JP3421670B2 - 新規含硫アミノ酸 - Google Patents

新規含硫アミノ酸

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裕子 村田
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ウニ卵巣から抽出
された、苦味を呈する新規アミノ酸、及びその用途に関
する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】ウニの呈味成分につい
ては、これまでに食用とされている未成熟のバフンウニ
のエキス成分を明らかにし、その呈味効果についての報
告 (日本水産学会誌vol.30,No.9,749-756(1964))がな
されている。またキタムラサキウニについては顕微鏡を
用いて雌雄を判別し、雌雄の生殖腺のエキス成分を比較
した報告例がある(日本水産学会誌vol.44,No.9, 1037-
1040(1978))。これらの報告よりウニの生殖腺にはバリ
ン、ロイシン、イソロイシンなどの苦味アミノ酸の存在
が認められるている。その含量は、雌雄とも同程度であ
り、ウニ特有の呈味に関与していると考えられている。
【0003】本発明者らは、ウニの呈味成分について検
索を行ったところ、バフンウニの放卵期直前の成熟した
卵巣より従来の文献に記載されていない新規なアミノ酸
を見出した。そして、このアミノ酸は苦味を有し、苦味
のマスキング剤の開発等のための研究のツールや苦味を
付与する呈味成分、また、誤飲防止のための塗布剤とし
て用いられることを見出して本発明をなすに至った。す
なわち、本発明の課題は、ウニの卵巣から抽出して得ら
れる新規アミノ酸、及び苦味剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記課題を解
決するためになされたものであって、次の化学式(II)で
示される 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチ
オ) -2- ピペリジンカルボン酸〔4-(2-carboxy-2-hydro
xy-ethylthio)-2-piperidinecarboxylic acid〕に関す
る。
【0005】
【化2】
【0006】さらに、本発明の化合物は、2個のカルボ
キシル基を有するが、その一方及び両者が、低級アルキ
ル基でエステル化されていてもよい。このように低級ア
ルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、
イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャル
ブチル基等がある。
【0007】また、本発明の化合物は、その化学構造か
ら異性体が存在するが、本発明ではこれらの異性体をも
含むものである。また、本発明の化合物は、ナトリウ
ム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカ
リ金属またはアルカリ土類金属、その他の典型金属ま
た、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属等の無機イ
オンやアンモニウム、イソプロピルアミン、トリエチル
アミン、ピリジンなどの塩基等と塩を形成するが、本発
明の化合物はこれらの塩をも含むものである。上記化学
式(II)で示されるアミノ酸は放卵期直前の成熟した卵巣
より抽出されたものであり、これまでにウニやその他の
動植物から抽出されたという報告はない。また、合成化
学的にも本発明化合物または類似物の合成例は報告され
ていない。従って、本発明の化合物 (アミノ酸及びその
誘導体) は、新規な化合物であると判断される。
【0008】次に、本発明の化合物の製造法を示す。本
発明の 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)
-2- ピペリジンカルボン酸 (式(II)) を得るには次の方
法が用いられる。バフンウニ(Hemicentrotus pulcherr
imus) の卵巣を含水エタノールで抽出し、抽出液を減圧
濃縮し、水とジエチルエーテルで2層分配する。得られ
た水層と残渣の含水メタノールによる抽出液とを合わ
せ、濃縮する。この濃縮液をODSの中圧カラムを用い
て、水を溶離液として分画を行う。苦味を有する画分は
ゲルろ過後、さらに、酢酸水溶液を溶離液としたODS
中圧カラムにより分画し、最終的に酢酸水溶液を移動相
としたODSによる高速液体クロマトグラフィーで精製
し、4-(2- カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-
ピペリジンカルボン酸を得る。この方法において、バフ
ンウニの卵巣は、成熟した生殖腺が用いられ、抽出液の
含水エタノールとしては、70〜90容量%のものが、また
含水メタノールとしては、10〜30容量%のものが、酢酸
水溶液としては、 0.5〜3 容量%程度のものが用いられ
る。
【0009】また、本発明の前記エステル誘導体は 4-
(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリ
ジンカルボン酸を低級アルコールでエステル化すること
によって得ることができる。この場合のエステル化反応
としては、通常の反応条件が用いられる。また、本発明
の前記塩類は、イオン交換カラムを用いて製造される。
【0010】さらに本発明は、前記 4-(2-カルボキシ-2
- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸又
はその誘導体よりなる苦味剤に関する。製薬分野での経
口剤の苦味、また、タンパク質加水分解物や植物抽出物
を用いた機能性食品の開発途上派生する苦味は大きな問
題でいずれも苦味のマスキングが重要な課題となってい
る。苦味のマスキングには苦味の発現機構を解明するこ
とが不可欠である。しかし、苦味物質は多種多様であ
り、その化学構造と苦味の強さ、さらに苦味の受容サイ
トの構造も多様であると考えられている。このため苦味
物質の構造とその発現機構の解明にはより多くの苦味モ
デル化合物(研究ツール)が必要とされている。
【0011】一方、コーヒー、ビールなどのように苦味
が好ましい味とされる食品も多く、苦味物質の食品への
応用も期待される。近年、新しいタイプの加工食品の開
