JP3381798B2 - 炭素超微粒子の製造方法 - Google Patents

炭素超微粒子の製造方法

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  • Inorganic Chemistry (AREA)
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は炭素超微粒子の製造方法
に関し、例えば電池電極材料として好適なナノメータ
(nm)オーダーのサイズの炭素超微粒子の製造方法に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に炭素材料は、電池電極材料、炭素
繊維、トナー材料等の工業的利用価値が大きいため、様
々な炭素材料の開発が盛んに行われている。
【0003】グラファイト構造を有する炭素材料として
よく知られている物質には、カーボンブラックがある。
これは石油ピッチ等の材料を酸素を除いた条件下で高温
焼成して得ることができる。このカーボンブラックは、
図9に概略図示するように、グラファイト構造の小片1
が球状に集合することにより球状構造2をなしたもので
ある。
【0004】しかしながら、このようにして得られる球
状構造のカーボンブラックの粒子は、通常、μmオーダ
ーのサイズのものであり、小さい場合でもサブμmの直
径を有するものであるため、工業的に上記したように利
用する上で制約がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、これ
まで知られているどのような球状炭素よりも小さなグラ
ファイト構造を有する炭素超微粒子、特にnmオーダー
であって電池電極材料等として使用するのに好適な炭素
超微粒子を容易に製造できる方法を提供することにあ
る。
【0006】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、対向電
極間で放電を生ぜしめることによってCn (但し、nは
60、70、76、84等より選ばれた整数である。)で表され
る球状炭素類を生成させるに際し、同心球状のグラファ
イト構造からなる炭素超微粒子を含む炭素系物質を前記
対向電極上に付着させる、炭素超微粒子の製造方法に係
るものである。
【0007】
【実施例】以下、本発明を実施例について詳細に説明す
る。
【0008】本発明者は、上記した本発明の目的を達成
せんものと鋭意研究の結果、フラーレンの製造時に上記
の炭素超微粒子が得られることを見出したのである。
【0009】ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第3の
炭素結晶としてのフラーレンは、最近発見された炭素の
みからなる球状炭素であり、12個の5員環と12個又はそ
れ以上の6員環を含んでいる。即ち、60個、70個、76個
あるいは84個等の炭素原子Cが球状に結合してクラスタ
ー(分子集合体)を構成してなる球状炭素Cであって、
それぞれ、C60、C70、C76、C84等で表される球状炭
素化合物である。
【0010】たとえば、C60は、正二十面体の頂点をす
べて切り落として正五角形を出した゛切頭二十面体”と
呼ばれる多面体構造を有し、図8に示すように、この多
面体の60個の頂点をすべて炭素原子Cn で置換したクラ
スターであり、公式サッカーボール型の分子構造を有す
る。同様に、C70、C76、C84もいわばラグビーボール
型の分子構造を有する。
【0011】こうしたフラーレンは、図1に概略的に例
示した真空装置10によって製造することができる。即
ち、水冷された真空チャンバー11内に一対の高純度グラ
ファイト(又は炭素)製の対向電極12、13を 0.2〜1.5c
m の間隔を置いて配置し、不活性ガスの存在下で両電極
間に直流(又は交流)電圧14を印加することによって、
対向電極12−13間にアーク放電を生じさせる。
【0012】使用可能な不活性ガスとしては、ヘリウ
ム、アルゴン、キセノン等が挙げられ、アーク放電に際
する不活性ガスの圧力は10〜500Torr であってよく、50
〜200Torr が望ましい。また、電極12、13の一方12は負
極に、他方13は正極に接続してアーク放電を行うが、電
源14は直流であっても交流であってもよい。
【0013】このような条件下で放電を行うと、電極、
特に正極13の構成材料である炭素が蒸発してプラズマ化
され、真空チャンバー11の内壁面上にスス状に付着す
る。この付着物15は、上記したフラーレンを10%程度含
有する生成物であって、このフラーレンは例えばC60
約85%含有している。
【0014】そして、このフラーレンの生成と同時に、
