JP3239446B2 - 細胞培養用無血清又は低血清培地 - Google Patents

細胞培養用無血清又は低血清培地

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は各種の哺乳動物細胞、特
にハイブリドーマや肝細胞に顕著な効果を発揮する細胞
培養用無血清又は低血清培地に関するものである。
【0002】
【従来の技術】哺乳動物細胞培養用培地は、インターフ
ェロンやインターロイキン等の生理活性物質やモノクロ
ーナル抗体等の生産に使用されている。これらの細胞培
養用培地は、細胞の代謝動態や機能発現に密接な影響を
与え、ひいては目的とする生理活性物質等の収率に少な
からず影響を及ぼすため、これまで多くの研究者によっ
てその組成に関し検討が加えられてきた。
【0003】培養用培地の組成のうち、細胞とその機能
の維持に最も大きな影響を与えるのは、細胞のエネルギ
ー源や構成成分となる、糖質、アミノ酸、脂質である。
【0004】特にアミノ酸の組成については、これまで
多くの研究者によって改良が試みられてきた。
【0005】Eagleらが、ヒト由来の細胞株の細胞内遊
離アミノ酸含量をもとに培地へのアミノ酸添加量を決定
し、最小必須培養液を開発した(Eagle, H. Science, 1
30,432, 1959)。その後Williamsらは、添加するアミ
ノ酸の種類と添加量を増やした培地を開発した(Willia
ms, G. H. and Gunn, J. M. Exp. Cell Res, 89, 138,
1974)。現在これらの培地を含め多くの種類の培地が、
細胞生物学的研究や細胞がつくる有用物質生産に用いら
れている。
【0006】しかしながら、これらの培地へのアミノ酸
の添加量は、ヒトにおけるアミノ酸の所要量に基づいた
栄養療法と同様に、細胞にとって不可欠なアミノ酸を必
要量添加するという考え方に基づいており、特に一つ一
つのアミノ酸について、培養細胞の機能発現や生存率に
どのような影響を及ぼすかについて詳細に調べた研究は
極めて少ない。また、あるアミノ酸を10mM以上含有する
細胞培養用の培地は開発されていない。無血清培地にL
−アラニンが添加されることもあるが、その量は0.2〜
1mM程度である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】細胞用培地は細胞の生
育が活発で生存率の高いものが望まれていることはいう
までもない。
【0008】本発明の目的は肝細胞、ハイブリドーマ等
の細胞の生育が活発で生存率が高い無血清又は低血清培
地を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的
を達成するべく鋭意検討の結果、各種のアミノ酸のうち
L−アラニンが細胞の生育を改善し、生存率を向上させ
ることができることを見出し、L−アラニンを高濃度で
含有させることによってこの目的を達成することがで
き、本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち、本発明は、細胞培養用基礎培地
と20ないし200mMの濃度のL−アラニンを含有し
てなる哺乳動物細胞培養用無血清又は低血清培地に関す
るものである。
【0011】L−アラニンの濃度は20〜200mM程
度であり、特に30〜100mM程度が更に好ましい。
【0012】L−アラニン以外の培地構成成分として
は、タンパク質成分以外の物で、通常の細胞培養に必要
と考えられる有効成分の添加が必要である。そのような
例としては、栄養成分としてピルビン酸ナトリウム、L
−グルタミン酸ナトリウム、エタノールアミン、ビタミ
ン類(例:X100 Vitamins:Flow Labo.社製)、亜セレ
ン酸などを添加した上で、さらに基本的栄養源として必
要な必須アミノ酸成分を含む基礎培地を添加する。本発
明で使用する基礎培地は、一般市販されているもの、例
えば、イーグルMEM培地、ハムF12培地、ダルベッコ
変法イーグル培地、RPMI−1640培地またはASF104無
血清培地等を用いることができ、これらの基礎培地は単
独または2種以上の任意の割合の組合せにより使用する
ことが出来る。血清は無添加でよいが基礎培地の種類等
により少量の牛胎児血清、子牛血清等を添加することが
できる。その場合、添加量は培地あたり5%以下あるい
は2%以下にすることができる。培地の供給形態は粉末
状、溶液状等のいずれであってもよい。
【0013】本発明の培地を用いての細胞の培養は、通
常の哺乳動物細胞培養の条件下で行うことによって良好
な結果を得られ、細胞の増殖状態等は、従来の無血清培
地を用いて細胞培養した場合と比較して数段優れ、また
細胞の物質(抗体等)産生においても何等問題はない。
【0014】本発明の培地は、浮遊性細胞の培養または
付着性細胞の培養のいずれにも用いることができ、動物
由来の各種の細胞の培養が可能である。そのような細胞
としては、例えば、肝細胞、ミエローマ細胞と融合して
