JP3437997B2 - 耐食性および溶接性に優れた自動車足廻り部品用高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

耐食性および溶接性に優れた自動車足廻り部品用高強度熱延鋼板およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、自動車の構造材料、
特にゲージダウンによる軽量化を目的とした足廻り部品
等に使用される耐食性および溶接性に優れた高強度熱延
鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車業界では省エネルギー化および地
球環境汚染防止のために、車体軽量化による燃費向上を
行うことが急務となっている。このための対策として素
材である薄鋼板を高強度化することによりゲージダウン
する努力が進められている。
【0003】このような用途に用いられる構造材料はプ
レス加工されるため、適用される材料には、高強度で且
つ従来材と同等以上の加工性を有することが要求され
る。加えて、鉄鋼材料が基本的に錆びることを考慮する
ならば、使用材料のゲージダウンを更に進めるためには
耐食性の向上が重要なポイントとなる。
【0004】そして、現在、自動車の耐用年数は自動車
の高級化とともに長期化しており、自動車メーカーは高
強度で加工性が良く、且つ、錆びにくい材料を指向して
いるのである。
【0005】材料自体の高強度化および高加工性付与に
関しては、従来から多くの研究が行われ技術革新がめざ
ましいが、耐食性の向上に関しては、材料にめっきを施
すことが一般的に行われており、材料自体の耐食性に関
する研究はあまり多くはない。
【0006】めっきを施すことを前提とした技術として
は、特開昭63−149321号公報および特公昭60
ー49698号公報に、耐食性に優れる高張力合金化溶
融亜鉛めっき熱延鋼板に加工性を付与するものが提案さ
れている。
【0007】しかしながら、これらの技術は、熱間圧延
後、連続溶融亜鉛めっきラインでめっきするため、製造
コストが高くなるという欠点を有しており、また、合金
化溶融亜鉛めっきによる加工性の劣化およびアーク溶接
時のブローホールの発生が避けられず、自動車部品に適
用するためには、検査補修に多大の時間を要し、これが
自動車製造効率を低下させる要因となっており、従来か
らその改善が求められていた。
【0008】上記の欠点を補うものとして、自動車用材
料自身の耐食性を向上させようという試みもなされてお
り、特公昭57−14748号公報(以下、「先行技術
1」という)および特公昭60−9584号公報(以
下、「先行技術2」という)では、高耐食性自動車用鋼
板が提案されている。また、神戸製鋼技報Vol.4
2,No.3(1992),99頁(以下、「先行技術
3」という)では、P−Cu系の540N/mm2 級耐
食性熱延鋼板が発表されている。更に、特開平5−11
7802号公報(以下、「先行技術4」という)、特開
平5−117803号公報(以下、「先行技術5」とい
う)では、耐食性と溶接部の疲労特性を向上させた自動
車足廻り用鋼板が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、先行技
術は下記の問題点を有している。先行技術2では、C
u:0.26〜0.35wt.%、P:0.005〜0.0
2wt.%等を含有する成分系で、高耐食性自動車用鋼板が
得られるとしている。しかしながら、Pの含有量が0.
