JP3443965B2 - 高分子複合体およびその製造方法 - Google Patents

高分子複合体およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は剛直性ポリマーが屈曲性
ポリマーを分子レベルで補強した高分子複合体およびそ
の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に高分子材料独特の性能は高次構
造によって発現されるが、その高次構造は、分子量、分
子量分布、結晶化度、配向度などの一次構造の影響をう
け、中でも分子構造に大きく依存する。従っておのずと
生じる力学的性質の限界を克服する方法として従来から
マクロ繊維強化複合材料が存在した。
【0003】マクロ繊維強化複合材料に用いる高弾性
率、高強度のフィラメント状繊維としては、炭素繊維、
ガラス繊維、アラミド繊維などがある。しかしこれらの
繊維は通常、フィブリル、ミクロフィブリルの集合体で
あり、各所にミクロクラックの発生源となる欠陥を内蔵
している。例えば図1に示したような破壊クラックの伝
ぱん路となる分子鎖末端、ミクロフィブリル末端、また
は各繊維末端が外力を受けた構造の中に平均応力よりも
高い応力を受ける、すなわち応力集中の原因となるので
ある。またフィラメント直径は10μm程度であるため
外部応力を配向した繊維間に均一に配分し繊維の極限性
能を引き出すために、繊維−マトリックス界面での接着
は十分に強くなければならない。こうしたマクロ繊維の
構造欠陥や、界面の接着の問題は、直径を微細化するこ
とによって致命的欠陥の波及効果は減じられ、強度が向
上する。つまり直径を微細化することで局所的に応力が
集中するのを防ぎ、またアスベクト比L/D(LとDは
強化繊維の長さと直径)が大きな値となり接触表面積が
増大し、マトリックス分子との界面の接着の問題が減じ
られるのである。そしてその究極の姿は剛直性高分子で
あり、剛直高分子の分子径をDとした場合に容易に臨界
アスペクト比を達成し、破断は分子鎖の共有結合が破断
する関係となり、マトリックス分子との界面の接着が十
分であれば、分子の理論強度を発現できる。また剛直鎖
構造の強度発現に対する有効性は、その分子構造からく
る分子鎖の剛さに加え、発生する結晶も分子鎖が折りた
たまれず、分子鎖方向には高い強度を有する。通常折り
たたみ鎖構造をとるものは、その折りたたみ部が欠陥と
なる。さらにその非晶部は単位断面積に充填されている
共有結合の数が少ないので、ここが破壊クラックの伝ぱ
ん路となることも、剛直高分子には強度発現に有利であ
る。
【0004】従って、強化材高分子物質の分子鎖がある
限度以上の剛直性を有する場合に、マトリックス高分子
中に微視的に一様に分散させることができると、少量の
補強材高分子の添加で加工性の実現的低下を伴わずに各
種力学的性質の向上が期待できる。
【0005】従来このような発想から、特公昭61−5
500号や公表特許昭55−500440号によって高
分子複合体の概念が提唱されている。これら従来の高分
子複合体は基本的にはポリマーとポリマーとを溶媒を用
いて均一混合する方法であって、それらのポリマーを非
常に均一な状態で分散混合することは現在の技術レベル
において困難が多く、補強材(剛直性高分子の塊)の直径
が通常数μmを越えるものが多い。また、たとえ均一分
散に至っても、通常、熱的に不安定な構造となり、成形
加工時に相分離状態に移行しやすい。つまり、補強材が
容易に粗大化するため産業上の利用には困難が多い。ま
た、溶媒を用いることが必須であり、溶媒との相溶性の
ないものは基本的に用いることができない欠点がある。
さらに溶媒を用いることは、現在種々の観点から法律の
規制の対象になっており、基本的には溶媒を用いない製
造方法が好適であると考えられる。そこで、我々は無溶
媒、溶融混練により屈曲性ポリマーマトリックス中で剛
直性ポリマーを重合させ、剛直性ポリマーからなる棒状
補強材が分子レベルで微分散させ、該剛直性ポリマーか
らなる棒状補強材の長手方向に直角に切断した断面の直
径が0.07μm以下である高分子複合体を提供するに
至った(特開平6−145534号)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、高分子複合
体の力学的性質は主として剛直性ポリマーのマトリック
ス樹脂中への分散形態に支配される。しかしながら、剛
直性ポリマーを形成するモノマーのマトリックス樹脂へ
