JP3264663B2 - 磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録装置 - Google Patents

磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気抵抗効果素
子、磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録装
置に関し、より詳細には、本発明は、高感度且つ高信頼
性を有するスピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果素子、
磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録装置に
関する。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気記録媒体の小型・大容量化が
進められていることから、大きな出力が取り出せる磁気
抵抗効果(MR)を利用した磁気ヘッド(MRヘッド)
への期待が高まっている。このようなMRヘッドの基本
構成要素となるMR膜としては、特に磁性層/非磁性層
/磁性層のサンドイッチ構造の磁性多層膜を有し、一方
の磁性層に交換バイアスを及ぼして磁化を固定しておき
(「磁化固着層」、「固着層」あるいは「ピン層」など
と称される)、他方の磁性層を外部磁界により磁化反転
させ(「感磁層」あるいは「フリー層」などと称され
る)、これら2つの磁性層の磁化方向の相対的な角度変
化により巨大磁気抵抗効果(GMR)を示すスピンバル
ブ膜が注目されている。
【0003】他のMR膜としては、NiFe合金などか
らなる異方性磁気抵抗効果膜(AMR膜)や人工格子膜
などが知られている。スピンバルブ膜のMR変化率は、
人工格子膜に比べると小さいものの4%以上であり、A
MR膜と比較すると十分に大きい。さらに、スピンバル
ブ膜は低磁場で磁化を飽和させることができることから
MRヘッドに適している。このようなスピンバルブ膜を
用いたMRヘッドには、実用上大きな期待が寄せられて
いる。すなわち、磁気ディスクなどの磁気記録におい
て、記録密度の高密度化を進めるのには、巨大磁気抵抗
効果(GMR)を用いた高感度な磁気ヘッド、即ちGM
Rヘッドが必要不可欠となっている。
【0004】初期のGMRヘッドは、磁化自由層(フリ
ー層)、非磁性中間層、磁化固着層(ピン層)および反
強磁性層からなるスピンバルブ膜をGMR素子として用
いたものである。しかしながら、記録のトラック幅を狭
めて高密度化を行うのに不可欠な感度の向上を図るため
に、磁化自由層の膜厚を減らすと、磁化固着層からの漏
洩磁界が動作点のシフトをもたらすようになり、このシ
フト量を歩留まりよく電流磁界によって補正することが
困難となる。
【0005】一方、磁化固着層を磁気結合層を介して反
強磁性結合する2層の強磁性層で構成した、いわゆる積
層フェリ固着層(以後、「SyAF」、「シンセティッ
クAF」または「反強磁性固着層」と称する)が提案さ
れている(特開平7−169026号公報)。この反強
磁性固着層では漏洩磁界を原理的には動作点をゼロにで
きるので、動作点の確保が容易である。
【0006】即ち、この磁化固着層の2つの強磁性層の
非磁性中間層側を強磁性層A、反強磁性層側を強磁性層
Bとすると、強磁性層Aと強磁性層Bの磁気膜厚、即ち
膜厚×飽和磁化が等しいSyAFでは、強磁性層Aと強
磁性層Bの漏洩磁界は互いに打ち消し合うので漏洩磁界
は実質的にゼロとなり、また磁化固着層が磁界には感応
しなくなるために、固着磁化の安定性が反強磁性層の交
換バアイスが消失するブロッキング温度Tb近傍まで良
好であるなど、大きなメリットを有する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来提案され
ているこれらの磁気抵抗効果素子においては、種々の問
題があった。
【0008】まず、第1に、感度を向上させるためにフ
リー層を薄膜化すると、センス電流通電時のバイアスポ
イント設計が困難となるという問題があった。
【0009】第2に、ブロッキング温度(Tb)以上の
温度においてSyAFの磁化は不安定になるので、静電
放電(ESD)電流がGMR素子に流入すると瞬間的に
固着層がTb以上の温度に加熱され、磁化の固着が乱れ
てしまうという問題が生ずる。 第3に、磁化の固着を
行うためには、Tb以上まで温度を上げて、しかもSy
AFを構成する磁気結合層を介しての反強磁性結合磁界
を上回る強い磁界(通常数kOe以上)を加えることが
必要である。このため、反強磁性層としてTbの高い反
強磁性体を用い、磁化の固着のためにTb以上まで温度
を上げると、SyAFの磁気結合層と隣接する強磁性層
との間に拡散を生じて反強磁性結合が低下する、という
問題がある。
【0010】第4に、温度上昇させた状態で磁気結合層
を介しての反強磁性結合磁界を上回る強い磁界(特開平
9−16920号公報では15kOe)を加えるため
に、巨大な磁化固着熱処理装置が必要となる。
【0011】第5に、ピン層において反強磁性的に結合
された2つ強磁性層の磁気膜厚を異ならせた非対称構造
のSyAFにすると、外部磁界に感応するために磁化固
着は容易になるが、その反面で対称SyAFの優れた耐
熱性が失われることになるので、今後の高密度記録にお
いて必要とされる磁気ヘッドの耐熱性の要件、即ち20
0℃前後で磁化固着が安定であること、を満たすのが困
難となるという問題が生ずる。また、漏洩磁界の発生を
伴うことになるので、動作点の確保の対策も必要となる
という問題も生ずる。
【0012】第6に、SyAFが対称系であっても非対
称系であっても、磁気結合層と強磁性層Bが低抵抗であ
るため、センス電流の分流を生じてGMR素子としての
抵抗変化率を低下させてしまうという問題点もある。
【0013】さらに、以上列挙した6つの問題点に加え
て、(1)耐熱性が悪い(特に初期プロセスアニールに
対して)、(2)再生感度のより一層の向上を図る上で
MR変化率が不足している、(3)比較的大きなMR変
化率が得られるCoFe合金層単層で感磁層を構成した
場合に磁歪制御ができず、良好な軟磁気特性が得られな
い、などの問題もあった。
【0014】本発明は、上述した種々の課題の認識に基
づいてなされたものである。すなわち、その目的は、バ
イアスポイントの設計が容易で、高感度且つ高信頼性を
有する磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気ヘッドアセ
ンブリ及び磁気記録装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明の磁気抵抗効果素子は、非磁性スペーサ層
と、前記非磁性体スペーサ層によって互いに分離された
第1の強磁性体層と第2の強磁性体層と、を備え、前記
第1の強磁性体層は、印加磁界がゼロの時に前記第2の
強磁性体層の磁化方向に対してある角度を成す磁化方向
を有し、前記第2の強磁性体層は、相互に反強磁性的に
結合された一対の強磁性体膜と、前記一対の強磁性体膜
を分離しつつこれらを反強磁性的に結合する結合膜とを
含む磁気抵抗効果素子であって、前記第2の強磁性体層
中の前記一対の強磁性体膜のいずれか一方の磁化を所望
の方向に維持する手段と、前記第1の強磁性体層と前記
非磁性スペーサ層とが接する膜面と反対側の面にて第1
の強磁性体層に接する非磁性高導電層と、を有すること
を特徴とする。
【0016】上記構成により、良好なバイアスポイント
を維持しつつ、極めて感度の高い磁気抵抗効果素子を実
現することができる。
【0017】上記構成の望ましい実施の形態として、前
記非磁性高導電層は、バルク状態の室温での比抵抗の値
が10μΩcm以下である元素を含有することにより、
低Hcu実現、および極薄フリー層におけるスピンフィ
ルター効果による高MR変化率の実現が可能となる。
【0018】また、高密度記録用、および非磁性高導電
層によるスピンフィルター効果によるMR変化率上昇の
効果を実現するのに適した構成として、前記第1の強磁
性体層の膜厚は0.5nm以上4.5nm以下であるこ
とを特徴とする。
【0019】また、正信号磁界における再生出力の絶対
値V1と、負信号磁界における再生出力の絶対値V2と
により表される波形非対称性(V1−V2)/(V1+
V2)が、マイナス0.1以上プラス0.1以下となる
ように、前記非磁性高導電層の膜厚と前記第2の強磁性
体層の膜厚とを設定したことを特徴とする。波形非対称
性をマイナス0.1以上プラス0.1以下にするために
は、必ずしもSyAFを採用する必要はなく、単層のピ
ン層を用いても良い。その場合、3.6nmT以下で、
0.5nmT以上の磁気膜厚の単層ピン層を用いること
が望ましい。3.6nmT以上では上記した非対称性を
満足することが困難であり、0.5nmT以下ではMR
変化率が著しく小さくなるからである。
【0020】また、前記非磁性高導電層の膜厚をt(H
CL)(ここでは、比抵抗10μΩcmのCu層で換算
した)、前記第2の強磁性体層中の前記一対の強磁性体
膜の膜厚を1Tの飽和磁化で換算した磁気膜厚をそれぞ
れtm(pin1)、tm(pin2)(tm(pin
1)>tm(pin2)とする)としたときに、0.5
nm≦tm(pin1)−tm(pin2)+t(HC
L)≦4nm、且つt(HCL)≧0.5nmを満足す
ることを特徴とする。この関係を満足すれば、tm(p
in2)=0すなわち単層のピン層を用いても良い。上
記関係を満足することにより、波形非対称性がマイナス
0.1以上でプラス0.1以下となり、且つ高MRが実
現できる。
【0021】また、前記第1の強磁性体層は、その膜厚
と飽和磁化との積である磁気膜厚が5nmT未満である
ことを特徴とする。
【0022】また、前記非磁性高導電層は、低Hin実
現という条件を兼ね備えるのに有利となる銅(Cu)、
金(Au)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、イリジ
ウム(Ir)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、
白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(A
l)、オスミウム(Os)及びニッケル(Ni)よりな
る群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む金属
膜であることを特徴とする。
【0023】また、低Hinおよび軟磁性特性制御のた
めに、前記非磁性高導電層は、少なくとも2層以上の膜
を積層した積層膜から形成されることを特徴とする。
【0024】この積層膜を用いる場合にも、必ずしもS
yAFを採用する必要はなく、単層のピン層を用いても
良い。その場合、3.6nmT以下で、0.5nmT以
上の磁気膜厚の単層ピン層を用いることが望ましい。
3.6nmT以上では上記した非対称性を満足すること
が困難であり、0.5nmT以下ではMR変化率が著し
く小さくなるからである。
【0025】また、前記積層膜のうちで前記第1の強磁
性体層に接する膜が、高MR変化率、低Hcu実現、軟
磁性実現のために特に優れた材料として銅(Cu)を含
むことを特徴とする。
【0026】また、前記積層膜のうちで前記第1の強磁
性体層に接しない膜が、低Hin、低Hcu、および軟
磁性制御に特に優れた材料として、ルテニウム(R
u)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、パラジウ
ム(Pd)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)及びオ
スミウム(Os)よりなる群から選ばれた少なくとも一
種の元素を含むことを特徴とする。
【0027】また、低Hcu、高MR変化率の実現のた
めに、前記非磁性高導電層の膜厚は0.5nm以上5n
m以下であることを特徴とする。
【0028】また、低Hin、高MR変化率を実現する
ために、前記第1の強磁性体層と反対側の面において前
記非磁性高導電層と接して、タンタル(Ta)、チタン
(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン
(W)、ハフニウム(Hf)及びモリブデン(Mo)よ
りなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む層を
有することを特徴とする。
【0029】また、高MR変化率と、軟磁性実現のため
に、前記第1の強磁性体層は、ニッケル鉄(NiFe)
を含む合金層とコバルト(Co)を含む層との積層膜か
らなることを特徴とする。
【0030】また、高MR変化率と、軟磁性実現のため
に、前記第1の強磁性体層は、コバルト鉄(CoFe)
を含む合金層からなることを特徴とする。
【0031】また、前記第2の強磁性体層の磁化固着の
ために、前記第2の強磁性体層を所望の方向に維持する
手段として、反強磁性体層を用いることを特徴とする。
第2の強磁性体層は、SyAFであることが望ましい
が、単層の強磁性体層でも良い。単層の場合には、その
磁気膜厚が0.5nmT以上で3.6nmT以下である
ことが望ましい。
【0032】また、プロセス熱処理後でも高MR変化率
実現のために、前記反強磁性体層の材料として、XzM
n1−z(ここでXは、イリジウム(Ir)、ルテニウ
ム(Ru)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジ
ウム(Pd)及びレニウム(Re)よりなる群から選ば
れる少なくとも一種の元素とし、組成比zは、5原子%
以上40原子%以下である)を用いたことを特徴とす
る。この場合にも、必ずしもSyAFを採用する必要は
なく、単層のピン層を用いても良い。その場合、3.6
nmT以下で、0.5nmT以上の磁気膜厚の単層ピン
層を用いることが望ましい。3.6nmT以上では上記
した非対称性を満足することが困難であり、0.5nm
T以下ではMR変化率が著しく小さくなるからである。
【0033】また、高MR変化率を維するために、前記
反強磁性層の材料として、XzMn1−z(ここでX
は、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)よりなる群か
ら選ばれた少なくとも一種の元素とし、組成比zは、4
0原子%以上65原子%以下である)を用いたことを特
徴とする。この場合にも、必ずしもSyAFを採用する
必要はなく、単層のピン層を用いても良い。その場合、
3.6nmT以下で、0.5nmT以上の磁気膜厚の単
層ピン層を用いることが望ましい。3.6nmT以上で
は上記した非対称性を満足することが困難であり、0.
5nmT以下ではMR変化率が著しく小さくなるからで
ある。
【0034】また、高MR変化率を実現すること、およ
び非磁性高導電層による高MR変化率の効果をより有効
に用いること、および低Hcuを実現するために、前記
非磁性体スペーサ層は、銅(Cu)を含む金属層からな
り、且つその膜厚が1.5nm以上2.5nm以下であ
ることを特徴とする。
【0035】また、高MRを実現すること、および耐E
SD特性やピン固着層の耐熱性を向上させることを目的
として、前記反強磁性的に結合された前記一対の強磁性
体膜は、それらの膜厚が等しいかまたは前記非磁性スペ
ーサ側に接する強磁性体膜の方が厚く、且つ、前記一対
の強磁性体膜は、それぞれの膜厚と飽和磁気との積であ
る磁気膜厚の差が0nmT以上2nmT以下であること
を特徴とする。
【0036】また、前記一対の強磁性体膜を反強磁性体
的に結合する前記結合膜は、ルテニウム(Ru)からな
り、且つその膜厚が0.8nm以上1.2nm以下であ
ることを特徴とする。
【0037】一方、本発明の第1の発明の磁気抵抗効果
ヘッドは、非磁性中間層を介して配置された少なくとも
一対の磁化固着層・磁化自由層と前記磁化固着層に積層
された前記磁化固着層の磁化を固着するための反強磁性
層とを有する巨大磁気抵抗効果膜、および前記巨大磁気
抵抗効果膜に電流を供給するための一対の電極を有する
磁気抵抗効果ヘッドにおいて、前記磁化固着層は前記非
磁性中間層側に配置された強磁性層Aと前記反強磁性層
側に配置された強磁性層Bとからなる一対の強磁性層が
磁気結合層を介して反強磁性結合されてなり、前記反強
磁性層は最密面ピークのロッキングカーブ半値幅が8゜
以下となるように最密面が配向されてなることを特徴と
する磁気抵抗効果ヘッドである。
【0038】本発明の第2の発明の磁気抵抗効果ヘッド
は、非磁性中間層を介して配置された少なくとも一対の
磁化固着層・磁化自由層と前記磁化固着層に積層された
前記磁化固着層の磁化を固着するための反強磁性層とを
有する巨大磁気抵抗効果膜、および前記巨大磁気抵抗効
果膜に電流を供給するための一対の電極を有する磁気抵
抗効果ヘッドにおいて、前記磁化固着層は前記非磁性中
間層側に配置された強磁性層Aと前記反強磁性層側に配
置された強磁性層Bとからなる一対の強磁性層が磁気結
合層を介して反強磁性結合されてなり、前記反強磁性層
は膜厚が20nm以下であり、200℃における前記強
磁性層Bとの交換結合定数Jが0.02erg/cm2
以上であることを特徴とする磁気抵抗効果ヘッドであ
る。
【0039】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果ヘッド
は、非磁性中間層を介して配置された少なくとも一対の
磁化固着層・磁化自由層と前記磁化固着層に積層された
前記磁化固着層の磁化を固着するための反強磁性層とを
有する巨大磁気抵抗効果膜、および前記巨大磁気抵抗効
果膜に電流を供給するための一対の電極を有する磁気抵
抗効果ヘッドにおいて、前記磁化固着層は前記非磁性中
間層側に配置された強磁性層Aと前記反強磁性層側に配
置された強磁性層Bとからなる一対の強磁性層が磁気結
合層を介して反強磁性結合されてなり、前記反強磁性層
は膜厚が20nm以下であり、かつZx Mn1-x (Zは
Ir、Rh、Ru、Pt、Pd、Co、Niから選ばれ
た少なくとも1主であり、0<x<0.4)、Zx Mn
1-x (ZはPt、Pd、Niから選ばれた少なくとも1
種であり、0.4≦x≦0.7)、またはZx Cr1-x
(ZはMn、Al、Pt、Pd、Cu、Au、Ag、R
h、Ir、Ruから選ばれた少なくとも1種、0<x<
1)の少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする
磁気抵抗効果ヘッドである。
【0040】本発明の第4の発明の磁気抵抗効果ヘッド
は、非磁性中間層を介して配置された少なくとも一対の
磁化固着層・磁化自由層と前記磁化固着層に積層された
前記磁化固着層の磁化を固着するための反強磁性層とを
有する巨大磁気抵抗効果膜、前記巨大磁気抵抗効果膜に
電流を供給するための一対の電極、および前記巨大磁気
抵抗効果膜に対する一対の縦バイアス層を有する磁気抵
抗効果ヘッドにおいて、前記磁化固着層は前記非磁性中
間層側の強磁性層Aと前記反強磁性層側の強磁性層Bか
らなる一対の強磁性層が磁気結合層を介して反強磁性結
合されてなり、前記一対の電極は前記縦バイアス層の間
隔よりも狭い電極間隔を有することを特徴とする磁気抵
抗効果ヘッドである。
【0041】なお、上述した第1乃至第4の磁気抵抗効
果ヘッドの構成は、そのまま磁気抵抗効果素子の構成と
して適用することもできる。
【0042】また本発明の磁気ディスクドライブ装置
は、上記の本発明の磁気抵抗効果ヘッドを具備したこと
を特徴とするものである。そして本出願の磁気ディスク
ドライブ装置の発明は、上記の本発明の磁気抵抗効果ヘ
ッドの前記磁気抵抗効果素子に電流を供給することによ
り発生する磁界を用いて、前記磁化固着層の磁化を所定
の方向に固着させる機構を有することを特徴とするもの
である。
【0043】さらに本発明の磁気抵抗効果ヘッドの製造
方法は、前記巨大磁気抵抗効果膜の成膜後であって、パ
ターンニングを行う前に、前記強磁性層Aと前記強磁性
層Bに対し、磁界中熱処理を行って磁化の方向を所定の
方向に固着させることを特徴とするものである。
【0044】一方、本発明の他の形態に基づく磁気抵抗
効果素子は、少なくとも1層の非磁性中間層と、前記非
磁性中間層を介して配置された少なくとも2層の磁性層
とを有するスピンバルブ膜と、前記スピンバルブ膜にセ
ンス電流を供給する一対の電極とを具備する磁気抵抗効
果素子において、前記スピンバルブ膜は、前記磁性層の
前記非磁性中間層とは反対側の面と接する複数の金属膜
の積層膜からなる磁気抵抗効果向上層と、前記磁気抵抗
効果向上層の前記磁性層とは反対側の面と接する下地機
能または保護機能を有する非磁性層とを有し、かつ前記
磁気抵抗効果向上層のうち前記磁性層と接する金属膜を
主として構成する元素は、前記磁性層を主として構成す
る元素と非固溶であることを特徴としている。
【0045】または、本発明の磁気抵抗効果素子は、少
なくとも1層の非磁性中間層と、前記非磁性中間層を介
して配置された少なくとも2層の磁性層とを有するスピ
ンバルブ膜と、前記スピンバルブ膜にセンス電流を供給
する一対の電極とを具備する磁気抵抗効果素子におい
て、前記スピンバルブ膜は、前記磁性層の前記非磁性中
間層とは反対側の面と接する金属の単層膜または積層膜
からなる磁気抵抗効果向上層を有し、かつ前記磁気抵抗
効果向上層を主として構成する元素は、前記磁気抵抗効
果向上層が接する前記磁性層を主として構成する元素と
非固溶であると共に、前記磁気抵抗効果向上層は少なく
とも貴金属系の合金層を有することを特徴としている。
【0046】または、本発明の磁気抵抗効果素子は、少
なくとも1層の非磁性中間層と、前記非磁性中間層を介
して配置された少なくとも2層の磁性層とを有するスピ
ンバルブ膜と、前記スピンバルブ膜にセンス電流を供給
する一対の電極とを具備する磁気抵抗効果素子におい
て、少なくとも1層の前記磁性層は、複数の金属の積層
膜および合金層の少なくとも一方を有する磁気抵抗効果
向上層を介して配置されると共に、磁気的に結合された
複数の強磁性膜を有し、かつ前記磁気抵抗効果向上層を
主として構成する元素は、前記磁気抵抗効果向上層が接
する前記強磁性膜を主として構成する元素と非固溶であ
ることを特徴としている。
【0047】ここで、上記した3種の磁気抵抗効果素子
において、磁気抵抗効果向上層は例えば磁性層との界
面、積層膜内の界面、下地層や保護層としての非磁性層
との界面などで、効果の一例として電子の鏡面反射効果
を示すものであり、これによりスピンバルブ膜の磁気抵
抗効果を向上させるものである。また、フリー層が薄く
なった場合には、ここでの磁気抵抗効果向上層は前述し
た非磁性高導電層として作用し、極薄フリー層と非磁性
高導電層の界面を非固溶な材料の組み合わせにより形成
することによって、電子のdiffusiveな散乱を解消し、
アップスピンの透過率を向上させることによって、高い
MR変化率を維持することができる。非固溶な界面なの
で、熱処理などによっても界面が安定で、MR変化率の
低下を解消することができる。本発明における磁気抵抗
効果向上層は、鏡面反射効果のみに基づくものではな
く、後に詳述するように、さらにスピンバルブ膜の結晶
微細構造の制御や磁歪の低減による磁気抵抗効果の向上
などももたらすものである。
【0048】また、上記した3種の磁気抵抗効果素子に
おいて、磁気抵抗効果向上層の具体的な構成としては、
磁気抵抗効果向上層が接する磁性層がCoまたはCo合
金からなる場合、Cu、AuおよびAgから選ばれる少
なくとも1種の元素を含むことを特徴としている。ま
た、磁気抵抗効果向上層が接する磁性層がNi合金から
なる場合、Ru、AgおよびAuから選ばれる少なくと
も1種の元素を含むことを特徴としている。磁気抵抗効
果向上層にはCu、Au、Ag、Pt、Rh、Ru、A
l、Ti、Zn、Hf、Pd、Irなどの元素を含むも
のを適用することができる。
【0049】磁気抵抗効果向上層に合金層を適用する場
合、それを構成する合金としてはAuCu合金、PtC
u合金、AgPt合金、AuPd合金、AuAg合金な
どが例示される。また、磁気抵抗効果向上層に積層膜を
適用する場合、積層膜は互いに固溶の関係にある複数の
金属膜を有することが好ましい。ただし、非固溶の関係
にある複数の金属膜の積層膜を用いることも可能であ
る。
【0050】さらに、上記した3種の磁気抵抗効果素子
においては、磁性層と非固溶の関係を有する金属膜の積
層膜や合金層を磁気抵抗効果向上層として用い、これを
磁性層と接して配置している。また、フリー層が薄くな
った場合には、ここでも磁気抵抗効果向上層は前述した
非磁性高導電層として作用し、極薄フリー層と非磁性高
導電層の界面を非固溶な材料の組み合わせにより形成す
ることによって、電子のdiffusiveな散乱を解消し、ア
ップスピンの透過率を向上させることによって、高いM
R変化率を維持することができる。非固溶な界面なの
で、熱処理などによっても界面が安定で、MR変化率の
低下を解消することができる。これら磁気抵抗効果向上
層と磁性層との界面は、非固溶の関係に基づいて組成急
俊性に優れ、さらにこの状態は熱プロセス後においても
保たれる。従って、磁気抵抗効果向上層は鏡面反射膜
(界面反射膜)として有効に機能させることができ、磁
気抵抗効果素子の特性向上に大きく寄与する。この磁気
抵抗効果特性の向上効果は熱プロセス後においても失わ
れないため、耐熱性に優れた磁気抵抗効果素子を提供す
ることができる。言い換えると、従来のスピンバルブ膜
ではプロセスアニールにより界面での拡散やミキシング
により損われていたMR特性が、本発明によればプロセ
スアニール後においても良好に保つことができる。
【0051】上述したような本発明の磁気抵抗効果素子
の変形例としては、少なくとも1層の非磁性中間層と、
前記非磁性中間層を介して配置された少なくとも2層の
磁性層と、前記磁性層のうち少なくとも1層の磁化を固
着する反強磁性層とを有するスピンバルブ膜と、前記ス
ピンバルブ膜にセンス電流を供給する一対の電極とを具
備する磁気抵抗効果素子において、前記反強磁性層は、
複数の金属の積層膜および合金層の少なくとも一方を有
する磁気抵抗効果向上層と接して配置されており、かつ
前記磁気抵抗効果向上層を主として構成する元素は、前
記反強磁性層を主として構成する元素と非固溶である磁
気抵抗効果素子が挙げられる。
【0052】他の変形例としては、少なくとも1層の非
磁性中間層と、前記非磁性中間層を介して配置された少
なくとも2層の磁性層と、前記磁性層のうち少なくとも
1層の磁化を固着する反強磁性層とを有するスピンバル
ブ膜と、前記スピンバルブ膜にセンス電流を供給する一
対の電極とを具備する磁気抵抗効果素子において、前記
反強磁性層は、複数の金属の積層膜および合金層の少な
くとも一方を有する磁気抵抗効果向上層と接して配置さ
れており、かつ前記磁気抵抗効果向上層はCu、Au、
Ag、Pt、Rh、Ru、Al、Ti、Zr、Hf、P
dおよびIrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む
磁気抵抗効果素子が挙げられる。
【0053】本発明における磁気抵抗効果向上層は、鏡
面反射膜、安定な界面によるフリー層が薄い場合の高M
R維持としての効果のみならず、膜微細構造の制御に基
づく磁気抵抗効果の向上や、CoFe合金などのCo系
磁性材料からなる感磁層の磁歪制御に対しても有効に機
能する。例えば、Cu下地層単独では例えばCoFe合
金の格子間隔が小さくなりすぎ、一方Au下地層単独で
はCoFe合金の格子間隔が大きくなりすぎる。これに
対して、上述したような積層膜や合金層を用いることに
よって、感磁層としてのCoやCoFe合金などのCo
系磁性材料を低磁歪に有効な格子間隔、すなわちd(1
11)格子間隔を0.2055〜0.2085nmの範
囲とすることができる。このような磁歪制御によって
も、磁気抵抗効果特性が向上する。
【0054】さらに、スピンバルブ膜の特性向上を図る
上で、結晶粒界による原子拡散の抑制なども有効であ
る。結晶粒界での原子拡散を抑えるためには、スピンバ
ルブ膜の結晶粒界を粗大化し、結晶粒界密度を下げるこ
とが好ましい。また、結晶粒界が存在したとしても通常
の結晶粒界ではなく、ほとんど面内配向のずれがない、
いわゆるサブグレインバウンダリである疑似的な単結晶
膜ともいうべき構造であることが望ましい。このような
サブグレインバウンダリの一例としては、小傾角粒界な
どが挙げられる。本発明の磁気抵抗効果向上層は、この
ような小傾角粒界の形成に対しても効果的であり、上述
したような金属膜の積層膜や合金層からなる磁気抵抗効
果向上層を適用することによって、スピンバルブ膜をf
cc(111)配向させ、かつ膜面内における結晶粒間
の結晶配向方向のずれを30度以内とすることができ
る。このようなスピンバルブ膜の結晶粒制御によって
も、磁気抵抗効果特性が向上する。
【0055】または、本発明の磁気抵抗効果素子は、上
述したCoFe合金などの磁歪をAu−Cu合金やAu
/Cu積層膜で低減する技術に基づくものであり、少な
くとも1層の非磁性中間層と、前記非磁性中間層を介し
て配置された少なくとも2層の磁性層とを有するスピン
バルブ膜と、前記スピンバルブ膜にセンス電流を供給す
る一対の電極とを具備する磁気抵抗効果素子において、
前記少なくとも2層の磁性層のうち、外部磁界により磁
化方向が変化する磁性層はfcc(111)配向してお
り、かつd(111)格子間隔が0.2055nm以上
であることを特徴としている。
【0056】上述した磁気抵抗効果素子において、磁性
層のd(111)格子間隔は0.2055〜0.208
5nmの範囲であることが好ましい。また、外部磁界に
より磁化方向が変化する磁性層は、例えばCoまたはC
o合金からなる。
【0057】本発明の磁気ヘッドや磁気記録装置は、上
述した本発明の磁気抵抗効果素子を用いたものである。
すなわち、本発明の磁気ヘッドは、下側磁気シールド層
と、前記下側磁気シールド層上に下側再生磁気ギャップ
を介して形成された、上記した本発明の磁気抵抗効果素
子と、前記磁気抵抗効果素子上に上側再生磁気ギャップ
を介して形成された上側磁気シールド層とを具備するこ
とを特徴としている。
【0058】本発明の録再分離型の磁気ヘッドは、下側
磁気シールド層と、前記下側磁気シールド層上に下側再
生磁気ギャップを介して形成された、上記した本発明の
磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子上に上側再
生磁気ギャップを介して形成された上側磁気シールド層
とを有する再生ヘッドと、前記上側磁気シールド層と共
通化された下側磁極と、前記下側磁極上に形成された記
録磁気ギャップと、前記記録磁気ギャップ上に設けられ
た上側磁極とを有する記録ヘッドとを具備することを特
徴としている。
【0059】本発明の磁気ヘッドアッセンブリは、上記
した本発明の録再分離型の磁気ヘッドを有するヘッドス
ライダと、前記ヘッドスライダが搭載されたサスペンシ
ョンを有するアームとを具備することを特徴としてい
る。また、本発明の磁気記録装置は、磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に磁界により信号を書き込み、かつ前
記磁気記録媒体から発生する磁界により信号を読み取
る、上記した本発明の録再分離型の磁気ヘッドを備える
ヘッドスライダとを具備することを特徴としている。
【0060】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につい
て図面を参照しつつ詳細に説明する。 (第1の実施の形態:フリー層の薄膜化)最初に、「フ
リー層の薄膜化」に関する発明の実施の形態について説
明する。
【0061】ここで、本発明の実施の形態について説明
する前に、本実施形態に至る過程で本発明者が認識した
「フリー層の薄膜化」に関する課題について詳述する。
【0062】磁気抵抗効果素子においては、前述したよ
うに、MR変化率のアップに加えて、フリー層の薄膜化
(Ms*t積の減少)によって大幅な感度向上が実現で
きる。おおまかにいうと、フリー層のMs*t積の大き
さに反比例して出力は増大する。しかし、本発明者が独
自に行った検討の結果、フリー層の薄膜化に関して、以
下の問題が生ずることが判明した。
【0063】第1の問題として、センス電流通電時のバ
イアスポイント設計が困難ということが挙げられる。ヘ
ッド動作時にかかる磁界のすべて足し合わせたときに、
トランスファーカーブの線形的な傾きをもっている部分
の中央にバイアスポイントがくれば、最適なバイアス状
態ということになる。しかしフリー層の膜厚が薄くなる
と、トランスファーカーブの傾きが急峻になるので、バ
イアスポイントをトランスファーカーブの線形領域の中
央にもってくることが非常に困難になってくる。バイア
スポイントが悪くなると、信号のアシメトリ(非対称
性)がでてきたり、さらに悪くなると出力レベルが全く
とれなくなったりする。
【0064】第2の問題として、従来技術でフリー層を
極薄化すると、MR変化率が大幅に低下する問題を生じ
る。MR変化率の減少は、再生出力の低下をもたらす。
【0065】図7は、以上列挙した2つの問題を説明す
るための概念図である。すなわち、同図は、磁気抵抗効
果素子を用いた磁気ヘッドのトランスファーカーブを表
し、同図(a)はフリー層が厚い場合、同図(b)はフ
リー層が薄い場合それぞれ表している。上述したよう
に、フリー層が薄くなると、トランスファーカーブの傾
きが急峻になり(Hsが小さくなる)、またMR変化率
が減少することから、ΔVが小さくなるという、2つの
問題が生じることが図7からわかる。
【0066】上記問題のうち、特にバイアスポイントに
関する問題は、膜構造が決定されても容易には認識でき
ず、設計上困難を極めた。今回、本発明者はモデル化し
た計算を実施し、その結果と経験上得られた「ずれ」と
を補正することにより、バイアスポイントを判断するこ
とができた。以下にバイアスポイントの計算手法につい
て述べる。
【0067】バイアスポイントは、フリー層に加わる様
々な外部磁界によって、シフトする。このシフトは、
1.電流磁界(Hcu)、2.ピン層からの静磁界(H
pin)、3.スペーサを介したピン層からの層間結合磁
界(Hin)、4.ハードバイアス膜からの漏洩磁界(H
hard)の和として近似することができる。上記1〜4の
磁界の中で、4.のハードバイアス磁界は比較的小さ
い。そこで、本発明者は、上記1〜3の磁界の和に注目
して、鋭意検討した。今回用いたバイアスポイントの計
算式を以下に示す。
【0068】 b.p.=50×(Hshift/Hs)+50 (1−1) Hshift =−Hin+Hpin±Hcu (1−2) Hs =Hd free + Hk (1−3) Hd free =π2(Ms*t)free/h (1−3−1) Hpin =π2(Ms*t)pin/h (1−4) Hcu =2πC×Is/ h (1−5) C =(I1 − I3)/(I1 + I2 +I3) (1−5−1) ここで、(1−1)式のb.p.が、今回注目するバイ
アスポイント[%]である。最適バイアスポイントは5
0%であり、マージンまで含めると40〜60%が使用
可能なバイアスポイントといえる。バイアスポイントが
これらの値からはずれると、アシメトリー(非対称性)
がでてきたり、もっとひどい場合には出力が全くとれな
くなってしまう。
【0069】バイアスポイント値とアシメトリーの関係
は、バイアスポイントが40%になったときにはアシメ
トリーが+10%になり、バイアスポイントが60%に
なったときには、アシメトリーが−10%程度になる。
後述するように、この計算での最適バイアスポイントは
40〜60%ではなく、経験上30〜50%が最適値と
なる。
【0070】図8は、計算上のバイアスポイント値とヘ
ッドの再生信号波形の関係を示すグラフ図である。30
〜50%のバイアスポイント値のときには、アシメトリ
ーは比較的小さく、良好な信号波形を示す。ところが、
その範囲からはずれたところにバイアスポイントがきて
しまうと、図8から分かるようにアシメトリーが大きく
なって、実用上用いることができなくなってしまう。
【0071】Hshiftは(1−2)式で表されるよう
に、フリー層に加わる各磁界の和[Oe]である。Hs
は図7でも示したように、トランスファーカーブ上での
傾きである。
【0072】図9は、これらの各磁界の関係を表す説明
図である。
【0073】Hd freeは、あるMRハイト長でのフリー
層の反磁界である。hは、MRハイト長[μm]であ
