JP3358735B1 - ナノコンポジット磁石用急冷合金および磁粉 - Google Patents

ナノコンポジット磁石用急冷合金および磁粉

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JP3358735B1 JP2002056143A JP2002056143A JP3358735B1 JP 3358735 B1 JP3358735 B1 JP 3358735B1 JP 2002056143 A JP2002056143 A JP 2002056143A JP 2002056143 A JP2002056143 A JP 2002056143A JP 3358735 B1 JP3358735 B1 JP 3358735B1
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Abstract

【要約】 【課題】 希土類元素が少ないながらも高い保磁力およ
び磁化を示し、減磁曲線の角形性にも優れた永久磁石を
量産する。 【解決手段】 組成式が(Fe1-mm
100-x-y-z-n(B1-ppxyTiznで表現される合
金溶湯を用意する。TはCoおよびNiからなる群から
選択された1種以上の元素、RはY(イットリウム)お
よび希土類金属からなる群から選択された1種以上の元
素、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、Cu、Zn、
Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、P
t、Au、およびPbからなる群から選択された1種以
上の元素であり、10<x≦25原子%、7≦y<10
原子%、0.5≦z≦12原子%、0≦m≦0.5、0
≦n≦10原子%、および0≦p≦0.25を満足する

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種モータやアク
チュエータに好適に使用される永久磁石の製造方法に関
し、特に複数の強磁性相を有する鉄基希土類合金磁石お
よびその製造方法に関している。
【0002】
【従来の技術】近年、家電用機器、OA機器、および電
装品等において、より一層の高性能化と小型軽量化が要
求されている。そのため、これらの機器に使用される永
久磁石については、磁気回路全体としての性能対重量比
を最大にすることが求められており、例えば残留磁束密
度Brが0.5T(テスラ)以上の永久磁石を用いるこ
とが要求されている。しかし、従来の比較的安価なハー
ドフェライト磁石によっては、残留磁束密度Brを0.
5T以上にすることはできない。
【0003】現在、0.5T以上の高い残留磁束密度B
rを有する永久磁石としては、粉末冶金法によって作製
されるSm−Co系磁石が知られている。Sm−Co系
磁石以外では、粉末冶金法によって作製されるNd−F
e−B系焼結磁石や、液体急冷法によって作製されるN
d−Fe−B系急冷磁石が高い残留磁束密度Brを発揮
することができる。前者のNd−Fe−B系焼結磁石
は、例えば特開昭59−46008号公報に開示されて
おり、後者のNd−Fe−B系急冷磁石は例えば特開昭
60−9852号公報に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Sm−
Co系磁石は、原料となるSmおよびCoのいずれもが
高価であるため、磁石価格が高いという欠点を有してい
る。
【0005】Nd−Fe−B系磁石の場合は、安価なF
eを主成分として(全体の60重量%〜70重量%程
度)含むため、Sm−Co系磁石に比べて安価ではある
が、その製造工程に要する費用が高いという問題があ
る。製造工程費用が高い理由のひとつは、含有量が全体
の10原子%〜15原子%程度を占めるNdの分離精製
や還元反応に大規模な設備と多大な工程が必要になるこ
とである。また、粉末冶金法による場合は、どうしても
製造工程数が多くなる。
【0006】これに対し、液体急冷法によって製造され
るNd−Fe−B系急冷磁石は、溶解工程→液体冷却工
程→熱処理工程といった比較的簡単な工程で得られるた
め、粉末冶金法によるNd−Fe−B系磁石に比べて工
程費用が安いという利点がある。しかし、液体急冷法に
よる場合、バルク状の永久磁石を得るには、急冷合金か
ら作製した磁石粉末を樹脂と混ぜ、ボンド磁石を形成す
る必要があるので、成形されたボンド磁石に占める磁石
粉末の充填率(体積比率)は高々80%程度である。ま
た、液体急冷法によって作製した急冷合金は、磁気的に
等方性である。
【0007】以上の理由から、液体急冷法を用いて製造
したNd−Fe−B系急冷磁石は、粉末冶金法によって
製造した異方性のNd−Fe−B系焼結磁石に比べてB
rが低いという問題を有している。
【0008】Nd−Fe−B系急冷磁石の特性を改善す
る手法としては、特開平1−7502号公報に記載され
ているように、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、および
Wからなる群から選択された少なくとも一種の元素と、
Ti、V、およびCrからなる群から選択された少なく
とも一種の元素とを複合的に添加することが有効であ
る。このような元素の添加によって、保磁力HcJと耐食
性とが向上するが、残留磁束密度Brを改善する有効な
方法は、ボンド磁石の密度を向上すること以外に知られ
ていない。また、Nd−Fe−B系急冷磁石中に6原子
%以上の希土類元素が含まれる場合、多くの先行技術に
よれば、溶湯の急冷速度を高めるため、ノズルを介して
冷却ロールに溶湯を噴射するメルトスピニング法が使用
されている。
【0009】Nd−Fe−B系急冷磁石の場合、希土類
元素の濃度が比較的に低い組成、すなわち、Nd3.8
77.219(原子%)の近傍組成を持ち、Fe3B型化
合物を主相とする磁石材料が提案されている(R. Coeho
orn等、J. de Phys, C8,1998,669〜670頁)。この永久
磁石材料は、液体急冷法によって作製したアモルファス
合金に対して結晶化熱処理を施すことにより、軟磁性で
あるFe3B相および硬磁性であるNd2Fe14B相が混
在する微細結晶集合体から形成された準安定構造を有し
ており、「ナノコンポジット磁石」と称されている。こ
のようなナノコンポジット磁石については、1T以上の
高い残留磁束密度Brを有することが報告されている
が、その保磁力HcJは160kA/m〜240kA/m
と比較的低い。そのため、この永久磁石材料の使用は、
磁石の動作点が1以上になる用途に限られている。
【0010】また、ナノコンポジット磁石の原料合金に
種々の金属元素を添加し、磁気特性を向上させる試みが
なされているが(特開平3-261104号公報、特許第272750
5号公報、特許第2727506号公報、国際出願の国際公開公
報WO003/03403、W.C.Chan, et.al. "THE EFFECTS OF
REFRACTORY METALS ON THE MAGNETIC PROPERTIES OFα-
Fe/R2Fe14B-TYPE NANOCOMPOSITES", IEEE, Trans. Mag
n. No. 5, INTERMAG.99, Kyongiu, Korea pp.3265-326
7, 1999)、必ずしも充分な「コスト当りの特性値」は
得られていない。これは、ナノコンポジット磁石におい
て実用に耐えられる大きさの保磁力が得られていないた
め、実使用において充分な磁気特性を発現できないため
である。
【0011】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもの
であり、その目的とするところは、残留磁束密度Br
0.8Tを維持しながら、実用に耐えられる高い保磁力
(例えばHcJ≧600kA/m)を満足する優れた磁気
特性を持つ鉄基合金磁石を安価に製造し得る永久磁石の
製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明によるナノコンポ
ジット磁石急冷合金は、組成式が(Fe1-mm100-
x-y-z-nxyTizn(TはCoおよびNiからなる
群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCから
なる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属
元素、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、Cu、G
a、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Pt、Pb、
AuおよびAgからなる群から選択された一種以上の元
素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、
m、およびnが、それぞれ、10<x≦20原子%、6
≦y<10原子%、0.5≦z≦6原子%、0≦m≦
0.5、および0≦n≦5原子%を満足する急冷合金で
あって、厚さが50μm以上200μm以下の範囲内に
あり、厚さ方向と直交する2つの端面に結晶組織が形成
されていることを特徴とする。
【0013】好ましい実施形態において、前記結晶組織
は、平均粒径が1nm以上50nm以下の強磁性硼化物
相と、平均粒径20nm以上200nm以下のR2Fe
14B型化合物相とを含んでいる。
【0014】好ましい実施形態では、前記両端面におけ
る結晶組織に挟まれた領域に非晶質部分が存在する。
【0015】好ましい実施形態において、厚さは80μ
m以上である。
【0016】本発明による急冷合金は、組成式が(Fe
1-mm100-x-y-z-nxyTiz n(TはCoおよび
Niからなる群から選択された1種以上の元素、QはB
およびCからなる群から選択された1種以上の元素、R
は希土類金属元素、Mは、Al、Si、V、Cr、M
n、Cu、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、
Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された
一種以上の元素)で表現され、組成比率x、y、z、
m、およびnが、それぞれ、10<x≦20原子%、6
≦y<10原子%、0.5≦z≦6原子%、0≦m≦
0.5、および0≦n≦5原子%、を満足する急冷合金
であって、厚さが60μm以上150μm以下の範囲内
にあり、リコイル透磁率が1.1以上2以下である。
【0017】本発明による磁粉は、組成式が(Fe1-m
m100-x-y-z-nxyTizn(TはCoおよびNi
からなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよ
びCからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希
土類金属元素、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、C
u、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Pt、
Pb、AuおよびAgからなる群から選択された一種以
上の元素)で表現され、組成比率x、y、z、m、およ
びnが、それぞれ、10<x≦20原子%、6≦y<1
0原子%、0.5≦z≦6原子%、0≦m≦0.5、お
よび0≦n≦5原子%を満足する磁粉であって、平均粒
径が60μm以上110μm以下、長軸サイズに対する
短軸サイズの比率が0.3以上1以下、保磁力HcJが6
00kA/m以上である。
【0018】本発明による鉄基希土類磁石原料合金の製
造方法は、組成式が(Fe1-mm 100-x-y-z-n(B1-p
pxyTizn(TはCoおよびNiからなる群か
ら選択された1種以上の元素、RはY(イットリウム)
および希土類金属からなる群から選択された1種以上の
元素、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、Cu、Z
n、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、
Pt、Au、およびPbからなる群から選択された1種
以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、
y、z、m、n、およびpが、それぞれ、10<x≦2
5原子%、7≦y<10原子%、0.5≦z≦12原子
%、0≦m≦0.5、0≦n≦10原子%、および0≦
p≦0.25を満足する鉄基希土類原料合金の溶湯を用
意する工程と、前記合金の溶湯を、案内面が水平方向に
対して1〜80°の角度を形成する案内手段上に供給
し、前記冷却ロールとの接触領域に前記合金溶湯を移動
させる工程と、前記合金溶湯を前記冷却ロールによって
急冷し、R2Fe14B型化合物相を含む急冷合金を作製
する冷却工程とを包含する。
【0019】好ましい実施形態において、前記冷却工程
は、前記案内手段により、前記合金溶湯の流れの幅を前
記冷却ロールの軸線方向に沿って所定の大きさに調節す
る工程を包含する。
【0020】好ましい実施形態において、前記急冷合金
の作製は減圧雰囲気ガス中で行う。
【0021】好ましい実施形態において、前記雰囲気ガ
スの圧力は、圧力0.13kPa以上100kPa以下
に調節されている。
【0022】好ましい実施形態では、前記冷却工程にお
いて、前記R2Fe14B型化合物相の存在比率を前記急
冷合金の60体積%以上にする。
【0023】好ましい実施形態では、前記冷却工程にお
いて、前記冷却ロール表面の回転周速度を5m/秒以上
26m/秒以下の範囲に調節し、前記合金溶湯の単位幅
あたりの供給速度を3kg/分/cm以下とする。
【0024】好ましい実施形態では、少なくともR2
14B型化合物相、α−Fe相、および強磁性鉄基硼化
物相を含む3種類以上の結晶相を含有する組織を形成
し、前記R2Fe14B型化合物相の平均結晶粒径を20
nm以上200nm以下、前記α−Fe相および硼化物
相の平均結晶粒径を1nm以上50nm以下とする工程
を包含する。
【0025】好ましい実施形態において、強磁性鉄基硼
化物相がR2Fe14B型化合物相の粒界または亜粒界に
存在している。
【0026】好ましい実施形態では、前記急冷合金に対
して結晶化熱処理を行なうことにより、前記組織を形成
する。
【0027】好ましい実施形態では、前記結晶化熱処理
は前記急冷合金を550℃以上850℃以下の温度で3
0秒以上保持することを含む。
【0028】好ましい実施形態において、前記結晶化熱
処理の前に前記急冷合金を粉砕する工程を含む。
【0029】好ましい実施形態において、前記鉄基硼化
物は、Fe3Bおよび/またはFe2 36を含んでいる。
【0030】好ましい実施形態において、前記元素Mは
Nbを必ず含む。
【0031】好ましい実施形態では、Nbを実質的に含
まないことを除けば実質的に同一の組成を有する鉄基希
土類磁石原料合金に比較して溶湯の液相線温度が10℃
以上低い。
【0032】好ましい実施形態において、Nbの含有量
は、原子比率で全体の0.1%以上3%以下である。
【0033】好ましい実施形態において、前記組成式中
のCの組成比率pが0.01≦p≦0.25の関係を満
足している。
【0034】好ましい実施形態では、前記案内手段に供
給される前の時点における前記合金溶湯の動粘度を5×
10-6(m2/秒)以下とする。
【0035】好ましい実施形態では、前記合金溶湯の凝
固過程で最初に析出する化合物相の凝固温度が、前記組
成比率pがゼロの場合に比べて、5℃以上低下している
ことを特徴とする。
【0036】好ましい実施形態では、前記冷却工程にお
いて、前記合金溶湯の凝固過程で最初に析出する化合物
相は硼化チタン系化合物である。
【0037】好ましい実施形態において、前記冷却工程
は、表面の中心線粗さRaが20μm以下の冷却ロール
を10m/秒以上の表面周速度で回転させて行う。
【0038】好ましい実施形態では、前記冷却工程にお
いて、前記冷却ロールによって急冷される前記合金溶湯
の1つの流れあたりの溶湯急冷処理速度を0.7kg/
分以上4kg/分未満の範囲内に調節する。
【0039】好ましい実施形態では、前記冷却工程にお
いて、前記案内手段により、前記合金溶湯の1つの流れ
の幅を5mm以上20mm未満に調節する。
【0040】好ましい実施形態では、前記合金溶湯の動
粘度を5×10-62/秒以下に調節する。
【0041】好ましい実施形態では、前記合金溶湯の動
粘度が5×10-62/秒を超えないように前記案内手
段の表面温度を300℃以上に保持する。
【0042】好ましい実施形態では、急冷合金の厚さを
50μm以上200μm以下にする。
【0043】好ましい実施形態において、前記案内手段
はAl23を80体積%以上含む材料から構成されてい
る。
【0044】好ましい実施形態において、前記冷却ロー
ルは50W/m/K以上の熱伝導率を有する材料から形
成されている基材を用いている。
【0045】好ましい実施形態において、前記冷却ロー
ルは炭素鋼、タングステン、鉄、銅、モリブデン、ベリ
リウム、または銅系の合金から形成された基材を有して
いる。
【0046】好ましい実施形態において、前記冷却ロー
ルの基材の表面には、クロム、ニッケル、または、それ
らを組み合わせためっきが施されていることを特徴とす
る。
【0047】本発明による鉄基永久磁石の製造方法は、
上記の製造方法によって作製された急冷合金を用意する
工程と、前記急冷合金に対する熱処理を行う工程とを包
含する。
【0048】本発明によるボンド磁石の製造方法は、上
記いずれかの製造方法によって作製された合金の粉末の
粉末を用意する工程と、前記粉末を用いてボンド磁石を
作製する工程とを包含する。
【0049】
【発明の実施の形態】本発明による永久磁石の製造方法
は、ストリップキャスト法により、Fe、B、R(Yを
含む1種以上の希土類金属元素)、およびTiを含有す
る鉄基合金溶湯を減圧雰囲気中で冷却し、それによって
微細なR2Fe14B型化合物相を含む急冷合金を作製す
る。そして、その後に必要に応じて急冷合金に対する熱
処理を行ない、急冷合金中に残存していた非晶質を結晶
化させる。
【0050】ストリップキャスト法は、冷却ロールの表
面に合金溶湯を接触させ、合金溶湯を冷却することによ
り、急冷合金の薄帯を作製する方法である。本発明で
は、従来のストリップキャスト法に比べて高速で回転す
る冷却ロールによって合金溶湯の急冷・凝固を行う。ス
トリップキャスト法は、ノズルオリフィスを用いて合金
溶湯を冷却ロールの表面に噴射するメルトスピニング法
に比べて、冷却速度は低いが、幅が広くて比較的厚い急
冷合金薄帯を作製できるため、量産性に優れている。
【0051】本発明によれば、急冷合金中に軟磁性のα
−Feをほとんど析出させず、微細なR2Fe14B型化
合物相を有する結晶組織、あるいは、微細なR2Fe14
B型化合物相を有する組織とアモルファス相が混在した
組織が作製される。これにより、R2Fe14B型化合物
相の粗大化を抑制し、熱処理後であっても、その平均粒
径を20nm以上150nm以下とし、かつ、α−Fe
相などの軟磁性相が微細に分散した高性能の複合型永久
磁石を得ることができる。また、微細な軟磁性相は、R
2Fe14B型化合物相の粒界または亜粒界に存在し、構
成相の間で交換相互作用が強められる。
【0052】従来、本発明が対象とするような組成に類
似する組成(すなわち、本発明の組成からTiを除いた
組成)を有する合金溶湯を冷却してR2Fe14B型化合
物相を多く含む急冷合金を作製しようとすると、α−F
eが多く析出した合金組織が得られる。このため、その
後の結晶化熱処理でα−Feが粗大化してしまうという
問題があった。α−Feなどの軟磁性相が粗大化する
と、磁石特性が大きく劣化し、到底実用に耐える永久磁
石は得られない。
【0053】特に本発明で用いる原料合金組成のように
ホウ素の含有量が比較的多く、希土類元素Rが比較的少
ない(10原子%以下)場合、従来技術によれば、合金
溶湯の冷却速度を充分に低下させてR2Fe14B型化合
物相の体積比率が60%を超えるような急冷凝固合金を
作製しようとすると、R2Fe14B型化合物相以外にα
−Feまたはその前駆体が多く析出してしまい、その後
の結晶化熱処理により、α−Fe相の粗大化が進行し、
磁石特性が大きく劣化してしまった。
【0054】以上のことから、従来、ナノコンポジット
磁石の保磁力を増大させるには、メルトスピニング法を
用いて合金溶湯の冷却速度を高め、急冷凝固合金の大部
分がアモルファス相によって占められるような状態にし
た後、そのアモルファス相から結晶化熱処理により均一
に微細化された組織を形成することが好ましいとの常識
が存在していた。これは、微細な結晶相が分散した合金
組織を持つナノコンポジット磁石を得るには、制御しや
すい熱処理工程でアモルファス相から結晶化を行なうべ
きと考えられていたからである。
【0055】このため、アモルファス生成能に優れたL
aを原料合金に添加し、その原料合金の溶湯を急冷する
ことによってアモルファス相を主相とする急冷凝固合金
を作製した後、結晶化熱処理でNd2Fe14B相および
α−Fe相の両方を析出・成長させ、いずれの相も数十
nm程度の微細なものとする技術が報告されている(W.
