JP3412463B2 - 摩擦圧接方法 - Google Patents

摩擦圧接方法

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JP3412463B2
JP3412463B2 JP20590397A JP20590397A JP3412463B2 JP 3412463 B2 JP3412463 B2 JP 3412463B2 JP 20590397 A JP20590397 A JP 20590397A JP 20590397 A JP20590397 A JP 20590397A JP 3412463 B2 JP3412463 B2 JP 3412463B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、摩擦圧接方法にお
いて、製品の寸法精度を向上させ、加工時の熱の影響に
よる製品の品質のばらつきを防止する加工方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】従来より、2つのワークを接合する方法
として、摩擦圧接法が用いられている。この摩擦圧接法
は、2つのワーク間に相対回転と摩擦押付圧力とを付与
することにより、各ワークの当接面を軟化させ、ワーク
同士を溶着するものである。この摩擦圧接法においても
幾つかの手法が実施されているが、その中でも特に図8
に示すブレーキ式(制動式)とフライホイール式(蓄勢
式)とが良く知られている。尚、図8は、ブレーキ式及
びフライホイール式の摩擦圧接工程における、回転数、
押付力、寄り代の変化を各々比較したものである。
【0003】そして、ブレーキ式は次のような各ステッ
プからなるものである。 2つのワークの相対的な回転数を一定値Nとする。 ワーク同士を当接させ、摩擦押付圧力を付与する。 ワークの当接面が軟化しワークの寄り代が増加してい
く。 所定量の寄り代を得た時点で、ブレーキをかける。そ
して、回転数Nが零になるまで強制的に減速させる。 ワーク同士の押付速度を増加し、ワークの当接面にア
プセット押付力を付与する。 アプセット押付力によって、寄り代が全寄り代に至る
までワークの接合が急速に進む。また、当接面が冷却さ
れて硬化し、アプセット押付力を付与し続けてもそれ以
上寄り代は増加せず、摩擦圧接が完了する。
【0004】これに対し、フライホイール式は次の各ス
テップからなるものである。 (i) 2つのワークの相対的な回転数を一定値Nとする。
ワークの回転駆動手段はフライホイールを備えており、
回転数Nに上昇した後に駆動源とフライホイールを含む
ワーク保持部とを切り離すことにより、フライホイール
に蓄えられた運動エネルギー(慣性力)により、ワーク
は回転を続ける。 (ii) ワーク同士を当接させ、摩擦押付圧力を付与す
る。 (iii) ワークの当接面が軟化し、寄り代が増加してい
く。この間、フライホールに蓄えられた運動エネルギー
は徐々に消耗していく。 (iv) フライホールに蓄えられた運動エネルギーの消耗
と共に回転数Nは減少し、これと共にワークの当接面は
徐々に冷えて硬化していく。 (v) フライホールに蓄えられた運動エネルギーが使い果
たされ、ワークの相対回転は停止する。この時点で得ら
れた寄り代が全寄り代となる。また、これ以上押付力を
付与し続けても寄り代は増加しないことから、この時点
で摩擦圧接を完了する。
【0005】
【発明が解決しょうとする課題】従来の摩擦圧接法は上
記ブレーキ式、フライホイール式のいずれかにより行う
ことが主流であった。しかしながら、これら従来の手法
は以下のような課題を包含していた。まず、従来の摩擦
圧接方法(ブレーキ式、フライホイール式共に)におい
ては、ワークの当接面が軟化していく過程を正確に捕ら
えることは困難であった。よって、製品の接合強度が不
足することを防ぐために、必要以上の寄り代を設定する
必要があった。すなわち、摩擦熱を加える時間が必然的
に長くなり、母材の接合部分とは無関係な部分にも熱の
影響を多く与えるものであった。これはエネルギーの無
駄使いであるばかりか、母材は熱の影響による機械的性
質の変化を来す部分が多くなり、製品の品質に多くのば
らつきを生ずることになった。また、寄り代の増加は当
接面に発生するバリの量を増加させることになり、これ
を除去するための工程も必要となった。