る。Hpinは、ピン層からフリー層に加わるピン漏洩磁
界である。(Ms*t)freeは、フリー層のトータルの
飽和磁界Msと膜厚tの積であり、(Ms*t)pinはピ
ン層のネットのピン層(シンセティックAFの場合には
上下のピン層の磁気膜厚差分)の飽和磁化と膜厚の積で
ある。
【0074】Hcuは、フリー層に加わる電流磁界であ
り、Isは、センス電流[mA]である。式(1−5−
1)における係数Cは、フリー層の上下の層に流れる電
流分流の比である。
【0075】図10は、各層を流れる電流分流I1〜I3
を表す概念図である。
【0076】ここで説明する計算では、簡単のために、
ABS面エッジ部の影響や、シールドの影響は考慮され
ていない。本発明者の行った計算によるバイアスポイン
トの見積もりと、実際のヘッドととでは、バイアスポイ
ントが約10%程度、計算のほうがマイナス側にずれる
ことが経験上判明している。最適バイアスポイントのと
ころから、その前後プラスマイナス10%が使用可能な
バイアスポイントということを考慮すると、計算で得ら
れる30%〜50%のバイアスポイント値のところが良
好なポイントといえる。よって、上に示したような計算
で得られたバイアスポイントで30%〜50%という値
のときには、実用上良好なバイアスポイントが得られた
と判断できる。
【0077】以下に具体的に今まで知られているスピン
バルブ膜を例にとって、上述したバイアスポイント計算
式を用いて、問題点を詳しく説明する。 比較例1:通常スピンバルブ(スピンフィルターなし×
シンセティックAFなし) Ta5/NiFe2/Co0.5/Cu2/CoFe2/IrMn7/Ta5 (単位はnm) (1) 上記(1)は、スピンバルブの積層構造を表し、各層を
構成する元素と層厚(nm)を表している。この比較例
は、いわゆる従来スピンバルブ膜でフリー層だけを薄く
した従来技術の延長上にある膜である。この膜構成にお
いてバイアスポイントを計算した。
【0078】上述した(1−1)〜(1−5)式のバイ
アスポイント式において、特に求めることが困難なの
が、(1−5)式の電流磁界である。その理由は、(1
−5−1)式の電流分流比Cを求めることが困難である
からである。薄膜においては、各層の比抵抗は結晶性、
および電流分布等の影響を受けて、バルクの比抵抗値と
は著しく値が異なるからである。それをできるだけ実際
に則した計算を行うため、今回本発明者は以下のような
工夫を行うことにより、電流分流比Cを精度よく求める
ことができた。
【0079】各層の比抵抗を求めるために、上記構成の
スピンバルブ膜を作製し、ある層の比抵抗を求めたいと
きには、前後プラスマイナス2nmまで変えた膜を数個
作製し、注目する層の膜厚とコンダクタンスの関係を直
線で外挿して求めた。そのように求めた理由は、よく用
いられる薄膜の単層膜で比抵抗を求める手法では、実際
に即した値とはならないからである。結晶性の影響と、
電流分布の影響をできるだけ小さくするためには、上下
の膜まで実際と同じ材料にして、上述したような微小な
膜厚範囲でのコンダクタンス差をみるのが最も精度が良
いことが、本発明者の検討によって判明した。
【0080】この手法で求めた各層の比抵抗は、結晶性
の影響が小さいだけでなく、電流分布の影響をも含んで
いるため、単層膜の比抵抗を用いて単純なパラレルコン
ダクターで求めた(1−5−1)式の電流分流比Cより
も、かなり精度がよくなる。この手法の採用によって、
従来困難だった電流磁界をより精度をあげて計算でも予
想できるようになった。
【0081】以上の手法により各層の比抵抗を求めた結
果、NiFeは20μΩcm 、CoFeは13μΩc
m 、スペーサCuは8μΩcm 、IrMnは250
μΩcmとなった。ここで、下地のTa(タンタル)に
ついては膜厚を厚くすると結晶化によって急激に比抵抗
が変わり、またキャップTaについても表面酸化物の影
響が大きく正確な値を求めることができなかったため、
100μΩcmと仮定した。これらの値を用いて各層の
電流分流比を求めて、(1−5)式により電流磁界Hcu
を計算した。
【0082】また、Hinの値としては、実測値の25O
eを用いた。Hpinは(1−4)式により求めた。
【0083】この膜構成では、ピン層厚が厚いままハイ
ト長が短くなるため、ピン層からフリー層に加わる漏洩
磁界Hpinが大きくなり、またフリー層の下側よりも上
側に多くの電流が流れるのでフリー層に加わる電流磁界
Hcuも大きい。よって、バイアスポイントの設計手法と
して考えられるのは、大きなHpinを大きな電流磁界Hc
uでキャンセルしてバイアスポイント調整しようするこ
とになる。
【0084】センス電流を4mAとしたときに、上記の
値を用いて計算したバイアスポイント値の結果を表1に
示す。 表1:比較例1の膜の計算で得られたバイアスポイント MR height 0.3μm 70% 0.5μm 61% 0.7μm 53% 表1からわかるように、MRハイト0.3〜0.5μm
ではバイアスポイントは61〜70%であり、計算上最
適なバイアスポイント値と考えられる値よりもオーバー
している。
【0085】図11は、本比較例におけるバイアスポイ
ントの状態を表す概念図である。すなわち、MRハイト
を狭めるとバイアスポイントがアンチフェロ側(50%
よりも大きい側)にシフトしてしまうことが分かる。M
Rハイトは機械研磨によって行うため、どうしてもばら
つきがでてしまう。このようなMRハイトのばらつきに
よって、歩留まりが非常に悪くなってしまうことがわか
る。これは定性的にいえば、図11に表したように、大
きなピン漏洩磁界Hpinを大きな電流磁界Hcuでキャン
セルするという非常に不安定な手法でバイアスポイント
を調整しようとしていることに起因する。
【0086】また、バイアスポイント以外にも本比較例
の膜は、さらに本質的な問題を有する。それは、本発明
で対象としている極薄フリー層を採用すると、MR変化
率が低下することである。本発明者が実験的に得た事実
として、フリー層の膜厚が薄くなるとプロセス熱処理後
のMR変化率が極端に劣化することが大きな問題とな
る。例えば、比較例1の構成では、as−depo(as
-deposited:堆積したままの状態)でMR変化率は11
%程度であるのに対し、プロセス熱処理後ではMR変化
率5.6%とas−depoの約半分の大きさにまで減
少してしまう。これでは高密度対応のスピンバルブ膜を
実現することはできない。
【0087】さらには、このスピンバルブ膜においては
各層の膜厚がすべて薄くなってきているので、スピンバ
ルブ膜の面抵抗も30Ω程度もの大きな値になり、静電
破壊(ESD:Electric Static Discharge)の点から
も実用的ではない。よく知られているように、ESDは
抵抗が大きければ大きいほど起こりやすくなるからであ
る。
【0088】以上のことから、比較例1の膜は、高密度
記録用ヘッドに採用されるような実用的な膜では到底な
いことがわかる。 比較例2:米国特許第5422591号(スピンフィル
ターあり×シンセティックAFなし) Ta5/Cux/NiFe1.5/Cu2.3/NiFe5/FeMn11/Ta5 (単位はnm) (2) 極薄フリー層におけるMRを改善するために、スペーサ
非磁性層と反対側にてフリー層に高導電層を積層した構
成のスピンバルブ膜が提案されている。例えば、特許第
2637360号、米国特許第5422591号、米国
特許第5688605号などを挙げることができる。
【0089】上記(2)の膜は、米国特許第54225
91号に基づくスピンバルブ膜の実施例である。このス
ピンバルブ膜においては、フリー層のスペーサCuとは
反対側に接したCu厚を厚くしていくことによって、ア
ップスピンの平均自由行程が長くなることによりMR変
化率が上昇してゆき、平均自由行程以上にCu厚を厚く
すると単純なシャント層になってしまうため、あるCu
厚でMR変化率のピークをとる傾向をもつ。この現象を
用いれば、比較例1での1つの問題点だった、極薄フリ
ー層でのMR変化率の減少を一部改善できる。
【0090】しかしながら、米国特許第5422591
号に基づく上記(2)のスピンバルブ膜では、バイアス
ポイント、およびMR変化率の耐熱性という、二つの点
で問題を抱える膜構成となっている。
【0091】まず、バイアスポイントという観点に関し
ては、米国特許第5422591号の明細書中には直接
的な記載も間接的な示唆も全く開示されていない。そし
て、(2)の膜は到底実際のヘッドでは採用できない構
成である。以下にその理由を詳述する。
【0092】まず電流磁界Hcuを、比較例1と全く同様
の方法により実験的に得られた各層の比抵抗を用いて算
出した。そのときの各層の比抵抗値としては、Taは1
00μΩcmと仮定し、FeMnは250μΩcm、N
iFeは20μΩcm、スペーサCuは8μΩcm、下
地Cuは10μΩcmと実験的に求まった値を用いた。
また、センス電流は4mAとした。Hinについては記述
がないが、本発明者の追試による結果として15Oe〜
25Oeが得られた。よってここでは、Hinを20Oe
とした。
【0093】素子サイズが、トラック幅Tw=0.5μ
m、MR height=0.3〜0.5μmのときの高密度用
ヘッドの場合について、バイアスポイントを計算した。
その結果を表2に示す。
【0094】表2:下地Cu厚を変えた場合の比較例2
の構成での計算で得られた バイアスポイント MR height Cu 0nm Cu 1 nm Cu 2nm 0.3μm 126% 143% 156% 0.5μm 111% 127% 140% この構成では、ピン層からフリー層に加わるピン漏洩磁
界Hpinが非常に大きく、バイアスポイントがプラス側
にずれやすい構成である。表2のバイアスポイントの計
算結果からもわかるように、スピンフィルター効果を用
いない、下地Cu厚がゼロの場合では、ハイト0.3〜
0.5μmで、バイアスポイントが111%〜126%
とまるで出力がとれないようなところに来てしまってい
ることがわかる。
【0095】図12は、トランスファーカーブでみたと
きのHin、Hpin、Hcuの大きさとバイアスポイントと
の関係を表した概念図である。Hpinが大きいため、電
流ゼロの状態でバイアスポイントがかなりオーバーした
ところにきてしまい、それを電流磁界によってなんとか
50%のほうへもってこようとする設計となる。しかし
この構成では下地に高導電層であるCuを用いているた
め、図10でのI3が大きくなり、(1−5)式により
得られる電流磁界Hcuが小さくなってしまう。つまり、
大きなHpinに対して、逆向きの小さなHcuによってバ
イアスポイントを50%近傍に引き下げることとなり、
バイアスポイントを良好なポイントにもってくることが
困難となってしまう。さらに、下地Cu厚をあげるに従
って、バイアスポイントがさらに悪くなる様子が表2か
らわかる。
【0096】以上のような検討を重ねた結果、Gurn
ey特許に記載のあるような構成では、バイアスポイン
ト設計が全くできず、下地に高導電層のCuを設けるこ
とによって、バイアスポイントがさらに非現実的な構成
になってしまうことが判明した。
【0097】さらに、MR変化率の耐熱性という観点か
らみても、米国特許第5422591号の膜は実用的な
膜とはなっていない。as−depoでのMR変化率の
値は米国特許第5422591号に記載のあるように、
スピンフィルタ効果によって確かに上昇する。しかし、
実際のヘッド作製プロセスを模擬した熱処理後において
は、極薄フリー層を用いたときに特有の現象として、M
R変化率の値は著しく減少することを本発明者は見いだ
した。これは、高密度記録用の高出力を得るためには、
深刻な問題となる。
【0098】実際に、Gurney特許の実施例の膜
(上記(2)の膜)により追試すると、下地Cu厚が1
nmのときにas−depoでMR変化率が1.8%で
あったものが、本発明者のプロセスを模擬した熱処理を
行うと、0.8%まで劣化する。後に述べるように、こ
の主な原因は反強磁性膜にFeMnを用いていることに
よる。これでは、高いMR値を実現するのに困難な極薄
フリー層を用いたスピンバルブ膜において、せっかくス
ピンフィルター効果によって高い値に復帰させたMR変
化率を全く機能させていないことになる。つまり、高い
MR変化率を示す極薄フリー層スピンバルブ膜を実現す
るためには、単純なスピンフィルター効果だけでは達成
できないことがわかる。 比較例3: 特開平10−261209号 Ta5/Cu3/Ta1/NiFe5/Cu2.5/Co2.5/FeMn10/Ta5 (単位はnm)(3) 特開平10−261209号明細書に開示されている上
記(3)の膜では、Taを介してフリー層に近接するC
uシャント層が、比較例2で示した米国特許第5422
591号のようにMR変化率のスピンフィルター効果を
目的としたものではなく、電流磁界Hcuを低減させて、
センス電流によるバイアスポイントの変動を抑えて、ア
シメトリーを安定させることを目的としたものである。
しかしながら、このような発想は、(3)の膜のよう
に、比較的フリー層が厚い領域においては十分有効だ
が、本発明でターゲットにしている極薄フリー層のとき
には、バイアスポイント、およびMR変化率という点
で、到底実用的な膜とはならない。以下にその理由につ
いて説明する。
【0099】まず、バイアスポイントについては、比較
例2の(2)の膜で示したように、極薄フリー層を用い
てHsが非常に小さくなった場合、電流磁界Hcuを低減
させても、ピン漏洩磁界Hpinが大きければ最適なバイ
アスポイントは実現できない。上記(3)の構造が有効
なのは、フリー層が厚い、つまりHsが比較的大きな場
合に、一旦最適なバイアスポイントが得られたときに、
バイアスポイントのセンス電流依存性が小さいという点
である。しかしながら、上記(3)の膜構成でフリー層
が極薄になったときには、そもそも最適なバイアスポイ
ントが実現できない。つまり(3)の構成の膜で高密度
化対応にするためにフリー層を4.5nm以下にする
と、バイアスポイントがプラス側にずれることになる。
【0100】そのことを示すために、計算により求めた
この構成の膜でのバイアスポイントを表3に示す。
【0101】表3:比較例(3)の膜でのバイアスポイ
ント MR height NiFe 5nm NiFe 3nm 0.3μm 86% 108% 0.5μm 83% 104% 0.7μm 81% 100% ここでHinとしては、10Oeという値を用いた。表3
をみると、比較例(3)の構成の膜ではそもそもNiF
e膜厚が5nmのときでもバイアスポイントがプラス側
にずれていて、良い設計とはいえない構成だが、フリー
層NiFe膜厚が3nmと薄くなるとますますバイアス
ポイントがプラス側にオーバーすることがわかる。
【0102】図13は、本比較例におけるバイアスポイ
ントの決定要素の関係を表す概念図である。同図に表し
たように、Hpinが大きいまま、電流磁界Hcuだけを低
減させてしまったためにバイアスポイントがフリー層厚
が薄いところでは全くとれない構成になっている。すな
わち、電流磁界Hcuと層間結合磁界Hinとピン漏洩磁界
pinすべての足し算をしたところがゼロになるときが
最適バイアスポイント点なので、上記(3)の構造のよ
うに電流センターをフリー層に近づけて、電流磁界だけ
をゼロにしようとしても、全く意味のない膜設計とな
る。
【0103】さらに、上記(3)の構造が有する第2点
目の不具合として、高密度化に必要な高いMR変化率を
得られない点を挙げることができる。すなわち、(3)
の構造においては、拡散防止層として、比較的高抵抗の
材料が高導電層とフリー層の間に挿入されているため、
極薄フリー層になったときに、Gurney特許で得ら
れているようなMRのスピンフィルター効果が得られな
くなってしまう。後に詳述する本発明で特に威力を発揮
するようなフリー層が4.5nm以下の領域では、
(3)の構成の膜ではMR変化率が低下してきてしま
う。
【0104】以上2点の理由により、上記(3)の構造
はあくまでもフリー層が比較的厚い領域での発想であっ
て、極薄フリー層においては到底実用的な膜構成とはな
らないことがわかった。
【0105】比較例4:スピンフィルターなし×シンセ
ティックAF Ta5/NiFe2/CoFe0.5/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/IrMn7/Ta
5(単位はnm)(4) 本比較例においては、ピン特
性を向上させるために、シンセティックAF構造を採用
した。Ru(ルテニウム)を介した2層の強磁性層は、
アンチフェロカップリング(反強磁性結合)している。
その一方の強磁性層は反強磁性膜によって一方向に固着
されている。シンセティックAF構造の採用によって、
ノーマルピン構造では一方向性異方性磁界Huaが小さい
場合でも、ある程度の大きさがあれば用いることが可能
となり、ピン耐熱性が向上する。また、既に述べたよう
に、シンセティックAF構造では、Ruを介した上下の
強磁性層はお互いの磁化方向が逆向きに向いており、そ
の結合磁界は数kOeとヘッド動作時の媒体磁界よりも
はるかに大きいため、近似的に、外部にでる磁化モーメ
ントは上下のピン層のMs*tの差がネットのモーメン
トと考えられる。すなわち、フリー層におよぼすピン漏
洩磁界の影響を小さくすることが可能になり、バイアス
ポイント上有利になることが予想されている(特開平7
−169026号)。
【0106】例えば、比較例の場合にはネットのピン厚
は0.5nmのピン層と等価と考えられ、ノーマルピン
構造では実現不可能な薄いピン層と等価のピン漏洩磁界
を実現できる。理想的には、上下のピン層を同じMs*
t積に揃えれば、ピン漏洩磁界はゼロということにな
る。このようなピン漏洩磁界を低減させることのみによ
って、高密度化対応スピンバルブ膜のバイアスポイント
設計は充分だと考えられていた。しかしながら、高密度
対応の極薄フリー層においては、シンセティックAF構
造だけでは安定したバイアスポイントを実現できないこ
とを、今回本発明者は見出した。以下にその内容を説明
する。
【0107】図14は、本比較例におけるバイアスポイ
ントの決定要素の関係を表す概念図である。すなわち、
本比較例の構成においては、フリー層はスピンバルブ膜
の電流分布の電流センターから大きくはずれたところに
位置しているため、電流磁界Hcuは非常に大きい。Hin
が高々20Oe程度で、ピン漏洩磁界もシンセティック
AF構造の採用によって非常に小さくなっているという
ことは、電流を全く流さない状態で、ほぼジャストバイ
アスの状態になっている。この構成のスピンバルブ膜で
電流を流すと、大きな電流磁界Hcuにより、電流を流せ
ば流すほど、ジャストバイアスからはずれていくことに
なる。
【0108】本比較例についてのバイアスポイント計算
の結果を表4に示す。
【0109】表4:比較例4の膜の計算により得られた
バイアスポイント MR height Hcu↑Hpin↑ Hcu↓Hpin↑ 0.3μm 88% 22% 0.5μm 80% 16% 0.7μm 73% 10% ここでHinとして20Oeという値を用いた。表4か
ら、予想どおり、電流をどちらの向きに流してもバイア
スポイントは30〜50%の値を実現することができな
いことがわかる。
【0110】この構造でジャストバイアスを得る手段と
して、ピン漏洩磁界を極力小さくして、つまりシンセテ
ィックAF構造で上下のピン層厚を等しく、つまりピン
漏洩磁界をほぼゼロにして、かつHinをなるべく大きく
して、その大きなHinをキャンセルするように電流磁界
でジャストバイアスにもってくる手法が考えられるが、
これは望ましくない。大きなHinというのは単純に外部
磁界応答の線形領域をシフトさせるだけではなく、線形
領域を減少させる悪影響をももたらす。また、Hinを小
さい値で一定に制御しようとすることはよいが、不自然
に大きな値で一定に制御してスピンバルブ膜を作製しよ
うとすることは、大量生産という点から考えても非常に
困難で好ましくない。
【0111】また、フリー層のスペーサと反対側の面に
高導電層がないので、比較例1と全く同様の理由で極薄
フリー層のときにはMR変化率が劣化し、高密度記録用
のヘッドとして充分な出力を確保することはできない。
これも本質的な問題である。
【0112】以上のように、バイアスポイント、高出力
という二つの点から、シンセティックAF構造だけの採
用によるスピンバルブ膜では、高密度記録用の極薄フリ
ー層スピンバルブ膜を実現することは到底できない。
【0113】以上詳述したように、本発明者は、比較例
1〜4のような構成の膜では、高密度記録用の極薄フリ
ー層をもつスピンバルブ膜として、安定したバイアスポ
イント、充分な高出力は達成することはできないという
問題があることを、実際に即した電流磁界の計算と試作
を行うことによって明らかにした。そして、さらに独自
の試作検討を実施し、以下に詳述する構成を発明するに
至った。
【0114】図15は、前述した各比較例のスピンバル
ブ膜と本発明によるスピンバルブ膜のバイアスポイント
のフリー層厚依存性を比較しつつ表したグラフ図であ
る。これまで示してきた各比較例のスピンバルブ膜では
いずれの構成でも、バイアスポイントに大きな問題があ
ることがわかる。ここで、最適なバイアスポイントは、
30〜50%の範囲にある。そして、感度を十分に得る
ためには、低いMs*tにおいて、この範囲内のバイア
スポイントを得る必要がある。
【0115】これに対して、各比較例は、いずれもMs
*tが低い条件において、バイアスポイントが最適な範
囲から大きく外れている。さらに、Ms*tに対するバ
イアスポイントの変動が極めて大きく、バイアスポイン
トの調節が困難であることがわかる。
【0116】これに対して、後に詳述する本発明の実施
例1は、Ms*tに対するバイアスポイントの変動が極
めて小さく、バイアスポイントは、常に最適な範囲内に
あることがわかる。
【0117】図15において、比較例1に関してMs*
tが5nmT以上の大きなところでも計算上のバイアス
ポイントが30%〜50%の範囲にはいっていないが、
これは、実際にはMs*tが5nmT以上のフリー層を
用いるような低い記録密度においてはMRハイト長が大
きめの値であるためである。具体的には、本発明で対象
としている記録密度でのMRハイト長0.3μm〜0.
5μmよりも大きめの値であるためである。
【0118】いずれにしてもMs*tが5nmT以下の
領域になってきたところで、本発明の膜と比較例の膜と
のバイアスポイント設計の優位差が大きくなることが明
確に分かる。
【0119】図16は、上述した比較例1〜4の構造に
おいて、フリー層のMs*tだけを小さくした時にMR
変化率がどのように変化するかを表したグラフ図であ
る。ここで、縦軸のMR変化率は、図9のトランスファ
カーブの縦軸にほぼ比例する量である。比較のため、後
に説明する本発明の実施例1及び2の膜についても示し
た。
【0120】ここで、比較例1〜4の膜と、本発明の実
施例1の膜のMs*tは、フリー層のNiFe膜厚を変
えたサンプルを製作し、実施例2の膜はフリー層のCo
Feの膜厚を変えたものを作成した。これらの値は、す
べて7kOeの磁場中で270℃で10時間のプロセス
アニールを行った後の結果である。
【0121】また、比較例2と実施例1、2の高導電層
は膜厚2nmのCuとした。フリー層のMs*tとし
て、比較例のフリー層の膜厚のものを同図中に矢印で示
した。また、フリー層のMs*tとしては、NiFeの
Msは1T、CoFeのMsは1.8Tとし、すべて1
TのNiFe換算の膜厚で示した。
【0122】フリー層に接する高導電層を有しない比較
例1、3、4の膜では、フリー層のMs*tが小さくな
るとMR変化率が急激に劣化し、高密度化対応の高出力
を確保することが困難となる。
【0123】高導電層を有する比較例2の膜ではMR変
化率のフリー層Ms*t依存性が比較的小さいが、反強
磁性膜に貴金属を含まないFeMnを用いているため、
プロセス熱処理に対するMR変化率の耐熱性が低い。こ
のような小さなMR変化率では、高密度化の高出力を確
保することができない。
【0124】比較例2、比較例3の膜では、スペーサC
uとフリー層NiFeとの間に0.5nmのCo若しく
はCoFeを挿入すると、1〜2%ほど同図中の値より
も大きくなるが、Ms*tに対する依存性はNiFe単
層のフリー層の場合と変わらず、いずれにしてもフリー
層のMs*tが小さいところでのMR変化率は小さな値
で十分である。
【0125】一方、本発明によるフリー層に接した高導
電層を有するフリー層と、貴金属を有する反強磁性膜を
用いると、プロセス熱処理に対するMR変化率の耐熱性
も改善し、高密度対応の十分な高出力を得ることができ
る。特に、5nmTよりも小さくなったところで、比較
例とのMR変化率の差が大きくなることが分かる。
【0126】以下に、本発明の磁気抵抗効果素子につい
て詳細に説明する。
【0127】図1は、本発明の磁気抵抗効果素子の断面
構成を表す概念図である。すなわち、本発明の磁気抵抗
効果素子は、高導電層101と、フリー層102と、ス
ペーサ層103と、第1の強磁性体層104と、結合膜
105と、第2の強磁性体層106と、反強磁性膜10
7とを積層した構成を有する。
【0128】この構成により、特に、フリー層102を
極薄化したことによるトランスファーカーブ上のHs
小さな場合において、Hcu、Hpin、Hinのすべてを小
さな値として、Hpin−Hin=Hcuを実現することによ
り、良好なバイアスポイントを実現することができる。
さらに、一般的に極薄フリー層の場合には高MR変化率
が実現しにくくなるのを、良好なMR変化率の耐熱性を
維持することによって、高出力のヘッドを実現すること
ができる。
【0129】すなわち、本発明のスピンバルブ膜構成に
よって、高密度用の極薄フリー層を有する場合でも、良
好なバイアスポイントが実現でき、かつ高いMR変化率
を維持できるため、高出力を安定して得ることができ
る。具体的には、バイアスポイント設計として、Hpin
−Hin=Hcuを実現することにより良好なバイアスポイ
ントが実現できる。Hpin、Hin、Hcuのすべてが小さ
くすることが、上の式を安定して実現するためには重要
である。
【0130】まず、Hpinに対しては、前記第2の強磁
性体が反強磁性的に結合したいわゆるシンセティックA
F構造を用いることによって、実際にHpinとして作用
するのは前記第1、第2の強磁性体の2層の磁気的な膜
厚の差によるものだけになり、Hpinを低減できる。
【0131】これは、(1−4)式をみても、ピン層の
(Ms*t)pinを低減させることがHpin低減のために
有効であるということがわかる。
【0132】しかしながら、極薄フリー層のバイアスポ
イント設計のためにはHpinだけを低減しても全く意味
がなく、電流磁界Hcuも低減することが必須である。そ
のために、非磁性高導電層をフリー層のスペーサとは反
対側の面に接しさせることによって、スピンバルブ膜中
を流れる電流の電流分布の中心をフリー層に近づけるこ
とができ、Hcuを低減させることが可能となる。つま
り、(1−5)式、(1−5−1)式において、トップ
タイプのスピンバルブ膜のときにはI3が増加し(ボト
ムタイプのスピンバルブ膜のときにはI1が増加す
る)、電流分流比Cが低下することによって、電流磁界
cuが抑えられるからである。非磁性高導電層のもう一
つの大きな働きとして、本発明で対象としている極薄フ
リー層のときに、スピンフィルター効果によって高いM
R変化率を維持できることにある。つまり、非磁性高導
電層を設けることによって、フリー層とスペーサに接す
る側のピン層の磁化方向が互いに平行状態と反平行状態
のときで、アップスピンの平均自由行程の差を大きく保
つことができる。
【0133】Hpin−Hin=Hcu を安定して実現する
ためには、Hin低減も重要である。上述のような極薄フ
リー層に接した高導電層による高MR変化率実現(スピ
ンフィルター効果)のためには、スペーサ厚を薄くする
ことが重要だが、スペーサ厚が薄くなるほど、またフリ
ー層が薄くなるほどHinは一般的には大きくなりやす
い。それを克服して、0〜20Oe程度の範囲のHin
本発明を用いることが重要である。
【0134】図2は、本発明のスピンバルブ膜において
えられるトランスファーカーブの概略図である。極薄フ
リー層を用いたHsが小さなトランスファーカーブにお
いても、Hpin、Hcu、Hinのすべてが低減されている
ため、Hpin−Hin=Hcuの設計が可能となっており、
バイアスポイントが50%近傍のよいところに設定する
ことができている。さらに、高導電層によるスピンフィ
ルター効果も用いているため、極薄フリー層においても
高MR変化率が維持できており、図2の縦軸も充分大き
い値が実現できている。
【0135】次に、バイアスポイントを決定する各要
素、すなわち、Hpin、Hin及びHcuの各パラメータに
関してさらに詳細に説明する。
【0136】まず、低Hcuについて説明する。既に説明
したように、本発明においてはフリー層のスペーサとは
反対側の面に接する側に高導電層を設けることによっ
て、(1−5)式におけるCの値を低減させ、電流磁界
cuを低減させている。具体的な例として、以下のよう
な膜構成を用いて説明する。
【0137】 Ta5/Cux/CoFe2/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/IrMn7/Ta5 (単位はnm) 図3は、上記の膜において、フリー層に接しているスペ
ーサとは反対側の高導電層Cuの膜厚に対するフリー層
に加わる電流磁界Hcuの関係を表すグラフ図である。こ
こで、センス電流は4mAとした。同図からわかるよう
に、Cuの膜厚を増加させるほど、(1−5)式のCの
値が小さくなることによって、電流磁界Hcuが低減され
ていく。フリー層よりも上層側と下層側との電流分流比
が等しくなったときには、フリー層に加わる電流磁界は
いくらセンス電流を流してもゼロ磁界となる。
【0138】ここで、電流磁界を低減させていることが
本発明のポイントの一つだが、電流磁界Hcuを完全にゼ
ロにすることは逆に好ましくない。本発明においては、
pi n−Hin=Hcu を成り立たせることによって、バイ
アスポイント調整を行っているので、前述した比較例3
のように、電流磁界をゼロに近くしようとする設計では
バイアスポイント調整が不可能になってしまうからであ
る。
【0139】電流磁界の観点からすると非磁性高導電層
Cu層の膜厚は、大きな範囲でいうと、0.5nm〜4
nmの範囲内が適正膜厚ということになる。フリー層の
膜厚が薄くなるほどHsが小さくなってくるため、電流
磁界Hcuも小さいほうが望ましくなる。ここでは非磁性
高導電層として、Cuを用いたが、ほかの金属材料、も
しくは積層膜を用いる場合には、すべてCuに換算した
膜厚で考えることができる。例えば、Ru1.5nm/
Cu1nmという非磁性高導電層の場合には、実験的に
求めた比抵抗はRuは30μΩcm、Cuは10μΩc
mなので、Cu換算で(1.5nm×10μΩcm /
30μΩcm)+1nm=1.5nm相当のCu膜厚と
同等ということになる。
【0140】同様にほかの金属を用いた場合には、実験
的に求めた比抵抗として、Cuは10μΩcm、Ruは
30μΩcm、Auは10μΩcm、Agは10μΩc
m、Irは20μΩcm、Reは70μΩcm、Rhは
20μΩcm、Ptは40μΩcm、Pdは40μΩc
m、Alは12μΩcm、Osは30μΩcmという値
を用いて電流分流比を求めることができる。また、非磁
性高導電層が合金からなる場合には、その主成分の元素
の上記の比抵抗の値を用いて、Cu換算の膜厚として計
算することができ、元素の組成に応じて比例配分しても
良い。
【0141】比較例に関して説明したように、この比抵
抗の値は隣接する材料によって変わるが、非磁性高導電
層が接する材料は大きく異なることはないので、適正膜
厚はこれらの値を用いて求めた値で規定できる。
【0142】またHcuは(1−5)式でわかるように、
フリー層に対して上層と下層との電流分流比によって決
まるので、非磁性高導電層とは逆側に位置するスペーサ
層の膜厚はHcu低減という観点から、できるだけ薄いほ
うが好ましい。これは後の説明のMR変化率のスピンフ
ィルター効果から要求される傾向とも一致する。具体的
には、スペーサ膜厚は1.5nm〜2.5nm程度が好
ましい。
【0143】非磁性高導電層は、電流磁界Hcu低減とと
もに、MR変化率のスピンフィルター効果をもたらす層
としての機能も果たしている。その効果に起因して適性
膜厚の範囲もある程度限定される。例えばピン側からの
フリー層側に移動する伝導電子を考えると、フリー層の
磁化方向がピン層に平行か反平行かで平均自由行程差が
大きくなるのが好ましい構成となるので、スピンのアッ
プ、ダウンに依存しないスペーサの厚さは薄いほうが好
ましい。Hinが増大しない程度の膜厚ということになる
と、スペーサ厚は1.5nm〜2.5nm程度が好まし
い。
【0144】また、フリー層厚はダウンスピンの平均自
由行程よりは厚く、アップスピンの平均自由行程よりは
充分薄いほうが好ましい。例えば、NiFeのダウンス
ピンの平均自由行程は1.1nm程度なので、NiFe
の膜厚としては1nm〜4.5nm程度が最も好まし
く、CoFeの場合には1nm〜3nm程度が最も好ま
しい。高導電層厚はピン厚、スペーサ厚、フリー層厚に
よって最適膜厚は異なるが、スペーサ厚が薄いほど、ま
たフリー層厚が薄いほどMRのピークをとる高導電層厚
の厚さは厚膜側にピークしていく。例えば、ピン層がC
oFe2.5nm、Cuスペーサ厚2nm、フリー層厚
CoFe2nmの場合には、高導電層にCuを用いた場
合には2nm程度のところでピークをとる。経験上フリ
ー層の膜厚と非磁性高導電層Cuのトータル膜厚が4〜
5nm程度になるときにMR変化率のピークをとるの
で、その近傍になるように非磁性高導電層の膜厚を設定
するのが好ましい。Cuをフリー層に接する非磁性高導
電層に用いている場合にはCu膜厚とフリー層膜厚のト
ータル膜厚は、マージンも含めて3nm〜5.5nm程
度が好ましい範囲となる。
【0145】次に、Hpinについて説明する。Hpinを低
減させるためには、Bsが1.8TのCoFeで実効的
なピン厚を約2nm以下(NiFe換算で3.6nm以
下)、さらに望ましくは実効的なピン厚1nm以下(N
iFe換算で1.8nm以下)にすることが望ましい。
そのピン層の実現手段としては、シンセティックAF構
造が望ましい。これは例えば反強磁性膜/強磁性膜1/
Ru0.9nm/強磁性膜2という構成からなり、強磁
性膜1と強磁性膜2は反強磁性的に磁気結合している。
反強磁性的に結合した一方の強磁性膜1は反強磁性膜に
よって一方向に磁化固着されている。強磁性膜1と強磁
性膜2の磁化方向は逆向きでその結合磁界は数kOeと
大きいため、一次近似として、強磁性膜1のMs*tと
強磁性膜2のMs*tの差が実効的なピン漏洩磁界に寄
与すると考えられる(特開平7−169026号公
報)。
【0146】例えば、IrMn/CoFe2/Ru0.
9/CoFe2.5(膜厚の単位はnm)という構成で
は実効的なピン厚は2.5nm−2nm=0.5nm
(磁気膜厚は0.9nmT)ということになる。実効的
なピン層厚が低減できると、(1−4)式からわかるよ
うに、Hpinを低減できる。このように、シンセティッ
クAF構造は、本発明のバイアスポイントという点で、
極薄フリー層を使いこなすには必須の構造である。
【0147】次に、Hinについて説明する。バイアスポ
イントおよびスピンフィルター効果の点からいうと、ス
ペーサとして使われるCu層の厚さはできるだけ薄くす
ることが望ましいことを既に述べた。そのような薄い膜
厚での具体的なHinの値としては、0〜20Oe、さら
に望ましくは、5〜15Oe程度に抑えることが望まし
い。本発明の一つの解決方法として、スペーサが薄いと
きでもHinを増大させないような膜構成として、二層下
地構成などがあげられる。
【0148】次に、MR変化率の耐熱性について説明す
る。極薄フリー層を用いた場合には、MR変化率のプロ
セス熱処理に対する耐熱性を維持することも、著しく困
難になる。具体的には、極薄フリー層スピンバルブ膜の
MR変化率耐熱性を改善するために大きくわけて2つの
施策がある。その1つがある一定以上の非磁性高導電層
をフリー層に接して設けることである。非磁性高導電層
はスピンフィルター効果としての役割ももちろんある
が、MR変化率の耐熱性を向上させるという役割も果た
すことが明らかになった。これはフリー層の膜厚が4.