負極12上には特定の炭素付加体16が、負極12の先端から
2〜3cmの長さに亘って負極12の約20%の体積で析出
(付着)する。これまで、この付着物16は、電極12、13
の極性を逆にして飛散せしめ、フラーレンとして真空チ
ャンバーの内壁面上に付着させるようにしていた。
【0015】本発明者は、電極12上の付着物16を飛散さ
せるのではなく、詳細に分析を行ったところ、析出した
付着物16は、銀色を呈する比較的堅い炭素付加物からな
り、顕微鏡観察によってこの付加物の中にnmオーダー
の炭素微粒子を観測したのである。
【0016】即ち、この炭素付加体中には、図6に示す
如く、同心球状にグラファイト構造21が重なった同心球
構造22を有するnmオーダーのサイズの炭素超微粒子が
存在することを確認し、その構造を明らかにしたもので
ある。そして、コア部23は、上記したフラーレンからな
っていることも分かった。
【0017】この炭素超微粒子は、同心球構造の超微小
球体であり、カーボンブラック等の小球体とは全く異な
る構造を有している。そして、サイズも、カーボンブラ
ックがμmオーダーであるのに対し、nmオーダー(特
に数nm〜50nm)であってこれまで知られている炭素球よ
りもはるかに小さいグラファィト構造を有する炭素超微
粒子であることを確認した。
【0018】上記において、炭素またはグラファィト電
極12、13のサイズは電源の容量に依存する。通常、 100
アンペア程度の直流をかける場合には、特に正極は直径
数mm〜50mmとするのがよく、数mm〜10mm程度が適切であ
る。この範囲を超えると炭素付加物の成長が遅く、逆に
小さすぎる場合には炭素付加物が析出せずに飛び散る傾
向がある。
【0019】また、2本の炭素またはグラファィト電極
12、13は通電下で接触させ、接触部位の抵抗加熱で充分
に加熱したのち、数mm〜15mm程度のギャップでアーク放
電を行うのがよい。
【0020】以上のような方法で得られる炭素超微粒子
は、その直径がnmオーダーであり、これまで知られて
いる球状グラファィトよりもはるかに小さく、新規な超
微粒子である。そして、上記の炭素付加体は例えば市販
の超音波振動装置にかけ、炭素超微粒子をほぐして精
製、粒度選別(ふるい分け)を行ってよい。得られた超
微粒子は、電池電極材料やブラックトナー材料、あるい
は滑剤としての応用が可能であると考えられる。また、
炭素に限らず、一般に超微粒子はその表面ポテンシャル
が大きいため、上記の炭素超微粒子は触媒活性も期待さ
れる。
【0021】次に、上記した製造方法の具体例を説明す
る。まず、原材料のグラファイトとして、99.99 %の高
純度のものを用意し、これを加圧、加熱処理した後、外
径10mm、長さ 100mmに加工した。水冷した真空チャンバ
ー中で、それぞれのグラファイト棒を高電圧導入端子構
造の正極及び負極と接続した。それぞれの電極は空冷
し、負極はギャップ調整のためにスライダーで移動可能
な構造とした。
【0022】チャンバー内にグラファイト電極を設置し
た後、ロータリーポンプで脱気した。このチャンバー内
に 500Torrまでヘリウムガスを導入し、再度脱気する操
作を繰り返し、チャンバー内の酸素分圧を充分に低くし
た。最後に、ヘリウムを 100Torrとしてチャンバーをニ
ードルバルブの位置で閉じた。
【0023】直流電源には通常のアーク溶接用電源を用
い、電流値は 100Aとした。抵抗加熱で加熱した後、約
10mmのギャップでアーク放電を行った。約2時間放電を
行い、グラファイト負極上に析出した銀白色の炭素を取
り出した。
【0024】この炭素析出物の一部をベンゼン及び二硫
化炭素溶液中に浸し、フラーレン類の存在を観察した
が、液体クロマトグラフィーで 330nmの波長で観測した
にも拘わらず、C60やC70等のフラーレンは存在しない
ことが確認された。また、それ以上の大きなフラーレ
ン、及び、いかなる有機溶媒にも可溶な化学種の存在も
確認されなかった。
【0025】この炭素析出物は様々な外見を示し、走査
型電子顕微鏡で観測すると、図2、図3及び図4、図5
のような半球状の物質である。
【0026】図2と図3は、アーク放電の位置よりやや
離れた部位(図1のA位置)のグラファイト電極上で得
られたもので、縮尺は図中に示した通りである。図2で
は、100〜500 μm程度の半球状炭素付加物の成長が認
められるが、この個々の半球状炭素付加物の表面はさら
に図3に示すような1μm程度の半球状炭素である。更
に、図3のμmオーダーの球状炭素はより小さなnmオ
ーダーの球状炭素からなっていることがわかる。
【0027】一方、図4に示したのは、アーク放電部位
