JP3346292B2 - 高強度Fe基焼結バルブシート - Google Patents

高強度Fe基焼結バルブシート

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、高密度、高強度
で耐摩耗性に優れかつ相手攻撃性の少ないFe基焼結バ
ルブシートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、焼結方法が進歩し、鉄基焼結合金
からなる各種機械部品を精度良く大量生産ができるよう
になり、エンジンのバルブシートも焼結により製造する
ようになってきた。焼結バルブシートの一例として、C
r:1〜3重量%、Mo:0.5〜3重量%、Ni:
0.5〜3重量%、Co:2〜8重量%、C:0.6〜
1.5重量%、Nb:0.2〜1重量%を含有し、残り
がFeおよび不可避不純物からなる組成ならびにパーラ
イト相およびベーナイト相を主体とした組織からなる鉄
基合金素地中にCr:25〜45重量%、W:20〜3
0重量%、Co:20〜30重量%、C:1〜3重量
%、Si:0.2〜2重量%、Nb:0.2〜2重量%
を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成
を有する硬質粒子と、Co:55〜85重量%、Cr:
25〜32重量%、Mo:7〜10重量%、Si:1.
5〜3.5重量%を含有し、残りがFeおよび不可避不
純物からなる組成の硬質粒子が合計で10〜25重量%
が均一に分散した組織を有する鉄基焼結合金で構成され
た焼結バルブシートが知られている(特開平3―158
445号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来の焼結バルブ
シートは素地中に硬質粒子を均一分散させているために
優れた耐摩耗性を示すものの、近年、高性能化、高燃費
化、軽量化を追求して開発され実用化されているエンジ
ンでは燃料を燃焼室内に直接噴射する直噴エンジンや空
燃比を高め希薄燃焼させるリーンバーンエンジンなどで
は燃焼室内が従来のエンジンよりも高温になり、かかる
高温下では従来のバルブシートでは十分な耐摩耗性が得
られず、さらに相手材であるバルブを激しく摩耗させる
という欠点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、
上述のような観点から、高温下で従来よりも耐摩耗性に
優れかつ相手材であるバルブに対する相手攻撃性の少な
い焼結バルブシートを得るべく研究を行なっていたとこ
ろ、 (a)Cu:20.7〜35重量%、Ni:0.5〜
4.6重量%、C:0.0005〜0.48重量%を含
有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成有す
るFe基合金で構成された焼結バルブシートは、従来の
焼結バルブシートよりも強度および耐摩耗性が格段に優
れ、かつ相手攻撃性が少ない、 (b)この(a)に記載のFe基焼結バルブシートは、
Feを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とする
Cu基合金相で包囲することにより、Fe基合金相とF
e基合金相をCu基合金相により結合した状態の組織を
有する、 (c)前記Feを主成分とするFe基合金相はNi,C
uおよびCを含みかつFeを50重量%以上含むFe合
金相であり、前記Cuを主成分とするCu基合金相はN
i、FeおよびCを含みかつCuを50重量%以上含む
Cu合金相であり、前記Fe基合金相に含まれるNiお
よびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNiおよ
びCの濃度よりも大きいことが一層好ましい、 (d)前記Fe基焼結バルブシートの密度は、7.0〜
8.2Mg/m3の範囲内にあることが一層望ましい、
などの知見を得たのである。
【0005】この発明は、かかる知見に基づいてなされ
たものであって、即ち、 (1)Cu:20.7〜35重量%、Ni:0.5〜
4.6重量%、C:0.0005〜0.48重量%を含
有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成を有
し、かつFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成
分とするCu基合金相で結合してなる組織を有し、該F
e基合金相はNi、CuおよびCを含みFeを50重量
%以上含むFe合金相であり、該Cu基合金相はNi、
FeおよびCを含みCuを50重量%以上含むCu合金
相であり、かつFe基合金相に含まれるNiおよびC濃