02wt.%と低いため、鋼板の腐食量および腐食深さを低
減する効果は不充分である。また、ここでは、腐食の評
価方法として塩水噴霧試験を行っているが、この方法は
自動車用鋼板の耐食性を評価するには促進性が強過ぎ、
実環境における耐食性をシミュレートし得るとは考えに
くい。
【0010】また、先行技術1および先行技術2のいず
れも、自動車製造上不可欠な加工性に関して充分な配慮
がなされていない。
【0011】先行技術3では、P、Cuの複合添加によ
り、従来の熱延鋼板よりも耐食性の優れた鋼板を製造で
きるとしている。しかしながら、これによれば、P−C
u系の腐食の度合いは従来鋼の8割程度であり、耐食性
改善効果が要求に対して不充分である。
【0012】先行技術4、先行技術5では、P−Cu−
Mo−Nb系の成分系で、耐食性と溶接後の疲労強度の
改善を試みた自動車足廻り用鋼板が得られるとしてい
る。しかしながら、我々の検討によれば、Nbは耐食性
に悪影響を及ぼす上、オーステナイトの再結晶を抑制
し、組織制御を難しくするため、自動車足廻り用鋼板に
必要とされるプレス加工性を確保することができないと
いう問題がある。また、耐食性に悪影響を及ぼすCとM
nの含有量の上限が、それぞれ、0.20wt.%、2.5
wt.%と、ともに高いため、耐食性の改善効果が不十分で
あるばかりでなく、溶接性、特に溶接時の割れ甘受性が
高い問題がある。
【0013】以上のように、従来の方法では自動車用鋼
板としての耐食性、加工性等の機能を損なうことなく高
強度化によるゲージダウンが可能となる鋼板を経済的に
得る技術は確率されていない。
【0014】この発明はかかる事情に鑑みてなされたも
のであって、その目的は、良好な加工性と優れた耐食性
とを兼備し、自動車足廻り部品用鋼板として好適な耐食
性および溶接性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造
方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】この発明の熱延鋼板は、 C :0.02〜0.06wt.% Si:1.5wt.%以下 Mn:2.0wt.%以下 P :0.05〜0.10wt.% S :0.005wt.%以下 Al:0.005〜0.100wt.% Cu:0.10〜0.60wt.%未満 Ni:0.05〜0.60wt.% Mo:0.10〜0.30wt.% Cr:0.06wt.%以下 Nb:0〜0.020wt.%(無添加の場合を含む) Ti:0.04≦Ti−(14/48×N+32/48
×S)≦0.10 を満足するTi を含有し、更に、必要に応じて、Ca、REMおよびZ
rのうちの少なくとも1種をSに対し等量以上になるよ
うに含有し、且つ、下記の(A)式を満足し、実質的に
ベイナイト組織を有することに特徴を有するものであ
る。 −175C−30.2Mn−72.7Cr−451Nb
+125P+31.3Cu+90.0Mo+128Ti
≧−35 ・・・(A) 但し、上記(A)式において、C、Mn、Cr、Nb、
P、Cu、MoおよびTiは、これら各元素の重量%
(wt.%)を示す。
【0016】この発明の熱延鋼板の製造方法は、前記の
化学成分組成を有する鋼材を熱間圧延し、Ar3 変態点
以上で仕上圧延を行ない、圧延終了温度から500℃以
下まで50℃/sec以上の冷却速度で冷却し、次い
で、500℃以下のベイナイト変態温度範囲内で巻取
り、組織を実質的にベイナイトにすることに特徴を有す
るものである。
【0017】
【作用】この発明において用いる素材の化学成分組成を
上述のように限定した理由を説明する。
【0018】我々は、上述の課題を解決するために、鋼
材の耐食性について種々の成分系に対する詳細な検討を
行った。その結果、P−Cu系では、最大腐食深さで従
来鋼の8割程度までしか改善されないことを把握した。
その結果を踏まえて更に検討を重ねた結果、更に耐食性
を向上させるためには、P、Cuの共存下でMoおよび
Tiを適量含有させることが極めて有効であることを見
出した。即ち、耐食性に悪影響を及ぼす元素の含有量を
必要最低限に抑えた上、MoおよびTiを適量添加する
ことにより、最大腐食深さが従来鋼の5割以下となり、
耐食性の改善効果が極めて大きい。
【0019】しかしながら、優れた耐食性を有するこの
ような成分系の鋼を、高い強度および加工性を確保する
ためにベイナイト組織とした場合において、自動車の足