5nm程度ではそれほど顕著ではないが、2nm程度に
まで薄くなると、非磁性高導電層のトータル膜厚とし
て、1nm以上は必須であることがわかった。例えば、
非磁性高導電層が0nmのときには、as−depoの
MR変化率とプロセス熱処理後(270℃×10時間)
のMR変化率では相対比で約50%も減少してしまう
が、1nm程度の非磁性高導電層を設けることによっ
て、0〜30%の減少に抑えることができる。
【0149】さらにこれだけではまだMR変化率の熱劣
化率にばらつきがある。この原因が2つ目の施策であ
る、反強磁性膜材料の差である。反強磁性膜として、F
eMnなどを用いているときが、上記の熱劣化率30%
の場合である。ところが、反強磁性膜材料としてIrM
nを用いているときには、0〜15%の劣化率まで低減
させることができる。さらに、PtMnを用いていると
きにはas−depoのMR変化率は測定不能だが、お
おむねIrMnのas−depoのMR変化率の値、つ
まり熱劣化率0%を実現することができる。これは、反
強磁性膜材料の貴金属濃度を含むかどうかに依存してお
り、IrMn、PtMn、PdPtMn、RuRhMn
のような貴金属を含む反強磁性膜を用いることが、本発
明による極薄フリー層のスピンバルブ膜には特に望まし
いことが判明した。
【0150】図4は、以上のまとめとして、アシメトリ
が−10%〜+10%、つまり、バイアスポイント30
%〜50%を実現するためのシンセティックAFのピン
層厚と、非磁性高導電層厚との具体的な範囲を表したグ
ラフ図である。ここで、「アシメトリ」すなわち「波形
非対称性」とは、正信号磁界における再生出力の絶対値
V1と、負信号磁界における再生出力の絶対値V2とに
より、(V1−V2)/(V1+V2)と定義する。従
って、「アシメトリが−10%〜+10%」とは、
「(V1−V2)/(V1+V2)の値が、マイナス
0.1以上プラス0.1以下」であることに対応する。
【0151】Hpin−Hin=Hcu を実現するために、
pinが小さくなったときには、Hcuも下げなければな
らない。つまり、式(1−4)、(1−5)からわかる
ように、シンセティックAFの上下のピン層厚((Ms
*t)pinを小さくした時には、非磁性高導電層の膜厚
を厚くしなければならず、(Ms*t)pinを大きめの
値にしたときには、非磁性高導電層の膜厚を薄くしなけ
ればならない。
【0152】具体的には、シンセティックAFを形成す
る厚いピン層の膜厚をtm(pin1)、薄いピン層の
膜厚をtm(pin2)、非磁性高導電層の膜厚をt
(HCL)(比抵抗10μΩcmのCu層に換算した)
としたときに、0.5nm≦tm(pin1)−tm
(pin2)+t(HCL)≦4nm、かつt(HC
L)≧0.5nmを満足するところが本発明の範囲であ
る。ここで、0.5nm≦tm(pin1)−tm(p
in2)+t(HCL)はバイアスポイントが30%近
傍、つまりアシメトリが+10%になる限界であり、t
m(pin1)−tm(pin2)+t(HCL)≦4
nmはバイアスポイントが50%近傍、つまりアシメト
リが−10%になる限界である。
【0153】ここで、tm(pin1)−tm(pin
2)は、Msが1TのNiFeに換算したときの磁気膜
厚であり、例えば、PtMn/CoFe2/Ru0.9
/CoFe2.5という構成のシンセティックAF構造
のときには、(2.5−2)×1.8T=0.9nmと
いうことになる。また、比較のために示した比較例の単
層pin構造の場合には、単層pin層の(Ms*t)
を用いる。
【0154】また、t(HCL)は非磁性高導電層をC
u換算の膜厚にした場合であり、Cu以外の非磁性高導
電層を用いる場合には、前述した比抵抗値を用いてCu
換算の膜厚にすることができる。
【0155】また、t(HCL)≧0.5nmは、4.
5nmよりも薄いフリー層における、高MR実現のため
に必要な非磁性高導電層の膜厚の下限値を規定するもの
である。 また、上記範囲のさらに好ましい範囲とし
て、非磁性高導電層の膜厚が3nm以上になると、ΔR
sが低下する場合があるので、t(HCL)≦3nmが
望ましい。また、シンセティックAFの上下ピン層厚の
差が3nm以上になると、ピン層の磁化固着の耐熱性が
劣化するので、tm(pin1)−tm(pin2)≦
3nmであることが望ましい。
【0156】図4においては、前述した比較例1〜4
と、後に詳述する本発明の実施例1の膜のデータをプロ
ットした。ここで、シンセティックAF構造の場合に
は、スペーサ層側のピン層が、もう一方のピン層よりも
磁気的膜厚が厚い場合には、横軸のピン層の磁気膜厚を
プラス側とし、スペーサ層側のピン層がもう一方のピン
層よりも磁気膜厚が薄い場合には、横軸のピン層の磁気
膜厚をマイナス側にとることとした。シンセティックA
Fを用いない従来のピン層の場合には、ピン層の磁気的
膜厚はすべてプラス側にとることにした。
【0157】同図からわかるように、比較例は全て良好
な範囲から外れ、バイアスポイントが悪い、つまりアシ
メトリが大きいが、本発明によれば、良好なバイアスポ
イント、つまりアシメトリが小さい膜が実現できる。
【0158】以上説明した本発明による、シンセティッ
クAFによる小さなHpinを、小さなHcuによってキャ
ンセルする、つまりHpin−Hin=Hcuを実現するバイ
アスポイント設計と、極薄フリー層スピンバルブ膜に特
有のMR変化率の耐熱性の困難点を克服した、具体的な
膜構成について示す。 (実施例1)トップSFSV(NiFe/Co(Fe)フリー層) Ta5/Cux/NiFe2/CoFe0.5/Cu2/CoFe(2+y)/Ru0.9/CoFe2/Ir
Mn7/Ta5 (7−1) まず、反強磁性膜がフリー層よ
りも上層側に位置する、いわゆるトップタイプのスピン
バルブ膜の実施例について説明する。
【0159】図5は、本実施例の磁気抵抗効果素子の具
体的な膜構成を示す概念図である。すなわち、下地バッ
ファ層12の上に、本発明による特有の高導電層10
1、その上にフリー層102、スペーサ層103、が積
層され、強磁性ピン層104,106が、105を介し
て反強磁性的に結合し、106のピン層が反強磁性層1
07によって一方向に固着されている。反強磁性層10
7の上には、キャップ層113が設けられている。(7
−1)の膜構造は、フリー層102が110、111の
二層の積層膜からなり、非磁性高導電層101が単層C
uからなるタイプのものである。
【0160】(7−1)の膜は、Cu下地によるMRの
スピンフィルター効果、電流磁界H cu低減効果と、シン
セティックAFによるHpin低減効果を用いて、MRと
バイアスポイントとを両立した膜となる。この膜に関し
て、前述した方法によりバイアスポイントを計算した結
果を表5に示す。
【0161】 ここで下地Cu厚は、2nmとした。単純な単層の高導
電層からなる単層のCu下地のときにはHinが20Oe
と若干大きめの値となる。そのときにはシンセティック
AFのピン厚差が0.5nmでは良好なバイアスポイン
ト値の40%よりも若干マイナス側にずれることが、表
5(a)の結果からわかる。これでも充分実用的な膜で
あるが、y=0.8nmとHpinを若干増大させた場合
が、表5(b)の結果である。これによって、表5
(a)のようにバイアスポイントがアンダー気味にずれ
ていた場合には、バイアスポイントを良好な値に近づけ
ることが可能になる。また、表5(c)のように、Hin
を下げても同様にバイアスポイントを良好な値にするこ
とができる。表5(a)、(b)と(c)を比べてみれ
ば明らかなように、Hinが小さいほうが、バイアスポイ
ントのハイト依存性が小さくなるため、Hinはできるだ
け低減することが望ましい。シンセティックAF構造の
上下ピン厚差は小さいほうが、Hpinが小さくなりハイ
ト依存性が小さくなるが、(a)と(b)の0.3nm
ぐらいの差ではほとんど影響がないので、y=0〜1n
m(Ms*t=0〜1.8nmT in NiFe)が
好ましく、さらに望ましくはy=0〜0.5nm(0〜
0.9nmT in NiFe)の範囲が、バイアスポ
イントとともに、耐ESD対策等の特性向上なども考慮
にいれてyの値の調整が可能であるため望ましい。
【0162】下地Cu厚はバイアスポイント調整ととも
に、MRのスピンフィルター効果も用いている。下地C
u厚を厚くすればHcuが小さくなるが、ΔRsが低減
してしまうため、Cu厚0.5nm〜5nm、特に望ま
しくは0.5〜3nmが好ましい。MRのスピンフィル
ター効果が得られる下地Cu厚はフリー層構成に依存
し、フリー層厚が薄いときほど、MRのスピンフィルタ
ー効果が得られる下地Cu厚の最適厚さは厚いほうにシ
フトする。実験的に得られた結果では、下地Cu厚と磁
性フリー層の膜厚の和が4nm〜5nmのときにMR変
化率がピーク値をとる。
【0163】(7−1)のようなフリー層構成の場合に
は、下地Cu厚が0〜1.5nmまではCu厚増加によ
るスピンフィルター効果によるMR増加と、Cu厚増加
によるRs低減の効果がちょうどキャンセルし、ΔRs
はほとんど変化がない。1.5nm〜2nmでは、ΔR
sが約0.1Ω、1.5nm〜3nmでは、ΔRsが
0.25Ω減少してしまう。ΔRsの低下はそのまま出
力低下にほぼ比例してしまうため、好ましくない。しか
し、バイアスポイント上、下地Cu厚が厚くすることが
望ましい場合には、このフリー層構成で、下地Cu厚3
nmを用いることも考えられる。このときには、単位電
流あたりの電流磁界は小さく、かつスピンバルブ膜抵抗
も低下しているため、ΔRsの低下による出力低下を、
電流を多めに流すことによって回復する手法が考えられ
る。出力量も電流量にほぼ比例するからである。下地C
u厚を増加することによってΔRsが10%低下したと
きには、例えばセンス電流をこれまでの計算の4mAか
ら5mAにすることによって25%増加するので、ΔR
s低下の分を十分を補うことができる。
【0164】フリー層厚が厚いNiFe4/CoFe
0.5(nm)の場合には、下地Cu厚は0.5〜2n
m程度が好ましく、フリー層が薄いNiFe1/CoF
e0.5nmの場合には、下地Cu厚は、1〜4nm程
度が好ましい。また界面CoFeの厚さは0.3〜1.
5nmの範囲で変えても構わない。また、CoFeのか
わりに、Co、もしくは他のCo合金を用いても構わな
い。CoFeのかわりにCoを用いる場合にはCo単体
では軟磁性が実現できないため、できるだけ薄くするこ
とが望ましい。
【0165】例えば、NiFeが4nmのときにはCo
は0〜1nm、NiFeが2nmのときには、0〜0.
5nm、NiFeが1nmのときには、0〜0.3nm
が好ましい。また、下地Cuとの界面拡散を気にする場
合には下地Cuとの界面にもCuと非固溶な材料のCo
やCoFeを挟んでも構わない。例えば、Co0.3/
NiFe2/Co0.5、CoFe0.5/NiFe2
/CoFe0.5などのフリー層が考えられる。
【0166】また、このような極薄磁性膜の積層膜にす
るかわりに、NiFeCoの合金フリー層を用いてもよ
い。
【0167】また、本発明で対象にしているような極薄
フリー層では低磁歪を実現することも困難になる。一つ
の困難点として、NiFeの膜厚が薄くなるほど、Ni
Feの磁歪が正に大きくなることが挙げられる。それを
克服するために、通常NiFe8nm/CoFe1nm
というフリー層ではNiFeの組成はNi80Fe20(a
t%)で良いが、本発明の4.5nmT以下のフリー層
の場合には、Ni80Fe20よりもNiリッチにすること
が望ましい。具体的には、NiFe膜厚が4nm程度の
ときでNi81Fe19(at%)よりもNiリッチに、N
iFe膜厚が3nm程度のときにはNi81.5Fe
18.5(at%)よりもNiリッチにすることが望まし
い。Ni濃度の上限としては、Ni90Fe10(at%)
程度が好ましい。
【0168】上記のように、下地Cuは電流磁界Hcu
低減させて、極薄フリー層においても良好なバイアスポ
イントを実現するという目的と、極薄フリー層でもMR
変化率の劣化なくスピンフィルター効果を用いるという
ことが2つの大きな目的である。
【0169】バイアスポイントという点からいうと、上
記(7−1)の膜でyとxは独立に決められるものでは
なく、相互の値に注意して決定される。例えば、yが小
さくなるとHpinが小さくなるため、それをキャンセル
する電流磁界Hcuも小さいほうがよいため、xの値は大
きめの値のほうに最適点がシフトする。
【0170】具体的には、一つの例として次のような膜
厚設計が考えられる。非磁性高導電層がCu層の場合の
設計として、ピン層が2nmTのときにはCu層は0.
5〜1.5nm、ピン層が1.5nmTのときにはCu
層は1〜2nm、ピン層が1nmTのときにはCu層は
1.5〜2.5nm、ピン層が0.5nmTのときには
Cu層は2〜3nm、ピン層が0nmTのときにはCu
層は2.5〜3.5nmということになる。
【0171】ここでピン層がCo、もしくはCoFeの
ときにはピン層の膜厚はt=(Ms*t)pin/1.8
T [nm]、ピン層がNiFeのときにはピン層膜厚
はt=(Ms*t)pin/1T [nm]ということに
なる。
【0172】スペーサCuはCuの他に、Au、Ag、
またはこれらの元素を含む合金などを用いても構わな
い。しかし最も望ましいのは、Cuである。高いMRを
実現すること、およびフリー層の下地側とは反対側のシ
ャント層をできるだけ小さくして電流磁界を低減させる
ためにも、スペーサ厚さは、できるだけ薄いほうが好ま
しい。しかし、あまり薄すぎるとピン層とフリー層のフ
ェロ的な磁気結合が強くなってしまい、Hin増大が生じ
てしまうので、1.5nm〜2.5nm、さらに望まし
くは、1.8〜2.3nm程度が望ましい。
【0173】スピンフィルター効果と電流磁界低減のた
めに大きな役割を果たしている下地高導電層は、ここで
は単層のCuで構成されているが、積層膜で形成しても
構わない。このとき、トップスピンバルブ膜において
は、fccのシード層という役割もあるため、下地材料
としては、fccもしくはhcp金属材料がよい。具体
的には、Au,Ag,Al,Zr,Ru,Rh,Re,
Ir,Ptなどからなる金属の合金層、もしくは積層膜
が考えられる。MRのスピンフィルター効果と電流磁界
低減効果だけのためなら単純なCu下地で十分効果が得
られるが、下地材料をわざわざ合金層や積層膜にする効
果として、極薄フリー層の磁歪制御とHin制御という2
つの役割がある。具体的には次のような実施例が考えら
れる。
【0174】Ta5/Ru1/Cu1.5/NiFe2/CoFe0.5/Cu2/CoFe2.
5/Ru0.9/CoFe2/IrMn7/Ta5(7−2) Ru1nmを下
地として用いることによって、膜の平坦性が向上し、ス
ペーサ2nmでフリー層のMs*tがNiFe換算2.
9nmTと極薄フリー層にも関わらず10Oe程度の低
inを容易に実現することができる。低Hinの実現はバ
イアスポイントのMRハイト依存性がすくなくなるとい
う点で望ましい。また、いたずらにシンセティックAF
の上下ピン層の膜厚差をつけなくても良好なバイアスポ
イントが実現できるという点でも好ましい。ここではR
uの膜厚は1nmとしたが、0.5nm〜5nm、さら
に望ましくは、1nm〜3nm程度が望ましい。Ru以
外の材料でも望ましい膜厚はそれほど変わらない。
【0175】(7−2)の膜では、Hcuを計算するとき
には、Ruの厚さとCuの厚さの電気的なシャント層の
足し算になる。例えば、Ruの場合には、30μΩcm
とCuの比比抵抗の約3倍なため、Hcuという観点では
(7−2)の膜はCu厚換算で1.8nmの膜と同等と
いうことになる。ただしMRという観点ではRuでは抵
抗が高く、電子の平均自由行程が短いため、RuをNi
Feにダイレクトに接しさせることではスピンフィルタ
ー効果はほとんど得られない。よって、フリー層に接す
る層としては、できるだけ低抵抗のCu、Au、Agな
どが望ましく、Ruなどの材料はCu、Au、Agなど
を介して二層にすることが好ましいわけである。これが
わざわざ二層下地にする1つの理由である。
【0176】また、ここではバッファ層TaとRuをわ
けて考えたが、Ru層がバッファ層としての効果も発揮
するならばTa層はなくてもよい。例えばZr層をRu
の変わりに用いるときなどは、Taをなくすことも可能
である。
【0177】バッファ層を用いる場合には、Taの他
に、Ti,Zr,W,Cu,Hf,Moもしくはこれら
の合金などを用いることができる。これらのいずれの材
料を用いても、膜厚は1nm〜7nm、さらに好ましく
は、2nm〜5nm程度が好ましい。
【0178】ここではAF膜としてIrMn(Ir:5
〜40at%)を用いたが、IrMnの膜厚としては、
3nm〜13nm程度が好ましい。IrMnを用いるメ
リットとしては、薄い膜厚でも良好なピン特性が実現で
きるため、高密度化に向けた狭ギャップヘッドに適して
いる、貴金属を含んでいるため、熱処理後に高MR変化
率を維持できるという特徴がある。比較例2で示したよ
うなFeMnを反強磁性膜に用いた膜では、高MR変化
率を熱処理後に維持することはできない。これは本発明
のような極薄フリー層を用いるときに顕著に表れる現象
である。
【0179】また、反強磁性膜としてはCrMn、Ni
Mn、NiOを用いても良いが、高MR変化率実現のた
めには、貴金属元素を含むAFが望ましい。たとえばI
rの代わりにPd、Rhなどを用いても良い。FeMn
やNiMnなどに比べてMR変化率が向上するため、ヘ
ッドに不可欠なアニール熱処理後でも高MR変化率が維
持される。また、貴金属元素の濃度がさらに高いPtM
nを用いることも望ましい実施例のひとつである。
【0180】 Ta5/Cux/NiFe2/CoFe0.5/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/PtMn10/Ta5 (7−3) Ta5/Rux/Cuy/NiFe2/CoFe0.5/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/PtMn10/Ta5(7−4) PtMn(Pt:40〜65at%)を使うメリットと
しては、貴金属濃度がIrMnよりもさらに高いためプ
ロセスアニールによるMR劣化がさらに少なく、高いM
R変化率が実現でき、ΔRsを大きくすることができ、
高出力が得られることが挙げられる。MRの良好な耐熱
性が実現しにくい極薄フリー層のスピンバルブ膜におい
て、スピンフィルター効果による下地Cuなどがある構
成と、PtMnとの組み合わせが最もMR耐熱性がよ
い。PtMnの代わりにPdMn、PdPtMnを用い
ても良い(貴金属濃度:40〜65at%)。
【0181】MR耐熱性という観点からいうと、下地C
u厚は1nm以上あることが望ましい。それ以下の膜厚
だとMRの耐熱性が悪くなるからである。ただし、Ni
Feの膜厚が4nm以上あるときには、下地Cu厚は
0.5nm以上あればMRの耐熱性を確保できる。
【0182】PtMnは電気的な比抵抗の値もIrMn
とほぼ同じ値で大きいので、電流磁界に対する寄与は小
さく好ましい。このように、(7−3)、(7−4)の
膜は実用上非常に優れた膜である。
【0183】ただし、PtMnのデメリットとして一方
向異方性磁界がでる臨界膜厚がIrMnの場合よりも厚
いため、5nm程度まで薄くすることが困難なことが挙
げられる。よってPtMnを用いた場合にはPtMnの
膜厚としては、5nm〜30nmが望ましい。さらに望
ましくは、7nm〜12nm程度が望ましい。PtMn
の場合にも、(7−4)のような、フリー層の下地の二
層化に対する考え方は全く同様である。
【0184】(7−1)〜(7−4)の実施例のバリエ
ーションとして、反強磁性膜の上にさらに貴金属元素膜
を積層することが考えられる。例えば、Cu、Ru、P
t、Au、Ag、Re、Rh、Pdなどの単層膜もしく
は積層膜を用いてもよい。この構成によって薄いスペー
サ膜厚のときでも低Hinを実現できる。ただし、あまり
膜厚が厚くなると、電流分流比がフリー層の上層側で多
くなってしまうので、単層膜もしくは積層膜のトータル
膜厚としては0.5nm〜3nm程度が好ましい。
【0185】図15に関して前述したように、本実施例
のスピンバルブ膜は、比較例1〜4と比べて、バイアス
ポイントの制御性がはるかに優れ、最適なバイアスポイ
ントを確実に得ることができる。
【0186】また、図16に関して前述したように、本
実施例のスピンバルブ膜は、比較例1〜4と比べて高い
MR変化率を得ることができる。 (実施例2) トップSFSV(シンプルCoFeフリ
ー層) Ta5/Cux/CoFe2/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/IrMn7/Ta5 (8−1) Ta5/Cux/CoFe2/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/PtMn10/Ta5 (8−2) 本実施例においては、フリー層として、(実施例1)の
ようなNiFe/CoやNiFe/CoFeのような積
層フリー層ではなく、CoFe単層からなるシンプルな
フリー層構成を用いた。つまり図1において、フリー層
102が単層膜のCoFeからなり、高導電層101が
単層膜Cuからなる構造である。
【0187】(5nmT in NiFe)を実現する
ような極薄フリー層を実現するには、様々な困難な点が
生じてくるが、単層からなるCoFe系フリー層では極
薄域での軟磁性制御が膜構成が単層なことから比較的容
易というメリットがある。CoFeに第3の添加元素と
して、B、Cu、Al、Rh、Pd、Ag、Ir、A
u、Pt、Ru、Re、Osのようなものを添加しても
構わない。しかし、CoFe合金のかわりにピュアなC
oでは軟磁性が実現できない。CoFeはCo85Fe15
at%〜Co96Fe4at%が望ましい。後に述べるよ
うに、これは磁歪制御という観点からによる。
【0188】また、CoFeフリー層は軟磁性という観
点からfcc(111)配向していることが望ましい。
スピンフィルター効果を効果的に得るという点からも抵
抗が小さくなるようにfcc(111)配向してことが
好ましいが、CoFeBのような微結晶構造やアモルフ
ァス構造のフリー層の実施例も考えられる。
【0189】シンプルCoFeフリー層はMsがNiF
eよりも大きいことから同じMs*tを実現するにも薄
い膜厚で実現できることから、スピンフィルター効果の
観点からも有利となる。例えば4.5nmTのフリー層
を実現するにはNiFe/CoFeでは、NiFe3.
6/CoFe0.5(nm)でトータル膜厚が約4nm
となるのに対し、シンプルCoFeフリー層ではCoF
e2.5nmであり、NiFe/CoFeよりも約1.
5nm薄くできる。この両者の膜にフリー層の下に接し
て高導電層を設けると、ダウンスピン電子は両者の膜と
もダウンスピンの平均自由行程の値である約1nmと比
べて厚いためフィルタアウトされるが、NiFe/Co
Feのトータル膜厚4nm程度になるとアップスピンの
平均自由行程と近い値になってくるため、その下の高導
電層は単純なシャント効果をもたらすことになり、高導
電層を厚くすればするほどシャント効果の影響でMRが
低減してしまう。
【0190】一方、シンプルCoFeに関しては、2.
5nmよりも平均自由行程が長いため、ある程度の膜厚
までは高導電層をつけるほどアップスピンの平均自由行
程が長くなり、MRが上昇する。経験的には高導電層に
Cuを用いた場合には、Cu層とNiFe/CoFe、
もしくはCoFe層からなるフリー層のトータル膜厚が
4nm程度、もしくは3nm〜5nmのときにMRピー
クをとることが実験的に得られている。つまり、バイア
スポイント設計上必要な高導電層膜厚があった場合、N
iFe/CoFeではスピンフィルター効果というより
もシャント効果のためMRの減少をもたらすが、CoF
eではスピンフィルター効果によって、バイアスポイン
ト調整とともにMR上昇効果の両立をはかることができ
るので、有利となる。これは上述のように、高導電層と
フリー層とのトータル膜厚でMRピーク値がきまるの
で、CoFe膜厚が薄いほど、MRピークをとるCu層
の膜厚が厚くなることになり、スピンフィルター効果と
バイアスポイント調整効果の兼用効果がでてくる。以上
の理由により単純CoFeフリー層のほうがスピンフィ
ルタースピンバルブでは望ましい。
【0191】積層NiFe/CoFeのほうがMR耐熱
性が悪いので、単純CoFeフリー層のほうがMRが大
きいのでよい。
【0192】磁歪制御も極薄層の積層膜であるNiFe
/CoFeよりもCoFeの単層のほうが制御が容易。
特に、極薄フリー層では界面磁歪が重要であるので、界
面が一つ増えるNiFe/CoFeのほうが不利であ
る。
【0193】(8−1)の構成でのバイアスポイント
も、実施例1の場合とほぼ同様に30〜50%の良好な
範囲内になる。ハイト依存性も実施例1と同様に小さ
い。
【0194】フリー層のMs*t依存性に関しては、M
s*tが小さいほどトランスファーカーブ上の飽和磁界
Hsが小さくなってくるため、より厳密なバイアスポイ
ント調整が要求される。具体的には電流磁界をより低減
させることが重要になってくるので、高導電層の膜厚を
増加させる必要がでてくる。本発明によるスピンバルブ
膜では既に述べたようにフリー層の膜厚が薄くなるほど
スピンフィルター効果によりMRピークが出現する高導
電層の膜厚が厚いほうにシフトするため、そのトレンド
とも一致しており、本発明のスピンバルブ膜の設計思想
が高密度用ヘッドの膜として利にかなっていることがわ
かる。
【0195】具体的には、フリー層Ms*t〜4.5n
mT、CoFe膜厚2.5nmのときには高導電層の良
好な膜厚はCu換算で0.5nm〜4nm、さらに望ま
しくは1nm〜3nm、Ms*t〜3.6nmT、Co
Fe膜厚2nmのときにはCu膜換算で、1nm〜4.
5nm、さらに望ましくは1.5〜3.5nm、Ms*
t〜2.7nmT、CoFe膜厚1.5nmのときには
Cu膜換算で、1.5nm〜5nm、さらに望ましくは
2nm〜4.5nm、Ms*t〜1.8nmT、CoF
e膜厚1nmのときにはCu膜換算で、2nm〜5.5
nm、さらに望ましくは、2.5nm〜5nm程度とす
る。
【0196】(8−1)では反強磁性膜としてIrMn
を用いているのに対し、(8−2)ではPtMnを用い
ている。PtMnを用いることにより、さらにMR耐熱
性が向上し、出力の向上がはかれるというメリットが得
られる。これは、NiFe/Co(Fe)フリー層のと
きと同様である。ただし、PtMnを用いたときのほう
がHinが上昇しやすいという問題点があるため、バイア
スポイントを良好なところに設計するためには、IrM
nを用いたときよりも、電流磁界Hcuを低減させるか、
pinを増加させるかの、どちらかもしくは両者の対策
が必要である。Hcuを低減させるためには、高導電層の
σtを増加させる、つまり高導電層の膜厚を増加させる
ことが考えられる。また、Hpinを増加させるには、シ
ンセティックAFの上下のピン層膜厚差をIrMnのと
きよりも大きめにすることが考えられる。しかし、高導
電層の膜厚を増加させることはΔRsの低下を招くこと
にもなるので、IrMnのときよりも高導電層膜厚でC
u換算で0〜2nm程度の範囲での調整が望ましい。ま
た、シンセティックAF構造のΔtを増加させることは
これまでのべてきたようにバイアスポイントのMRハイ
ト依存性を増加させることにもなるのであまり大きくす
ることは望ましくなく、IrMnのときと比べてCoF
e換算で0〜1nm程度の増加で設計することが望まし
い。(8−1)、(8−2)のバリエーションとして、
次のような構成も考えられる 。 Ta5/Rux/Cuy/CoFe2/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/IrMn7/Ta5 (8−3) Ta5/Rux/Cuy/CoFe2/Cu2/CoFe2.5/Ru0.9/CoFe2/PtMn10/Ta5 (8−4) この構成においては、高導電層として、Cu単層ではな
く、Ru/Cuという積層膜で構成した。積層膜にする
理由は次の二つの理由による。
【0197】1.CoFe磁歪制御 2.Hin低減効果 上記1.のCoFe磁歪制御に関しては、後に詳述する
ように、CoFeの歪み制御によって磁歪を制御しよう
とするものである。つまり、単純CuよりもCoFeの
fcc−d(111)面間隔を広げて、Co90Fe
10(atmic%)フリー層を用いたときには負側に大
きくなりやすいCoFeフリー層の磁歪を、ゼロ近傍に
制御しようとするものである。よって、Cu層の下に位
置する材料としてはCuよりも原子半径が大きいものが
望ましい。例えば、Ruの他に、Re、Au、Ag、A
l、Pt、Rh、IrあるいはPdなどが望ましい。磁
歪制御という意味では下地二層化の他にCoFe組成を
90−10から変えることによっても可能である。具体
的には、Co90F10〜Co96Fe4の組成範囲のCoF
e合金フリー層が用いられる。一方、上記2.のHin
減効果に関しては、膜成長のときの平坦性を向上させる
効果がRuにはあるからである。既に述べてきたよう
に、Hinはできるだけ小さいところでHcuとHpinによ
ってバイアスポイント設計することが望ましいからであ
る。特に、SFSVではMRのスピンフィルター効果、
フリー層の上層のシャント低減という2つの点でスペー
サ厚はできるだけ薄いほうが望ましく、Cu〜2nm程
度の極薄スペーサを使いこなす技術が必要なので、一般
的にスペーサ厚依存性が大きなHin制御が困難になる。
Ru/Cu積層膜にすることによって、Ru1.5nm
/Cu1nm〜2nm下地、フリー層Ms*t3.6n
mT、CoFe膜厚2nmという極薄フリー層、スペー
サCu2nmというもので、Hinとして7〜13Oeと
いう低Hinを実現することができる。(7−1)、(7
−2)の実施例においてはHinが20Oe程度であった
ことを考慮すると、このHin低減効果は大きい。
【0198】Hcu計算という観点からみたときには、R
uの比抵抗からσtとCu膜厚に換算すればよいだけで
ある。実験的に求まったRuの比抵抗は30μΩcmな
ので、σtのシャント効果としては比抵抗10μΩcm
のCu膜厚にして1/3の膜厚ということになる。例え
ば、Ru1.5nm/Cu1nmという構成ではシャン
トのCu膜厚換算値で(1.5nm/3)+1nm=
1.5nmと同等ということになる。
【0199】また(8−1)〜(8−4)の実施例のバ
リエーションとして、反強磁性膜の上にさらに貴金属元
素膜を積層することが考えられる。例えば、Cu、R
u、Pt、Au、Ag、Re、Rh、Pdなどの単層膜
もしくは積層膜を用いてもよい。この構成によって薄い
スペーサ膜厚のときでも低Hinを実現できる。ただしあ
まり膜厚が厚くなると、電流分流比がフリー層の上層側
で多くなってしまうので、単層膜もしくは積層膜のトー
タル膜厚としては0.5nm〜3nm程度が好ましい。 (実施例3)ボトムSFSV(NiFe/Co(Fe)フリー層) Ta5/Ru2/PtMn10/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/Co0.5/NiFe2/Cu2/Ta5 (9−1) Ta5/Ru1/NiFeCr2/IrMn7/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/Co0.5/NiFe2/Cu2/Ta5(9 −2) 反強磁性膜がフリー層よりも下層側に位置する、いわゆ
るボトムタイプの実施例について示す。図6は、本実施
例にかかるスピンバルブ膜構成を表す概念図である。す
なわち、下地バッファ層131上に、反強磁性膜結晶制
御層128、反強磁性膜127が積層され、ピン層12
6、124が層125を介して反強磁性的に結合してい
る。層124上にスペーサ層123、フリー層122、
非磁性高導電層121が順次積層され、最後にキャップ
層132が設けられている。
【0200】(9−1)の実施例は、反強磁性膜結晶制
御層128が単層Ruからなり、127の反強磁性膜が
PtMn、フリー層122が129、130の二層の積
層膜から形成された場合である。(9−2)の実施例
は、反強磁性膜結晶制御層128が133の膜としてR
u、134の膜としてNiFeCrの二層膜から形成さ
れ、127の反強磁性膜がIrMn、フリー層が12
9、130の2層膜から形成された場合の実施例であ
る。
【0201】ボトムタイプのスピンバルブ膜において
は、Ta等のバッファ層の上にさらに反強磁性膜結晶制
御層として、fccまたはhcpの下地膜を1nm〜5
nm程度用いる。例えば、Cu、Au、Ru、Pt、R
h、Ag、Ni、NiFeやそれらの合金膜、積層膜な
どが用いられる。これらのシード(seed)層は反強磁性
膜としての機能を高めるために重要な膜である。(9−
1)のPtMnの実施例においては単層のRu層を、
(9−2)のIrMnの実施例においては、Ru/Ni
FeCrの積層膜を用いた。この反強磁性膜結晶制御層
は反強磁性膜のブロッキング温度を充分高い値にするこ
と、および膜平坦化を促し、本発明で必要とされる1.