度は、Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度より
も大きい組織を有する高強度Fe基焼結バルブシート、 (2)前記高強度Fe基焼結バルブシートは、密度:
7.0〜8.2Mg/m3を有する前記(1)記載の高
強度Fe基焼結バルブシート、に特徴を有するものであ
る。
【0006】この発明の高強度Fe基焼結バルブシート
は、Fe粉末、Cu−Ni合金粉末およびC粉末を混合
し、圧密成形し、焼結することにより作ることができ
る。しかし、この発明の高強度Fe基焼結バルブシート
のC含有量が極めて少ない場合は、C粉末を添加するこ
となくFe粉末に含まれるCを利用して製造することが
できる。
【0007】この発明は高強度Fe基焼結バルブシート
の製造方法を一層具体的に述べると、原料粉末として、
Fe粉末、黒鉛粉末およびCu−Ni合金粉末を用意
し,Fe粉末およびCu−Ni合金粉末からなる配合粉
末、またはFe粉末、Cu−Ni合金粉末および黒鉛粉
末からなる配合粉末を金型成形時の潤滑剤(例えば、ス
テアリン酸亜鉛粉末またはエチレンビスステアラミド)
とともにダブルコーンミキサーで混合し、プレス成形し
て圧粉体を作製し、圧粉体を水素を含む窒素雰囲気中、
温度:1100〜1300℃(一層好ましくは1110
〜1250℃)焼結する。
【0008】この発明の高強度Fe基焼結バルブシート
を焼結する際のメカニズムは、下記のごとくであると考
える。すなわち、焼結初期段階においてCu−Ni合金
の固溶共存域に昇温すると、液層が出現することにより
FeとCu−Ni合金の密着性が向上する。この時、液
層の発生は部分的であるがゆえに、焼結体に歪み、撓み
などの変形は生じない。FeとCu−Ni合金の密着性
が向上すると、Cu−Ni合金粉末のNiはFe粉末中
へ拡散し、焼結後期段階においてはCu−Ni合金粉末
中のNiがFe粉末中へ拡散するところからCu−Ni
合金粉末のNi含有量が下がって融点が下がり、一気に
Cu−Ni合金粉末は融解し、多量の液層が発生してダ
イナミックな液層焼結が進行し、その結果、焼結体が緻
密化する。焼結後期段階の焼結体の緻密化は、密着性が
向上した後での緻密化であるために、焼結体の変形は生
じない。さらに焼結中にCu合金液相は、Fe粉末内の
粒界にも浸透してFe粉末を粒界で分断し、その結果と
して微細なFe基合金相をCuを主成分とするCu基合
金相で結合した状態の組織が形成される。前述のよう
に、Cu−Ni合金粉末のNiはFe粉末中へ拡散し、
Fe基合金相に含まれるNi量は、Cu基合金相に含ま
れるNi量よりも多くなり、この時Fe粉末に含まれる
Cまたは添加したCもCu−Ni合金粉末中に拡散し、
NiおよびCを含むCuを主成分とするCu基合金相が
生成する。なお、焼結初期段階において、Cu−Ni合
金の固溶共存域まで昇温されない場合でも、NiがFe
粉末中に拡散することによりCu−Ni合金の融点が低
下し、上記と同様のメカニズムにより焼結が進行する。
【0009】この発明の高強度Fe基焼結バルブシート
の焼結は前述のようなメカニズムによるものと考えられ
るから、この発明の高強度Fe基焼結バルブシートを製
造する際に使用する原料粉末として、特にCu−Ni合
金(Ni:2〜19重量%を含有し、残部が不可避不純
物からなる母合金)粉末を使用することが重要な構成の
一つである。さらにCは、Fe粉末を還元し、Fe粉末
の強度および耐摩耗性を向上させるために必要な元素で
あるが、Fe粉末に含まれるCが多量であるとCuに対
する濡れ性を悪くなるために、Cu合金液相がFe粉末
内の粒界に浸透するのを阻害し、微細なFe基合金相が
得られなくなる。したがって、C粉末の添加は0.48
重量%以下に抑えなければならない。
【0010】つぎに、この発明の高強度Fe基焼結バル
ブシートの合金成分組成を上記のごとく限定した理由に
ついて説明する。 (a)Cu Cuは、密度、強度および耐摩耗性を向上させる効果が
あるが、その含有量が20.7重量%未満ではその効果
が十分でなく、一方、35重量%を越えるとかえって強
度が低下するようになるので好ましくない。したがっ
て、Cuの含有量は20.7〜35重量%に定めた。
【0011】(b)Ni Niは、Cu合金相中においてCu合金相の融点を上昇
させ、液相焼結をコントロールし、また強度および靱性
を向上させる作用があるが、その含有量が0.5重量%
未満ではその効果が十分でなく、一方、4.6重量%を
越えて含有してもそれ以上の効果が少ない。したがっ
て、Niの含有量は0.5〜4.6重量%に定めた。
【0012】(3)C CはFe粉末を還元し、また強度および耐摩耗性を向上