廻り部材を製造する際に多用されるアーク溶接を施す
と、溶接熱影響部が軟化して母材と同等の強度が得られ
ない。そこで、耐食性および加工性を損なうことなく、
溶接熱影響部の軟化を抑制するために有効な手段を検討
した。従来から厚板、鋼材の分野では、溶接熱影響部の
軟化抑制に効果がある元素としてTiが知られている
が、薄板では溶接方法が異なるため、同様の効果が得ら
れるかどうかの検討が必要であった。また、優れた耐食
性を有するP−Cu−Mo系の成分系にTiを添加する
際の、耐食性に及ぼす影響は必ずしも明らかでなかっ
た。
【0020】我々は、前述のように、本願の成分系にお
いて、Ti添加が耐食性向上に極めて有効であることを
見出したので、更に溶接性について詳細に検討し、Ti
添加による溶接熱影響部の軟化抑制効果と優れた耐食性
を両立させることができることを確認した。即ち、Ti
を適量添加すれば、耐食性を改善した上、加工性には影
響を及ぼさずに、溶接熱影響部の軟化を抑制できること
を知見した。
【0021】これらの検討結果から、化学成分組成範囲
を上記特定の範囲に規定すると共に、上記(A)式を満
足する組成を有し、実質的にベイナイト組織を有すれ
ば、加工性を損なうことなく耐食性および溶接性の優れ
た高強度の熱延鋼板を得ることができることを見出し
た。また、このような組織および機械的特性を有する熱
延鋼板は、圧延終了後の冷却速度、および、巻取温度を
特定範囲に規定することにより製造することができるこ
とを見出した。上記構成を有する本願発明は、我々のこ
のような知見に基づいてなされたものである。
【0022】次に、この発明に係る鋼板の化学成分の組
成範囲を上述のように限定した理由を説明する。
【0023】C(炭素):Cは耐食性に関し悪影響を及
ぼす元素の1つであり、腐食減量および最大腐食深さの
増加に結びつく。同時に、溶接性の観点からも望ましく
ない元素である。従って、Cは強度確保に必要な最低限
の添加量とする必要があり、その観点からCは0.06
wt.%以下にする必要がある。また、組織をベイナイトと
して高い強度を得るためには、Cは0.02wt.%以上必
要である。従って、Cの含有量は0.02〜0.06w
t.%の範囲内に限定すべきである。
【0024】Si(珪素):Siは加工性を劣化させる
ことなく固溶強化に作用し、強度−加工性のバランスを
高くする作用を有する。固溶強化元素として利用する場
合には、要求される強度レベルに応じて添加すべきであ
る。一方、Siは耐食性に対しては無害であるが1.5
wt.%を超える過剰な添加は表面のスケール性状および溶
接性を劣化させる。このような観点から、Siの含有量
は1.5wt.%以下とすべきである。
【0025】Mn(マンガン):Mnは高強度化に作用
する。下限は特に規定しないが、固溶強化元素として利
用する場合には、要求される強度レベルに応じて添加す
べきであり、そのような場合には、その含有量は0.5
wt.%以上であることが望ましい。一方、2.0wt.%を超
えると、耐食性に対して悪影響を及ぼす。更に、2.0
wt.%を超える添加は溶接性の面からも望ましくない。従
って、Mnの含有量は2.0wt.%以下とすべきである。
【0026】P(燐):Pは本発明において最も有効な
元素の1つであり、耐食性の向上および高強度化に作用
する。特に、孔食に対する腐食速度を著しく低下させ
る。このような作用を果たすためには、その含有量は
0.05wt.%以上必要である。しかしながら、Pを0.
10wt.%を超えて添加すると粒界に偏析し、2次加工脆
性を発生し易くする。従って、Pの含有量は0.05〜
0.10wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0027】S(硫黄):Sは、Mnと化合して硫化物
を形成し、加工性、特に伸びフランジ性を低下させる不
純物元素であるため極力低減することが望ましい。更
に、MnSは、鋼板が腐食する環境において溶出し易い
介在物であり、耐食性に悪影響を及ぼすため、このよう
な介在物を生成する元素であるSは極力低減させること
が重要である。このように材料の耐食性は、S量の低減
とともに向上するが、製鋼での経済性を考慮してSの含
有量を0.005wt.%以下とすべきである。
【0028】Al(アルミニウム):Alは鋼の脱酸に
必要な元素である。添加量が0.005wt.%未満では、
脱酸不足となり、欠陥を生じるので、下限を0.005