【0006】加えてブレーキ式の場合には、アプセット
押付力を付与するステップにおいて、回転停止のタイミ
ングとアプセット押付力の大きさとで接合部分の品質
(接合強度)が左右される。ところが、この条件を整え
かつ高い寸法精度を得るための準備段階に多くの工数を
要するものであった。また、フライホイール式の場合に
は、摩擦圧接工程の後期において、ワークの当接面の硬
化が始まっている状態でもワーク同士に回転力が付与さ
れる為、接合部分に残留応力が生ずることになった。よ
って、製品の機械的性質を安定させることが困難であっ
た。
【0007】本発明は上記課題に鑑みてなされたもので
あり、その目的とするところは、摩擦圧接法においてブ
レーキ式、フライホイール式のいずれとも異なる方式を
用い、かつ、ワークの当接面が軟化していく過程を定量
的に管理することにより、高い接合強度と安定した機械
的性質とを備える高品質の摩擦圧接製品を得ることにあ
る。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
の本発明に係る手段は、同軸上に配置した複数のワーク
間に相対回転と押付圧力とを付与することにより各ワー
クの当接面を軟化させ、ワーク同士を溶着する摩擦圧接
方法であって、摩擦圧接の過程において、ワーク間の相
対回転数及び押付速度を、前記当接面に塑性流動層が形
成されるまで所定値一定に保ち、その後前記相対回転数
を所定の減速率で停止させ、該回転停止後に押付を停止
する各ステップを有することを特徴とする。
【0009】本発明においては、摩擦圧接の過程におい
て、ワーク間の相対回転数及び押付速度を増減すること
なく所定値一定に保つ。また、ワークの当接面に塑性流
動層が形成された後に(すなわち該当接面がワーク同士
を溶着させるに適した軟化状態となった後に)、前記相
対回転を所定の減速率で停止させる。すなわち、当接面
に塑性流動層が形成されてから前記相対回転が停止する
までの時間を制御する。この間、ワークの押付速度は所
定値一定に維持されているので、当該時間における寄り
代を制御することができる。そして、ワーク同士の相対
回転停止後に押付を停止することにより、塑性流動層が
形成されてから押付を停止するまでの寄り代を適切に制
御することができる。以上のごとく、ワークの相対回転
を停止する時期を塑性流動層の形成の有無から判断する
ので、ワークの当接面の軟化状態に基づいた摩擦圧接を
進行することができる。
【0010】また、本発明においては、前記塑性流動層
の形成の有無を、前記相対回転数を一定値に保つために
増減される回転トルクと、前記押付速度を一定値に保つ
ために増減される押付力との比較により判断する。
【0011】摩擦圧接の過程、すなわち当接を開始して
から摩擦熱によって当接面の温度が上昇し、さらに当接
面が軟化してワーク同士が寄るという各ステップにおい
て、当接面の軟化の進行に伴い、当接面に生ずる摩擦力
や、必要な押付圧力はおのずと変化する。よって、ワー
クの相対回転数及び押付速度を、摩擦圧接の過程におい
て所定値一定に保つために、回転トルクと押付力とを増
減する。この回転トルクと押付力の変化(いずれもフィ
ードバックデータとして得ることができる)に基づい
て、当接面における塑性流動層の形成の有無を判断し、
さらに該判断に基づいて摩擦圧接を進行することによ
り、ワークの当接面の軟化状態を考慮に入れた摩擦圧接
を行うことができる。
【0012】さらに、本発明においては、前記回転トル
クと前記押付力との比較値が一定となるタイミングで前
記塑性流動層の形成を判断することが可能である。こ
の、前記回転トルクと前記押付力との比較値が一定にな
るタイミングとは、回転トルクの変化量と押付力の変化
量とがいずれも無くなったときを意味する。そして、い
ずれの変化量もなくなったときには、ワーク同士の当接
面における軟化状態は安定し、それ以上の変化は見られ
なくなる。すなわち、それ以上ワーク同士を寄せ続けて
も接合強度に差は見られない。したがって、回転トルク
と前記押付力との比較値が一定となったタイミングにお
いて、塑性流動層が形成されたと判断し、その後の工程
(ワーク同士の相対回転を停止し、さらにその後ワーク
の送りを停止する。)を進行することにより、ワークの
当接面が軟化していく過程を考慮に入れた摩擦圧接を行
うことができる。
【0013】また、本発明においては、前記所定の相対
