JP3491033B2 - N‐グリコリルノイラミン酸の製造方法 - Google Patents

N‐グリコリルノイラミン酸の製造方法

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昌男 柴田
剛 坂木
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海産未利用資源の
1つである棘皮動物グミ(Cucumariaechi
nata)の組織を原料として用い、簡単な方法で、有
用な物質であるN‐グリコリルノイラミン酸を製造する
方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ノイラミンのアシル誘導体はシアル酸と
総称され、通常、複合糖質の非還元末端に存在し、種々
の生理的役割を果たしている。そして、これまでN‐ア
シル基としてN‐アセチル基やN‐グリコリル基をもつ
もの、水酸基がアセチル基やメチル基により置換されて
いるものを含めて約20種類のシアル酸が知られてい
る。
【0003】近年、これらのシアル酸のうち、N‐グリ
コリルノイラミン酸は、ヒト大腸ガン細胞やヒト乳ガン
細胞中に微量ながら存在することが知られ、ガンマーカ
ーとして注目され始めてきた。
【0004】ところで、N‐グリコリルノイラミン酸
は、主として、ウマ、ウシ、ブタ、イヌなどの脊椎動物
の組織中から分離、回収され、複合糖質の糖成分分析を
行う際の標準品として用いられているが、その存在量が
少ない上に、精製が困難なため、高価になるのを免れな
い上に、純度の点でも、せいぜい90%程度のものを得
るのが限界であった。
【0005】他方、例年九州西海岸において、棘皮動物
グミが大量発生し、漁業分野に多大の被害を与えてい
る。この棘皮動物グミは体長約2cmの無脊椎動物であ
って、通常これを漁網等を用いて可及的速やかに捕獲
し、海水中より除去することにより、漁業面での被害を
抑えているが、捕集されたグミは何ら使い道がなく、土
中に埋めて処理する外はなく、二次的環境汚染を解決す
るのに苦慮しているのが実情である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的
は、未利用資源の棘皮動物グミを原料として有用なN‐
グリコリルノイラミン酸を製造する方法を提供すること
であり、第2の目的は、棘皮動物グミを特定の工程に従
って処理することにより、純度の高いN‐グリコリルノ
イラミン酸を高い収率で得る方法を提供することであ
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、捕獲した
棘皮動物グミの有効利用について、種々検討した結果、
この組織中に比較的多量のN‐グリコリルノイラミン酸
が存在すること、これを水中で可溶化処理したのち、特
定の分離手段を施せば高純度のN‐グリコリルノイラミ
ン酸が高収率で得られることを見出し、この知見に基づ
いて本発明をなすに至った。
【0008】すなわち、本発明は、棘皮動物グミの組織
を水中で可溶化処理して溶解させ、得られた水溶液から
N‐グリコリルノイラミン酸を分離、回収することを特
徴とするN‐グリコリルノイラミン酸の製造方法、及び
棘皮動物グミの組織を摩砕又はホモジナイズしたのち、
乾燥し、得られた粉末を水中に懸濁し、可溶化処理して
グミ組織を溶解して水溶液を調製し、次いでこの水溶液
をカチオン型イオン交換処理してその中の遊離のポリペ
プチドを除去したのち、残留液中からN‐グリコリルノ
イラミン酸を分離、回収するN‐グリコリルノイラミン
酸の製造方法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明方法において原料として用
いる棘皮動物グミは、乾燥粉末の状態で保存し、必要時
に必要量を適宜取り出して使用するのが好ましい。この
棘皮動物グミの乾燥粉末は、棘皮動物グミの生体組織を
溶媒中で摩砕又はホモジナイズしたのち、ろ過又は遠心
分離により不溶分を捕集し、これを減圧乾燥することに
より調製される。この際、用いる溶媒としては、アセト
ン、石油エーテル、クロロホルムなどが用いられる。こ
れらの溶媒は、棘皮動物グミの生体組織の約10〜30
倍量の割合で用いられる。このようにして、棘皮動物グ