の分散性は一様ではなく、力学的性質の優れた複合体を
得るためには高分子量マトリックス樹脂を使用すると、
剛直性ポリマーを形成するモノマーのマトリックス樹脂
への分散性に欠け、所望の分子レベルでの補強効果が達
成できない。他方、低分子量のマトリックス樹脂を使用
すると剛直性ポリマーを形成するモノマーのマトリック
ス樹脂への分散性は改善されるが、混練重合時に剛直性
ポリマーの分散粒径が増大し、これによっても所望の分
子レベルでの補強効果が達成できないという現象が見ら
れる。そこで、本発明はマトリックス樹脂中で重合され
る剛直性ポリマーの断面直径を増大させることなく、マ
トリックス樹脂中に分子レベルで微分散させた高分子複
合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の方法は、
溶融混練時には剛直性ポリマーを形成するモノマーとの
相溶性に優れる低分子量樹脂を使用し、次いで重合時に
は高分子量樹脂の存在下に行うことにより上記課題を解
決できることを見いだして完成されたもので、低分子量
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂および/または低分子量
ABS樹脂からなる低分子量屈曲性ポリマー(M
と、剛直性ポリマー(R を形成するためのモノマ
ー(R)とを無溶媒、溶融混合により微分散した後、
上記低分子量屈曲性ポリマー(M)より分子量の大き
い高分子量屈曲性ポリマー(M)を添加し、混練しな
がら上記モノマー(R)を重合することを特徴とする
高分子複合体の製造方法にある。
【0008】上記第1の方法によれば、低分子量ポリオ
レフィン系熱可塑性樹脂および/または低分子量ABS
樹脂からなる低分子量屈曲性ポリマー(ML)中に微分
散した剛直性ポリマーを形成するモノマーがその状態を
高分子量屈曲性ポリマーの存在により保持しつつ重合を
開始するため、マトリックス樹脂は低分子量屈曲性ポリ
マーと該屈曲性ポリマー(ML)より分子量の大きい高
分子量屈曲性ポリマー(MH)とで構成され、重合され
た剛直性ポリマーは該マトリックス樹脂中に分子レベル
で分散している高分子複合体が提供されることになる。
【0009】本発明の第2および第3の方法は、マトリ
ックス樹脂として剛直性ポリマーを形成するモノマーと
の相溶性に優れる低分子量屈曲性ポリマーを使用する
が、混練重合時の重合される剛直性ポリマーの粗大化を
抑制するため、第2の方法では低分子量屈曲性ポリマー
として極性基を有するものを使用し、他方、第3の方法
は上記モノマーとして高反応性モノマーを使用して重合
ポリマーが粗大化する前に混練重合を停止しようとする
ものである。その要旨とするところは、第2の方法では
低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂および/または
低分子量ABS樹脂からなり、極性基を有する低分子量
屈曲性ポリマー(M)と、剛直性ポリマー(R
を形成するためのモノマー(R)とを無溶媒、溶媒混
練しながら上記モノマー(R)を重合することを特徴
とし、第3の方法では低分子量ポリオレフィン系熱可塑
性樹脂および/または低分子量ABS樹脂からなる低分
子量屈曲性ポリマー(M)と、剛直性ポリマー
(R を形成するための、p−アセトキシ安息香
酸、p−アセトアミノ安息香酸、そしてp−アセトアミ
ド安息香酸から成る群から選択されたいずれか1種の
反応性モノマー(R)とを無溶媒、溶融混合し、次い
で混練しながら上記モノマー(R)を重合し、重合さ
れた剛直性ポリマー(R の長手方向に直角に切断
した断面直径が0.07μm以下の状態で重合を停止す
ることを特徴とする。
【0010】さらに、本発明の第4の方法は、マトリッ
クス樹脂中で重合させるモノマーの分散性は高剪断下に
溶融混練することにより達成でき、しかも重合時の混練
を高剪断下に行うことにより重合ポリマーの粗大化を抑
制することができることに基づくもので、その要旨とす
るところは、重量平均分子量が35万以上であるポリオ
レフィン系熱可塑性樹脂及び連続相を形成するアクリロ
ニトリル・スチレン共重合体の重量平均分子量が11万
以上であるABS樹脂のいずれか1種から成る高分子量
屈曲性ポリマー(M)と、剛直性ポリマー(R
を形成するためのモノマー(R)とを高剪断下に無溶
媒、溶融混合し、次いで高剪断下に混練しながら上記モ
ノマー(R)を重合し、重合される剛直性ポリマー
(R の長手方向に直角に切断した断面直径が0.