5nm〜2.5nm程度の極薄スペーサを用いた場合で
も低Hinを実現する働きがある。
【0202】本発明によるバイアスポイントメリットと
いう点では、上記実施例程度の膜厚の範囲では、このシ
ード層の種類によって、大きな影響を受けることはな
い。ただし、低抵抗材料、すなわち比抵抗の小さな材料
を用いることは好ましくない。これは、ここでシャント
分流層が増えてしまうと、電流中心をフリー層に近づけ
ることが困難になるからである。よって、反強磁性膜と
しての機能を高められる材料の範囲でできるだけ高抵抗
の材料を用いることが好ましい。例えば、低抵抗のNi
Feの代わりに、NiFeにCr、Nb、Hf、W、T
a等を添加して比抵抗を上げて用いる実施例が考えられ
る。(9−2)ではNiFeの代わりにNiFeCrを
用いている。
【0203】反強磁性膜としては、(9−1)ではPt
Mn、(9−2)ではIrMnを用いている。PtMn
を用いるメリットとしては、ブロッキング温度が高温で
あること、およびHu.a.が大きいこと、およびプロセス
熱処理後のMR熱劣化が非常に小さく、高MR、高ΔR
sが実現できることが挙げられる。トップタイプのとき
と同様に極薄フリー層を用いた場合に高いMRをプロセ
ス熱処理後に維持できるという点から貴金属を含む反強
磁性膜であるPtMnを用いるメリットは非常に大き
い。PtMnの代わりにPdPtMnを用いても良い。
好ましい膜厚範囲としては、5nm〜30nm、さらに
好ましくは、7nm〜12nmが良い。
【0204】(9−2)のIrMnを用いるメリットと
しては、PtMnよりも薄膜領域で特性がでるため、高
密度化に対応した狭ギャップヘッドに適しているという
点を挙げることができる。IrMnの膜厚としては3n
m〜13nmが望ましい。IrMnも貴金属元素Irを
含む反強磁性膜であるため、MR変化率の耐熱性に優れ
ている。IrMnの替わりに同様に貴金属元素を含むR
uRhMnを用いてもよい。
【0205】上記のように、反強磁性膜としては、Pt
Mn、IrMn、PdPtMnが最も好ましいが、本発
明のスピンバルブ膜のバイアスポイントメリットという
点では反強磁性膜材料によって限定されるものではな
く、NiO、CrMnPt、NiMn、α−Fe23
のその他の反強磁性膜を用いても構わない。
【0206】シンセティックピン層の二層の強磁性材料
としては、ここではCoFe合金層を用いたが、Co、
NiFe、またはNiFeと、CoもしくはCoFeの
積層膜を用いても構わない。これらの構成材料や膜厚等
の考え方は、前述した実施例1、2のトップタイプの場
合と全く同様である。本発明の重要なポイントであるこ
のシンセティックピン層の構成は、前述のように、ピン
漏洩磁界を低減させることが最も大きな目的であり、こ
の上下強磁性層のMs*t差はフリー層に接して設けら
れる高導電層の膜厚と密接に関連して変えられるもので
ある。
【0207】スペーサについてもトップタイプのときと
考え方は変わらず、できるだけ薄いほうが好ましい。具
体的には、1.5nm〜2.5nm程度が望ましく、さ
らに望ましくは、1.8nm〜2.3nmが好ましい。
【0208】フリー層としては、ここでの実施例ではN
iFe/Coの積層膜を用いている。このフリー層の膜
厚、材料の考え方もトップタイプのときとほぼ同様であ
る。ただし、NiFeの下地膜がトップタイプと、ボト
ムタイプの場合では異なるため、低磁歪実現のためのN
iFeの組成がトップタイプのときとは若干異なる。具
体的にはNiFe/CoFe積層フリー層の場合には、
NiFeの低膜厚化に伴うNiFe/CoFe積層フリ
ー層の磁歪の正側へのシフトがトップタイプのときより
も小さいので、トップタイプのときよりもNiFeの組
成としてNiプアのものでも最適磁歪を実現できる。
【0209】例えば、NiFe3nm/CoFe0.5
nm積層フリー層の場合にはトップタイプではNiFe
の組成として、Ni81Fe19(at%)ではまだ正側に
大きい値となって使用不可能だが、ボトムタイプではN
81Fe19(at%)で小さな正の磁歪値となって実用
上問題ない膜となる。
【0210】本発明の大きなポイントの2点目である高
導電層としては、ここではCu膜が用いられている。こ
の高導電層の最も大きな役割は、電流センターをできる
だけフリー層に近づけて電流磁界を低減させることであ
る。
【0211】さらに別の効果として、Cu導電層による
MRのスピンフィルター効果も用いているため、極薄フ
リー層を用いているにも関わらずMR変化率の劣化はな
い。
【0212】最適なCu膜厚の範囲はトップSFSVの
ときと同様であり、フリー層厚、シンセティックAFの
上下のピン層膜厚差によって最適値が微妙にずれること
もトップタイプのときと同様である。またCuキャップ
層のバイアスポイント調整、高MR変化率維持以外の別
の大きな効果として、極薄フリー層での低Hinを実現で
きることにある。例えば、同じフリー層厚でCuキャッ
プがない場合にはHinが30Oe以上あったものがCu
キャップを用いることにより約10Oeまで低減でき
る。
【0213】ここで、(9−1)、(9−2)のバリエ
ーションとして、フリー層CoFeに接した高導電層C
uの換わりに、二層以上の積層膜からなる高導電層で構
成したもよい。例えば、Cu/Ru、Cu/Re、Cu
/Rh、Cu/Ptなどが挙げられる。二層にする効果
としては、トップタイプのときに記述したようにCoF
eフリー層の磁歪は歪みによって影響を受けるので、磁
歪λsを調整することが主な目的である。また、低Hin
を実現することが本発明においては重要だが、低Hin
御目的のためにも、2層にすることがある。
【0214】具体的な膜構成としては、以下のようなも
のが考えられる。
【0215】 Ta5/Ru/PtMn10/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/Co0.5/NiFe2/Cu1.5/Ru1.5/Ta5 ( 9−3) Ta5/Ru/NiFeCr/IrMn7/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/Co0.5/NiFe2/Cu1.5/Ru1.5/Ta 5(9−4) 上記膜構成において、Cu薄膜の比抵抗10μΩcmに
対して、Ruは30μΩcmなので、電気的なシャント
効果としては、Cu1nmに対し、Ru3nmが同等の
効果をもたらすことになる。つまり、上記(9−3)、
(9−4)の膜においては、高導電層の膜厚はCu換算
で2nmと同等ということになる。Cu単層の場合に
0.5nm〜3nmまでの範囲で用いられるので、Ru
も同様に0.5nm〜6nmの範囲で用いられる。ただ
し、Ruでは比抵抗も高くスピンフィルター効果はCu
の場合よりも弱いため、CoFeに接する高導電層とし
ては、Cuのほうが好ましく、また、Ruをあまり厚く
することは狭ギャップという点からも好ましくないの
で、CoFeに接しさせてCuなどを用い、Cu膜厚は
0.5nm〜2nm程度用いた上で、2層の他の金属材
料を用いることが好ましい。 (実施例4)ボトムSFSV(CoFeフリー層) Ta5/Ru2/PtMn10/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/CoFe2/Cu2/T
a5 (10−1) Ta5/Ru1/NiFeCr2/IrMn7/CoFe2
/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/CoFe2/Cu2/Ta5(10−2) 本実
施例は、図2に例示したボトムタイプに属するもので、
フリー層122の代わりに単層膜のCoFe層が用いら
れているタイプのものである。それ以外は、前述した実
施例3と同様である。フリー層以外の層の材料、膜厚の
考え方は全く実施例3と同様である。CoFeフリー層
を用いるメリットは、トップタイプのときと同様であ
る。さらに、この実施例ではMs*tがNiFe換算で
3.6nmTのときだが、Ms*t〜4.5nmTで比
較すると、CoFe単層フリー層ならば膜厚2.5nm
で薄くスピンフィルター効果が得られるのに対して、N
iFe/Co(Fe)だとNiFe4/Co0.5(n
m)と総膜厚が厚くなり、高導電層を設けることによる
MRのスピンフィルター効果は得られず、単純シャント
層となること、およびNiFe自体のシャント効果もあ
ることから、ΔRsでCoFe単層フリー層と比較し
て、0〜30%減少する。
【0216】以上のことから、Ms*tの広い範囲でM
s*tのスピンフィルター効果が得られることからも、
CoFeフリー層の実施例である本実施例のほうが、実
施例3の場合よりも望ましい。
【0217】ここで、(10−1)、(10−2)のバ
リエーションとして、フリー層CoFeに接した高導電
層Cuの換わりに、二層以上の積層膜からなる高導電層
で構成したもよい。例えば、Cu/Ru、Cu/Re、
Cu/Rhなどが挙げられる。二層にする効果として
は、既述のようにCoFeフリー層の磁歪は歪みによっ
て影響を受けるので、磁歪λsを調整することが主な目
的である。また、低Hinを実現することが本発明におい
ては重要だが、低Hin制御目的のためにも、2層にする
ことがある。具体的な膜構成としては、以下のようなも
のが考えられる。 Ta5/NiFe/PtMn10/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/CoFe2/Cu1.5/Ru1.5/Ta5(10− 3) Ta5/NiFe/IrMn7/CoFe2/Ru0.9/CoFe2.5/Cu2/CoFe2/Cu1.5/Ru1.5/Ta5 (10− 4) 上記のような積層膜非磁性高導電層によってCoFeの
磁歪を制御する方法以外に、CoFeの組成を変えるこ
とによる磁歪制御もある。一般的に、フリー層に加わる
歪調整は下地膜のほうがやりやすいが、ボトムタイプで
はフリー層の下側での材料は自由に選ぶことは困難とな
るからである。ボトムタイプのときにはCu上にCoF
eが積層されることになり、そのときにはCo90Fe10
(at%)を用いると、負側の大きな磁歪になりやす
い。それを正側にシフトさせるために、CoリッチのC
oFeを用いることが望ましい。具体的には、Co90
10〜 Co96Fe4(at%)のCoFeフリー層を
用いることが望ましい。しかしCoリッチにしてhcp
相が混在してしまうと、フリー層の軟磁性が劣化(Hc
が増大)するので、Co98Fe2のようなCoリッチす
ぎるCoFe合金を用いることは望ましくない。
【0218】上記の膜構成において、Cu薄膜の比抵抗
10μΩcmに対して、Ruは30μΩcmなので、電
気的なシャント効果としては、Cu1nmに対し、Ru
3nmが同等の効果をもたらすことになる。つまり、上
記(10−3)、(10−4)の膜においては、高導電
層の膜厚はCu換算で2nmと同等ということになる。
Cu単層の場合に0.5nm〜3nmまでの範囲で用い
られるので、Ruも同様に0.5nm〜6nmの範囲で
用いられる。ただし、Ruでは比抵抗も高くスピンフィ
ルター効果はCuの場合よりも弱いため、CoFeに接
する高導電層としては、Cuのほうが好ましく、また、
Ruをあまり厚くすることは狭ギャップという点からも
好ましくないので、CoFeに接しさせてCuなどを用
い、Cu膜厚は0.5nm〜1nm程度用いた上で、2
層の他の金属材料を用いることが好ましい。 (第2〜第6の実施の形態:高温安定性と再生出力の向
上)次に、高温安定性と再生出力の向上の観点からみた
本発明の第2〜第6の実施の形態に関して説明する。
【0219】まず、第2〜第6の実施の形態に共通な技
術的思想に関して概説する。
【0220】図17は、本発明の第2〜第6の実施の形
態のうちの一実施の形態を示す図である。図17におい
て、基板10に下シールド11、下ギャップ膜12を設
け、その上にスピンバルブ素子13が形成されている。
スピンバルブ素子はスピンバルブ膜14と一対の縦バイ
アス膜15および一対の電極16から構成され、さらに
非磁性下地層141、142、反強磁性層143、磁化
固着層144、中間層145、磁化自由層146、保護
膜147が形成されている。
【0221】表6には本発明の実施の形態のSyAFを
磁化固着層に用いた場合の、SyAFの強磁性層と結合
する反強磁性層の材料組成および膜厚と、200℃にお
ける交換結合定数J、交換バイアス磁界HUA*およびH
UA、ブロッキング温度Tb、およびスピンバルブ素子の
抵抗変化率ΔR/Rを示す。また表7には、磁化固着層
として従来の単層の磁化固着層を用いた場合の同様の表
を示す。また表8にはSyAFと結合した反強磁性層の
最密面からの回析線ピークのロッキングカーブ半値幅Δ
θと200℃におけるSyAFの反強磁性層側強磁性層
との交換結合定数Jおよびブロッキング温度Tbとの関
係を示す。
【0222】
【表1】
【0223】
【表2】
【0224】
【表3】 本発明者は表6および表8に示すように、1)反強磁性
層と結合する磁化固着層をSyAFによって構成し、反
強磁性層の組成を選べば温度200℃における交換結合
定数Jとして0.02erg/cm2 以上を得ることが
できること、2)反強磁性層の最密面ピークのロッキン
グカーブ半値幅が小さくなるように最密面を配向させ
て、ロッキングカーブ半値幅が好ましくは8゜以下、さ
らに好ましくは5゜以下となるようにすることによっ
て、温度200℃における交換結合定数Jを高めること
ができること、3)反強磁性層の磁気膜厚を20nm以
下、より好ましくは10nm以下とすることにより、抵
抗変化率を単層の磁化固着層を用いて構成したスピンバ
ルブ素子の抵抗変化率と同等以上に高めることができる
こと、そして4)温度200℃における交換結合定数J
を0.02erg/cm 2 以上にすることにより、温度
200℃において交換バイアス磁界HUA* を200Oe
以上にすることができ、記録媒体などから再生素子のス
ピンバルブ素子に加わる最大磁界が200Oeであって
も安定な磁化固着層が得られること、を見出して本発明
をなすに至った。
【0225】図18は外部磁界に対するスピンバルブ膜
の抵抗値の変化と、交換バイアス磁界HUA* を示す模式
図である。図18で交換バイアス磁界HAU* は、実質的
に磁化固着層の磁化が動かない磁界の最大値を、低磁界
側の直線部の延長線と高磁界の直線部の延長線との交点
として求めた磁界の値と定義される。交換バイアス磁界
UA* として200Oe以上を有する磁化固着層は、磁
化固着方向に外部磁界を加えた場合の抵抗−磁界特性に
おいて、200Oeまでの磁界範囲では、磁化がほとん
ど動くことがなく、磁化自由層のみが磁化応答した抵抗
変化が得られる。
【0226】図18では、磁界センサとしての動作点で
ある磁界がゼロの近傍で磁化自由層の磁化応答に伴う急
峻な抵抗変化のみが、抵抗−磁界特性を示す曲線上に認
められ、200Oeまでの外部磁界に対しては、この磁
化自由層の磁化応答以外には抵抗の変化が認められず、
磁化自由層が飽和した後は、磁界に対する実質的な応答
がないことを示す。
【0227】従来のNiO反強磁性層や、FeMnCr
反強磁性層を用いた場合には、200℃においてはほと
んどJが得られない。また、30nm厚のCrMnPt
反強磁性層を用いた場合には抵抗変化率が従来の単層の
磁化固着層よりも低くなってしまうので好ましくない。
【0228】従来の単層の磁化固着層においては、表7
に示されているように、PtMnを用いた場合には20
nm厚以上で高いHUAが得られるが、その場合の抵抗変
化率は6.4〜6.7%と比較的低い値を示す。
【0229】これに対し、表6に示す本発明の実施の形
態によれば、IrMn、RhMn、RhRuMn、Pt
Mn、NiMn、CrMnPtなどの厚さ20nm以下
の反強磁性層を用いることにより、200℃にてHUA*
が200Oe以上の優れた耐熱性を満足し、しかも抵抗
変化率は従来の単層の磁化固着層を用いた場合と同等あ
るいはそれ以上の値が得られる。なお本発明において反
強磁性層の厚さの下限は好ましくは3nm以上である。
【0230】図19はHUA* が200Oeの本発明の実
施形態のスピンバルブ膜、および従来のHUAが500O
eの単層磁化固着層のスピンバルブ膜について、200
℃にて200Oeの模擬バイアス磁界を与えた場合の経
過時間と磁化固着層の磁化の動いた角度との関係を示
す。図19に示されているように、従来の単層磁化固着
層のスピンバルブ膜に比べて、本発明の実施形態のスピ
ンバルブ膜は、200℃におけるHUA* が200Oe
と、単層磁化固着層のHUA、510Oeに比べて小さい
にもかかわらず、200℃における固着磁化の経時変化
はわずかであって、安定性に優れることがわかる。
【0231】また、IrMn、RhMn、RhRuMn
などのMnリッチのγ−Mn系反強磁性体膜を用いた場
合にみられるように、10nm以下の反強磁性層厚で
は、従来の単層の磁化固着層を用いた場合よりも大きい
抵抗変化率が得られ、さらに好ましい。
【0232】また、表6の本発明の実施の形態において
は、Tbが240〜300℃の範囲の反強磁性層で良好
な固着磁化の耐熱性を示す。従ってTb近傍では磁気結
合層の結合磁界を上回る大きな磁界を加えて強磁性体層
Aと強磁性体層Bを同方向に飽和させることにより、磁
化固着層の磁化方向を外部磁界により自由に制御できる
ので、磁気結合層と強磁性層Aおよび強磁性層Bとの間
の拡散があまり問題とならない300℃以下での磁化固
着処理が可能となる。
【0233】磁気結合層と強磁性層Aおよび強磁性層B
との間の拡散や拡散の影響を防止するには、磁気結合層
として厚さが0.8nmを超えることが好ましく、また
Ru、Rh、Cr、Irなどを用いることが好ましい。
また強磁性層Aや強磁性層Bには、CoFeなどのCo
合金を用いること、磁気結合層の凹凸を磁気結合層の厚
みと同等かそれ以下に抑えることが有効である。
【0234】さらに、磁化固着層の磁化方向規定熱処理
では、強磁性層Aと強磁性層Bを同方向に飽和させる必
要があるので、強磁性層Aや強磁性層Bの膜厚が2nm
程度まで薄くなると、磁気結合層厚が0.8nm以下の
場合は磁気結合層の反強磁性的結合磁界が約7kOeま
たはそれ以上に増大し、実用的な外部磁界で磁化固着層
の磁化方向規定熱処理が困難になってしまう。このため
磁気結合層厚は0.8nmを超える厚さにした方が、実
用的な外部磁界例えば7kOeで磁化固着層の磁化方向
規定熱処理が可能であって好ましい。
【0235】表6の本発明の実施の形態において採用し
ているSyAF磁気結合層においては、CoFe合金で
構成された強磁性層Aおよび強磁性層Bの厚みが2.5
nm、Ruで構成された磁気結合層の厚み0.9nmと
することにより、反強磁性結合磁界は約4kOeであ
り、この程度の反強磁性磁界で磁化固着層の耐熱性確保
を十分に良好に行うことができる。
【0236】本発明においては、強磁性層Aと強磁性層
Bの磁性膜厚がほぼ等しいか、あるいは強磁性層Aの磁
気膜厚が強磁性層Bの磁気膜厚よりも厚い構成が好まし
い。強磁性層Aと強磁性層Bの磁性膜厚がほぼ等しい場
合には、強磁性層Aの磁気膜厚が強磁性層Bの磁気膜厚
よりも厚い場合に比べて、媒体磁界や縦バイアス磁界に
対して磁化固着層の磁化が著しく安定である。
【0237】一方、強磁性層Aの磁気膜厚が強磁性層B
の磁気膜厚よりも大きい場合には、強磁性層Aと強磁性
層Bの磁性膜厚がほぼ等しい場合に比べて、ESDによ
る固着磁化反転のない良好なESD特性が実現できる。
この場合、強磁性層Aの磁気膜厚に対する強磁性層Bの
磁気膜厚の比が0.7〜0.9の範囲とすることが好ま
しい。例えば強磁性層Aに2.5nmのCoFe合金、
強磁性層Bに2nmのCoFe合金とすることが好まし
い。強磁性層Aと強磁性層Bの磁性膜厚がほぼ等しい場
合でも、磁気ディスクドライブに電流によって磁化固着
層の磁化を所定の方向に再固着する回路を組み込む(例
えば米国特許第5650887号)ことによって、ES
Dによる固着磁化反転が生じても再固着できるドライブ
が実現できる。200℃におけるJの値が0.02er
g/cm2 以上を実現するには、Mnを主成分とする、
IrMn、RhMn、RhRuMnなどからなるγ−M
n相、あるいはAuCuII形の規則化相を主相とする反
強磁性層(Mnの組成が0を超えて40%未満で実現し
易い)を、あるいはPtMn、PtPdMn、NiMn
などからなる面心正方晶の規則化相(CuAuI型)を
含む反強磁性層(Mn組成が40%以上70%以下で実
現し易い)を、あるいはCrMnやCrAlなどのCr
系反強磁性層を用いることが好ましい。
【0238】さらにこれらの合金で200℃におけるJ
の値が0.02erg/cm2 以上を高い抵抗変化率が
得られる薄い反強磁性層にて実現するには、最密面が配
向した結晶構造を実現することが必要である。
【0239】表8に示された配向度を表わすパラメータ
である最密面からの回析線ピークのロッキングカーブ半
値幅ΔθとTbおよびJの関係から、半値幅Δθが8゜
以下でJの値が0.02erg/cm2 以上が得られ、
本発明の磁気抵抗効果ヘッドが実現できることがわか
る。PtMnなどの面心正方晶に規則化した反強磁性
層、CrMnなどのbcc系の反強磁性層でも同様に最
密面が配向すると薄い反強磁性膜厚で高Tbかつ200
℃での高いJが実現できる。ここに最密面は、fcc相
の場合は(111)ピークを、hcp相の場合は(00
2)ピークを、bcc相の場合は(110)ピークをそ
れぞれ意味する。また、面心正方晶からなる規則化相を
含むPtMnなどの場合には、残存するfcc相が(1
11)面配向していること、あるいは規則化した面心正
方晶の(111)面が配向していることを意味する。な
おfcc相やhcp相の場合、積層欠陥を含んでもよ
い。
【0240】なお、図20に示すように、最密面からの
回析線ピークのロッキングカーブ半値幅はヘッド断面か
らの透過電子顕微鏡回析像における最密面スポットの膜
面垂直方向からの揺らぎによっても表現でき、X線回析
によるロッキングカーブ半値幅と透過電子顕微鏡回析像
の最密面スポットの揺らぎ角度は概ね一致する。
【0241】このような良好な最密面配列を実現するに
は、スピンバルブ膜の成膜を酸素ガスなどの不純物を極
力抑制した雰囲気で行う。例えば10-9Torr台にまで予
備排気ができる装置による成膜、500ppm 以下に酸素
含有量を抑制したスパッタターゲットを用いた成膜、基
板バイアススパッタなどの方法により適度なエネルギー
をスパッタ原子が基板に堆積する際に与える成膜、アル
ミナキャップ層とスピンバルブ膜との間に下地層、例え
ば、Au、Cu、Ag、Ru、Rh、Ir、Pt、Pd
などの貴金属単体あるいは合金下地層や、NiFe、N
iCu、NiFeCr、NiFeTaなどのNi系合金
層を設ける、などの方法がある。
【0242】以上、「耐熱性と再生出力の向上」に関す
る本発明の第2〜第6の実施の形態に関する共通的な技
術思想について概説した。
【0243】次に、本発明の第2〜第6の実施の形態に
ついて詳細に説明する。
【0244】(実施の形態2)図17に本実施形態にか
かる磁気抵抗効果ヘッドの一例を示す。図17において
アルチック(Al2 3 ・TiC)基板10に下シール
ド11、下ギャップ膜12を形成し、その上にスピンバ
ルブ素子13を形成する。ここに下シールド11は、厚
み0.5〜3μmを有するNiFe、Co系アモルファ
ス磁性合金、FeAlSi合金などであって、NiFe
やFeAlSi合金では研磨により表面凹凸を除去する
ことが好ましい。また下ギャップ膜12には厚み5〜1
00nmのアルミナや窒化アルミなどが用いられる。
【0245】スピンバルブ素子はスピンバルブ膜14と
一対の縦バイアス膜15および一対の電極16から構成
される。スピンバルブ膜は、Ta、Nb、Zr、Hfな
どの厚み1〜10nmの非磁性下地層141、必要に応
じて厚み0.5〜5nmの第2の下地層142、反強磁
性層143、磁化固着層144、厚み0.5〜4nmの
中間層145、磁化自由層146、必要に応じて厚み
0.5〜10nmの保護膜147から構成される。
【0246】その上にギャップ層17、上シールド18
が形成される。また図示していないが、さらにその上に
記録部が形成される。ギャップ層17は厚み5〜100
nmのアルミナや窒化アルミなどが用いられ、上シール
ド18には厚み0.5〜3μmを有するNiFe、Co
系アモルファス磁性合金、FeAlSi合金などが用い
られる。
【0247】反強磁性層143としてIrMn、RhM
n、RhRuMnなどのγ−Mn系のMnリッチ合金
や、PtMn、NiMnなどの面心正方晶の規則系合金
が用いられる場合には、下地層142は、Cu、Ag、
Pt、Au、Rh、Ir、Niなどまたはそれらを主成
分とするAuCu、CuCrなどの合金、特願平9−2
29736号に記載のNi、Ni系合金、NiFe、N
iFe系合金など、Ru、Tiなど、またはそれらを主
成分とする合金からなるhcp相金属が好ましい。
【0248】また反強磁性層143としてCr系反強磁
性合金膜を用いる場合には、下地層142は、上述した
下地層でもよいが、bcc層からなるCr、V、Feな
ど、またはそれらを主成分とする合金からなる下地層も
適する。
【0249】磁化固着層144は磁気結合層1442を
介して反強磁性的に結合する2層の強磁性層Bの144
1と強磁性層Aの1443からなる3層膜で構成されて
いる。強磁性層Bと反強磁性層143との中間、または
強磁性層Bと縦バイアス膜の反強磁性膜との中間に酸
素、窒素などの非金属を挿入すると大きな抵抗変化が得
られるので好ましい。この場合、非金属を挿入する層の
厚さは0.2〜2nmが好ましい。例えば、強磁性層A
(または強磁性層B)をその中間に酸化層を介した強磁
性層A(または強磁性層B)/酸化層/強磁性層B(ま
たは強磁性層A)が好ましい。
【0250】磁気結合層1442はRu、Rh、Ir、
Crからなる金属、特に大きな反強磁性結合機能を有す
るRuや広い膜厚範囲で反強磁性結合機能を有するRu
や広い膜厚範囲で反強磁性結合機能が得られるCrが好
ましい。磁気結合層の膜厚としては、文献(Phy.Rev.Le
tt. 67.(1991) 3598)に示されているような反強磁性結
合機能を発現できる膜厚であれば使用可能である。
【0251】図21にはCoの強磁性層およびCoFe
合金の強磁性層の磁気結合層に、Ruを用いた場合の熱
処理後のRu厚と反強磁性結合の低下度合の関係を残留
磁化比Mr/Msによって示したものである。ここにM
r/Ms=1は反強磁性結合が完全に消失、Mr/Ms
=0が完全な反強磁性結合であることを示す。
【0252】図21に示されたように、磁気結合層にR
uを用いた場合には、磁化固着層144の磁化方向を決
める熱処理やその他のヘッド工程で場合によっては必要
になる250〜300℃での熱処理を施しても隣接する
強磁性層B、強磁性層Aと磁気結合層との相互拡散によ
る磁気結合機能などの特性劣化を生じない0.8nmを
超えて1.2nm以下が好ましい。Ru層が0.8nm
以下では相互拡散による反強磁性結合機能の低下につい
て注意を払う必要があり、他方で1.2nm厚を超える
と反強磁性結合が困難になる。また磁気結合層にCrを
用いた場合には、Ruを用いた場合と同様な理由で、
0.8nmを超えて1.5nm以下が好ましい。そして
強磁性層Bおよび強磁性層AにはCoまたはCo系合金
が好ましい。
【0253】強磁性層Bおよび強磁性層AにCo1-x
e合金(0<x≦0.5)を用いれば、IrMn、Rh
Mn、RhRuMnなどのγ−Mn系のMnリッチ合金
からなる反強磁性層143との大きな交換結合係数が得
られ、しかもRuと強磁性層Bおよび強磁性層Aとの拡
散を防ぐことができるので特に好ましい。CoFe合金
に代えてCoを用いる場合には、Jがおよそ2/3とな
り、また図21に示すように270℃、1時間保持程度
の熱処理でも安定な磁気結合機能を維持できる磁気結合
層の膜厚範囲がCoFe合金の場合に比べて狭くなる。
【0254】なお、磁気結合層の表面平滑性も、その反
強磁性結合機能の耐熱性を維持するために重要であっ
て、10nm2 程度の膜面内の微小領域にて、磁気結合
層の厚みよりも大きな表面凹凸が発生すると、反強磁性
結合機能の耐熱性が劣化する。従って磁気結合層の表面
凹凸の大きさは磁気結合層の膜厚以下であることが好ま
しい。
【0255】表9に強磁性層Aと強磁性層Bの膜厚に対
するスピンバルブ膜面抵抗Rs、面抵抗変化ΔRsおよ
び抵抗変化率ΔR/Rの変化を示す。また図22にはス
ピンバルブ膜の磁界に対する抵抗値の変化を示す。
【0256】
【表4】 表9から、強磁性層Bと強磁性層Aの膜厚は1〜5nm
が大きな抵抗変化率を得るために好ましく、特に1nm
〜3nmの膜厚が図22に示された外部磁界に対して安
定な(+600Oeの外部磁界を加えても抵抗の低下が
僅か)磁化固着層に加えて、大きなスピンバルブ膜面抵
抗Rsが得られ、面抵抗変化ΔRsも満足できるもので
あるので特に好ましい。ここで、再生出力はセンス電流
と抵抗変化の積に比例し、抵抗変化は抵抗変化率とスピ
ンバルブ膜の面抵抗の積に比例するので、抵抗変化率が
大きいだけでは面抵抗が小さい場合には高出力を得るこ
とができない。即ち、高出力を得るには、高い抵抗変化
率とともに、高い面抵抗が必要である。
【0257】図23は強磁性層Aの膜厚を3nm一定と
し、強磁性層Bの膜厚を変えた場合の磁界による抵抗変
化を示す図である。
【0258】図23にみられるように、強磁性層Aと強
磁性層Bの磁気膜厚とを等しくすると、+600Oeの
高磁界による抵抗の変化が小さく、従って媒体磁界、縦
バイアス層からの磁界や、記録部形成熱処理時の外部磁
界などに対して著しく安定な磁化固着層が実現できる。
またESDによる磁化固着層の磁化反転の問題は、すで
に述べたようにドライブに組み込んだ固着磁化方向を補
償する回路による電流で、磁化方向を所望の方向に戻す
ことにより対応できる。
【0259】一方、強磁性層Aと強磁性層Bの磁気膜厚
を異ならせることによって、以下の利点が得られる。ま
ず第1に、スピンバルブの基本的な構成である磁化自由
層と磁化固着層の磁化を直交させるための、熱処理によ
る磁化固着の操作が容易になる。第2に、強磁性層Bの
膜厚と抵抗変化率との関係を示す表10によって明らか
なように、強磁性層Bの磁気膜厚を強磁性層Aの磁気膜
厚よりも小さくすることによって、より高い抵抗変化率
が得られる。第3にESDによる磁化固着層の磁化反転
がほとんど起こらなくなり、ブレークダウン電圧近傍ま
で安定な再生出力が得られる。ここにブレークダウン電
圧はスピンバルブ素子が電圧により破壊してスピンバル
ブ素子抵抗が増大し始める電圧である。
【0260】
【表5】 例えば強磁性層A、強磁性層Bおよび磁化自由層にそれ
ぞれ、Co、CoFeおよびNiFeを用いて、非磁性
中間層にCuを用いた場合には、強磁性層Bと強磁性層
Aの磁気膜厚の比を0.7〜0.9に設定して強磁性層
Bの厚みを2.5nmに設定した場合に、図24、図2
5および表11に示すような良好なESD特性を得るこ
とができる。ここに図24および図25はスピンバルブ
素子にヒューマンボディモデルによる模擬のESD電圧
を与えた後の抵抗と出力を示し、図24は強磁性層Aと
強磁性層Bの磁気膜厚が等しい場合、図25は強磁性層
Aの磁気膜厚が強磁性層Bの磁気膜厚より大きい場合を
示す。また表11はスピンバルブ素子に対するテストパ
ターンによるESD特性を示したものである。
【0261】
【表6】 これはESD発生時に、磁化固着層には電流磁界を主と
する磁界が強磁性層Bに対し、強磁性層Aに対するより
も強く加わるが、その電流磁界の比、H(current)B
H(current)A が、磁気膜厚の逆比、(Ms・t)A
(Ms・t)Bとほぼ一致するために、強磁性層Aと強
磁性層Bの磁化と外部磁界とのエネルギーの変化量が相
殺して、全体としてのエネルギー変化、 {(Ms・t)・H(current)}A −{(Ms・t)H
(curreent)}B が小さい状態が実現でき、その結果ESD電流磁界では
磁化固着層の磁化を動かすことができないためである。
【0262】図23に示すように、強磁性層Aが3n
m、強磁性層Bが2nmであって、従って(Ms・t)
B /(Ms・t)A =0.67となる場合には、強磁性
層A、強磁性層Bとも3nmの同図(a)の場合に比べ
て、HUA* が低下し、従って磁化固着層の耐熱性も低下
する。このように強磁性層Aよりも強磁性層Bの磁気膜
厚を小さくした場合には、強磁性層Bに加わる反強磁性
層からのバイアス磁界と同じ方向(即ち、強磁性層Bの
磁化と同じ方向)にセンス電流からの磁界が加わるよう
に、センス電流の通電方向を選ぶことが好ましい。その
理由は強磁性層Aの方が磁気膜厚が大きいと、従来の単
層の磁化固着層のスピンバルブ膜と同様に、強磁性層A
と強磁性層Bとの磁気膜厚差に相当する漏洩磁界が磁化
自由層に加わるので、磁化自由層と磁化固着層との磁化
直交配置が乱され、再生出力の低下は再生波形の上下非
対称が増大するなどの問題を生じるが、この漏洩磁界
は、スピンバルブにおける磁化と漏洩磁界を示す図26
に示されるように、センス電流による磁界が交換バイア
ス磁界と同方向に加わるようにセンス電流を流すことに
よって相殺することができる。
【0263】非磁性中間層にはCu、Au、Ag単体ま
たはそれらを主成分とする合金を用いることが好まし
い。その膜厚は抵抗変化率を得られる範囲である1〜1
0nm程度であれば基本的に使用できるが、特に本発明
のスピンバルブ膜では、1.5nm〜2.5nmの膜厚
範囲が、磁化固着層と磁化自由層の間に発生する強磁性
的結合磁界を15Oe以下に抑制でき、且つ高い抵抗変
化率が得られるのでとくに好ましい。
【0264】磁化自由層には、CoやCoFe、CoN
i、CoFeNiなどのCo合金、NiFe合金または
それらの積層構成、例えば中間層側に0.3〜1.5n
mの薄いCoを介したNiFe合金が用いられる。そし
て磁化自由層の膜厚は、1〜10nmが好ましい。
【0265】表12は磁化固着層(磁化固着層)の厚み
を2.5nm一定とし、磁化自由層の厚みと抵抗変化率
ΔR/Rとの関係を示した表である。表10に示したよ
うに、本発明においては、磁化自由層厚は2〜5nmが
高い抵抗変化率を得るために特に好ましい。
【0266】
【表7】 表13は磁化自由層の厚さを4nm一定とし、磁化固着
層の強磁性層Aの厚さと抵抗変化率ΔR/Rとの関係を
示した表である。表11に示すように、2〜5nmの磁
化自由層の厚みt(F)と強磁性層Aの厚みt(P)と
の間に、 −0.33≦{t(F)−t(P)}/t(F)≦0.