wt.%とする。また、0.100wt.%を超えた添加は、ア
ルミナ等の介在物が増加し、加工性、特にプレス成形性
を損なうので、上限は0.100wt.%とすべきである。
【0029】Mo(モリブデン):Moは本発明におい
て最も有効な元素の1つであり耐食性の向上に作用す
る。PおよびCuの複合添加により従来の鋼板よりも耐
食性の優れた鋼板を製造できることは先行技術3でも述
べられているが、我々は、種々の成分系を検討した結
果、P−Cu系にMoを複合添加することにより、耐食
性、特に耐孔食性を向上させ得るという知見を得た。実
環境をシミュレートするため、促進試験としては比較的
マイルドな試験方法により長期の評価を行った。試験方
法は、0.5wt.%塩水噴霧を含む乾湿繰り返し試験を使
用した。その結果、P−Cu系でも耐食性が確実に向上
するが、P、Cu共存下で0.1wt.%以上のMoを複合
添加することにより、最大腐食深さが20%以上改善さ
れることが判明した。Mo含有量の増加に伴い耐食性は
向上するが、その含有量が0.1wt.%未満ではその効果
が不充分である。一方、過度の添加は無意味であると同
時に、不経済である。従って、Mo含有量は、0.10
〜0.30wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0030】Cu(銅): Cuは、P、Moと同様に本発明において最も有効な元
素の1つであり、Pとの複合添加により耐食性の向上に
作用する。特に孔食に対する腐食速度を著しく低下させ
る。このような作用を発揮するためには、その含有量を
0.10wt.%以上にする必要がある。しかしなが
ら、過剰に添加すると、熱間圧延において赤熱脆化によ
り表面疵が発生する。これは、Niの添加で防止できる
が、Cu、Niのいずれも合金コストを高くする。これ
らを考慮して、Cuの含有量は、0.10〜0.60w
t.%未満の範囲内に限定すべきである。
【0031】Ni(ニッケル):Niは、上述したよう
に、Cuの添加量を高めた場合に発生する赤熱脆化を防
止する作用を有する。赤熱脆化の防止に有効な量は、C
uの含有量の1/2以上である。しかしながら、Cu含
有量を超えた添加は無意味であると同時に不経済であ
る。従って、Niの含有量は、0.05〜0.60wt.%
の範囲内に限定すべきである。
【0032】Cr(クロム):Crは塩化物イオンが存
在する環境下においては孔食をもたらす元素であり、耐
食性の観点からは好ましくないため、基本的には無添加
とする。ただし、製造上不可避的に入ってきた場合に
は、耐食性に対する影響が少ない許容範囲、即ち、0.
06wt.%以下とすべきである。
【0033】Nb(ニオブ):Nbは組織の微細化に有
効な添加元素である。加工性を損なわずに高い強度を得
るためには、組織の微細化が有効である。このような微
細化効果を発揮するためには、その添加量は比較的少量
で良く、0.005wt.%以上の添加で作用する。また、
Nbは析出による効果を期待できる元素であり、溶接熱
影響部の軟化抑制に効果があるが、耐食性に悪影響を及
ぼす上に、Tiよりもオーステナイトの再結晶抑制効果
が大きく、組織制御を困難にするという問題がある。ま
た、同等の溶接熱影響部軟化抑制効果を得るには、Ti
よりも多量に添加させる必要があり、不経済であるた
め、Nbをこの目的で添加するのは不適当である。故に
Nbの添加は微細化のみを目的とすべきであり、微細化
が必要な場合にも添加量は少量にとどめなければならな
い。従って、Nbの含有量の上限は、その効果が飽和す
る0.020wt.%とする。耐食性に対する悪影響を考慮
し、その含有量を0〜0.020wt.%の範囲内に規定す
るが、微細化効果が必要とされる場合には、0.005
wt.%〜0.020wt.%の範囲内とすることが望ましい。
【0034】Ti(チタン):Tiは、本発明におい
て、最も重要な元素の1つであり、耐食性の向上および
溶接性、特に溶接熱影響部の軟化抑制に作用する。P,
Cu,Moの共存下でTiを添加すると、メカニズムは
明確でないが、確実に耐食性を向上させることができ、
その効果は腐食深さを約1割減少させる。また、鋼中に
固溶Tiが存在すると、溶接の入熱後の冷却時にTiC
が析出し、熱影響部を強化することにより、軟化を抑制
することができる。これらの効果は、 0.04≦Ti* =Ti−(14/48×N+32/48×S)≦0.10 を満足するTi添加範囲で得られる。Ti* 、即ち、
