JP3336580B2 - グルコーストランスポーターの認識性を利用した合成ポリマーと細胞の結合方法 - Google Patents

グルコーストランスポーターの認識性を利用した合成ポリマーと細胞の結合方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、グルコーストランスポ
ーターの認識性を利用した合成ポリマーと細胞の結合方
法に関する。
【0002】
【従来の技術】細胞培養用基質やハイブリッド型人工臓
器用基質あるいはドラックデリバリーシステムに代表さ
れるように、細胞と高い親和性を有した材料を設計、開
発することは非常に重要な試みである。現在、細胞と高
い親和性を有する材料を設計するためには、疎水性の相
互作用や静電的な相互作用を利用した非特異的な相互作
用と、コラーゲンやフィブロネクチンなどのインテグリ
ンファミリーや増殖因子、ホルモン等に対するレセプタ
ー、リガンドなど生物特異的な相互作用を利用する方法
がある。レセプター、リガンド間の相互作用に代表され
る特異的な相互作用を利用する方法がある(J. Bioche
m., 92, 1985〜1994, 1982;細胞工学 別冊6,199
0.)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、従来の
方法とは異なった、全く新しいメカニズムで細胞と親和
性が高い材料の設計、合成及び相互作用の解析を行っ
た。最近、膵β細胞や肝細胞など臓器構成細胞から、血
球細胞に至るまで非常に幅広い細胞種で、グルコースの
取り込み口であるグルコーストランスポーター (Glu
t) が存在していることが明らかになり、そのタイプ分
け構造解析が進んでいる(J. Biological Chemistry, 2
64, No.21, 12358〜12363, 1989; J. Biological Chemi
stry, 264, No.14, 7776〜7779, 1989) 。
【0004】グルコーストランスポーターは、現在まで
に5種類 (Glut1:赤血球、HepG2など;Gl
ut2:肝、膵β細胞など;Glut3:脳、腎など;
Glut4:骨格筋、脂肪細胞など;Glut5:小腸
など) 知られており、これらは互いに構造の類似したフ
ァミリーを形成しているが、各糖輸送担体遺伝子の発現
には組織特異性があることが判明している(Science, V
ol.229, pp941〜945;Nature, Vol.338, No.2 March, 83
〜87, 1989. )。また興味深いことに各種タイプのグル
コーストランスポーターは、グルコースに対する解離定
数Kmがそれぞれ異なっている。
【0005】そこで、本発明者らは、グルコースを有す
るポリマーを合成することにより、グルコーストランス
ポーターを利用した、これまでにない全く新しい方法で
細胞の固定化制御を試みた。このような方法はKm値の差
を利用し、目的とする細胞を選択的に培養する接着基質
や、細胞分離用材料あるいは標的指向性を持たせたドラ
ッグキャリアーや薬物としての応用性も考えられ非常に
重要な試みである。また糖の結合様式を微妙に変化させ
た材料を用いることにより、細胞の糖取り込み機構の解
析にも役立てることが可能である。一般に糖鎖は、[細
胞]−[細胞]間や細胞と接着基質間の認識に非常に重
要な役割りを果たしていると同時に、細胞の形態形成
や、細胞移動、分化・増殖、ガン化など様々な情報伝達
機構を担っている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85,
6792〜6796 (1988); J. Cell Biol., 105, 2043〜2051
(1987))という意味からも非常に興味深い。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は下記の発明を包
含する。 (1)グルコーストランスポーターを結合部位として用
いることを特徴とする細胞とポリマーの結合方法。 (2)細胞のグルコーストランスポーターとグルコース
残基を有するポリマーとを結合させることを特徴とする
細胞とポリマーの結合方法。 (3)グルコース残基の還元性末端が結合に使用されて
いない上記(2)に記載の結合方法。
【0007】本発明の固定化方法の対象となる細胞とし
ては、グルコーストランスポーターを有する細胞であれ
ば特に制限はなく、例えば、Glut1を有する赤血