に極めて近い部位(図1のB位置)での析出物の走査型
電子顕微鏡写真である。やはりmmに近いサイズの半球
状の析出物であり、それらはさらに小さな 100μm程度
の半球状析出物からなる。この表面をさらに拡大して観
測したものが図5であり、サブμmオーダーの小球体が
存在することがわかる。
【0028】更に詳細にこの炭素付加体の構造を調べる
ために、透過型電子顕微鏡で観測した。図6が炭素付加
体の透過型電子顕微鏡写真であり、nmオーダーのサイ
ズの極めて微小な球状炭素22が1次構造として存在して
いる。これらはアモルファスな炭素析出物によってあた
かも糊で固められたような状態で存在し、μmオーダー
の半球状炭素析出物24を2次構造として形成しているこ
とがわかる。
【0029】この透過型電子顕微鏡で観測された超小球
体22が1次構造とすると、μmオーダーの2次構造(こ
れは図5の小さい粒の1個に相当)、さらに大きいサイ
ズの半球体である3次構造まで、殆ど同じく球状または
半球状の構造であり、極めて希な構造であることがわか
る。超小球体22は、グラファイト構造21が平均30〜40
層、同心球状に数Åの層間距離を置いて重なり合ったも
のであり、そのコア23は10Å程度のサイズとなってい
る。
【0030】図6に示した炭素超微粒子は、そのサイズ
が5nmから30nm程度であり、アモルファス部分に比べて
電子の透過が低いことから、より結晶構造の密な部分で
あることが示唆される。
【0031】この炭素超微粒子の電子線の回折像では、
グラファイトの(002)に相当する線が最も強く、こ
の回折像で暗視野像を観測すると、炭素小球体のみが明
るくなり、この構造がグラファイト構造であることがわ
かる。また、電子線をよく透過する部位はこの暗視野像
から、グラファイト構造を有しないアモルファスな構造
であることが示唆される。
【0032】即ち、図2、図3、図4、図5のような構
造は、図6に示すように同心球グラファイト小球体とバ
インダーとしてのアモルファス部位からなっている。
【0033】この小球体を含む炭素付加物のCuKα線
によるX線回折の測定を行った。結果は図7に示す。こ
の回折線のパターンは、主として炭素超微粒子によると
考えられ、グラファイトの(002)線に相当する線が
最も強く観測された。このことは上記の透過型電子顕微
鏡の観察結果に対応している。なお、通常の結晶グラフ
ァイトに比較して、上記の炭素超微粒子のグラファイト
構造の(002)ピークは半値幅位置で5〜6倍も大き
い。
【0034】ここで、この小球体の微視的構造を明らか
にする上で最も有用な知見は(100)線から得られ
る。即ち、この線が図7に示すように著しい非対称性を
示すことは、得られた炭素超微粒子のグラファイト構造
が、結晶グラファイトのようなABAB構造ではなく、
ターボスタチックな乱層構造であることを示している。
同様な非対称性は(110)線についても観測された。
こうした非対称性は、グラファイトの格子構造が曲面状
にゆがんでいて球状をなしていることを示唆するもので
ある。
【0035】以上のことから、グラファイト又は炭素電
極のアーク放電に伴い、負極上に析出させた銀白色の炭
素付加体は、1次構造から3次構造まで等しく球または
半球状の構造を有すること、及び、この炭素析出物の最
小単位はnmオーダーの炭素超微粒子であり、この炭素
超微粒子は同心球的で乱層的に積層したグラファイト構
造を有することが明らかになった。
【0036】以上、本発明の実施例を説明したが、上述
の実施例は本発明の技術的思想に基いて更に変形が可能
である。
【0037】例えば、上述のフラーレンの製造条件、従
って炭素超微粒子の製造条件(電極サイズ、放電条件、
使用ガス種、圧力、更には真空装置の構造等)は上述し
たものに限らず、種々変更してよい。
【0038】
【発明の作用効果】本発明は上述した如く、対向電極間
で放電を生ぜしめることによってCn (但し、nは60、
70、76、84等より選ばれた整数である。)で表される球
状炭素類を生成させるに際し、同心球状のグラファイト
構造からなる炭素超微粒子を含む炭素系物質を前記対向
電極上に付着させるので、上記の球状炭素類の生成時に
得られる炭素系付着物中において目的とする炭素超微粒
子が生成しており、極めて容易に球状炭素超微粒子が得
られる。
【0039】このような球状炭素超微粒子はnmオーダ
ーのサイズを有しているため、様々な分野への応用が期
待され、滑剤、電極材料、ブラックトナー等への応用が
可能であり、また、表面ポテンシャルが大きいため、強
い触媒活性能が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例による方法を実施するための装
