JP3237872B2 - 非円形歯車を用いたステアリング機構 - Google Patents

非円形歯車を用いたステアリング機構

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、四輪車のように同時に
複数の車輪を操舵する車両に用いられるステアリング機
構に関するもので、特に、自動搬送車や自律走行車など
のいわゆる車輪型移動ロボットに適したステアリング機
構に関するものである。
【0002】
【従来の技術】工場の自動化ラインには、部品や製品を
運搬するための無人搬送車が数多く導入されている。そ
のような無人搬送車は、通常、車輪によって移動する車
輪型移動ロボットとされる。ところで、そのように工場
内で用いられる搬送車には、その使用目的上、できるだ
け小回りが利くこと、すなわち最小旋回半径が小さいこ
とが求められる。例えば、旋回中心を走行車の平面内部
に位置させてその場旋回等ができるようにすれば、その
走行車は極めて機動性の高いものとなる。したがって、
そのような搬送車は、旋回中心を任意の位置に設定する
ことのできるステアリング機構を備えていることが望ま
れる。そのために、上述のような車輪型移動ロボットの
場合には、一輪のみを操舵車輪とする三輪式にされるこ
とが多い。三輪式とすると、高い旋回性能を持たせなが
ら、そのステアリング機構はごく単純なものにすること
ができる。
【0003】しかしながら、三輪式の搬送車は、可搬重
量及び走行安定性の点で四輪式より不利である。したが
って、搬送車としては四輪式以上とすることが望まし
い。そのように四輪式とした場合には、少なくとも二輪
を操舵することが必要となる。しかも、滑らかな旋回を
行わせるためには、旋回半径に応じて内輪と外輪との操
舵角を非線形に制御することが必要となる。そこで、従
来は、四輪式の搬送車の場合には、操舵される車輪の各
々に独立した操舵装置を設け、各車輪にそれぞれ操舵機
能を持たせたり、一般の自動車のように操舵車輪の間を
リンク機構によって結び、各車輪の操舵角を近似的に制
御したりするといった方法を採用するようにしていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、各車輪
にそれぞれ独立した操舵機能を持たせようとすると、例
えばモータのようなステアリング用駆動装置が複数必要
となり、その駆動系が複雑になるという問題がある。一
方、リンク機構によって複数の車輪の操舵角を制御する
ものでは、ステアリング用駆動装置はリンクを動かす駆
動系のみでよいが、操舵角を大きくした場合に誤差が大
きくなり、また、リンク機構自身の制約のために旋回半
径を小さくすることが困難であるといった問題がある。
【0005】本発明は、このような実情に鑑みてなされ
たものであって、その目的は、簡単な機構で複数の操舵
車輪をそれぞれ適切に操舵することができ、それによっ
て旋回中心を任意の点に与えることのできるステアリン
グ機構を得ることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため
に、本発明では、各操舵車輪間を操舵角伝達機構によっ
て結び、その操舵角伝達機構内に、楕円系ピッチ曲線
あるいはそれに近似したピッチ曲線を有する非円形歯車
からなる非円形歯車列を介在させるようにしている。そ
のピッチ曲線は、各操舵車輪が共通の一点を中心として
旋回するように、後述する計算式で定められる。
【0007】
【作用】まず、図6に示されているようなn個の操舵車
輪s1 ,s2 ,…,sj ,…,sn と操舵を行わない2
個の固定車輪f1 ,f2 とを備えた任意の形状の台車1
を考える。固定車輪f1 ,f2 は台車1を走行駆動する
ものである。そして、台車1の直進方向をy軸、固定車
輪f1 ,f2 の車軸をx軸とする座標系を定める。四輪
操舵車のように固定車輪を用いずに全車輪で操舵を行う
場合には、y軸に直交する任意の軸をx軸とするものと
する。このように定めた座標上で、台車1がその平面内
部を含むx軸上の任意の点を中心として旋回する場合の
各操舵車輪s1 ,s2 ,…,sn の操舵角の関係を求め
る。同図に破線で示されているように点Of0に固定車輪
0 を有し、点O0 に操舵旋回中心が位置する操舵車輪
0 を備えた仮想二輪車を想定する。そして、すべての
操舵車輪s1 ,s2 ,…,sn はこの仮想二輪車の旋回
中心を基に操舵されるものとする。簡単のために操舵車