球、HepG2、胎盤、脳、腎、大腸などの細胞;Gl
ut2を有する肝、腎、小腸、膵β細胞など;Glut
3を有する脳、胎盤、腎などの細胞;Glut4を有す
る骨格筋、心臓、脂肪組織などの細胞など;Glut5
を有する小腸、腎、骨格筋、脂肪組織の細胞などが挙げ
られる(実験医学,,447, 1991 )。
【0008】本発明に用いるポリマーとしては、グルコ
ーストランスポーターと親和性を有するものであれば特
に制限はないが、好ましくは側鎖にグルコース残基を有
するポリマー、更に好ましくは該グルコース残基の還元
性末端が結合に使用されていないポリマーが挙げられ
る。結合方法は、例えば、以下のようにして行うことが
できる。
【0009】(その1)グルコーストランスポーターと
親和性が高いポリマーを培養基質に吸着あるいは化学結
合させ、その上に各種細胞を播種しポリマーと細胞を結
合させる。 (その2)ポリマー水溶液、ポリマーの融解物、ゲル化
あるいは粒体のポリマーを細胞と相互作用させることに
より、グルコーストランスポーターと親和性が高いポリ
マーと細胞を結合させる。
【0010】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説
明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定される
ものではない。 (実施例1)本実施例では、レセプター、リガンド間の
結合に代表される特異的な相互作用が極めて少なく、か
つ現時点でGlutの解析が最も進んでいるGlut1
を有する赤血球を使用した。 (1)赤血球の単離 8週から10週令のゴールデンハムスターの下大静脈より
0.04%EDTA採血を行った。その後、1000回転10分で
赤血球を沈澱させ、上清を除去し再度リン酸緩衝液を注
入しピペッティング洗浄を行った。この操作を3回行う
ことにより洗浄赤血球を得た。 (2)各種糖鎖を有するポリマーの合成 (a) オリゴ糖の還元性末端を次亜ヨウ素酸で酸化した
後、中和してオリゴ糖ラクトンとし、メタノール中でp
−ビニルベンジルアミンと加熱還流して、オリゴ糖置換
スチレン誘導体を合成した。これらのモノマーの60℃で
のラジカル単独重合体及び共重合体を、アゾビスイソブ
チロニトリルを開始剤としてジメチルスルホキシド中、
又はペルオキソ二硫酸カリウムを開始剤として水中で行
った。白色の生成物を水に溶解してメタノールに再沈澱
させた後、その水溶液をセルロースチューブにいれて2
日間以上透析した。濃縮・凍結乾燥を行って重合体を単
離した。
【0011】以上のようにして、以下に示す各種ポリマ
ーのうち、PVLA、PVMA、PVGA、PVM7A
を合成した(Macromolecules, Vol.20, No.4, 906〜90
8, 1987)。
【0012】
【化1】
【0013】(b) 上記ポリマーのうち、PVGは以下の
ようにして合成した。グルコースとアセトンとから1,
2:5,6−ジ−O−イソプロピリデン−α−D−グル
コフラノースを調製し、市販の(クロロメチル)スチレ
ン(30:70p−:m−異性体混合物)とカップリングさ
せて、モノマーを合成した。次に試験管を減圧下に溶封
し、60±0.05℃の恒温水槽中に保持して重合させた(Ma
cromolecules, 13, 234〜239, 1980)。 (3)ポリマーコートシャーレの調製 各種ポリマーを 100μg/mlの濃度になるように蒸留水に
溶解し、径35mmのポリスチレンシャーレ (ファルコン10
08) に2ml注入した。その後、室温で2時間インキュベ
ートしポリマーを吸着させた。次に、ポリマー溶液を除
去し、リン酸緩衝液1mlを注入しリンスした。この操作
を合計3回繰り返すことにより安定にポリマーが吸着し
たシャーレ表面を得た。 (4)各種糖鎖含有ポリマーに対する赤血球の接着 赤血球をリン酸緩衝液中に懸濁し、細胞数を1.5×106
cells/mlに調整した。その後、各種ポリマーコートシャ
ーレに細胞懸濁液を1.5mlずつ注入し、所定時間培養
後、リン酸緩衝液1.5mlにてシャーレ表面を2回洗浄す
ることにより、非接着細胞を回収した。接着率は、この
ようにして得られた細胞数をカウントすることにより算
出した。 (5)グルコーストランスポーター阻害剤による赤血球
のPVGへの接着の影響 フロリジン (分子量436.4)をリン酸緩衝液に、10-3M及
