JP3246513B2 - ダイヤモンドライクカーボン積層膜 - Google Patents

ダイヤモンドライクカーボン積層膜

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐摩耗性部品や摺動部
品、赤外線光学部品等に用いられるダイヤモンドライク
カーボン積層膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】硬質炭素膜は、アモルファス状の炭素膜
あるいは水素化炭素膜で、a−C:H、i−C、DLC
(ダイヤモンドライクカーボン)とも呼ばれている。そ
の形成には、炭化水素ガスをプラズマで分解して成膜す
るプラズマCVD法、炭素又は炭化水素イオンを用いる
イオンビーム蒸着法、等の気相合成法が用いられる。
イヤモンドライクカーボン膜はヌープ硬度が2000〜
10000と非常に高く、表面平滑性に優れ、赤外線に
対して高い透過性をもつなどの性質を有している。現在
これらの特性を生かして種々の分野への応用が期待され
ており、特に耐摩耗性部品や摺動部品、赤外線光学部品
等へのコーティングの応用研究が進められている。
【0003】ところで、ダイヤモンドライクカーボン
は金属や誘電体など多くの基材に対する付着性が低く、
基材とダイヤモンドライクカーボン膜との間にSi等の
中間層を用いることで前記付着性の向上を図ってきた。
又、ダイヤモンドライクカーボン膜は成膜後の残留応力
が大きく、1μmを越える膜厚になると非常に剥離が生
じ易くなる。これはたとえSiなどの中間層を用いても
同様であり、通常0.5μm以下の比較的薄い膜厚のも
のが用いられていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ダイヤモンドライクカ
ーボン膜を基材表面の保護膜として使用する場合、耐用
寿命などの点からできるだけ膜厚の厚いことが要求され
る。ところが前記のとおりダイヤモンドライクカーボン
膜は残留応力の大きい膜であり、膜厚を厚くすると極め
て剥離し易くなるため、耐摩耗部品や摺動部品などへの
適用は極めて限られていた。従って、本発明は上記の事
情に鑑みてなされたものであって、膜厚が厚く、剥離し
難いダイヤモンドライクカーボン膜を提供することを目
的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明ダイヤモンドライ
クカーボン積層膜は、上記の課題を解決するために基材
上にダイヤモンドライクカーボン膜とバッファ層とを交
互に積層することを特徴とするものである。ここで、
イヤモンドライクカーボン膜は、積層合計膜厚が0.5μm
を超えるように積層する。また、積層膜はその最外層が
ダイヤモンドライクカーボン膜となるよう形成し、基材
の上に積層する順序は、バッファ層から始めても、ダイ
ヤモンドライクカーボン膜から始めてもどちらでもよ
い。又、前記バッファ層の材料は、シリコン、ゲルマニ
ウム、炭化けい素、窒化けい素、二酸化けい素、ガラ
ス、アルミナから選ばれた1種類以上を用いることが好
ましく、さらには引っ張り応力を有する膜を用いること
が好ましい。又、前記バッファ層の膜厚は適宜選択すれ
ばよいが、ダイヤモンドライクカーボン膜、バッファ層
の膜厚及び内部応力をそれぞれd、d、σ、σ
とした場合、−1/100σ<σの関係を
満たすように選択すると、層数を多くする場合に有利で
ある。尚、基材としては、超硬合金、炭化けい素、窒化
けい素、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ほう素、炭
化ほう素、ガラス、ダイヤモンド、等のセラミックス、
Si、Ge、GaAs、等の半導体、ZnS、ZnSe
等の光学材料、鉄系合金、アルミ系合金等が適用でき
る。
【0006】
【作用】上記のようにダイヤモンドライクカーボン膜と
バッファ層を交互に積層することで、これらの積算値で
従来形成が困難であった厚い膜を形成することができ
る。又、ダイヤモンドライクカーボン膜は10〜10
10dyn/cm程度の圧縮応力を有しており、これ
と引っ張り応力を有するバッファ膜を交互に積層すれ
ば、ダイヤモンドライクカーボン膜の持つ圧縮応力が緩
和あるいは相殺され、積層膜全体として内部応力のバラ
ンスが保たれるものと考えられ、剥離の発生し難い膜を
形成することができる。
【0007】これらの事から、本発明におけるバッファ
層は、ダイヤモンドライクカーボン膜との付着性に優れ