“Ti−(14/48×N+32/48×S)”が、
0.04wt.%未満では、充分な効果が得られず、0.1
0wt.%を超えると、特に溶接熱影響部の軟化抑制効果が
飽和し、無意味であると同時に不経済である。よって、
Tiの含有量は、 0.04≦Ti* =Ti−(14/48×N+32/48×S)≦0.10 を満足する範囲とすべきである。
【0035】本発明においては、これらの元素の他、以
下の元素を含有させることもできる。 Ca,REM,Zr(カルシウム、希土類元素、ジルコ
ニウム):Ca,REMおよびZrを添加することによ
り、耐食性に悪影響を及ぼすMnSを低減させることが
できる。また、硫化物の形態制御という観点からもこれ
らの元素の添加が有効であり、伸びフランジ性を向上さ
せることができる。このような効果を発揮するために
は、これらの合計がS(硫黄)に対して等量以上である
必要がある。従って、Ca,REMおよびZrを含有さ
せる場合には、その含有量は、これらのうちの少なくと
も1種を、Sに対して等量以上とする。なお、REMは
“rare earth metals ”の略であり希土類元素を示す。
【0036】なお、上記成分以外の不可避的に含まれる
不純物は、鋼の特性に実質的に影響を及ぼさない量であ
る限り許容される。
【0037】次に、組織の限定理由について説明する。
我々は、組織および耐食性に関する研究を行ない、パー
ライト等粗大な炭化物を含む組織は耐食性、特に腐食深
さに対し悪影響を及ぼすという知見を得た。従って、本
発明では、パーライト等の粗大な炭化物を含む組織を除
いた組織で、且つ、高い強度を得られる組織、具体的に
は、ベイナイトを主体とした組織を対象とする。
【0038】本発明では、上記化学成分組成の限定およ
び組織の限定に加え、以下の条件式(A)を満足するこ
とを要件としている。即ち、上述のように化学成分組成
および組織を限定しただけでは必ずしも充分な耐食性が
得られない場合があるが、条件式(A)を満足する組成
を有すれば確実に良好な耐食性を得ることができるので
ある。これらの式は、我々が確実に良好な耐食性を得る
ことができる組成範囲を見出すべく膨大な量の腐食試験
を実施した結果導かれたものである。 −175C−30.2Mn−72.7Cr−451Nb+125P+31.3 Cu+90.0Mo+128Ti≧−35 ・・・(A) 但し、上記(A)式において、C、Mn、Cr、Nb、
P、Cu、MoおよびTiは、これら各元素の重量%
(wt.%)を示す。
【0039】次に、熱間圧延条件について説明する。圧
下量の増大は、オーステナイト粒を微細化し、且つ、そ
れを加工組織としておくことで、引き続く冷却の際に、
変態して形成されるベイナイト組織を微細均一化し、耐
食性および加工性を向上することに作用する。微細で均
一なベイナイト組織を得るためには、連続仕上げ熱間圧
延での圧下量を80%以上とすることが必要である。更
に90%以上が好ましい。上限は特に規定しないが、圧
延機の能力により決定されおよそ98%程度である。
【0040】仕上がり温度は、ベイナイト組織を微細均
一化するためには、低温であることが望ましい。しかし
ながら、Ar3 点未満とすると加工フェライトが発生
し、ベイナイト組織とならず高い強度が得られない。従
って、仕上がり温度はAr3 点以上に規定する。仕上げ
圧延の開始温度については、特に限定されるものではな
いが、組織の微細均一化を図るためには低温であること
が望ましい。通常の連続圧延で圧下量を80%以上とす
るためには、“Ar3 +100〜300℃”程度とな
る。
【0041】圧延終了から500℃以下まで50℃/s
ec以上の冷却速度で冷却することは、フェライト変態
を抑制してベイナイト変態温度範囲まで冷却し、組織を
ベイナイト単相とするために必要である。また、耐食性
を確保するために必要な添加元素であるPは、500〜
600℃の範囲で結晶粒界に偏析し加工性を極端に劣化
させる。そのため、この偏析温度範囲でのPの偏析を回
避するためには、冷却速度を50℃/sec以上とする
必要がある。更に、耐食性向上および溶接熱影響部の軟
化抑制のために添加するTiは、500〜600℃の範
囲でTiCとして析出し易い。溶接熱影響部の軟化抑制
効果は、熱延後に固溶Tiが適量残留している場合に得
られるものであるから、TiCを多量に析出させないた
めにも冷却速度を50℃/sec以上とする必要があ