び10-4Mになるように溶解した。この溶液10mlに、 100
0rpmで10分間遠心を行った赤血球の沈澱をぞれぞれ、 2
00μl 添加し1時間相互作用させた。その後、フロリジ
ン含有リン酸緩衝液にて赤血球数を1.5×106 cells/ml
に調整し、各種ポリマーコートシャーレに 1.5mlずつ
注入した。次に、37℃、5%CO2 インキュベータにて
30分間培養を行い、非接着細胞数をカウントすることに
より接着率を算出した。 (6)赤血球の接着様式の観察 赤血球接着様式の観察は、位相差顕微鏡 (オリンパス)
及び走査型電子顕微鏡(日立 S-800)にて行った。ま
た、キャピラリーで培養液をフローさせた系についても
赤血球の接着様式を観察した。 (7)結果:赤血球 (Glut1) と基質材料間の相互
作用 両親媒性ポリマーであるPVG、PVLA、PVMA、
PVGA、PVM7Aをコーティングした材料表面上
は、いずれの材料系においても高い親水性を示し、ポリ
マーが安定的に吸着されたことがわかった。また、コン
トロールであるポリスチレンを除き、各基質材料をコー
トした状態では表面が非常に親水的である点において
は、すべて共通である。
【0014】このような材料系に対して、グルコースト
ランスポータータイプ1 (Glut1) を有する赤血球
の接着性を、カルシウムイオン及びマグネシウムイオン
の存在下、37℃1時間の培養条件で検討した結果を図1
に、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの不存在
下、37℃1時間の培養条件で検討した結果を図2に示
す。
【0015】細胞の接着性に重要な因子である表面電位
や親疎水性に関しては、ポリスチレンを除き他は同等の
材料である。それにも関わらず赤血球はポリスチレン及
び還元性末端がフリーのグルコースを有するPVGに 1
00%近い高接着性を示した。赤血球はアルブミンが存在
しない系において、ポリスチレンなどの疎水性の非常に
高い材料に対しては、疎水的な相互作用により、高い接
着性を示す。これとは逆に糖鎖を有するポリマーをコー
ティングした系では、表面が親水化され赤血球は接着し
難いものと考えられる。それにも関わらずPVGをコー
ティングしたシャーレ表面にのみ、赤血球が高接着性を
示したのは、末端に存在するグルコースを反映した結果
であると考えられる。
【0016】しかしながら、マルトース側鎖を有するP
VMAでは、末端糖がグルコースであるにも関わらず赤
血球はほとんど接着しなかった。またマルトヘプタオー
スを側鎖に有し、末端糖がグルコースであるPVM7A
にも赤血球はほとんど接着しなかった。PVGとPVM
A、PVM7Aの末端のグルコース部分に着目するとグ
ルコース環が開環している点は共通だが、明らかに異な
る点はPVGの糖側鎖末端がC3炭素でグリコシド結合
しているのに対し、PVMA、PVM7Aではα−1,4
結合をしている点である。従って、グルコース含有ポリ
マーが、グルコーストランスポータータイプ1を有する
赤血球により認識されるためには、末端糖がグルコース
であると同時に、グルコースの還元性末端がフリーであ
ることが重要であることがわかった(図1及び図2)。
【0017】更に興味深いことには、赤血球の接着様式
がポリスチレンとPVGで異なることである。ポリスチ
レン上に接着した赤血球は、底面全体で接着しているサ
イドオン型の接着様式を示しているのに対し、PVGを
コーティングしたシャーレ表面に対しては、赤血球は膜
の1部分で接着して (エンドオン型) 揺らいでいた。ま
た、その時の接着力は、キャピラリーでフローを与えて
も赤血球が形態変化するのに耐え得る強さであった。こ
のように赤血球の接着率には差がないものの、接着様式
は極めて異なっていることは非常に興味深い現象であ
る。
【0018】次に、赤血球の接着率が高かったポリスチ
レン(PSt)とPVGに対する接着のメカニズムを検
討するために、グルコースの代謝が起こらない4℃で接
着性の評価を行った。その結果、疎水性の相互作用で接
着していると考えられるポリスチレンシャーレに対する
赤血球の接着は、ほとんど抑制されなかった。これに対
し、PVGに対する赤血球の接着率は、37℃で培養を行
った場合、約85%の高接着性を示していたが、4℃で培
養を行った時は、いずれの培養時間においても15%にま
で著しく低下した。このことはPVGに対する赤血球の
接着が、単なる非特異的な接着ではなく、エネルギー代