67 の関係を有することが、高い抵抗変化率を得るために好
ましい。
【0267】
【表8】 保護膜にはTa、Nb、Zr、Cr、Hf、Ti、M
o、Wなどの金属またはそれらの合金あるいはそれら金
属の酸化物、窒化物などが用いられる。特に酸化物や窒
化物では、例えばNiFe酸化物、窒化アルミ、タンタ
ル酸化物などの高抵抗の保護膜が、高い抵抗変化率を得
るために好ましい。その膜厚は例えば0.3〜4nmと
極力薄いことが後程述べる電極や縦バイアス層を形成す
る上で保護膜のエッチングによる除去が容易になるので
好ましい。また、Ag、Au、Ru、Ir、Cu、P
t、Pd、Reなどの貴金属単体または合金単層または
積層体を、例えばCoFe磁化自由層の場合には、Cu
/Ru、Cu、Au、Cu合金など、NiFe磁化自由
層の場合にはAg、Ru、Ru/Ag、Ru/Cu、C
uなどを保護膜に用いてもよい。酸化物、窒化物、貴金
属保護膜の上にさらにTaなどの高抵抗保護膜を形成し
てもよい。
【0268】磁化固着層と磁化自由層の磁化を直交させ
ることは、次の方法によって実施できる。即ち、反強磁
性層143がIrMn、RhMn、RhRuMnなどの
γ−Mn系のMnリッチ合金の場合は、スピンバルブの
成膜を行う際に、磁気結合層1442までの成膜をスピ
ンバルブ素子の幅方向、即ちハイト方向に印加した磁界
中で行った後に、反強磁性層143の交換結合バイアス
磁界方向を一方向に揃えるために熱処理を施す。なお、
この反強磁性層143の交換結合バイアス磁界方向を一
方向に揃えるための熱処理は、強磁性層Bの成膜直後で
もよいが、Ruなどの磁気結合層がより酸化に強いた
め、磁気結合層1442層まで成膜した方が好ましい。
この熱処理は、成膜後リークをすることなく真空中で、
Tbより高い温度にて短時間、好ましくは10分以下の
短時間、完全に強磁性層Bが飽和する磁界中で行うこと
が好ましい。例えばTbが300℃のIrMnでは35
0℃で1分程度行う。
【0269】次にリークをすることなく、少なくとも磁
気自由層成膜中にはスピンバルブ素子のトラック幅方向
に磁界を加えてその後のスピンバルブ素子の成膜を行
う。反強磁性層143がPtMnやNiMnの規則化合
金の場合も同様であるが、γ−Mn系の反強磁性層とは
異なり、必ずしも強磁性層Bまでの成膜を磁界中で行う
必要はなく、その後の熱処理を200℃以上の高温、好
ましくは270〜350℃で数時間、好ましくは1〜2
0時間行う必要がある。熱処理後は同様に磁化自由層の
成膜中に磁界を付与してその後のスピンバルブ成膜を行
う。
【0270】なお、いずれの反強磁性層も、スピンバル
ブ成膜中での熱処理を、スピンバルブ成膜後に行うこと
もできる。その場合には、磁気結合層1442の結合磁
界を上回る磁界を加えて、強磁性層Aと強磁性層Bの磁
化を完全に同方向(ハイト方向)に飽和させて熱処理す
ることが好ましい。例えば、強磁性層B/磁気結合層/
強磁性層Aが、CoFe2nm/Ru0.9nm/Co
Fe2nmの場合、Ruの結合磁界は約6kOeである
ことから、熱処理中に加える磁界は7kOe以上が好ま
しい。この熱処理時に加える磁界を小さくするために
は、スピンバルブ膜を素子形状に加工する前に熱処理を
行うことが好ましい。加工後では素子形状による反磁界
のために、強磁性層Aと強磁性層Bを飽和させるのによ
り強い磁界が必要になる。
【0271】以上の方法により、磁化固着層144の磁
化を所望の方向に固定させる。しかし、上記の熱処理が
強い場合には、磁化自由層146や下シールド11の磁
化容易軸が磁化固着層と同様にスピンバルブ素子のハイ
ト方向に向いてしまい、磁化固着層の磁化と直交させる
ことが困難になる。磁化自由層や下シールドの磁化容易
軸をトラック幅方向に向けるには、記録ヘッドにおける
レジストキュア工程において、シールドや磁化自由層が
トラック幅方向に飽和する必要最小限度磁界、例えば1
00〜300Oe程度を加えて、シールドや磁化自由層
の磁化容易軸をトラック幅方向に安定化することが好ま
しい。また、下シールドはスピンバルブ成膜前にあらか
じめ熱処理により、磁化容易軸をトラック幅方向に安定
化しておくことが好ましい。
【0272】図17に示したアバットジクションタイプ
の素子構造、即ち、磁化自由層のトラック幅端部を除去
してそこに縦バイアス層を形成した素子構造では、縦バ
イアス層に硬質磁性膜例えばCrやFrCoなどの下地
の上に形成したCoPtやCoPtCrなど、あるいは
強磁性層151と反強磁性層152を順次積層して強磁
性層をハード化したものが用いられる。先に反強磁性層
152を成膜して、次に強磁性体層151を成膜しても
よい。今後の挟トラックに対応して、トラック幅端での
急峻な再生感度プロファイルを得るには、磁化自由層に
対する縦バイアス強磁性層、即ち、硬質磁性層または反
強磁性膜で交換結合バイアスされた強磁性層の磁気膜厚
比、(Ms・t)LB/(Ms・t)F を2以下に設定す
ることが好ましい。磁化自由層が2〜5nm厚、あるい
は磁気膜厚で3〜6nmT程度まで薄くなると、(Ms
・t)LB/(Ms・t)F を2以下にするために、縦バ
イアス強磁性層も非常に薄くなり、例えば磁気膜厚で1
2nmT以下となる。
【0273】ところが一般に硬質磁性膜では10nm厚
程度に薄くなると高保磁力が得難くなる。例えばMsが
1TのCoPt硬質磁性膜では、20nm厚では、20
00Oeの高保磁力であったものが、10nmでは80
0Oeに低下する。一方、強磁性膜/反強磁性膜タイプ
の縦バイアス層では強磁性膜151が薄くなるほど交換
バイアス磁界が増大して固着が強固となる。例えば、M
sが1TのNiFeと7nm厚のIrMnを積層した縦
バイアス層では、20nm厚で80Oeであった保磁力
が10nm厚では160Oeにまで増大する。この16
0Oeは、従来のMRヘッドで実績を有する値である。
従って磁化自由層の厚さが極薄い領域、例えば5nm厚
以下となるような領域では、強磁性膜/反強磁性膜タイ
プの縦バイアス層を用いることが望ましい。
【0274】さらに、強磁性膜151/反強磁性膜15
2の縦バイアス層では、強磁性膜151の飽和磁化は磁
化自由層の飽和磁化とほぼ等しいか、それより大きいこ
とが、なるべく小さな縦バイアス磁界でバルクハウゼン
ノイズを十分に除去する上で好ましい。即ち、強磁性膜
151としてはNiFe合金でもよいが、より飽和磁化
の大きいNiFeCo合金、CoFe合金、Coなどが
より好ましい。強磁性膜151として飽和磁化の小さい
膜を用いて、その膜厚を大きくすることにより、漏洩磁
界を強めてバルクハウゼンノイズの除去を行うと、特に
狭いトラック幅になると再生出力の低下を引き起こす。
【0275】なお、図17ではスピンバルブ膜全部を除
去しないで、縦バイアス層を形成した場合を示したが、
下地層141までエッチング除去してもよい。しかし強
磁性層の結晶性を良好に保つためには、縦バイアス層を
形成する前のエッチングする深さとして、少なくとも下
地層142を残してその結晶性改善効果を利用すること
が好ましい。膜厚制御の観点からは、より厚い反強磁性
層143を若干エッチングして、その交換バアイスを弱
めて良好なハード膜特性の縦バイアス層を得ることが好
ましい。非磁性中間層の途中までエッチングを終了して
その上に強磁性膜151/反強磁性膜152からなる縦
バイアス層を付与してもよい。なお、結晶性改善のため
に、あるいは磁化固着層や反強磁性層143と縦バイア
ス層との磁気結合を弱めるために、強磁性膜151の下
に、下地層143と同様にごく薄い下地層153を設け
てもよい。磁化自由層と縦バイアス層との磁気結合の低
減を最小限に止めるために、下地層153の厚みは10
nm以下が好ましい。
【0276】硬質磁性膜を用いる場合にも、同様に磁化
自由層と硬質磁性膜の飽和磁化を揃えることが好まし
い。しかし、CoFeなどの高い飽和磁化自由層に匹敵
する高い飽和磁化の硬質磁性膜を作製することは通常困
難である。そこで硬質磁性膜の下地としてFeCoのよ
うな高い飽和磁化の膜を用いて、磁化自由層との飽和磁
化とのバランスを保つ方法が、小さな縦バイアス磁界で
ハルクハウゼンノイズを除去するのに適する。
【0277】反強磁性膜152には、スピンバルブ膜に
用いたものと同様な反強磁性体を用いることができる。
しかし、スピンバルブの反強磁性層の交換バイアス磁界
はハイト方向、そして縦バイアス層の反強磁性膜152
の交換バイアス磁界はトラック幅方向と、互いに直交さ
せる必要がある。そこで、例えば両者のブロッキング温
度Tbを異ならせて、最初に高いTbを有する反強磁性
層の交換バイアス磁界方向を熱処理により規定した後、
それより低いTbを有する反強磁性膜に対してより低温
の熱処理を行って、高Tb反強磁性層の交換バイアス方
向を安定に保ったまま、低いTbを有する反強磁性膜の
交換バイアス磁界方向を設定することにより、互いの交
換バイアス磁界を直交させることができる。
【0278】具体的には、反強磁性膜152には、Pt
MnやPdPtMnなどの熱処理により、HUAを発現す
る反強磁性膜でもよいが、磁化固着層が安定な温度で熱
処理できるTbが200〜300℃の、RhMn、Ir
Mn、RhRuMn、FeMnなどを、スピンバルブ膜
の反強磁性層にはそれよりTbが高い反強磁性体、即
ち、IrMn、PtMn、PtPdMnなどを用いる
と、前述したレジストキュア熱処理工程にてスピンバル
ブ膜の磁化固着層磁化の方向を乱すことなく、反強磁性
膜152の交換バイアス方向をトラック幅方向に規定で
きる。即ち、本発明の特徴であるブロッキング温度以下
でピン磁化が急激に安定化する性質を利用することによ
って、両反強磁性膜の間のブロッキング温度差がわすが
数十℃であっても、縦バイアスと磁化固着層磁化とを良
好に直交させることができる。また反強磁性膜152に
磁界中成膜で交換バイアス磁界を付与できるIrMn、
FeMn、RhMn、RhRuMn、CrMnPt、C
rMnなどを用いると、熱処理が不要なために、スピン
バルブ膜の反強磁性層143のバイアス磁界方向が乱さ
れることはなく、スピンバルブ膜の反強磁性層143に
どのような反強磁性層を用いても、縦バイアス方向と磁
化固着層磁化方向とを直交させることができる。
【0279】一方、図27に示すように、磁化自由層の
トラック幅端部の保護膜147のみをエッチング除去し
て、その上に反強磁性膜を交換結合積層した構造でも、
磁化自由層に縦バイアスを加えることができる。縦バイ
アス層15は反強磁性層152とその下地として磁化自
由層との交換結合を強めるためのバッファ層1511を
介することが好ましい。このバッファ層1511はF
e、Co、Niなどからなる強磁性層であることが好ま
しい。縦バイアスの磁化方向の規定は強磁性層151/
反強磁性層152の縦バイアスの場合と同様である。反
強磁性層を用いた縦バイアス方式は、硬質磁性膜方式の
ように余分な縦バイアス磁界を発生させてヘッドの感度
低下を引き起こしたりすることなく、バルクハウゼンノ
イズを抑制できる利点がある。
【0280】(実施の形態3)図28に本発明の第3実
施形態を示す。図28は図21とはスピンバルブ膜の構
造が異なる。図27において、下ギャップ12の上に形
成されたスピンバルブ膜14は、Ta、Nb、Zr、H
fなどの厚さ1〜10nmの非磁性下地層141、必要
に応じて厚み0.5〜5nmの第2の下地層142、磁
化自由層146、厚さ0.5〜4nmの中間層145、
磁化固着層144、反強磁性層143、必要に応じて厚
さ0.5〜10nmの保護膜147から構成される。こ
こで磁化自由層(フリー層)146、中間層145、磁
化固着層144、反強磁性層143は実施形態2と同じ
構成である。
【0281】下地層142には、Au、Cu、Ru、C
r、Ni、Ag、Pt、またはRh、またはそれらを主
成分とする合金を用いると、特に磁化自由層にCoFe
合金を用いた場合に抵抗変化率の耐熱性を高めることが
できる。
【0282】図27において、図21と同じ一対の縦バ
イアス層15、一対の電極16によりスピンバルブ14
と合わせてスピンバルブ素子13が構成される。さらに
その上に図21と同様、上ギャップ層17、上シールド
18が構成される。
【0283】(実施の形態4)図29は本発明のさらに
他の実施形態であって、本発明をデュアルタイプのスピ
ンバルブ構造に適用した場合の例を示すものである。
【0284】図29においては実施形態2の図21およ
び実施形態3の図27の場合と同様に、下シールド1
1、下ギャップ12の上に、一対の縦バイアス層15、
一対の電極16、縦バイアス層15、スピンバルブ膜1
4からなるスピンバルブ素子13が形成され、その上に
上ギャップ17、上シールド18が形成される。しか
し、電極16の間隔やスピンバルブ膜14の構成が図2
1および図27とは異なる。
【0285】スピンバルブ膜14は、Ta、Nb、Z
r、Hfなどの厚さ1〜10nmの非磁性下地層14
1、必要に応じて厚さ0.5〜5nmの第2の下地層1
42、反強磁性層143、磁化固着層144、厚さ0.
5〜4nmの中間層145、磁化自由層146、厚さ
0.5〜4nmの第2の中間層148、第2の磁化固着
層149、第2の反強磁性層150、必要に応じて厚さ
0.5〜10nmの保護膜147から構成される。
【0286】磁化固着層144と磁化固着層149の少
なくとも一方に、図17と同じ強磁性層A、磁気結合
層、強磁性層Bからなる積層磁化固着層を用いる。そし
て1)磁化固着層149にはSyAF磁化固着層、磁化
固着層144には従来の単層磁化固着層の組み合わせ、
2)逆に磁化固着層144にはSyAF磁化固着層、磁
化固着層149には従来の単層磁化固着層の組み合わ
せ、あるいは3)磁化固着層149と磁化固着層144
の双方ともSyAF磁化固着層の組み合わせを用いるこ
とができる。
【0287】縦バイアス層15はいわゆるアバットジャ
ンクションタイプの素子構造であるが、図17、図2
7、図28と同様な縦バイアス層15をリフトオフ法、
即ち、フォトレジストをマスクにして、スピンバルブ膜
のトラック幅端部をエッチング除去した後、スパッタ、
蒸着、イオンビーム成膜などの方法により、縦バイアス
層15を形成するのに際して、スピンバルブ膜14のエ
ッチング除去を少なくともスピンバルブ膜14の導電体
層部をのこすように行うことが好ましい。例えば反強磁
性層143がIrMnのようなγ−Mn系合金の場合に
は、反強磁性層143の一部を少なくとも残すことが好
ましい。
【0288】トラック幅端部に導電体部を残すと、アバ
ットジャンクションの接触抵抗が下がるので、低抵抗の
スピンバルブ素子13が実現しやすく、このため静電気
に対して強いヘッドが実現できる。勿論、トラック幅端
部のスピンバルブ膜のすべてをエッチング除去して縦バ
イアス層を形成してもよい。
【0289】電極16は縦バイアス層と一括してリフト
オフ形成してもよいが、この場合は電極間隔と縦バイア
ス層の間隔がほぼ一致する。あるいは電極形成を縦バイ
アス層形成とは分離して、電極間隔を縦バイアス層の間
隔より狭めて形成した、いわゆるリードオーバーレイド
構造としてもよい。リードオーバーレイド構造とする
と、特に縦バイアス層に硬質磁性層を用いた場合には、
硬質磁性層からの漏洩磁界の影響を電極とスピンバルブ
膜が積層されているトラック幅エッジ部近傍に閉じ込め
ることができ、電極間で規定される再生トラック幅の、
トラック幅方向の感度プロファイルシャープに高精度で
規定できるメリットがある。特に再生トラック幅がサブ
ミクロンとなるような高密度記録では、そのメリットが
従来の方法に比べてより明確になる。このリードオーバ
ーレイド構造は当然図21や図27の実施形態にも適用
できる。
【0290】(実施の形態5)図30は本発明のさらに
他の実施形態である。図21に示した実施の形態2と同
様に、基板(図示せず)上に下シールドおよび下キャッ
プ(図示せず)を形成し、さらにその上にスピンバルブ
膜13を形成し、さらにその上に図示していないが上キ
ャップ、上シールド、記録部を形成する。スピンバルブ
膜13のトラック幅両端には一対の縦バイアス層15お
よび電極16を形成する。縦バイアス層には一例とし
て、下地層153、強磁性膜151、反強磁性膜152
からなる積層体を用いる場合を示した。縦バイアス層に
は当然CoPtなどの硬質磁性膜を用いることができ
る。
【0291】電極16はTa/Au/Taなどの低抵抗
金属を少なくとも含む材料を用いて形成し、電極間隔L
Dは縦バイアス層間隔HMDよりも狭く形成され、スピ
ンバルブ膜13と電極16はトラック幅両端近傍で面接
触する領域を有する。縦バイアス層や電極は通常リフト
オフにより形成されるが、イオンミリング法や反応性イ
オンエッチング法などにより形成してもよい。プロセス
工程が煩雑になるが、特に高精度の電極形成にはドライ
ブプロセスが適する。
【0292】縦バイアス層15が存在しない電極16直
下のスピンバルブ膜13領域では、電極の抵抗値がスピ
ンバルブ膜の抵抗値に比べて十分に小さい場合、例えば
1/10以下の場合には、さらにスピンバルブ膜の磁化
自由層146の磁化が媒体磁界がほぼゼロのとき、トラ
ック幅方向にほぼ規定されていると、スピンバルブ膜の
電極直下などの電極間以外の箇所では再生感度が大幅に
低減されるので、電極間隔LDで再生トラック幅が規定
でき、トラック幅端における急峻な再生感度分布が実現
できる。
【0293】さらにスピンバルブ膜13と電極16は面
接触領域が通常のアバットジャンクション方式と比べて
十分広くとれるので、電極とスピンバルブとの接触抵抗
が十分に小さく制御でき、その結果低抵抗のスピンバル
ブ素子が実現でき、低ノイズでしかもESDに強い磁気
抵抗効果ヘッドが実現できる。
【0294】ここで今後記録密度を高めるために再生ト
ラック幅を狭めてゆくには、電極間隔LDを狭めてゆく
必要がある。一方、電極間隔が著しく狭くなると素子の
幅、即ちハイトをそれ以上に狭めることは困難になる。
従ってHDをLDよりも大きくすることが、ヘッドを歩
留まりよく製造する上で好ましい。具体的には、ヘッド
量産時の歩留まりを良好に保つために機械加工で寸法を
決定するハイトについては0.5μm程度かそれ以上が
必要であり、再生トラック幅が0.5μm以下に狭まる
場合にはHDをLDよりも大きく設定することが好まし
い。しかしその場合には以下の問題が発生する。
【0295】その第1の問題は、再生を行うスピンバル
ブ膜領域の抵抗が減少するために、再生出力が減少する
ことである。この問題に対してはスピンバルブ膜の面抵
抗を高めることによって回避された。通常のSyAF固
着層では固着層厚が従来単層の磁化固着層よりも厚いの
で高い面抵抗を得るのが困難であったが、表14および
表15に示すように、本発明では磁化固着層の厚み、非
磁性中間層および磁化自由層の厚みの合計を14nm厚
以下に抑えることにより、16Ω以上の高い面抵抗と8
%以上の高い抵抗変化が両立できる。
【0296】
【表9】
【0297】
【表10】
【0298】このような極薄のスピンバルブ膜を用いて
高抵抗変化率を実現するためには、 1)磁化固着層の強磁性層Aと強磁性層Bにはfcc相
が安定なCoFe、CoNi、CoFeNi合金を用い
ること、2)磁化自由層にも少なくとも中間非磁性層と
の界面近傍にはCo、CoFe、CoNi、CoFeN
i合金を用いること、3)反強磁性膜にはPtMn、P
tPdMn、IrMn、RhMn、RhRuMnなどの
貴金属元素を含む反強磁性層を用いることが好ましい。
【0299】HDをLDよりも大きく設定する場合の第
2の問題は、バルクハウゼンノイズの発生である。従来
の電極間隔と縦バイアス膜の間隔HMDがほぼ一致する
アバットジャンクション方式のスピンバルブ素子では、
HMDがHDよりも小さくなり、磁化自由層の形状はH
D方向が長い長方形形状になってしまい、反磁界が弱い
ハイト方向に磁化自由層の磁化が向きやすくなり、その
結果バルクハウゼンノイズが発生する。これに対し、本
発明ではスピンバルブ膜の形状がHMDがHDよりも大
きくトラック幅方向に長いので、磁化自由層の磁化がハ
イト方向に向きやすくなるということがなく、このため
バルクハウゼンノイズの除去は容易であり、この点に関
し歩留まりよくヘッド製造ができる。
【0300】具体例として、1)HD=0.5μm、L
D=0.45μm、HMD=1.3μm、2)HD=
0.4μm、LD=0.35μm、HMD=0.8μm
などで本発明の効果が十分に発揮される。
【0301】なお、図29には磁化自由層と基板の間に
磁化固着層が配置された場合を示したが、磁化自由層が
基板と磁化固着層との間に存在する場合についても同様
に適用できる。
【0302】(実施の形態6)図31に本発明のさらに
他の実施の形態を示す。図示していない基板、下シール
ド、下ギャップを形成され、その上に一対の縦バイアス
層15がリフトオフ法や、イオンミリングや反応性イオ
ンエッチングなどのドライプロセスにより、形成され
る。図29においては縦バイアス層の一例として、実施
の形態2で示したと同様の反強磁性層に適した下地層1
53、IrMn、RhMn、CrMnなどの反強磁性膜
152、CoFe、NiFe、Coなどの強磁性膜15
1の積層体からなる場合を示したが、実施の形態2で示
した他の各縦バイアス層が適用できる。
【0303】この上にスピンバルブ膜13が形成され
る。スピンバルブ膜13は、縦バイアス層からのバイア
ス磁界を有効に磁化自由層143に付与するために、磁
化固着層より基板側に磁化自由層143を配置して縦バ
イアス層15と磁化自由層143とが接近し易くするこ
とがより好ましい。磁化自由層143の下地層141、
142の厚みは縦バイアス層からのバイアス磁界を有効
に磁化自由層に付与するために、10nmであることが
好ましい。またスピンバルブ膜13と縦バイアス15と
の面接触領域は極力小さくすることがバルクハウゼンノ
イズを抑制する上で好ましい。
【0304】スピンバルブ13の上には一対の電極16
がリフトオフ法やイオンミリング法、反応性イオンエッ
チング法により形成される。図示していないが、さらに
その上に上ギャップ、上シールド、記録部が形成され
る。
【0305】また実施の形態5にて示したと同様に、H
DはLDより大きく、且つHMDより小さくすることに
より、挟トラック幅に適した再生ヘッドがなく歩留まり
よく製造できる。また、磁化固着層、非磁性中間層、磁
化自由層の合計厚みを14nm以下とすることで、スピ
ンバルブ膜13の抵抗値を高めて再生出力を高め、高感
度な磁気抵抗効果ヘッドを得ることができる。
【0306】(実施の形態7:耐熱性及び鏡面反射効果
と低磁歪の実現)次に、「耐熱性及び鏡面反射効果と低
磁歪の実現」という観点から、本発明の第7の実施の形
態について説明する。
【0307】まず、本実施形態の具体例を紹介する前
に、本発明者が本実施形態に至る過程で認識した課題に
ついて説明する。
【0308】高性能のスピンバルブ膜(以下、SV膜と
記す)を実用化するにあたって、本発明者が認識した課
題は、以下に大別することができる。
【0309】(1)耐熱性が悪い(特に初期プロセスア
ニールに対して)。
【0310】(2)再生感度のより一層の向上を図る上
でMR変化率が不足している。
【0311】(3)比較的大きなMR変化率が得られる
CoFe合金層単層で感磁層を構成した場合に磁歪制御
ができず、良好な軟磁気特性が得られない。
【0312】これらのSV膜の課題について以下に詳述
する。
【0313】(1)耐熱性 SV膜の感磁層の一般的な構成としては、NiFe(数
nm)/Co(1nm程度)やNiFe(数nm)/C
oFe(1nm程度)が知られている。このような感磁
層を用いたSV膜構造としては、 (a) Ta(5nm)/NiFe(10nm)/Co
(1nm)/Cu(3nm)/CoFe(2nm)/I
rMn(7nm)/Ta(5nm) (b) Ta(5nm)/Cu(2nm)/CoFe
(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(2nm)/I
rMn(7nm)/Ta(5nm) などが挙げられる。
【0314】上記したようなSV膜では、250℃×4
H程度のプロセスアニールでas−depo時のMR値
に対して相対比で約20%以上ものMR劣化が生じてし
まう。例えば(a)のSV膜ではas−depo時のM
R変化率6.4%が250℃×3Hのアニール後には
4.7%とas−depo時に対して相対比で20%以
上も劣化してしまう。このアニール工程はヘッド作製上
欠かすことのできない工程である。た、NiFeを感磁
層として用いていない(b)のSV膜でも、as−de
po時のMR変化率は8.1%であるのに対して、25
0℃×3Hのアニール後には6.5%とas−depo
時と比較して約20%の劣化が生じる。このようなMR
変化率の劣化を磁気特性を犠牲にすることなく改善する
手法、すなわち耐熱性の改善策は今のところ見出されて
いない。
【0315】高密度化に向けた磁気ヘッドでは、より高
いMR変化率を有するSV膜が望まれているが、上述し
たように現在までに得られているSV膜では、as−d
epo時に得られているMR変化率を、ヘッドの作製工
程上不可欠な熱プロセスにおいて著しく低下させてい
る。これは10Gdpsi以上といような記録密度に対
応させたMRヘッドを開発する上で、是非とも解決しな
ければならない問題である。
【0316】(2)反射効果の利用によるMR変化率の
向上 高MR変化率を達成するためには、(1)で示したas
−depo時に得られていたMR変化率を熱プロセス後
にいかにして保つかということと共に、MR変化率の絶
対値をいかにして上げるか、もしくはas−depo時
ではフルポテンシャルのMR変化率が得られていなくて
も、熱プロセス後に良好なMR変化率が得られるような
膜をいかにして実現するかということも重要である。
【0317】GMR効果は、電子の平均自由行程よりも
短い範囲では磁性層/非磁性層の積層膜の層数が多いほ
どスピン依存散乱をうける回数が増えるので、MR変化
率が大きくなる。しかしながら、SV膜構造のように、
実際にヘッドで用いられるGMR膜の構造においては、
磁化固着層/非磁性中間層/感磁層といったユニットし
かないため、一般的には平均自由行程よりも短い膜厚に
なっており、MR変化率的に損をしている。
【0318】これを少しでも改善するために層数を増や
した構造として、磁化固着層を上下2層とし、その間に
感磁層を配置したデュアルスピンバルブ膜(またはシメ
トリ−スピンバルブ膜(以下、D−SV膜と記す))が
知られている。これも1つの対策ではあるが、現段階で
は実用上の問題を全て解決するまでには至っていない。
例えば、感磁層にとっての下地が非磁性中間層となるD
−SV膜では、感磁層の軟磁気特性、例えば反磁界Hk
や磁歪λなどを全て満足させることは難しい。さらに、
上下2つの磁化固着層を用いた場合、これら2層の磁化
を固着する2層の反強磁性膜のブロッキング温度が等し
いほうが望ましいが、実際には下側に位置している反強
磁性膜と非磁性中間層や感磁層を介して上層側に位置す
る反強磁性膜の特性を等しくすることは難しい。よっ
て、MR変化率の点からはD−SV膜は好ましい構成で
あるが、実用性という観点からは多くの課題を含んでい
る。
【0319】そこで、現在実用化されている反強磁性膜
が1層の一般的な構造のSV膜の特性を向上させる1つ
の手段として、鏡面反射効果が検討されている。これは
磁性層/非磁性中間層/磁性層のGMR膜の基本ユニッ
トの片側もしくは上下両側に反射膜を配して電子を弾性
的に反射させ、GMR膜の基本ユニット内での平均自由
行程を長くするものである。
【0320】従来はGMR膜の基本ユニットの上下層で
は非弾性的な散乱を受けていたため、本来もっているは
ずの平均自由行程の距離だけ電子が移動できず、GMR
膜の基本ユニットの膜厚以上のスピン依存散乱を受ける
ことができないため、MR変化率的に損をしていた。そ
れが理想的な上下両層の反射膜を用いれば、見かけ上G
MR基本ユニットが無限大の人工格子と等価になり、本
来移動できるはずの平均自由行程の分だけスピン依存散
乱を受けることができるようになるため、MR変化率が
向上する。このように、非磁性中間層の上下に位置する
磁性層の外側にある反射膜自体は、スピンに依存した反
射膜でなくとも、スピンに依存しない反射で十分効果を
発揮する。
【0321】上記した効果は一般的なSV膜構造に限ら
ず、D−SV膜においても効果を発揮する。ただし、層
数が元々多く、本来の平均自由行程分だけスピン依存散
乱を受けている無限層数の人工格子においては、反射膜
の効果はない。このように、元々の層数が少ないSV膜
構造ほど効果が大きい。
【0322】従来、上述したような鏡面反射効果を積極
的に利用したSV膜としては、以下に示すようないくつ
かの構造が提案されている。
【0323】(c) Si基板/NiO(50nm)/
Co(2.5nm)/Cu(1.8nm)/Co(4n
m)/Cu(1.8nm)/Co(2.5nm)/Ni
O(50nm) (d) Si基板/NiO(50nm)/Co(2.5
nm)/Cu(2nm)/Co(3nm)/Au(0.
4nm) (Ref.J.R.Jody et.al.,IEEE Mag.33 No.5.3580(1997)) (e) MgO基板/Pt(10nm)/Cu(5n
m)/NiFe(5nm)/Cu(2.8nm)/Co
(5nm)/Cu(1.2nm)/Ag (3nm) (Ref.川分康博他、日本金属学会 1997年春季大会講演
概要p142) (f) Si基板/Si3 4 (200nm)/Bi2
3 (20nm)/Au(4nm)/NiFe(4n
m)/Cu(3.5nm)/CoFe(4nm) (Ref.D.Wang et al.,IEEE Mag 32 No.5.4278(1996)) なお、上述したSV膜構造のうち、下線を付した部分が
鏡面反射膜と考えられている部分である。
【0324】上記(c)のSV膜では、上下両層とも酸
化物からなる鏡面反射膜を用いている。単純に考えて
も、電子の波の反射を起こすためには、金属よりもポテ
ンシャルバリアの高い絶縁性の酸化物を用いたほうが、
鏡面反射効果が大きく有効であると考えられる。さら
に、NiO膜は酸化物反射膜であると同時に、反強磁性
膜でもあるため、NiOに接している磁性層の磁化を固
着する役割も果たしている。上記構成はD−SV膜であ
るが、ノーマルSV膜、反転SV膜などの反強磁性膜が
1層の構造でも片側の鏡面反射は得られると考えられ
る。しかしながら、このような膜ではいくつかの不具合
があり、現段階では実用的ではない。
【0325】まず、NiOは交換結合力が弱く実用性が
低い。弱い結合磁界では記録媒体からの漏洩磁界によっ
て磁化固着層の磁化方向が不安定となり、出力が変動す
るおそれがある。さらに、上層に酸化物層を用いる場合
には、NiOにしろ、またキャップ層として別の酸化物
を用いるにしろ、リード電極との接触抵抗が大きくなっ
てしまう。接触抵抗の増大はESD(electro static d
ischarge:静電破壊)を引き起こしやすくなるために望
ましくない。さらに、CoFeを感磁層に用いた場合、
CoFeはfcc(111)配向させなければ良好な軟
磁性を実現できないことが分かっている。感磁層が下層
に位置する場合に、感磁層の下地として酸化物層を用い
ることはCoFeにとってfcc(111)配向のバッ
ファ層を失うことになるため、軟磁気特性との両立が困
難となる。
【0326】また、(d)のSV膜では下地層にNiO
の反射膜兼反強磁性膜を用い、さらに膜表面のAu層が
反射膜となっている。また、(e)のSV膜でも同様
に、膜表面のAg膜が反射膜となっており、Ag膜と膜
表面とのポテンシャル差を利用して鏡面反射効果を引き
出している。膜表面での反射膜として、AuやAgのよ
うな貴金属膜で効果が得られた理由は明らかではない
が、1つの理由として(d)の文献には、膜表面での表
面拡散が遷移金属より貴金属の方が起こりやすいため
に、貴金属膜表面では平坦性が高くなり、反射効果を引
き出しやすくなっているためであると記載されている。
【0327】上記したような金属膜を膜表面に用いた反
射膜では、酸化物反射膜のときの問題点であったリード
電極との接触抵抗が小さくできる点では有利である。し
かしながら、AuやAgのような貴金属膜の膜表面での
鏡面反射効果を利用した場合、実際の素子では効果が失
われる可能性が高い。つまり、実際のMR素子やMRヘ
ッドではSV膜の表面がそのまま晒されていることはま
れであり、何らかの膜がSV膜上に積層されることが普
通である。
【0328】例えば、シールド型MRヘッドにおいて
は、アルミナなどからなる上部磁気ギャップ膜がSV膜
上に積層される。(d)の文献に記載されているよう
に、鏡面反射効果は表面や界面での状態が反射効果に大
きく影響する。それが元々膜表面での反射効果を利用し
ていた膜の上に別の膜が積層されると、反射効果は当然
変ってしまう。このように、SV膜上に積層される膜に
よりMR特性が変動する膜構造は、実用面で問題があ
る。
【0329】実際に、(d)のSV膜のAu膜表面に、
通常保護膜としてよく用いられるTa膜を積層すると、
反射効果が失われると報告されている。このように、膜
表面での鏡面反射効果を利用したSV膜は、実際のデバ
イス構造を想定した場合には効果が変動してしまうた
め、実用的なSV膜とは言えない。
【0330】(f)のSV膜は(d)と同様にAu膜を
鏡面反射膜として用いているが、これは膜表面での反射
効果ではなく、金属膜同士の膜界面での鏡面反射効果を
引き出したものである。ここで、Au膜は適当な下地層
がない基板上に直接成膜するとアイランド成長しやすい
ことが知られており、これを抑制するために(f)のS
V膜では下地に工夫を凝らして、Au膜表面をできるだ
けフラットにし、その上に積層されるNiFeとの界面
をシャープにしている。
【0331】しかしながら、(f)の下地層は実用的な
手法とは言えない。すなわち、Au膜をBi2 3 膜上
に成膜し、350℃でアニールを行うと良好な反射効果
が引き出せることを利用して、厚さ20nmのBi2
3 膜を下地として用いている(Ref.C.R.Tellier and A.