07μm以下の状態で微分散した複合体を得ることを特
徴とする。
【0011】本発明では複合体を構成するポリマーを2
種類、すなわち、マトリックス樹脂を構成する屈曲性ポ
リマーと補強材を構成する剛直性ポリマーとに分別され
る。本発明でいう剛直性とは、高分子鎖を構成する結合
が強固であり、高分子鎖の占有断面積が小さく、かつ高
分子鎖が伸びの小さい分子構造から構成されていること
を意味する。この定義にあてはまるものであれば、剛直
性といい得ることができるが、より具体的にこれを表現
すると理論結晶弾性率Ecと破断時における理論強度σb
の両方で表わすことができる(詳しくは特開平6−14
5534号明細書を参照されたい)。
【0012】剛直性高分子を力学物性の観点から指し示
すと、現在得られる情報としての理論結晶弾性率、理論
強度、実際の繊維についての引張弾性率、引張強度の到
達度より、次のように示せるであろう。
【0013】
【表1】 理論値 到達値 理論結晶弾性率[GPa] 150以上 引張弾性率[GPa] 100以上 理論強度 [GPa] 2.0以上 引張強度 [GPa] 2.0以上
【0014】上記のような剛直性ポリマーの物理的条件
を生かすものの例としては、次の(化1)で示される繰り
返し単位構造を有するポリマーが挙げられる。
【0015】
【化1】
【0016】式中、すべてのベンゼン環には置換基、例
えばアルキル基、ハロゲン等を有してもよい。このよう
な化学式で表わされる剛直性ポリマーの具体例はポリ
(p−オキシベンゾイル)、ポリ(p−ベンズアミド)、ポ
リ(p−フェニレンテレフタルアミド)、ポリアゾメチ
ン、ポリ(p−フェニレンピロメリトイミド)、ポリベン
ゾビスオキサゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ
ベンゾオキサゾール等が挙げられる。
【0017】本発明で用いる屈曲性ポリマーは前記剛直
性ポリマーの範ちゅうに入らない、複合体のマトリック
ス樹脂として用いられる一般のポリマーが挙げられる。
特に、マトリックス樹脂として用いられる上記低分子量
屈曲性ポリマー(ML)としては低分子量ポリオレフィ
ン系熱可塑性樹脂および低分子量ABS樹脂が挙げられ
るが、低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の場合、
重量平均分子量は20万以下であるのが好ましい。低分
子量ABS樹脂の場合、連続相を形成するSAN(アク
リロニトリル・スチレン共重合体)の重量平均分子量は
10万以下であるのが好ましい。上記剛直性ポリマーを
形成するモノマーを溶融混練するマトリックス樹脂の分
子量がオレフィン系の場合20万、ABS樹脂で10万
(SAN分子量)を越えると、上記モノマーの溶融混練
による相溶効果に乏しく、その結果、混練に伴うモノマ
ーの分散粒径の縮小効果が十分でないからである。低分
子量屈曲性ポリマーの具体例として、分子量10万のポ
リプロピレン、分子量12万のポリプロピレン、分子量
8万のポリプロピレン、SAN分子量5.75万のAB
S、SAN分子量7.80万のABSが挙げられる。
【0018】他方、上記高分子量屈曲性ポリマー
(MH)としてはオレフィン系の場合、重量平均分子量
が35万以上であるのが好ましい。ABS樹脂の場合、
SAN分子量11万以上であるのが好ましい。モノマー
相溶後に添加される高分子量のマトリックス樹脂の分子
量がオレフィンで35万、ABSでSAN分子量11万
に至らないと、重合される剛直性ポリマーの粗大化を抑
制する効果が十分でないからである。その具体例として
は、分子量40万のポリプロピレン、分子量35.5万
のポリプロピレン、SAN分子量11.8万のABS、
SAN分子量17.3万のABSが挙げられる。
【0019】上記低分子量屈曲性ポリマー(ML)が極
性基を有する場合は特に上記モノマー(Rm)の分散粒
径を混練に伴って縮小する効果に著しい。かかる極性基
としては無水マレイン酸が挙げられ、かかる極性基を有
するポリマーの具体例として、分子量3.5万マレイン
