JP3451671B2 - 摺動部材 - Google Patents
摺動部材Info
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】この発明は，基体表面上に皮
膜を有する摺動部材に関する。
膜を有する摺動部材に関する。
【０００２】
【従来の技術】従来，窒化ケイ素Ｓｉ3 Ｎ4 中に窒化硼
素ＢＮ等の固体潤滑材を分散させて摩擦係数を低減する
ものは，例えば，特開昭５９−３０７６９号公報に開示
されている。また，焼結助剤として，Ｆｅ3 Ｏ4 等の鉄
Ｆｅの酸化物を添加した窒化ケイ素Ｓｉ3 Ｎ4 は，例え
ば，特開昭５８−６４２６８号公報，特開昭５９−８８
３７４号公報，特開昭６１−７２６８５号公報等に開示
されている。
素ＢＮ等の固体潤滑材を分散させて摩擦係数を低減する
ものは，例えば，特開昭５９−３０７６９号公報に開示
されている。また，焼結助剤として，Ｆｅ3 Ｏ4 等の鉄
Ｆｅの酸化物を添加した窒化ケイ素Ｓｉ3 Ｎ4 は，例え
ば，特開昭５８−６４２６８号公報，特開昭５９−８８
３７４号公報，特開昭６１−７２６８５号公報等に開示
されている。
【０００３】また，摺動部材として，母材の表面にＴｉ
Ｎ，ＴｉＣ，Ｓｉ3 Ｎ4 等のセラミックコーティングを
行い，耐摩耗性を向上させるものは知られている。ま
た，複合摺動部材として，Ａｌ等の合金にセラミックス
を種々の方法で複合化し，例えば，セラミックプリフォ
ームを作製した後，含浸等により金属とセラミックスを
複合化させたものが知られている。そして，金属基体に
セラミックスを被覆する場合に，溶射等が一般的に実用
化されている。
Ｎ，ＴｉＣ，Ｓｉ3 Ｎ4 等のセラミックコーティングを
行い，耐摩耗性を向上させるものは知られている。ま
た，複合摺動部材として，Ａｌ等の合金にセラミックス
を種々の方法で複合化し，例えば，セラミックプリフォ
ームを作製した後，含浸等により金属とセラミックスを
複合化させたものが知られている。そして，金属基体に
セラミックスを被覆する場合に，溶射等が一般的に実用
化されている。
【０００４】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら，母材の
表面にセラミックコーティングを施した摺動部材は，セ
ラミックスが金属に比較して一般に潤滑油の吸着性が劣
っており，そのため耐摩耗性が優れるが，摩擦係数が大
きくなるという性質を有している。また，上記複合摺動
部材は，セラミックスを主に耐摩耗性材料として機能さ
せており，摩擦係数μの低下を意図するものではなく，
あるいは摩擦係数μを大幅に低下させることを意図した
ものではない。また，上記のように，Ａｌ合金等の金属
にセラミックス粒子，ウィスカーを配した摺動部材で
は，摺動部材自体の耐摩耗性は金属基体に比較して向上
しているものの，オイル吸着性が優れているというもの
ではなく，一概に摩擦係数μは低いというものではな
い。更に，摺動条件の厳しい場所では，摺動部材の表面
の油膜が切れ，スティック等のトラブルが生じることに
なる。
表面にセラミックコーティングを施した摺動部材は，セ
ラミックスが金属に比較して一般に潤滑油の吸着性が劣
っており，そのため耐摩耗性が優れるが，摩擦係数が大
きくなるという性質を有している。また，上記複合摺動
部材は，セラミックスを主に耐摩耗性材料として機能さ
せており，摩擦係数μの低下を意図するものではなく，
あるいは摩擦係数μを大幅に低下させることを意図した
ものではない。また，上記のように，Ａｌ合金等の金属
にセラミックス粒子，ウィスカーを配した摺動部材で
は，摺動部材自体の耐摩耗性は金属基体に比較して向上
しているものの，オイル吸着性が優れているというもの
ではなく，一概に摩擦係数μは低いというものではな
い。更に，摺動条件の厳しい場所では，摺動部材の表面
の油膜が切れ，スティック等のトラブルが生じることに
なる。
【０００５】そこで，本出願人は，上記の課題を解決す
るため，低摩擦セラミックスを開発して先に出願した
〔特願平５−９５０４８号（特開平６−２３４５６４号
公報）〕。該低摩擦セラミックスは，Ｓｉ3 Ｎ4 又はＳ
ｉＣのＳｉを主成分とする母相中にＦｅＯ，Ｆｅ
2 Ｏ3 ，Ｆｅ3 Ｏ4 等のＦｅの酸化物を分散させ，大気