ることと、ダイヤモンドライクカーボン膜の圧縮応力を
緩和あるいは相殺すること、即ち、引っ張り応力を有す
る膜であるという二つの条件を満たすことが好ましい。
【0008】付着性に関しては、付着性の高い材料を用
いることと、付着性の高い方法で成膜することがあげら
れる。材料は前記の各材料が好ましく、特にシリコン、
ゲルマニウムは真空蒸着法などの簡単な方法で成膜して
も比較的高い付着強度が得られる。もちろんこれ以外の
材料であっても、ダイヤモンドライクカーボン膜との新
和性の高いものであればバッファ層として使用できる。
成膜方法はイオンビームを用いる方法が多くの材料に対
して有効である。成膜直前のイオン照射は、基材表面の
汚染除去に効果的であり、成膜初期のイオン照射は、界
面のミキシング効果による付着性の向上に有効である。
又、ダイヤモンドライクカーボン膜とバッファ層との界
面に、これら両者に対して付着性の優れる層を挿入して
もよい。
【0009】引っ張り応力を有する膜であるという点に
関しては、バッファ層成膜後に引っ張り応力が残留する
材料を用いることと、ダイヤモンドライクカーボン膜が
有する圧縮応力を緩和あるいは相殺する方法で成膜する
ことがあげられる。材料は前記の各材料が好ましく、例
えばSi蒸着膜は10dyn/cm台の引っ張り応
力を有しており、これらをダイヤモンドライクカーボン
膜と交互に積層することで、積層膜全体の内部応力のバ
ランスが保たれるものと思われる。
【0010】ダイヤモンドライクカーボン膜が有する圧
縮応力を緩和あるいは相殺する方法で成膜することは、
上述のようにダイヤモンドライクカーボン膜とバッファ
層とを交互に積層するのだが、さらにダイヤモンドライ
クカーボン膜の膜厚に応じてバッファ層の膜厚を選択す
る必要がある。理論的にはダイヤモンドライクカーボン
膜が有する圧縮応力を相殺するには、ダイヤモンドライ
クカーボン膜、バッファ層の膜厚及び内部応力をそれぞ
れd、d、σ、σとした場合、−σ=σ
の関係にあることが必要である。例えば、ダイヤ
モンドライクカーボン膜がσ=−8×10dyn/
cmの圧縮の応力を有し、Si蒸着膜バッファ層が4
×10dyn/cmの引っ張りの応力を有している
とき、Siバッファ層はダイヤモンドライクカーボン
の2倍の膜厚であることが好ましい。この膜厚と内部応
力との関係について実際に種々の試験を行った結果、−
1/100σ<σの関係を満たしていれば
積層膜の剥離が発生しないことが判明した。又、本発明
ダイヤモンドライクカーボン膜は積層膜の積算値で50
μmまでは剥離が生じなかった。
【0011】
【実施例】(実施例1) ZnSe基材に0.1μmのアルミナと0.2μmの
イヤモンドライクカーボン膜とを交互に積層して成膜し
た。成膜に用いた装置は図1に示すもので、電子ビーム
によるバッファ層蒸発源3と2基のイオン源1、2を備
えており、ダイヤモンドライクカーボン膜とバッファ層
は共通の成膜室8で連続して形成できる。バッファ層蒸
発源3はアルミナの成膜に用い、イオン源は1基をダイ
ヤモンドライクカーボン膜用のメタンイオン源1とし
て、他の1基を希ガスイオン源2として用い、基材5表
面のスパッタリングと各層間界面のミキシングに適用し
た。又、補助ポンプを備えたターボ分子ポンプで5×1
−8Torrまで排気し、ヒーター6により基材温度
は成膜全般にわたり、250℃とした。アルミナの膜厚
は水晶振動子式の膜厚計7でモニターし、ダイヤモンド
ライクカーボン膜の膜厚は成膜時間で制御した。成膜手
順を以下に示す。
【0012】3KeV−Arイオンによる基材表面の
洗浄。Arイオンのエネルギーを40KeVに上げ
る。Arイオン照射を継続した状態でアルミナの成膜
を開始する。0.01μm成膜したところでArイオ
ン照射を止める。アルミナの膜厚が0.1μmになっ
た時点でアルミナ蒸着を停止し、即座に40KeVメタ
ンイオン照射を開始する。30秒経過後メタンイオン
のエネルギーを0.5KeVに下げダイヤモンドライク
カーボン膜の成膜を続ける。30分経過したらメタン
イオン照射を停止してに戻る。以上の手順を所定の
回数繰り返し、ダイヤモンドライクカーボン膜とバッフ
ァ層を積層して成膜を終了する。
【0013】以上の手順でダイヤモンドライクカーボン
膜、バッファ層をそれぞれ1、3、5、10層(合計
2、6、10、20層)成膜し、積層膜の剥離の有無を
調べると共に硬度の評価を行った。又、比較のためバッ
ファ層無しで基材の上に直接ダイヤモンドライクカーボ