謝の関与に基づく接着であることがわかった (図3) 。
【0019】次に、細胞の糖取り込みを阻害するフロリ
ジンで赤血球を処理し、糖取り込みができない状態にし
た赤血球を用い、PVG及びポリスチレン(PSt)に
対する相互作用を検討した。その結果、ポリスチレン
(PSt)に対する赤血球の接着性は、使用したフロリ
ジンの濃度 (10-3M、10-4M) 及び培養時間 (15、30、
60分) に影響されることなく、ほとんど阻害されていな
かった。これに対しPVGでは、フロリジンの濃度依存
的に接着阻害効果が認められ、最大で約80%という著し
い阻害効果が認められた (図4) 。但し、この際フロリ
ジンにより赤血球に傷害を与えていないことは、顕微鏡
下で確認している。
【0020】また、グルコーストランスポーターと細胞
膜の外部から結合することが知られているフロレチンを
用いて同様の実験を行うと、PVGに対する赤血球の接
着性は著しく抑制されたのに対し、ポリスチレンではほ
とんど阻害されないことがわかった。このように糖側鎖
末端に閉環したD−グルコースを有し、還元性末端がフ
リーのグルコースを持つPVGに赤血球を特異的に接着
固定化させることが可能になった。また、その接着のメ
カニズムを検討した結果、グルコーストランスポーター
に対する阻害剤(フロリジン、フロレチン、サイトカラ
シンB)で赤血球を処理した場合、及び低温で赤血球の
培養を行うことにより、PVGに対する接着が著しく抑
制された。これらのことから、赤血球はPVGの糖側鎖
末端に存在するグルコースの結合様式の認識に基づき、
グルコーストランスポーター (タイプ1) を介してPV
G上に接着していることがわかった。このようにグルコ
ーストランスポーターを介して、細胞を材料上に固定化
できたという事実は、非常に興味深い現象であり、今後
グルコーストランスポーターのKm値の差を利用し、特定
の細胞を選択的に固定化させる技術や、標的指向性を持
たせたドラッグデリバリー用担体としての応用性など様
々な分野に貢献し得るものと考えられる。
【0021】(実施例2) (1)糖鎖を有する合成高分子含有ハイドロゲルの作製 ラクトース及びマルトースを有するポリスチレン誘導体
は、 Polym. J., 17,567 (1985)記載の方法により合成
した。合成高分子含有ハイドロゲルは、マルトース含有
ポリスチレン誘導体 (VMA)(PVMAのモノマー)及
びヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)に架橋
剤(メチレンビスアクリルアミド)を添加し、ラジカル
重合を行いゲル化させた (PVMH) 。次に、1%(W/
V) アガロースに対し、PVMHの含有量を1.0%、0.
5%、0.05%、0.005 %(W/V) と変化させたハイドロゲ
ルを作製し、グルコーストランスポータータイプIIを有
する膵内分泌細胞塊 (Islet-like cell clusters, ICC
s) の培養を行った。 (2)ランゲルハンス氏島と糖鎖含有ポリマーの相互作
用の検討 フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識を
行ったマルトース及びラクトース含有ポリマーを、それ
ぞれ0.1%(W/V) アルブミン含有ハンクス緩衝液中に0.
1%(W/V) の濃度になるように溶解させた。次に、ゴー
ルデンハムスターより分離したランゲルハンス氏島を、
上記溶液と3時間相互作用させた後、ハンクス緩衝液に
て3回リンスを行った。この細胞にλex=488nm 、λem
=520nmにて蛍光像を得ると同時に、各種ポリマー間で
蛍光強度の相対比較を行った。 (3)膵内分泌細胞塊の培養 膵内分泌細胞は、生後7−10日目の新生児ブタ膵内分泌
細胞を単離し、浮遊培養した。膵内分泌細胞塊 (Islet-
like cell clusters、ICCs) は、単離細胞の再凝集性を
利用して作製した(Pancreas, 6, 625-630 (1991)) 。次
に、アガロース溶液中に、ヒドロキシエチルメタクリレ
ート、マルトース含有ポリスチレン誘導体のランダム共
重合体を所定濃度共存させ、更に牛胎児血清含有RPM
I培地中に懸濁させたICCsを添加した。なお、それぞれ
の最終濃度は、ヒドロキシエチルメタクリレート、マル
トース含有ポリスチレン誘導体のランダム共重合体 0、
1.0、 0.5、0.05、0.005 %(W/V) 、アガロース溶液1.