中において表面からやや内部にかけて酸化させ，化合物
として存在していたＦｅ−Ｓｉ系の化合物をオイルとの
吸着性に優れたＦｅ−Ｏ系の酸化物に変化させることに
よって低摩擦化したものである。
るため，低摩擦セラミックスを開発して先に出願した
〔特願平５−９５０４８号（特開平６−２３４５６４号
公報）〕。該低摩擦セラミックスは，Ｓｉ3 Ｎ4 又はＳ
ｉＣのＳｉを主成分とする母相中にＦｅＯ，Ｆｅ
2 Ｏ3 ，Ｆｅ3 Ｏ4 等のＦｅの酸化物を分散させ，大気
中において表面からやや内部にかけて酸化させ，化合物
として存在していたＦｅ−Ｓｉ系の化合物をオイルとの
吸着性に優れたＦｅ−Ｏ系の酸化物に変化させることに
よって低摩擦化したものである。
【０００６】この発明の目的は，上記の課題を解決する
ことであり，硬質の基体表面にセラミックコーティング
等の硬質皮膜を形成し，更に硬質皮膜上に潤滑油の吸着
に優れる元素を打ち込んで表面改質層を形成し，摩擦係
数及び摩耗量を低減した摺動部材を提供することであ
る。
ことであり，硬質の基体表面にセラミックコーティング
等の硬質皮膜を形成し，更に硬質皮膜上に潤滑油の吸着
に優れる元素を打ち込んで表面改質層を形成し，摩擦係
数及び摩耗量を低減した摺動部材を提供することであ
る。
【０００７】
【課題を解決するための手段】この発明は，基体表面
に，Ｈｖ８００以上の硬度を有し且つＴｉ，Ｚｒ，Ｈ
ｆ，Ｖ，Ｎｂ，Ｔａ，Ｃｒ，Ｍｏ又はＷの元素及びＳ
ｉ，Ａｌの炭化物，窒化物又は硼化物を母相とする皮膜
が形成され，しかも前記皮膜上に前記皮膜を構成する元
素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，
Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素を含む表面改質
層がイオンビームによるスパッタによって形成され，前
記皮膜と前記表面改質層との元素が同一元素の場合が含
まれていることを特徴とする摺動部材に関する。
に，Ｈｖ８００以上の硬度を有し且つＴｉ，Ｚｒ，Ｈ
ｆ，Ｖ，Ｎｂ，Ｔａ，Ｃｒ，Ｍｏ又はＷの元素及びＳ
ｉ，Ａｌの炭化物，窒化物又は硼化物を母相とする皮膜
が形成され，しかも前記皮膜上に前記皮膜を構成する元
素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，
Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素を含む表面改質
層がイオンビームによるスパッタによって形成され，前
記皮膜と前記表面改質層との元素が同一元素の場合が含
まれていることを特徴とする摺動部材に関する。
【０００８】また，この摺動部材において，前記表面改
質層が前記皮膜を構成する前記元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃ
ｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なく
とも１種以上の前記元素およびＡｒ，Ｎ，Ｃの少なくと
も１種以上の元素と酸素の元素を含んでいるものであ
る。
質層が前記皮膜を構成する前記元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃ
ｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なく
とも１種以上の前記元素およびＡｒ，Ｎ，Ｃの少なくと
も１種以上の元素と酸素の元素を含んでいるものであ
る。
【０００９】また，この摺動部材において，前記表面改
質層中の前記酸素の元素が前記皮膜から表面に向かって
濃度勾配が大きくなっているものである。
質層中の前記酸素の元素が前記皮膜から表面に向かって
濃度勾配が大きくなっているものである。
【００１０】この発明による摺動部材は，上記のように
構成されているので，前記皮膜は硬質であり耐摩耗性を
向上させることができ，また，前記表面改質層は潤滑油
の吸着性に優れ，摩擦係数及び摩耗量を低減できる。即
ち，Ｆｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，