ミの生体組織1kgから80〜150gの乾燥粉末が得
られる。
【0010】次に、この乾燥粉末を水中に懸濁し、酵素
を加えて可溶化処理する。この際用いる水には、酢酸カ
ルシウム、トリス塩酸を加えて緩衝した中性のものを用
いるのがよい。乾燥粉末に対する溶媒の使用量としては
重量に基づき3〜6倍の範囲が適当である。
【0011】このようにして調製されたグミ乾燥粉末の
水中懸濁液に、次にアクチナーゼのようなプロテアーゼ
を加えて反応させ、グミ乾燥粉末を可溶化する。この反
応は使用する酵素の活性により変わるが、通常30〜4
0℃において3〜20時間程度で完了する。
【0012】反応終了後、100℃に加熱してプロテア
ーゼを失活させたのち、ろ過又は遠心分離により不溶物
を除去する。次いで上清液を、必要に応じ水による透析
などにより洗浄したのち、カチオン型イオン交換樹脂と
接触させて、プロテアーゼとの反応で遊離してきたポリ
ペプチドを除去し、生成液をアルカリで中和する。この
ようにして得られた水溶液を濃縮し、さらに凍結乾燥す
ることにより、粗製N‐グリコリルノイラミン酸が、淡
かっ色粉末として得られる。
【0013】次に、このようにして得た粗製N‐グリコ
リルノイラミン酸を酸性溶媒に溶かし、加熱して加水分
解処理したのち、カチオン型イオン交換樹脂で処理し、
この処理液をアニオン型イオン交換樹脂と接触させて、
これに遊離のN‐グリコリルノイラミン酸を吸着分離す
ることにより、純度99%以上のN‐グリコリルノイラ
ミン酸を、0.5〜1.0重量%の収率で得ることがで
きる。本発明方法により得られたN‐グリコリルノイラ
ミン酸は、ガスクロマトグラフ−質量分析において、信
頼すべき標品と全く一致した。
【0014】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明
する。
【0015】実施例 (1)棘皮動物グミ乾燥粉末の調製 棘皮動物グミの生体組織1.3kgに20倍量(w/
v)のアセトンを加え、ホモジナイザーにより均一化し
てスラリーとしたのち、吸引ろ過して不溶分を捕集し、
減圧下で乾燥させた。このようにして、N‐グリコリル
ノイラミン酸を約0.15重量%含む乾燥粉末131g
を得た。
【0016】(2)グミ乾燥粉末水溶液の調製 グミ乾燥粉末46.9gを0.02M酢酸カルシウムを
含む0.05Mトリス‐塩酸緩衝液200ml(pH
7.8)に懸濁し、アクチナーゼE(科研製薬)700
mgを加えて37℃で48時間反応させ、グミ乾燥粉末
を完全に可溶化させた。反応液を100℃で5分間処理
してアクチナーゼEを失活させ、20,000×gで4
0分間遠心分離して不溶成分を除去した。遠心上清を蒸
留水に対して透析後、Dowex50−x8(H型)
カラム(ダウケミカル社,5×5cm)に通して遊離の
ポリペプチドを除去した。流出液をNaOHで中和後、
凍結乾燥濃縮した。濃縮物を蒸留水に対して透析後、凍
結乾燥して粗N‐グリコリルノイラミン酸画分5.3g
を得た。
【0017】(3)精製 (2)で得た粗N‐グリコリルノイラミン酸画分1.6
gを0.15Nトリフルオロ酢酸500mlに溶解後、
80℃で1.5時間加水分解した。加水分解液をNaO
Hで中和後、Dowex50−x8(H型)カラム
(ダウケミカル社,5×5cm)に通し、流出液をNa
OHで中和後、凍結乾燥濃縮した。濃縮物をDowex
1−x8(ギ酸型)カラム(ダウケミカル社,1.5×
32cm)に通して遊離のN‐グリコリルノイラミン酸
を吸着させた。カラム容積の3倍量の蒸留水で非吸着物
を洗い流した後、カラム容積の3倍量のギ酸を0.1N
から0.5Nまでの濃度で段階的に増加させることによ
りN‐グリコリルノイラミン酸をカラムから溶出させ
た。この結果を図1に示す。0.3Nから0.4Nギ酸
溶出画分を凍結乾燥して回収し、N‐グリコリルノイラ
ミン酸11.1mgを得た。このようにして、グミ乾燥
粉末中のN‐グリコリルノイラミン酸を52%の収率で
回収することができた。
【0018】(4)分析 (3)で得たN‐グリコリルノイラミン酸30μg又は
標準単糖混合物(NeuGc及びNeuAc,Sigm
a社)30μgずつに内部標準物質としてミオ‐イノシ
トール6μgを加えて、五酸化リン充填真空デシケータ
ー中で完全に乾燥させた。乾燥物に0.025N HC