作製されたモノクローナル抗体産生能を有するハイブリ
ドーマ、またはBALL−1,WISH、Hela, K562等のヒト
又は動物細胞が挙げられる。これらのなかで肝細胞とハ
イブリドーマの培養に特に適している。
【0015】
【実施例】実施例1 ラット肝実質細胞をコラーゲナーゼ潅流法を用いて、S
eglenらの方法(Seglen,P.O.:Met
hods Cell Biol,13,29〜83,1
976)に準じてSD系雄性ラット(体重約200〜2
50g)から調製し、市原らの方法(Ichihar
a,A.,Nakamura,T.,Tanaka,
K.,Aoyama,K.,Kato,S.and S
hinno,H.:Ann.N.Y.Acad.Sc
i.,349,77〜84,1980)にしたがって培
養を行った。即ち、調製した肝実質細胞をインスリン及
びデキサメサゾンを10−9M添加した無血清培地(ウ
ィリアムズE液)中で24時間、37℃、5%炭酸ガ
ス、30%酸素存在下で培養した。その後、下記実験群
に示したようにアミノ酸を添加した培地で上記と同じ条
件で培養を1週間継続した。24時間毎に培地を交換
し、培地中の乳酸脱水素酵素活性及び実験終了時の細胞
内乳酸脱水素酵素活性をWroblewskiらの方法
(Cabaud,P.G.and Wroblewsk
i,F.:Am.J.Clin.Path.,30,2
34,1958)にしたがって測定し、細胞から培地中
にリークした乳酸脱水素酵素の割合を計算した。
【0016】この乳酸脱水素酵素活性の測定法は次のと
おりである。細胞中乳酸脱水素酵素濃度は、細胞をカル
シウム不含PBS中においてポリトロンホモジナイザー
にて均質化した後10000g、10分間の遠心にかけ、その
上清を血液生化学用自動分析機(日立7250)を用いて測
定した結果から算出した。培地中乳酸脱水素酵素濃度
は、培地を自動分析機にて直接測定した。
【0017】また、1日毎に永森らの方法(永森静志,
藤瀬清隆,蓮村哲 他,肝胆膵,19,269〜275,1989)
に従い、MTT試薬を用いて細胞数をカウントし、細胞
の生存率を計算した。この測定法は次の通りである。
【0018】MTT試薬を用いた細胞数測定は以下のと
おりである。各時間において、市販のMTT溶液(Chem
icon International, Inc)で培養皿上の細胞をひた
し、37℃で4時間培養後、10%SDS、0.01NHCIに
て細胞を融解し、570nmにて比色定量を行なった。
【0019】〔実験群〕 (1) ウィリアムズE液(アラニンを1mM含有)にて培
養。ウィリアムズE液の組成以外のアミノ酸は添加せ
ず。 (2) ウィリアムズE液にて培養。L−アラニンをさらに
60mM(ウィリアムズE液中L−アラニン濃度の60倍、正
常ラット血漿中L−アラニン濃度の約100倍)添加。 (3) ウィリアムズE液にて培養。グリシンをさらに30mM
(ウィリアムズE液中グリシン濃度の約50倍、正常ラッ
ト血漿中グリシン濃度の約100倍)添加。
【0020】結果を図1〜図3に示す。図1から明らか
なように、乳酸脱水素酵素の逸脱は細胞の生存率を反映
している。図2、図3から明らかなように、培地中にL
−アラニンを添加することにより、乳酸脱水素酵素の逸
脱は抑制され、細胞の生存率は上昇した。したがってL
−アラニンは細胞の生存率を改善することが明らかとな
ったが、このような効果はグリシンなど他のアミノ酸に
は認められなかった。
【0021】実施例2 ラット横紋筋由来の株細胞であるL6細胞をヤーフェら
の方法(Yaffe, D. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 6
1, 477〜483, 1968)に従い、10%子ウシ血清含有ダル
ベッコ変法イーグル培地にて37℃、5%炭酸ガス存在化
において2週間培養した。その後、血清を2%含有した
培地中で同様の条件下に培養を継続した。培地中の血清
濃度を2%とした時点でアラニンあるいはD−グルコー
スを下記実験群に示したように培地に加え、その3日後
及び4日後の培地中乳酸脱水素酵素活性と、実験終了時
の細胞内乳酸脱水素酵素活性を前述のWroblewskiらの
方法に従って測定し、培地中にリークした乳酸脱水素酵
素の割合を計算した。
【0022】〔実験群〕 (1) ダルベッコ変法イーグル液(アラニンを含有せず)
にて培養。 (2) ダルベッコ変法イーグル液にて培養。アラニンをさ
らに30mM(正常ラット血漿中アラニン濃度の約50倍)添
加。 (3) ダルベッコ変法イーグル液にて培養。アラニンをさ
らに60mM(正常ラット血漿中アラニン濃度の約100倍)
添加。 (4) ダルベッコ変法イーグル液にて培養。アラニンをさ
らに120mM(正常ラット血漿中アラニン濃度の約200倍)
添加。 (5) ダルベッコ変法イーグル液にて培養。D−グルコー
スをさらに50mM(正常ラット血漿中グルコース濃度の約
10倍。ダルベッコ変法イーグル液中グルコース濃度の約