回転数及び押付速度は、ワーク同士の当接面に所望の接
合強度を得るために必要な投入エネルギーに基づいて決
定されることが望ましい。摩擦圧接時においては、ワー
ク同士の当接面に投入されるエネルギー量は、ワークの
相対回転数及び押付速度に比例する。また、ワーク同士
の接合強度は、該投入エネルギー量に比例する。よっ
て、相対回転数及び押付速度を所望の投入エネルギー量
を得ることができる値に設定することにより、ワークの
当接面に所望の接合強度を得る。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付
図面に基づいて説明する。ここで、従来例と同一部分ま
たは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説
明は省略する。
【0015】図2には、本発明の実施の形態に適した摩
擦圧接装置を示している。この摩擦圧接装置は、一度に
3つのワークを摩擦圧接することが可能な構成をなすも
のであり、設備ベース1上に主軸ユニット2、主軸ユニ
ット2’およびクランプ3を有する。そして、ワークW
2 をクランプ3で、ワークW1 を主軸ユニット2で、ワ
ークW3 を主軸ユニット2’で夫々支持するようになっ
ている。
【0016】ここで主軸ユニット2についての説明をす
る。主軸ユニット2には主軸4が回動自在に設けられて
いる。また、主軸4は主軸ユニット2の内部で、ギヤ
5、6を介して回転用サーボモータ7と駆動連結してい
る。さらに、主軸4にはブレーキディスク8が取付けら
れており、ブレーキキャリパ9を作動させることによっ
て、主軸4に対し自在に制動をかけることができる。さ
らに、主軸4の先端にはチャック10が取付けられてお
り、ワークW1 を主軸4に固定することができる。
【0017】主軸ユニット2は、リニアガイド11を介し
て設備ベース1に取付けられており、主軸4の軸方向
(Y方向)に平行移動可能となっている。また、主軸ユ
ニット2には設備ベース1内に突出するアーム12を設け
ており、アーム12には圧接用サーボモータ13に駆動され
る圧接送りシャフト14を挿通している。そして、圧接送
りシャフト14を回転させて、該シャフトに形成したねじ
溝により、アーム12との間に推進力を発生させる。この
推進力により主軸ユニット2をY方向に駆動案内する。
主軸ユニット2と設備ベース1との間にはストロークセ
ンサ15、15aを設け、主軸ユニット2(すなわち、ワー
クW1 )の押付速度と送り量(または現在位置)とを計
測することができる。さらに、アーム12には圧接送りシ
ャフト14との間に荷重センサ17を設け、主軸ユニット2
(すなわちワークW1 )にかかる押押付トルクTF を測
定することができる。
【0018】なお、主軸ユニット2’は主軸ユニット2
と同一の構成をなし、かつ、設置ベース1上で主軸ユニ
ット2と同軸上に位置するように配置されているもので
ある。よってユニット2’についての詳細な説明は省略
する。なお、主軸ユニット2、2’は、夫々独立して作
動させることも、同期させることも可能である。
【0019】次に、クランプ3の説明をする。クランプ
3は、ワークW2 を主軸4の軸方向に位置決めするクラ
ンプ3aと、該軸線に対し左右方向の位置決めをするク
ランプ3bと、クランプ3cとからなる。そして、各軸
クランプを適宜調整することにより、主軸4に固定され
たワークW1 、W3 と同軸上に、ワークW2 を配置する
ことができる。
【0020】図3には、図2の主軸ユニット2、2’に
用いられる制御手段の構成を示している。図示のごと
く、回転用サーボモータ7および圧接用サーボモータ13
のそれぞれに、回転用サーボドライバ18と圧接用サーボ
ドライバ19とを設け、これらの制御手段として摩擦圧接
コントローラ20を有している。また、摩擦圧接コントロ
ーラ20は、設備全体を制御する上位コントローラ(PL
C)21と連絡している。図中22、23はエンコーダであ
る。よって、回転用サーボモータ7および圧接用サーボ
モータ13の作動状況を、摩擦圧接コントローラ20で正確
に把握し、かつ的確な作動指示を出すことができる。こ
の圧接用サーボモータ13のためのエンコーダ23を利用す
ることにより、ストロークセンサ15、15aに代わって、
主軸ユニット2の押付速度と送り量とを計測することも