輪のキャスタ角はゼロとする。ここで、y≧0の領域に
ある操舵車輪の操舵角は時計回りを正とし、y<0にあ
る操舵車輪については反時計回りを正とすると、y<0
ではyの符号を反転することによってy>0の場合と同
様に扱うことができる。したがって、以下ではy≧0と
して考えることにする。
【0008】いま、点O0 (0,y0 )に置いた仮想操
舵車輪s0 の操舵角をθ0 とし、点Oj (xj ,yj
に置いた実操舵車輪sj の操舵角をθj とする。そし
て、 ξ=x/y0 … (1) η=y/y0 … (2) を用いて無次元化すると、両車輪s0 ,sj の位置関係
は図7で表される。台車1が低速で旋回を行う場合、旋
回中にタイヤに横滑りが生じないよう両車輪s0 ,sj
が同一の旋回中心を持つためには、次の関係を満たさな
ければならない。 cot θ0 −ηj cot θj =ξj … (3) 特別な場合としてηj =1、すなわち操舵車輪s0 ,s
j の旋回中心同士を結ぶ線分が固定車輪の車軸と平行に
なる場合、式3はアッカーマン・ジャントの式と呼ばれ
る式に等しくなる。
【0009】ここで、操舵角を制御するために、二軸が
平行で、その軸間距離が一定の非円形歯車対を考える。
図8に示されているように、駆動側の非円形歯車(ドラ
イバ)のピッチ曲線を極座標でr0 (φ0 )、従動側の
非円形歯車(フォロワ)のピッチ曲線をrj (φj )、
両軸間距離をdj とすると、各ピッチ曲線の間には r0 +rj =dj0 ・dφ0 =rj ・dφj … (4) の関係が成り立つ。したがって、そのピッチ曲線は r0 ={(dφj /dφ0 )/(1+dφj /dφ0 )}dj … (5) rj ={1/(1+dφj /dφ0 )}dj … (6) によって与えられる。
【0010】次に、ドライバとフォロワとの回転条件と
して式3の関係を満足するピッチ曲線を求める。式3を
θ0 で微分すると、 dθj /dθ0 =1/{m−n cos(2θ0 −β0 )} … (7) あるいは dθj /dθ0 =m−n cos(2θj −βj ) … (8) となる。ここに m=(ξj 2+ηj 2+1)/2ηj … (9) n={(ξj 2+ηj 2+1)2 +4ξj 21/2 /2ηj …(10) β0 = tan-1{2ξj /(ξj 2+ηj 2−1)} …(11) βj = tan-1{2ηj ξj /(ξj 2−ηj 2+1)} …(12) である。式7,8は仮想操舵車輪s0 と実操舵車輪sj
との旋回角度比を示している。そこで、ν0 ,νj を任
意の正数とし、 φ0 =(2θ0 −β0 )/ν0 φj =(2θj −βj )/νj …(13) を用いて式7,8を書き直すと、 dφj /dφ0 =(ν0 /νj )/{m−n cos(ν0 φ0 )} =(ν0 /νj ){m−n cos(νj φj )} …(14) となる。式14を式5,6に代入してピッチ曲線を求め
ると、 r0 =ι0 /{1−ε0cos(ν0 φ0 )} …(15) rj =ιj /{1−εjcos(νj φj )} …(16) ここに ι0 ={(ν0 /νj )/(ν0 /νj +m)}dj ιj ={(νj /ν0 )/(νj /ν0 +m)}dj …(17) ε0 =n/(ν0 /νj +m) εj =n/(νj /ν0 +m) …(18) である。式15,16のピッチ曲線は、νi 葉の楕円系
ピッチ曲線と呼ばれるものに一致することがわかる。こ
こで、ιi 及びεiはそれぞれ通径の1/2及び離心率
を示している。
【0011】以上により、式3を満足する非円形歯車機
構が存在し、そのピッチ曲線は楕円系ピッチ曲線となる
ことがわかる。すなわち、楕円系ピッチ曲線を有する非
円形歯車対を用いて操舵車輪s1 ,s2 ,…,sn 間の
操舵角伝達を行わせるようにすれば、すべての操舵車輪
1 ,s2 ,…,sn はいずれも同一の旋回中心を基に
操舵されることになる。したがって、台車1もその旋回
中心のまわりに旋回する。その旋回中心は、仮想操舵車
輪s0 の操舵角θ0 によって指令される。操舵車輪のサ
スペンションによるキャンバ角変化等を考慮するときに
は、その非円形歯車のピッチ曲線は、楕円系ピッチ曲線
を修正した近似楕円系ピッチ曲線となる。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。図中、図
1は本発明によるステアリング機構の一実施例を示すも
ので、そのステアリング機構を備えた自律走行車の駆動