J.Tosser.Size Ellects in Thin Films,Chapter I.Else
vier,1982 、L.I.Maissel et al.,Handbook of Thin Fi
lm Technology.McGRAW-Hill Publishing Company,198
3)。
【0332】さらに、Si2 3 膜の下地として厚さ2
00nmのSi3 4 膜を用いている。つまり、合計2
20nmもの厚さの下地膜をAu膜の下地として用いた
上に、350℃という高温でのアニール工程を経てい
る。220nmという膜厚は今後高密度化に伴ってます
ます狭ギャップになることを考えれば著しく不利となる
だけでなく、実用性は極めて低いものである。さらに、
350℃という高温での熱処理は、GMR膜にとって基
本となるスピン依存散乱を起こす磁性層/非磁性中間層
界面で界面拡散を招き、MR変化率が著しく劣化してし
まう。この温度はたとえ耐熱性に優れたCo(CoF
e)/Cu/Co(CoFe)積層膜を用いたSV膜で
も界面拡散が生じてしまう温度である。
【0333】(3)CoFeの磁歪制御 CoFe層を感磁層として用いる場合、fcc(11
1)配向した下地層を適用することでCoFe層をfc
c(111)配向させ、これにより軟磁気特性を向上さ
せることが可能であることが見出されている。ここで
は、fcc(111)配向した下地層としてCu層やA
u層が用いられている。しかしながら、軟磁気特性のも
う1つの重要な要素である磁歪については全く制御され
ておらず、かつ耐熱性も下地層に大きく依存することを
今回見出した。例えば、上記公報に基づくSV膜として
は以下に示すような膜構造が挙げられる。
【0334】(g) Ta(5nm)/Cu(2nm)
/CoFe(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(2
nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm) (h) Ta(5nm)/Au(2nm)/CoFe
(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(2nm)/I
rMn(7nm)/Ta(5nm) 上記した(g)の膜では、Cu膜はfcc(111)配
向しており、このfcc(111)Cu膜上のCoFe
層もfcc(111)配向して軟磁性は実現できるもの
の、(i)耐熱性が悪い(as−depo:8.1%→
250℃×4H後:6.5%(MR変化率は相対比で2
0%劣化))、(ii)磁歪λは−14×10-7と絶対値
が大きいなど、必ずしも実用性を十分に満足していると
は言えない。磁歪λの明確な指針はないが、1つの基準
としては−10×10-7〜+10×10-7程度が望まし
いといえる。
【0335】さらに、fcc材料としてCuに代えてA
uを用いた場合((h)の膜)にも、(i)耐熱性が悪
い(as−depo:8.4%→250℃×4H後:
6.5%(MR変化率は相対比で23%劣化))、(i
i)磁歪λは+33×10-7と絶対値が大きいなど、C
u膜を用いた場合と同様に、必ずしも実用性を十分に満
足しているとは言えない。
【0336】上記(g)、(h)のスピンバルブ膜のX
RDパターンをθ−2θスキャンで測定して評価した。
CoFe/Cu/CoFe3層でほぼ同様なdスペーシ
ング値となっているため、1つのピークになっていたの
で、そのピーク値をとった。このとき、Cu上のCoF
e/Cu/CoFe3層のfcc配向のd−(111)
スペーシング値は2.054nmであり、Au上のCo
Fe/Cu/CoFe3層のfcc配向のd−(11
1)スペーシング値は2.086nmであった。後述す
るように、これらCu上およびAu上のd−(111)
スペーシング値の中間値にすれば、小さな適切な磁歪値
をとることができることから、Cu上の小さすぎるd−
(111)スペーシング値、Au上の大きすぎるd−
(111)スペーシング値は好ましくないことが分かっ
た。
【0337】このように、CoFe層からなる感磁層を
用いる場合、単にfcc(111)配向させた下地層上
に成膜しても、磁歪の点から不十分であることが分かっ
た。なお、磁歪を満足させる手法の1つとして、零磁歪
近傍でかつfcc(111)配向させたNi80Fe20
にCoFeを成膜し、磁歪的にほぼ零のNiFeにより
感磁層全体として磁歪を零にする構造(上記した(a)
の構成)が挙げられるが、前述したようにこの構成はM
R特性の熱プロセス劣化が大きいという問題を有してい
る。
【0338】上述したように、従来のスピンバルブ膜は
熱プロセスによるMR変化率の低下が大きいことから、
スピンバルブ膜の耐熱性を向上させることが望まれてい
る。
【0339】また、スピンバルブ膜のMR変化率の向上
策として鏡面反射効果が注目されているが、従来のスピ
ンバルブ膜における反射膜は酸化物などの絶縁物であっ
たり、また膜表面での反射効果を利用したものであるた
め、例えばリード電極との接触抵抗の増大によりESD
を引き起こしたり、あるいはスピンバルブ膜上に保護膜
などを形成すると鏡面反射効果が失われるなど、実用性
に劣るなどの問題を有している。さらに、界面で反射効
果を利用することも検討されているが、そのために多大
な下地層を設ける必要があるなど、実用性は極めて低い
ものであった。このようなことから、素子や磁気ヘッド
としての実用性を考慮した上で、鏡面反射効果によりス
ピンバルブ膜のMR変化率を向上させることが望まれて
いる。
【0340】さらに、スピンバルブ膜の軟磁気特性を高
める上で、CoFe合金などからなるCo系磁性層の磁
歪を小さく制御することが求められている。
【0341】特に、鏡面反射効果によるスピンバルブ膜
のMR変化率の向上効果や磁歪の低減効果については、
スピンバルブ膜の実用性を高める上で、熱プロセスによ
る劣化を抑制する必要がある。
【0342】本実施形態はこのような課題に対処するた
めに発明されたもので、熱プロセスによるMR特性の低
下を抑制したスピンバルブ膜を有する磁気抵抗効果素
子、また実用性を考慮した上で鏡面反射効果によりMR
変化率を向上させたスピンバルブ膜、低磁歪を実現した
スピンバルブ膜、さらにはこれらの熱プロセス劣化を抑
制したスピンバルブ膜を有する磁気抵抗効果素子を提供
することを目的としている。またさらに、そのような磁
気抵抗効果素子を用いることによって、記録再生特性お
よび実用性を向上させた磁気ヘッドおよび磁気記録装置
を提供することを目的としている。
【0343】以下、上述した課題を解決するための実施
の形態について、図面を参照して説明する。
【0344】図32は、本発明の磁気抵抗効果素子(M
R素子)の一実施形態の要部構造を示す断面図である。
同図において、1は第1の磁性層、2は第2の磁性層で
ある。これら第1および第2の磁性層1、2は、非磁性
中間層3を介して積層されている。第1および第2磁性
層1、2間は反強磁性結合しておらず、非結合型の磁性
多層膜を構成している。
【0345】第1および第2の磁性層1、2は、例えば
Co単体やCo合金のようなCoを含む強磁性体により
構成されている。磁性層1、2はNiFe合金などで構
成してもよい。これらのうち、特にバルク効果と界面効
果を共に大きくすることができ、大きなMR変化量が得
られるCo合金を用いることが好ましい。
【0346】磁性層1、2を構成するCo合金として
は、CoにFe、Ni、Au、Ag、Cu、Pd、P
t、Ir、Rh、Ru、Os、Hfなどから選ばれる1
種または2種以上の元素を添加した合金が用いられる。
添加元素量は5〜50原子%とすることが好ましく、さ
らには8〜20原子%の範囲とすることが望ましい。こ
れは、添加元素量が少なすぎるとバルク効果が十分に増
加せず、逆に添加元素量が多すぎると界面効果が減少す
るおそれがあるからである。添加元素は大きなMR変化
量を得る上で、特にFeを用いることが好ましい。
【0347】第1および第2の磁性層1、2のうち、下
側の第1の磁性層1は磁気抵抗効果向上層(MR向上
層)4上に形成されている。MR向上層4は下地機能を
有する非磁性層(以下、非磁性下地層と記す)5上に形
成されている。この非磁性下地層5は、例えばTa、T
i、Zr、W、Cr、Nb、Mo、HfおよびAlから
選ばれる少なくとも1種の元素を含む層であり、これら
の単体金属や合金、あるいは酸化物や窒化物などの化合
物からなる。非磁性下地層5にTaなどの酸化物を用い
た場合、後に詳述するように、MR向上層4で反射しき
れなかった電子を非磁性下地層5/MR向上層4界面で
反射させることができる。
【0348】第1の磁性層1は外部磁界により磁化方向
が変化する感磁層である。一方、第2の磁性層2上に
は、IrMn、NiMn、PtMn、FeMn、RuR
hMn、PdPtMn、MiOなどからなる反強磁性層
6が形成されている。第2の磁性層2には反強磁性層6
からバイアス磁界が付与され、その磁化が固着されてい
る。すなわち、第2の磁性層2は磁化固着層である。
【0349】図32では図示されていないが、第2の磁
性層の固着方法として上記のように反強磁性膜と直接接
しさせて磁化方向を固着する方法の他に、第2の磁性層
上にRu、Crなどの層を介して第3の磁性層を積層
し、第2の磁性層と第3の磁性層をRKKY的に反強磁
性結合させて、第3の磁性層を反強磁性結合させる、い
わゆるシンセティックアンチフェロ構造を用いても構わ
ない。シンセティックアンチフェロ構造を用いることに
よって、バイアス点も安定になり、かつピン特性の高温
下での安定性も増す。具体的には、第2の磁性層から第
3の磁性層までの構成として、CoFe/Ru/CoF
e、Co/Ru/Co、CoFe/Cr/CoFe、C
o/Cr/Coなどが挙げられる。このときの反強磁性
膜は、上述の反強磁性膜の一群と同様である。
【0350】第1および第2の磁性層1、2間に配置さ
れる非磁性層3の構成材料としては、Cu、Au、Ag
およびこれらの合金、あるいはこれらと磁性元素とを含
む常磁性合金、Pd、Ptおよびこれらを主成分とする
合金などが例示される。
【0351】反強磁性層6上には保護層7が設けられて
おり、この保護層7は非磁性下地層5と同様な金属もし
くは合金により構成されるものである。これら各層によ
って、この実施形態のスピンバルブ膜8が構成されてい
る。スピンバルブ膜8にはセンス電流を供給する一対の
電極(図示せず)が接続され、これらによってスピンバ
ルブGMR素子が構成される。スピンバルブGMR素子
は、感磁層1に対してバイアス磁界を印加する硬質磁性
膜や反強磁性膜からなるバイアス磁界印加膜を有してい
てもよい。この場合、バイアス磁界は磁化固着層2の磁
化方向に対して略直交する方向に印加することが好まし
い。なお、図中9は基板である。
【0352】上述したスピンバルブ膜8を構成する各層
のうち、MR向上層4は本発明の特徴的な部分であり、
図32に示すMR向上層4は第1の金属膜4aと第2の
金属膜4bとの積層膜により構成されている。スピンバ
ルブ膜8の下地として機能する金属膜4a、4bには、
例えばCu、Au、Ag、Pt、Rh、Al、Ti、Z
r、Hf、PdおよびIrから選ばれる少なくとも1種
の元素を含む金属膜を適用することができる。
【0353】これら複数の金属膜のうち、第1の磁性層
(感磁層)1と接する第1の金属膜4aを主として構成
する元素は、感磁層1を主として構成する元素と非固溶
の関係にある。第2の金属膜4bについても、それを主
として構成する元素が感磁層1を主として構成する元素
と非固溶の関係にあることが好ましく、特にこれら第1
および第2の金属膜4a、4bを主として構成する各元
素が互いに固溶の関係にある場合がある。さらに、感磁
層1と接する側には、例えば電子波長が短い金属からな
る第1の金属膜4aが配置され、その外側に電子波長が
(第1の金属膜1aより)長い第2の金属膜4bが配置
されていることが望ましい。
【0354】ここで、本発明における非固溶の関係につ
いて述べる。本発明において、Aという元素とBという
元素の2種類の元素が非固溶の関係を有する状態とは、
2元素の相図(例えば、Binary Alloy Phase Diagram,
2nd Edition, ASM International. 1990など)におい
て、室温程度の低温域で、Aを母材としたときにBが固
溶できる原子%量と、B母材としたときにAが固溶でき
る原子%量がともに10%以下である元素の組み合わせ
を示すものとする。
【0355】具体例として、磁性層(例えば感磁層1)
がCoまたはCo合金のときと、磁性層がNi合金の場
合について説明する。磁性層をfcc配向にするために
は下地膜がfcc金属やhcp金属であることが望まし
いため、磁性層に接するMR向上層の具体的な構成元素
としてはAl、Ti、Cu、Zr、Ru、Rh、Pd、
Ag、Hf、Ir、Pt、Auなどが挙げられる。これ
らの元素のうち、Coと非固溶という上記の条件を満足
する元素は、Cu、Ag、Auの3元素となる。また、
Niと非固溶という上記の条件を満足する元素は、R
u、Ag、Auの3元素となる。但し、磁性層としてN
i合金を用いた場合には、Cuは相図のみを参照すると
固溶の関係にあるが、本発明者が実験を行った結果、M
R向上層として用いた場合には、非固溶といえることが
判明した。つまり、以下のような実験結果をもとに、N
i合金とCuとは非固溶と判断される。
【0356】すわわち、フリー層が薄い場合には、MR
向上層は前述した第1実施形態での非磁性高導電層とし
て作用するが、非磁性高導電層とフリー層との界面で原
子の拡散が生じて、diffusiveな界面になってしまう
と、フリー層から非磁性高導電層に向かう電子の透過率
を低下させてしまう。つまり、ピン層とフリー層の磁化
方向が互いに平行な状態でも、diffusiveな界面におい
て非弾性散乱を受けてしまうため、アップスピンの平均
自由行程が長くならない。つまり、MR変化率の低下を
招くことになる。この現象は、極薄フリー層と非磁性高
導電層とが固溶なときに生じ、プロセスの熱処理などを
行うとより顕著となる。つまり、熱処理によってMR変
化率が低下する。このような現象を確認する方法をとっ
たところ、薄いNi合金層にCuをつけた実験を行った
ところ、MR変化率の低下がみられなかった。
【0357】以上の結果から、Ni合金とCuとは非固
溶と判断される。従って、Ni合金と非固溶の関係を満
足する元素として、本発明では、相図から得られる元素
の組み合わせにCuを加えて、Ru、Ag、Au、Cu
と定義することができる。このような非固溶の元素を磁
性層に接して配置することによって、磁性層とMR向上
層との界面の組成急俊性が熱処理などによっても失われ
ることなく、鏡面反射効果が期待できる。
【0358】ここでは、磁性層をfcc配向させること
を前提としたが、もちろん無配向や微結晶構造をもつ磁
性層に対してこれらのMR向上層を用いても構わない。
具体的には磁性層として、CoFeB、CoZrNb、
CrにTi、Zr、Nb、Hf、Mo、Taなどが添加
されたアモルファス磁性層、もしくは微結晶構造をもつ
磁性層などが挙げられる。
【0359】さらに、上記の元素によって構成されたM
R向上層の一部に対して、d−スペーシングの制御や膜
微細構造をより的確な構造にするために、別の金属膜と
の積層膜にしたり、別の元素と合金化した層が、本発明
によるMR向上層である。この積層される膜を構成する
元素としては、fcc金属やhcp金属が望ましく、A
l、Ti、Cu、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、H
f、Ir、Pt、Auなどが挙げられる。
【0360】MR向上層に積層膜を適用する場合、磁性
層に接していない側の金属膜の好ましい例としては、磁
性層に接している側の金属膜と固溶の関係を有する金属
が挙げられる。ここで、Aという元素とBという元素の
2種類の元素が固溶の関係を有する状態とは、上記した
非固溶の場合と同様に、室温程度の低温域で、Aを母材
としたときにBが固溶できる原子%量と、B母材とした
ときにAが固溶できる原子%量がともに10%を超える
元素の組み合わせを示すものとする。
【0361】MR向上層4に積層膜を適用する際の好ま
しい例を示す。磁性層1がCoまたはCo合金で、金属
膜4aをそれと非固溶の条件を満たすCuで構成した場
合、金属膜4bは上記の固溶の条件を満たすAl、A
u、Pt、Rh、Pd、Irから選ばれる少なくとも1
種を含む金属膜で構成することが好ましい。金属膜4a
をAgで構成した場合、金属膜4bはPt、Pd、Au
から選ばれる少なくとも1種を含む金属膜で構成するこ
とが好ましい。金属膜4aをAuで構成した場合、金属
膜4bはPt、Pd、Ag、Alから選ばれる少なくと
も1種を含む金属膜で構成することが好ましい。磁性層
1がNi合金で、金属膜4aをそれと非固溶の条件を満
たすRuで構成した場合、金属膜4bは上記の固溶の条
件を満たすRh、Ir、Ptから選ばれる少なくとも1
種を含む金属膜で構成することが好ましい。Agおよび
Auを用いる場合には、上記した通りである。
【0362】上述したような組み合わせのうち、MR向
上層4を構成する2元素が10%以上互いに固溶するこ
とが望ましく、例えばAu−Cu、Ag−Pt、Au−
Pd、Pt−Cu、Au−Agなどが挙げられる。な
お、金属膜4aと金属膜4bの組み合わせは、必ずしも
上記した固溶の関係を満たしていなければならないもの
ではなく、例えばCu−Ru、Cu−Agの組み合わせ
などを適用することも可能である。積層膜からなるMR
向上層4は、第1の金属膜4aと第2の金属膜4bとの
2層積層膜に限らず、3層以上の積層膜で構成すること
も可能である。
【0363】MR向上層4は第1の金属膜4aと第2の
金属膜4bとの積層膜に限らず、例えば図33に示すよ
うに、感磁層1を主として構成する元素と非固溶の関係
にある元素の合金層4cでMR向上層4を構成すること
もできる。この場合の合金層4cには上記した積層膜と
同様な考え方が適用できる。すなわち、磁性層1がCo
またはCo合金からなる場合には、合金層4cは主構成
元素としてCu、Ag、Auの3元素から選ばれる少な
くとも1種を含む。また、磁性層1がNi合金からなる
場合には、合金層4cは主構成元素としてRu、Ag、
Au、Cuの4元素から選ばれる少なくとも1種を含
む。
【0364】合金層4cは上記した主構成元素以外に少
なくとも1種の元素を含む。この主構成元素以外の元素
には、2相分離膜とならないように、主構成元素と固溶
の元素が用いられる。例えば、合金層4cの主構成元素
にCuを用いた場合には、Cu−Au、Cu−Pt、C
u−Rh、Cu−Pd、Cu−Irなどの貴金属系の合
金が用いられる。合金層4cの主構成元素にAgを用い
た場合には、Ag−Pt、Ag−Pd、Ag−Auなど
の貴金属系の合金が用いられる。合金層4cの主構成元
素にAuを用いた場合には、Au−Pt、Au−Pd、
Au−Ag、Au−Alなどの貴金属系の合金が用いら
れる。
【0365】上述したような合金のうち、MR向上層4
としての合金層4cは2元素が10%以上互いに固溶す
ることが望ましく、例えばAu−Cu、Ag−Pt、A
u−Pd、Au−Agなどが挙げられる。このように、
MR向上層4には種々の形態を適用することができ、例
えば図34に示すように金属膜4aと合金層4cとの積
層膜でMR向上層4を構成することも可能である。
【0366】感磁層1にCo系磁性材料を用いる場合、
感磁層1の下地としてのMR向上層4はCo系磁性材料
と同一のfcc結晶構造を有する金属材料や、その上の
膜をfcc配向させやすいhcp構造の金属材料を用い
ることが好ましい。このような点からも、上述したC
u、Au、Ag、Pt、Rh、Pd、Al、Ti、Z
r、Hf、Irなどやそれらの合金はMR向上層4の構
成材料として好適である。さらに、このような金属の積
層膜もしくは合金層からなるMR向上層4を用いること
によって、後に詳述するように、CoFe合金などのC
o系磁性材料からなる感磁層1の磁歪を低減することが
できる。
【0367】MR向上層4の膜厚は、下地層としての機
能を持たせるためには2nm以上とすることが望まし
い。ただし、あまり厚くするとシャント分流の増大によ
りMR変化率が減少するため、MR向上層4の膜厚は1
0nm以下とすることが好ましく、さらに望ましくは5
nm以下である。
【0368】上述したようなMR向上層4は、スピンバ
ルブ膜8の耐熱性を向上させる働き、スピンバルブ膜8
の鏡面反射膜(界面反射膜)としての働き、フリー層が
薄い場合にもMR変化率を高い値に維持する働き、Co
系磁性材料からなる感磁層1の磁歪を低減する働き、ス
ピンバルブ膜8の結晶微細構造を制御する働きなどを有
するものであり、これらに基づいてスピンバルブ膜8の
MR特性を向上させるものである。以下に、MR向上層
4の働きについて詳述する。
【0369】まず、スピンバルブ膜の熱プロセス劣化に
ついて述べる。プロセスアニールによるMR特性の劣化
の一因として、磁性層1、2の非磁性中間層3と接して
いない側の鏡面反射効果がプロセスアニールにより変動
することが考えられる。その様子を図35に示す。な
お、図35において、IFS はスピン依存散乱される界
面、IFM はスピン依存散乱ではなく鏡面錯乱される界
面を示している。図35(a)、(b)は理想状態(a
s−depo時に対応)を、図35(c)はプロセスア
ニール後の状態を模式的に示している。
【0370】図35(a)、(b)に示すように、スピ
ンバルブGMRの基本ユニットとなる感磁層1/非磁性
中間層2/磁化固着層3の3層積層構造において、その
両側での鏡面散乱効果がas−depo時には生じてい
たものが(たとえその界面が金属膜との界面であって
も)、図35(c)に示すように、プロセスアニールに
より容易に互いに固溶するような系では界面拡散が生
じ、散乱的な界面になってしまい、鏡面反射効果が弱め
られて、MR特性の劣化が生じることが考えられる。
【0371】金属膜界面での鏡面反射効果は報告例自体
がほとんどなく、その実証性は必ずしも確立されていな
いが、後述するようにポテンシャル差が小さい金属膜界
面においても、理想的に鏡面反射効果が生じ得るもので
ある。例えば、NiFe/CoFe界面でも比較的ミキ
シングが少ないas−depo状態では鏡面反射効果が
得られていたものが、プロセスアニール後では固溶系に
あるNiFe−CoFe界面では容易に界面拡散が生
じ、界面での急俊性が失われて、MR変化率が劣化する
ことが考えられる。
【0372】具体的に、NiFe/CoFe積層膜から
なる感磁層を使用したスピンバルブ膜では、NiFe/
CoFe界面の鏡面反射効果がプロセスアニールによっ
て失われ、例えばas−depo時に7.3%であった
MR変化率が、250℃×4Hのプロセスアニール後で
は5.8%まで劣化してしまう。この原因としてアニー
ルによるNiFe/CoFe界面での鏡面反射係数の変
動によるMR変化率の変動が起こったということも考え
られる。
【0373】従来の考えでは、NiFe/CoFe界面
は同じ金属膜どおしの界面であり、かつ電子状態も近い
ため、この界面での鏡面反射は考慮されていなかった
が、as−depoの状態では比較的ミキシングなどの
少ない均一な界面となるため、金属膜界面においても鏡
面反射効果が生じると考えられる。ところが、NiFe
/CoFeは固溶の関係にあるため、プロセスアニール
により容易に界面が拡散およびミキシングし、界面での
組成の急俊性が失われて鏡面反射係数が小さくなり、M
R特性が劣化することが考えられる。逆にいうと、as
−depo状態では鏡面反射効果の分だけMR変化率が
大きくなっていたことを意味する。
【0374】また、フリー層が薄い場合には、MR向上
層は前述した第1実施形態での非磁性高導電層として作
用するが、非磁性高導電層とフリー層との界面で原子の
拡散が生じて、diffusiveな界面になってしまうと、フ
リー層から非磁性高導電層に向かう電子の透過率を低下
させてしまう。つまり、ピン層とフリー層の磁化方向が
互いに平行な状態でも、diffusiveな界面において非弾
性散乱を受けてしまうため、アップスピンの平均自由行
程が長くならない。つまり、MR変化率の低下を招くこ
とになる。この現象は、極薄フリー層と非磁性高導電層
とが固溶なときに生じ、プロセスの熱処理などを行うと
より顕著となる。つまり、熱処理によってMR変化率が
低下する。
【0375】フリー層と非磁性高導電層との界面におい
て、熱処理によってもアップスピンの透過を妨げること
のない安定な界面を形成することが重要である。具体的
には、フリー層と非磁性高導電層の材料を非固溶とする
ことが重要である。例えば、磁性層にCo合金を用いた
ときには、非磁性高導電層の材料として、Cu、Au、
Ag、Ruを挙げることができる。ここで、Cu、A
u、Agは非抵抗が低いので特に望ましい。
【0376】このようなことから、MR特性の劣化を抑
制する1つの実現手段として、GMR基本ユニットの両
側に、磁性層1、2の材料とは非固溶の金属材料を用い
ることが重要である。さらに、このような非固溶の金属
材料層は、例えばCoFe合金のような材料をGMR基
本ユニットに用いた場合、CoFe合金層をfcc(1
11)配向させるためのシード層としての機能も果たさ
なければならないため、fcc(111)配向しやすい
金属材料がよいことも分かる。加えて、感磁層にCoF
e合金を用いる場合には、磁歪制御も重要である。
【0377】プロセスアニールによるMR特性の劣化の
他の要因として、スピンバルブ膜の膜微細構造の熱プロ
セスによる変化が挙げられる。耐熱性を向上させるため
に重要な膜微細構造として、感磁層/非磁性中間層/磁
化固着のGMR基本ユニットの各界面およびその両側の
界面が、プロセス熱アニールを行っても安定に保ってい
られる微細構造が望ましい。これは、感磁層/非磁性中
間層および非磁性中間層/磁化固着層の界面ではスピン
依存の界面散乱効果を強く引き出すためであり、また各
磁性層の両側の界面については、スピン依存しない鏡面
散乱効果を熱的に安定に保つために重要である。ここ
で、磁性層が積層膜からなる場合には、非磁性中間層に
接している側の磁性膜とその外側に接している磁性膜と
の界面が、ここで言う鏡面散乱効果をもたらすスピン依
存しない界面として考えられる。
【0378】上記したような条件を実現するために、磁
性層/非磁性層の各材料については、互いに非固溶の関
係にある材料を選択することがそもそも望ましく(例え
ばCoFe/CuやCo/Cu)、そのような界面での
固溶自体は起こらないはずである。従って、磁性層/非
磁性層の界面、磁性層の非磁性中間層とは反対側の界面
からの原子拡散を抑えることが重要になる。そのために
は、GMR基本ユニット部分の結晶(例えばCoFe/
Cu/CoFeの場合には格子定数が近いので、結晶粒
は各層ごとにあるのではなく、CoFe/Cu/CoF
eで繋がった結晶粒となっている)は、理想的には単結
晶が望ましいが、実際にはアルミナなどのアモルファス
層上に形成されるスピンバルブ膜8で単結晶を得るのは
難しい。
【0379】そこで、実用的に実現し得る結晶構造とし
て、結晶粒界が存在したとしても通常の結晶粒界ではな
く、ほとんど面内配向のすれがないサブグレインバウン
ダリである疑似的な単結晶膜ともいうべき構造とするこ
とが望ましい。本発明においては、上述したようなMR
向上層4を適用することによって、サブグレインバウン
ダリとしての小傾角粒界を有するスピンバルブ膜が再現
性よく得られる。具体的には、スピンバルブ膜をfcc
(111)配向させ、かつ膜面内における結晶粒間の結
晶配向方向のずれを30度以内とすることができる。こ
のようなスピンバルブ膜の結晶粒制御により磁気抵抗効
果特性の向上を図ることが可能となる。この結晶構造に
ついては後に詳述する。
【0380】さらに、例えばCoFe/Cu/CoFe
/IrMnのようにMn系反強磁性膜により磁化固着し
た場合、Mnが結晶粒界を通って、CoFe層を突き抜
けてCu層まで拡散すると、MR特性が劣化する可能性
が大きい。このようなことからCoFe/Cu/CoF
e/IrMnなどの結晶粒界を通って、例えばMnがC
u層まで拡散することを抑制することが好ましい。一
方、磁性層の非磁性中間層と接していない側の界面は、
鏡面反射効果を引き出す界面となるので、その界面が乱
れにくくなるような膜微細構造が望ましい。まず、材料
的には磁性層を主として構成する元素と非固溶な関係に
ある材料であることが重要である。
【0381】また、IrMnのようにCoFeと格子間
隔の差がある反強磁性膜を用いる場合には、CoFe層
とその上に成膜されるIrMn層との間で大きな格子歪
みが生じる。それを緩和するために、CoFe/IrM
n界面で原子のディスロケーションが生じてしまう。こ
のような界面現象を抑制する手段として、例えばIrM
n層の上にIrMnの格子間隔を安定に保つ層、すなわ
ちIrMnと同程度の格子間隔をもつfcc金属材料を
積層することが考えられる。このような構成によって
も、スピンバルブ膜の耐熱性を改善することができる。
【0382】さらに、反強磁性膜の下地膜としてMR向
上層を用いる場合には、上記の効果の他に、反強磁性膜
の格子間隔を適切な値にして、ピン特性を向上させる効
果もある。このように反強磁性膜に接しさせてMR向上
層を用いる場合でも、ピン層に直接反強磁性膜が接する
通常のピン構造だけでなく、上述のようなRu、Crな
どを用いたシンセティックアンチフェロ構造であっても
構わない。このように反強磁性膜と組み合わせて用いる
ときは、反強磁性膜とMR向上層が熱処理によって極度
に拡散しないために、MR向上層は反強磁性膜と非固溶
であるか、もしくはIrMn、RuRhMnのようなy
−Mn系反強磁性膜を用いたときに反強磁性膜の結晶構
造を安定に保つために、fcc金属材料、hcp金属材
料であることが望ましい。
【0383】本発明の磁気抵抗効果素子は、上述したよ
うな金属膜/金属膜界面の鏡面反射効果をはじめとして
種々の効果に注目し、MR特性の向上、耐熱性の改善、
ピン特性の向上などを図ったものである。この際、金属
膜界面を利用した鏡面反射膜では次の2点が特に心配さ
れる。まず第1に、金属膜/金属膜界面ではポテンシャ
ルとしての差が小さいため、従来の考えに基づくと反射
効果としては大きな値にならないことが予想される。第
2に、反射膜としての効果を得るためにある程度の膜厚
とすると、一般に金属膜は抵抗が小さいため、シャント
分流によりGMR基本ユニットに流れる電流が小さくな
り、MR変化率が小さくなることが予想される。
【0384】金属膜は反射膜としてだけ見たときには酸
化物よりは劣ると考えられる。しかしながら、金属反射
膜の反射効果としては酸化物膜よりは劣るものの、良好
な反射効果を得ることができ、さらに実用性という点で
考えた場合には、酸化物反射膜に比べて金属反射膜は大
きなメリットをもたらすものである。本発明はこのよう
な点に着目してなされたものである。
【0385】ここで、金属膜/金属膜界面で十分良好な
鏡面反射効果が得られることを示したモデルを図36に
示す。なお、ここでは通常用いる電子ポテンシャルによ
る説明の変わりに、波動論による非常に単純化したモデ
ルを考えると理解しやすい。図36に示すように、ある
フェルミ波長をもつ電子が金属膜界面にきたときに、電
子は波長の変化を伴うことになる。このときに、反射膜
pに相当する金属膜でのフェルミ波長のほうが短いなら
ば、電子はある臨界角度θc よりも低角に入射したもの
(θc >θ)は全皮射されることになる。反射膜p内で
のフェルミ波長と、反射膜pに接している金属膜でのフ
ェルミ波長の差が大きいほど、その臨界角度θc は大き
くなり、伝導に寄与する全ての電子にとって平均した反
射率pは大きくなる。
【0386】図37および図38に、反射膜pのフェル
ミ波長Λ(p)と反射膜pと接するGMR膜フェルミ波
長Λ(GMR)との比(Λ(GMR)/Λ(p))と、
臨界角度θc との関係の例を示す。図37および図38
から分かるように、具体的な数値としてはそれ程大きな
電子波長の差がなくても十分な反射が生じる。もちろ
ん、絶縁膜による反射膜では電子波長が無限大と考えら
れるので、臨界角角度θ c も大きくなるが、金属膜/金
属膜界面であっても十分な反射が生じる。図38はAu
(Ag)/Cu界面で鏡面反射を起こす臨界角度θc
単純にフェルミ波長から算出したグラフである。図38
から分かるように、Au(Ag)/Cu界面でも十分に
鏡面反射が起こる。
【0387】以上のことから、金属膜で反射膜を構成す
る場合、(1)フェルミ波長ができるだけ長い金属膜
で、(2)膜界面での組成急俊性が高い、ということが
重要となることが分かる。フェルミ波長は通常数オング
ストロームのオーダーなので、それよりも界面拡散が生
じて組成急俊性が失われると、波の反射は波長が適応し
て変化してしまい、透過する確率が高くなると考えられ
る。よって、いかにして金属膜界面での組成急俊性が高
く、急激にその界面でフェルミ波長が変わらなければな
らないようになってるいかが重要である。ただし、
(1)については鏡面反射との相関は分かっておらず、
フェルミ波長の算出も難しく、必ずしも必要な条件かど
うかは不明である。ここで、特に(2)を満足するよう
な条件は必要不可欠であると本発明者らは推測した。
【0388】(2)を満足させる1つの大きな指針とし
て、金属膜/金属膜同士が互いに非固溶な関係にあるこ
とが特に重要である。アニールによって膜界面への析出
が起こりやすい系だと、ますます膜界面での組成急俊性
が高くなり、反射が生じやすくなることが予想される。
電子のフェルミ波長がそもそも数オングストロームのオ
ーダーなので、膜界面での組成急俊性もそのオーダーで
フラットであることが望ましい。また、上記した(1)
の点に関しては、反射効果を強く引き出すために、磁性
層の外側に電子波長の短い金属膜を配置し、その外側に
電子波長が長い金属膜を配置することが好ましい。
【0389】以上のことから、金属膜/金属膜界面で鏡
面反射効果をより現実的に引き出す際の材料選択の指針
としては、MR向上層として磁性層と非固溶な金属層を
磁性層のスペーサ層とは反対側の面と接するように配置
することである。加えて、例えば感磁層1の外側に電子
波長の短い第1の金属膜4aを配置し、その外側に電子
波長が長い第2の金属膜4bを配置することが好まし
い。
【0390】さらに、反射膜として合金膜を用いると、
一般的に完全な規則合金を形成しない限り、抵抗が純金
属よりも大きくなる。つまり、電子波長が長くなること
になる。これは反射膜としてみた場合には有利になると
同時に、非固溶の関係を保っているという点でも有利で
ある。このような合金膜を用いる方法として、合金膜を
直接成膜する方法に限らず、互いに合金を作る系の膜を
積層して成膜し、その積層界面に合金を生成する方法で
あってもよい。ただし、フリー層が薄い場合には、フリ
ー層に接するMR向上層(フリー層が薄い場合には、第
1実施形態における非磁性高導電層として作用する)の
比抵抗は低いほうが好ましいので、合金層を直接フリー
層に接しさせることは逆に望ましくない。
【0391】以上のことから、図32、図33および図
34に示したスピンバルブ膜8では、反射膜として用い
るMR向上層4に、磁性層(感磁層1)とは非固溶の関
係を有する金属膜(具体的には第1の金属膜4a)を磁
性層(感磁層1)と接して配置し、さらに反射膜として
のMR向上層4を複数の金属膜4a、4bの積層膜で形
成する、あるいはMR向上層4を合金層4cで形成する
という構成を採用している。複数の金属膜4a、4bや
合金層4cの構成材料は、前述した指針に基づいて選択
する。さらに、積層膜でMR向上層4を構成する場合、
これらのうち電子波長が短い第1の金属をMR向上層4
側に配置することが好ましい。これら以外の構成条件に
ついても、前述した指針に基づくものである。
【0392】上述した鏡面反射効果に基づくMR変化率
は、前述したように、プロセスアニール後においても保
たれるものである。これはMR向上層4の材料選択(非
固溶の関係など)によって、界面の組成急俊性がプロセ
スアニール後においても保持されるためである。言い換
えると、従来のスピンバルブ膜ではプロセスアニールに
より界面での拡散やミキシングにより損われていたMR
特性が、本発明によればプロセスアニール後においても
良好に保つことができる。このように、本発明のスピン
バルブ膜8は耐熱性に優れるものである。
【0393】なお、従来技術に示した(e)の構成にお
けるCu/Ag積層膜は、Cu膜単層では表面凹凸が大
きいため、Ag膜を膜表面にして積層にすることによっ
て、膜表面での鏡面反射効果を引き出したものである。
これは本発明における金属膜/金属膜界面で鏡面反射効
果を強く引き出すための構成とは明らかに異なるもので
ある。つまり、膜表面での平坦化技術(従来技術)と、
膜界面の組成急俊性を高める技術(本発明)とは、その
上に積層される材料まで考慮すれば明らかに異なるもの
である。
【0394】MRの耐熱性に効果を発揮するMR向上層
は、鏡面反射膜としての効果のみならず、前述したよう
に膜微細構造の制御を可能にすることによって、スピン
バルブ膜8のMR特性の向上に寄与している。このよう
なMR向上層の機能は、感磁層1の下側に配置した場合
に限らず、例えば図39や図40に示すように、反強磁
性層6上に配置した場合(MR向上層4B)にも発揮さ
れるものである。この場合の効果は感磁層の磁歪には直
接的には関係せず、前述したようにIrMnなどからな
る反強磁性層6上に前述した複数の金属膜4a、4bの
積層膜や合金層4cからなるMR向上層4Bを配置する
ことによって、反強磁性層6の格子間隔を安定に保つこ
とができる。これによって、磁性層2/反強磁性層6界
面でのディスロケーションが抑制され、スピンバルブ膜
8の耐熱性がより一層向上する。
【0395】さらに他のピン特性も、反強磁性膜が適切
な格子間隔に制御されることによって向上する。格子間
隔の制御という意味でより効果的なのは、MR向上層が
反強磁性膜の下地膜として用いられる場合であり、いわ
ゆる反転構造のスピンバルブ膜またはデュアルスピンバ
ルブ膜などとして用いられるときに特に有効である。こ
のときでも本発明によるfcc金属またはhcp金属膜
の積層膜、もしくは合金膜によって反強磁性膜の格子間
隔を適切な値に自由自在に制御でき、ピン特性の様々な
特性(交換バイアス磁界、耐熱性)などを向上させるこ
とができる。
【0396】複数の金属膜4a、4bの積層膜からなる
MR向上層4Bを反強磁性層6上に配置する場合、Au
などの表面エネルギーが小さい金属からなる第2の金属
膜4bは、反強磁性層6側に配置することが好ましい。
すなわち、AuやAgなどからなる第2の金属膜4bが
Taなどからなる保護層7と接するように配置すると、
AuやAgなどが保護層7に拡散して耐熱性が低下する
おそれがあるため、Cuなどからなる第1の金属膜4a
を保護層7側に配置することが好ましい。また、反強磁
性層6上のMR向上層4Bは、第1の金属膜4a/第2
の金属膜4b/第1の金属膜4aというような積層膜で
構成してもよい。
【0397】前述したように、金属材料の積層膜や合金
層からなるMR向上層4Aは、CoやCoFe合金など
のCo系磁性材料からなる感磁層1の磁歪低減に対して
効果を発揮する。つまり、Cu下地層単独では感磁層1
としてのCoFe合金単層の格子間隔が小さすぎるた
め、−1ppmを超える負の磁歪となる。一方、Au下
地層単独では感磁層1としてのCoFe合金単層の格子
間隔が大きすぎて、+1ppmを超える正の磁歪とな
る。
【0398】これに対して、Cu、Au、Ag、Pt、
Rh、Pd、Al、Ti、Zr、Hf、Irから選ばれ
る少なくとも1種の元素を含む金属膜の積層膜、あるい
は合金層4cからなるMR向上層4を、感磁層1として
のCoFe合金の下地とすることによって、CoやCo
Fe合金などのCo系磁性材料のfcc(111)配向
させた上で、低磁歪に有効な格子間隔、すなわちd(1
11)格子間隔を0.2055〜0.2085nmの範
囲とすることができる。感磁層1の下地としてのMR向
上層4は、fcc−d(111)が0.2058nmよ
り大きいことが好ましい。d−(111)格子間隔を適
切な値に制御する方法としては、例えばAu−Cu積層
膜、Au−Cu合金膜を用いた場合、積層膜ではAuと
Cuの積層膜の膜厚比を変える、合金膜ではAuとCu
の組成比を変えることなどが挙げられる。
【0399】Au−Cu合金の具体的な組成は、Au25
Cu75〜Au75Cu25(原子%)の範囲とすることが好
ましい。また、合金層と金属膜との積層膜を使用する場
合には、Au−Cu合金単独で用いる場合より若干Au
リッチな組成、すなわちAu 25Cu75〜Au95Cu
5 (原子%)の組成とすることが好ましい。
【0400】図32、図33および図34は、感磁層1
を下置としたスピンバルブ膜8について示したが、本発
明はこれに限られるものではなく、例えば図43や図4
4に示すように、感磁層1を上置とした反転構造のスピ
ンバルブ膜8やデュアルエレメントタイプのスピンバル
ブ膜に対して適用することもできる。特に、反転スピン
バルブ膜やデュアルスピンバルブ膜のときには、反強磁
性膜の下地膜としてのMR向上層としての役割でも大き
な効果を発揮する。
【0401】図41および図42に示すスピンバルブ膜
8は、基板9側から順に、非磁性下地層5/MR向上層
4/反強磁性層6/磁化固着層2/非磁性中間層3/感
磁層1/MR向上層4/保護層7が積層された構造を有
している。図41はMR向上層4に合金層4cを用いた
例であり、図42はMR向上層4に複数の金属膜4a、
4bの積層膜を用いた例である。また、図34と同様
に、金属膜4aと合金層4cとの積層膜を用いることも
できる。
【0402】図42に示したように、感磁層1と接する
MR向上層4に積層膜を適用する場合、図39に示した
上側のMR向上層4と同様に、保護層7側にはCuなど
からなる第1の金属膜4aを配置することが好ましい。
従って、図42に示した感磁層1側のMR向上層4は、
第1の金属膜4a/第2の金属膜4b/第1の金属膜4
aの積層膜で構成している。
【0403】反転構造の場合の反強磁性膜の下地のMR
向上層は膜成長の制御を行い、格子間隔の制御、膜微細
構造の制御により耐熱性、ピン特性を向上させるもので
あり、感磁層の磁歪制御、鏡面反射効果の向上などとは
異なるものである。よって、反強磁性膜の膜微細構造を
良好にできる成膜条件であれば、反強磁性膜の下地側に
はMR向上層なしの場合や、Ta、Tiなどの通常よく
用いられるバッファ層上に反強磁性膜を成膜する、通常
の反転構造の下地構造を適用した場合においても、感磁
層側のMR向上層のみでも十分効果を発揮する。
【0404】反転構造のスピンバルブ膜8においても、
感磁層1に接して上記したようなMR向上層4を配置す
ることによって、感磁層1とMR向上層4との界面の組
成急俊性などに基づく鏡面反射効果によりMR特性の向
上を図ることができる。そして、前述したように、鏡面