可能である。さらに、上位コントローラ21はストローク
センサ15、荷重センサ17とも連絡しているので、装置全
体を総合的に制御し、摩擦圧接を行うことができる。ま
た、上位コントローラ21は、主軸ユニット2、2’の作
動プログラムを記憶する為のメモリ21aを有している。
そしてメモリ21aの作動プログラムに基づいて、各主軸
ユニット2、2’の摩擦圧接コントローラ20に送信す
る。
【0021】上記設備は、無論2つのワークの摩擦圧接
作業に用いることも可能である。この場合には、例えば
一方の主軸ユニット’2を休止して、もう一方の主軸ユ
ニット2及びクランプ3を使用して、ワークW1 とワー
クW2 とを摩擦圧接する。
【0022】さて、図1には、本発明の実施の形態に係
る摩擦圧接方法における、ワーク同士の相対回転数N及
び押付速度Vの変化の様子を示している。以下に、図1
に対応する摩擦圧接工程の各ステップを列記する。 (1) ワーク同士の相対回転数を所定の回転数N=Na
で上昇させる。回転数N a については追って詳述する。 (2) 回転数がNa で安定した後に、ワークの送りを開始
する(A点)。 (3) ワーク同士の押付速度を所定の速度V=Va まで加
速する。速度Va については追って詳述する。 (4) ワーク同士を当接させ、さらにワークの送りを進行
させる間、回転数N=N a 、押付速度V=Va を夫々維
持する。 (5) あるタイミング(B点:B点については追って詳述
する)において、回転数Na を所定の減速率で減速させ
る。 (6) 回転数が零となった時点(C点)で、ワークの押付
速度Va を所定の減速率で減速する。 (7) ワークの押付を停止し、摩擦圧接作業を完了する。
【0023】続いて、上記ステップ(5) で、回転数Na
の減速を開始するタイミングであるB点の設定方法を、
以下に説明する。前述のごとく、ワーク同士の当接を開
始してから摩擦熱によって当接面の温度が上昇し、さら
に当接面が軟化してワーク同士が寄るというワークの送
りの進行過程において、回転数N=Na 、速度V=V a
で一定となるように、回転用サーボモータ7と圧接用サ
ーボモータ13とを制御する。ところが、前記送りの進行
過程では、ワーク同士の当接面における軟化の状態が変
化することから、当接面に生ずる摩擦力や、必要な押付
圧力等の負荷には変動が生ずる。よって、回転数Na
速度Va を維持するために必要となる回転トルクT、押
付トルクTF もおのずと変動する。そこで、本実施の形
態では、図4に示すように受熱部(主にワークの当接
面)の負荷変動を、投入部(摩擦圧接装置)にフィード
バックし、回転数Na および速度Va を一定値に保つ構
成を有している。なお、回転トルクT、押付トルクTF
の測定手段の一例として、回転用サーボモータ7と圧接
用サーボモータ13との負荷電流値の変化を検出するもの
を用いたり、各モータの駆動軸等に応力センサを設置す
る等、様々な手法を用いて測定することができる。
【0024】図5(a)には、ワーク同士が当接を開始
してから、ワークの送りが進行していく過程において、
回転数N=Na 、速度V=Va で一定としたときの、回
転トルクT及び押付力F(押付トルクTF に比例する値
である)の変動の様子を示している。また、図5(b)
には、図5(a)に示す回転トルクT、押付力Fの変動
値を比較したT/F変動値α(t)を示している。尚、
T/F変動値α(t)は数1式から求めることができ
る。
【数1】 ここで、 t :経過時間 dt:サンプリング幅 r :供試材の平均半径
【0025】図5(a)から明らかなように、ワーク同
士が当接を開始してからある程度の時間が経過するまで
は、回転トルクT、押付力F共に顕著な変動を示す。こ
れは、ワークの当接面の状態変化が連続的に起こり、完
全な固体から当接面の軟化が始まる(「固溶化」ともい
う)までの過程を捕らえている。そして、ある時点から
回転トルクT、押付力F共に顕著な変動を示さなくな
る。これは、ワーク同士の当接面における軟化状態が安
定し、それ以上の大きな変化が生じなくなった様子を捕
らえている。よって、図5(b)に示すように、回転ト
ルクTおよび押付力FのT/F変動値α(t)も、ワー
クの当接開始からある時間までは顕著な変動を示すが、
その後α(t)の変動は微小もしくは生じなくなる。こ
のα(t)の値が一定となるタイミングを、本説明では