化率0.15%の無水マレイン酸変性ポリプロピレン分
子量2万マレイン化率1.0%の無水マレイン酸変性ポ
リプロピレン等が挙げられる。
【0020】上記剛直性ポリマーを形成するためのモノ
マー(Rm)が水酸基またはアミノ基あるいは、これら
極性基の活性を高めるため変性したもの、例えばアセチ
ル化したものを有する場合は上記屈曲性ポリマー
(ML)が上記極性基として酸無水物基を有するのもの
使用するのが好ましい。マトリックス樹脂との反応によ
るゲル化をさせることなく、分子間相互作用を増大し、
重合される剛直性ポリマーをマトリックス樹脂中に微分
散させることができるからである。このような具体例と
して、p−アセトキシ安息香酸と無水マレイン酸変性ポ
リプロピレンや、p−アセトアミノ安息香酸と無水マレ
イン酸変性ポリプロピレンの組合せが挙げられる。
【0021】上記極性基を有する屈曲性ポリマーを使用
する場合は、変性に伴いマトリックス樹脂の力学特性の
低下を補うため、極性基を有する屈曲性ポリマーを含有
する複合材をマスターバッチとして、これより分子量の
大きい樹脂と混練して成形するのが好ましい。例えば、
その組合せとして、分子量3.5万マレイン化率0.1
5%の無水マレイン酸変性ポリプロピレンと分子量40
万のポリプロピレンの組み合わせ等が挙げられる。
【0022】本発明の高分子複合体は剛直性ポリマー
(棒状補強材に相当)が分子レベルで微分散しているが、
その長手方向に直角に切断した断面の直径が0.07μ
m以下であるのが好ましい。ここで、棒状補強材の断面
の直径とは、複合体中の剛直性ポリマーが集まった部分
(屈曲性ポリマーのマトリックス中に棒状の剛直性ポリ
マーが密集した部分)を長手方向に直角に切断し、その
切断した断面の面積を芯円に補正した場合の直径を意味
する。
【0023】上述のように棒状補強材(剛直性ポリマー
部分)の長手方向に直角に切断した断面の直径が0.07
μm以下であるためには、本発明の特徴的な製造方法を
用いる必要がある。
【0024】本発明の第1方法としては、低分子量の屈
曲性ポリマーと剛直性ポリマーを形成するためのモノマ
ーとを無溶媒、溶融混練し、その後高分子量の屈曲性ポ
リマーを添加して混練しつつ重合させることを特徴とす
る。この場合、剛直性ポリマーを形成するためのモノマ
ーの具体的な例としては例えばポリマーがポリ(p−オ
キシベンゾイル)の場合には、p−アセトキシ安息香
酸、p−ヒドロキシ安息香酸クロリド、p−ヒドロキシ
安息香酸フェニル等、ポリ(p−ベンズアミド)の場合に
は、p−アセトアミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸ク
ロリド等が挙げられる。特に、剛直性ポリマーを形成す
るモノマーとしてp−アセトアミノ安息香酸を使用する
場合は低分子量屈曲性ポリマーであるポリプロピレン中
において高反応で重合するため、混練重合時間を短縮化
することができ、結果として混練重合による剛直性ポリ
マーの粗大化を抑制することができる。
【0025】本発明においては、特に無溶媒で溶融混練
状態で重合させることを必要とするが、具体的には屈曲
性ポリマーと剛直性ポリマーを形成するモノマーとを2
軸押し出し機等で溶融混練するのがよく、例えばp−ア
セトキシ安息香酸では温度を200〜350℃以上にあ
げることにより、重合が進行する。もちろん無溶媒であ
れば押出機を用いずに行なってもよい。
【0026】重合は好ましくは所定の剪断力下に行なわ
れるのがよい。剪断力は具体的には剪断流動、特に剪断
速度で表わし得る。剪断速度はローター式小型混練装置
(コーネルダーEK−3−5C;東測精密工業(株)製)
などにおいて測定した回転数よりニュートン粘性体を仮
定した次式(1),(2)より算出した見掛けの最大剪断速
度である。 δ=2πrω/G V=πr2G (δ=剪断速度、r=半径、ω=角速度、V=体積、G
=混練容器の高さ)。
【0027】高い剪断力の付与は特に、マトリックス樹
脂が高分子量屈曲性ポリマーである時に剛直ポリマーを