置の概略図である。
【図2】同方法により電極上に析出した炭素析出物の走
査型電子顕微鏡写真図である。
【図3】同走査型電子顕微鏡写真を更に拡大した図であ
る。
【図4】同方法により電極の他の箇所に析出した炭素析
出物の走査型電子顕微鏡写真図である。
【図5】同走査型電子顕微鏡写真を更に拡大した図であ
る。
【図6】炭素超微粒子の構造を説明する概略図を含む同
炭素析出物の透過型電子顕微鏡写真図である。
【図7】同炭素析出物のX線回折スペクトル図である。
【図8】フラーレン(C60)の分子構造を示す模式図で
ある。
【図9】カーボンブラックの構造を説明する概略図であ
る。
【符号の説明】
1・・・グラファイト構造の小片 2・・・球状構造(カーボンブラック) 12、13・・・対向電極 14・・・電源 15・・・付着物(フラーレン含有) 16・・・付着物(炭素超微粒子含有) 21・・・グラファイト構造 22・・・同心球構造(1次構造) 23・・・コア部 24・・・2次構造
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 井本 浩 東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソ ニー株式会社 内 (56)参考文献 特開 平3−242311(JP,A) 特開 平5−208805(JP,A) S.IIJIMA,The 60−Ca rbon Cluster Has B een Revealed,J.Phy s.Chem.,1987年,vol.91, p.3466−3467 D.UGARTE,Curling and closire of gra phitic networks un der electron−beam irradiation,Natur e,1992年,vol.359,p.707− 709 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C01B 31/02 INSPEC(DIALOG) JICSTファイル(JOIS)

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 対向電極間で放電を生ぜしめることによ
    ってCn(但し、nは60、70、76、84等より選
    ばれた整数である。)で表される球状炭素類を生成させ
    るに際し、同心球状のグラファイト構造からなる炭素超
    微粒子を含む炭素系物質を前記対向電極上に付着させ
    る、炭素超微粒子の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記対向電極を炭素で構成する、請求項
    1に記載した炭素超微粒子の製造方法。
  3. 【請求項3】 前記対向電極をグラファイトで構成す
    る、請求項1に記載した炭素超微粒子の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記対向電極のうち、正極の直径を数m
    m〜50mmとする、請求項1に記載した炭素超微粒子
    の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記正極の直径を数mm〜10mmとす
    る、請求項4に記載した炭素超微粒子の製造方法。
  6. 【請求項6】 前記対向電極は0.2〜1.5cmの間
    隔を置いて配置する、請求項1に記載した炭素超微粒子
    の製造方法。
  7. 【請求項7】 前記放電は、不活性ガスの存在下で前記
    対向電極間に直流又は交流電圧を印加することによって
    生じさせる、請求項1に記載した炭素超微粒子の製造方
    法。
  8. 【請求項8】 前記不活性ガスの圧力を10〜500T
    orrとする、請求項7に記載した炭素超微粒子の製造
    方法。
  9. 【請求項9】 前記不活性ガスの圧力を50〜200T
    orrとする、請求項8に記載した炭素超微粒子の製造
    方法。
  10. 【請求項10】 前記対向電極を接触した状態で通電
    し、接触部位の抵抗加熱で充分に加熱し、しかる後に前
    記対向電極を離間させ、放電を行う、請求項1に記載し
    た炭素超微粒子の製造方法。
  11. 【請求項11】 前記放電は、真空チャンバーの冷却下
    で行う、請求項1に記載した炭素超微粒子の製造方法。
  12. 【請求項12】 前記放電は、前記対向電極を空冷して
    行う、請求項1に記載した炭素超微粒子の製造方法。
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