系の概略構成図である。この図から明らかなように、こ
の自律走行車の台車10は、操舵車輪である二つの前輪
11,12と固定車輪である二つの後輪13,14とを
備えている。そして、後輪13,14がそれぞれサーボ
モータ15,16により減速機構17,18を介して独
立して駆動され、それによって台車10が走行するよう
にされている。そのサーボモータ15,16は計算機に
よって制御され、旋回時には内輪に対して外輪がより高
速で駆動されるようになっている。
【0013】前輪11,12は、操舵入力部である操舵
用モータ19からの入力を、減速用ベルトプーリ機構2
0及びウォームギヤ機構21,22を介して左右二対の
楕円系歯車23,24;25,26に伝え、その従動側
の歯車24,26を回転させることによって操舵される
ようになっている。したがって、二つの前輪11,12
の操舵角の関係は、それらの非円形歯車対によって決定
される。駆動側の楕円系歯車23,25及び従動側の楕
円系歯車24,26のピッチ曲線の葉数は任意に定める
ことができるが、それらを等しくすると各歯車のピッチ
曲線が一致し、その歯車の歯切りを重ね切りによって行
うことが可能となるので、楕円系歯車の加工が容易とな
る。また、葉数を2とすると、楕円系歯車対の入出力を
増減する必要がなくなるので、機構をより簡単にするこ
とができる。そこで、この実施例では、各楕円系歯車2
3〜26のピッチ曲線はいずれも2葉とされている。
【0014】このような台車10においては、左右対称
であるので、楕円系歯車の離心率が最小となるような仮
想操舵車輪の位置を求めると、図2に示されているよう
に、固定車輪である後輪13,14の車軸の中点Nから
その中点Nと操舵車輪である前輪11,12との間の距
離B0 に等しい距離だけ離れた台車10の中心線上の位
置となる。そして、その仮想操舵車輪s0 が操舵角θ0
だけ操舵されるように操舵用モータ19から指令を与え
ると、前輪11,12はそれぞれθ1 ,θ2 だけ操舵さ
れ、それらの旋回中心Oが一致することになる。したが
って、台車10はその旋回中心Oを中心として旋回す
る。
【0015】ところで、この実施例の場合には、操舵車
輪11,12を楕円系歯車24,26に直結することに
よってステアリング機構の簡素化が図られているが、楕
円系歯車が4枚必要となる。その楕円系歯車24,26
を互いに噛み合わせ、一方を駆動するようにすれば、楕
円系歯車を2枚とすることも理論的には可能である。し
かしながら、そのようにしようとすると、楕円系歯車の
離心率が大きくなり、歯切りが困難となるばかりでな
く、干渉等の問題が生じる。そのような問題を招くこと
なく楕円系歯車の枚数を減らすには、楕円系歯車からプ
ーリや円形歯車を介して操舵車輪を駆動するようにすれ
ばよい。
【0016】図3はそのような実施例を示すものであ
る。この実施例の場合には、3枚の楕円系歯車27,2
8,29が互いに噛み合わされ、その中央の歯車28が
操舵入力部からの入力によって回転駆動されるようにな
っている。そして、両側の楕円系歯車27,29と操舵
車輪11,12とがベルトプーリ機構30,31によっ
て連結され、その楕円系歯車27,29の回転が操舵車
輪11,12に伝えられるようになっている。このよう
に構成されたステアリング機構においても、駆動側の楕
円系歯車28を角度−θ0 だけ回転させると、操舵車輪
11,12はそれぞれ角度θ1 ,θ2だけ操舵される。
したがって、図1の実施例の場合と同様の旋回性能を得
ることができる。そして、各機構は台車の任意の位置に
設置することができるので、その配置の自由度が増す。
【0017】図4は、このようなステアリング機構を用
いて四輪操舵するようにした実施例を示すものである。
図4(a)の実施例の場合には、図3の実施例と同様に
3枚の楕円系歯車27,28,29が互いに噛み合わさ
れ、その中央の歯車28が操舵入力部からの入力によっ
て回転駆動されるようになっている。そして、両側の歯
車27,29によって、前輪11,12及び後輪13,
14がそれぞれベルトプーリ機構30,31及び32,
33を介して操舵されるようになっている。その場合、
前輪11,12側のベルトは反転するようにして巻き掛
けられる。したがって、前輪11,12と後輪13,1
4とは互いに反対方向に操舵される。また、図4(b)
の実施例の場合には、前輪11,12及び後輪13,1
4の位置に、それぞれ互いに噛み合う楕円系歯車対3
4,35;36,37;38,39;40,41が設け