分子レベルまで微分散させるために特に必要である。高
剪断力により、重合させるモノマーをマトリックス樹脂
中に相溶するまで微分散させ、しかも重合する剛直性ポ
リマーの分散粒径が粗大化するのを抑制することができ
るからである。これをコントロールすることにより、棒
状剛直ポリマー(補強相)の直径および軸比が制御でき
る。結果として、微細構造に依存した力学特性、特に高
い引張強度と高い耐衝撃性が得られる。
【0028】なお、低分子量屈曲性ポリマーと高分子量
屈曲性ポリマーとは分子量が異なる同系統の屈曲性ポリ
マーを使用するのがよいが、互いに相溶する限りかかる
組合せに限られるものでない。
【0029】本発明の溶融混練時に、必要に応じて添加
剤や重合開始剤等を配合してもよい。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、溶媒を用いず、溶融混
練状態で重合させることにより高分子複合体が製造され
ることになるが、剛直性ポリマーは低分子量屈曲性ポリ
マーにより小さい分散粒径を保持しつつ重合され、高分
子量屈曲性ポリマーにより粗大化するのを抑制されるの
で、分子レベルでのマトリックス樹脂中に微分散するこ
とになり、少量の配合で効果的に弾性率、強度を向上す
ることができる。また、高反応性モノマーを使用する場
合はマトリックス樹脂として低分子量屈曲性ポリマーの
みを用いて分子レベルでの補強効果を達成することがで
きる。さらに、高分子量屈曲性ポリマーのみをマトリッ
クス樹脂として使用する場合は高剪断下における溶融混
練および混練重合を行うことにより分子レベルでの補強
効果を達成することができる。したがって、低分子量の
みのマトリックス樹脂、高分子量のみのマトリックス樹
脂および低分子量と高分子量の混合形態のマトリックス
樹脂と種々のマトリックス樹脂に対して所望の分子レベ
ルでの剛直性ポリマーによる補強効果を達成することが
でき、種々の高分子複合体を提供することができる。
【0031】
【実施例】本発明を実施例によりさらに詳細に説明す
る。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】試験例1(マトリックス樹脂の分子量と重
合させるモノマーとの相溶性) 低分子量ポリプロピレン(分子量10万)と高分子量ポ
リプロピレン(分子量40万)の屈曲性ポリマーをマト
リックス樹脂とし、これに剛直性ポリマーを形成するモ
ノマーとしてp−アセトキシ安息香酸を使用し、混練時
間とマトリックス樹脂の溶融混練している分散粒径との
関係をみると、図2に示すように、低分子量ポリプロピ
レンでは急速にモノマーの分散粒径が小さくなって行く
のに対し、高分子量ポリプロピレンの場合はモノマーの
分散粒径が5μmぐらいから小さくなりにくく、1μm
以下にならない。したがって、剛直性ポリマーを形成す
るモノマーをマトリックス樹脂中に微分散させるには低
分子量屈曲性ポリマーが好適であることが分かる。な
お、溶融混練条件は次の通りである。 マトリックス樹脂:95重量部 剛直ポリマーを形成するモノマー:5重量部 混練温度:200℃ 剪断速度:30sec-1
【0033】試験例2(変性マトリックス樹脂と重合さ
せるモノマーとの相溶性) 通常のポリプロピレン(未変性、分子量40万)と無水
マレイン酸変性ポリオレフィン(商品名:ボンダインA
X8390)およびエポキシ変性ポリオレフィン(商品
名:ボンドファースト−E)をマトリックス樹脂とする
場合の混練時間と上記p−アセトキシ安息香酸の分散粒
径の変化を観測した。これを見ると、図3に示すよう
に、1μm以下の分散粒径とするためには高分子量のマ
トリックス樹脂では不十分で、エポキシ基または酸無水
物基を有する変性屈曲性ポリマーを用いる必要があるこ
とが分かる。
【0034】試験例3(マトリックス樹脂の分子量と重
合ポリマーの粗大化) 重合時の混練時間により形成される剛直性ポリマーの分
散粒径が増大する傾向にある。そこで、低分子量ポリプ
ロピレン(分子量10万)と高分子量ポリプロピレン