C.Chan, et.al. "THE EFFECTS OF REFRACTORY METALS O
N THE MAGNETIC PROPERTIES OF α−Fe/R2Fe14B-TYPE
NANOCOMPOSITES", IEEE, Trans. Magn. No. 5, INTERM
AG. 99, Kyongiu, Korea pp.3265-3267, 1999)。な
お、この論文は、Tiなどの高融点金属元素の微量添加
(2at%)が磁石特性を向上させることと、希土類元
素であるNdの組成比率を9.5at%よりも11.0
at%に増加させることがNd2Fe14B相およびα−
Fe相の両方を微細化する上で好ましいことを教示して
いる。上記高融点金属の添加は、硼化物(R2Fe233
やFe3B)の生成を抑制し、Nd2Fe14B相およびα
−Fe相の2相のみからなる磁石を作製するために行な
われている。
【0056】上記のナノコンポジット磁石用の急冷合金
は、ノズルを用いて合金溶湯を高速で回転する冷却ロー
ルの表面に噴射するメルトスピニング法で作製される。
メルトスピニング法による場合、極めて速い冷却速度が
得られるため、非晶質の急冷合金を作製するのに適して
いる。
【0057】これに対し、本発明では、ストリップキャ
スト法を用いて、従来のメルトスピニング法における冷
却速度よりも遅い速度で合金溶湯を冷却するが、添加元
素Tiの働きにより、急冷凝固工程でγ−Fe(後でα
−Fe相に変化する)の析出を抑え、更には、結晶化熱
処理工程におけるα−Fe相などの軟磁性相の粗大化を
抑制している。その結果、微細なR2Fe14B型化合物
相が均一に分散した急冷合金を作製することができる。
【0058】本発明によれば、希土類元素量が比較的少
ない(10at%未満)原料合金を用いながら、磁化
(残留磁束密度)および保磁力が高く、減磁曲線の角形
性にも優れた永久磁石を量産レベルで製造することがで
きる。
【0059】本発明による保磁力の増加は、Nd2Fe
14B相を冷却工程で優先的に析出・成長させ、それによ
ってNd2Fe14B相の体積比率を増加させながら、し
かし軟磁性相の粗大化を抑制したことによって実現す
る。磁化の増加は、Tiの働きにより、急冷凝固合金中
に存在するホウ素リッチな非磁性アモルファス相から強
磁性鉄基硼化物などの硼化物相を生成し、結晶化熱処理
後に残存する非磁性アモルファス相の体積比率を減少さ
せたために得られたものと考えられる。
【0060】以下、本発明の鉄基希土類合金磁石をより
詳細に説明する。
【0061】まず、組成式が(Fe1-mm
100-x-y-z-n(B1-ppxyTiznで表現される鉄
基希土類原料合金の溶湯を用意する。ここで、TはCo
およびNiからなる群から選択された1種以上の元素、
RはY(イットリウム)および希土類金属からなる群か
ら選択された1種以上の元素、Mは、Al、Si、V、
Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、A
g、Hf、Ta、W、Pt、Au、およびPbからなる
群から選択された1種以上の元素である。また、組成比
率(原子比率)x、y、z、m、n、およびpは、それ
ぞれ、以下の関係式を満足する。
【0062】10<x≦25原子% 7≦y<10原子% 0.5≦z≦12原子% 0≦m≦0.5 0≦n≦10原子%および 0≦p≦0.25
【0063】次に、ストリップキャスト法により、上記
の合金溶湯を減圧雰囲気ガス中にて急冷し、微細な(例
えば平均粒径が150nm以下の)R2Fe14B型化合
物相を体積比率で60%以上含む急冷合金を作製する冷
却工程を行なう。
【0064】その後、必要に応じて、急冷合金に対する
結晶化熱処理を行ない、R2Fe14B型化合物相および
強磁性の鉄基硼化物相を含むナノコンポジット組織を形
成する。軟磁性相としては、鉄基硼化物の他に、微細な
α−Fe相を含んでいても良い。このような組織中、R
2Fe14B型化合物相の平均結晶粒径は20nm以上2
00nm以下、硼化物相およびα−Fe相の平均結晶粒
径は1nm以上50nm以下となるように合金溶湯の冷
却条件および結晶化熱処理条件が調節される。
【0065】本発明によれば、添加したTiの働きによ
り、合金溶湯の冷却工程でR2Fe1 4B型化合物相を多
く優先的に生成することができる。
【0066】最終的な磁石におけるR2Fe14B型化合
物相の平均結晶粒径は、鉄基硼化物相やα−Fe相の平
均結晶粒径よりも大きい。硬磁性相であるR2Fe14
型化合物相の平均サイズが比較的大きく、α−Fe相な
どの軟磁性相の平均サイズが充分に小さいとき、各構成
相が交換相互作用によって効果的に結合し、軟磁性相の
磁化方向が硬磁性相によって拘束されるので、合金全体
としては優れた減磁曲線の角形性を示すことが可能にな
る。
【0067】本発明では、合金組成、合金の冷却速度、
および熱処理温度などの製造条件を調節することによ
り、R2Fe14B型化合物相の飽和磁化と同等または、
それよりも高い飽和磁化を有する鉄基硼化物やα−Fe
を生成することが可能になる。生成される鉄基硼化物
は、例えば、Fe3B(飽和磁化1.5T)やFe236
(飽和磁化1.6T)である。ここで、R2Fe14Bの
飽和磁化は、RがNdの場合に約1.6Tであり、α−
Feの飽和磁化は2.1Tである。
【0068】本発明の製造方法による場合、上記のよう
な強磁性の鉄基硼化物が生成されやすい理由は、R2
14B型化合物相が大半を占める凝固合金を作製する
と、急冷合金中に存在するアモルファス相がどうしても
ホウ素を過剰に含むこととなるため、この余分なホウ素
が結晶化熱処理で他の元素と結合して析出・成長しやす
くなるためであると考えられる。しかし、熱処理前のア
モルファス相に含まれるホウ素と他の元素が結合して、
磁化の低い化合物が生成されると、磁石全体として磁化
が低下してしまう。なお、本明細書における「アモルフ
ァス相」とは、原子配列が完全に無秩序化した部分によ
ってのみ構成される相だけではなく、結晶化の前駆体や
微結晶(サイズ:数nm以下)、または原子クラスタを
部分的に含んでいる相をも含むものとする。具体的に
は、X線回折や透過電子顕微鏡観察によって結晶構造を
明確に同定できない相を広く「アモルファス相」と称す
ることにする。そして、X線回折や透過電子顕微鏡観察
によって結晶構造を明確に同定できる構造を「結晶相」
と称することとする。
【0069】本発明者の実験によれば、Tiを添加した
場合だけ、V、Cr、Mn、Nb、Moなどの他の種類
の金属を添加した場合と異なり、磁化の低下が生じず、
むしろ磁化が向上することがわかった。また、Tiを添
加した場合、前述の他の添加元素と比べ、減磁曲線の角
形性が特に良好なものとなった。これらのことから、磁
化の低い硼化物の生成を抑制する上でTiが特に重要な
働きをしていると考えられる。特に、本発明で用いる原
料合金の組成範囲のうち、ホウ素およびTiが比較的に
少ない場合は、熱処理によって強磁性を有する鉄基硼化
物相が析出しやすい。この場合、非磁性のアモルファス
相中に含まれるホウ素が鉄基硼化物中に取り込まれる結
果、結晶化熱処理後に残存する非磁性アモルファス相の
体積比率が減少し、強磁性の結晶相が増加するため、残
留磁束密度Brが向上する。
【0070】また、Tiを添加した場合は、α−Feの
粒成長が抑制され、優れた硬磁気特性が発揮される。そ
して、R2Fe14B相やα−Fe相以外の強磁性相を生
成し、それによって、合金内に3種類以上の強磁性相を
含む組織を形成することが可能になる。Tiに代えて、
Nb、V、Crなどの金属元素を添加した場合は、α−
Fe相が析出するような比較的高い温度領域でα−Fe
相の粒成長が著しく進行し、α−Fe相の磁化方向が硬
磁性相との交換結合によって有効に拘束されなくなる結
果、減磁曲線の角形性が大きく低下する。
【0071】なお、Tiに代えて、Nb、Mo、Wを添
加した場合、α−Feが析出しない比較的低い温度領域
で熱処理を行なえば、減磁曲線の角形性に優れた良好な
硬磁気特性を得ることが可能である。しかし、このよう
な温度で熱処理を行なった合金では、R2Fe14B型微
細結晶相が非磁性のアモルファス相中に分散して存在し
ていると推定され、ナノコンポジット磁石の構成は形成
されていない。また、更に高い温度で熱処理を行なう
と、アモルファス相中からα−Fe相が析出してしま
う。このα−Fe相は、Tiを添加した場合と異なり、
析出後、急激に成長し、粗大化する。このため、α−F
e相の磁化方向が硬磁性相との交換結合によって有効に
拘束されなくなり、減磁曲線の角形性が大きく劣化して
しまうことになる。
【0072】一方、Tiに代えて、VやCrを添加した
場合は、これらの添加金属がFeに固溶し、反強磁性的
に結合するため、磁化が大きく低下してしまう。
【0073】一方、Tiを添加した場合は、α−Fe相
の析出・成長のキネティクス(kinetics)が遅くなり、
析出・成長に時間を要するため、α−Fe相の析出・成
長が完了する前にNd2Fe14B相の析出・成長が開始
すると考えられる。このため、α−Fe相が粗大化する
前にNd2Fe14B相が均一に分散した状態で大きく成
長する。
【0074】このようにTiを添加した場合のみ、α−
Fe相の粗大化を適切に抑制し、強磁性の鉄基硼化物を
形成することが可能になる。更に、Tiは、液体急冷時
にFe初晶(後にα−Feに変態するγ−Fe)の晶出
を遅らせ、過冷却液体の生成を容易にする元素としてホ
ウ素や炭素とともに重要な働きをするため、合金溶湯を
急冷する際の冷却速度を102℃/秒〜104℃/秒程度
の比較的低い値にしても、粗大なα−Feを析出させる
ことなく、R2Fe14B型結晶相を60体積%以上含む
急冷合金(R2Fe14B型結晶相以外には鉄基硼化物を
含むことがある)を作製することが可能になる。
【0075】本発明では、ノズルオリフィスによる溶湯
の流量制御を行なわずに溶湯をシュート(案内手段)か
ら直接に冷却ロール上へ注ぐストリップキャスト法を用
いる。このため、ノズルオリフィスを用いるメルトスピ
ニング法による場合と比較して、生産性が高く、製造コ
ストが低い。このようにR−Fe−B系希土類合金の溶
湯をストリップキャスト法によっても達成可能な冷却速
度範囲でアモルファス化するには、通常、B(ホウ素)
を10原子%以上添加する必要がある。このようにBを
多く添加した場合は、急冷合金に対して結晶化熱処理を
行った後も、B濃度の高い非磁性のアモルファス相が金
属組織中に残存し、均質な微細結晶組織が得られない。
その結果、強磁性相の体積比率が低下し、磁化の低下を
招来する。しかしながら、本発明のようにTiを添加す
ると、上述した現象が観察されるため、磁化の高い鉄基
硼化物が生成され、予想外に磁化が向上する。
【0076】[組成の限定理由]BおよびCの合計の組
成比率xが10原子%以下になると、急冷時の冷却速度
が102℃/秒〜105℃/秒程度と比較的遅い場合、R
2Fe14B型結晶相とアモルファス相とが混在する急冷
合金を作製することが困難になり、その後に熱処理を施
しても高い保磁力が得られない。また、組成比率xが1
0原子%以下になると、高い磁化を示す鉄基硼化物が生
成されなくなる。鉄基硼化物中のホウ素はTiと結合し
て安定な化合物を作るため、鉄基硼化物が多いほど、耐
候性が向上する。このため、xは10原子%を超えるこ
とが必要である。一方、組成比率xが25原子%を超え
ると、結晶化熱処理後も残存するアモルファス相の体積
比率が増し、同時に、構成相中で最も高い飽和磁化を有
するα−Feの存在比率が減少するため、残留磁束密度
rが低下してしまう。以上のことから、組成比率xは
10原子%を超え、25原子%以下となるように設定す
ることが好ましい。より好ましい組成比率xの範囲は1
0原子%を超え、17原子%以下である。
【0077】BおよびCの全体に対するCの比率pは、
原子比で、0以上0.25以下の範囲にあることが好ま
しい。C添加の効果を得るには、Cの比率pが0.01
以上であることが好ましい。pが0.01よりも少なす
ぎると、C添加の効果がほとんど得られない。一方、p
が0.25よりも大きくなりすぎると、α−Fe相の生
成量が増大して、磁気特性が劣化するという問題が生じ
る。比率pの下限は、0.02であることが好ましく、
pの上限は0.20以下であることが好ましい。比率p
は0.08以上0.15以下であることが更に好まし
い。
【0078】Rは、希土類元素(Yを含む)の群から選
択された1種以上の元素である。LaまたはCeが存在
すると、R2Fe14B相のR(典型的にはNd)がLa
やCeで置換され、保磁力および角形性が劣化するた
め、LaおよびCeを実質的に含まないことが好まし
い。ただし、微量のLaやCe(0.5原子%以下)が
不可避的に混入する不純物として存在する場合、磁気特
性上、問題はない。従って、0.5原子%以下のLaや
Ceを含有する場合は、LaやCeを実質的に含まない
といえる。
【0079】Rは、より具体的には、PrまたはNdを
必須元素として含むことが好ましく、その必須元素の一
部をDyおよび/またはTbで置換してもよい。Rの組
成比率yが全体の6原子%未満になると、保磁力の発現
に必要なR2Fe14B型結晶構造を有する化合物相が充
分に析出せず、高い保磁力HcJを得ることができなくな
る。また、Rの組成比率yが10原子%以上になると、
強磁性を有する鉄基硼化物の存在量が低下し、代わりに
Bリッチの非磁性層の存在量が増加するため、ナノコン
ポジット構造が形成されず、磁化が低下する。故に、希
土類元素Rの組成比率yは6原子%以上10原子%未満
の範囲、例えば、6原子%以上9.5原子%以下に調節
することが好ましい。より好ましいRの範囲は7原子%
以上9.3原子%以下であり、最も好ましいRの範囲は
8.3原子%以上9.0原子%以下である。
【0080】Tiの添加は、合金溶湯の急冷中に硬磁性
相を軟磁性相よりも早くに析出・成長させるという効果
を発揮するとともに、保磁力HcJおよび残留磁束密度B
rの向上および減磁曲線の角形性の改善に寄与し、最大
エネルギー積(BH)maxを向上させる。
【0081】Tiの組成比率zが全体の0.5原子%未
満になると、Ti添加の効果が充分に発現しない。一
方、Tiの組成比率zが全体の12原子%を超えると、
結晶化熱処理後も残存するアモルファス相の体積比率が
増すため、残留磁束密度Brの低下を招来しやすい。以
上のことから、Tiの組成比率zは0.5原子%以上1
2原子%以下の範囲とすることが好ましい。より好まし
いzの範囲の下限は1.0原子%であり、より好ましい
zの範囲の上限は6原子%である。更に好ましいzの範
囲の上限は5原子%である。
【0082】また、Cおよび/またはBから構成される
Qの組成比率xが高いほど、Q(例えば硼素)を過剰に
含むアモルファス相が形成されやすいので、Tiの組成
比率zを高くすることが好ましい。TiはBに対する親
和性が強く、硬磁性相の粒界に濃縮される。Bに対する
Tiの比率が高すぎると、Tiは粒界にではなく、R 2
Fe14B化合物中に入り込み、磁化を低下させる可能性
がある。また、Bに対するTiの比率が低すぎると、被
磁性のBリッチアモルファス相が多く生成されてしま
う。実験によれば、0.05≦z/x≦0.4を満足さ
せるように組成比率を調節することが好ましく、0.1
≦z/x≦0.35を満足させることがより好ましい。
更に好ましくは0.13≦z/x≦0.3である。
【0083】種々の効果を得る為、金属元素Mを添加し
ても良い。Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、Cu、
Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、P
t、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された1
種以上の元素である。
【0084】Feは、上述の元素の含有残余を占める
が、Feの一部をCoおよびNiの1種または二種の遷
移金属元素(T)で置換しても所望の硬磁気特性を得る
ことができる。Feに対するTの置換量が50%を超え
ると、0.7T以上の高い残留磁束密度Brが得られな
い。このため、置換量は0%以上50%以下の範囲に限
定することが好ましい。なお、Feの一部をCoで置換
することによって、減磁曲線の角形性が向上するととも
に、R2Fe14B相のキュリー温度が上昇するため、耐
熱性が向上する。CoによるFe置換量の好ましい範囲
は0.5%以上40%以下である。
【0085】次に、図面を参照しながら、本発明の好ま
しい実施形態を詳細に説明する。
【0086】(実施形態1)まず、本発明の第1の実施
形態を説明する。
【0087】本実施形態では、図1に示すストリップキ
ャスティング装置を用いて急冷凝固合金を製造する。酸
化しやすい希土類元素RやFeを含む原料合金の酸化を
防ぐため、不活性ガス雰囲気中で急冷合金の作製を実行
する。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等