0%(W/V) 、血清10%、ICCs 250個/mlになるように調
整した。この溶液を24穴マルチプレートに1mlずつ添加
しゲル化させた後、5%CO2 、37℃で培養を行った。 (4)包埋ICCsの機能評価 ICCsを各々のハイドロゲル中に包埋した後、24時間後に
培地交換を行いICCsのリカバリーを行った。その後、3
日ごとに培地交換を行った。培養開始第1日、7日、21
日目にブドウ糖刺激試験 (5.5mM又は16.7mMのD−グル
コースによる刺激試験) を行い、 180分間におけるイン
スリンの分泌量を測定した (但し、刺激試験前に少なく
とも3時間、3.3mMグルコース含有RPMI1640中にて
インスリン分泌の安定化をはかった) 。
【0022】種々のハイドロゲル間の影響を比較するた
めに、インスリンの分泌能は“コントロールに対する
%”で表した。即ち、各日時におけるグルコース刺激に
よるインスリン分泌量 (ng/ml) を、第1日目における
5.5mM D−グルコース刺激により放出されたインスリン
分泌量 (ng/ml) で、割ることにより求めた。 (5)結 果 ガラクトース及びグルコースを糖側鎖末端に有するポリ
スチレン誘導体とラ氏島の相互作用を、FITCラベル
化したポリマーの蛍光を指標として検討を行った。ポリ
マーを作用させていないコントロールラ氏島の自家蛍光
は、本測定条件ではほとんど認められなかった(ここで
は、ラ氏島はMEM培地を用いて3時間37℃でインキュ
ベートした。そしてラ氏島はHBSSでリンスした)。
これに対し、PVLA及びPVMAを作用させた系で
は、コントロールに比べ著明に強い蛍光像が得られた。
特に、末端にグルコースを有するPVMA(ここでは、
ラ氏島は0.1 %(W/V) アルブミンを含有するFITCラ
ベル化PVG(0.1%(W/V))を用いて3時間37℃でインキ
ュベートした。そしてラ氏島はHBSSでリンスした)
では、末端がガラクトースであるPVLA(ここでは、
ラ氏島は0.1 %(W/V)アルブミンを含有するFITCラ
ベル化PVLA(0.1%(W/V))を用いて3時間37℃でイン
キュベートした。そしてラ氏島はHBSSでリンスし
た)に比較して、更に強い蛍光像が観察された。ポリマ
ー溶液中には0.1%のアルブミンを共存させているた
め、ラ氏島に対するポリマーの非特異的な相互作用は、
かなり抑制されているものと考えられる。それにも関わ
らず、いずれの系においてもコントロールに比較し、か
なり強い蛍光像が得られたことは、ラ氏島と糖鎖含有ポ
リマーが、アルブミン共存下でも影響を受けない、特異
的な相互作用をしている可能性がある。またPVLAと
PVMAの違いは末端に存在する糖が、ガラクトースか
グルコースかの違いで、他の構造式は全て同一であるに
もかかわらず、PVMAの方がPVLAよりラ氏島と高
い親和性を示したことから、PVMAの糖側鎖末端に存
在するグルコースがラ氏島との結合に関与しているもの
と考えられる。
【0023】次に、組織学的にヒトのラ氏島に近いとさ
れている、ブタのラ氏島を酵素処理し分散させた後、単
離細胞の再凝集性を利用して作製した細胞塊 (ICCs) (P
ancreas, 6, 625-630 (1991)) と蛍光ラベルしたPVM
Aとの相互作用をレーザー顕微鏡を用いて検討した。IC
Csはラ氏島全体を覆いつくしている被膜がほとんどな
く、ヒトのラ氏島構造に類似しており、かつポリマーと
ダイレクトに相互作用することが期待できる。その結
果、ポリマーと相互作用していないコントロールICCs
は、ほとんど自家蛍光像が得られなかったのに対し(こ
こでは、ラ氏島はMEM培地を用いて3時間37℃でイン
キュベートした。そしてラ氏島はHBSSでリンスし
た)、PVMAと相互作用させたICCsは、強い蛍光を示
しており、PVMAと高い相互作用をしていることがわ
かった。また、この時の蛍光強度は、ハムスターより得
たラ氏島にPVMAが結合した時より強かった(ここで
は、ラ氏島は0.1 %(W/V) アルブミンを含有するFIT
Cラベル化PVMA(0.1%(W/V))を用いて3時間37℃で
インキュベートした。そしてラ氏島はHBSSでリンス
した)。
【0024】次に、ラ氏島と高い親和性があることが確
認されたPVMAのモノマーであるVMAと、HEMA
のランダム共重合体を各濃度 (1.0 、0.5 、0.05、0.00
5 %) で、ラ氏島の機能保持が良好であるとされている