Ｐｂ，Ａｇの元素は吸着性に優れているので，前記元素
の化合物を前記皮膜にイオンビームによるスパッタで注
入することによって，表面の油膜が切れ難くなり，その
結果，優れた耐摩耗性を発揮し，低い摩擦係数を示すこ
とになる。
構成されているので，前記皮膜は硬質であり耐摩耗性を
向上させることができ，また，前記表面改質層は潤滑油
の吸着性に優れ，摩擦係数及び摩耗量を低減できる。即
ち，Ｆｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，
Ｐｂ，Ａｇの元素は吸着性に優れているので，前記元素
の化合物を前記皮膜にイオンビームによるスパッタで注
入することによって，表面の油膜が切れ難くなり，その
結果，優れた耐摩耗性を発揮し，低い摩擦係数を示すこ
とになる。
【００１１】
【発明の実施の形態】以下，図面を参照して，この発明
による摺動部材の実施例を説明する。この摺動部材は，
図１に示すように，金型用鋼材（例えば，ＳＫＤ１１）
等の基体１の表面６上に，Ｈｖ８００以上の硬度を有し
且つＴｉ，Ｚｒ，Ｈｆ，Ｖ，Ｎｂ，Ｔａ，Ｃｒ，Ｍｏ又
はＷの元素のうち少なくとも１種以上の元素及びＳｉ又
はＡｌの炭化物，窒化物又は硼化物のうち少なくとも１
種以上を母相とする皮膜２が形成されており，しかも皮
膜２上に皮膜２を構成する元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎ
ｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの元素の少なく
とも１種以上の元素を含む表面改質層５が形成されてい
るものである。
による摺動部材の実施例を説明する。この摺動部材は，
図１に示すように，金型用鋼材（例えば，ＳＫＤ１１）
等の基体１の表面６上に，Ｈｖ８００以上の硬度を有し
且つＴｉ，Ｚｒ，Ｈｆ，Ｖ，Ｎｂ，Ｔａ，Ｃｒ，Ｍｏ又
はＷの元素のうち少なくとも１種以上の元素及びＳｉ又
はＡｌの炭化物，窒化物又は硼化物のうち少なくとも１
種以上を母相とする皮膜２が形成されており，しかも皮
膜２上に皮膜２を構成する元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎ
ｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの元素の少なく
とも１種以上の元素を含む表面改質層５が形成されてい
るものである。
【００１２】この摺動部材において，表面改質層５は，
皮膜２を構成する元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍ
ｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上
の元素およびＡｒ，Ｎ，Ｃの少なくとも１種以上の元素
と酸素を含んでいるものである。更に，表面改質層５中
の酸素は，図２に示すように，皮膜２から表面改質層５
の表面７に向かって濃度勾配が大きくなっているもので
ある。図２はこの摺動部材についてのオージェ（Ａｕｇ
ｅｒ）電子分光によるＦｅ−Ｏ膜とＴｉＮ膜のプロフィ
ールを示すグラフである。図２には，この摺動部材にお
ける表面改質層５の表面７からのイオンの注入深さ（μ
ｍ）に対するＴｉ，Ｏ，Ｆｅの組成比が示されている。
皮膜２を構成する元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍ
ｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上
の元素およびＡｒ，Ｎ，Ｃの少なくとも１種以上の元素
と酸素を含んでいるものである。更に，表面改質層５中
の酸素は，図２に示すように，皮膜２から表面改質層５
の表面７に向かって濃度勾配が大きくなっているもので
ある。図２はこの摺動部材についてのオージェ（Ａｕｇ
ｅｒ）電子分光によるＦｅ−Ｏ膜とＴｉＮ膜のプロフィ
ールを示すグラフである。図２には，この摺動部材にお
ける表面改質層５の表面７からのイオンの注入深さ（μ
ｍ）に対するＴｉ，Ｏ，Ｆｅの組成比が示されている。
【００１３】この発明による摺動部材の一実施例を図１
を参照して実施例１として説明する。図１はこの発明に
