ(米、米こうじを用いたもろみ)で清
酒醸造の小仕込み試験を行った場合に、清酒酵母は17
%から18%ものアルコールを作るが、焼酎酵母は13
%から16%程度のアルコールを作るに留まる。」こと
が記載されている。そして、通常市販の清酒のアルコー
ル含有率は15%から17%程度、原酒としての製品化
の場合でも17%から19%であり、もろみを搾った段
階でアルコールが17%から19%程度あり製品化時に
は加水してアルコールを調整して製品化する。このた
め、もろみを搾った段階でせいぜい16%の焼酎酵母で
は、通常市販の清酒醸造には使用することが難しく、低
アルコール清酒等の醸造に使用するなど、その使用方法
が非常に制限される。
【0004】一般に野生の果実等を分離源として液体培
地で集積培養を行わず、平板法で直接酵母の分離を試み
た場合、まず酵母以外のカビ類が生育し、分離が困難に
なることが多い。また、かびが出現しない場合でも、分
類学で焼酎酵母、清酒酵母の属するサッカロマイセス属
以外の酵母が優先し、サッカロマイセス属の酵母はコロ
ニーが出現しないことが樹液での検索の結果判ってい
る。さらに、運良くサッカロマイセス属の酵母が取得で
きた場合でも発酵能の弱い酵母がほとんどであり、発酵
能の強い焼酎酵母、清酒酵母が取得できることは、非常
に低い確率であると推定される。以上のことから、直接
平板法で分離することは大変な労力を必要とし事実上不
可能に近い。
【0005】本発明者のひとりである中田久保が、麹菌
を生産する抗生物質であるイーストサイジンを用いて自
然界から清酒酵母を分離する方法をはじめて開発した。
日本醸造協会誌、(94)、〔12〕、(1999)、
穂坂賢、角本琢磨、大竹総、中田久保、坂井劭、P.9
98−1005,には、「コウジカビをこうじ汁で培養
して得られるろ液から清酒酵母以外の酵母の生育を抑制
する抗生物質・イーストサイジンを分離する。そして、
イーストサイジンを添加した培地を調整し、花から清酒
酵母を分離する。しかし、この方法では、20点の花か
ら13点の清酒酵母が分離でき、そのうち10点が泡あ
りの清酒酵母、3点が泡なしの清酒酵母であった。」旨
が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のイース
トサイジンを用いて清酒酵母を分離する方法は、コウジ
カビ培養後の濾液からイーストサイジンを減圧濃縮、ア
セトン抽出、凍結乾燥等の手法を用いて抽出分離し、さ
らに18種類もの薬品を使用した培地を調整する必要が
あった。その方法は非常に煩雑な操作を必要とするだけ
でなく、アセトンを使用するなど培地を調整する場合に
は危険を伴うものであった。また、上記の方法を用いて
花から分離した清酒酵母は泡なし酵母の分離頻度が低
く、実際の醸造現場においては泡なしの清酒酵母が主流
として使われており改良の余地があった。
【0007】本発明は、このような従来の問題点を解決
すべく研究を進めた結果、イーストサイジンを抽出分離
することなく、また煩雑な培地の調整をすることなしに
容易にかつ安全に清酒酵母の選択培地を調整する方法を
見出し、また、この選択培地を用いて花、果実等から分
離した酵母は、高頻度で泡なしの清酒酵母であることを
見出したことに基づくものである。
【0008】本発明は、イーストサイジンを抽出分離す
ることなく、煩雑な培地の調整をすることなく、容易
に、かつ安全に選択培地を用いて、花、果実等から高頻
度で泡なしの清酒酵母の分離方法を提供することを目的
とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の花、果
実からの清酒酵母の分離方法は、こうじ汁で培養したコ
ウジカビの培養液を新鮮なこうじ汁で希釈して選択培地
を作成する工程と、選択培地を使用し、花、果実から酵
母を分離する工程とからなる。
【0010】請求項に2記載の花、果実からの清酒酵母
の分離方法は、請求項1に記載の花、果実からの清酒酵
母の分離方法の、こうじ汁で培養したコウジカビの培養
液とこうじ汁の希釈倍率が1:1から1:5の範囲に入
るようにしたものである。
【0011】請求項に2記載の花、果実からの清酒酵母
の分離方法は、請求項1に記載の花、果実からの清酒酵
母の分離方法の、分離した清酒酵母が泡なし酵母であ
る。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明に係る花、果実等からの清