アガロースゲル内に共存させ、ICCsを包埋培養を行った
ときのグルコース濃度に対するインスリン分泌応答能を
検討した。
【0025】その結果、1%アガロースゲルのみで培養
を行った場合及び1.0%、0.5%のHEMA−VMA共
重合体をアガロースゲル中に存在させた系では (図5、
図6、図7)、初期のインスリンの放出量は高かったも
のの、1週間後には低下していた。またグルコース濃度
に応答したインスリンの放出は認められなかった。これ
に対し、0.05%(W/V) のHEMA−VMA共重合体をア
ガロースゲル中に存在させた系では、グルコース濃度に
応答したインスリンの放出は培養初期において若干認め
られたものの、その後は消失した(図8)。但し、培養
1週間目までのインスリンの放出量は、前2者に対して
高値を示した。
【0026】一方、 0.005%(W/V) のHEMA−VMA
共重合体をアガロースゲル中に存在させた系では、高グ
ルコース濃度の刺激に応答したインスリンの放出が認め
られた。また培養21日目では、インスリンの放出能は維
持されているものの、グルコース濃度に応じたインスリ
ンの放出能は消失していた(図9)。HEMA−VMA
共重合体をアガロースゲル中に全く存在させなかった系
においては、培養初期において、グルコース濃度に対す
るインスリンの応答性、放出能ともに消失していたこと
から、HEMA−VMA共重合体をゲル中に共存させ、
ICCsと相互作用させることによって、何らかの機能維持
性が発現されたことは、非常に興味深い結果である。 (6)考 察 FITC標識を行った糖鎖含有ポリマーとラ氏島間の相
互作用を検討した結果、いずれの場合も、0.1%(W/V)
のアルブミンを共存させ、非特異的な相互作用は起こり
にくい条件にしてあるにもかかわらず、グルコースを糖
側鎖末端に有するポリスチレン誘導体が、ガラクトース
を糖側鎖末端に有するポリスチレン誘導体より、ラ氏島
との親和性が高かった。
【0027】また、PVMAとPVLAは糖側鎖末端の
糖の種類以外は、全て同一の構造式である。それにも関
わらずPVMAの方がPVLAよりラ氏島との相互作用
が強かったということは、ラ氏島のグルコーストランス
ポーターを介して、末端がグルコースであるPVMAと
特に強い相互作用をしたのではないかと考えられる。一
般にラットやハムスターのラ氏島は、強固な膜に覆われ
ており、β細胞等の細胞成分は、表面に露出しているこ
とはないが、本実験では、ラ氏島分離の際に酵素処理時
間を若干長めにし、かつ分離直後のラ氏島を用い、膜の
再構築が起こる前に各種ポリマーと相互作用させている
ために、ポリマーはラ氏島構成細胞と、かなりの割合で
相互作用しているものと考えられる。また、ラ氏島の表
面ほどではないが、内部にもポリマーを標識したFIT
Cに依存した蛍光が認められた (コンフォーカル測定に
より確認) 。また、ラ氏島の被膜を取り除いたICCs (再
凝集細胞塊) の方が、PVMAと非常に高い親和性を示
したことから、ラ氏島を保護している被膜により、ポリ
マーとラ氏島構成細胞との相互作用が、かなり抑制され
ているものと考えられる。
【0028】また、HEMA−VMA共重合体をアガロ
ースゲル中へ共存させた系にICCsを包埋させると、HE
MA−VMA共重合体の濃度が1.0〜0.05%(W/V) で
は、1.0(W/V) アガロースゲルのみの場合と同様に、グ
ルコース濃度に依存したインスリンの応答能はほとんど
なかった。これに対し、HEMA−VMA 共重合体を
0.005%(W/V) 共存させた系においては、グルコース濃
度に応じたインスリンの放出能が維持されていた。この
結果は、ポリマーに結合したグルコースが細胞に認識さ
れ、かつ細胞内に取り込まれないように共重合体化した
ことにより、ゲル内で常にラ氏島とポリマーが、相互作
用し続けているという環境が、インスリン放出能の維持
に関与しているものと現時点では考えている。また、
0.005%というごく微量、ゲル内に共重合体を共存させ
た場合は、ポリマーと相互作用していてもまだ溶液中の
グルコース応答性が発現されており、その結果、グルコ
ース濃度に応じたインスリン放出能を示したものと考え
られる。一方、共存させる共重合体の濃度を増加させる
と、ポリマーとの相互作用サイトが多くなり、溶液中の
グルコースに反応し得るだけのサイトが不足したか、あ
るいはグルコースの取り込み機能が低下した結果、グル