10倍)添加。
【0023】結果を図4、図5に示す。血清を2%とし
た時点から3日目及び4日目までの乳酸脱水素酵素逸脱
はアラニンによって抑制され、細胞の生存率が上昇し
た。なお、D−グルコースを50mM添加した場合には細胞
は死滅した。
【0024】実施例3 マウスハイブリドーマを下記に述べた培養液中におい
て、37℃、5%炭酸ガス存在下にて培養した。細胞の増
殖が定常状態となる7日目に、トリパンブルー染色によ
り生存細胞数、細胞の生存率を計算した。すなわち、各
時間において、細胞浮遊液と0.5%トリパンブルー液を
1対1の割合に混合し、位相差顕微鏡下で生細胞数と死
細胞数をカウントした。
【0025】〔実験群〕 (1) RPMI培地1640(市販、アラニンを含有せず)に
て10%ウシ胎児血清存在下で培養。 (2) ASF104培地(市販、アラニンを20mg/L、アラニ
ルグルタミンを500mg/L含有)にて培養。 (3) ASF104培地にて培養。アラニンをさらに30mM添
加。 (4) ASF104培地にて培養。アラニンをさらに60mM添
加。
【0026】結果を図6、図7に示す。ウシ胎児血清含
有RPMI培地1640またはASF104培地単独で培養を
行った場合に比較して、アラニンを培地に加えると、培
養開始後7日目においてハイブリドーマの生細胞数、生
存率共にアラニンの濃度に依存して高かった。なお、培
養開始時の生細胞数と細胞生存率において、群間には差
は認められなかった。
【0027】以上のことからアラニンを培地中に添加す
ると、細胞及び細胞培養に用いる基礎培地の種類にかか
わらず細胞の生存率が改善され、細胞の生産する物質の
収量が増加することが明らかである。また、このような
効果は他のアミノ酸やD−グルコースなどの単糖類には
認められなかった。
【0028】上記各実施例で使用したウィリアムズE
液、ダルベッコ変法イーグル培地、及びASF104培地
の組成を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】本発明の培地においてL−アラニンを高
濃度で含有させることにより細胞の機能改善と増殖の促
進・生存期間の延長をはかり、細胞内酵素の逸脱を阻止
することができる。
【0031】培養細胞の機能が改善されることにより、
細胞培養のよりもたらされるインターフェロンやインタ
ーロイキン、その他の細胞増殖因子などの生理活性物質
やモノクローナル抗体などの産業上有用な物質の収率が
改善し、培養細胞の維持期間の延長が期待できる。ま
た、これまで用いられてきた培地にアラニンを添加する
ことにより、実験、研究用途に培養される細胞の機能改
善にも有効である。この他臨床においては、LAK療法
等のヒトリンパ球等の培養液や臓器保存液へのアラニン
の添加による、ヒト細胞や組織の機能保持・改善にも有
効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において、1群における肝細胞生存率
と細胞外に逸脱した乳酸脱水素酵素の割合との関係を示
す。
【図2】実施例1におけるアラニンまたはグリシン添加
群と非添加群の肝細胞外への乳酸脱水素酵素逸脱の経日
的変化を示す。
【図3】実施例1において、培養開始後5日目の各群に
おける肝細胞生存率を示す。
【図4】実施例2におけるアラニン60mM添加群と非添加
群の筋細胞外への乳酸脱水素酵素逸脱の割合を示す。
【図5】実施例2におけるアラニン添加濃度と、アラニ
ン添加後72時間までの筋細胞外への乳酸脱水素酵素逸脱
の割合との関係を示す。
【図6】実施例3において実験開始後7日目のハイブリ
ドーマの生存率を示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小山 直人 神奈川県川崎市川崎区鈴木町1−1 味 の素株式会社 中央研究所内 (56)参考文献 特開 平4−94683(JP,A) 特開 昭61−124378(JP,A) 特開 昭62−51983(JP,A) 特開 昭61−63280(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 1/00 - 7/08 BIOSIS(DIALOG) JICSTファイル(JOIS) WPI(DIALOG)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 細胞培養用基礎培地と20ないし200
    mMの濃度のL−アラニンを含有してなる哺乳動物細胞
    培養用無血清又は低血清培地
  2. 【請求項2】 ハイブリドーマあるいは肝細胞培養用で
    ある請求項1記載の無血清又は低血清培地
  3. 【請求項3】 細胞培養用基礎培地と20ないし200
    mMの濃度のL−アラニンを含有する無血清又は低血清
    培地を用いて哺乳動物細胞を培養する方法
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