の希ガスや窒素を用いることができる。なお、窒素は希
土類元素Rと比較的に反応しやすいため、ヘリウムまた
はアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
【0088】図1のストリップキャスティング装置は、
内部を不活性ガス雰囲気での減圧状態にすることができ
る不図示のチャンバ内に配置される。このストリップキ
ャスティング装置は、合金原料を溶解するための溶解炉
1と、溶解炉1の底部出口2から供給される合金溶湯3
を急冷・凝固させるための冷却ロール7と、溶解炉1か
ら冷却ロール7に溶湯3を導く樋4およびシュート(案
内手段)5と、凝固して冷却ロール7から薄帯状の合金
8を剥離しやすくするスクレパーガス噴出器9とを備え
ている。
【0089】溶解炉1は、合金原料を溶融することによ
って作製した溶湯3をシュート5に対して略一定の供給
量で供給することができる。この供給量は、溶解炉1を
傾ける動作を制御することなどによって、任意に調節す
ることができる。なお、樋4は、必須ではなく、溶解炉
1から出た合金溶湯3を直接シュート5に供給しても良
い。
【0090】冷却ロール7は、その外周面が銅などの熱
伝導性の良好な材料から形成されており、例えば、直径
30cm〜100cmで幅が15cm〜100cmの寸
法を有する。冷却ロール7は、不図示の駆動装置によっ
て所定の回転速度で回転することができる。この回転速
度を制御することによって、冷却ロール7の周速度を任
意に調節することができる。このストリップキャスティ
ング装置による冷却速度は、冷却ロール7の回転速度な
どを選択することにより、約102℃/秒〜約105℃/
秒の範囲で制御可能である。
【0091】シュート5の溶湯を案内する面は、水平方
向に対して角度(傾斜角度)αで傾斜し、シュート5の
先端部と冷却ロールの表面との距離は数mm以下に保た
れる。そして、シュート5は、その先端部と冷却ロール
7の中心とを結ぶ線が水平方向に対して角度β(0°≦
β≦90°)を形成するように配置される。シュート5
の傾斜角度αは、1°≦α≦80°であることが好まし
く、5°≦α≦60°の関係を満足することが更に好ま
しい。角度βは、10°≦β≦55°の関係を満足する
ことが好ましい。
【0092】シュート5上に供給された溶湯3は、シュ
ート5の先端部から冷却ロール7の表面に対して供給さ
れ、冷却ロール7の表面に溶湯のパドル6を形成する。
【0093】シュート5は、溶解炉1から所定の流量で
連続的に供給される溶湯3を一時的に貯湯するようにし
て流速を遅延し、溶湯3の流れを整流することができ
る。シュート5に供給された溶湯3における溶湯表面部
の流れを選択的に堰き止めることができる堰き止め板を
設ければ、整流効果を更に向上させることができる。シ
ュート5を用いることによって、冷却ロール7の胴長方
向(軸線方向:紙面に垂直)において、一定幅にわたっ
て略均一な厚さに広げた状態で、溶湯3を供給すること
ができる。シュート5の溶湯案内面の傾斜角度αを調節
することにより、溶湯供給速度を微調整できる。溶湯
は、その自重により、シュート5の傾斜した案内面を流
れ、水平方向(X軸方向)に平行な運動量成分をもつ。
シュート5の傾斜角度αを大きくするほど、溶湯の流速
は速くなり、運動量も大きくなる。
【0094】シュート5は、上記の機能に加え、冷却ロ
ール7に達する直前の溶湯3の温度を調整する機能をも
有する。シュート5上における溶湯3の温度は、液相線
温度よりも100℃以上高い温度であることが望まし
い。溶湯3の温度が低すぎると、急冷後の合金特性に悪
影響を及ぼすTiB2などの初晶が局所的に核発生し、
これが凝固後に残存してしまうことがあるからである。
また、溶湯温度が低すぎると、溶湯粘度が上昇し、スプ
ラッシュが発生しやすくなる。シュート5上での溶湯温
度は、溶解炉1からシュート5に注ぎ込む時点での溶湯
温度やシュート5自体の熱容量などを調節することによ
って制御することができるが、必要に応じてシュート加
熱装置(図1において不図示)を設けても良い。
【0095】本実施形態におけるシュート5は、冷却ロ
ール7の外周面に対向するように配置された端部におい
て、冷却ロールの軸線方向に沿って所定の間隔だけ離し
て設けられた複数の排出部を有している。この排出部の
幅(溶湯の1つの流れの幅)は、好適には0.5cm〜
10.0cmに設定され、より好適には0.7cm〜
4.0cmに設定される。本実施形態では、排出部にお
ける各溶湯流れの幅は1cmに設定されている。なお、
溶湯の流れの幅は、上記排出部の位置から離れるにつ
れ、横方向に広がる傾向がある。シュート5に複数の排
出部を設け、複数の溶湯流れを形成する場合は、隣接す
る溶湯流れが相互に接触しないようにすることが好まし
い。
【0096】シュート5上に供給された溶湯3は、冷却
ロール7の軸線方向に沿って、各排出部の幅と略同一幅
を有して冷却ロール7と接触する。その後、冷却ロール
7に所定の出湯幅で接触した溶湯3は、冷却ロール7の
回転に伴って(冷却ロール7に引き上げられるようにし
て)ロール周面上を移動し、この移動過程において冷却
される。なお、溶湯漏れを防止するために、シュート5
の先端部と冷却ロール7との間の距離は、3mm以下
(特に0.4〜0.7mmの範囲)に設定されることが
好ましい。
【0097】隣接する排出部間の間隙は、好適には1c
m〜10cmに設定される。このようにして冷却ロール
7の外周面における溶湯接触部(溶湯冷却部)を複数の
箇所に分離すれば、各排出部から排出された溶湯を効果
的に冷却することができる。結果として、シュート5へ
の溶湯供給量を増加させた場合にも所望の冷却速度を実
現することができる。
【0098】なお、シュート5の形態は、上記形態に限
られず、単一の排出部を有するものであってもよいし、
出湯幅がより大きく設定されていてもよい。
【0099】回転する冷却ロール7の外周面上で凝固さ
れた合金溶湯3は、薄帯状の凝固合金8となって冷却ロ
ール7から剥離する。本実施形態の場合、複数の排出部
の各々から流れ出た溶湯が所定幅の帯となり、凝固す
る。剥離した凝固合金8は、不図示の回収装置において
破砕され、回収される。
【0100】このように、ストリップキャスト法は、メ
ルトスピニング法のようにノズルを用いておらず、ノズ
ル径による噴射スピードの制約やノズル部での凝固によ
る溶湯詰まりなどの問題がないので、大量生産に適して
いる。また、ノズル部の加熱設備や溶湯ヘッド圧を制御
する為の圧力制御機構も必要でないため、初期設備投資
やランニングコストを小さく抑えることができる。
【0101】また、メルトスピニング法では、ノズル部
分の再利用が不可能なため、加工コストの高いノズルを
使い捨てにしなければならなかったが、ストリップキャ
スト法ではシュートを繰り返し使用することが可能であ
るのでランニングコストが安価である。
【0102】更に、ストリップキャスト法によれば、メ
ルトスピニング法に比べ、遅い速度で冷却ロールを回転
させ、また、合金出湯量を多くできるため、急冷合金薄
帯を厚くすることができる。
【0103】しかしながら、ストリップキャスト法では
合金溶湯を冷却ロールの表面に強く噴射しないため、冷
却ロール7が10m/秒以上の比較的速い周速度で回転
するような場合は、冷却ロール7の表面に溶湯のパドル
6を安定して形成するのが難しいという問題がある。ま
た、ノズルを用いない場合、合金溶湯がロール表面を押
す圧力が小さいため、合金溶湯とロール表面との接触部
において合金溶湯とロール表面との間に微小な隙間が生
じやすい。このため、合金溶湯とロール表面との間の密
着性は、ストリップキャスト法がメルトスピニング法に
比べて劣る。密着性に関する問題およびその解決方法に
ついては、後述する。
【0104】本実施形態では、溶湯供給速度(処理量)
の上限値を、溶湯と冷却ロールとの間の単位接触幅あた
りの供給速度で規定している。ストリップキャスト法に
よる場合、溶湯は冷却ロールの軸線方向に沿って所定の
接触幅を有するように冷却ロールと接触するため、溶湯
の冷却条件が単位接触幅あたりの溶湯供給速度に大きく
依存する。
【0105】溶湯供給速度が速すぎると、冷却ロールに
よる溶湯の冷却速度が低下し、その結果、非晶質化が促
進せずに結晶化組織を多く含む急冷合金が作製されてし
まいナノコンポジット磁石に適した原料合金を得ること
ができなくなってしまう。このため、本発明では、単位
接触幅(cm)あたりの供給速度(kg/分)を3kg
/分/cm以下に設定している。
【0106】また、前述のように、例えば接触幅約2c
m×3本の接触形態で溶湯を冷却ロールに接触させる場
合、供給速度を約0.5kg/分/cm以上に設定する
ことによって、約3kg/分以上の処理量を実現するこ
とができる。
【0107】このように、上記特定範囲の周速度で回転
する冷却ロールに対して上記特定範囲の供給速度で溶湯
を供給することによって、ストリップキャスト法を用い
た場合にも所望の急冷合金を生産性高く作製することが
できる。ストリップキャスト法では、ジェットキャスト
法のように製造コストを著しく増加させるノズルを使用
しないので、ノズルにかかるコストが不必要となり、ま
た、ノズルの閉塞事故によって生産が停止することもな
い。
【0108】本実施形態においては、冷却ロールの周速
度を5m/秒以上20m/秒未満に設定することができ
る。ロール周速度が5m/秒未満であると、冷却能力の
不足により所望の急冷合金が得られず、また、20m/
秒以上にすると、ロールによって溶湯を引き上げること
が難しくなり、冷却合金が薄片状で飛散するため、回収
にも困難をきたすおそれがある。最適な周速度は、冷却
ロールの構造、材質、溶湯供給速度などによって異なり
得るが、周速度が速いと、得られる薄帯状合金は極端に
薄くなって嵩張るため、取り扱いにくくなる。また、周
速度が速すぎると、薄帯状合金を粉砕して作製した磁粉
の形状が扁平になるため、磁粉を成形する際、磁粉の流
動性やキャビティ充填率が低下する。その結果、磁石の
磁粉密度が低下し、磁石特性が劣化してしまう。一方、
周速度が遅いと、十分な冷却速度を得ることが困難にな
る。これらのことから、冷却ロールの周速度は、好まし
くは5m/秒以上20m/秒以下に設定され、より好ま
しくは6m/秒以上15m/秒以下に設定される。冷却
ロールの周速度の更に好ましい範囲は、10m/秒以上
13m/秒以下である。
【0109】なお、単位接触幅あたりの供給速度が3k
g/分/cmを超えると、所定の冷却速度が得られず、
所望の急冷合金を作製することが困難になる。単位接触
幅あたりの供給速度の適切な範囲は、ロール周速度、ロ
ール構造などに応じて異なり得るが、2kg/分/cm
以下であることが好ましく、1.5kg/分/cm以下
であることが更に好ましい。
【0110】また、装置全体としての溶湯供給速度(処
理速度)は、3kg/分未満では生産性が悪く、安価な
原料供給を実現できないため、3kg/分以上にしてい
る。このためには、シュートや冷却ロールの形状などを
適切に選択した場合において単位接触幅あたりの供給速
度を、0.4kg/分/cm以上にすることが好まし
い。
【0111】例えば直径約35cmで幅約15cmのC
u製ロールを用いた場合、ロール周速度が5m/秒〜1
0m/秒であれば、単位接触幅あたりの供給速度は、
0.5kg/分/cm〜2kg/分/cm程度が好まし
い。この場合、0.5kg/分〜6kg/分の供給速度
で急冷工程を行うことができる。
【0112】シュート5の形状や、溶湯排出部の幅と本
数、溶湯供給速度などを適切に選択することによって、
得られる薄帯状急冷合金の厚さ(平均値)及び幅が適正
範囲内に調節できる。薄帯状急冷合金の幅は、15mm
〜80mmの範囲であることが好ましい。また、薄帯状
合金の厚さは、薄すぎると嵩密度が低くなるので回収困
難となり、厚すぎると溶湯のロール接触面と自由面(溶
湯表面)とで冷却速度が異なり、自由面の冷却速度が十
分に得られないため好ましくない。このため、薄帯状合
金の厚さが50μm以上250μm以下となるようにす
ることが好ましく、60μm以上200μm以下となる
ようにすることがより好ましい。急冷合金の厚さの更に
好ましい範囲は、70μm以上90μm以下である。ま
た、ボンド磁石の充填密度を考慮すると、急冷合金の厚
さは80μmを超えることが好ましい。
【0113】[熱処理]本実施形態では、熱処理をアル
ゴン雰囲気中で実行する。好ましくは、昇温速度を5℃
/秒〜20℃/秒として、550℃以上850℃以下の
温度で30秒以上20分以下の時間保持した後、室温ま
で冷却する。この熱処理によって、残存アモルファス相
中に準安定相の微細結晶が析出・成長し、ナノコンポジ
ット組織構造が形成される。本発明によれば、熱処理の
開始前の時点(as−cast)で既に微細なR2Fe
14B結晶相(Nd2Fe14B型結晶相)が全体の60体
積%以上存在しているため、α−Fe相や他の結晶相の
粗大化が抑制され、Nd2Fe14B型結晶相以外の各構
成相(軟磁性相)が均一に微細化される。熱処理後にお
けるR2Fe14B結晶相(Nd2Fe14B型結晶相)が合
金中に占める体積比率は65〜85%である。
【0114】なお、熱処理温度が550℃を下回ると、
熱処理後もアモルファス相が多く残存し、急冷条件によ
っては、保磁力が充分なレベルに達しない場合がある。
また、熱処理温度が850℃を超えると、各構成相の粒
成長が著しく、残留磁束密度Brが低下し、減磁曲線の
角形性が劣化する。このため、熱処理温度は550℃以
上850℃以下が好ましいが、より好ましい熱処理温度
の範囲は570℃以上820℃以下である。
【0115】本発明では、急冷合金中に充分な量のNd
2Fe14B型化合物相が均一かつ微細に析出している。
このため、急冷合金に対して敢えて結晶化熱処理を行な
わない場合でも、急冷凝固合金自体が充分な磁石特性を
発揮し得る。そのため、結晶化熱処理は本発明に必須の
工程ではないが、これを行なうことが磁石特性向上のた
めには好ましい。なお、従来に比較して低い温度の熱処
理でも充分に磁石特性を向上させることが可能である。
【0116】熱処理雰囲気は、合金の酸化を防止するた
め、50kPa以下のArガスやN 2ガスなどの不活性
ガスが好ましい。0.1kPa以下の真空中で熱処理を
行っても良い。
【0117】熱処理前の急冷合金中には、R2Fe14
化合物相およびアモルファス相以外に、Fe3B相、F
236、R2Fe14B相、およびR2Fe233相等の準
安定相が含まれていても良い。その場合、熱処理によっ
てR2Fe233相は消失し、R2Fe14B相の飽和磁化
と同等、または、それよりも高い飽和磁化を示す鉄基硼
化物(例えばFe236)やα−Feを結晶成長させる
ことができる。なお、本明細書における「Fe3B相」
は、「Fe3.5B相」を含むものとする。
【0118】本発明の場合、最終的にα−Feのような
軟磁性相が存在していても、軟磁性相の平均結晶粒径が
硬磁性相の平均結晶粒径よりも小さいため、軟磁性相と
硬磁性相とが交換相互作用によって磁気的に結合するた
め、優れた磁気特性が発揮される。
【0119】熱処理後におけるNd2Fe14B型化合物
相の平均結晶粒径は、単軸結晶粒径である300nm以
下となる必要があり、20nm以上200nm以下であ
ることが好ましく、20nm以上150nm以下である
ことが更に好ましい。これに対し、強磁性の鉄基硼化物
相やα−Fe相の平均結晶粒径が50nmを超えると、
各構成相間に働く交換相互作用が弱まり、減磁曲線の角
形性が劣化するため、(BH)maxが低下してしまう。
通常、これらの相は1nmよりも小さな直径をもつ析出
物とはならず、数nmの大きさの析出物となる。以上の
ことから、硼化物相やα−Fe相などの軟磁性相の平均
結晶粒径は1nm以上50nm以下であることが好まし
く、5nm以上30nm以下であることが更に好まし
い。磁気特性上、Nd2Fe14B型化合物相の平均結晶
粒径が20nm以上100nm以下、軟磁性相の平均結
晶粒径が1nm以上30nm以下であることが更に好ま
しい。また、交換スプリング磁石として優れて性能を発
揮するには、Nd2Fe14B型化合物相の平均結晶粒径
は、軟磁性相の平均結晶粒径よりも大きいことが好まし
い。
【0120】また、本実施形態によれば、図2に示すよ
うに、Nd2Fe14B型化合物相の粒界または亜粒界に
微細な鉄基硼化物相((Fe,Ti)−B化合物)が存
在した組織構造が得られる。このような組織は、構成相
間の交換相互作用を最大化するのに適している。鉄基硼
化物中にはTiが存在している。これは、TiのBに対
する親和性が強く、Tiが鉄基硼化物中に濃縮されやす
いためであると考えられる。鉄基硼化物内でTiとBが
強く結合するため、Tiの添加は鉄基硼化物を安定化す
ると考えられる。
【0121】なお、熱処理前に急冷合金の薄帯を粗く切
断または粉砕しておいてもよい。熱処理後、得られた磁
石を微粉砕し、磁石粉末(磁粉)を作製すれば、その磁
粉から公知の工程によって種々のボンド磁石を製造する
ことができる。ボンド磁石を作製する場合、鉄基希土類
合金磁粉はエポキシ樹脂やナイロン樹脂と混合され、所