塑性流動層形成点tsとする。このように、回転トルク
T、押付力Fに着目することにより、ワークの当接面が
軟化していく過程を定量的に把握、管理することができ
る。
【0026】さて、塑性流動層形成点ts以降は、当接面
の軟化状態が安定し、ワーク同士を溶着させるに適した
状態となる。換言すれば、塑性流動層形成点ts以降は、
ワークの軟化をさらに進行させても、接合強度に差が出
る(接合強度が向上する)ことはない。よって、図1の
ステップ(5) におけるB点(回転数Na の減速を開始す
るタイミング)を、塑性流動層形成点tsが生じたタイミ
ングに設定する。
【0027】続いて、前記ステップ(4) において維持す
るべき回転数Na 、押付速度Va の設定方法についてを
以下に述べる。図4に示すように、本発明の実施の形態
では、受熱部である当接面の負荷変動を投入部である摩
擦圧接装置にフィードバックする。そして、回転用サー
ボモータ7、圧接用サーボモータ13により、回転数N
a 、押付速度Va を保つための回転トルクT、押付力F
を付与する。また、ワークの当接面に対する投入エネル
ギーEは摩擦熱に変換され、当接面に塑性流動層を形成
し、摩擦圧接がなされる。ところで、ワークの当接面に
対する投入エネルギーEは、以下の数2式で表される。
【数2】 ここで、 S:当接面積 β:係数
【0028】また、ワーク同士の当接開始点t0から前記
塑性流動層形成点tsまでの投入エネルギー量Wは、以下
の数3式で表される。
【数3】 ここで、 S:当接面積 N:回転数 かつ、 Tm =T−T00 :無負荷トルク(摩擦圧接装置固有の作動抵抗等に
抗して装置を回転させるためのトルク) T :実効トルク(摩擦圧接中にワークを回転させるた
めに必要なトルク) このように、回転数Na は、当接開始点t0から前記塑性
流動層形成点tsまでの投入エネルギー量Wを決定するパ
ラメータの1つとして含まれている。
【0029】ところで、投入エネルギー量Wは、ワーク
同士の接触面における接合強度に直接的に影響を及ぼす
ものである。図6には、投入エネルギー量Wを様々に変
えて摩擦圧接を行った製品に、破断試験を実施した結果
を示している。図6から明らかなように、投入エネルギ
ー量WがWa より小さいと、破断は接合面で生じる。ま
た、このときの破断荷重は低レベルでばらつくことにな
る。すなわち、接合強度が不足しかつ品質が不安定であ
ることがわかる。そして、投入エネルギー量Wの値を増
加させていくに従い、破断荷重はより高いレベルに向上
するが、W=W a を越えるまでは同様にばらつきを生
じ、かつ接合面で破断を生じる。ところが、投入エネル
ギー量がW=Wa を越えると、破断が接合面以外の部分
での破断(母材破断)を生ずる。母材の性質は接合面に
比べて均一であることから、破断荷重のばらつきも少な
くなる。すなわち、投入エネルギー量がWa 以上であれ
ば、必要な接合強度が得られかつ製品の品質も安定する
ことになる。
【0030】さらに、当接開始点t0から前記塑性流動層
形成点tsまでの投入エネルギー量Wの値は、ワークの押
付速度Vに比例することがわかっている。図7には、ワ
ークの押付速度Vと投入エネルギー量Wとの関係を示し
ている。この速度Vと投入エネルギー量Wとの相関を示
す傾きは、ワークの材質、形状(大きさ)等によって変
わってくるが、各条件においても比例関係は現れる。つ
まり押付速度Vにより、投入エネルギー量Wが制御でき
ることになる。
【0031】よって、図7に示すデータの中から、投入
エネルギー量W=Wa を得ることが可能なワークの押付
速度V=Va を求める。ところで、数3式に示すように
回転数Na は投入エネルギー量Wのパラメータとなって
いる。よって回転数Na の値も、投入エネルギー量W=
a が得られる値に設定する。ただし、回転数Na が投
入エネルギー量Wa を得るにあたってよほど不適切な値
でない限り、回転数N a は固定しておき、押付速度Va
の値を変化させることによって、所望の投入エネルギー
量Wa を得るものとする。
【0032】本実施の形態では、以上のごとく決定され
たワークの相対回転数Na 、ワークの押付速度Va 及び
B点に基づいて、摩擦圧接を進行させる。そして、前記
ステップ(5) において、回転数Na を減速させる際に、
所定の減速率で減速を行うことにより、当接面に塑性流
動層が形成されてから相対回転数N=0となるまで(B