よる摺動部材を誇張して示す説明図である。 〔実施例１〕 この摺動部材を作製するには，まず，硬質の基体１とし
て金型用鋼材（例えば，ＳＫＤ１１）を使用し，該金型
用鋼材を大きさ１６×１０×７０ｍｍの直方体形状の試
験片即ち基体１を作製した。この金型用鋼材の基体１の
表面６にイオンプレーティングあるいはＣＶＤ（化学蒸
着）によってＨｖ８００以上の硬度を有する硬質皮膜２
となるＴｉＮ，ＴｉＣ，Ｓｉ3 Ｎ4 ，ＷＣをコーティン
グして各種の摺動試験片を作製した。更に，これらの摺
動試験片のコーティングした硬化膜即ち皮膜２の上に，
最初にＡｒ＋（ここで，“＋”はプラスイオンを表し，
以下，アルゴンプラスイオンをＡｒ＋で表示する）のイ
オンビームによってスパッタされ，次いでＯ＋（ここで
“＋”はプラスイオンを表し，以下，酸素プラスイオン
をＯ＋で表示する）のイオンビームによってスパッタリ
ングされたＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍ
ｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素をＡｒ
＋のイオンビームをアシストとして注入即ち打ち込ん
だ。
を参照して実施例１として説明する。図１はこの発明に
よる摺動部材を誇張して示す説明図である。 〔実施例１〕 この摺動部材を作製するには，まず，硬質の基体１とし
て金型用鋼材（例えば，ＳＫＤ１１）を使用し，該金型
用鋼材を大きさ１６×１０×７０ｍｍの直方体形状の試
験片即ち基体１を作製した。この金型用鋼材の基体１の
表面６にイオンプレーティングあるいはＣＶＤ（化学蒸
着）によってＨｖ８００以上の硬度を有する硬質皮膜２
となるＴｉＮ，ＴｉＣ，Ｓｉ3 Ｎ4 ，ＷＣをコーティン
グして各種の摺動試験片を作製した。更に，これらの摺
動試験片のコーティングした硬化膜即ち皮膜２の上に，
最初にＡｒ＋（ここで，“＋”はプラスイオンを表し，
以下，アルゴンプラスイオンをＡｒ＋で表示する）のイ
オンビームによってスパッタされ，次いでＯ＋（ここで
“＋”はプラスイオンを表し，以下，酸素プラスイオン
をＯ＋で表示する）のイオンビームによってスパッタリ
ングされたＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍ
ｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素をＡｒ
＋のイオンビームをアシストとして注入即ち打ち込ん
だ。
【００１４】図１において，表面改質層５における符号
３で示す黒塗り粒子はスパッタされたイオンを示し，ま
た，符号４で示す白丸の粒子はアシストイオンを示して
いる。また，表面改質層５におけるその他の部分は皮膜
２に含まれる元素を有した母相を示している。
３で示す黒塗り粒子はスパッタされたイオンを示し，ま
た，符号４で示す白丸の粒子はアシストイオンを示して
いる。また，表面改質層５におけるその他の部分は皮膜
２に含まれる元素を有した母相を示している。
【００１５】一方，摺動試験の相手材として，鋳鉄から
作製された鋳鉄ピンと，相対密度９９％以上のＳｉ3 Ｎ
4 焼結体から作製されたＳｉ3 Ｎ4 ピンを使用した。鋳
鉄ピンとＳｉ3 Ｎ4 ピンの各端面は曲率半径９ｍｍの球
面であり，それらのサイズはφ８×２３ｍｍにそれぞれ
形成されている。往復動摺動試験機において，試験片の
面（即ち直方体形状の基体１上に皮膜２と表面改質層５
を有する面）に対して鋳鉄ピンとＳｉ3 Ｎ4 ピンをほぼ
垂直になるようにセットし，荷重１ｋｇｆ，温度１５０
℃，摺動速度０．５ｍ／ｓの条件で摺動試験を行い，摩
擦係数μ及び試験片，鋳鉄ピン及びＳｉ3 Ｎ4 ピンの摩
耗量（×１０- 6 ｍｍ3 ／Ｎ・ｍ）を測定した。それら
の結果を，表１，表２，表３及び表４に示す。
作製された鋳鉄ピンと，相対密度９９％以上のＳｉ3 Ｎ
4 焼結体から作製されたＳｉ3 Ｎ4 ピンを使用した。鋳
鉄ピンとＳｉ3 Ｎ4 ピンの各端面は曲率半径９ｍｍの球
面であり，それらのサイズはφ８×２３ｍｍにそれぞれ
形成されている。往復動摺動試験機において，試験片の
面（即ち直方体形状の基体１上に皮膜２と表面改質層５
を有する面）に対して鋳鉄ピンとＳｉ3 Ｎ4 ピンをほぼ