られ、その駆動側の楕円系歯車34,36,38,40
が、ベルトプーリ機構42によって回転駆動されるよう
になっている。そのベルトプーリ機構42のベルトは8
の字状に巻き掛けられており、操舵入力部の駆動スプロ
ケット43によって走行駆動されるようになっている。
前輪11,12及び後輪13,14はそれぞれ従動側の
楕円系歯車35,37,39,41に直結され、それに
よって操舵されるようになっている。このような四輪操
舵用のステアリング機構によれば、すべての操舵車輪を
360゜以上回転させることができるので、旋回中心を
台車の中央に位置させてその場旋回させることも可能と
なる。
【0018】なお、上記実施例においては、2葉の楕円
系ピッチ曲線を有する非円形歯車対を用いる場合につい
て説明したが、その楕円系ピッチ曲線の葉数は任意に定
めることができる。葉数を1,2,3とした場合には、
そのピッチ曲線はそれぞれ図5(a),(b),(c)
に示されているようになる。また、場合によっては駆動
側の歯車と従動側の歯車との葉数を異ならせることもで
きる。更に、そのピッチ曲線は、正確な楕円系ピッチ曲
線でなくても、それに近似したものであればほぼ同様な
効果を得ることができる。したがって、サスペンション
やタイヤなどの条件に応じてそのピッチ曲線を多少修正
してもよい。
【0019】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明
によれば、複数の操舵車輪を、楕円系ピッチ曲線に近似
したピッチ曲線を有する非円形歯車対を介して操舵する
ようにしているので、四輪以上の走行車に適用した場合
にも、その旋回中心を走行車の任意の点に与えることが
できる。したがって、旋回半径を小さくすることがで
き、その場旋回も可能となるなど、小回り性を著しく高
めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるステアリング機構の一実施例を示
すもので、そのステアリング機構を備えた自律走行車の
駆動系の概略構成図である。
【図2】そのステアリング機構の作用の説明図である。
【図3】本発明によるステアリング機構の他の実施例を
示す要部の構成図である。
【図4】本発明によるステアリング機構を適用した四輪
操舵機構を示す概略構成図である。
【図5】本発明のステアリング機構に用いられる非円形
歯車のピッチ曲線を示す線図である。
【図6】そのピッチ曲線を導き出すために用いる座標系
の説明図である。
【図7】そのピッチ曲線を求める過程において想定され
る車輪位置の説明図である。
【図8】そのピッチ曲線の諸元を定める説明図である。
【符号の説明】
10 台車 11,12 前輪(操舵車輪) 13,14 後輪(固定車輪) 19 操舵用モータ(操舵入力部) 21,22 ウォームギヤ機構 23,24 楕円系歯車対 25,26 楕円系歯車対
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B62D 3/00 - 3/04

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 N個(Nは2以上の整数)の操舵車輪を
    有する車両に用いられ、それら各操舵車輪の間に非円形
    歯車列を介在させて各操舵車輪の操舵角に関数関係を与
    えることにより、各操舵車輪が共通の一点を中心として
    旋回するように操舵するステアリング機構であって前記共通の一点と同じ点を中心として旋回可能な仮想二
    輪車を想定し、その仮想二輪車の後輪を原点(0,
    0)、その後輪の車軸に沿った座標軸をξ軸、後輪の前
    進方向に沿った座標軸をη軸とする直交座標(ξ,η)
    を用いて、前記仮想二輪車の操舵車輪S の座標を
    (0,1)、実在するj番目(N≧j≧1)の操舵車輪
    の座標を(ξ ,η )、仮想操舵車輪s の操舵
    角をθ 、実操舵車輪sjの操舵角をθjで表すとき、
    cotθ −η cotθ =ξ を満たし、且つ互い
    に噛み合うように、前記仮想操舵車輪s を駆動する共
    通の非円形歯車O と実操舵車輪s を駆動する非円形
    歯車O との各ピッチ曲線が定められている ことを特徴
    とする、 非円形歯車を用いたステアリング機構。
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