反射効果に基づくMR変化率はプロセスアニール後にお
いても保たれるため、良好な耐熱性を得ることが可能と
なる。
【0405】なお、上述した反転構造のスピンバルブ膜
8においては、感磁層1/MR向上層4界面、さらには
MR向上層4内の第1の金属膜4a/第2の金属膜4b
界面や第2の金属膜4b界面(図42)で反射を起こさ
せるものであり、従来技術として示した(e)の構成の
Cu/Ag積層膜において、Ag膜表面で反射を生じさ
せていたものとは構成が異なる。従来技術として示した
(d)の構成でAu膜表面にTaを積層すると反射効果
が失われるという問題も、本発明では解決している。本
発明では金属膜/金属膜界面での鏡面反射効果を利用
し、電子のフェルミ波長の大きさを考慮した膜厚と、非
固溶の概念を用いているためである。
【0406】従来技術として示した(d)の構成では、
僅か0.4nmというフェルミ波長と同程度の極薄のA
u層上に、Auと固溶系であるTaを積層しているた
め、たとえCo−Au界面で反射が生じていたとしても
反射効果が失われることは明白である。Au膜の膜厚が
フェルミ波長よりも厚くした場合には、Taとの拡散界
面の影響も小さくなるため、反射効果が得られるように
なる反面、シャント分流による悪影響が大きくなる。従
って、Au/Ta界面に代えてAu/Cu/Taといよ
うにTaとは非固溶の関係にあるCu層を介在させた積
層膜を使用した場合にはAu膜界面を乱すことはない。
さらに、極薄のCu層を例えばCoFeとAuとの界面
に挿入することによって、Auの非磁性中間層への長期
的な拡散を抑えると同時に、一旦フェルミ波長が短い層
を介してからAu層を配置することで、反射効果を増大
させることができる。
【0407】上述した各実施形態においては、MR向上
層4を感磁層1や反強磁性層6と接して配置する場合に
ついて説明したが、MR向上層4は例えば図43に示す
ように、感磁層1や磁化固着層4内に配置した場合にも
前述した実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0408】図43に示すスピンバルブ膜8において、
感磁層1は例えばNiFe層1aとCoFe層1bとに
より構成されており、これらの間に複数の金属膜4a、
4bの積層膜からなるMR向上層4が介在されている。
NiFe層1aとCoFe層1bとは、MR向上層4を
介して磁気的に結合(強磁性結合)されており、磁気的
には感磁層1として一体的に振る舞う。このように、N
iFe層1a/CoFe層1b界面に両者と非固溶のM
R向上層4を挿入する場合、NiFe層1aとCoFe
層1bは一体となって感磁層1として働かなければなら
ないので、挿入するMR向上層4は薄くしなければなら
ない。また、磁化固着層2内にMR向上層4を介在させ
ることもでき、その場合磁化固着層2を構成する1つ以
上の磁性膜は、強磁性結合もしくは反強磁性結合により
磁気的に結合される。強磁性結合か反強磁性結合かはM
R向上層4の材料、膜厚によって決まる。
【0409】上述した各実施形態の磁気抵抗効果素子
は、例えば図44や図45に示すような録再分離型磁気
ヘッドに再生素子部として搭載される。なお、本発明の
磁気抵抗効果素子は磁気ヘッドに限らず、磁気抵抗効果
メモリ(MRAM)などの磁気記憶装置に適用すること
も可能である。
【0410】図44および図45は、本発明の磁気抵抗
効果素子を再生素子部に適用した録再分離型磁気ヘッド
の実施形態の構造をそれぞれ示す図であり、これらの図
は録再分離型磁気ヘッドを媒体対向面方向から見た断面
図である。
【0411】これらの図において、21はAl2 3
を有するAl2 3 ・TiC基板などの基板である。こ
のような基板21の主表面上には、NiFe合金、Fe
SiAl合金、非晶質CoZrNb合金などの軟磁性材
料からなる下側磁気シールド層22が形成されている。
下側磁気シールド層22上には、AlO3 などの非磁性
絶縁材料からなる下側再生磁気ギャップ23を介してス
ピンバルブGMR膜24が形成されている。このスピン
バルブGMR膜24として、前述した各実施形態のスピ
ンバルブ膜8が使用される。
【0412】図44において、スピンバルブGMR膜2
4は所望のトラック幅となるように、記録トラック幅か
ら外れた外側領域を例えばエッチング除去した形状とさ
れている。このようなスピンバルブGMR膜24のエッ
ジ部の外側には、それぞれスピンバルブGMR膜24に
バイアス磁界を印加するバイアス磁界印加膜25が配置
されている。一対のバイアス磁界印加膜25は、スピン
バルブGMR膜24のエッジ部とアバット接合してい
る。
【0413】一対のバイアス磁界印加膜25上には、C
u、Au、Zr、Taなどからなる一対の電極26が形
成されている。スピンバルブGMR膜24には、一対の
電極26からセンス電流が供給される。これらスピンバ
ルブGMR膜24、一対のバイアス磁界印加膜25およ
び一対の電極26は、GMR再生素子部27を構成して
いる。GMR再生素子部27は、上述したようにいわゆ
るアバットジャンクション構造を有している。
【0414】また、図45においては、スピンバルブG
MR膜24と下側再生磁気ギャップ23との間に、予め
トラック幅から外れた領域にスピンバルブGMR膜24
にバイアス磁界を印加する一対のバイアス磁界印加膜2
5が形成されている。この一対のバイアス磁界印加膜2
5は所定の間隙をもって配置されており、その上にスピ
ンバルブGMR膜24の再生トラックの外側部分が積層
形成されている。スピンバルブGMR膜24は、その両
端部にみをそれぞれバイアス磁界印加膜25上に積層す
るようにしてもよい。
【0415】スピンバルブGMR膜24上には、一対の
電極26が形成されている。スピンバルブGMR膜24
の実質的な再生トラック幅は、一対の電極26の間隔に
よって規定されている。これらスピンバルブGMR膜2
4、一対のバイアス磁界印加膜25および一対の電極2
6は、オーバーレイド構造のGMR再生素子部27を構
成している。
【0416】図44および図45において、GMR再生
素子部27上には下側再生磁気ギャップ23と同様な非
磁性絶縁材料からなる上側再生磁気ギャップ28が形成
されている。さらに、上側再生磁気ギャップ28上に
は、下側磁気シールド層22と同様な軟磁性材料からな
る上側磁気シールド層29が形成されている。これら各
構成要素によって、再生ヘッドとしてのシールド型GM
Rヘッド30が構成されている。
【0417】記録ヘッドとして薄膜磁気ヘッド31は、
シールド型GMRヘッド30上に形成されている。薄膜
磁気ヘッド31の下側記録磁極歯、上側磁気シールド層
29と共通の磁性層により構成されている。シールド型
GMRヘッド30の上側磁気シールド層29は、薄膜磁
気ヘッド31の下側記録磁極を兼ねている。この上側磁
気シールド層を兼ねる下側記録磁極29上には、AlO
x などの非磁性絶縁材料からなる記録磁極ギャップ32
と上側記録磁極33が順に形成されている。媒体対向面
より後方面には、下側記録磁極29と上側記録磁極33
に記録磁界を付与する記録コイル(図示せず)が形成さ
れている。
【0418】上述した再生ヘッドとしてのシールド型G
MRヘッド30と記録ヘッドとして薄膜磁気ヘッド31
とによって、録再分離型磁気ヘッドが構成されている。
このような録再分離型磁気ヘッドはヘッドスライダに組
み込まれ、例えば図46に示す磁気ヘッドアッセンブリ
に搭載される。図46に示す磁気ヘッドアッセンブリ6
0は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有す
るアクチュエータアーム61を有し、アクチュエータア
ーム61の一端にはサスペンション62が接続されてい
る。
【0419】サスペンション62の先端には、上述した
実施形態の録再分離型磁気ヘッドを具備するヘッドスラ
イダ63が取り付けられている。サスペンション62は
信号の書き込みおよび読み取り用のリード線64が有
し、このリード線64とヘッドスライダ63に組み込ま
れた録再分離型磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続さ
れている。図中65は磁気ヘッドアッセンブリ60の電
極パッドである。
【0420】このような磁気ヘッドアッセンブリ60
は、例えば図47に示す磁気ディスク装置などの磁気記
録装置に搭載される。図47はロータリーアクチュエー
タを用いた磁気ディスク装置50の概略構造を示してい
る。
【0421】磁気ディスク51はスピンドル52に装着
され、駆動装置制御源(図示せず)からの制御信号に応
答するモータ(図示せず)により回転する。磁気ヘッド
アッセンブリ60は、サスペンション62の先端に取り
付けられたヘッドスライダ63が、磁気ディスク51上
を浮上した状態で情報の記録再生を行うように取り付け
られている。磁気ディスク51が回転すると、ヘッドス
ライダ63の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク51
の表面から所定の浮上量(0以上100nm以下)をも
って保持される。
【0422】磁気ヘッドアッセンブリ60のアクチュエ
ータアーム61は、リニアモータの1種であるボイスコ
イルモータ53に接続されている。ボイスコイルモータ
53は、アクチュエータアーム61のボビン部に巻き上
げられた図示しない駆動コイルと、それを挟み込むよう
に対向して配置された永久磁石および対向ヨークからな
る磁気回路とから構成される。アクチュエータアーム6
1は、固定軸54の上下2カ所に設けられた図示しない
ボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモー
タ53により回転摺動が自在にできるようになってい
る。
【0423】なお、以上の実施形態では録再分離型磁気
ヘッドを用いて説明したが、記録ヘッドと再生ヘッドで
共通の磁気ヨークを用いる録再一体型磁気ヘッドなどの
他のヘッド構造に本発明の磁気抵抗効果素子を適用する
ことも可能である。さらに、本発明の磁気抵抗効果素子
は磁気ヘッドに限らず、磁気抵抗効果メモリ(MRA
M)などの磁気記憶装置に適用することもできる。 (実施例)次に、本発明の具体的な実施例およびその評
価結果について述べる。 (実施例1)この実施例1では、Ta(5nm)/Au
(1nm)/Cu(1nm)/CoFe(4nm)/C
u(2.5nm)/CoFe(2.5nm)/IrMn
(7nm)/Ta(5nm)構造のスピンバルブ膜を、
DCナグネトロンスパッタにより作製した。成膜時の真
空度は1×10-7Toff以下で、アルゴン圧は2〜1
0mToffとした。基板は熱酸化シリコン基板を用い
た。なお、磁気ヘッドの作製時には、アルチック基板上
のAl2 3 ギャップ上に成膜することになるが、特性
は変わらないことが確認されている。
【0424】上記したスピンバルブ膜は、as−dep
o状態のMR変化率が9.6%で、250℃×4Hのプ
ロセスアニール(アニール条件:250℃×4H、磁場
5kOe )後においてもMR変化率は9.0%を維持し
ていた。磁歪は〜±10-6以下のオーダーの値が得られ
た。Hk についても、容易軸方向に磁場を加えたままの
アニール上がりHk を飽和Hk と定義すると、飽和Hk
で約8Oe と小さく、軟磁性も実現できていた。また、
容易軸方向のHc も0〜3Oe と小さかった。
【0425】ここで、MR向上層はAu/Cu積層膜で
あり、AuとCuの界面は合金を形成している。Cuと
CoFeの界面は非固溶な界面である。TaとAuは固
溶する界面であるが、Au/Cuが電子波長に比べて十
分長い距離の膜厚を有するため、反射は十分それまでの
界面で生じており、ここに固溶関係にある界面が存在し
ていても問題ない。fcc構造のAu/Cu下地層の効
果によって、CoFeはfcc(111)配向している
共に、CoFeのd(111)スペーシングの大きさは
0.2074nmと磁歪的にも小さな値に制御されてい
る。
【0426】この実施例1のスピンバルブ膜を断面TE
Mにより観察した。その結果、Au/Cu下地上にCo
Fe/Cu/CoFeのGMR基本ユニット部分が1原
子層ずつきれいに層状成長しており、fcc(111)
配向していることが確認された。また、感磁層としての
CoFe層部分のマイクロディフラクションでは、fc
c−d(111)スペーシングの大きさは0.2074
nmと磁歪的にも好適な値になっていた。さらに、この
スピンバルブ膜のXRDパターンを図48に示す。X線
回折でもCoFeのfcc−d(111)スペーシング
が0.2074nmであることが分かる。
【0427】なお、図48のXRDプロファイルにおい
て、ピーク1,2,3はIrMnに相当するピークであ
り、ピーク4はCoFe/Cu/CoFe積層膜のfc
c(111)ピークと考えられ、感磁層のみのd−スペ
ーシングを求めるのは困難である。この場合には、ピー
ク4のd−スペーシングを感磁層のd−スペーシング値
とする。
【0428】上述したAu(1nm)/Cu(1nm)
下地に代えて、Cu(2nm)も単独で用いるとCoF
eのfcc−d(111)スペーシングは0.2054
nmと小さくなり、磁歪は負側に大きくなる。一方、A
u(2nm)を単独で用いるとCoFeのfcc−d
(111)スペーシングは0.2086nmと大きくな
り、磁歪は正側に大きくなる。このようにAu/Cu下
地を用いることによって、初めて好適な0.2074n
mのスペーシングが得られる。
【0429】なお、従来技術で示した(g)の構成のC
u膜上では得られなかった耐熱性が、Au/Cu積層膜
で得られた1つの要因として、磁歪にも影響している格
子間隔の違いが挙げられる。Cu下地では格子間隔が狭
くなり、IrMnとの界面での格子不整合が大きくなり
歪みが大きくなる。この歪みが大きい状態でプロセスア
ニールを行うことにより歪み緩和が生じ、特に固着層と
反強磁性膜の界面で拡散を生じさせることになるからで
ある。よって、この影響はIrMnの膜厚が厚いほど顕
著になる。ところが、Au/Cu下地の方がIrMnの
格子間隔と近いため、その上に積層されるCoFe/C
u/CoFeが逆にIrMnに近い格子定数の歪み格子
となり、アニールによる歪み緩和の影響が小さくなるか
らである。また、従来技術の(h)の構成のAu下地の
場合には、逆に格子間隔が広すぎ、CoFe/Cu/C
oFeの歪みエネルギーが大きくなりすぎて、逆に界面
のディスロケーションが生じやすくなり、初期アニール
劣化が生じてしまう。Au層とCoFe層とを直接積層
すると、Au層が結晶粒界に沿って非磁性中間層のCu
層にまで拡散する可能性があるからである。非磁性中間
層にAuが到達するとMR変化率はとたんに小さくな
る。これは長期耐熱性に影響してくる。ところが、Au
/Cu積層膜にすることによって、Cu層がAu拡散の
ストッパ層となり長期耐熱性も安定となる。
【0430】下地としてのTaはAuを二次元的に成長
させるために必要なバッファ層である。Auをアモルフ
ァスAl2 3 上に直接成膜した場合には、Auがアイ
ランド成長し、スペーサ層を介して固着層と感磁層との
強磁性的結合の結果、Hinの増大原因となる。また、実
際の素子ではプロセスを経た基板上への成膜となるた
め、安定して成膜を行うためにバッファ層が必要であ
る。ここではTaを下地膜に用いたが、Ti、Zr、C
r、W、Hf、Nb、もしくはこれらを含む合金、これ
らの金属を含む酸化物や窒化物であってもよい。
【0431】このように、従来技術の構成(f)のよう
に、Auの下地膜として合計220nmもの層を用いな
くても、Ta下地を使用することによって、十分Auの
アイランド成長を妨げ平坦な膜表面を得ることができ、
その上に成膜されるCu/CoFe膜の界面も平坦とな
る。また、350℃もの高温の熱処理をする必要もな
い。最適なのは270℃×4H程度の熱処理を行うこと
であり、最も組成急峻性を保った界面を形成することが
できる。このようにTaなどの非磁性下地層は重要であ
り、通常用いられている下地層との組み合わせにより平
坦なAu膜が得られる。
【0432】また、非磁性下地層としてTi(5n
m)、Zr(5nm)、W(5nm)、Cr(5n
m)、V(5nm)、Nb(5nm)、Mo(5n
m)、Hf(5nm)、およびこれらの合金(5nm)
を用いた場合においても、同様な効果が得られた。さら
に、MR向上層としてAu(0.5〜2nm)/Cu
(0.5〜2nm)、Au(0.3〜1nm)/Cu
(0.3〜1nm)/Au(0.3〜1nm)/Cu
(0.3〜1nm)、AuCu(0.5〜5nm)/C
u(0.5〜2nm)を用いた場合においても、同様な
効果が得られた。
【0433】このように、MR向上層は2層から構成さ
れていても、またそれ以上の層数であっても、さらに合
金層であれば1層であっても構わない。ただし、抵抗を
上昇させる添加元素が加えられていない場合には、膜厚
が厚くなるとシャント分流が増大するため、5nm以下
であることが望ましい。しかし、下地としてfcc配向
させるシード効果もなければならないので、磁性層の下
に位置する場合のMR向上層の膜厚としては2〜5nm
程度が望ましい。
【0434】上記のAu−Cuの組み合わせ以外の積層
膜、合金膜材料の組み合わせとしては、磁性層がCo系
合金のときには、Ru−Cu、Au−Cu、Pt−C
u、Rh−Cu、Pd−Cu、Ir−Cu、Ag−P
t、Ag−Pd、Ag−Au、Au−Pt、Au−P
d、Au−Alなどが挙げられる。これらの組み合わせ
のうち、Co系磁性層に接するMR向上層の主元素はC
u、Au、Agのいずれかである。
【0435】膜構成に関しては、Au−Cuの場合の前
述のように、2層積層膜でも、3層積層でも、さらに層
数が多くても、合金層の場合には1層であってもそれ以
上の層数であっても構わない。膜厚に関しても前述のA
u−Cuのときと同様であり、第3の添加元素がない場
合にはトータル膜厚で2〜3nm程度が望ましい。
【0436】Co系のときの以上の組み合わせのうち、
特に膜微細構造の点でも望ましいのが、互いに大きく固
溶する組み合わせのAu−Cu、Ag−Pt、Au−P
d、Au−Ag、Pt−Cuなどが特に望ましい。この
なかであとは適当な格子定数に制御し得る組み合わせで
最適な材料が決定される。
【0437】上記の磁性層がCu系のときと全く同様
に、磁性層がNi系のときにはそれに接するMR向上層
の積層膜、またはMR向上層の合金膜の組み合わせとし
て、Au−Pt、Au−Pd、Au−Ag、Au−A
l、Ag−Pt、Ag−Pd、Ru−Rh、Ru−I
r、Ru−Ptなどが挙げられる。これらの組み合わせ
のうち、Ni系磁性層に接する側のMR向上層の主元素
は、Au、Ag、Ruのいずれかである。膜構成、膜厚
に関しては全く同様である。
【0438】さらに、MR向上層を形成する2つの元素
の組み合わせとして、互いに非固溶であってもよく、例
えば磁性層がCo系磁性層の場合には、Cu−Ru、C
u−Agの積層膜であっても構わない。これらの非固溶
な組み合わせの場合には合金層を形成しようとしても、
2相分離してしまうので好ましくなく、積層膜で用いる
のが好ましい。ここで、磁性層がNi系磁性層の場合の
具体例として、NiFe、NifcCr、NiFeN
b、NiFeRhなどが挙げられる。
【0439】またピン膜構成として、ここでは単純に反
強磁性膜にピン層が直接積層されているタイプのものを
示したが、シンセティックアンチフェロ構造でも構わな
い。例えばピン膜構成として、CoFe2.5nm/I
rMn7nmの代えて、CoFe3nm/Ru0.9n
m/CoFe3nm/IrMn7nm、CoFe3nm
/Cr0.9nm/CoFe3nm/IrMn7nmな
どでも構わない。
【0440】反強磁性膜は、PtMn、NiMn、Ru
RhMn、CrMn、FeMn、NiOなどの材料でも
構わない。ピン層材料はCoでもNiFeでも構わな
い。
【0441】上記した非磁性下地層はTaなどの金属膜
に限らず、例えばTaOx のような酸化膜を使用するこ
ともでき、Taに代えてTaOx 下地を用いた場合に
も、同様に良好な効果が得られた。この場合、MR向上
層で反射しきれなかった電子をポテンシャル差が大きい
Ta x 下地/MR向上層界面で反射させることがで
き、MR変化率をさらに向上させることができる。ただ
し、TaOx 下地層上に直接CoFeを成膜するとf
cc(111)配向しなかったり、また磁歪的に望まし
いfcc−d(111)スペーシングは得られない。こ
れに対してTaO x /Au/Cu下地は実用性に優れる
ものである。TaOx に代えてTi、Zr、Cr、W、
Hf、Nbなどの酸化物を用いることもできる。また、
TiN、TaNのような窒化物を用いることもできる。 (実施例2)この実施例2では、Ta(5nm)/Au
(1nm)/Cu(1nm)/CoFe(4nm)/C
u(2.5nm)/CoFe(2.5nm)/IrMn
(7nm)/Au(0.5nm)/Cu(0.5nm)
/Ta(5nm)構造のスピンバルブ膜を、実施例1と
同様にして作製した。
【0442】上側のMR向上層としてのAu/Cu積層
膜の格子定数は、CoFe/Cu/CoFe積層膜の格
子定数よりIrMnに近いため、IrMn上にAu/C
u積層膜を形成することによって、IrMnの格子定数
をより安定に保つことができ、熱安定性をより一層高め
ることができる。Au層を保護膜のTa直下に配置する
と、Auのような表面エネルギーの小さな層が、Taの
ような表面エネルギーの大きな層の直下に存在すること
になるので、AuがTa表面へ拡散しやすく、層の熱安
定性が劣化する。よって、Ta直下にはAuやAgなど
は配置しないほうが望ましい。この実施例のようにCu
層を介してTa保護膜を形成するほうが好ましい。Au
Cu合金層でも同様な効果が得られる。 (実施例3)この実施例3では、Ta(5nm)/Ni
CoFe(5nm)/Au(1nm)/Cu(1nm)
/CoFe(3nm)/Cu(2.5nm)/CoFe
(2.5nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)
構造のスピンバルブ膜を、実施例1と同様にして作製し
た。このスピンバルブ膜において、感磁層はAu/Cu
膜が介在されたNiCoFe(5nm)とCoFe(3
nm)との積層膜である。
【0443】また、本発明との比較例として、Ta(5
nm)/NiCoFe(5nm)/CoFe(3nm)
/Cu(2.5nm)/CoFe(2.5nm)/Ir
Mn(7nm)/Ta(5nm)構造のスピンバルブ膜
を同様にして作製した。
【0444】比較例のスピンバルブ膜は、as−bep
oでMR変化率8.6%であったものが、250℃×4
Hのプロセスアニール後には6.6%と劣化し、劣化率
は23%にも達した。これはCoFeとNiFeCrが
固溶系であるため、as−bepo段階ではさほどCo
Fe/NiFeCr界面でミキシングせずにMR変化率
がでている。しかし、250℃×4H程度のアニールを
行うと、CoFe/NiFeCr界面が容易に乱れてし
まう。これはシャント化のためにNiFeにCrを4%
程度添加したNiFeCrでの結果だが、Ni81Fe19
(原子%)でも同様である。
【0445】一方、実施例3のようにAu/Cu積層膜
を挿入することにより、CoFe層とNiFeCr層と
の拡散が抑えられるため、MR変化率はas−depo
段階で8.7%であったものが、250℃×4Hのプロ
セスアニール後でも8.1%とMR劣化が著しく抑えら
れた。これはAu/Cu挿入による拡散防止の効果とし
て、CoFe層との界面反射効果がアニール後でも保た
れていることが挙げられる。
【0446】Au(1nm)/Cu(1nm)に代え
て、Au(0.5nm)/Cu(0.5nm)、Cu
(0.5nm)/Au(0.5nm)、Au(0.3n
m)/Cu(0.3nm)/Au(0.3nm)、Au
(0.3nm)/Cu(0.3nm)/Au(0.3n
m)/Cu(0.3nm)、AuCu(0.5nm)/
Cu(0.5nm)、AuCu(1nm)/Cu(0.
5nm)、Ag(0.5nm)/Cu(0.5nm)、
Cu(0.5nm)/Ag(0.5nm)、Ag(0.
3nm)/Cu(0.3nm)/Ag(0.3nm)、
Ag(0.3nm)/Cu(0.3nm)/Ag(0.
3nm)/Cu(0.3nm)、Pt(0.5nm)/
Cu(0.5nm)、Cu(0.5nm)/Pt(0.
5nm)、Pt(0.5nm)/Cu(0.5nm)、
Pt(0.5nm)、Pt(0.5nm)/Cu(0.
5nm)/Pt(0.5nm)/Cu(0.5nm)、
AuCu(0.5〜1.5nm)などを用いた場合に
も、同様な効果が得られた。
【0447】なお、第2の磁性層としてNiFeCrを
用いた理由は以下の通りである。NiFeにCrを添加
することによって、Msを低下させることなくρを向上
させて、シャント分流の効果を低減させている。また、
Cr添加による磁歪λが正側に上昇するのを抑えるた
め、NiとFeの比率は通常のゼロ磁歪組成である、N
i:Fe=81:19よりも少しNiリッチにすること
が望ましい。Ms、ρ、磁歪の全てを満足する組成とし
ては、Ni81Fe15Cr4 の組成が好適である。これ以
外に、Ni80Fe20、NiFeNb、NiFeRhなど
を用いてもよい。 (実施例4)この実施例4では、Ta(5nm)/Au
(1nm)/Cu(1nm)/IrMn(7nm)/C
oFe(2.5nm)/Cu(2.5nm)/CoFe
(4nm)/Cu(0.5nm)/Au(0.5nm)
/Cu(0.5nm)/Ta(5nm)構造のスピンバ
ルブ膜を、実施例1と同様にして作製した。
【0448】この実施例4は磁化固着層が非磁性中間層
よりも下側にある、いわゆる反転構造のスピンバルブ膜
である。上層のCu/Au/Cu層はMR向上層であ
り、耐熱性、MR変化率を向上させている。下側のAu
/Cu層はIrMnの下地膜になっていると同時に、I
rMnの格子定数を安定に保つ働きをするMR向上層で
ある。この膜のas−depoでのMR変化率は10%
で、250℃×4Hのアニール後のMR変化率は9.5
%であった。Cu/Au界面はAuCu合金を形成して
いた。
【0449】この実施例4の上側のTaは保護膜であ
り、Ta膜表面で反射を起こさせようとするものではな
い。この実施例4ではCu/Au/Cu層がMR向上層
であるので、CoFe/Cu界面およびCu/Au界面
(もしくはAuCu合金層)で反射を起こさせるもので
ある。このように、従来技術として示した(e)や
(d)の構成とは明らかに異なるものである。さらに、
極薄のCu層をCoFe/Au界面に挿入しているた
め、Auの非磁性中間層(Cu)への長期的な拡散を抑
えると同時に、一旦フェルミ波長が短い層を介してAu
層を配置しているため、反射効果を増大させることがで
きる。
【0450】上側のMR向上層としてのAu(1nm)
/Cu(1nm)に代えて、Au(0.5〜3nm)/
Cu(0.5〜3nm)、Cu(0.5〜3nm)/A
u(0.5〜3nm)/Cu(0.5nm)、AuCu
(0.5〜3nm)/Cu(0.5〜3nm)、Cu
(0.5〜3nm)/AuCu(0.5〜3nm)/C
u(0.5〜3nm)、Ag(0.5〜3nm)/Cu
(0.5〜3nm)、Cu(0.5〜3nm)/Ag
(0.5〜3nm)/Cu(0.5〜3nm)、Pt
(0.5〜3nm)/Cu(0.5〜3nm)、Cu
(0.5〜3nm)/Pt(0.5〜3nm)/Cu
(0.5〜3nm)、PtCu(0.5〜3nm)/C
u(0.5〜3nm)、Cu(0.5〜3nm)/Pt
Cu(0.5〜3nm)/Cu(0.5〜3nm)など
を用いた場合にも、同様な効果が得られた。
【0451】また、他の材料については実施例1の場合
の材料が用いられる。実施例4のフリー層の上層に積層
されるMR向上層はシード効果は必要とされないため、
膜厚は1nm程度に薄くしても構わない。ただし、厚い
ときのシャント分流増大の悪影響は実施例1のときと同
様なため、5nm以下が望ましい。
【0452】反強磁性膜の下地にあるMR向上層は、反
強磁性膜の格子間隔を適切な値にして、ピンCoFeと
反強磁性膜の界面での格子不整合に起因する界面ミキシ
ングを抑制するとともに、反強磁性膜自体の格子間隔を
適切な値に制御することによって、ピン特性自体も向上
させようとするものである。このときの具体的なMR向
上層として、Al−Cu、Pt−Cu、Rh−Cu、P
d−Cu、Ir−Cu、Ag−Pt、Ag−Pd、Ag
−Au、Au−Pt、Au−Pd、Au−Al、Ru−
Rh、Ru−Ir、Ru−Pt、Ru−Cu、Ag−A
uの組み合わせの積層膜、合金膜などが例として挙げら
れる。
【0453】個々の反強磁性膜に適したMR向上層とし
ては、Cu、Au、Ag、Pt、Rh、Ru、Pd、A
l、Ti、Zr、Hfから選ばれる2つの元素の積層
膜、合金膜が下地として効果を発揮する。ピン側だけの
効果を狙うならば反転構造スピンバルブ膜のフリー層の
上層に積層されたMR向上層はなくても構わない。さら
に、反強磁性膜の下地のMR向上層はピン膜構成が前述
のようなシンセティックアンチフェロ構造であっても構
わない。一例としてTa5nm/AuCu2nm/Ir
Mn7nm/CoFe3nm/Ru0.9nm/CoF
e3nm/Cu3nm/CoFe1nm/NiFe5n
m/Ta5nmなどがある。
【0454】また、Ta保護膜に代えて、Ti、Zr、
Cr、W、Hf、Nbなどを用いた場合についても同様
であった。 (実施例5)この実施例5では、Ta(5nm)/Au
Cu(2nm)/IrMn(7nm)/CoFe(2.
5nm)/AuCu(2.5nm)/CoFe(4n
m)/AuCu(2nm)/Ta(5nm)構造の反転
スピンバルブ膜を、実施例1と同様にして作製した。こ
こで、下側のCoFe層(磁化固着層)と上側のCoF
e層(感磁層)との間に配置されたAuCu層は、非磁
性中間層であると同時に、感磁層の磁歪を制御するMR
向上層である。
【0455】反転構造のスピンバルブ膜では、Cuなど
からなる非磁性中間層上に形成される感磁層のfcc−
d(111)が小さくなり、磁歪が大きくなってしま
う。これに対して、この実施例5のように、非磁性中間
層であると同時にMR向上層であるAuCu合金層上に
CoFe感磁層を積層形成することによって、CoFe
感磁層のfcc−d(111)スペーシングを適度な値
に調整することができ、これにより感磁層の磁歪を低減
することができる。
【0456】ところで、AuCu合金からなる非磁性中
間層では、CoFe層との界面でのスピン依存散乱がC
u単層の場合に比べて若干低下し、MR変化率が若干低
下するおそれがある。このような点は非磁性中間層に例
えばCu(0.8nm)/AuCu(0.8nm)/C
u(0.8nm)積層膜などを使用することで解決する
ことができる。
【0457】このような非磁性中間層であると同時にM
R向上層の使用は、反転構造のスピンバルブ膜に限ら
ず、通常のスピンバルブ膜やデュアルエレメントタイプ
のスピンバルブ膜に対しても有効である。デュアルエレ
メントタイプのスピンバルブ膜に非磁性中間層兼MR向
上層を使用した例としては、Ta(5nm)/AuCu
(2nm)/IrMn(7nm)/CoFe磁化固着層
(2.5nm)/AuCu非磁性中間層兼MR向上層
(2.5nm)/CoFe感磁層(3nm)/Cu
(2.5nm)/CoFe磁化固着層(2.5nm)/
IrMn(7nm)/Ta(5nm)構造が挙げられ
る。通常のスピンバルブ膜に非磁性中間層兼MR向上層
を使用した例としては、Ta(5nm)/AuCu(2
nm)/CoFe(4nm)/Cu(0.8nm)/A
uCu(0.8nm)/Cu(0.8nm)/CoFe
(2.5nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)
構造が挙げられる。
【0458】なお、反転構造のスピンバルブ膜およびデ
ュアルエレメントタイプのスピンバルブ膜においてIr
Mnなどの反強磁性膜の下地として用いたAuCu層の
効果などにより、CoFe感磁層のfcc−d(11
1)スペーシングが十分に制御されていれば、非磁性中
間層には一般的なCu層などを使用することができる。
【0459】反転構造のスピンバルブ膜およびデュアル
エレメントタイプのスピンバルブ膜の他の具体例として
は、Ta(5nm)/Au(1nm)/Cu(1nm)
/IrMn(7nm)/CoFe(2.5nm)/Ru
(0.9nm)/CoFe(3nm)/Cu(3nm)
/CoFe(4nm)/Ta(5nm)、Ta(5n
m)/Au(1nm)/Cu(1nm)IrMn(7n
m)/CoFe(2.5nm)/Cu(3nm)/Co
Fe(4nm)/Ta(5nm)、Ta(5nm)/A
u(1nm)/Cu(1nm)/IrMn(7nm)/
CoFe(2.5nm)/Ru(0.9nm)/CoF
e(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(2nm)/
NiFe(2nm)/Ta(5nm)、Ta(5nm)
/Au(1nm)/Cu(1nm)/IrMn(7n
m)/CoFe(2.5nm)/Cu(3nm)/Co
Fe(2nm)/NiFe(2nm)/Ta(5n
m)、Ta(5nm)/Au(1nm)/Cu(1n
m)/IrMn(7nm)/CoFe(3nm)/Cu
(3nm)/CoFe(3nm)/Cu(2nm)/C
oFe(3nm)/IrMn(7nm)/Ta(5n
m)、Ta(5nm)/Au(1nm)/Cu(1n
m)/IrMn(7nm)/CoFe(3nm)/Cu
(3nm)/CoFe(1nm)/NiFe(2nm)
/CoFe(1nm)/Cu(3nm)/CoFe(3
nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)、Ta
(5nm)/Au(1nm)/Cu(1nm)/IrM
n(7nm)/CoFe(2.5nm)/Ru(0.9
nm)/CoFe(3nm)/Cu(3nm)/CoF
e(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(3nm)/
Ru(0.9nm)/CoFe(2.5nm)/IrM
n(7nm)/Ta(5nm)、Ta(5nm)/Au
(1nm)/Cu(1nm)/IrMn(7nm)/C
oFe(2.5nm)/Ru(0.9nm)/CoFe
(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(1nm)/N
iFe(2nm)/CoFe(1nm)/Cu(3n
m)/CoFe(3nm)/Ru(0.9nm)/Co
Fe(2.5nm)/IrMn(7nm)/Ta(5n
m)などが挙げられる。上記したAu/Cu下地に代え
て前述したような各種積層膜や合金層を用いることがで
きる。
【0460】他の構造例としては、基板/Ta(5nm)/IrMn
(7nm)/CoFe(2.5nm)/Ru(0.9nm)/CoFe(3nm)/Cu(3nm)/CoFe
(2.5nm)/MR向上層/CoFe(2.5nm)/Cu(3nm)/CoFe(3nm)/R
u(0.9nm)/CoFe(2.5nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)が挙げられ
る。この構造ではCoFe/MR向上層/CoFeがフ
リー層であり、強磁性的に結合している。
【0461】また、上述した各実施例では反強磁性膜に
IrMnを使用した例に付いて説明したが、NiMn、
PtMn、PdPtMn、RuRhMn、CrMn、N
iOなど、種々の反強磁性材料を用いた場合において
も、同様の効果を得ることができる。
【0462】さらに、上述のように磁化固着層に例えば
CoFe/Ru/CoFe/IrMn、のような反強磁
性カップリング(Ruを介したCoFe同士の反強磁性
カップリング)などを用いたスピンバルブ膜においても
本発明は効果を発揮する。上記したような積層膜におい
て、ある膜厚で反強磁性的な結合をする。
【0463】この場合、中間層を本発明のMR向上層と
することができる。例えばCoFe(2.5nm)/A
uCu(1nm)/CoFe(2nm)/IrMn(反
強磁性カップリング)、IrMn/CoFe(2nm)
/AuCu(1nm)/CoFe(2nm)(反強磁性
カップリング)などであり、またCoFe(1nm)/
AuCu(0.5nm)/CoFe(2nm)/IrM
n(7nm)のように、強磁性カップリングを適用する
こともできる。磁化固着層の中間に配置されたAuCu
層などは、両側の磁性層を反強磁性的に結合させ、さら
に鏡面反射効果をもたらすと同時にIrMnなどの格子
を安定に保ち、スピンバルブ膜の耐熱性およびMR特性
を向上させるものである。このような場合のMR向上層
の膜厚は0.5〜2nmの範囲とすることが好ましい。 (実施例6)耐熱性の悪化の原因となる通常の結晶粒界
はほとんどなく、完全単結晶ではないにしても、粒界が
存在したとしても小傾角粒界のような耐熱性に優れた結
晶構造を実現するための手段としても、Au/Cuなど
の積層膜や合金層からなるMR向上層は有効である。そ
の一例として、熱酸化シリコン基板/Ta(5nm)/
Au(1nm)/Cu(1nm)/CoFe(3nm)
/Cu(3nm)/CoFe(2nm)/IrMn(7
nm)/Ta(5nm)の構造を、断面TEMとディフ
ラクションパターンにより評価した。ディフラクション
パターンのスポット径は、積層膜の膜厚方向全ての領域
が含まれるような大きさとした。より詳細に調べるため
には、スポット径をさらに絞ったマイクロディフラクシ
ョンでもかまわない。
【0464】ディフラクションパターンから、1μm以
上の領域にわたって全てほぼ単一結晶構造の回折パター
ンが得られ、単結晶に近い構造を得られていることが分
かった。Ta下地、保護膜を除く他は膜はfcc(11
1)配向している。回折パターンで中心点から半径Rの
若干異なる点にスポットが見えた。これは、IrMnと
CoFe/Cu/CoFeとではfcc(111)スペ
ーシングの大きさが異なるからである。格子像を見ても
非常にきれいなfcc(111)配向ができていること
が確認できた。横方向での格子点が若干不連続になって
いるところがたまに見られた。回折パターンは全ての領
域でほぼ単一のスポットしかでていないことから、上記
した格子不連続は小傾角粒界のようなサブグレインバウ
ンダリであると思われる。
【0465】このような単結晶に近い構造は、MR変化
率、磁気特性の耐熱性に優れているだけでなく、電子の
散乱の原因となる結晶粒界がほとんど存在しなくなるの
で、電子の平均自由行程も長くなり、MR変化率の絶対
値を上昇させることにもなり、望ましい膜構造である。
このような単結晶に近い構造を、熱酸化シリコン、アモ
ルファスアルミナのようなアモルファス基板上で得る技
術も本発明の特徴の一つである。ここでは熱酸化シリコ
ン基板を用いたが、実際のヘッドで通常用いられている
AlTiC基板上のアモルファスAlOx膜上や、その
他の酸化物系アモルファス膜、窒化物系アモルファス
膜、ダイヤモンドライクカーボン上でも構わない。
【0466】この実施例におけるAuの下地のTaは必
ずしもTaでなくてもよいが、何らかの下地バッファ層
は必要である。Auを直接熱酸化シリコン基板上に成膜
しても、本発明のような単結晶に近い結晶構造の膜は得
られない。Ta以外の材料としては、Ti、W、Zr、
Mo、Hfやそれらを含む合金などを用いることができ
る。Ta/Au/Cu下地膜の場合には、TaとAuは
合金を形成するため、Auが成膜されたときのAuのア
イランド成長が妨げられ、二次成長しやすくなる。つま
り、結晶粒としての凝集力よりも基板側との結合力が勝
ることが膜成長によい影響を及ぼす。
【0467】また、Ta/Au/Cuのような下地膜構
成でも単結晶ライクな成長を促すのに効果がある。この
場合のように、合金を形成する材料を積層膜にする場合
もAuが成膜されるときにCu上にそのまま結晶粒を保
ったまま成長するのではなく、下地との結合が大きくな
って単結晶的な粒を形成する。このような構造は、Ta
(5nm)/Cu(2nm)/CoFe(4nm)/C
u(3nm)/CoFe(2nm)/IrMn(7n
m)/Ta(5nm)のように、単純なTa/Cu下地
では得られない。
【0468】良好に実現する他の構造としては、実施例
1のときと同様に、磁性層がCo系の膜の場合、Al−
Cu、Pt−Cu、Rh−Cu、Pd−Cu、Ir−C
u、Ag−Pt、Ag−Pd、Ag−Au、Au−P
t、Au−Pd、Au−Alの積層膜または合金膜が挙
げられる。積層膜の場合、繰り返し層数は2層以上であ
ればいくつであっても構わない。また、磁性層がNi系
の膜の場合、Au−Pt、Au−Pd、Au−Ag、A
u−Al、Ag−Pt、Ag−Pd、Ru−Rh、Ru
−Ir、Ru−Ptの組み合わせの積層膜、合金膜など
が挙げられる。Co系のときと全く同様に、積層膜の層
数は2層以上であれば何層であっても構わない。以上の
ような二つの金属の組み合わせのうち、固溶範囲が広い
Au−Cu、Ag−Pt、Au−Pd、Au−Ag、P
t−Cuなどがある。また、固溶な組み合わせでなくて
も、Ru−Cu、Ag−Cuのような組み合わせの積層
膜もある。
【0469】他の構造として、Ta/Cu/Au/Cu
下地、Ta/Pt/Cu下地、Ta/Cu/Pt下地、
Ta/Rh/Cu下地、Ta/Cu/Rh下地、TA/
Pd/Cu下地、Ta/Cu/Pd下地などが挙げられ
る。これらの材料でTaなどのバッファ層上の積層回数
を増やしてもよい。また、Taの代わりにTi、W、Z
r、Mo、Hfやそれらを含む合金などを用いることが
できる。fcc金属層の部分はシャント分流によるMR
変化率の減少を防ぐため、抵抗を上げる元素を添加しな
い場合には、あまり厚くない方が好ましい。また逆に薄
すぎるとfccのシード層としての効果が薄れてしまう
ため、あまり薄すぎないほうが好ましい。具体的には、
Taなどの下地バッファ層を除いた下地シード層の膜厚
は2〜5nm程度が好ましい。ただし、添加元素などに
より下地シード層の抵抗が上昇してシャント分流の心配
が低減した場合には5nm以上としてもよい。
【0470】また、上記のような合金を形成するfcc
金属の積層膜に代えて、fccを形成する前述の組み合
わせの他に、それらにさらに添加元素を加えた合金が挙
げられる。他には、Cuの代わりにNiとの合金で非磁
性のfcc合金として、PtNi合金(Pt26at%
よりもPtリッチが好ましい)、RhNi合金、PdN
i合金(ほとんどの組成で磁性をもつため、第三元素の
添加が好ましい)IrNi合金(Ir12at%よりも
Irリッチが好ましい)などが挙げられる。これらの合
金の場合にもTaバッファの代わりにTi、W、Zr、
Mo、Hfやそれらを含む合金などを用いることができ
る。また、fcc合金膜の膜厚は上記の積層膜の場合と
同様に2〜5nm程度が好ましい。添加元素などにより
抵抗が上昇した場合には5nm以上としてもよい。
【0471】上述したような構成の具体例としては、T
a(5nm)/Pt(1nm)/Cu(1nm)/Co
Fe(2〜8nm)/Cu(3nm)/CoFe(2.
5nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)、Ta
(5nm)/PtCu(2nm)/CoFe(2〜8n
m)/Cu(3nm)/CoFe(2.5nm)/Ir
Mn(7nm)/Ta(5nm)、Ta(5nm)/A
u(1nm)/Cu(1nm)/IrMn(7nm)/
CoFe(3nm)/Ru(1nm)/CoFe(3n
m)/Cu(3nm)/CoFe(1nm)/NiFe
(5nm)/Ta(5nm)、Ta(5nm)/Au
(1nm)/Cu(1nm)/IrMn(7nm)/C
oFe(2.5nm)/Cu(3nm)/CoFe(1
nm)/NiFe(5nm)/Ta(5nm)、Ta
(5nm)/Au(1nm)/Cu(1nm)/IrM
n(7nm)/CoFe(3nm)/Ru(1nm)/
CoFe(3nm)/Cu(3nm)/CoFe(4n
m)/Ta(5nm)、Ta(5nm)/Au(1n
m)/Cu(1nm)/IrMn(7nm)/CoFe
(3nm)/Ru(1nm)/CoFe(3nm)/C
u(3nm)/CoFe(4nm)/Cu(3nm)/
CoFe(3nm)/Ru(1nm)/CoFe(3n
m)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)、Ta(5
nm)/AuCu(2nm)/IrMn(7nm)/C
oFe(3nm)/Ru(1nm)/CoFe(3n
m)/Cu(3nm)/CoFe(4nm)/Cu(3
nm)/CoFe(3nm)/Ru(1nm)/CoF
e(3nm)/IrMn(7nm)/Ta(5nm)な
どが挙げられる。 (実施例7)これまでのようなMR向上層は図49のよ
うな人工格子センサの場合にも適用できる。この場合、
Coを含む膜、Niを含む膜のような磁性層71と、非
磁性層72との積層層数はスピンバルブ膜よりも多くな
る。このときに最上層もしくは最下層の磁性層に接しさ
せてMR向上層73を配置させる。具体的な材料の考え
方は実施例1のときなどと全く同様である。
【0472】以上、具体例を参照しつつ本発明の第1〜
第7の実施の形態について説明した。しかし、本発明
は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0473】例えば、図50〜図52は、本発明のさら
なる変型例を表す概念図である。
【0474】すなわち、図50は、ABS(エア・ベア
リング・サーフェース)から見たスピンバルブ素子部の
断面を示すものであり、図51は、ギャップ膜やシール
ド膜を除いたスピンバルブ素子の斜視図である。
【0475】アルチック基板10に下シールド11(N
iFe、Co系アモルファス磁性合金、FeAlSi合
金など、厚み:0.5〜3μm、NiFeやFeAlS
i合金では研磨により表面凹凸をシンセティックピン層
の中間磁気結合層の厚み以下まで除去することが望まし
い)、下ギャップ膜12(アルミナや窒化アルミなど)
を形成し、その上にスピンバルブ素子13を形成する。
スピンバルブ素子13はスピンバルブ膜14と一対の縦
バイアス膜15および一対の電極16から構成される。
スピンバルブ膜14は、実施例4に示したボトム型のS
Vから形成される。すなわち、Ta、Nb、Zr、Hf
等の非磁性下地層141(厚み:1〜10nm)、必要
に応じてRuやNiFeCrなどの第2の下地層142
(厚み:0.5〜5nm)、反強磁性層143、強磁性
層/磁気結合層/強磁性層からなるシンセテックピン層
144、非磁性スペーサ145、フリー層146、高電
気伝導層147、必要に応じて保護膜148(0.5〜
10nm)から構成される。その上に上ギャップ層17
(アルミナや窒化アルミなど)、上シールド18(Ni
Fe、Co系アモルファス磁性合金、FeAlSi合金
など、厚み:0.5〜3μm )が形成される。図示し
ていないが、さらにその上に記録部が形成される。 ス
ピンバルブ素子13は、スピンバルブ膜14のトラック
幅端部を除去してそこに縦バイアス層15を形成したい
わゆるアバットジャンクションタイプの素子構造からな
る。縦バイアス層15には硬質磁性膜(Cr,FeCo
などの下地の上に形成したCoPtやCoPtCrな
ど)或いは強磁性層151と反強磁性膜152を順次積
層して強磁性層をハード化したものが用いられる。先に
反強磁性膜152を成膜して次に強磁性膜151を成膜
しても良い。今後の狭トラックに対応して、トラック幅
端での急峻な再生感度プロファイルを得るには、磁化自
由層に対する縦バイアス強磁性層(硬質磁性層または反
強磁性膜で交換結合バイアスされた強磁性層)の磁気膜
厚比、Ms*t(縦バイアス)/Ms*t(フリー)を7
以下、望ましくは5以下に設定する。磁化自由層が4.
5nm厚以下(磁気膜厚比:5nmT以下)にまで薄く
なると、 Ms*t(縦バイアス)/Ms*t(フリー)
≦5を満足するために、縦バイアス強磁性層も非常に薄
くなる(磁気膜厚比で25nmT以下)。
【0476】一般に、硬質磁性膜では膜厚が薄くなると
高保磁力が得難くなるが、一方、強磁性膜/反強磁性膜
タイプの縦バイアス層では強磁性膜151が薄くなるほ
ど交換バイアス磁界が増大して固着が強固となるので、
強磁性膜151/反強磁性膜152タイプの縦バイアス
層が望ましい。さらに、強磁性膜151/反強磁性膜1
52の縦バイアス層では、強磁性層151の飽和磁化は
フリー層の飽和磁化と概ね同様かそれ以上のものが完全
なBHN(バルクハウゼンノイズ)除去をなるべく小さ
な縦バイアス磁界で実現するのに好ましい。すなわちN
iFe合金でも良いがCoFeやCo等のより飽和磁化
が大きなものが望ましい。飽和磁化が小さな強磁性膜1
51を用いてその膜厚増大により漏洩磁界を強めてBH
N除去を実現すると、特に狭いトラック幅になると再生
出力低下を引き起こす。
【0477】なお、図50ではスピンバルブ膜14を全
てエッチング除去しないで反強磁性層143を残して縦
バイアス層を形成した場合を示したが、下地層141ま
でエッチング除去しても良い。反強磁性層143を残し
てその上に縦バイアス層15を形成すると縦バイアス層
とスピンバルブ膜との電気的接触が良くなる利点を有す
る。電極16が縦バイアス層15の間隔と概ね等しい一
般的なアバットジャンクションでは、電極とスピンバル
ブ膜がダイレクトに面接触できないので反強磁性膜14
3を残すメリットが大きい。なお、反強磁性膜の上のピ
ン層144は完全に除去してその上に縦バイアス層を形
成することが望ましい。その理由は、後述するようにピ
ン層144の磁化と縦バイアス層15の磁化の方向は概
ね直交させることが必要なので、そうするとピン層14
4とその上の縦バイアス層15との磁気相互作用により
縦バイアス層の磁化が不安定になるためである。或い
は、高導電層147まではエッチング除去してフリー層
を完全に除去すること無く、その上縦バイアス層を形成
しても良い。
【0478】また、結晶性改善のために、或いは反強磁
性層143と縦バイアス層15との磁気結合を弱めるた
めに、強磁性層151の下に下地層142と同様な極薄
い下地層153を設けても良い。強磁性層と強磁性層の
間には、僅かな厚みの非磁性層が存在しても磁気結合が
発生し易いが、反強磁性層と強磁性層の間では僅かでも
非磁性層が存在するともやは磁気結合を生じない。縦バ
イアス層からのバイアス磁界を有効にフリー層に加える
ために、下地層153の厚みは10nm以下が望まし
い。硬質磁性膜を用いる場合にも同様にフリー層と硬質
磁性膜の飽和磁化を揃えることが望ましいが、CoFe
などの高飽和磁化フリー層に匹敵する高飽和磁化硬質磁
性膜を作製することは通常困難である。
【0479】そこで、硬質磁性膜の下地にFeCoのよ
うなCoFeに匹敵する高飽和磁化の下地を用いてフリ
ー層との飽和磁化のバランスを保つことが、小さな縦バ
イアス磁界でBHNを除去するのに適する。反強磁性膜
152にはスピンバルブ膜に用いたものと同様な反強磁
性膜材料を用いることが出来る。
【0480】しかし、スピンバルブの反強磁性層と縦バ
イアス層の反強磁性膜152の交換バイアス方向は直交
させる必要がある(スピンバルブ膜の反強磁性層の交換
バイアス方向は素子幅(ハイト)方向、縦バイアス層の
反強磁性膜152の交換バイアス方向はトラック幅方
向)。
【0481】そこで、例えば、両者の反強磁性膜のブロ
ッキング温度Tbを変えて、最初に高Tb側の反強磁性
膜の交換バイアス方向を熱処理により規定して、それよ
り低い温度で尚且つ最初にTbを規定した反強磁性膜の
交換バイアスにより固着された強磁性膜の磁化方向が安
定な温度近傍にもう一方の反強磁性膜のTbを設定する
ことにより、両反強磁性膜の交換バイアスの直交化が実
現できる。反強磁性層152の交換バイアス付与には、
磁界中成膜(IrMn、RhMnなどを用いる)や記録
部形成における200〜250℃のレジストキュアー熱
処理工程(PtMn,PdPtMn,IrMnなどを用
いる)を利用することが望ましい。スピンバルブ膜の反
強磁性層にはそれよりTbが高い反強磁性膜(IrM
n,PtMn,PdPtMn等)を用いると、レジスト
キュアー熱処理工程にてスピンバルブ膜のピン層磁化の
方向を乱すことなく反強磁性膜152の交換バイアス方
向をトラック幅方向に規定できる。
【0482】従来の単層ピン層スピンバルブでは反強磁
性膜152の交換バイアス付与熱処理をかなり下げない
とピン層固着の交換バイアス磁界方向が乱れてしまい実
用困難であったが、ブロッキング温度以下でピン磁化の
耐熱性が急激に安定するシンセティックピン層の性質を
利用すると、両反強磁性膜間の数十℃程度の僅かなブロ
ッキング温度の差でも良好な縦バイアスとピン層磁化の
直交化が可能になる。なお、反強磁性層152に規則化
系反強磁性膜PtMnやPdPtMnを用いる場合は、
レジストキュアー温度(200〜250℃)で規則化を
生じる反強磁性膜が好ましい。
【0483】電極16の間隔LDは、縦バイアス層の間
隔HMDよりも狭いことが、再生素子抵抗を下げてES
Dに強いヘッドを実現するために好ましい。LDは再生
トラックを概ね規定するので、本発明が狙う高密度記録
(10Gbpsi以上)では0.1〜0.7μmのサブ
ミクロン幅となる。一方、HMDはLDよりもおよそ
0.3〜1μm広めることにより、狭トラック幅でもハ
ード膜磁界の影響が少なく急峻なトラック幅方向感度プ
ロファイルが実現でき、高感度な再生が可能になる。さ
らに、HD(素子幅)>LD且つHMD>HDとするこ
により、電極間のスピンバルブ素子抵抗が低減できて、
合わせてスピンバルブ感磁部の形状がトラック幅方向に
長い長方形状となるのでバルクハウゼンノイズ抑制が容
易となる。具体的には、素子幅HDは0.4μm程度が
耐ESDを考えると望ましく、電極間隔を0.4μm以
下に狭めた狭トラック幅再生ではハード膜間隔HMDを
0.8μm程度に広げることが望ましい。
【0484】図50においてフリー層の膜厚中心から上
シールド表面までの間隔をgf、下シールド表面までの
間隔をgpとすると、フリー層に加わる電流磁界Hcu
を弱めるためには、gf<gpとすることが望ましい。
これは、フリー層が下シールドよりも上シールドに近い
ので、フリー層は下シールドからの磁界の影響を強く受
け、なお且つセンス電流の流れる中心が非磁性スペーサ
145側に存在するのでフリー層にはセンス電流磁界方
向と逆方向に下シールドからの磁界(センス電流により
シールドが磁化されるために発生)が加わるためである
(図50参照)。 センス電流磁界が弱まると、より大
きなセンス電流が投入でき、より高い再生出力および良
好なBP、すなわち上下再生波形の非対称性が小さな再
生波形が得られる。具体的には、gpは35〜80n
m、gfは25〜50nmとしてgf<gpとすると、
ギャップの絶縁性も保ってなお且つトータル再生ギャッ
プ長も60〜130nmの著しい狭ギャップが実現でき
る。
【0485】図52は、図1や図5などに例示したトッ
プ型のスピンバルブ膜に適するヘッドの一実施例を示す
概念図である。図50と異なるところは、縦バイアス層
15はスピンバルブ膜を全部エッチング除去した後に下
ギャップ膜12上に形成される点である。さらに、フリ
ー層膜厚中心と下シールド表面との間隔gfが上シール
ド表面との間隔gpよりも小さいことが望ましい。これ
は、フリー層が上シールドよりも下シールドに近いので
フリー層は下シールドからの磁界の影響を強く受け、な
お且つセンス電流の流れる中心が非磁性スペーサ145
側に存在するのでフリー層にはセンス電流磁界方向と逆
方向に下シールドからの磁界(センス電流によりシール
ドが磁化されるために発生)が加わるためである。セン
ス電流磁界が弱まると、より大きなセンス電流が投入で
き、より高い再生出力および良好なBP、すなわち上下
再生波形の非対称性が小さな再生波形が得られる。具体
的には、gpは35〜80nm、gfは25〜50nm
としてgf<gpとすると、ギャップの絶縁性も保って
なお且つトータル再生ギャップ長も60〜130nmの
著しい狭ギャップが実現できる。
【0486】また、本発明による磁気抵抗効果素子の膜
構成は、種々の分析手法により同定可能である。
【0487】図53は、本発明による磁気抵抗効果素子
を用いた磁気ヘッドの膜断面におけるナノEDX分析の
結果を示すグラフ図である。例えば、断面TEM(tran
smission electron microscopy)観察用のサンプルを作
製し、その膜断面に対して直径約1nmのビームを用い
たナノEDXにより、磁気抵抗効果素子を構成している
材料、および膜厚を特定することができる。測定限界お
よび熱処理による界面拡散の影響を適宜考慮することに
よって、膜構成を概ね再現することができる。特に、図
53からも分かるように、フリー層とスペーサCuの界
面、およびフリー層と非磁性高導電層のCuとの界面は
比較的シャープであり膜厚を特定しやすい。
【0488】膜厚決定の定義としては、所望の膜を構成
している主元素の材料のピークの半値幅を膜厚とするこ
とができる。例えば、スペーサCuと下地非磁性高導電
層のCuについてはシャープなピークなため膜厚を決定
しやすいので、フリー層の膜厚は上下のCu層に挟まれ
た領域をフリー層膜厚とする。図53の例では、スペー
サCuは2.4nm、非磁性高導電層は2nmと求ま
り、その両者のCuに挟まれたフリー層のトータル膜厚
は4.1nmとすることができる。このフリー層膜厚は
所望のフリー層膜厚3.7nmをほぼ再現した値であ
る。このような分析手法によりスピンバルブ膜の膜構成
は概ねわかり、スペーサ層、非磁性高導電層、フリー層
については極薄の膜厚についても比較的正確に測定する
ことができる。
【0489】
【発明の効果】本発明は、以上説明した形態で実施さ
れ、以下に説明する効果を奏する。
【0490】まず、本発明によれば、前述した第1の実
施の形態を適用することによって、従来スピンバルブ膜
を単純にフリー層を薄膜化するだけでは達成できなかっ
た、良好なバイアスポイント、および高MR、高ΔRs
を実現し、かつ製造ばらつきに対しても広いマージンを
もつ、次世代スピンバルブ膜が得られる。
【0491】また、本発明によれば、前述した第2乃至
第6の実施の形態を適用することによって、今後ハード
ディスクドライブの高密度記録化に伴って、ドライブに
おける動作時に磁気ヘッドの温度が例え200℃前後で
あっても、磁化固着層が安定であり、また静電放電電流
が磁気抵抗効果ヘッドのGMR素子に流入しても磁化固
着層の磁化固着が乱されることがなく安定である。また
センス電流の分流が小さいためGMR素子として高い抵
抗変化率が保たれて再生感度が確保されるので、より一
層の高密度の記録が可能になり、高い再生出力を得るこ
とができる。
【0492】さらに、本発明によれば、前述した第7の
実施の形態を適用することによって、MR向上層により
初期プロセスアニール劣化を抑制することができると同
時に、鏡面反射効果によりMR変化率の向上を図ること
ができる。また、フリー層が薄い場合においては、MR
向上層とフリー層の界面を安定な界面にすることができ
るので、熱処理を行った後でも、その界面において電子
の透過率を高いまま維持でき、高いMR変化率を保つこ
とができる。さらに、例えばCo系磁性材料からなる感
磁層をMR向上層により低磁歪化したり、また結晶微細
構造を制御することができる。これらによって、高出
力、低ノイズ、高耐熱性の磁気抵抗効果素子を提供する
ことが可能となる。
【0493】以上詳述したように、本発明によれば、高
性能且つ高信頼性を有する磁気抵抗効果素子を実現する
ことが可能となり産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気抵抗効果素子の断面構成を表す概
念図である。
【図2】本発明のスピンバルブ膜においてえられるトラ
ンスファーカーブの概略図である。
【図3】フリー層に接しているスペーサとは反対側の高
導電層Cuの膜厚に対するフリー層に加わる電流磁界H
cuの関係を表すグラフ図である。
【図4】アシメトリが−10%〜+10%、つまり、バ
イアスポイント30%〜50%を実現するためのシンセ
ティックAFのピン層厚と、非磁性高導電層厚との具体
的な範囲を表したグラフ図である。
【図5】本発明の一実施例の磁気抵抗効果素子の具体的
な膜構成を示す概念図である。
【図6】本発明の一実施例にかかるスピンバルブ膜構成
を表す概念図である。
【図7】従来の磁気抵抗効果素子が有する2つの問題を
説明するための概念図である。
【図8】計算上のバイアスポイント値とヘッドの再生信
号波形の関係を示すグラフ図である。
【図9】各磁界の関係を表す説明図である。
【図10】各層を流れる電流分流I1〜I3を表す概念図
である。
【図11】比較例におけるバイアスポイントの状態を表
す概念図である。
【図12】トランスファーカーブでみたときのHin、H
pin、Hcuの大きさとバイアスポイントとの関係を表し
た概念図である。
【図13】比較例におけるバイアスポイントの決定要素
の関係を表す概念図である。
【図14】比較例におけるバイアスポイントの決定要素
の関係を表す概念図である。
【図15】各比較例のスピンバルブ膜と本発明によるス
ピンバルブ膜のバイアスポイントのフリー層厚依存性を
比較しつつ表したグラフ図である。
【図16】比較例1〜4の構造において、フリー層のM
s*tだけを小さくした時にMR変化率がどのように変
化するかを表したグラフ図である。
【図17】本発明の磁気抵抗効果ヘッドの一実施形態を
示す図である。
【図18】外部磁界に対するスピンバルブ膜の抵抗値の
変化と、交換バイアス磁界HUA*を示す模式図である。
【図19】模擬バイアス磁界を与えた場合の経過時間と
磁化固着層の磁化の動いた角度との関係を示す図。
【図20】反強磁性層の最密面からの回析線ピークのロ
ッキングカーブ半値幅を示す図。
【図21】磁気結合層に、Ruを用いた場合の熱処理後
のRu厚と反強磁性結合の低下度合の関係を残留磁化比
Mr/Msによって示した図である。
【図22】スピンバルブ膜の磁界に対する抵抗値の変化
を示す図である。
【図23】強磁性層Aと強磁性層Bの膜厚を異ならせる
ことによって、磁界による抵抗変化が相違することを示
す図である。
【図24】スピンバルブ素子にヒューマンボディモデル
による模擬のESD電圧を与えた後の抵抗と出力を示す
図である。
【図25】スピンバルブ素子にヒューマンボディモデル
による模擬のESD電圧を与えた後の抵抗と出力を示す
図である。
【図26】スピンバルブ素子の漏洩磁界を示す図であ
る。
【図27】本発明の磁気抵抗効果ヘッドの他の一実施形
態を示す図である。
【図28】本発明の磁気抵抗効果ヘッドのさらに他の一
実施形態を示す図である。
【図29】本発明の磁気抵抗効果ヘッドのさらに他の一
実施形態を示す図である。
【図30】本発明の磁気抵抗効果ヘッドのさらに他の一
実施形態を示す図である。
【図31】本発明の磁気抵抗効果ヘッドのさらに他の一
実施形態を示す図である。
【図32】本発明の磁気抵抗効果素子の第1の実施形態
の要部構造を示す断面図である。
【図33】図32に示す磁気抵抗効果素子の変形例を示
す断面図である。
【図34】図32に示す磁気抵抗効果素子の他の変形例
を示す断面図である。
【図35】従来のスピンバルブ膜の熱プロセスによるM
R変化率の低下モデルを示す図である。
【図36】金属膜/金属膜界面で鏡面反射効果が得られ
ることを説明するための図である。
【図37】反射膜のフェルミ波長およびそれと接するG
MR膜のフェルミ波長の比と臨界角度θc との関係の一
例を示す図である。
【図38】Au(Ag)/Cu界面で鏡面反射を起こす
臨界角度θc をフェルミ波長から算出した結果を示す図
である。
【図39】図32に示す磁気抵抗効果素子のさらに他の
変形例を示す断面図である。
【図40】図39に示す磁気抵抗効果素子の変形例を示
す断面図である。
【図41】本発明の磁気抵抗効果素子の第2の実施形態
の要部構造を示す断面図である。
【図42】図41に示す磁気抵抗効果素子の変形例を示
す断面図である。
【図43】本発明の磁気抵抗効果素子の第3の実施形態
の要部構造を示す断面図である。
【図44】本発明の磁気抵抗効果素子を適用した録再分
離型磁気ヘッドの第1の実施形態の構造を示す断面図で
ある。
【図45】本発明の磁気抵抗効果素子を適用した録再分
離型磁気ヘッドの第2の実施形態の構造を示す断面図で
ある。
【図46】本発明の録再分離型磁気ヘッドを適用した磁
気ヘッドアッセンブリの一実施形態の構造を示す斜視図
である。
【図47】本発明の録再分離型磁気ヘッドを適用した磁
気ディスク装置の一実施形態の構造を示す斜視図であ
る。
【図48】本発明の実施例1で作製したスピンバルブ膜
のXRDパターンを示す図である。
【図49】本発明の磁気抵抗効果素子を人工格子膜に適
用した実施例の要部構造を示す断面図である。
【図50】ABS(エア・ベアリング・サーフェース)
から見たスピンバルブ素子部の断面を示す概念図であ
る。
【図51】ギャップ膜やシールド膜を除いたスピンバル
ブ素子の斜視図である。
【図52】図1や図5などに例示したトップ型のスピン
バルブ膜に適するヘッドの一実施例を示す概念図であ
る。
【図53】本発明による磁気抵抗効果素子を用いた磁気
ヘッドの膜断面におけるナノEDX分析の結果を示すグ
ラフ図である。
【符号の説明】
1 感磁層 2 磁化固着層 3 非磁性中間層 4 MR向上層 4a,4b 金属膜 4c 合金層 5 非磁性下地層 6 反強磁性層 7 保護層 8 スピンバルブ膜 10 基板 11,18 シールド 12,17 ギャップ膜 13 スピンバルブ素子 14 スピンバルブ膜 15 縦バイアス膜 16 電極 141,142 非磁性下地層 143 反強磁性層 144 磁化固着層 145 中間層 146 磁化自由層 147 保護膜 151 強磁性膜 152 反強磁性膜 153 下地層 1441 強磁性層B 1442 磁気結合層 1443 強磁性層A
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI H01F 10/26 H01F 10/26 10/30 10/30 10/32 10/32 H01L 43/08 H01L 43/08 Z (72)発明者 中 村 新 一 神奈川県横浜市磯子区新杉田町8番地 株式会社東芝 横浜事業所内 (72)発明者 吉 川 将 寿 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地 株式 会社東芝 川崎事業所内 (72)発明者 橋 本 進 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地 株式 会社東芝 川崎事業所内 (72)発明者 佐 橋 政 司 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地 株式 会社東芝 川崎事業所内 (72)発明者 岩 崎 仁 志 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地 株式 会社東芝 川崎事業所内 (72)発明者 斉 藤 和 浩 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地 株式 会社東芝 川崎事業所内 (72)発明者 福 家 ひろみ 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地 株式 会社東芝 川崎事業所内 (56)参考文献 特開2000−137906(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G11B 5/39 H01F 10/06 H01F 10/12 H01F 10/14 H01F 10/16 H01F 10/26 H01F 10/30 H01F 10/32 H01L 43/08

Claims (20)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】非磁性スペーサ層と、前記非磁性体スペー
    サ層によって互いに分離された第1の強磁性体層と第2
    の強磁性体層と、 を備え、 前記第1の強磁性体層は、印加磁界がゼロの時に前記第
    2の強磁性体層の磁化方向に対してある角度を成す磁化
    方向を有する磁気抵抗効果素子であって、 前記第1の強磁性体層と前記非磁性スペーサ層とが接す
    る膜面と反対側の面にて第1の強磁性体層に接する非磁
    性高導電層を有し、さらに、 比抵抗10μΩcmのCuに換算した前記非磁性高導電
    層の膜厚をt(HCL)、前記第2の強磁性体層の膜厚
    を1Tの飽和磁化で換算した磁気膜厚をtm(pin)
    としたときに、 0.5nm≦tm(pin)+t(HCL)≦4nm、
    且つt(HCL)≧0 .5nmを満足することを特徴とする磁気抵抗効果素
    子。
  2. 【請求項2】前記非磁性高導電層は、バルク状態の室温
    での比抵抗の値が10μΩcm以下である元素を含有す
    ることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
  3. 【請求項3】正信号磁界における再生出力の絶対値V1
    と、負信号磁界における再生出力の絶対値V2とにより
    表される波形非対称性(V1−V2)/(V1+V2)
    が、マイナス0.1以上プラス0.1以下となるよう
    に、前記非磁性高導電層の膜厚と前記第2の強磁性体層
    の膜厚とを設定したことを特徴とする請求項1記載の磁
    気抵抗効果素子。
  4. 【請求項4】前記第1の強磁性体層の膜厚は0.5nm
    以上4.5nm以下であることを特徴とする請求項1記
    載の磁気抵抗効果素子。
  5. 【請求項5】前記第1の強磁性体層は、ニッケル鉄(N
    iFe)を含む合金層とコバルト(Co)を含む層との
    積層膜からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれ
    か1つに記載の磁気抵抗効果素子。
  6. 【請求項6】前記第1の強磁性体層は、コバルト鉄(C
    oFe)を含む合金層からなることを特徴とする請求項
    1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
  7. 【請求項7】前記非磁性高導電層は、銅(Cu)、金
    (Au)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、イリジウ
    ム(Ir)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、白
    金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(A
    l)、オスミウム(Os)及びニッケル(Ni)よりな
    る群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む金属
    膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つ
    に記載の磁気抵抗効果素子。
  8. 【請求項8】前記非磁性高導電層は、少なくとも2層以
    上の膜を積層した積層膜から形成されることを特徴とす
    る請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素
    子。
  9. 【請求項9】前記積層膜のうちで前記第1の強磁性体層
    に接する膜が銅(Cu)を含むことを特徴とする請求項
    8記載の磁気抵抗効果素子。
  10. 【請求項10】前記積層膜のうちで前記第1の強磁性体
    層に接しない膜が、ルテニウム(Ru)、レニウム(R
    e)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金
    (Pt)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)
    よりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含むこ
    とを特徴とする請求項9記載の磁気抵抗効果素子。
  11. 【請求項11】前記非磁性高導電層と前記第1の強磁性
    層との接する界面において、前記非磁性高導電層を主に
    構成する元素と、前記第1の強磁性層を主に構成する元
    素とが互いに非固溶な関係にあることを特徴とする請求
    項1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
  12. 【請求項12】前記第2の強磁性体層の磁化を所望の方
    向に維持する反強磁性層をさらに備え、 前記反強磁性体層の材料として、XzMn1−z(ここ
    でXは、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロ
    ジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及
    びレニウム(Re)よりなる群から選ばれる少なくとも
    一種の元素とし、組成比zは、5原子%以上40原子%
    以下である)を用いたことを特徴とする請求項1〜4の
    いずれ1つに記載の磁気抵抗効果素子。
  13. 【請求項13】前記第2の強磁性体層の磁化を所望の方
    向に維持する反強磁性層をさらに備え、 前記反強磁性層の材料として、XzMn1−z(ここで
    Xは、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)よりなる群
    から選ばれた少なくとも一種の元素とし、組成比zは、
    40原子%以上65原子%以下である)を用いたことを
    特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵
    抗効果素子。
  14. 【請求項14】前記第1の強磁性体層と反対側の面にお
    いて前記非磁性高導電層と接して、タンタル(Ta)、
    チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン
    (W)、ハフニウム(Hf)及びモリブデン(Mo)よ
    りなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む層を
    さらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか
    1つに記載の磁気抵抗効果素子。
  15. 【請求項15】請求項1〜14のいずれか1つに記載の
    磁気抵抗効果素子を備えたことを特徴とする磁気ヘッ
    ド。
  16. 【請求項16】下側磁気シールド層と、 前記下側磁気シールド層上に設けられた下側再生磁気ギ
    ャップ層と、 前記下側再生磁気ギャップ層の上に設けられた請求項1
    〜14のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子と、 前記磁気抵抗効果素子上に設けられた上側再生磁気ギャ
    ップ層と 前記上側磁気ギャップ層の上に設けられた上側磁気シー
    ルド層と、 を具備することを特徴とする磁気ヘッド。
  17. 【請求項17】前記第1の強磁性体層を膜厚方向にみた
    中心から前記非磁性スペーサ層を介して前記上側磁気シ
    ールド層と前記下側磁気シールド層のいずれか一方に至
    る距離をD、前記第1の強磁性体層を膜厚方向にみた
    中心から前記非磁性スペーサ層を介さずに前記上側磁気
    シールド層と前記下側磁気シールド層のいずれか他方に
    至る距離をDとしたときに、D>Dであることを
    特徴とする請求項16記載の磁気ヘッド。
  18. 【請求項18】前記上側磁気シールド層と共通化されて
    設けられた下側磁極と、 前記下側磁極上に設けられた記録磁気ギャップ層と、 前記記録磁気ギャップ層上に設けられた上側磁極と、 を有する記録ヘッドをさらに備えたことを特徴とする請
    求項16または17に記載の磁気ヘッド。
  19. 【請求項19】請求項15または18記載の磁気ヘッド
    を有するヘッドスライダと、 前記ヘッドスライダが搭載されたサスペンションを有す
    るアームと、 を具備することを特徴とする磁気ヘッドアッセンブリ。
  20. 【請求項20】磁気記録媒体と、 請求項19記載の磁気ヘッドアッセンブリと、 を具備することを特徴とする磁気記録装置。
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