望の形状に成形される。このとき、ナノコンポジット磁
粉に他の種類の磁粉、例えばSm−Fe−N系磁粉やハ
ードフェライト磁粉を混合してもよい。
【0122】上述のボンド磁石を用いてモータやアクチ
ュエータなどの各種の回転機を製造することができる。
【0123】本発明の方法により得られた磁石磁末を射
出成形ボンド磁石用に用いる場合、平均粒度が200μ
m以下になるように粉砕することが好ましく、より好ま
しい粉末の平均粒径は30μm以上150μm以下であ
る。また、圧縮成形ボンド磁石用に用いる場合は、粒度
が300μm以下になるように粉砕することが好まし
く、より好ましい粉末の平均粒径は30μm以上250
μm以下である。更に好ましい範囲は50μm以上20
0μm以下である。
【0124】(実施形態2)次に、本発明の第2の実施
形態を説明する。
【0125】Tiを必須元素として含む上記組成の合金
の溶湯をストリップキャスト法で急冷・凝固する場合、
TiとBとが結合した化合物(TiB2など)が溶湯中
で形成されやすく、その結果、溶湯の液相線温度が従来
の組成を有する鉄基希土類磁石原料合金の溶湯に比べて
高くなる。溶湯の液相線温度が高くなると、その分、溶
湯温度を高め(液相線温度より例えば100℃程度高
温)に設定し、溶湯粘度を充分に低く維持しておかなけ
れば、安定した出湯を実現できなくなる。
【0126】しかし、合金溶湯を冷却ロールの表面で急
冷・凝固させる場合に、出湯温度を高くすると、ロール
表面温度が上昇するため、急冷合金の薄帯が冷却ロール
から剥がれにくくなり、冷却ロールに巻きつきやすくな
る。合金薄帯がロールに巻きつくと、巻きついた合金上
に次々と溶湯が供給され、急冷合金中に生成される結晶
相が粗大化するため、最終的な磁石特性が劣化してしま
うことになる。
【0127】この問題は、比較的少量の合金溶湯をノズ
ルから噴射するメルトスピニング法では、ほとんど生じ
ないものである。メルトスピニング法による場合は、冷
却ロールの表面に接触する溶湯の量が少なく、また、強
く噴射される溶湯とロール表面との間の密着性もよい。
その結果、ロールが溶湯を冷却する能力が低下しにく
く、溶湯の冷却が均一かつ充分に進行するからである。
【0128】これに対して、ストリップキャスト法によ
る場合は、ノズルを用いないため、大量の合金溶湯を均
一かつ充分に冷却することが難しい。また、本発明で用
いる合金組成では、溶湯の冷却速度や冷却の均一性が急
冷合金の微細組織を大きく左右し、磁石特性を決定付け
てしまう。このため、高性能ナノコンポジット磁石をス
トリップキャスト法で量産するには、冷却ロールへの合
金薄帯の巻きつきを充分に防止する必要がある。
【0129】本発明者は、上述した組成系の合金に対し
て適量のNbを添加することによって合金溶湯の液相線
温度が10℃以上(例えば約40〜80℃)も低下する
ことを見出した。合金溶湯の液相線温度が下がると、そ
の分だけ溶湯温度を低下させたとしても、溶湯粘度はほ
とんど増加せず、安定した出湯を継続的に行なうことが
可能になる。出湯温度が低くなると、冷却ロールの表面
で充分な冷却を達成することができるため、ロールでの
巻きつきを防止するとともに、急冷凝固合金組織を均一
微細化することが可能になる。
【0130】そこで、本実施形態では、組成式が(Fe
1-mm100-x-y-z-n(B1-ppxyTizNbnで表
現される合金の溶湯をストリップキャスト法で急冷す
る。ここで、TはCoおよびNiからなる群から選択さ
れた1種以上の元素、RはY(イットリウム)および希
土類金属からなる群から選択された1種以上の元素)で
表現され、組成比率x、y、z、m、n、およびpが、
それぞれ、以下の関係式を満足する。
【0131】10<x≦25原子% 7≦y<10原子% 0.5≦z≦12原子% 0≦m≦0.5 0.1≦n≦5原子%、および 0≦p≦0.25
【0132】なお、冷却ロールによる合金の巻きつきを
防止するためには、Nbを添加するだけではなく、前述
のように雰囲気ガス圧を適切な範囲に調節することが好
ましい。
【0133】本実施形態では、図3に示すストリップキ
ャスティング装置を用いて急冷凝固合金を製造する。酸
化しやすい希土類元素RやFeを含む原料合金の酸化を
防ぐため、不活性ガス雰囲気中で合金製造工程を実行す
る。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の
希ガスや窒素を用いることができる。
【0134】図3のストリップキャスティング装置は、
内部を不活性ガス雰囲気で減圧状態にすることができる
チャンバ内に配置される。このストリップキャスティン
グ装置は、図1の装置と同様に、合金原料を溶解するた
めの溶解炉1と、溶解炉1から供給される合金溶湯3を
急冷・凝固させるための冷却ロール7と、溶解炉1から
冷却ロール7に溶湯3を導くシュート(タンディッシ
ュ)5と、凝固して冷却ロール7から薄帯状の合金8を
剥離しやすくするスクレパーガス噴出器9とを備えてい
る。
【0135】溶解炉1は、合金原料を溶融することによ
って作製した溶湯3をシュート5に対して略一定の供給
量で供給することができる。この供給量は、溶解炉1を
傾ける動作を制御することなどによって、任意に調節す
ることができる。
【0136】冷却ロール7は、その外周面が銅などの熱
伝導性の良好な材料から形成されており、直径(2r)
が30cm〜100cmで幅が15cm〜100cmの
寸法を有する。冷却ロール7は、不図示の駆動装置によ
って所定の回転速度で回転することができる。この回転
速度を制御することによって、冷却ロール7の周速度を
任意に調節することができる。このストリップキャステ
ィング装置による冷却速度は、冷却ロール7の回転速度
などを選択することにより、約102℃/秒〜約2×1
4℃/秒の範囲で制御可能である。
【0137】シュート5上に供給された溶湯3は、シュ
ートの先端部から冷却ロール7の表面に対して圧力を加
えられずに供給され、冷却ロール7の表面に溶湯のパド
ル6が形成される。
【0138】シュート5は、セラミックス等で構成さ
れ、溶解炉1から所定の流量で連続的に供給される溶湯
3を一時的に貯湯するようにして流速を遅延し、溶湯3
の流れを整流することができる。シュート5に供給され
た溶湯3における溶湯表面部の流れを選択的に堰き止め
ることができる堰き止め板を設ければ、整流効果を更に
向上させることができる。
【0139】ストリップキャスト工程における種々の条
件は、最初の実施形態について説明したことが適用され
る。また、急冷合金に対して行う後の工程は、第1の実
施形態における工程と同様である。
【0140】本実施形態によれば、TiとともにNbを
鉄基希土類合金に添加することにより、合金溶湯の液相
線温度を下げ、急冷合金を量産レベルで安定して製造す
ることが可能となる。
【0141】なお、Nbの組成比率は、0.1原子%以
上5原子%以下であることが好ましく、0.5原子%以
上3原子%以下であることが更に好ましい。
【0142】(実施形態3)次に、本発明の第3の実施
形態を説明する。
【0143】前述したように、本発明で用いる合金で
は、TiとBとが結合した化合物(TiB2など)が溶
湯中で形成されやすく、その結果、溶湯の液相線温度が
従来の組成を有する鉄基希土類磁石原料合金の溶湯に比
べて高くなる。
【0144】本発明者は、TiおよびBを含む鉄基合金
に適量のC(炭素)を添加すれば、合金溶湯の液相線温
度が5℃以上(例えば約10〜40℃)低下することを
見出した。炭素の添加によって合金溶湯の液相線温度が
下がると、その分、溶湯温度を低下させても、TiB2
などの晶出が抑制されるため、溶湯粘度はほとんど増加
せず、安定した溶湯流れの形成を継続的に行なうことが
可能になる。溶湯温度が低くなると、冷却ロールの表面
で充分な冷却を達成することができるため、ロールでの
巻きつきを防止するとともに、急冷凝固合金組織を均一
微細化することが可能になる。
【0145】本実施形態では、組成式が(Fe1-mm
100-x-y-z-n(B1-ppxyTiznで表現される合
金溶湯をストリップキャスト法で急冷することにより、
鉄基希土類急冷凝固合金を作製する。ここで、TはCo
およびNiからなる群から選択された1種以上の元素で
あり、RはY(イットリウム)および希土類金属からな
る群から選択された1種以上の元素である。Mは、A
l、Si、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、
Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、およ
びPbからなる群から選択された1種以上の元素であ
る。
【0146】上記組成式中のx、y、z、m、n、およ
びpは、それぞれ、以下の関係式を満足する。
【0147】10<x≦25原子% 7≦y<10原子% 0.5≦z≦12原子% 0≦m≦0.5 0≦n≦10原子%、および 0.01≦p≦0.25
【0148】上記合金の溶湯を凝固させるため、本実施
形態においても、図3に示すストリップキャスティング
装置を使用する。なお、本実施形態では、酸素濃度が質
量比率で1000ppm以下の原料を溶融し、溶融状態
における合金の酸素濃度を質量比率で3000ppm以
下に制御する。溶湯の酸素濃度は雰囲気中の酸素分圧や
溶融から急冷凝固までの時間などによって変化するた
め、本実施形態では、これらの諸条件を調節することに
より、酸素濃度が3000ppmを超えないようにして
いる。
【0149】シュート5上に供給された溶湯3は、シュ
ートの先端部から冷却ロール7の表面に対して圧力を加
えられずに供給され、冷却ロール7の表面に溶湯のパド
ル6を形成する。本実施形態では、炭素を添加すること
により、溶湯の液相線温度を低く維持しているため、溶
湯の動粘度は、溶湯温度が1200℃以上の場合、5×
10-62/秒以下に維持され、スムーズな湯流れが実
現する。
【0150】シュート5上における溶湯3の温度は、液
相線温度よりも100℃以上高い温度であることが望ま
しい。溶湯3の温度が低すぎると、急冷後の合金特性に
悪影響を及ぼす初晶が局所的に核発生し、これが凝固後
に残存してしまうことがあるからである。
【0151】ストリップキャスト工程における種々の条
件は、最初の実施形態について説明したことが適用され
る。また、急冷合金に対して行う後の工程は、第1の実
施形態における工程と同様である。
【0152】なお、得られた急冷合金薄帯の「かさ密
度」は0.5グラム(g)/cc以下であることが多い
ため、急冷後、適当な粉砕装置を用いて「かさ密度」が
1g/cc以上になるように合金を粉砕し、回収するこ
とが好ましい。
【0153】このストリップキャスト工程以降の工程
は、第1の実施形態における工程と同様の工程を行えば
よい。
【0154】本実施形態によれば、TiとともにCを鉄
基希土類合金に添加することにより、合金溶湯の液相線
温度を下げ、急冷合金を量産レベルで安定して製造する
ことが可能となる。
【0155】(実施形態4)従来のストリップキャスト
法における冷却ロールの周速度は非常に遅く、1〜2m
/秒程度である。本発明で用いる合金組成では、Ti添
加により、比較的低速度でも良質な急冷合金組織を形成
することができるが、磁石特性をできるだけ向上させる
には、従来のストリップキャスト法における周速度より
も格段に速い周速度で溶湯の冷却を行うことが好まし
い。
【0156】しかし、ストリップキャスト法において、
冷却ロールの回転速度を高めると、合金溶湯を充分に引
き上げることが困難になる。ストリップキャスト法の場
合、メルトスピニング法に比べて、回転するロール表面
に対する溶湯の密着度が低くい。これは、ロール表面に
形成される薄い空気層が溶湯とロール表面との間に侵入
することが一因である。このため、冷却ロールを高速で
回転させると、溶湯がロール表面上で滑り、溶湯を引き
上げられなくなるからである。これに対して、メルトス
ピニング法による場合は、ノズルオリフィスを介して大
きな運動量を持つ溶湯の細い噴流を冷却ロール表面にぶ
つけるため、空気層を割って溶湯をロール表面に密着さ
せることができ、たとえ冷却ロールが高速回転している
場合でも、所望の急冷凝固合金を形成することが可能で
ある。
【0157】このような事情から、従来は、冷却速度を
高める必要がある場合、メルトスピニング法を用いて冷
却ロールの周速度を高め(例えば20m/秒以上)に設
定していた。逆に冷却速度が遅くて良い場合は、ストリ
ップキャスト法を用いて冷却ロールの周速度を低く(例
えば1〜2m/秒)設定していた。
【0158】鉄基希土類合金磁石を液体急冷法によって
作製する場合、冷却速度を充分に高めないかぎり、所望
の微細組織構造を得ることができない。特に、Nd−F
e−B系化合物からなる硬磁性相とα−Feなどの軟磁
性相とが交換相互作用によって磁気的に結合したナノコ
ンポジット磁石を製造する場合、従来、メルトスピニン
グ法によらなければ冷却速度が不充分になるため、所望
の急冷組織が得られなかった。従って、このようなナノ
コンポジット磁石をストリップキャスト法で量産するこ
とは実現されていなかった。
【0159】本発明者らは、従来のストリップキャスト
法によれば実現困難であるとされていた冷却速度を達成
するため、高速(周速度:10m/秒以上)で回転する
冷却ロールを用いるストリップキャスト法の開発を検討
してきた。本発明者らのストリップキャスト法では、合
金溶湯を傾斜したシュート(案内手段)上に供給し、溶
湯の自重を利用してシュート上で合金溶湯の横方向流れ
を形成する。このようにして比較的大きな運動量を溶湯
に与えることにより、冷却ロール表面に溶湯をぶつけ、
高速回転する冷却ロールの表面に溶湯を密着させること
が可能になる。
【0160】しかしながら、本発明者らの上記ストリッ
プキャスト法によれば、CやNbを添加し、減圧雰囲気
下で溶湯の急冷を行っても、急冷合金が冷却ロールへ巻
きついてしまう場合があることがわかった。急冷合金が
冷却ロールに巻きつくと、急冷工程は中断を余儀なくさ
れ、急冷工程を継続することができなくなる。このこと
は、量産化実現にとって大きな支障となる。
【0161】本実施形態では、高速で回転する冷却ロー
ル上に溶湯のパドルを安定して形成し、しかも、急冷合
金がロールに巻きつくことを防止するのに有益なシュー
トの構成および冷却ロールを詳細に説明する。
【0162】本実施形態では、図3に示す装置を用いて
ストリップキャスト法を行う。前述したように、シュー
ト5の溶湯案内面は、水平方向に対して傾斜し、冷却ロ
ール7までの溶湯の流路を形成する。シュート5の案内
面と水平方向との間の角度(傾斜角度)αは溶湯の供給
量(レート)を微妙に制御するために重要なパラメータ
である。
【0163】シュート5上に供給された溶湯3は、シュ
ート5の先端部から冷却ロール7の表面に対して水平方
向の運動量をもって供給され、冷却ロール7の表面に溶
湯のパドル6を形成する。
【0164】図4は、シュート5の上面を示す斜視図で
ある。このシュート5は、一箇所で受けた溶湯を先端部
に案内するガイドを有している。これらガイドの一部
は、流路の両側だけではなく、中央部にも存在し、溶湯
流れを2条に分けることができる。図4の例では、2条
の溶湯流れの各々の幅が10mmに規定され、また、各
条の溶湯は10mmの間隔で冷却ロール表面に供給され
る。このようなガイドを持つシュート5によれば、冷却
ロール7の胴長方向(軸線方向:図3の紙面に垂直な方
向)において、一定幅にわたって略均一な厚さに広げた
状態で溶湯3を供給することができる。なお、このとき
の各リボンの幅(急冷合金の幅)は5〜20mmに設定
される。リボン幅が5mmを下回ると量産性が低下し、
20mmを超えると安定したキャスティングを行うこと
が難しくなるからである。
【0165】ストリップキャスト装置に用いられる冷却
ロール7の表面には、通常、微細な凹凸が存在する。冷
却ロール7の表面粗度が大きくなると、ロール表面に存
在する微細な凹部のために合金溶湯と冷却ロール7の表
面との実効的な接触面積が減少してしまうことになる。
【0166】図5は、周速度10m/秒で回転する冷却
ロール7の表面に接触する溶湯の断面形状を模式的に示
している。冷却ロール7の表面と溶湯の下面との間に雰
囲気ガスが巻き込まれ、多数のエアーポケット50が形
成される。冷却ロール7の表面粗度が大きいほど、ロー
ル表面と溶湯との実効的な接触面積は低下する。その結
果、冷却ロール7による溶湯からの抜熱量が低下し、合
金溶湯3の冷却速度が実質的に減少してしまう。このよ
うにして冷却ロール7による冷却能力が低下すると、冷
却ロール7と接して凝固しつつある急冷合金8の温度が
充分に低下しなくなる。
【0167】急冷合金8は、凝固に際して収縮するが、
この凝固収縮が不充分になる程、回転する冷却ロール7
から剥離しにくく、冷却ロール7に巻きつきやすくな
る。そして、リボン状の急冷合金8が冷却ロール7に巻
きつくと、冷却工程を継続できなくなってしまう。特に
ストリップキャスト法による場合は、溶湯がロール表面
に接触している部分のロール周方向サイズがメルトスピ