点からC点まで)の時間を制御する。この間、ワークの
押付速度はV=Va に維持されているので、当該時間に
おける寄り代を制御することができる。
【0033】さらに、前記ステップ(6) において、回転
数が零となった時点(C点)で、ワークの押付速度Va
を所定の減速率で減速する。摩擦圧接装置の押付速度
は、回転速度(回転数)と比較すると極小さなものであ
り、その慣性力は小さいので、押付速度Va はほぼ瞬時
に零まで減速させることができる。
【0034】上記構成をなす本発明の実施の形態により
得られる作用効果は、以下の通りである。まず、ワーク
の相対回転数N及び押付速度Vを所定値一定に保ち、ワ
ークの当接面に塑性流動層が形成されるタイミングであ
るB点で、回転数NをNa から零へと所定の減速率で減
速を行い、かつ、回転数N=0となったC点で押付速度
Vを所定の減速率でV=0まで減速する各ステップにお
いて、ワークの寄り代を制御することが容易となり、製
品寸法のばらつきの少ない摩擦圧接製品を得ることがで
きる。
【0035】また、摩擦圧接工程を進める上で重要とな
るB点を設定するにあたり、まず、ワークの当接面の状
態を示す回転トルクT、押付トルクTF からT/F変動
値α(t)を求める。そして、該α(t)の値が一定と
なるタイミングを、塑性流動層形成点tsとし、該塑性流
動層形成点tsが生じるタイミングをB点としている。よ
って、B点はワークの当接面が軟化していく過程を捕ら
え、それに基づいて決定されるものであり、ワークの当
接面の状態に応じて、最適な摩擦圧接工程の進行をする
ことができる。なお、塑性流動層形成点tsを若干越えた
タイミングにB点を設定することももちろん可能である
が、ts点とB点との差を可能な限り小さくすることによ
り、エネルギーの無駄使いを小さくし、熱の影響による
製品品質のばらつきを抑えることができる。また、必要
最小限の寄り代で十分な接合強度を得ることができるの
で、バリ発生を抑えこれを除去するための工程を不要と
する。合わせて素材の使用量が減少することから、素材
費の低減を図ることも可能となる。
【0036】また、ワークの相対回転数N=Na 、押付
速度V=Va は、当接開始点t0から前記塑性流動層形成
点tsまでの投入エネルギー量がW=WS となる値を選択
するので、ワーク同士の接合強度を十分に得ることがで
きる。以上のごとく、本実施の形態に係る摩擦圧接方法
によると、製品の寸法精度、接合強度を高いレベルで得
ると共に、必要以上のエネルギーを母材に投入すること
がなく、安定した機械的性質を備える摩擦圧接製品を得
ると共に、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0037】なお、前述の数3式等に基づいて摩擦圧接
工程中の投入エネルギー量を逐次積算することにより、
フィードバックデータに基づいた更に信頼性の高い摩擦
圧接作業を行うことが可能となる。
【0038】
【発明の効果】本発明はこのように構成したので、以下
のような効果を有する。まず、本発明の請求項1に係る
摩擦圧接方法によると、従来の摩擦圧接方法である、ブ
レーキ式とフライホイール式のいずれにおいても不可能
であった、ワークの当接面の軟化状態に基づいた摩擦圧
接を行うことが可能となる。このことにより、投入エネ
ルギー及び素材の無駄使いを抑え、製品の寸法精度、接
合強度、機械的性質のばらつきを抑えることが可能とな
る。よって、摩擦圧接方法による製品の信頼性を高め、
かつ低コストによる提供が可能となり、摩擦圧接方法の
適用範囲を更に広げることができる。
【0039】また、本発明の請求項2に係る摩擦圧接方
法によると、ワークの相対回転数及び押付速度を一定に
保つための、回転トルク及び押付力の増減に基づいて、
当接面における塑性流動層の形成の有無を判断し、摩擦
圧接を進行する。すなわち、ワークの当接面の軟化状態
に基づいた摩擦圧接を行うことが可能となり、投入エネ
ルギー及び素材の無駄使いを抑え、製品の寸法精度、接
合強度、機械的性質のばらつきを抑えることが可能とな
る。
【0040】さらに、本発明の請求項3に係る摩擦圧接
方法によると、前記回転トルクと前記押付力との比較値
が一定となったタイミングにおいて、塑性流動層が形成
されたと判断し、その後の工程(ワーク同士の相対回転
を停止し、その後ワークの送りを停止する。)を進行す