垂直になるようにセットし，荷重１ｋｇｆ，温度１５０
℃，摺動速度０．５ｍ／ｓの条件で摺動試験を行い，摩
擦係数μ及び試験片，鋳鉄ピン及びＳｉ3 Ｎ4 ピンの摩
耗量（×１０- 6 ｍｍ3 ／Ｎ・ｍ）を測定した。それら
の結果を，表１，表２，表３及び表４に示す。
【表１】
【表２】
【表３】
【表４】
【００１６】表１は，皮膜２即ち硬化膜がＴｉＮ及びＴ
ｉＣであり，且つＳｉ3 Ｎ4 ピンを使用した場合の摺動
試験片についての摩擦係数と比摩耗量（×１０- 6 ｍｍ
3 ／Ｎ・ｍ）を示しており，Ｓｉ3 Ｎ4 ピンについての
比摩耗量も示されている。表２は，皮膜２即ち硬化膜が
Ｓｉ3 Ｎ4 及びＷＣであり，且つＳｉ3 Ｎ4 ピンを使用
した場合の摺動試験片についての摩擦係数と摩耗量を示
しており，Ｓｉ3 Ｎ4ピンについての比摩耗量も示され
ている。また，表３は，皮膜２即ち硬化膜がＴｉＮ及び
ＴｉＣであり，且つ鋳鉄ピンを使用した場合の試験片に
ついての摩擦係数と摩耗量を示しており，鋳鉄ピンにつ
いての比摩耗量も示されている。表４は，皮膜２即ち硬
化膜がＳｉ3 Ｎ4 及びＷＣであり且つ鋳鉄ピンを使用し
た場合の試験片についての摩擦係数と摩耗量を示してお
り，鋳鉄ピンについての比摩耗量も示されている。
ｉＣであり，且つＳｉ3 Ｎ4 ピンを使用した場合の摺動
試験片についての摩擦係数と比摩耗量（×１０- 6 ｍｍ
3 ／Ｎ・ｍ）を示しており，Ｓｉ3 Ｎ4 ピンについての
比摩耗量も示されている。表２は，皮膜２即ち硬化膜が
Ｓｉ3 Ｎ4 及びＷＣであり，且つＳｉ3 Ｎ4 ピンを使用
した場合の摺動試験片についての摩擦係数と摩耗量を示
しており，Ｓｉ3 Ｎ4ピンについての比摩耗量も示され
ている。また，表３は，皮膜２即ち硬化膜がＴｉＮ及び
ＴｉＣであり，且つ鋳鉄ピンを使用した場合の試験片に
ついての摩擦係数と摩耗量を示しており，鋳鉄ピンにつ
いての比摩耗量も示されている。表４は，皮膜２即ち硬
化膜がＳｉ3 Ｎ4 及びＷＣであり且つ鋳鉄ピンを使用し
た場合の試験片についての摩擦係数と摩耗量を示してお
り，鋳鉄ピンについての比摩耗量も示されている。
【００１７】各試験片に対する摺動試験を行った結果を
示す表１，表２，表３及び表４を考慮すると，表１及び
表２から分かるように，基体１に皮膜２の表面硬化膜を
コーティングし且つイオン注入を行って表面改質層５を
形成した摺動試験片は，基体１に皮膜２の表面硬化膜の
みをコーティングしたものに比較して，摩擦係数及び比
摩耗量は小さくなっていることが分かる。特に，表３及
び表４から分かるように，基体１に皮膜２の表面硬化膜
をコーティングし且つイオン注入を行って表面改質層５
を形成した摺動試験片は，基体１に皮膜２の表面硬化膜
のみをコーティングしたものに比較して，比摩耗量は大
幅に小さくなっていることが分かる。
示す表１，表２，表３及び表４を考慮すると，表１及び
表２から分かるように，基体１に皮膜２の表面硬化膜を
コーティングし且つイオン注入を行って表面改質層５を
形成した摺動試験片は，基体１に皮膜２の表面硬化膜の
みをコーティングしたものに比較して，摩擦係数及び比
摩耗量は小さくなっていることが分かる。特に，表３及
び表４から分かるように，基体１に皮膜２の表面硬化膜
をコーティングし且つイオン注入を行って表面改質層５
を形成した摺動試験片は，基体１に皮膜２の表面硬化膜
のみをコーティングしたものに比較して，比摩耗量は大
幅に小さくなっていることが分かる。
【００１８】次に，この発明による摺動部材の別の実施
例を説明する。この実施例では，摺動部材を作製する実
施例１におけるアシストイオンとしてのＡｒ＋のイオン
ビームの代わりにＮ＋（ここで，“＋”はプラスイオン
を表し，以下，窒素プラスイオンをＮ＋で表示する）を
使用し，最初にＮ＋のイオンビームによってスパッタさ
れ，次いでＯ＋のイオンビームによってスパッタされた
Ｆｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐ
ｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素をＮ＋のイオンビ
ームをアシストとして注入即ち打ち込んだ。アシストイ
