JP3511093B2 - 新規なアラキドン酸及びカロチノイド産生微生物、その産生方法及びそれを用いたアラキドン酸及びカロチノイドの製造方法 - Google Patents

新規なアラキドン酸及びカロチノイド産生微生物、その産生方法及びそれを用いたアラキドン酸及びカロチノイドの製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ラビリンチュラ
(Labyrinthula)属に属する新規な微生
物、その産生方法及びその新規な微生物を用いてアラキ
ドン酸又はカロチノイドを製造する方法に関するもので
ある。
【0002】
【従来の技術】アラキドン酸は、動物の細胞膜や小胞体
膜中にリン脂質のグリセロール骨格の2位に結合して存
在し、生体膜の流動性を高めたり、プロスタグランジ
ン、トロンポキサン、ロイコトリエンの前駆体となるな
ど生理学的に重要な化合物であるが、動物体内では合成
されないので必須脂肪酸として外部から供給しなければ
ならない。
【0003】一方、カロチノイドは、動植物界に広く分
布する色素であって、この中には動物体内でビタミンA
に変換するものがあり、栄養素として重要なものであ
る。このように、アラキドン酸やカロチノイドは栄養生
理学的見地から注目されている物質であるが、近年に至
り、これが老化抑制、解毒及びガン予防などに効果があ
ることが分り、需要が急激に増加している。
【0004】ところで、このアラキドン酸やカロチノイ
ドは、ニンジンや藻類のような生物体から抽出されてい
るが、これらの生物を効率よく生育させるには、栄養価
の高い特殊な栄養素を用いることが必要で、糖類、ペプ
トン、リンなど慣用されている栄養素を用いたのでは十
分に大量に生育させることができないため、コスト高に
なるのを免れない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、これまでカ
ロチノイドの生産に必要とされていた微細藻類やアラキ
ドン酸の製造に必要とされていた魚眼や特殊なバクテリ
アを用いることなく、入手容易な原料から効率よく、し
かも大量にカロチノイド及びアラキドン酸を製造するこ
とを目的としてなされたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、海洋性微
生物を用いて有用物質を生産する方法について鋭意研究
を重ね、先にラビリンチュラ(Labyrinthul
a)属に属する微生物の1種であるラビリンチュラ・エ
スピーS3−2(Labyrinthulasp.S3
−2)を用いてドコサヘキサエン酸及びドコサペンタエ
ン酸を主体とする長鎖高度不飽和脂肪酸を製造する方法
を提案したが(特願2000−94441号)、さらに
研究を進めたところ、ラビリンチュラ属に属する微生物
の中に、これまでのものとはカロチノイドを摂取して赤
色に着色し、アラキドン酸を主要成分とする高級不飽和
脂肪酸を産生する点で相違する新規な微生物を用いれ
ば、カロチノイド及びアラキドン酸を効率よく製造しう
ることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至
った。
【0007】すなわち、本発明は、ラビリンチュラ(L
abyrinthula)属に属し、カロチノイドを産
生して細胞が赤色に着色すること及びリン無添加培地に
おいてアラキドン酸を産生することにより特徴づけられ
る微生物であるラビリンチュラ・エスピーCHN−1
(Labyrinthula sp.CHN−1)、瀬
戸内海から採取した海水中にマツの花粉を懸濁させ、そ
の表面に吸着した微生物体を栄養培地に接種し、培養す
ることを特徴とするラビリンチュラ・エスピーCHN−
1の産生方法、及び糖類を含むリン無添加類培地におい
て、ラビリンチュラ・エスピーCHN−1を培養し、そ
の培養液からアラキドン酸又はカロチノイドを抽出する
ことを特徴とするアラキドン酸又はカロチノイドの製造
方法を提供するものである。本発明の微生物である、ラ
ビリンチュラ・エスピーCHN−1(Labyrint
hula sp.CHN−1)は、受託番号FERM
P−18262として産業技術総合研究所生命工学工業
技術研究所に寄託されている。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の微生物が属するラビリン
チュラ属微生物は、その菌学的性質から、容易に他の微
生物と区別される。すなわち、ラビリンチュラ属微生物
の栄養細胞は特徴的な紡錘形であり、原形質のネットワ
ークを滑走運動する。分類学上の二つ上位のラビリンチ
ュラ目は、ラビリンチュラ科とスラウストキトリウム科
から成り、ラビリンチュラ科はラビリンチュラ属1属か
ら成り、スラウストキトリウム科はスラウストキトリウ
ム属、シゾキトリウム属などの7属が報告されている
(Handbook of Protoctista,
David Porter著,1990)。
【0009】また、スラウストキトリウム科の菌類は、
その栄養細胞が球形ないしは卵形で、特徴的な紡錘形で
あるラビリンチュラ属とは容易に識別される。これらの
ラビリンチュラ目の微生物は、以前は菌界に分類され、
海洋環境に広く存在し、従属栄養で増殖する、いわゆる
海生菌として知られ、その中のスラウストキトリウム科
の微生物は卵菌類に、ラビリンチュラ科の微生物は粘菌