発が進められている中で、苦味物質を調味料として利用
することが考えられている。また、ブロックなどの玩具
や消しゴムなどの文房具に苦味物質を塗布することによ
り、幼児の誤飲による窒息等の事故を未然に防げると考
えられる。本発明化合物は、新規の構造を有する苦味の
研究ツールおよび苦味添加剤としても有効である。
【0012】本発明の苦味剤は、前記化合物よりなるも
のがあり、この化合物自体を用いてもよいし、あるいは
粉剤、顆粒剤、あるいは溶液の形に製剤し、これを苦味
の好ましい食品に添加したり、幼児の誤飲を防ぐため、
玩具等に塗布したり、あるいは苦味のマスキング剤開発
のため等の苦味のモデル化合物として用いることができ
る。本発明の化合物の苦味は、キニーネのようであり、
その閾値は、0.006 %程度である。本発明の化合物はウ
ニの卵巣に存在する化合物であり、急性毒性はないもの
と判断される。
【0013】
【発明の実施の形態】次に、本発明の具体的な実施の態
様を実施例として示す。
【実施例1】原料として用いたウニは、福島県いわき市
小名浜にて採取したバフンウニ(Hemicentrotus pulche
rrimus) で、放卵期直前の成熟した卵巣を用いた。この
卵巣800g(湿重量) に80%エタノールを加えホモジナイ
ズし、抽出した(2.4l ×3回) 。この抽出液を遠心分離
し、得られた上清を減圧濃縮後、水とジエチルエーテル
で2層分配を行った。また、残渣を20%メタノール (1.
2l×3回)で抽出し、得られた抽出液と先の水層を合わ
せて減圧濃縮後、コスモシールODSの中圧カラムクロ
マトグラフィーで水を溶離液として分画を行った。得ら
れた苦味を有する画分はセファデックスG-10 によるゲ
ルろ過、さらに、1%酢酸水溶液を用いたODS中圧カ
ラムクロマトグラフィーで分画後、最終的に1%酢酸水
溶液を移動相としたODSカラムによる高速液体クロマ
トグラフィーで精製し、苦味物質(化学式(II)の化合
物) 60mgを白色粉末として得た。
【0014】得られた化合物の理化学的性状は次のとお
りであった。 施光度: [α] 24 D =−16.5° (c0.20, H2O) 薄層クロマトグラフィーのRf値:Rf=0.12 (シリカ
ゲル薄層を使用、展開溶媒; n-ブタノール:酢酸:水=
4:1:2 、ニンヒドリンで検出) 核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR, 13C-NMR): 1H-NMR(D2O-
CD3OD(40:1) 中、CD3OD 内部標準、測定温度 300K, 600
MHz); δ 4.19(1H,dd, J=6.7, 3.8) 、3.64(1H, dd, J
=12.7, 3.1) 、3.49(1H, ddd, J=13.1, 4.2, 2.3) 、3.
08(1H, m), 3.06(1H,dd,13.8, 3.8)、3.03(1H,m)、2.90
(1H,dd, J=13.8, 6.7)、2.58(1H, ddd,J=14.2, 6.2, 3.
1) 、2.25(1H,m)、1.63(1H,m)、1.61(1H,dd, J=12.7, 1
4.2)13 C-NMR(D2O-CD3OD(40:1) 中、CD3OD 内部標準、測定温
度 300K, 67.5MHz);δ180.0s(1C), 174.2s(1C), 72.3d
(1C), 60.0d(1C), 44.1t(1C), 39.6d(1C), 35.2t(1C),3
4.3t(1C), 29.8t(1C)
【0015】質量分析値(FABMS, HRFABMS): FABMS(マト
リックス チオグリセロール); m/z(相対強度) 250(2
5),204(15), 162(22), 128(48), 82(98) HRFABMS; m/z 250.0749(C9H16O5NS (M+H)+ として) 、2
50.0755 (実験値) この理化学的性状から得られた化合物は、 4-(2-カルボ
キシ-2- ヒドロキシ-エチルチオ)-2-ピペリジンカルボ
ン酸〔4-(2-carboxy-2-hydroxy-ethylthio)-2-piperidi
necarboxylic acid〕と決定した。この化合物の0.05%
水溶液はキニーネのような苦味を呈した。
【0016】
【発明の効果】本発明によりウニの生殖腺より新規化合
物が提供される。本発明の新規化合物は苦味を呈し、医
薬品等の苦味のマスキング剤開発のための苦味のモデル
化合物として用いられる。また、新しいタイプの機能性
食品や加工食品の開発のための苦味の添加剤として用い
られる。さらに幼児による誤飲防止のための玩具、文房
具等への苦味塗布剤として用いられる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07D 211/60 A23L 1/22 - 1/24 REGISTRY(STN) CA(STN) CAOLD(STN)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次の一般式で示される 4-(2-カルボキシ
    -2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸
    〔4-(2-carboxy-2-hydroxy-ethylthio)-2- piperidinec
    arboxylic acid〕、その塩、およびその低級アルキルエ
    ステル。 【化1】 ただし、式中R1及びR2はその両者あるいはその一方がそ
    れぞれ水素原子あるいは低級アルキル基である。またR1
    及びR2は、一方あるいは両者がアルカリ金属アルカリ
    土類金属、その他の典型金属、または遷移金属であって
    も、また当該化合物が塩基と塩を形成しているものでも
    よい。
  2. 【請求項2】 請求項(1) 記載の化合物よりなる苦味
    剤。
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Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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日本水産学会誌,1998年,第64巻,第3号,第477−478頁

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