る。冷却速度の上限は特に限定されるものではなく、圧
延機の能力により決定され、通常500℃/sec程度
である。
【0042】巻取温度は、Pの偏析を抑制し伸びフラン
ジ性、張り出し性および耐2次加工脆化性等の加工性の
向上のために制御する必要がある。巻取温度が500℃
を超えると、Pの粒界への偏析が生じ、加工性が劣化す
る。また、組織をベイナイト単相にするためには、巻取
温度をベイナイト変態温度領域にする必要がある。更
に、TiCの析出を抑制し、溶接性向上に有効な固溶T
iを残留させるためにも、巻取温度を500℃以下に制
御することが重要である。そのため、巻取温度の上限は
500℃とすべきである。
【0043】更に、材料特性として、伸びフランジ性が
必要とされる場合には、スキンパス圧延を伸長率0.5
〜3.0%の範囲内で加えることも可能である。
【0044】
【実施例】次に、この発明を図面に示す実施例に基づい
て更に詳細に説明する。
【0045】表1に示す本発明の範囲内の化学成分組成
を有する鋼材番号1〜18、35、および、表2に示す
本発明範囲外の化学成分組成を有する鋼材番号22〜3
4、36を溶製した。
【0046】番号1〜18の鋼材に対して、製造後の組
織がベイナイトとなるように、仕上圧延温度を830〜
900℃、巻取温度を500℃以下とした制御圧延を行
ない、板厚2.0〜3.2mmの薄鋼板(以下、「本発
明鋼」という)を調製した。番号22〜26、28の鋼
材に対しても同様の圧延を行ない同寸法の薄鋼板(以
下、「比較鋼1」という)を調製した。番号27、29
〜36の鋼材については、仕上げ圧延温度をAr3変態
点以上としたものの、冷却速度、巻取温度は特に本発明
範囲内の圧延・冷却制御せず通常の圧延・冷却を行って
巻厚2.0〜3.2mmの薄鋼板(以下、「比較鋼2」
という)を調製した。なお、番号28の鋼材は表2中の
比較鋼2に分類した。
【0047】そして、その際に得られた本発明鋼および
比較鋼1、2の組織の同定の結果を表1および表2に併
記した。なお、表中の“組織”の欄において、Bはベイ
ナイト、F+Bはフェライト+ベイナイト、F+Pはフ
ェライト+パーライトを、各々示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】鋼の耐食性を調査するために、調製された
供試鋼を用いて腐食試験を実施した。試験は表3に示す
6試験で1サイクル(1サイクル24時間)が構成され
た腐食試験を240サイクルまで実施した。試験実施
後、表面に発生した錆を酢酸2アンモニウムで除去後、
最大腐食深さをポイントマイクロメータで測定した。表
3において、RT:室温、RH:相対湿度、である。
【0051】
【表3】
【0052】充分な耐食性を有しているとするために
は、このような最大腐食深さが従来使用されてきた一般
の材料の50%以下であることが必要であるため、比較
鋼として用いた商用鋼である番号27の最大腐食深さの
値を100として、最大腐食深さ比をとり、その値によ
って各供試鋼の耐食性を評価した。この値が50を超え
た場合には耐食性が不充分とし、この値が50以下の場
合には耐食性が充分であるとした。表1、表2では、各
鋼の最大腐食深さ比の値、および、耐食性試験の判定結
果を“判定1”の欄に示した。判定基準は、耐食性充分
の場合:○印、耐食性不充分の場合:×印、とした。
【0053】表1および表2に示すように、番号1〜
の本発明鋼およびTi添加量のみが本発明範囲外であ
る番号22〜26の比較鋼1は、いずれも最大腐食深さ
比が50%以下であり、耐食性充分の評価(判定1が○
印)であった。一方、本発明範囲外の番号27〜36の
比較鋼2は、いずれも最大腐食深さ比が50%を超え、
耐食性不充分の評価(判定1が×印)であった。
【0054】このような実施例の結果をまとめると、図
1のようになる。図1は横軸に条件式(A)の値をと
り、縦軸に最大腐食深さ比の値をとって、各鋼における
これらの値をプロットしたものである。図1中で白抜き
が本発明鋼であり、黒く塗り潰されているのが比較鋼で
ある。また、黒塗りのうち丸印がTiの添加範囲のみが
本発明鋼の規定範囲外である比較鋼1であり、四角印が
比較鋼2である。更に、黒塗りの四角印のうち、小さい
ものが従来の商用鋼、大きいものが計算式(A)を満た
しているが、組織がフェライト+パーライトのものであ
る。
【0055】図1から、本発明で規定する成分範囲を満
たし、且つ、計算式(A)を満たし、更に、組織がベイ