類にそれぞれ分類されていた。しかし、これらのラビリ
ンチュラ目の微生物は一般的に2本の長さ、形態の異な
る鞭毛を有する遊走子を介する生活環を持っており、そ
の遊走子の構造あるいは遺伝子の系統解析などにより、
近年は、黄色植物界の不等毛門に組み入れられている。
【0010】本発明のラビリンチュラ・エスピーCHN
−1は、海洋に生育する10〜30μmの単細胞からな
る微生物であって、日本付近の海、例えば瀬戸内海の海
水中から容易に採取することができる。原体の採取は、
例えば海水中にマツの花粉を懸濁させ、1〜10日間放
置したのち、マツの花粉を分別し、花粉の表面に付着し
た微生物体を集めることによって行うことができる。
【0011】この際のマツとしては、チョウセンマツ
(Pine koraiensis)、ヒメコマツ
(P.pentaphylla)、スラッシュパイン、
ダイオウショウ(P.palastris)、オウシュ
ウアカマツ(P.Sylvestris)、テーダマ
ツ、アカマツ(P.densiflora)、クロマツ
などが用いられる。
【0012】次に、このようにして採取した原体を、糖
類培地、すなわち糖類とペプトンを豊富に含む培養液
(例えば海水1リットル中にグルコース50gとペプト
ン1gを含む培地)中で純粋培養する。この純粋培養
は、一定温度において光を連続的に照射しながら、通
気、撹拌条件下で行うのが好ましい。
【0013】このようにして、ラビリンチュラの増殖が
最大濃度(10g/リットル以上)に達したならば、遠
心分離により培養液からラビリンチュラ微生物体を沈殿
濃縮し、ラビリンチュラ微生物体のみを回収する。分析
の結果、このようにして得られた微生物体には、多量の
アラキドン酸及びカロチノイドとともに、かなりの量の
ドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれていることが分
った。この際、産生するカロチノイドとしては、例えば
アスタキサンチンやカロチンを挙げることができる。
【0014】本発明のラビリンチュラ・エスピーCHN
−1は、このようなカロチノイドを産生し、細胞内に保
有することにより赤色に着色するが、これまで知られて
いるラビリンチュラ微生物は、このような能力を有して
いない。
【0015】このラビリンチュラはグルコース、光エネ
ルギー、無機のリンで生育する微生物であるが、その生
産機能を最大限に発揮させるためには光エネルギーとし
ての照度、温度、培地中の元素組成を適切に調整するこ
とが必要である。
【0016】例えば、純粋培養の条件としては、空気撹
拌、光照射は1,000ルックス以上、温度は20〜3
0℃、好ましくは28℃前後である。培地中のリンの供
給源は、KH2PO4が好ましく、その量としては0.1
〜3g/リットルの範囲が好ましい。また、ラビリンチ
ュラが生育できる範囲(海水1リットルにグルコース6
0g、ペプトン1g、KH2PO41g)の中で、生育が
止まると、培地中の栄養元素が一定になるように、より
高濃度とすることによって、DHAやアラキドン酸、カ
ロチノイドの生産量を高めることができる。
【0017】さらに、前記したように培養条件、特に培
地中のリン組成を変化することにより、ラビリンチュラ
ヘの刺激を強くすると、DHA、アラキドン酸、カロチ
ノイドの生産をさらに増加させることができる。
【0018】したがって、DHA、アラキドン酸、カロ
チノイドを高収率で製造するには、ラビリンチュラの生
育環境条件を極限状態に保持して、DHA、アラキドン
酸、カロチノイドの生産機能を最大限に引き出すのが有
利である。それには、例えばリンを最初の培地に添加す
るのが効果的である。
【0019】すなわち、培地にリンを含有する水溶液で
添加すると、水溶液中のリンが吸着剤であるラビリンチ
ュラの細胞に取り込まれると同時に、DHAやアラキド
ン酸、カロチノイドの含量が微生物体(乾燥質量)1g
中にDHAやアラキドン酸、カロチノイドが300μg
という高い値に増大する。その時点でリンを含有しない
培養液に変えると、ラビリンチュラの細胞に取り込まれ
るリンが存在しないので、DHAやアラキドン酸、カロ
チノイド含量が微生物体(乾燥質量)1g中380μg
に増大する。
【0020】また、本発明方法により、アラキドン酸及
びカロチノイドを製造する場合には、最初リンを添加し
た培地を用いて培養し、リンが消費された後は、リンを
補給せずに、リン無添加条件下で培養するのがよい。こ
のようにしてリン無添加培地で培養することにより、通
常のようにリン添加して行う場合に比べ、カロチノイド
の収量は1.5倍以上、アラキドン酸の収量は20倍以
上に増大する一方、DHAの収量は1/5以下に低下す
る。
【0021】次に、このようにして得られたDHA、ア
ラキドン酸及びカロチノイドを多量に含むラビリンチュ
ラ微生物体から効率的にDHAやアラキドン酸、カロチ
ノイドを抽出するには、クロロホルム−メチルアルコー
ル溶液を用いるのが好ましい。
【0022】このようにして、産生したDHAやアラキ
ドン酸及びカロチノイドが微生物体から分離される。そ
して、次にその溶液をシリカゲル充填カラムを通し、メ
チルアルコール混合溶液で展開することにより、100
%の収率でDHAやアラキドン酸、カロチノイドを回収
することができる。通常、メチルアルコール混合溶媒と
しては、メチルアルコール90〜95体積%で残りがク