オンをＮ＋→Ｏ＋とした場合にも，実施例１と同様の傾
向が見られた。
例を説明する。この実施例では，摺動部材を作製する実
施例１におけるアシストイオンとしてのＡｒ＋のイオン
ビームの代わりにＮ＋（ここで，“＋”はプラスイオン
を表し，以下，窒素プラスイオンをＮ＋で表示する）を
使用し，最初にＮ＋のイオンビームによってスパッタさ
れ，次いでＯ＋のイオンビームによってスパッタされた
Ｆｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐ
ｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素をＮ＋のイオンビ
ームをアシストとして注入即ち打ち込んだ。アシストイ
オンをＮ＋→Ｏ＋とした場合にも，実施例１と同様の傾
向が見られた。
【００１９】次に，この発明による摺動部材の更に別の
実施例を説明する。この実施例では，摺動部材を作製す
る実施例１におけるアシストイオンとしてのＡｒ＋のイ
オンビームの代わりにＣ＋（ここで，“＋”はプラスイ
オンを表し，以下，炭素プラスイオンをＣ＋で表示す
る）を使用し，最初にＣ＋のイオンビームによってスパ
ッタされ，次いでＯ＋のイオンビームによってスパッタ
されたＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，
Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素をＣ＋のイ
オンビームをアシストとして注入即ち打ち込んだ。アシ
ストイオンをＣ＋→Ｏ＋とした場合にも，実施例１と同
様の傾向が見られた。
実施例を説明する。この実施例では，摺動部材を作製す
る実施例１におけるアシストイオンとしてのＡｒ＋のイ
オンビームの代わりにＣ＋（ここで，“＋”はプラスイ
オンを表し，以下，炭素プラスイオンをＣ＋で表示す
る）を使用し，最初にＣ＋のイオンビームによってスパ
ッタされ，次いでＯ＋のイオンビームによってスパッタ
されたＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，
Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素をＣ＋のイ
オンビームをアシストとして注入即ち打ち込んだ。アシ
ストイオンをＣ＋→Ｏ＋とした場合にも，実施例１と同
様の傾向が見られた。
【００２０】また，この発明による摺動部材を作製する
において，実施例１における基体１として金型用鋼材
（例えば，ＳＫＤ１１）上にＴｉＮ，ＴｉＣ，Ｓｉ3 Ｎ
4 ，ＷＣをコーティングを行う代わりに，皮膜２とし
て，Ｈｖ８００以上の硬度を有するＡｌ2 Ｏ3 ，ＴｉＢ
2 をコーティングした摺動試験片に上記元素を打ち込ん
だものについても同様な傾向が見られた。
において，実施例１における基体１として金型用鋼材
（例えば，ＳＫＤ１１）上にＴｉＮ，ＴｉＣ，Ｓｉ3 Ｎ
4 ，ＷＣをコーティングを行う代わりに，皮膜２とし
て，Ｈｖ８００以上の硬度を有するＡｌ2 Ｏ3 ，ＴｉＢ
2 をコーティングした摺動試験片に上記元素を打ち込ん
だものについても同様な傾向が見られた。
【００２１】この発明による摺動部材では，上記のこと
より，皮膜２はＨｖ８００以上の硬度を有するものであ
れば，その皮膜２に潤滑油を吸着する表面改質層５が存
在すれば，低摩擦係数μを示し，且つ摩耗量を低減する
ことができることが分かる。即ち，この摺動部材につい
ては，硬質の金属又はセラミックスから成る基体１の表
面６に，耐摩耗性を目的とするセラミックコーティング
等の硬質皮膜を形成し，その硬質皮膜の表面に潤滑油の
吸着に優れるＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍ
ｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素のイオ
ンを注入した表面改質層５を形成することにより，摩擦
係数μを低減し，摩耗量も低減することができるもので
ある。
より，皮膜２はＨｖ８００以上の硬度を有するものであ
れば，その皮膜２に潤滑油を吸着する表面改質層５が存
在すれば，低摩擦係数μを示し，且つ摩耗量を低減する