(分子量40万)の屈曲性ポリマーをマトリックス樹脂
とし、混練重合時間と重合される剛直性ポリマーの分散
粒径の粗大化との関係をみると、図4に示すように、マ
トリックス樹脂が低分子量の場合は徐々に混練重合時間
とともに増大するが、高分子量の場合は、2μm以上に
大きくならない。なお、混練重合条件は次の通りであ
る。 マトリックス樹脂:95重量部 剛直ポリマーを形成するモノマー:5重量部 重合温度:220℃ 剪断速度:30sec-1
【0035】試験例4(変性マトリックス樹脂と重合ポ
リマーの粗大化) 未変性ポリプロピレン(分子量40万)および無水マレ
イン酸変性ポリプロピレン(分子量3.5万、マレイン
化率0.15%)をマトリックス樹脂として混練重合さ
せると、変性したポリプロピレンの方が重合される剛直
性ポリマーの分散粒径の抑制効果が大きいことが分かる
(図5参照)。
【0036】試験例5(溶融混練時の剪断速度とモノマ
ーの分散粒径) マトリックス樹脂として高分子量ポリプロピレン(分子
量40万)90重量部に剛直性ポリマーを形成するモノ
マーとしてp−アセトキシ安息香酸10重量部をマツダ
(株)製ロータ式小型混練機を用い、混練温度210℃
で剪断速度30sec-1と100sec-1で混練を行っ
た。その結果、図6に示すように、上記モノマーの分散
粒径は剪断速度30sec-1の場合5分以上混練しても
1μm以下にすることは困難であるが、100sec-1
の場合は約1分間の混練で分散粒径は1μm以下にまで
分散させることができる。
【0037】試験例6(混練重合時の剪断速度とポリマ
ーの分散粒径) 試験例5で溶融混合したマトリックス樹脂として高分子
量ポリプロピレン(分子量40万)90重量部に剛直性
ポリマーを形成するモノマーとしてp−アセトキシ安息
香酸10重量部をマツダ製ロータ式小型混練機を用い、
混練重合温度220℃で剪断速度30sec-1と100
sec-1で混練を行いつつ、重合を行った。その結果、
図7に示すように、混練重合時間とともに剪断速度30
sec-1の場合は重合される剛直性ポリマーの粗大化が
進行するが、100sec-1の場合は重合される剛直性
ポリマーの粗大化はほとんど認められない。
【0038】実施例1 マトリックス樹脂として低分子量ポリプロピレン(分子
量10万、HU400VG:住友化学製)80重量部と
剛直性ポリマーを形成するモノマーとしてp−アセトキ
シ安息香酸20重量部を、ローター式小型混練機(マツ
ダ(株)製)にて200℃で剪断速度25sec-1で2
分間混練し、両者を均一にブレンドする。ブレンド物を
上記小型混練機で剪断速度150sec-1で混練しつつ
270℃で10分間、p−アセトキシ安息香酸の重合を
行う。重合して得られた複合体中の剛直性ポリマーの分
散粒径を透過型電子顕微鏡(HITACHI H−30
0;日立製作所)写真(2万倍、10万倍)からミクロ
鋭意の直径を計測すると、平均約1μmであった。上記
剛直性ポリマーの分散粒径の変化を追跡すると、図8の
実施例1で示す変化を示した。そこで、上記剛直性ポリ
マーを形成するモノマーとしてp−アセトキシ安息香酸
に代え、高反応性のp−アセトアミド安息香酸を用い、
200℃で2分間混練し、270℃で7分間混練重合し
て重合を停止すると、得られた複合体中の剛直性ポリマ
ーの分散粒径は平均約0.06μmであった。
【0039】実施例2 実施例1で使用した低分子量ポリプロピレンに代え、高
分子量ポリプロピレン(分子量40万、D501:住友
化学製)80重量部とする以外は上記実施例1と同様に
して複合体(製造例2)を得る。重合して得られた複合
体中の剛直性ポリマーの分散粒径を透過型電子顕微鏡
(HITACHI H−300;日立製作所)写真(2
万倍、10万倍)からミクロ鋭意の直径を計測すると、
0.1〜0.5μmであった。上記剛直性ポリマーの分
散粒径の変化を追跡すると、図8の実施例2で示す変化
を示した。そこで、溶融混練時の剪断速度を100se
-1とし、混練重合時の剪断速度を300sec-1とす
る以外は上記と同様にして、最終到達粒径をみると、0.