ニング法と比べて長いため、急冷合金8が冷却ロール7
に巻きつきやすいという問題がある。
【0168】一方、メルトスピニング法によれば、図6
に示すように、ノズルを介して比較的少量の合金溶湯を
冷却ロール7の表面に噴射し、溶湯をロール表面に押し
付けるため、冷却ロール7の表面粗度が大きい場合で
も、ロール表面と溶湯との間の密着性は良く、冷却能力
が高くなるため、合金溶湯を充分な速度で均一に冷却す
ることが容易である。
【0169】以上説明したように、本発明で採用するタ
イプのストリップキャスト法による場合は、冷却ロール
7を周速度10m/秒以上で高速回転させると、冷却ロ
ール7の表面における中心線粗さRaが急冷合金8の冷
却ロール7への巻きつきに重要な影響を与える。本発明
者の実験によると、冷却ロール7の表面における中心線
粗さRaが20μm以下であれば、充分な冷却効果が得
られるため、急冷合金8が冷却ロール7に巻きついてし
まうことを防止できることがわかった。
【0170】以上のことから、本発明では、冷却ロール
表面の中心線粗さRaを20μm以下に設定する。な
お、量産レベルで安定した操業を継続するには、冷却ロ
ール表面の中心線粗さRaは13μm以下に設定するこ
とが好ましく、7μm以下に設定することが更に好まし
い。
【0171】また、本発明で採用するストリップキャス
ト法では、図3および図4に示すように、合金溶湯3が
傾斜したシュート5上をゆっくりと流れるため、高速回
転する冷却ロール7の表面上に適切なパドル6を形成す
るには、合金溶湯3の動粘度の大きさが重要である。実
験によると、合金溶湯3の動粘度が5×10-62/秒
を超える場合、冷却ロール7上でパドル6が形成され
ず、溶湯3がスプラッシュとなり急冷されなくなってし
まうことがわかった。このため、合金溶湯3の動粘度は
5×10-62/秒以下に調節することが好ましく、1
×10-72/秒以下に調節することが更に好ましい。
【0172】上記シュート5の表面温度が低すぎると、
冷却ロール7に流れ着く前に合金溶湯3の動粘度が高く
なりすぎる場合がある。シュート5の表面温度が300
℃以下の場合、シュート5上にて溶湯が冷却され、動粘
度が5×10-62/秒を超えてしまうため、シュート
5の表面温度は300℃以上に保持することが好まし
い。シュート5の表面温度は450℃以上に保持するこ
とが好ましく、550℃以上に保持することが更に好ま
しい。
【0173】シュート5の材質にはアルミナ、シリカ、
ジルコニア、マグネシア、ムライトなどのセラミックス
材料の他、ボロンナイトライド(BN)を用いることが
できる。鉄基希土類合金の溶湯との「ぬれ性」に優れ、
また、希土類と反応しにくいアルミナ(Al23)を8
0体積%以上含む材料を用いることが好ましい。また、
熱ショックによってシュート5が割れないようにするた
めには、緻密質より多孔質セラミックスが好ましい。た
だし、溶湯が流れるシュートの表面は、できる限り滑ら
かにすることが好ましい。
【0174】冷却ロール7によって安定して合金溶湯を
急冷するためには、熱伝導率が50W/m/K以上の基
材を用いて冷却ロールを作製することが好ましい。この
ような冷却ロール7の基材としては、銅および銅合金の
他、鉄、炭素鋼、タングステン、モリブデン、ベリリウ
ム、タンタルを用いることができる。溶湯を安定して冷
却するためには、熱伝導が100W/m/K以上である
銅および銅合金あるいはタングステン、モリブデン、ベ
リリウムを用いることが特に好ましい。
【0175】冷却ロール7の基材の表面に厚さ1μm〜
100μmのクロム、ニッケル、または、それらを組み
合わせためっきでコートすることが好ましい。これによ
り、銅などの融点が低く、また硬度が低い冷却ロール基
材の欠点を補うことができる。また、溶湯冷却中にロー
ル表面に発生するロール基材の溶融および傷を抑制でき
る。その結果、ロール表面の中心線粗さRaを長期間2
0μm以下に保持できる。鍍金膜の厚さは、膜強度およ
び熱伝導の観点から、1μm〜100μmの範囲内にあ
ることが好ましい。鍍金膜の更に好ましい厚さは5μm
〜70μmであり、最も好ましい厚さは10μm〜40
μmである。
【0176】なお、合金溶湯3の一条あたりの溶湯急冷
処理速度が1kg/分未満の場合、冷却ロール上にパド
ル6が形成されず、安定した溶湯急冷状態が維持できな
い。一方、合金溶湯3の一条あたりの溶湯急冷処理速度
が4kg/分以上になると、ロール表面で形成しうるパ
ドル6の体積以上に溶湯3が供給されるため、余分な溶
湯3はスプラッシュとなり急冷されない。従って、合金
溶湯3の一条あたりの溶湯急冷処理速度は、0.7kg
/分以上、4kg/分未満であることが好ましい。更に
好ましい範囲は1kg/分以上3kg/分未満であり、
最も好ましい範囲は1kg/分以上2kg/分未満であ
る。量産性の観点からは、図4に示すようなガイドを用
いて、冷却ロール上に供給する溶湯を複数条にすること
が好ましい。複数条の溶湯を流す場合は、溶湯同士が接
触しないような適切な間隔を設けることが望ましい。
【0177】本実施形態では、冷却ロール7のロール表
面速度を10m/秒以上26m/秒以下に設定する。ロ
ール表面速度が10m/秒以上にすることで、α−Fe
相が析出をより効果的に抑制することができる。ただ
し、ロール表面周速度が26m/秒を超えると、ロール
上に生成されるべき溶湯のパドル6が安定せず、溶湯が
跳ね飛ばされるような状態となる(スプラッシュが発生
する)ため、所望の溶湯急冷状態を得ることができな
い。ロール表面速度のより好ましい上限は、23m/秒
以下であり、更に好ましい上限は20m/秒以下であ
る。
【0178】パドル6の生成状態は、ロール表面速度以
外だけではなく、冷却ロール7への溶湯供給速度にも影
響される。安定したパドル6の生成状態を維持するに
は、冷却ロール7に供給する溶湯の1つの流れあたりの
溶湯供給速度を上述した範囲内に調節することが好まし
い。
【0179】本実施形態では、急冷雰囲きの圧力を0.
13kPa以上100kPa未満に調節する。急冷雰囲
気の圧力が0.13kPa未満になると、冷却ロール表
面に合金溶湯が張り付き、急冷合金をロールから剥離で
きなくなるおそれがある。一方、急冷雰囲気の圧力が1
00kPaを超えて大きくなると、冷却ロール表面と合
金溶湯との間に雰囲気ガスが巻き込まれ、ガスポケット
が生じやすくなる。ガスポケットが形成されると、均一
な急冷状態が得られず、不均質な急冷組織となるため、
過冷却状態を安定して得ることができなくなる。急冷雰
囲気の好ましい圧力範囲は1.3kPa以上90kPa
以下、より好ましい範囲は10kPa以上70kPa以
下、更に好ましい範囲は10kPa以上60kPa以下
である。最も好ましい範囲は30kPa以上50kPa
以下である。
【0180】以上のようにして合金溶湯を急冷する場
合、冷却ロール表面に対する合金溶湯の密着性が向上
し、高い冷却効果が均一に付与されるため、急冷合金が
適切に形成され、冷却ロールに巻きつくというトラブル
がほとんど生じなくなる。
【0181】[急冷合金の組織構造]図7は、Tiの添
加の有無により、急冷合金の断面組織構造がどのように
変化するかを模式的に示している。
【0182】まず、図7からわかるように、ストリップ
キャスト法で作製した急冷合金(リボン)は、メルトス
ピニング法によって作製される急冷合金よりも厚くなる
ため、急冷合金の自由面(冷却ロールと接触しない面:
上端面)近傍に結晶粒が形成される。また、ロール面
(冷却ロールと接触する面:下端面)の近傍において
も、結晶粒が形成される。これは、ロール面に不均一核
が生成されやすく、不均一核の回りに結晶成長が進行し
やすいためである。ストリップキャスト法にで作製した
急冷合金では、各端面から膜中央部に近づくに従って結
晶粒のサイズおよび結晶粒の体積密度は小さくなる。
【0183】Tiを添加した場合、形成される結晶粒は
全般に小さく、特に、α−Feは微細で数も少ない。そ
して、膜の中央部では非晶質部分が存在しやすく、ロー
ル面側に形成される結晶質層は、自由面側に形成される
結晶質層よりも薄い。更に、Tiを添加した場合は、鉄
基硼化物(Fe−B)が析出している。これに対し、T
iを添加しなかった場合、結晶粒のサイズは大きく、特
にα−Feが粗大である。自由面の冷却速度は、急冷合
金が厚くなるほど、低下するため、急冷合金が厚くなる
ほど、粗大な結晶粒が自由面側に形成されやすくなる。
このため、急冷合金を厚くするほど、最終的に得られる
磁石特性が低下してしまう。しかし、Tiの添加は、結
晶粒の粗大化を抑制する効果があるため、急冷合金を厚
く形成しやすくなる。本実施形態の場合、急冷合金の厚
さを50〜200μm程度の範囲に設定することが可能
である。粉砕後のおける粉末粒子の形状や磁気特性の観
点から、急冷合金の好ましい厚さは、60〜150μm
であり、更に好ましい厚さは、70〜120μmであ
る。このように本発明によれば、従来技術では困難であ
った厚さ80μm以上の急冷合金を作製して優れた磁気
特性を持つナノコンポジット磁石を得ることができる。
なお、図7においては、各結晶粒を模式的に実際よりも
大きく記載している。現実の各結晶粒のサイズは図示で
きない程度に小さい。
【0184】本実施形態にかかる高速ストリップキャス
ト法によれば、急冷合金の断面中央部分では非晶質が存
在しても、自由面およびロール面(厚さ方向を横切る2
つの端面)の側に結晶質部分が存在する。そして、Ti
を添加した場合、α−Feの粗大化が抑制されるため、
磁石特性が優れたものとなる。冷却ロールの周速度がス
トリップキャスト法としては従来よりも格段に速いた
め、結晶粒は粗大化せず、ナノコンポジット磁石に適し
た組織構造を持った急冷合金が得られる。また、急冷後
の合金(リボン)は、その自由面およびロール面の両面
近傍に結晶相が存在する組織構造を有しているため、熱
処理前に急冷合金を粉砕する場合でも、急冷合金の粉砕
が容易になり、粉砕効率が向上する。
【0185】なお、本実施形態の製造方法によって最終
的に得られるナノコンポジット磁石をモータに使用した
とき、強い減磁界が磁石に作用しても充分なレベルの磁
化を保持し続けるためには、600kA/m以上の高い
固有保磁力HcJを有することが望まれる。このように高
い保磁力を実現するには、急冷合金の金属組織中に含ま
れるR2Fe14B型化合物相の体積比率を60%以上に
することが必要になる。
【0186】本実施形態における鉄基希土類合金の組成
は、R2Fe14B相型化合物の化学量論組成に比べてR
濃度が低く、B濃度が高い。このような組成において
は、Tiの添加により、過剰に存在するBが鉄と結合
し、鉄基硼化物を形成しやすくなる。Tiの添加によっ
て得られる鉄基硼化物は、ナノメートルオーダーのサイ
ズを持ち、強磁性である。Tiの添加は、粗大なFeの
析出を抑制するだけでなく、上記の微細な強磁性鉄基硼
化物を生成するため、この鉄基硼化物とR2Fe14B型
化合物相とが交換相互作用によって強固に結合し、磁化
の低下を招来することなく、R2Fe14Bと同一の化学
量論組成を有する鉄基希土類合金磁石と同等レベルの硬
磁気特性を発現することが可能になる。
【0187】本実施形態における鉄基希土類合金磁石の
場合、硬磁性であるR2Fe14B相に加え、飽和磁化の
値がR2Fe14B相と同等レベル以上の軟磁性鉄基硼化
物を同一組織内に含むため、磁石のリコイル透磁率μr
が、同程度の保磁力HcJを有する合金では、鉄基硼化物
を含まない鉄基希土類合金磁石に比べて高くなる。具体
的には、本実施形態の鉄基希土類合金磁石におけるリコ
イル透磁率μrは、希土類Rの組成比率yが8.5原子
%以上10原子%未満の範囲では1.1〜1.4の値を
示し、組成比率yが7原子%以上8.5原子%以下の範
囲では1.2〜2.0の値を示す。なお、組成比率yが
8.5原子%以上10原子%未満の範囲において、本実
施形態の磁石の残留磁束密度Brは0.7〜0.9T、
保磁力Hc Jは600〜1200kA/mであり、組成比
率yが7原子%以上8.5原子%以下の範囲において、
残留磁束密度Brは0.75〜0.95T、保磁力HcJ
は500〜950kA/mである。なお、リコイル透磁
率μrの測定は。JIS規格のC2501−1989に
記載の方法で行った。リコイル透磁率μrは、ナノコン
ポジット構造が形成された合金、すなわち、硬磁性相お
よび軟磁性相が結晶化して交換相互作用によって磁気的
に結合した合金に固有のパラメータである。
【0188】リコイル透磁率μrは、磁石をモータに用
いる場合に磁石の性能を評価する上で重要な指標とな
る。以下、この点を説明する。すなわち、モータの回転
速度を増加させると逆起電力が増大し、逆起電力の大き
さが入力電圧に等しくなった時点でモータ回転数の上昇
が停止する。モータの回転数を更に高めるために、電気
的に磁石動作点(−B/H)が低パーミアンス側に下げ
ることにより、逆起電力を低くする必要がある(弱め界
磁制御)。このような制御により、モータ回転数の上限
を更に上昇させる効果は、磁石のリコイル透磁率μr
高いほど顕著である。本発明による磁石は、上述のよう
に高いリコイル透磁率μrを示すため、モータに対して
好適に用いられる。
【0189】なお、本発明では、冷却ロールの周速度が
ストリップキャスト法としては従来に比べて格段に速い
が、メルトスピニング法で実現されている周速度(例え
ば20m/秒以上)に比べると遅いため、もしTiを添
加しなければ、α−FeがR 2Fe14B系化合物に優先
して析出し、粗大化してしまう。
【0190】以上説明した急冷方法によって得られた急
冷合金は、粉砕された後、熱処理を受ける。
【0191】熱処理後における合金中のR2Fe14B型
化合物相のサイズ(平均粒径または平均長軸長さ)は、
単軸結晶粒径である300nm以下となる必要があり、
20nm以上200nm以下であることが好ましく、2
0nm以上100nm以下であることが更に好ましい。
これに対し、鉄基硼化物相やα−Fe相の平均結晶粒径
が50nmを超えると、各構成相間に働く交換相互作用
が弱まり、減磁曲線の角形性が劣化するため、(BH)
maxが低下してしまう。これらの平均結晶粒径が1nm
を下回ると、高い保磁力を得られなくなる。以上のこと
から、硼化物相やα−Fe相などの軟磁性相の平均粒径
は1nm以上50nm以下であることが好ましく、30
nm以下であることが更に好ましい。
【0192】本発明による製造方法で作製された合金か
ら最終的に得られる粉末粒子のサイズ(粒径)は好まし
くは10〜300μmであり、より好ましくは50〜1
50μmである。更に好ましい粒径の範囲は、80〜1
10μmである。
【0193】こうして得られた粉末粒子の長軸サイズに
対する短軸サイズの平均比率(アスペクト比)は0.3
〜1.0程度である。本実施形態で作製した急冷合金の
厚さが粉末粒径に対して充分に厚いため、等軸形状に近
い形状の粉末粒子が得られやすい。これに対し、通常の
メルトスピニングによって作製した急冷合金の厚さは2
0〜40μm程度と薄いため、本実施形態と同じ粉砕条
件では、アスペクト比の小さいフレーク状の粉末粒子が
得られる。本実施形態で得られる粉末は、アスペクト比
が1に近いため、充填性や流動性に優れ、ボンド磁石に
最適である。
【0194】このようにして得られた磁粉の保磁力HcJ
は600kA/m以上の値を示すことができる。
【0195】[磁粉の耐酸化性および磁気特性の粒度分
布依存性]本発明による製造方法で合金から最終的に得
られる磁粉(以下、ナノコンポジット磁粉と称する。)
の耐酸化性および磁気特性の粒度分布依存性を従来の急
冷磁石粉末と比較しながら説明する。
【0196】ここでは、本発明によるナノコンポジット
磁粉と、従来の急冷磁石粉末としてMQI社から市販さ
れているMQP−BおよびMQP−O(何れも最大粒径
が300μm以下)とを比較する。なお、本発明による
ナノコンポジット磁粉の試料は、以下のようにして作製
した。
【0197】まず、後述する実施例1と同様の方法で作
製した急冷合金(Nd:9原子%、B:11原子%、T
i:3原子%、Co:2原子%、残部Feの合金、平均
厚さ:70μm、標準偏差σ:13μm)を850μm
以下に粉砕した後、長さ約500mmの均熱帯を有する
フープベルト炉を用い、Ar流気下、ベルト送り速度1
00mm/分にて680℃に保持した炉内へ粉末を20
g/分の供給速度で投入することによって熱処理を施
し、磁粉を得た。得られた磁粉をピンディスクミルを用
いてアスペクト比が0.4以上1.0以下の粉末を体積
基準で30%程度含む粒度分布になるよう粉砕したもの
をナノコンポジット磁粉の試料NCP−0とした。
【0198】表1に、それぞれの磁粉を種々の温度(2
3℃、300℃および350℃)で大気中に1時間放置
した後の酸素含有率と磁気特性を示す。磁気特性は振動
式磁力計を用いて測定した。23℃で測定した結果とと
もに、大気中で300℃および350℃でそれぞれ1時
間放置した後に測定した結果を合せて示している。
【0199】表1に示したように、MQP−Bは、大気
中に300℃で1時間放置すると酸素含有量が0.67
質量%まで増加し、350℃で1時間放置すると、1.