ることにより、ワークの当接面が軟化していく過程を考
慮に入れた摩擦圧接を行うことができる。よって、投入
エネルギー及び素材の無駄使いを抑え、製品の寸法精
度、接合強度、機械的性質のばらつきを抑えることが可
能となる。
【0041】加えて、本発明の請求項4に係る摩擦圧接
方法によると、ワーク同士の当接面に所望の接合強度を
得るために必要な投入エネルギー量に基づいて、前記所
定の相対回転数及び押付速度を決定するので、確実に所
望の接合強度を得ることが可能となる。よって、摩擦圧
接製品の信頼性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る摩擦圧接方法におい
て、ワーク同士の相対回転数N及び押付速度Vの変化の
様子を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態に適した摩擦圧接装置の該
略図である。
【図3】図2に示す摩擦圧接装置の制御手段を示すブロ
ック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る摩擦圧接方法におい
て、摩擦圧接装置の作動制御の流れを示すブロック図で
ある。
【図5】(a)には、ワーク同士が当接を開始してか
ら、ワークの送りが進行していく過程において、回転数
N=Na 、速度V=Va で一定としたときの回転トルク
T、押付力Fの変動の様子を示す。また、(b)には
(a)に示す回転トルクT、押付力Fの変動値を比較し
たT/F変動値α(t)を示す。
【図6】投入エネルギー量Wを様々に変えて摩擦圧接を
行った製品に、破断試験を実施した際の、破断荷重と破
断位置とを示す図である。
【図7】ワークの押付速度Vと投入エネルギー量Wとの
関係を示す相関図である。
【図8】従来の摩擦圧接方法であるブレーキ式、フライ
ホイール式における回転数、押付力、寄り代の変化を各
々比較した図である。
【符号の説明】 B 塑性流動層の形成点 C ワーク間の相対回転の停止点 Na ワーク間の相対回転数 Va ワーク間の押付速度
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大沼 正史 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自 動車株式会社内 (56)参考文献 特開 昭58−145386(JP,A) 特開 平6−99290(JP,A) 特開 平2−127987(JP,A) 特開 平3−124384(JP,A) 特開 平7−195183(JP,A) 特開 昭57−19192(JP,A) 特開 昭49−107947(JP,A) 特公 昭52−25381(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 20/12

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 同軸上に配置した複数のワーク間に相対
    回転と押付圧力とを付与することにより各ワークの当接
    面を軟化させ、ワーク同士を溶着する摩擦圧接方法であ
    って、摩擦圧接の過程において、ワーク間の相対回転数
    及び押付速度を、前記当接面に塑性流動層が形成される
    まで所定値一定に保ち、その後前記相対回転数を所定の
    減速率で停止させ、該回転停止後に押付を停止する各ス
    テップを有する摩擦圧接方法。
  2. 【請求項2】 前記塑性流動層の形成の有無を、前記相
    対回転数を一定値に保つために増減される回転トルク
    と、前記押付速度を一定値に保つために増減される押付
    力との比較により判断することを特徴とする請求項1記
    載の摩擦圧接方法。
  3. 【請求項3】 前記回転トルクと前記押付力との比較値
    が一定となるタイミングで前記塑性流動層の形成を判断
    する請求項2記載の摩擦圧接方法。
  4. 【請求項4】 前記所定の相対回転数及び押付速度は、
    ワーク同士の当接面に所望の接合強度を得るために必要
    な投入エネルギーに基づいて決定されることを特徴とす
    る請求項1または2記載の摩擦圧接方法。
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