03〜0.05μmであった。上記剛直性ポリマーを形
成するモノマーとしてp−アセトキシ安息香酸に代え、
高反応性のp−アセトアミド安息香酸を用い、200℃
で2分間混練し、270℃で7分間混練重合して重合を
停止すると、得られた複合体中の剛直性ポリマーの分散
粒径は平均約0.01μmであった。
【0040】実施例3 マトリックス樹脂として低分子量ポリプロピレン(分子
量10万、HU400VG:住友化学(株)製)80重
量部と剛直性ポリマーを形成するモノマーとしてp−ア
セトキシ安息香酸20重量部を、ローター式小型混練機
(マツダ(株)製)にて200℃で剪断速度25sec
-1で2分間混練し、両者を均一にブレンドする。均一ブ
レンド物20重量部に対し上記高分子量ポリプロピレン
(分子量40万、D501:住友化学製)80重量部を
添加してさらに200℃で2分間混練し、ブレンド物を
上記小型混練機で剪断速度150sec-1で混練しつつ
270℃で10分間、p−アセトキシ安息香酸の重合を
行う。重合して得られた複合体中の剛直性ポリマーの分
散粒径を透過型電子顕微鏡(HITACHI H−30
0;日立製作所)写真(2万倍、10万倍)からミクロ
鋭意の直径を計測すると、0.03〜0.05μmであ
った。
【0041】実施例4 実施例1において上記低分子量ポリプロピレンに代え、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン(コモノマー含量3
2%、BONDINE AX8390:住友化学(株)
製)80重量部を用いる以外は実施例1と同様にして複
合体を得る。重合して得られた複合体中の剛直性ポリマ
ーの分散粒径を透過型電子顕微鏡(HITACHI H
−300;日立製作所)写真(2万倍、10万倍)から
ミクロ鋭意の直径を計測すると、0.01〜0.04μ
mであった。
【0042】実施例5 マトリックス樹脂として無水マレイン酸変性ポリオレフ
ィン(コモノマー含量32%、BONDINE AX8
390:住友化学製)80重量部と剛直性ポリマーを形
成するモノマーとしてp−アセトキシ安息香酸20重量
部を、ローター式小型混練機(マツダ(株)製)にて2
00℃で剪断速度25sec-1で2分間混練し、両者を
均一にブレンドする。均一ブレンド物20重量部に対し
上記高分子量ポリプロピレン(分子量40万、D50
1:住友化学(株)製)80重量部を添加してさらに2
00℃で2分間混練し、ブレンド物を上記小型混練機で
剪断速度100sec-1で混練しつつ270℃で10分
間、p−アセトキシ安息香酸の重合を行う。重合して得
られた複合体中の剛直性ポリマーの分散粒径を透過型電
子顕微鏡(HITACHI H−300;日立製作所)
写真(2万倍、10万倍)からミクロ鋭意の直径を計測
すると、0.03〜0.05μmであった。
【0043】試験例 上記変性ポリオレフィンからなる引張り試験片、上記実
施例4の複合体からなる引張り試験片および上記実施例
5からなる引張り試験片を以下の引張り試験に付し、引
張強度を比較した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】 変性ポリオレフィン 実施例4 実施例5 引張強度[MPa] 5.8 8.6 22.5
【0045】引張試験条件 テストスピード:20mm/min. 試験機:島津オートグラフDSS−5000形(島津製
作所製) 試験片寸法:幅5mm,標線間距離:11mm、厚さ:
2mm 雰囲気温度:22℃
【図面の簡単な説明】
【図1】 マクロ繊維強化複合材のクラック伝ぱん路を
模式的に示す図である。
【図2】 溶融混練時における高分子量マトリックス樹
脂および低分子量マトリックス樹脂に対する剛直性ポリ
マーを形成するモノマーの混練時間と分散粒径との関係
を示すグラフである。
【図3】 溶融混練時における未変性マトリックス樹脂
および変性マトリックス樹脂に対する剛直性ポリマーを
形成するモノマーの混練時間と分散粒径との関係を示す
グラフである。
【図4】 混練重合時における高分子量マトリックス樹
脂および低分子量マトリックス樹脂に対する剛直性ポリ
マーの混練重合時間と分散粒径との関係を示すグラフで
ある。
【図5】 混練重合時における未変性マトリックス樹脂
および変性マトリックス樹脂に対する剛直性ポリマーの
混練重合時間と分散粒径との関係を示すグラフである。
【図6】 溶融混練時における高分子量マトリックス樹
脂に対する剪断速度と剛直性ポリマーを形成するモノマ
ーの分散粒径を示すグラフである。
【図7】 混練重合時における高分子量マトリックス樹
脂に対する剪断速度と剛直性ポリマーの分散粒径を示す
グラフである。ノッチ無しアイゾット衝撃値の、剪断速
度依存性を示す図である。
【図8】 各実施例における溶融混練時から混練重合時
にいたる剛直性ポリマーを形成するモノマーおよび重合