ロロホルムのものが用いられる。
【0023】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明
するが、本発明はこれらによってなんら限定されるもの
ではない。
【0024】実施例1 瀬戸内海長島地区の海水にアカマツの花粉を懸濁して採
取したラビリンチュラ・エスピーCHN−1を、海水1
リットル当り、グルコース60g、ペプトン1g、リン
酸二水素カリウム1g及びリン1gを含む糖類培地に接
種し、温度28℃、1000ルックスの光照射下、通気
し、かきまぜながら6日間培養した。次いで培養液を遠
心分離して、微生物体を捕集した。このようにして得た
微生物体の表面の電子顕微鏡写真を図1に、またこの微
生物体を樹脂に包埋し、薄切りした断面の透過型電子顕
微鏡写真を図2に示す。
【0025】次に、上記の微生物体をメチルアルコール
で抽出し、この抽出液をシリカゲル(和光純薬社製,商
品名「ワコーゲル」)を充填したカラムに通し、吸着さ
せたのち、ヘキサン−クロロホルム−メチルアルコール
で展開することにより、DHA及びアラキドン酸をそれ
ぞれ800μg、アスタキサンチンとカロチンをそれぞ
れ580μg得た。微生物体の乾燥質量に基づく含有量
(DHAやアラキドン酸は、脂肪酸中での濃度、アスタ
キサンチンとカロチンは微生物体中での濃度)は以下の
とおりであった。
【0026】実施例2 次に海水1リットル中、グルコース50g、ペプトン1
g及びリン酸二水素カリウム1gからなる培地と、それ
にリン1gを添加した培地を用い、実施例1と同じ条件
下でラビリンチュラ・エスピーCHN−1を培養した。
その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】この表から分るように、リン無添加培地を
用いることにより、リン添加培地を用いた場合に比べ、
カロチノイド(アスタキサンチン+カロチン)の濃度
は、1.7倍、アラキドン酸の濃度は20倍に増大する
一方、DHA濃度は1/5に低下している。
【0029】実施例3 実施例2のリン無添加培地を用いた場合の実験を16日
間継続し、バイオマス、全脂肪酸、アラキドン酸及びD
HAの経時的な生産量を求め、グラフとして図3に示
す。この図から明らかなように、7日以後DHAの生産
量は、ほとんど変化しないが、アラキドン酸の生産量を
急激に増大する。
【0030】
【発明の効果】本発明によると、特にアラキドン酸、カ
ロチノイドを高含量で含むラビリンチュラそのものを純
枠に大量培養でき、かつこれからアラキドン酸、カロチ
ノイドを簡単に抽出分離することができ、高収率で高純
度のアラキドン酸、カロチノイド又は所望に応じDHA
を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で得たラビリンチュラ・エスピーC
HN−1の表面の電子顕微鏡写真図。
【図2】 実施例1で得たラビリンチュラ・エスピーC
HN−1の断面の電子顕微鏡写真図。
【図3】 本発明微生物の培養液中の産生物の経時的生
産量を示すグラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI (C12P 7/64 C12R 1:645) (C12P 23/00 C12R 1:645) (56)参考文献 特開2001−275656(JP,A) 特開2000−60539(JP,A) 山岡 到保 他,広島沿岸海水から単 離されたラビリンチュラの色素,第5回 マリンバイオテクノロジー学会大会講演 要旨集,2001年 5月24日,p.71 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 1/00 - 7/08 JSTPlus(JOIS) BIOSIS/WPI(DIALOG)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ラビリンチュラ(Labyrinthu
    la)属に属し、カロチノイドを産生して細胞が赤色に
    着色すること及びリン無添加培地においてアラキドン酸
    を産生することにより特徴づけられる微生物であるラビ
    リンチュラ・エスピーCHN−1(Labyrinth
    ula sp.CHN−1)。
  2. 【請求項2】 瀬戸内海から採取した海水中にマツの花
    粉を懸濁させ、その表面に吸着した微生物体を栄養培地
    に接種し、培養することを特徴とするラビリンチュラ・
    エスピーCHN−1(Labyrinthula s
    p.CHN−1)の産生方法。
  3. 【請求項3】 糖類を含むリン無添加類培地において、
    ラビリンチュラ・エスピーCHN−1(Labyrin
    thula sp.CHN−1)を培養し、その培養液
    からアラキドン酸又はカロチノイドを抽出することを特
    徴とするアラキドン酸又はカロチノイドの製造方法。
JP2001097347A 2001-03-29 2001-03-29 新規なアラキドン酸及びカロチノイド産生微生物、その産生方法及びそれを用いたアラキドン酸及びカロチノイドの製造方法 Expired - Lifetime JP3511093B2 (ja)

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