93質量%まで増加した。MQP−Oは、300℃で1
時間放置すると酸素含有量が0.24質量%まで増加
し、350℃で1時間放置すると、0.59質量%まで
増加した。
【0200】これに対し、ナノコンポジット磁粉NCP
−0は、大気中に300℃で1時間放置しても酸素含有
量は0.10質量%までしか増加せず、350℃で1時
間放置した後の酸素含有率は、0.20質量%までであ
り、従来の急冷磁石粉末に比較して耐酸化性に優れてい
ることがわかる。
【0201】また、それぞれの磁粉の加熱質量増加率を
熱天秤を用いて測定した結果を図15に示す。なお、加
熱雰囲気は大気中で、昇温速度は10℃/分とした。図
15から分かるように、ナノコンポジット磁粉NCP−
0は、MQP−BやMQP−Oに比べて酸化による質量
増加が少なく、耐酸化性に優れている。
【0202】次に、表1の磁気特性についてみると、M
QP−Bは、磁気特性の低下も著しく、例えば(BH)
maxは、300℃で1時間放置すると23℃で1時間
放置したものの約65%まで低下し、350℃で1時間
放置すると約30%まで低下した。また、MQP−Oの
(BH)maxは、350℃で1時間放置すると23℃
で1時間放置したものの約80%未満にまで低下した。
これに対し、ナノコンポジット磁粉NCP−0は、35
0℃で1時間放置しても、その(BH)maxは23℃
で1時間放置したものの約90%までしか低下しなかっ
た。
【0203】このように、ナノコンポジット磁粉は耐酸
化性に優れているので、ボンド磁石を作製する工程(例
えば、コンパウンドの調製および/または熱硬化)にお
いて磁粉が酸化されにくい。従って、磁粉の酸化を抑制
するために従来の急冷磁石粉末(特にMQP−B)で必
要であった磁粉の防錆処理を簡素化または省略すること
ができる。また、コンパウンドを成形することによって
作製した成形体は、その強度を向上させるため樹脂を例
えば加熱して硬化する必要がある。従来の急冷磁石粉末
を用いる場合には、磁粉の酸化を抑制するために、真空
またはArなどの不活性ガス雰囲気中で加熱硬化する必
要があったが、ナノコンポジット磁粉を用いることによ
って、大気中で加熱硬化することが可能となる。すなわ
ち、ナノコンポジット磁粉を用いることによって、ボン
ド磁石の製造工程を簡略化し、コストを削減することが
できる。さらに、従来の急冷磁石粉末は、耐酸化性が低
かったので、例えば250℃〜300℃程度の温度で樹
脂と混練する工程や成形する工程を必要とする射出成形
用のボンド磁石には適用することが難しかったが、ナノ
コンポジット磁粉を用いることによって、射出成形によ
って作製されるボンド磁石を得ることができる。ナノコ
ンポジット磁粉の優れた耐酸化性の利点を十分に得るた
めには、300℃以上350℃以下の温度で1時間大気
中に放置した後の酸素含有率が0.24質量%以下とな
るように調製された磁粉を用いることが好ましく、上記
の酸素含有率が0.2質量%以下となるように調製され
た磁粉を用いることが好ましい。例えば、各種回転機や
アクチュエータ用のボンド磁石に求められる磁気特性を
考慮すると、これらのボンド磁石に好適に用いられる磁
粉の磁気特性としては、最終的な状態で、Br≧0.7
T、(BH)max≧80kJ/m3、HcJ≧600k
A/mを満足することが好ましい。上述の耐酸化性を有
する磁粉を用いると、ボンド磁石の作製工程における酸
化の影響を考慮しても上記の磁気特性を得ることができ
る。
【0204】
【表1】
【0205】本発明によるナノコンポジット磁粉は、そ
の組成および組織の特徴のため、その磁気特性に粒径依
存性が小さいという特徴を有している。ナノコンポジッ
ト磁粉は、希土類元素Rの含有率が比較的低く、Rがリ
ッチな粒界相が存在しないのに加え、R2Fe14B相を
取り囲むように小さな硼化物相が分散しており、さらに
Tiは硼素との親和性が高いので硼化物相は他の相より
も多くのTiを含有している。その結果、ナノコンポジ
ット磁粉は、従来の急冷磁石粉末に比べ耐酸化性に優れ
ており、優れた磁気特性を粉砕後に維持できる。
【0206】従来の急冷磁石粉末は比較的多量の希土類
元素Rを含むので酸化されやすく、粒径が小さいほど粉
末粒子表面の酸化による磁気特性の低下が顕著となる。
例えば、MQP−B(最大粒径300μm以下)では、
表2に示すように、粒径が75μm以下、特に53μm
以下の粉末粒子の磁気特性が低下している。残留磁束密
度Brについてみると、最も高い値を示している125
μm超150μm以下の粉末粒子の残留磁束密度B
r(0.90T)に対して、53μm以下の粉末粒子の
残留磁束密度Br(0.79T)は90%未満にまで低
下している。また、(BH)maxについて見ると、5
3μm以下の粉末粒子の平均の(BH)max(38μ
m以下と38μm超53μm以下の値の単純平均)は8
5.5kJ/m3であり、150μm超212μm以下
の粉末粒子の平均の(BH)max(150μm超18
0μm以下と180μm超212μm以下の値の単純平
均)である114.6kJ/m3の75%未満にまで低
下している。
【0207】これに対し、ナノコンポジット磁粉は酸化
による磁気特性の低下の割合が低く、磁気特性の粒径依
存性が小さい。例えば、ナノコンポジット磁粉NCP−
0(最大粒径300μm以下)では、表3に示すよう
に、磁気特性はほとんど粒径に依存せず、優れた磁気特
性を有している。例えば、残留磁束密度Brは、最も高
い値を示している106μm超125μm以下の粉末粒
子の残留磁束密度Br(0.845T)に対して、53
μm以下の粉末粒子の残留磁束密度Br(約0.829
T)は98%以上の値を有している。また、(BH)m
axについも、53μm以下の粉末粒子の平均の(B
H)maxは104.6kJ/m3であり、150μm
超212μm以下の粉末粒子の平均の(BH)maxで
ある106.6kJ/m3の98%以上の値を有してい
る。種々の組成のナノコンポジット磁粉について同様の
評価を行った結果、ほとんどの組成についてナノコンポ
ジット磁粉の53μm以下の粉末粒子の平均の(BH)
maxは、150μm超212μm以下の粉末粒子の平
均の(BH)maxの90%以上の値を有し、多くの組
成について95%以上の値が得られることが分かった。
なお、磁粉の粒度分布の評価は、JIS8801準拠の
標準ふるいを用いて行った。
【0208】
【表2】
【0209】
【表3】
【0210】このように、ナノコンポジット磁粉は従来
の急冷磁石粉末と同等以上の磁気特性を有しているの
で、従来の急冷磁石粉末(例えばMQ粉)の代わりにボ
ンド磁石用磁粉として用いることができる。勿論、ボン
ド磁石用磁粉をナノコンポジット磁粉のみで構成しても
良いが、例えば、上述したMQ粉のうちの粒径が53μ
m以下の粉末粒子をナノコンポジット磁粉に置き換えて
もよい。
【0211】以下に、53μm以下および38μm以下
の微粒子を混入することによって充填性が改善される効
果を実験結果を例示しながら説明する。
【0212】まず、表4に示すような種々の粒度分布を
有するナノコンポジット磁粉の試料NCP−1からNC
P−5を作製した。なお、NCP−1の磁粉は、0.5
mmφのスクリーンを用いてパワーミルで粉砕すること
によって調製し、他のNCP−2〜NCP−5の磁粉
は、上述したピンミル装置を用いて、それぞれ回転数を
3000rpm、4000rpm、5000rpmおよ
び8000rpmとすることによって調製した。これら
の磁粉試料NCP−1からNCP−5をタップデンサを
用いてタップ密度を測定した結果を表5に示す。表5に
は、それぞれの磁粉試料中に含まれる粒径が53μm以
下の粉末粒子の質量%および粒径が250μm超の粉末
粒子の質量%を合せて示している。
【0213】表5の結果からわかるように、粒径が53
μm以下の粒子を10質量%以上(厳密には9.5質量
%以上)含む試料NCP−3〜NCP−5は、タップ密
度が4.3g/cm3以上と高く、磁粉の充填性が優れ
ていることが分かる。磁粉のタップ密度で評価される磁
粉の充填性は、ボンド磁石用のコンパウンドの粉末の充
填性と相関しており、充填性の高い磁粉を用いて調製さ
れたコンパウンドの粉末の充填性も高くなる。従って、
粒径が53μm以下のナノコンポジット磁粉を10質量
%含む磁粉を用いることによって、ボンド磁石用コンパ
ウンドの粉末の充填性や流動性が改善され、高品質の成
形体を得ることができる。
【0214】
【表4】
【0215】
【表5】
【0216】さらに、成形密度を向上するためには、粒
径が38μm以下の粉末粒子を含むことが好ましい。表
6に示す粒度分布を有するナノコンポジット磁粉NCP
−11からNCP−16を調製し、それぞれ2質量%の
エポキシ樹脂と混合することによってコンパウンドを得
た。それぞれのコンパウンドを用いて成形圧力980M
Pa(10t/cm2)で圧縮成形することによってボ
ンド磁石成形体を得た。それぞれのボンド磁石成形体の
密度を、それぞれのコンパウンドに用いた磁粉中の粒径
が38μm以下の粉末粒子の含有率とともに図16に示
す。
【0217】
【表6】
【0218】図16からわかるように、38μm以下の
粉末粒子の含有率が低すぎても高すぎても成形体の密度
は低下する。種々検討した結果、十分な成形体密度を得
るためには、粒径が38μm以下の粉末粒子を約8質量
%以上含む磁粉を用いることが好ましい。但し、粒径が
38μm以下の粉末粒子の含有率が約16質量%を超え
る磁粉を用いると、成形性が低下し、高い密度の高品位
の成形体が得られないことがある。
【0219】〔コンパウンドおよび磁石体の製造方法の
説明〕上述のナノコンポジット磁粉を含むボンド磁石用
磁粉は、樹脂等の結合剤と混合され、ボンド磁石用コン
パウンドが製造される。
【0220】射出成形用のコンパウンドは、公知の混練
装置(例えばニーダや押出し機)を用いて磁粉と熱可塑
性樹脂とを混練することによって製造される。また、圧
縮成形用のコンパウンドは、溶剤で希釈した熱硬化性樹
脂と磁粉とを混合し、溶剤を除去することによって製造
される。得られた磁粉と樹脂との混合物は、必要に応じ
て、所定の粒度となるように解砕される。解砕の条件な
どを調整することによって、顆粒状としてもよい。ま
た、粉砕によって得られた粉末材料を造粒してもよい。
【0221】磁粉の耐食性を向上するために、磁粉の表
面に予め化成処理等の公知の表面処理を施しても良い。
さらに、磁粉の耐食性や樹脂との濡れ性、コンパウンド
の成形性をさらに改善するために、シラン系、チタネー
ト系、アルミネート系、ジルコネート系などの各種カッ
プリング剤、コロイダルシリカなどセラミックス超微粒
子、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸カルシウムなどの
潤滑剤を使用してもよく、熱安定剤、難燃剤、可塑剤な
どを使用してもよい。
【0222】磁石用コンパウンドは種々の成形方法で種
々の用途に用いられるので、用途に応じて、樹脂の種類
および磁粉の配合比率が適宜決められる。樹脂として
は、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂やメラミン樹
脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド(ナイロン66、
ナイロン6、ナイロン12等)や、ポリエチレン、ポリ
プロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリフェ
ニレンサルファイドなどの熱可塑性樹脂や、ゴムやエラ
ストマ、さらには、これらの変性体、共重合体、混合物
などを用いることができる。
【0223】さらに、本発明の磁粉によってコンパウン
ドの充填性および/または成形性が改善されるので、従
来は用いることが難しかった高粘度の樹脂を用いること
もできる。さらに、磁粉は酸化されにくいので、融点ま
たは軟化点が高く従来は使用できなかった樹脂(例え
ば、ポリイミドや液晶ポリマなど、また、種々の樹脂の
高分子量グレード品)を用いることができるので、ボン
ド磁石の特性(耐熱性など)を改善することが出来る。
また、熱硬化性樹脂を用いる場合においても、従来より
も高い温度で硬化する樹脂を用いることができる。
【0224】成形方法としては、圧縮成形、圧延成形、
カレンダー成形、押出し成形および射出成形を例示する
ことができる。これらの成形方法のうち、圧縮成形、圧
延成形および押出し成形では、比較的単純な形状の成形
体しか成形できないが、成形時にあまり高い流動性が要
求されないので、磁石粉末の充填率を高くできる。本発
明による磁粉を用いることによって、従来よりも更に高
い(例えば80%を超える)磁粉充填率を実現すること
ができ、最大で90%程度まで充填することができる。
但し、充填率を上げすぎると磁粉同士を十分に結合する
ための樹脂が不足し、ボンド磁石の機械的な強度の低下
や、使用時に磁粉の脱落が生じる恐れがあるので、磁粉
充填率は、85%以下が好ましい。また、圧縮成形にお
いては本発明の磁粉を用いることによって、成形体の表
面に形成される空隙(ボイド)の量を減少でき、表面に
形成する樹脂被膜への悪影響を抑制できるという利点が
得られる。これらの成形方法には、適宜、熱硬化性樹
脂、熱可塑性樹脂、ゴム等が用いられる。
【0225】本発明による磁粉を用いると流動性が向上
するので、特に、射出成形用コンパウンドに好適に用い
られる。従来の急冷磁石粉末を用いたコンパウンドでは
成形が困難であった複雑な形状の成形体を得ることがで
きる。また、従来よりも高い充填率(例えば65%を超
える)で磁石粉末を配合できるので、磁石体の磁気特性
を向上することができる。さらに、本発明による磁粉
は、希土類元素の含有率が比較的少ないので、酸化され
難い。従って、比較的軟化点の高い熱可塑性樹脂や熱可
塑性エラストマを用いて、比較的高い温度で射出成形を
行っても磁気特性が低下しない。
【0226】[ボンド磁石の応用例]本発明によるボン
ド磁石用コンパウンドは、上述したように、従来の急冷
磁石粉末(例えばMQI社製の製品名MQP−B)を用
いたコンパウンドに比べ、優れた充填性(成形性)を有
するとともに、耐熱性に優れており、且つ、従来の急冷
磁石粉末を用いたボンド磁石と同等以上の磁気特性を有
するボンド磁石を形成することができるので、種々の用
途に好適に用いられる。
【0227】図17を参照しながら、ステッピングモー
タに応用した例を説明する。
【0228】図17は、永久磁石回転子型を備えるステ
ッピングモータ100の構成を模式的に示す分解斜視図
である。ステッピングモータ100は、ロータ101
と、ロータ101の周辺に設けられたステータ部102
とを有している。ロータ101は、外径8mmの外周面
を10極に均等に着磁したボンド磁石を備えている。ス
テータ部102は、外ヨーク102aおよび102b
と、これらと互いに背中合わせに接合された2個の内ヨ
ーク103と、これらの間に収容された励磁コイル10
4aおよび104bとを備えている。このステッピング
モータ100は、1パルス電流に対応する励磁コイル1
04aおよび104bの起磁力により1ステップ角だけ
ロータ101が変位する動作を行う、いわゆるPM型パ
ルスモータである。
【0229】ロータ101が備えるボンド磁石は、上述
した本発明による充填性(成形性)に優れたコンパウン
ドを用いて形成されており、従来の急冷磁石粉末を用い
たボンド磁石と同等以上の磁気特性を有するとともに、
機械的特性に優れ、欠けなどが発生する恐れがなく、信
頼性に優れている。また、耐熱性にも優れる。
【0230】このような本発明によるコンパウンドを用
いて形成されたボンド磁石を備えるステッピングモータ
は、小型・高性能で且つ信頼性に優れており、プリンタ
ーやディスクドライブ装置などのOA機器やカメラやビ
デオなどのAV機器などに好適に用いられる。
【0231】ロータ101は、種々の方法で製造するこ
とができる。例えば、熱硬化性樹脂を用いたコンパウン
ドを圧縮成形することによって形成しても良いし、熱可