された剛直性ポリマーの分散粒径の変化を示すグラフで
ある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C08G 85/00 C08G 63/06 C08G 69/02

Claims (9)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂
    および/または低分子量ABS樹脂からなる低分子量屈
    曲性ポリマー(M)と、剛直性ポリマー(R
    形成するためのモノマー(R)とを無溶媒、溶融混合
    した後、上記屈曲性ポリマー(M)より分子量の大き
    い高分子量屈曲性ポリマー(M)を添加し、次いで混
    練しながら上記モノマー(R)を重合することを特徴
    とする高分子複合体の製造方法。
  2. 【請求項2】 上記低分子量屈曲性ポリマー(M)の
    重量平均分子量が20万以下である一方、上記高分子量
    屈曲性ポリマー(M)の重量平均分子量が35万以上
    である請求項1記載の方法。
  3. 【請求項3】 低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂
    および/または低分子量ABS樹脂からなり、極性基を
    有する低分子量屈曲性ポリマー(M)と、剛直性ポリ
    マー(R を形成するためのモノマー(R)とを
    無溶媒、溶融混練しながら上記モノマー(R)を重合
    することを特徴とする高分子複合体の製造方法。
  4. 【請求項4】 上記剛直性ポリマー(R を形成す
    るためのモノマー(R)が水酸基またはアミノ基ある
    いは、これら官能基の活性を高める変性をしたものを有
    する一方、上記低分子量屈曲性ポリマー(M)が上記
    極性基として酸無水物基を有する請求項3記載の方法。
  5. 【請求項5】 上記極性基を有する屈曲性ポリマー(M
    )を含有する複合材をマスターバッチとして、これよ
    り分子量の大きい樹脂と混練して成形する請求項3また
    は4記載の方法。
  6. 【請求項6】 低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂
    および/または低分子量ABS樹脂からなる低分子量屈
    曲性ポリマー(M)と、剛直性ポリマー(R
    形成するための、p−アセトキシ安息香酸、p−アセト
    アミノ安息香酸、そしてp−アセトアミド安息香酸から
    成る群から選択されたいずれか1種の高反応性モノマー
    (R)とを無溶媒、溶融混合し、次いで混練しながら
    上記モノマー(R)を重合し、重合された剛直性ポリ
    マー(R の長手方向に直角に切断した断面直径が
    0.07μm以下の状態で重合を停止することを特徴と
    する高分子複合体の製造方法。
  7. 【請求項7】 重量平均分子量が35万以上であるポリ
    オレフィン系熱可塑性樹脂及び連続相を形成するアクリ
    ロニトリル・スチレン共重合体の重量平均分子量が11
    万以上であるABS樹脂のいずれか1種から成る高分子
    量屈曲性ポリマー(M)と剛直性ポリマー(R
    を形成するためのモノマー(R)とを高剪断下に無
    溶媒、溶融混合し、次いで高剪断下に混練しながら上記
    モノマー(R)を重合し、重合される剛直性ポリマー
    (R の長手方向に直角に切断した断面直径が0.
    07μm以下の状態で微分散した複合体を得ることを特
    徴とする高分子複合体の製造方法。
  8. 【請求項8】 低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂
    および/または低分子量ABS樹脂からなる低分子量屈
    曲性ポリマー(M)と該屈曲性ポリマー(M)より
    分子量の大きい高分子量屈曲性ポリマー(M)とをマ
    トリックス樹脂とし、該マトリックス樹脂中に剛直性ポ
    リマー(R が分子レベルで分散し、上記剛直性ポ
    リマー(R の長手方向に直角に切断した断面直径
    が0.07μm以下である高分子複合体。
  9. 【請求項9】 低分子量ポリオレフィン系熱可塑性樹脂
    および/または低分子量ABS樹脂からなり、極性基を
    有する低分子量屈曲性ポリマー(M)をマトリックス
    樹脂とし、該マトリックス樹脂中に剛直性ポリマー(R
    が分子レベルで分散し、上記剛直性ポリマー(R
    の長手方向に直角に切断した断面直径が0.07
    μm以下である高分子複合体。
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