ことができることが分かる。即ち，この摺動部材につい
ては，硬質の金属又はセラミックスから成る基体１の表
面６に，耐摩耗性を目的とするセラミックコーティング
等の硬質皮膜を形成し，その硬質皮膜の表面に潤滑油の
吸着に優れるＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍ
ｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の元素のイオ
ンを注入した表面改質層５を形成することにより，摩擦
係数μを低減し，摩耗量も低減することができるもので
ある。
【００２２】また，この摺動部材について，上記実施例
で得られた皮膜２と表面改質層５との元素分析を行った
ところ，図２に示すように，皮膜２と表面改質層５との
表面７からのイオンの注入深さ（μｍ）に対するＴｉ，
Ｏ，Ｆｅの組成比が示されている。そして，皮膜２のＯ
濃度に比較して，表面改質層５のＯ濃度が高い濃度勾配
を示していることが分かる。
で得られた皮膜２と表面改質層５との元素分析を行った
ところ，図２に示すように，皮膜２と表面改質層５との
表面７からのイオンの注入深さ（μｍ）に対するＴｉ，
Ｏ，Ｆｅの組成比が示されている。そして，皮膜２のＯ
濃度に比較して，表面改質層５のＯ濃度が高い濃度勾配
を示していることが分かる。
【００２３】
【発明の効果】この発明による摺動部材は，上記のよう
に構成されているので，前記皮膜が硬質皮膜となって耐
摩耗性を向上させ，また，前記表面改質層が潤滑油の吸
着性を発揮し，摩擦係数を低減すると共に，摩耗量を低
減させることができ，摺動部材として適用して極めて好
ましいものである。しかも，Ｆｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，
Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの元素のイオンは前
記皮膜に打ち込まれて吸着性に優れた膜として機能し，
油膜の途切れ難い低摩擦化を確保でき，耐摩耗性に富ん
だ安定したものとなり，摺動部に使用してもスティック
等のトラブルが発生することがない。
に構成されているので，前記皮膜が硬質皮膜となって耐
摩耗性を向上させ，また，前記表面改質層が潤滑油の吸
着性を発揮し，摩擦係数を低減すると共に，摩耗量を低
減させることができ，摺動部材として適用して極めて好
ましいものである。しかも，Ｆｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，
Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの元素のイオンは前
記皮膜に打ち込まれて吸着性に優れた膜として機能し，
油膜の途切れ難い低摩擦化を確保でき，耐摩耗性に富ん
だ安定したものとなり，摺動部に使用してもスティック
等のトラブルが発生することがない。
【図１】この発明による摺動部材の一実施例を誇張して
示す説明図である。
示す説明図である。
【図２】この摺動部材についてのオージェ電子分光によ
るＦｅ−Ｏ膜とＴｉＮ膜のプロフィールを示すグラフで
ある。
るＦｅ−Ｏ膜とＴｉＮ膜のプロフィールを示すグラフで
ある。
１ 基体
２ 皮膜
３ スパッタされたイオン
４ アシストイオン
５ 表面改質層
６ 基体の表面
７ 摺動部材の表面
フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 ＦＩ
Ｃ１０Ｎ 10:06 Ｃ１０Ｎ 10:06
10:08 10:08
10:10 10:10
10:12 10:12
10:14 10:14
10:16 10:16
20:00 20:00 Ｚ
30:06 30:06
40:02 40:02
50:08 50:08
(58)調査した分野(Int.Cl.7，ＤＢ名)
C10M 103/00 - 103/06
C10N 10:00 - 10:16
C10N 20:00
C10N 30:06
C10N 40:02
C10N 50:08
C23C 14/06 - 14/20
C23C 16/30 - 16/42
Claims (3)
- 【請求項１】 基体表面に，Ｈｖ８００以上の硬度を有