コース濃度依存的なインスリンの放出が、ほとんど認め
られなくなったものと考えている。このように、ラ氏島
と相互作用させる基質サイドから、ラ氏島の機能制御の
可能性を示唆できたことは、非常に興味深いことであ
る。 (7)結 論 グルコースを糖側鎖末端に有する合成高分子PVMAの
モノマー (VMA) と、HEMAの共重合体をアガロー
スゲル中に 0.005%(W/V) の割合で共存させると、グル
コース濃度依存的なインスリン分泌能が長期間にわたり
保持されることがわかった。また、ラ氏島を包埋する基
質サイドからラ氏島の機能制御の可能性が示唆された。
本包埋基質とランゲルハンス氏島の相互作用のメカニズ
ムをより詳細に検討することにより、更に最適化された
ハイブリッド型人工膵臓用接着基質の設計につながるも
のと考えられる。
【0029】
【発明の効果】本発明の結合方法は、グルコースをエネ
ルギー源として取り込んでいるあらゆる細胞に対して、
そのKm値に応じた材料設計を行うことによりグルコース
トランスポーターの認識性を利用し、ポリマーと細胞の
結合を選択的に行うことができる、今までにない全く新
しいタイプのポリマーと細胞の結合方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】種々の材料に対する赤血球の接着性を示す図で
ある。
【図2】種々の材料に対する赤血球の接着性を示す図で
ある。
【図3】ポリスチレン(PSt)及びPVGをコーティ
ングしたポリスチレンに対する赤血球の接着の温度依存
性を示す図である。
【図4】PVGをコーティングしたポリスチレンに対す
る赤血球の接着へのフロリジンの阻害効果を示す図であ
る。
【図5】アガロースゲル中の包埋ICCsからのグルコース
刺激インスリン分泌能を示す図である。
【図6】1.0%(W/V) HEMA−VMA共重合体共存ア
ガロースゲル中の包埋ICCsからのグルコース刺激インス
リン分泌能を示す図である。
【図7】0.5%(W/V) HEMA−VMA共重合体共存ア
ガロースゲル中の包埋ICCsからのグルコース刺激インス
リン分泌能を示す図である。
【図8】0.05%(W/V) HEMA−VMA共重合体共存ア
ガロースゲル中の包埋ICCsからのグルコース刺激インス
リン分泌能を示す図である。
【図9】0.005%(W/V) HEMA−VMA共重合体共存
アガロースゲル中の包埋ICCsからのグルコース刺激イン
スリン分泌能を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小林 一清 愛知県愛知郡東郷町白鳥4−7−107− 403 (72)発明者 小山 敦弘 神奈川県横浜市港北区日吉本町6−3− 4 (72)発明者 張 嘉文 埼玉県朝霞市溝沼5−19−5 シオミプ ラザセブン405 (72)発明者 後藤 光昭 神奈川県川崎市中原区上小田中221 光 ハイツ (72)発明者 冨田 耕右 神奈川県横浜市磯子区杉町2丁目29−22 (56)参考文献 国際公開89/6280(WO,A1) 実験医学,1991,Vol.9,No. 5,p.447−453 組織培養研究,1992年 6月 1日, Vol.11,No.2,p.204 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 5/00 - 5/02 C12N 11/08 BIOSIS/WPI(DIALOG) PubMed JICSTファイル(JOIS)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 細胞のグルコーストランスポーターとグ
    ルコース残基を有するポリマーとを結合させることを特
    徴とする細胞とポリマーの結合方法。
  2. 【請求項2】 グルコース残基の還元性末端が結合に使
    用されていない請求項記載の結合方法。
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Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
実験医学,1991,Vol.9,No.5,p.447−453
組織培養研究,1992年 6月 1日,Vol.11,No.2,p.204

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