酒酵母の分離方法の発明の実施の形態を、実施例1及び
実施例2により説明する。
【0013】
【実施例1】こうじ1Kgに対し、水道水5リットルを
加え55℃で5時間糖化後、濾過した液を水で調整しブ
リックス10%のこうじ汁を得る。500mlフラスコ
にブリックス10%のこうじ汁を250ml入れた培地
を調整し、10mlの試験管で前培養したコウジカビを
植菌した。28℃で14日静置培養後、ろ紙で濾過し培
養ろ液を得た。さらに、ろ液1容に対して新鮮なブリッ
クス10%のこうじ汁3容で希釈し、120℃・5分間
オートクレーブで殺菌を行った。冷却後、グルコースを
ブリックス17%になるように添加し、乳酸でPHを
3.1に調整した。500mlフラスコにこの培地を2
50ml入れ、別に殺菌したカゼインを5%になるよう
に加えて培地を調整した。自然界からサンプリングした
花、アザミ、タンポポ、キショウブ、バラ、ホタルブク
ロを選択培地に入れ30℃で培養を開始した。
【表1】 ブリックスの減少を毎日測定したところ、タンポポ、バ
ラ、ホタルブクロで表1に示すように顕著な減少を示し
たため、酵母を定法によりプレートで分離した。各花よ
り分離した酵母は、米こうじ35g、蒸米115g、水
200ml、乳酸0.8ml、酵母10ml(こうじ汁
で二日培養したもの)からなる小仕込み試験を実施し
た。13℃で25日培養した後、上槽して分析に供し
た。
【表2】 表2に示すようにコントロールの清酒酵母である日本醸
造協会協会9号の酵母と同等又はそれ以上のアルコール
生成量、日本酒度を示した。この結果より、分離した酵
母は清酒酵母であり、小仕込み試験での観察の結果これ
らの酵母はすべて泡なしの酵母であることが確認され
た。5点の花より3点の清酒酵母が分離でき、すべて泡
なしの清酒酵母であった。
【0014】
【実施例2】上記実施例1と同様に調整した選択培地を
用いて自然界から花、果実等を採取し酵母の分離を行っ
た。分離源として使用した花は、サツキツツジ、アザ
ミ、テリハノイバラ、ササユリ(2点)、オニユリ、コ
ヒルガオ、ヤマアジサイ、シャクナゲ、ユスラウメ、サ
トザクラ、ヤマツツジ、マツバボタン、果実は、モミジ
イチゴ(2点)、ヤマグワ、クサイチゴの花13点、果
実4点、合計17点のサンプルであった。
【表3】 表3に花及び果実を選択培地に入れてからのブリックス
の変化を示す。サンプルの花を入れたもの12、果実2
の合計14の選択培地のブリックスが顕著な減少を示し
たため、定法により酵母を分離した。分離した酵母を用
いて小仕込み試験を行った。
【表4】 上槽したサンプルの分析結果を表4に示す。分離した酵
母は、コントロールの日本醸造協会の頒布する清酒酵母
である協会7号と比較して、同等またはそれ以上のアル
コール生成量、日本酒度を示し、分離した酵母はすべて
清酒酵母であることが示された。また、17点のサンプ
ルより14点の清酒酵母が分離できたが、小仕込み試験
での観察によりこのうち10点が泡なしの清酒酵母、4
点が泡ありの清酒酵母であった。
【0015】
【発明の効果】本発明は、イーストサイジンを抽出分離
することなく、煩雑な培地の調整をすることなく、容易
に、かつ安全に選択培地を用いて、花、果実等から高頻
度で泡なしの清酒酵母の分離方法を提供することができ
るという効果を奏する。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 1/00 - 1/38 C12G 3/02 JSTPlus(JOIS) BIOSIS/WPI(DIALOG)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 こうじ汁で培養したコウジカビの培養液
    を新鮮なこうじ汁で希釈して選択培地を作成する工程
    と、 前記選択培地を使用し、花、果実から酵母を分離する
    程とからなる、花、果実からの清酒酵母の分離方法。
  2. 【請求項2】 こうじ汁で培養したコウジカビの培養液
    とこうじ汁の希釈倍率が1:1から1:5の範囲に入る
    ことを特徴とする請求項1記載の花、果実からの清酒
    酵母の分離方法。
  3. 【請求項3】 分離した清酒酵母が泡なし酵母であるこ
    とを特徴とする請求項1記載の花、果実からの清酒酵
    母の分離方法。
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