l/MeOH1mlを加えて、70℃で30分間反応さ
せた。反応液に窒素ガスを吹きつけHCl/MeOHを
除去し、トリメチルシリル化剤を加えて30分間反応さ
せ、試料を揮発性誘導体とした。得られた揮発性誘導体
をガスクロマトグラフ−質量分析計(島津製作所QP−
5000,CBP−1キャピラリーカラム,0.25m
m×30m)で分析した。ガスクロマトグラフの昇温プ
ログラムは40℃で3分間保持した後、180℃まで2
0℃/分、240℃まで1.5℃/分で行った。質量分
析計はイオン化に電子衝撃法を用い、イオン化電圧70
eV、イオン源温度220℃、スキャン間隔0.5秒で
測定した。N‐グリコリルノイラミン酸の定量は内部標
準法を用いて行った。
【0019】このようにして得たガスクロマトグラム及
び質量分析の結果をそれぞれ図2及び図3に示す。図2
においてN‐グリコリルノイラミン酸に由来する4つの
ピークが検出され、それら4つのピークのミオ−イノシ
トールに対する相対保持時間が標品(Sigma社製)
のそれと完全に一致した。また、図3において、N‐グ
リコリルノイラミン酸に特徴的な質量数イオンすなわち
654、508、430及び386が検出され、それら
の相対強度も標品(Sigma社製)のそれと完全に一
致した。 これらの結果から前記(3)で得た物質は、
N‐グリコリルノイラミン酸であると同定された。ま
た、このものの純度は99.19%(不純物としてN‐
アセチルノイラミン酸0.81%を含む)であることが
分った。
【0020】
【発明の効果】本発明によると、未利用資源である棘皮
動物グミから有用なN‐グリコリルノイラミン酸を効率
よく、しかも高純度で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例においてDowex1−x8(ギ酸
型)カラムを通したときの溶出パターン。
【図2】 本発明方法で得た精製N‐グリコリルノイラ
ミン酸のガスクロマトグラフィの分離パターン。
【図3】 本発明方法で得た精製N‐グリコリルノイラ
ミン酸のマススペクトル図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 坂木 剛 佐賀県鳥栖市宿町字野々下807番地1 工業技術院九州工業技術研究所内 (72)発明者 シャライ・イムレ 佐賀県鳥栖市宿町字野々下807番地1 工業技術院九州工業技術研究所内 (72)発明者 朴 晟秀 佐賀県鳥栖市宿町字野々下807番地1 工業技術院九州工業技術研究所内 (56)参考文献 Biochimica et Bio physica Acta,1983年,V ol.757,No.3,p.371−376 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07H 1/08,7/027 REGISTRY(STN) CA(STN) JICSTファイル(JOIS)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 棘皮動物グミ(Cucumaria e
    chinata)の組織を水中で可溶化処理して溶解さ
    せ、得られた水溶液からN‐グリコリルノイラミン酸を
    分離、回収することを特徴とするN‐グリコリルノイラ
    ミン酸の製造方法。
  2. 【請求項2】 棘皮動物グミ(Cucumaria e
    chinata)の組織を摩砕又はホモジナイズしたの
    ち、乾燥し、得られた粉末を水中に懸濁し、可溶化処理
    してグミ組織を溶解した水溶液を調製し、次いでこの水
    溶液をカチオン型イオン交換処理してその中の遊離のポ
    リペプチドを除去したのち、残留液中からN‐グリコリ
    ルノイラミン酸を分離、回収する請求項1記載のN‐グ
    リコリルノイラミン酸の製造方法。
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Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
Biochimica et Biophysica Acta,1983年,Vol.757,No.3,p.371−376

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