膜を2μm成膜してみた。その結果を表1に示す。
【0014】
【表1】
【0015】同表に示すようにバッファ層の無いものは
内部応力が原因と考えられる剥離が生じていたのに対
し、本発明ダイヤモンドライクカーボン膜は積層数の多
いものでも剥離が無く、厚い膜厚のダイヤモンドライク
カーボン膜が形成できることが確認された。
【0016】(実施例2) 次に、Siウエハ上にSiバッファ層とダイヤモンドラ
イクカーボン膜とを交互にそれぞれ5層、合計10層成
膜した。成膜に用いた装置は図2に示すもので、ダイヤ
モンドライクカーボン膜とバッファ層はインラインにて
それぞれ独立した成膜室10及び11で行なうことがで
きる。バッファ層の成膜は真空蒸着法で行った。バッフ
ァ層蒸発源13にSiをセットし、バッファ層成膜室1
0は補助ポンプを備えたターボ分子ポンプで排気した。
真空到達度は8×10−9Torrであり、成膜中の真
空度は2×10−7Torrであった。一方、ダイヤモ
ンドライクカーボン膜の成膜は、容量結合式の平行平板
型電極を用いる高周波プラズマCVD法で行った。ダイ
ヤモンドライクカーボン膜成膜室11は補助ポンプを備
えた油拡散ポンプで排気され、真空到達度は8×10
−9Torrであった。ここで、原料ガスであるメタン
を5×10−4Torrまで導入し、基材温度を250
℃とした。そして成膜したダイヤモンドライクカーボン
膜とバッファ層の各内部応力を測定するとともに、ダイ
ヤモンドライクカーボン膜の膜厚は0.6μmに固定
し、Siバッファ層の膜厚を50Åから2.0μmの範
囲で変化させて、積層膜の剥離の有無について調べてみ
た。その結果を表2に示す。
【0017】
【表2】
【0018】同表に示すように、−1/100σ
<σを満たす程度であれば積層膜に剥離が発生し
ないことが確認された。
【0019】
【発明の効果】以上説明したように、ダイヤモンドライ
クカーボン膜において従来困難とされてきた0.5μmを超
える厚膜化がバッファ層と交互に積層するという間接的
な方法ではあるが可能となった。これにより、耐摩耗部
品や摺動部品などの耐用寿命を格段に向上させることが
でき、又無反射コート、全反射コートなどの光学コート
にも有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明ダイヤモンドライクカーボン積層膜の成
膜に用いた装置の概略図である。
【図2】本発明ダイヤモンドライクカーボン積層膜の成
膜に用いた装置の概略図である。
【符号の説明】
1 メタンイオン源 2 希ガスイオン源 3、13 バッファ層蒸発源 4、14 シャッター 5、15 基材 6、16 ヒーター 7 膜厚計 8 成膜室 10 バッファ層成膜室 11 ダイヤモンドライクカーボン膜成膜室 17 基材ホルダー兼高周波電極 18 接地電極 20、21 予備室
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−146666(JP,A) 特公 昭62−10301(JP,B2) 特公 昭63−5470(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 14/00 - 14/58 C23C 16/00 - 16/56

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基材上にダイヤモンドライクカーボン
    とバッファ層とを交互に積層し、ダイヤモンドライクカ
    ーボン膜の積層合計膜厚が0.5μmを超えるもので、最
    層がダイヤモンドライクカーボンであり、 バッファ層は、シリコン、ゲルマニウム、炭化けい素、
    二酸化けい素、アルミナから選ばれた1種類以上の材料
    で形成され、引っ張り応力を有する膜を用いる ことを特
    徴とするダイヤモンドライクカーボン積層膜。
  2. 【請求項2】 基材上にダイヤモンドライクカーボン
    とバッファ層とを交互に積層し、ダイヤモンドライクカ
    ーボン膜の積層合計膜厚が0.5μmを超えるもので、最
    層がダイヤモンドライクカーボンであり、 ダイヤモンドライクカーボン 膜、バッファ層の膜厚及び
    内部応力をそれぞれd、d、σ、σとした場
    合、−1/100σ<σの関係にあること
    を特徴とするダイヤモンドライクカーボン積層膜。
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