塑性樹脂を用いたコンパウンドを射出成形または押出し
成形することによって形成してもよい。以下、図18を
参照しながら、ロータ101の製造方法を説明する。
【0232】例えば、熱硬化性樹脂を結合剤とするコン
パウンドを用いる場合、図18(a)〜(c)を参照し
ながら説明するような成形方法を採用することによっ
て、図18(d)に示すボンド磁石一体成形型のロータ
200を作製することができる。
【0233】図18(d)に示したロータ200は、ロ
ータ軸205と、そのまわりに設けられたヨーク208
と、ボンド磁石210とを備えている。ボンド磁石21
0は、ヨーク208の表面212に接着されている。
【0234】ロータ200は、図18(a)から(c)
に示した工程で製造される。
【0235】まず、図18(a)に示したように、ま
ず、粉末状のコンパウンド201を収容したフィーダボ
ックス203を金型204の上面で摺動させながらコン
パウンド201をキャビティ202内に充填する。金型
204には、ロータ軸205がその中央に圧入されたヨ
ーク208がセットされており、ロータ軸205を覆う
ように補助部材207が設けられている。金型204と
これらの間にキャビティ202が形成されている。
【0236】次に、例えば、図18(b)に示すよう
に、上パンチ209を介して、コンパウンド201を圧
縮成形することによって、ヨーク208とコンパウンド
201の成形体とを物理的に結合させる。
【0237】次に、図18(c)に示すように、ロータ
成形体を金型204から取り出す。補助部材は207
は、ロータ軸205およびヨーク208から簡単に取り
外され、ロータ軸205、ヨーク208、ボンド磁石2
10は一体化されている。但し、この状態では、ボンド
磁石210はコンパウンドの粉末成形体であり、コンパ
ウンドに含まれている熱硬化性樹脂は未硬化である。
【0238】次に、ボンド磁石210を硬化するため、
およびヨーク208とボンド磁石210との界面212
における接合を強化するために、コンパウンドを所定の
温度で硬化させる。硬化温度および硬化時間は用いる樹
脂に応じて適宜設定される。
【0239】本発明によるコンパウンドは、耐熱性に優
れる磁粉を含んでいるので、従来よりも高い硬化温度で
好適に硬化されるコンパウンドであり得る。従って、従
来よりも、耐熱性、機械特性および接着強度に優れたボ
ンド磁石210を形成することができる。さらに、本発
明によるコンパウンドは、磁粉自体が耐食性に優れてい
るため、熱硬化処理を大気中で行っても磁石特性の劣化
は極めて小さい。従って、熱硬化処理を不活性雰囲気で
行う必要がないので工程費用を削減できる。
【0240】上述した成形方法によると、リング状のボ
ンド磁石210を成形しながら、同時に、ヨーク208
およびロータ軸205とボンド磁石210とを一体に成
形できるので、ロ−タ200を高い生産性で製造するこ
とができる。
【0241】なお、金型204から成形体を取り出して
から硬化する例を説明したが、金型204に加熱機構を
設けて、金型204内で硬化してもよく、加圧した状態
で硬化してもよい。さらに、圧縮成形に限られず、射出
成形によってボンド磁石一体成形型ロータを形成するこ
ともできる。
【0242】また、本発明によるコンパウンドは、従来
の急冷磁石粉末を用いたコンパウンドに比べて高い充填
性(成形性および/または流動性)を有するので、小さ
な間隙(例えば、約2mm幅)に確実に充填することが
できる。従って、本発明によるコンパウンドは、IPM
(Interior Permanent Magne
t)型モータに用いられる磁石埋設型ロータ300(図
19参照)の製造に好適に用いられる。
【0243】図19に示した磁石埋設型ロータ300
は、鉄心(例えば直径80mm、厚さ50mm)301
と、鉄心301の中心に形成された回転軸スロット30
2と、鉄心301の周辺部に形成された複数のアーク状
磁石スロット304とを備えている。ここでは、8個の
アーク状磁石スロット304が設けられており、それぞ
れのスロット304は、第1スロット(例えば幅3.5
mm)304aと第2スロット(例えば幅1.8mm)
304bとを有する2層構造となっている。これらのス
ロット304aおよび304b内に本発明によるコンパ
ウンドを充填し、ボンド磁石を形成する。ロータ300
の複数の磁石スロット304に対向するようにS極とN
極とが交互に配置されたステータ(不図示)と組み合わ
せることによってIPM型モータが得られる。
【0244】ボンド磁石の成形は、種々の方法で実行す
ることができる。例えば、熱硬化性樹脂を含むコンパウ
ンドを用いる場合、スロット内圧縮成形法(例えば特開
昭63−98108号公報参照)を採用することができ
る。また、熱可塑性樹脂を含むコンパウンドを用いる場
合には、押出成形法や射出成形法を採用することができ
る。何れの成形方法を採用する場合においても、本発明
によるコンパウンドは充填性に優れるので、スロット3
04aおよび304b内に確実に充填でき、且つ、機械
特性や耐熱性が優れるとともに、従来と同等以上の磁気
特性を有するボンド磁石を形成することができる。従っ
て、従来よりも高性能で高信頼性の小型IPM型モータ
を作製することが可能になる。
【0245】本発明によるコンパウンドは、図20
(a)に示す角度センサ(ロータリーエンコーダ)40
0が有するボンド磁石の形成に好適に用いられる。
【0246】図20(a)に示したロータリエンコーダ
411は、回転軸413と、回転軸413に連結された
回転ドラム416と、回転ドラム416の外周面に接合
された複数のボンド磁石415とを有するロータ414
と、ロータ414の外周面に離間して配置された検出器
417とを備えている。検出器417は、ロータ414
からの磁束の変化を検出できるものであれば、特に限定
されず、例えば、ホール素子、磁気抵抗素子、磁気イン
ピーダンス効果素子を用いることができる。また、回転
軸413はモータ412に連結されている。検出器17
は、図示しない計測部に接続されている。
【0247】本発明によるコンパウンドを用いて形成さ
れたボンド磁石415は、例えば、図20(b)に示し
たような円柱状のものであり、回転ドラム416の外周
面に沿ってN極とS極とが交互に配置されている。ボン
ド磁石415と回転ドラム416との接合は、例えば接
着剤等によって行われている。回転ドラム416は、例
えば、金属材料を用いて形成され、磁性材料でなくても
よい。
【0248】このロータリエンコーダ400は、以下の
ように動作する。モータ412の回転軸413が回転す
ると、その回転に応じてロータ414が回転する。この
とき、ロータ414の外周面に配置されたボンド磁石4
15が検出器417に形成する磁束の向きが、ロータ4
14の回転に従って変化する。検出器417はこの磁束
の向きの変化に相当する出力信号(電圧の変化量または
電流の変化量等)を生成し、計測部(不図示)に出力す
る。このようにして、モータ412の回転量(角度)が
計測される。
【0249】本発明によるコンパウンドは充填性(成形
性、流動性)に優れ、従来と同等以上の磁気特性を有
し、且つ、従来よりも機械特性や耐熱性に優れるボンド
磁石を形成することができるので、小型で高性能で信頼
性の高い角度センサを作製することが可能になる。
【0250】さらに、本発明によるコンパウンドは、図
21(a)および(b)を参照しながら説明する磁気ロ
ール用のボンド磁石の形成に好適に用いられる。
【0251】図21(a)は、電子写真用のプロセスカ
ートリッジ501の構造を模式的に示す断面図である。
カートリッジ501は、矢印A方向に回転駆動される感
光ドラム510と、感光ドラム510を帯電するための
帯電ローラ502と、現像装置511と、クリーニング
装置512とを一体に有している。
【0252】現像装置511は、トナー513を収容す
る現像容器509を備え、現像容器509の開口部には
感光ドラム510に対向するように現像スリーブ506
が回転可能に配設されている。また、現像装置511は
弾性ブレード514を備えており、弾性ブレード514
は現像スリーブ506に当接し、現像スリーブ506に
より担持搬送されるトナー513の層厚を規制する。
【0253】図21(b)は、プロセスカートリッジ5
01が有する現像装置511の構成を模式的に示す断面
図である。
【0254】現像スリーブ506は非磁性材料で形成さ
れており、軸受を介して現像容器509に回転可能に支
持されている。現像スリーブ(例えば直径10mm)5
06内には磁気ロール(例えば直径8.5mm)507
が配設されている。磁気ロール507の軸部507aに
は切欠き507a−1が形成されており、切欠き507
a−1が現像容器509に係合することによって磁気ロ
ール507が固定されている。磁気ロール507は、感
光ドラム510と対向する位置に現像極S1を有し、そ
の他の位置にはS2極、N1極およびN2極を有してい
る。
【0255】磁石508は、現像スリーブ506を包囲
するように配置されており、現像スリーブ506との間
隙gに磁気カーテンを形成し、この磁気カーテンによっ
て間隙内にトナーを保持することによって、トナー漏れ
が防止される。
【0256】磁気ロール507は本発明によるコンパウ
ンドを用いて形成されているので、従来の磁石と同等以
上の磁気特性を有し、且つ、機械特性や耐熱性にも優れ
る。従って、磁気ロール507や現像スリーブ506を
従来よりも更に小型化するこが可能であるとともに、性
能を向上することができる。本発明によるコンパウンド
を用いて形成された磁気ロールは、複写機やレーザビー
ムプリンタ内の現像装置や現像カートリッジにも適用で
きる。
【0257】
【実施例】(実施例1)下記の表7に示す組成を有し、
総量が600グラム(g)となるように純度99.5%
以上のB、Fe、Ti、Nd、およびNbを秤量し、ア
ルミナ製坩堝に投入した。その後、これらの合金原料を
高周波加熱によって圧力70kPaのアルゴン(Ar)
雰囲気中で溶解し、合金溶湯を作製した。溶湯温度が1
500℃に到達した後、水冷した銅製鋳型上に鋳込み、
平板状の合金を作製した。
【0258】得られた合金を粉砕した後、25ミリグラ
ム(mg)の粉砕片を溶解し、Ar気流中で示差熱量計
(DTA)を用い、冷却速度20℃/分で合金溶湯の凝
固過程を解析した。測定結果を表7に示す。
【0259】
【表7】
【0260】ここで、試料No.1〜5は、Tiに加え
てNbを添加した試料であり、試料No.6〜7はNb
を添加しなかった試料である。
【0261】表7の最右欄には、各試料No.1〜7の
合金溶湯について、合金溶湯の凝固過程を特徴付ける温
度を記載している。「1st」と表記されている温度
は、合金溶湯を冷却する過程で最初の凝固が生じた温度
(「液相線温度」)を示している。「2nd」と表記さ
れている温度は、合金溶湯を冷却する過程で液相線温度
より低い温度で次の凝固が生じた温度(「凝固点」)を
示している。これらの温度は、具体的には、示差熱熱量
計(DTA)によって発熱ピークが観測された温度であ
る。
【0262】図8は、試料No.2(Nb添加)および
試料No.6(Nb無添加)のDTAを示すグラフであ
る。図8から明らかなように、試料No.2の場合、試
料No.6に比較して、冷却過程で生じる最初の発熱ピ
ークの温度、すなわち液相線温度(「1st」)が60
℃以上も低下している。
【0263】この最初の発熱ピークは、TiB2などの
チタンとホウ素の化合物相が析出することに起因してい
る可能性がある。本実施例では、Tiおよびホウ素を従
来よりも高濃度に添加しているため、チタンとホウ素の
化合物(高融点)が形成されやすく、その析出温度は高
いと推定される。Tiを添加しない従来の組成系(Fe
3B/Nd2Fe14B系)では、合金溶湯の液相線温度は
1200℃程度以下であった。本発明では、Tiととも
にNbが添加されることにより、このような化合物の析
出温度が下がり、合金溶湯の液相線温度が低下したもの
と考えられる。
【0264】試料No.6(比較例)の合金を用いる場
合は、1350℃程度の高い出湯温度でストリップキャ
スティングを実行する必要があるが、試料No.2(実
施例)の合金を用いる場合は、出湯温度を例えば約12
50℃程度に設定することが可能である。このように出
湯温度が低減されると、溶湯の冷却過程で早くに析出す
るR2Fe14B型化合物やTiB2の粗大化が抑制され、
磁石特性が向上する。
【0265】(実施例2)下記の表2に示す組成を有
し、総量が600gとなるように純度99.5%以上の
B、Fe、Ti、Nd、およびCを秤量し、アルミナ製
坩堝に投入した。その後、これらの合金原料を高周波加
熱によって圧力70kPaのアルゴン(Ar)雰囲気中
で溶解し、合金溶湯を作製した。溶湯温度が1500℃
に到達した後、水冷した銅製鋳型上に鋳込み、平板状の
合金を作製した。
【0266】得られた合金を粉砕した後、25ミリグラ
ム(mg)の粉砕片を溶解し、Ar気流中で示差熱熱量
計(DTA)を用い、冷却速度20℃/分で合金溶湯の
凝固過程を解析した。測定結果を表8に示す。
【0267】
【表8】
【0268】ここで、試料No.8〜13は、Tiとと
もにCを添加した試料であり、試料No.14〜15は
Cを添加しなかった試料である。
【0269】表8の最右欄には、各試料No.8〜15
の合金溶湯について、合金溶湯の凝固過程を特徴付ける
温度を記載している。「1st」と表記されている温度
は、合金溶湯を冷却する過程で最初の凝固が生じた温度
(「液相線温度」)を示している。「2nd」と表記さ
れている温度は、合金溶湯を冷却する過程で液相線温度
より低い温度で次の凝固が生じた温度(「凝固点」)を
示している。これらの温度は、具体的には、示差熱熱量
計(DTA)によって発熱ピークが観測された温度であ
る。
【0270】図9は、試料No.8(C添加)および試
料No.14(C無添加)のDTAを示すグラフであ
る。図9から明らかなように、試料No.8の場合、試
料No.14に比較して、冷却過程で生じる最初の発熱
ピークの温度、すなわち液相線温度(「1st」)が4
0℃程度も低下している。
【0271】この最初の発熱ピークは、TiB2などの
チタンとホウ素の化合物相が析出することに起因してい
る可能性がある。本実施例では、Tiおよびホウ素を従
来よりも高濃度に添加しているため、チタンとホウ素の
化合物(高融点)が形成されやすく、その析出温度は高
いと推定される。Tiを添加しない従来の組成系(Fe
3B/Nd2Fe14B系)では、合金溶湯の液相線温度は
1200℃程度以下であった。本発明の実施例では、T
iとともにCが添加されていたことにより、このような
化合物の析出温度が下がり、合金溶湯の液相線温度が低
下したものと考えられる。
【0272】試料No.14の合金を用いる場合は、1
350℃程度の高い出湯温度でストリップキャスティン
グなどを実行する必要があるが、試料No.8(実施
例)の合金を用いる場合は、出湯温度を例えば約130
0℃程度に設定することが可能である。このように出湯
温度が低減されると、溶湯の冷却過程で早くに析出する
2Fe14B型化合物やTiB2の粗大化が抑制され、磁
石特性が向上する。
【0273】次に、表8に示す組成を有し、総量が15
gとなるように純度99.5%以上のB、Fe、Ti、
Nd、およびCを秤量し、底部に直径0.8mmのオリ
フィスを有する石英坩堝に投入した。その後、これらの
合金原料を高周波加熱によって圧力1.33〜47.9
2kPaのAr雰囲気中で溶解し、合金溶湯を作製し
た。溶湯温度が1350℃に到達した後、湯面をArガ
スで加圧し、オリフィスから溶湯を0.7mm下方に位
置する冷却ロールの外周面へ滴下した。冷却ロールは純
銅製であり、外周面速度が15m/秒となるように回転
させていた。このような冷却ロールとの接触により、合
金溶湯は急冷され、凝固した。こうして、幅2〜3m
m、厚さ20〜50μmの連続した急冷凝固合金の薄帯
が得られた。図10は、試料No.8および試料No.