させる作用があるが、その含有量が0.0005重量%
未満では効果が十分でなく、一方、0.48重量%を越
えて含有するとCu合金液相のFe粉末粒界への浸透を
阻害し、Fe粉末が微細化せず、強度および靱性を低下
させるので好ましくない。したがって、Cの含有量は
0.0005〜0.48重量%に定めた。
【0013】
【発明の実施の形態】
【実施例1】原料粉末として、平均粒径:55μmのF
e粉末、表1に示される平均粒径および成分組成を有す
るCu−Ni合金粉末A〜C、および平均粒径:18μ
mの黒鉛粉末を用意した。
【0014】
【表1】
【0015】これら原料粉末を表2〜表3に示される配
合組成となるように配合し、さらに金型成型時の潤滑剤
であるステアリン酸亜鉛粉末を外掛けで0.8重量%に
当たる量だけ添加してダブルコーンミキサーで混合し、
プレス成形して所定のバルブシートの圧粉体を作製し
た。この圧粉体をN2−5%H2の混合雰囲気中、温
度:1120℃、20分保持の条件で焼結したのち、
0.5℃/secの冷却速度で冷却し、表2〜表3に示
される成分組成を有する本発明焼結バルブシート1〜1
0および比較焼結バルブシート1〜4を作製した。さら
に、Cr:2重量%、Mo:1.5重量%、Ni:1.
5重量%、Co:5重量%、C:1.0重量%、Nb:
0.6重量%、を含有し、残りがFeおよび不可避不純
物からなる組成並びにパーライト相およびベーナイト相
を主体とした組織からなる素地にCr:35重量%、
W:25重量%、Co:25重量%、C:2重量%、S
i:1.1重量%、Nb:1.1重量%、を含有し、残
りがFeおよび不可避不純物からなる組成を有する硬質
粒子と、Co:57重量%、Cr:28重量%、Mo:
8重量%、Si:2.5重量%を含有し、残りがFeお
よび不可避不純物からなる組成の硬質粒子が合計で17
重量%が均一に分散した組織を有する鉄基焼結合金で構
成された従来焼結バルブシートを用意した。
【0016】本発明焼結バルブシート、比較焼結バルブ
シートおよび従来焼結バルブシートの耐摩耗性はSUH
36の材質からなる外径が30mmの傘部分を有するバ
ルブを用意して、このバルブの傘部分を温度:900℃
に保持し、さらに本発明焼結バルブシート1〜9、比較
焼結バルブシート1〜4および従来焼結バルブシートを
バルブとの接触により加熱し、ガソリン燃焼雰囲気中で
着座荷重:40Kg、バルブ着座回数:3000回/分
の条件で100時間試験し、バルブシートおよびバルブ
の最大摩耗量を測定し、その結果を表3に示した。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
【発明の効果】以上述べたように、この発明の高強度F
e基焼結バルブシートは、摩耗量が少なく、さらに相手
材であるバルブに対する相手攻撃性が少ないことから、
エンジンなどの自 動車産業の発展に大いに貢献し得る
ものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭59−38354(JP,A) 特開 昭60−165307(JP,A) 特開 平3−47944(JP,A) 特開 平5−271879(JP,A) 特開 平5−306433(JP,A) 特開 平9−329007(JP,A) 特開 平10−47379(JP,A) 特公 昭45−18567(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 304 C22C 38/16 F01L 3/02

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Cu:20.7〜35重量%、Ni:
    0.5〜4.6重量%、C:0.0005〜0.48
    量%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる
    組成、並びにNi、CuおよびCを含みFeを50重量
    %以上含むFe基合金相を、Ni、FeおよびCを含み
    Cuを50重量%以上 含むCu基合金相で包囲するこ
    とにより結合してなり、かつ前記Fe基合金相に含まれ
    るNiおよびCの濃度は、Cu基合金相に含まれるNi
    およびCの濃度よりも大きい組織、を有することを特徴
    とする高強度Fe基焼結バルブシート。
  2. 【請求項2】 前記高強度Fe基焼結バルブシートは、
    密度:7.0〜8.2Mg/m3を有することを特徴と
    する請求項1記載の高強度Fe基焼結バルブシート。
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