ナイトである本発明鋼は、いずれも充分な耐食性を有し
ていることが明確に確認される。また、Tiの添加量は
本発明鋼より少ないが、計算式(A)を満たしている組
織がベイナイトである比較鋼1も比較的良好な耐食性を
有している。
【0056】これに対して、比較鋼のうち計算式(A)
を満たしても、組織がフェライト+パーライトの黒塗り
四角で示した比較鋼2は、本発明鋼と比較して最大腐食
深さ比が大きく、組織制御が重要であることが確認され
た。
【0057】このように、本発明鋼の耐食性は、比較鋼
に比べ明らかに優れていることが確認された。また、上
述したように条件式(A)を導入することにより、耐食
性の実験結果を正確に評価することができ、本発明にお
いて初めて見出された条件式(A)に基づいて鋼の耐食
性を充分な精度で評価することができることが確認され
た。
【0058】次に、溶接熱影響部の軟化を調査するため
に、表1および表2に示した鋼について、突合せアーク
溶接を行ない、熱影響部および母材のビッカース硬さを
測定した。熱影響部の最も軟化した部分の硬さと母材と
の硬さの差(ΔHV)を求めて溶接熱影響部の軟化を評
価した。
【0059】溶接熱影響部の軟化による継手強度の低下
は、軟化部の硬さと母材の硬さとの差(ΔHV)が10
未満であれば実用上問題のない範囲であるから、ΔHV
が10未満のものを溶接性良好、10以上のものを溶接
性不良とし、各鋼のΔHVの値および溶接性の判定結果
を表1および表2の“判定2”の欄に併せて示した。評
価方法は、溶接性良好:○印、溶接性不良:×印とし
た。
【0060】表1および表2に示すように、番号1〜
の本発明鋼はいずれも溶接性良好の判定(判定2が○
印)であった。一方、Tiの添加量のみが本発明範囲外
の番号22〜26の比較鋼1は、いずれもΔHVが10
以上であり、溶接性は不良の判定(判定2が×印)であ
った。また、番号27〜36の比較鋼2のうち、組織が
フェライト+パーライトの低強度の材料は、ΔHVが小
さく、溶接性は良好の判定(判定2が○印)であった。
【0061】耐食性が良好であった本発明鋼および比較
鋼1について、溶接性評価結果をまとめると、図2のよ
うになる。図2は横軸にTiをとり、縦軸にΔHVをと
って、各鋼におけるこれらの値をプロットしたものであ
る。図2中で白抜きの丸印が本発明鋼、黒塗りの丸印が
Ti* のみが規定範囲から外れる比較鋼1である。図2
から明瞭に確認されるように、本発明の規定範囲内であ
る本発明鋼は、ΔHVが小さく、良好な溶接性を有して
いる。一方、Ti* が規定範囲よりも少ない比較鋼1
は、溶接性が不充分であった。なお、 “Ti* =Ti−(14/48×N+32/48×
S)”である。
【0062】以上、耐食性および溶接性の2種の判定
(判定1および2)で、いずれも良好であり○印の判定
となったものを総合判定で○印とし、どちらか一方また
は両方が不良で×印の判定となったものを総合判定で×
印として、表1および表2の“総合判定”の欄に併記し
た。この判定結果から、成分範囲および組織のいずれも
本発明範囲内である本発明鋼は、優れた耐食性および低
強度材並みの良好な溶接性を有することが、明瞭に確認
された。
【0063】これに対して、条件式(A)を満たしても
Tiの添加量が規定範囲から外れる比較鋼1は、耐食性
は良好であるものの溶接性が劣る。また、条件式(A)
を満たしても組織がフェライト+パーライトである比較
鋼2は、溶接性は充分だが耐食性が劣っていた。なお、
比較鋼2の番号28は、本発明範囲外の成分組成を有す
る鋼材に本発明範囲内の圧延・冷却制御を施したもの
で、組織がフェライト+ベイナイトであり、耐食性およ
び溶接性が劣っていた。
【0064】これらの結果から、本発明において優れた
耐食性および良好な溶接性を得るためには、成分の規定
範囲を満たし、条件式(A)を満足し、且つ、組織を適
当に制御することが、必要不可欠であることが確認され
た。
【0065】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれ
ば、優れた耐食性および溶接性、および、良好な加工性
を兼備する自動車足廻り部品用高強度熱延鋼板として好
適な耐食性および溶接性に優れた高強度熱延鋼板および
その製造方法が提供され、本発明鋼を適用すれば、従来
の熱延鋼板と比較して、耐食性および溶接性の優れた自
動車足廻り部品用熱延鋼板を低コストで且つ安定して製