14のXRDのパターンを示すグラフである。図10か
ら明らかなように、試料No.8の場合、非晶質が大部
分を占めているのに対して、試料No.14では、結晶
組織の割合が多い。
【0274】この急冷凝固合金薄帯をAr雰囲気中にお
いて600〜800℃の熱処理温度範囲で6〜8分間保
持し、その後、室温まで冷却した。この後、VSMを用
いて急冷合金薄帯(長さ3〜5mm)の磁気特性を評価
した。測定結果を表9に示す。
【0275】
【表9】
【0276】次に、表8の試料No.13と同一の組成
を有する原料合金を用意し、図3に示すようなストリッ
プキャスト装置を用いて、急冷合金を作製した。具体的
には、総量が10kgとなるように純度99.5%以上
のB、Fe、Ti、Nd、およびCを秤量し、溶解槽に
投入した。その後、これらの合金原料を高周波加熱によ
って圧力30kPaのAr雰囲気中で溶解し、合金溶湯
を作製した。溶湯温度が1350℃に到達した後、溶湯
をシュートに流した。溶湯はシュート上をスムーズに流
れ、冷却ロールにより冷却された。冷却ロールの表面周
速度は12m/秒とした。
【0277】こうして得られた急冷合金(平均厚さ:8
0μm程度)をAr雰囲気中において740℃の熱処理
温度範囲で6〜8分間保持し、その後、室温まで冷却し
た。その後、VSMを用いて急冷合金の磁気特性を評価
した。
【0278】測定結果は、残留磁束密度Brが0.79
T、保磁力HcJが1090kA/m、最大磁気エネルギ
積(BH)maxが102kJ/m3であった。この磁気特
性を表9に示す試料No.8の磁気特性と比較すると、
ほぼ同等の特性が得られたことがわかる。
【0279】次に、Cが(B+C)の合計に占める割合
(原子比率p)が0.25以下の試料と、pが0.25
を超える試料について、XRD及び減磁曲線を測定し
た。
【0280】図11は、Nd9Fe7312.61.4Ti4
(実施例:p=0.1)及びNd9Fe7377Ti
4(比較例:p=0.5)の熱処理前におけるXRDパ
ターンを示している。これらの試料は、組成は異なる
が、いずれも前述した実施例と同様にして作製された。
なお、図12は、Nd9Fe7312.61.4Ti4(実施
例)及びNd9Fe7377Ti4(比較例)の減磁曲線
を示している。
【0281】Cの比率pが0.25を超えて0.5に達
する場合、図11に示されるように、Ti−Cの回折ピ
ークが顕著に観察される。このようにCが多過ぎると、
急冷合金中にTi−C相が多く析出するため、熱処理後
の構成相比率が所望範囲からずれ、図12に示すように
減磁曲線の角形性が悪くなる。Cが(B+C)の合計に
占める割合(原子比率p)が0.25以下であれば、こ
のような問題は生じなかった。
【0282】(実施例3)本実施例では、図3に示すス
トリップキャスト装置を用いた。
【0283】まず、原子比率でNd9Fe7312.61.4
Ti3Nb1の組成を有するように、純度99.5%以上の
B、C、Fe、Nb、Ti、およびNdの金属を用いて
総量が5kgとなるように秤量した。これらの金属をア
ルミナ製坩堝内に投入し、圧力35kPaのアルゴン雰
囲気中で高周波加熱により溶解した。溶解温度は135
0℃とした。
【0284】溶解後、坩堝を傾転し、溶湯を多孔質セラ
ミックス製のシュート上に供給し、冷却ロールの表面へ
導いた。シュートの表面温度はヒータによって600℃
に保持した。また、シュート上において溶湯がロールへ
向かってスムーズに流れるように、シュートを水平方向
に対して20°(=角度α)だけ傾けた。また、溶湯
は、ロールの直上部から坩堝の位置へ40°(=角度
β)だけ傾斜した位置に注がれるようにシュートを配置
した。なお、本実施例におけるシュートは、図4に示す
ように、坩堝から受けた溶湯の流れを2条に分けてロー
ルへ供給するための溶湯ガイドを有している。
【0285】冷却ロールは14m/秒の表面周速度で回
転させた。坩堝の傾転角を調整することにより、シュー
ト上を流れる溶湯の供給速度を、溶湯の1つの流れあた
り1.5kg/分になるよう調整した。本実施例では、
表面の中心線粗さRaが5μmの純銅製ロールを用い
た。ロール温度の上昇はロール内部の水冷によって防止
した。
【0286】得られた急冷合金の組織をCuKαの特性
X線により調べたところ、Nd2Fe14Bの回折ピーク
とともに、Fe236およびα−Feが混在している急
冷合金組織であることを確認した。
【0287】図13は、得られた急冷合金の粉末XRD
を示し、図14は振動型磁力計を用いて測定した急冷合
金の減磁曲線を示す。図13および図14において、
「as−cast」と記載している曲線が急冷合金に関
するものである。
【0288】次に、急冷合金をパワーミルによって粉砕
した。その後、アルゴンガスで流気し、炉内温度を74
0℃に保持したフープベルト式連続熱処理炉内に急冷合
金粉末を供給して熱処理を施した。このとき給粉速度は
30g/分に保持した。
【0289】熱処理後における粉末XRDおよび減磁曲
線も、それぞれ、図13および図14に示している。図
13および図14において、熱処理後のデータは「as
−annealed」と記載された曲線で示されてい
る。熱処理後の磁気特性を以下の表10に示す。
【0290】
【表10】
【0291】図14および表10からわかるように、本
実施例における鉄基永久磁石は良好な磁気特性を発揮し
た。
【0292】次に、熱処理後の微細金属組織を透過型電
子顕微鏡(TEM)にて観測した。その結果、熱処理後
の組織内には、平均粒径40nm程度の結晶粒と、その
粒界に10nm程度の微細結晶粒とが存在していること
がわかった。また、HRTEM(高解像透過電子顕微
鏡)による金属組織解析の結果、平均粒径40nm程度
の結晶粒はNd2Fe14Bであり、その粒界にはFe23
6またはFe3Bの鉄基硼化物が存在していることを確
認した。
【0293】(実施例4)本実施例でも、図3に示すス
トリップキャスト装置を用いた。
【0294】まず、原子比率でNd9Fe7312.61.4
Ti3Nb1の組成を有するように、純度99.5%以上の
B、C、Fe、Nb、Ti、およびNdの金属を用いて
総量が5kgとなるように秤量した。これらの金属をア
ルミナ製坩堝内に投入し、圧力35kPaのアルゴン雰
囲気中で高周波加熱により溶解した。溶解温度は135
0℃とした。
【0295】溶解後、坩堝を傾転し、溶湯を多孔質セラ
ミックス製のシュート上に供給し、冷却ロールの表面へ
導いた。シュートの表面温度はヒータによって600℃
に保持した。また、シュート上において溶湯がロールへ
向かってスムーズに流れるように、シュートを水平方向
に対して20°(=角度α)だけ傾けた。また、溶湯
は、ロールの直上部から坩堝の位置へ40°(=角度
β)だけ傾斜した位置に注がれるようにシュートを配置
した。本実施例でも、図4に示すシュートを用いた。
【0296】本実施例では、表11に示す表面周速度で
冷却ロールを回転させた。また、坩堝の傾転角を調整す
ることにより、シュート上を流れる溶湯の供給速度(1
つの流れあたり)を表11に示すように調整した。溶湯
の1つの流れの幅は10mmとして、ロール周速度およ
び溶湯供給速度が急冷に与える影響を調べた。
【0297】なお、本実施例でも、実施例3と同様に、
表面の中心線粗さRaが5μmの純銅製ロールを用い
た。ロール温度の上昇はロール内部の水冷によって防止
した。
【0298】
【表11】
【0299】表11において、「○」は、安定して急冷
合金を作製できた場合を示している。これに対し、
「×」はスプラッシュが発生し、所望の組織を有する急
冷合金を安定して得ることができなかった場合を示して
いる。「△」は、安定した急冷合金の作製がしばしば観
察されたものの、断続的にスプラッシュが発生した場合
を示している。
【0300】表11から、ロール表面周速度が10m/
秒以上18m/秒以下の場合、1つの溶湯流れあたりの
溶湯供給速度が1.0kg/分以上2.0kg/分以下
で安定した急冷が実現していることがわかる。ロール表
面周速度が速くなるほど、急冷合金薄帯は薄くなり、ま
た、スプラッシュも発生しやすくなる。
【0301】溶湯の1つの流れあたりの溶湯供給速度
は、急冷合金薄帯の厚さにはさほど影響しないが、急冷
合金薄帯の幅を変化させる。溶湯供給速度が大きいほ
ど、急冷合金薄帯の幅が広くなる。
【0302】急冷合金薄帯の厚さは、ロール表面周速度
に依存して変化する。すなわち、ロール表面周速度が速
いほど、急冷合金薄帯は薄くなる。例えば、ロール表面
周速度が10m/秒のとき、急冷合金薄帯の平均厚さは
100μm程度であり、ロール表面周速度が22m/秒
のとき、急冷合金薄帯の平均厚さは45〜80μm程度
である。
【0303】前述したように、急冷合金薄帯の厚さが厚
いほど(例えば80μmを超える厚さを持つ場合)、急
冷合金を粉砕することによって、等軸形状に近い形状の
粉末粒子が得られやすい。アスペクト比が1に近い粒子
が多く含まれる粉末を用いてボンド磁石を作製すれば、
磁石特性に優れたボンド磁石を得ることができる。
【0304】なお、ロールの表面周速度14m/秒、溶
湯の1つの流れあたりの溶湯供給量1.3kg/分の条
件で作製された急冷合金の組織をCuKαの特性X線に
より調べた。その結果、Nd2Fe14Bの回折ピークと
ともに、Fe236およびα−Feが混在している急冷
合金組織であることを確認した。
【0305】
【発明の効果】本発明によれば、ストリップキャスト法
を用い、Tiを原料合金に添加した希土類合金溶湯の急
冷を行なうことにより、磁石に必要な希土類元素の量を
低減しながら保磁力および磁化が充分に高い優れた磁気
特性を発揮する鉄基希土類磁石用原料合金を量産するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で好適に使用されるストリップキャスト
装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明により製造されるナノコンポジット磁石
の組織を示す図である。
【図3】本発明で好適に使用されるストリップキャスト
装置の他の構成例を示す図である。
【図4】ストリップキャスト装置で用いられる合金溶湯
のシュート(案内手段)を示す斜視図である。
【図5】ストリップキャスト法に用いる冷却ロールの表
面における中心線粗さRaが合金溶湯の急冷に与える影
響を示す図である。
【図6】メルトスピニング法に用いる冷却ロールの表面
における中心線粗さRaが合金溶湯の急冷に与える影響
を示す図である。
【図7】ストリップキャスト法で形成された急冷合金の
組織構造を示す断面図であり、(a)はTiを添加した
R−T−B系合金の断面を示し、(b)はTiを添加し
ない従来のR−T−B系合金の断面を示している。
【図8】試料No.2および試料No.6のDTAを示
すグラフである。
【図9】試料No.8および試料No.14のDTAを
示すグラフである。
【図10】結晶化熱処理前(as−cast)の試料N
o.8および試料No.14の粉末X線回折データを示
すグラフである。
【図11】Nd9Fe7312.61.4Ti4(実施例:p
=0.1)及びNd9Fe7377Ti4(比較例:p=
0.5)の熱処理前におけるXRDパターンを示してい
る。
【図12】Nd9Fe7312.61.4Ti4(実施例)及
びNd9Fe7377Ti4(比較例)の減磁曲線を示し
ている。
【図13】本発明の実施例に関する粉末XRDのグラフ
である。「as−cast」と記載している曲線が急冷
合金に関するものであり、「as−annealed」
と記載している曲線が熱処理後における合金に関するも
のである。
【図14】振動型磁力計を用いて測定した本発明の実施
例に関する減磁曲線のグラフである。「as−cas
t」と記載している曲線が急冷合金に関するものであ
り、「as−annealed」と記載している曲線が
熱処理後における合金に関するものである。
【図15】本発明によるナノコンポジット磁粉および従
来の急冷磁石粉末の加熱質量増加率を示すグラフであ
る。
【図16】粒度分布の異なるナノコンポジット磁粉を用
いて形成されたボンド磁石成形体の密度を示すグラフで
ある。
【図17】本発明による実施形態の永久磁石回転子型を
備えるステッピングモータ100の構成を模式的に示す
分解斜視図である。
【図18】(a)〜(d)は、本発明による実施形態の
ボンド磁石一体成形型のロータ200およびその成形工
程を示す図である。
【図19】本発明による実施形態の磁石埋設型ロータ3
00の構造を示す模式図である。
【図20】(a)および(b)は、本発明による実施形
態のロータリーエンコーダ411の構造を模式的に示す
図である。
【図21】(a)および(b)は、本発明による実施形
態の磁気ロール507を備える電子写真用のプロセスカ
ートリッジ501の構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 溶解炉 2 溶解炉の底部出口 3 合金溶湯 4 樋 5 シュート(溶湯の案内手段) 6 合金溶湯のパドル 7 冷却ロール 8 急冷合金
フロントページの続き (31)優先権主張番号 特願2001−307819(P2001−307819) (32)優先日 平成13年10月3日(2001.10.3) (33)優先権主張国 日本(JP) 早期審査対象出願 (56)参考文献 特開 平2−298003(JP,A) 特開 平1−100242(JP,A) 特開 平8−167515(JP,A) 特開 平9−155507(JP,A) 特許3264664(JP,B2) 国際公開99/21196(WO,A1) 国際公開00/3403(WO,A1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 45/10 H01F 1/04 - 1/053 B22D 11/06

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-nx
    yTizn(TはCoおよびNiからなる群から選択
    された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から
    選択された1種以上の元素であって必ずBを含み、Rは
    希土類金属元素、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、
    Zn、Cu、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、
    W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択さ
    れた一種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比
    率)x、y、z、m、およびnが、それぞれ、 10<x≦20原子%、 6≦y<10原子%、 0.5≦z≦6原子%、 0≦m≦0.5、および 0≦n≦5原子%、 を満足する急冷合金であって、 厚さが50μm以上200μm以下、幅が5mm以上2
    0mm以下の範囲内にあり、 厚さ方向と直交する2つの端面に結晶組織が形成され 前記結晶組織は、平均粒径が1nm以上50nm以下の
    強磁性鉄基硼化物相と、平均粒径20nm以上200n
    m以下のR 2 Fe 14 B型化合物相とを含み、 前記強磁性鉄基硼化物相は、前記R 2 Fe 14 B型化合物
    相の粒界または亜粒界に存在し、かつ、前記R 2 Fe 14
    B型化合物相の存在比率が60体積%以上である ことを
    特徴とする、ナノコンポジット磁石用の急冷合金。
  2. 【請求項2】 前記両端面における結晶組織に挟まれた
    領域に非晶質部分が存在する請求項に記載の急冷合
    金。
  3. 【請求項3】 厚さが80μm以上である請求項に記
    載の急冷合金。
  4. 【請求項4】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-nx
    yTizn(TはCoおよびNiからなる群から選択
    された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から
    選択された1種以上の元素であって必ずBを含み、Rは
    希土類金属元素、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、
    Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、
    W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択さ
    れた一種以上の元素)で表現され、組成比率x、y、
    z、m、およびnが、それぞれ、 10<x≦20原子%、 6≦y<10原子%、 0.5≦z≦6原子%、 0≦m≦0.5、および 0≦n≦5原子%、 を満足するナノコンポジット磁石粉末であって、 厚さが60μm以上150μm以下の範囲内にあり、か
    つ、長軸サイズに対する短軸サイズの比率が0.3以上
    1以下であり平均粒径が1nm以上50nm以下の強磁性鉄基硼化物
    相と、平均粒径20nm以上200nm以下のR 2 Fe
    14 B型化合物相とを含み、 前記強磁性鉄基硼化物相は、前記R 2 Fe 14 B型化合物
    相の粒界または亜粒界に存在し、かつ、前記R 2 Fe 14
    B型化合物相の存在比率が60体積%以上であり、 リコイル透磁率が1.1以上2以下であるナノコンポジ
    ット磁石粉末
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