し且つＴｉ，Ｚｒ，Ｈｆ，Ｖ，Ｎｂ，Ｔａ，Ｃｒ，Ｍｏ
又はＷの元素及びＳｉ，Ａｌの炭化物，窒化物又は硼化
物を母相とする皮膜が形成され，しかも前記皮膜上に前
記皮膜を構成する元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍ
ｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上
の元素を含む表面改質層がイオンビームによるスパッタ
によって形成され，前記皮膜と前記表面改質層との元素
が同一元素の場合が含まれていることを特徴とする摺動
部材。 - 【請求項２】 前記表面改質層が前記皮膜を構成する前
記元素とＦｅ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ，Ｍｏ，Ｃｏ，Ｍｎ，
Ｗ，Ｐｂ，Ａｇの少なくとも１種以上の前記元素および
Ａｒ，Ｎ，Ｃの少なくとも１種以上の元素と酸素の元素
を含んでいることを特徴とする請求項１に記載の摺動部
材。 - 【請求項３】 前記表面改質層中の前記酸素の元素が前
記皮膜から表面に向かって濃度勾配が大きくなっている
ことを特徴とする請求項２に記載の摺動部材。
Priority Applications (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP26545693A JP3451671B2 (ja) | 1993-09-30 | 1993-09-30 | 摺動部材 |
Applications Claiming Priority (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP26545693A JP3451671B2 (ja) | 1993-09-30 | 1993-09-30 | 摺動部材 |
Publications (2)
| Publication Number | Publication Date |
|---|---|
| JPH07101789A JPH07101789A (ja) | 1995-04-18 |
| JP3451671B2 true JP3451671B2 (ja) | 2003-09-29 |
Family
ID=17417424
Family Applications (1)
| Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
|---|---|---|---|
| JP26545693A Expired - Lifetime JP3451671B2 (ja) | 1993-09-30 | 1993-09-30 | 摺動部材 |
Country Status (1)
| Country | Link |
|---|---|
| JP (1) | JP3451671B2 (ja) |
Families Citing this family (3)
| Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
|---|---|---|---|---|
| KR101360416B1 (ko) | 2011-11-15 | 2014-02-11 | 현대자동차주식회사 | 자동차 부품용 저마찰 코팅층 및 코팅층 형성방법 |
| JP2015218335A (ja) * | 2014-05-13 | 2015-12-07 | 株式会社神戸製鋼所 | 窒化物皮膜およびその製造方法 |
| JP2019112693A (ja) * | 2017-12-25 | 2019-07-11 | 株式会社デンソー | 摺動部材およびその製造方法 |
-
1993
- 1993-09-30 JP JP26545693A patent/JP3451671B2/ja not_active Expired - Lifetime
Also Published As
| Publication number | Publication date |
|---|---|
| JPH07101789A (ja) | 1995-04-18 |
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