造することができ、自動車業界で注目されている自動車
の長寿命化、安全性の向上に対して充分貢献することが
でき、かくして、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で用いた鋼における条件式
(A)と最大腐食深さ比との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例で用いた鋼におけるTi* =T
i−(14/48×N+32/48×S)の値とΔHV
との関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C22C 38/50 C22C 38/50 (72)発明者 木下 正行 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (72)発明者 大和田 浩 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (72)発明者 木村 浩 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (56)参考文献 特開 平5−331695(JP,A) 特開 平5−117803(JP,A) 特開 平5−195145(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 C21D 8/02

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C :0.02〜0.06wt.% Si:1.5wt.%以下 Mn:2.0wt.%以下 P :0.05〜0.10wt.% S :0.005wt.%以下 Al:0.005〜0.100wt.% Cu:0.10〜0.60wt.%未満 Ni:0.05〜0.60wt.% Mo:0.10〜0.30wt.% Cr:0.06wt.%以下 Nb:0〜0.020wt.%(無添加の場合を含む) Ti:0.04≦Ti−(14/48×N+32/48
    ×S)≦0.10 を満足するTi を含有し、 且つ、下記の(A)式を満足し、 実質的にベイナイト組織を有することを特徴とする耐食
    性および溶接性に優れた自動車足廻り部品用高強度熱延
    鋼板。 −175C−30.2Mn−72.7Cr−451Nb
    +125P+31.3Cu+90.0Mo+128Ti
    ≧−35 ・・・(A) 但し、上記(A)式において、C、Mn、Cr、Nb、
    P、Cu、MoおよびTiは、これら各元素の重量%
    (wt.%)を示す。
  2. 【請求項2】C :0.02〜0.06wt.% Si:1.5wt.%以下 Mn:2.0wt.%以下 P :0.05〜0.10wt.% S :0.005wt.%以下 Al:0.005〜0.100wt.% Cu:0.10〜0.60wt.%未満 Ni:0.05〜0.60wt.% Mo:0.10〜0.30wt.% Cr:0.06wt.%以下 Nb:0〜0.020wt.%(無添加の場合を含む) Ti:0.04≦Ti−(14/48×N+32/48
    ×S)≦0.10 を満足するTi を含有し、 更に、Ca、REMおよびZrのうちの少なくとも1種
    をSに対し等量以上になるように含有し、 且つ、下記の(A)式を満足し、 実質的にベイナイト組織を有することを特徴とする耐食
    性および溶接性に優れた自動車足廻り部品用高強度熱延
    鋼板。 −175C−30.2Mn−72.7Cr−451Nb
    +125P+31.3Cu+90.0Mo+128Ti
    ≧−35 ・・・(A) 但し、上記(A)式において、C、Mn、Cr、Nb、
    P、Cu、MoおよびTiは、これら各元素の重量%
    (wt.%)を示す。
  3. 【請求項3】請求項1または2のいずれかの化学成分組
    成を有する鋼材を熱間圧延し、Ar3変態点以上で仕上
    圧延を行ない、圧延終了温度から500℃以下まで50
    ℃/sec以上の冷却速度で冷却し、次いで、500℃
    以下のベイナイト変態温度範囲内で巻取り、組織を実質
    的にベイナイトにすることを特徴とする耐食性および溶
    接性に優れた自動車足廻り部品用高強度熱延鋼板の製造
    方法。
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