JP3213135B2 - 高速原子線源 - Google Patents

高速原子線源

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、低い放電電圧で効率
よく高速原子線を放出することのできる高速原子線源に
関する。
【0002】
【従来の技術】常温の大気中で熱運動をしている原子・
分子は、概ね0.05eV前後の運動エネルギーを有し
ている。これに比べてはるかに大きな運動エネルギーで
飛翔する原子・分子を”高速原子”と呼び、それが一方
向にビーム状に流れる場合に”高速原子線”という。
【0003】従来発表されている、気体原子の高速原子
線を発生する高速原子線源のうち、運動エネルギーが
0.5〜10keVのアルゴン原子を放射する高速原子
線源の構造の一例を図3に示す。図中、符号1は円筒形
の陰極、2はドーナッツ状の陽極、3は0.5〜10k
Vの直流電圧電源、4はガスノズル、5はアルゴンガ
ス、6はプラズマ、7は高速原子放出孔、8は高速原子
線である。この動作は次のとおりである。
【0004】直流高圧電源3、放電安定抵抗(図示しな
い)以外の構成要素を真空容器にいれ十分に排気した
後、ガスノズル4からアルゴンガス5を円筒形陰極1の
内部に注入する。ここで直流高電圧電源3によって、陽
極2が正電位、陰極1が負電位となるように、直流電圧
を印加する。これで陰極1・陽極2間に放電が起き、プ
ラズマ6が発生し、アルゴンイオンと電子が生成され
る。さらにこの放電において、円筒形陰極1の底面から
放出する電子は、陽極2に向かって加速され、陽極2の
中央の孔を通過して、円筒形陰極1の反対則の底面に達
し、ここで速度を失って反転し、改めて陽極2に向かっ
て加速され始める。この様に電子は陽極2の中央の孔を
介して、円筒形陰極1の両方の底面の間を高周波振動
し、その間にアルゴンガスに衝突して、多数のアルゴン
イオンを生成する。
【0005】こうして発生したアルゴンイオンは、円筒
形陰極1の底面に向かって加速され、十分な運動エネル
ギーを得るに到る。この運動エネルギーは、陽極2・陰
極1間の放電維持電圧が、例えば1kVの時は1keV
程度の値となる。円筒形陰極1の底面1a近傍の空間は
高周波振動をする電子の折り返し点であって、低エネル
ギーの電子が多数存在する空間である。この空間に入射
したアルゴンイオンは電子と衝突・再結合してアルゴン
原子に戻る。イオンと電子の衝突において、電子の質量
がアルゴンイオンに比べて無視できるほどに小さいため
に、アルゴンイオンの運動エネルギーはほとんど損失せ
ずにそのまま原子に受け継がれて高速原子となる。従っ
て、この場合の高速原子の運動エネルギーは、1keV
程度となる。この高速原子は円筒形陰極1の一方の底面
1aに穿たれた放出孔7から高速原子線8となって放出
される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、係る従
来の高速原子線源においては、高速原子線の放出量を増
加するには、「放電電圧を上げる」、「磁石を併用す
る」、「導入するガスの圧力を増す」などの方法しか無
く、その結果、「高速原子線のエネルギーの増加を招
く」、「装置の大型化になる」、「高速原子線のエネル
ギー幅が広がってしまう」など、使用上の問題点、使い
難さがあった。
【0007】係る従来技術の問題点に鑑み、本発明は、
エネルギーが低く、粒子線束の高い高速原子線を効率よ
く放出することのできる高速原子線源を提供することを
目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の高速原子線源
は、多数の原子放出孔を有する板状電極と、前記板状電
極にそれぞれ対向して配置された放電部を形成する2個
の電極と、該2個の電極間に交流電圧を印加する電源
と、前記板状電極と該対向する電極間に直流電圧を印加
する電源と、前記板状電極及び該2個の電極間に放電を
起こすガスを導入するガス導入部とから構成されること
を特徴とする。
【0009】
【作用】交流電圧を2個の電極に印加して放電させ、ガ
スを電離させることによって、多量のイオンと電子を供
給し、低電圧における放電維持を行い、低エネルギーの
高速原子線を放出させることができる。
【0010】更に、放電部に磁場を備えることにより、
放電電圧を一層低減し、高密度プラズマを生成すること
ができる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面を参照しな
がら説明する。
【0012】図1は、本発明の第1実施例の高速原子線
源の構造の説明図である。図中で従来技術の図3と共通
の構成要素は、同一の機能・動作を有する構成要素であ
るので、同一の符号を付してその説明を省略する。本実
施例を説明する図1において、符号21は、高速原子放
出孔7を有する板状電極である。符号22,28は、交
流電圧の印加によって放電部を形成する板状電極であ
る。板状電極22,28はそれぞれガス5、又はプラズ
マ状態27となったガス5を流通する流通孔25,26
を備えている。電極22,28間には、例えば13.5
6MHz の高周波電圧源24が接続される。又、電極2
2と電極21間には直流電圧源29が接続され、電極2
1は陰極となり、電極22は陽極となり、その間に直流
放電部が形成される。安定抵抗9は、放電状態を安定さ
せるためのものである。
【0013】電極22,28間では、電源24の印加に
よって生じる高周波電界によって、ガス5の電子はその
高周波電界に対応した運動を行うが、イオンは質量が大
きく高周波電界の変化に対応して運動できない。この現
象を利用して、電子温度を高め、高密度プラズマ27を
高周波電界で発生させることができる。
【0014】本実施例の高速原子線源の動作は次のとお
りである。高周波電源24、直流電源29等を除く高速
原子線源の各構成要素を真空容器(図示しない)におさ
めて十分に排気した後、例えばアルゴンのガス5をガス
ノズル4から外筒容器23内に導入する。放電部の電極
22,28間には、高周波電源24によって高周波電圧
が印加され、低電圧で高密度プラズマ27が形成され
る。高密度プラズマ27は、ガス5の流れに従って、流
通孔25を通って、電極22,21間の直流放電部に導
かれ、低電圧で直流放電を起こすことができる。電極2
1,22間で発生した高密度プラズマ6中ではガス5の
イオンと電子が生成される。以下、イオンは陰極21に
向かって加速されて大きなエネルギーを得、陰極21中
で、残留しているガス5粒子と接触して電荷を失い、あ
るいは電子との再結合によって電荷を失って高速原子と
なり、高速原子放出孔7から高速原子線8として放出さ
れる。
【0015】図2は、本発明の第2実施例の高速原子線
源の説明図である。第1実施例と異なっているのは、交
流放電部を形成する2個の電極が板状ではなく、リング
状電極22a,28aである。その他の構成要素は第1
実施例と同様であり、同一又は相当の構成要素には同一
の符号を付してその説明を省略する。上述したようなリ
ング状電極22a,28a間に印加される高周波電圧に
よっても、ガス5は低電圧でプラズマ状態27が形成さ
れ、電極21,22a間の直流放電部に供給される。直
流放電部では、低電圧で高密度のプラズマ6が形成さ
れ、高速原子線8が原子放出孔7を通って放出され、か
つエネルギーの低い高速原子線8が同様に得られる。
【0016】このように、高周波電界による放電部を形
成する2個の電極の構造は、第1実施例のような板状電
極22,28でもよいし、第2実施例のようなリング状
電極22a,28aでもよい。又、高周波電界による放
電部を形成する電極の片側を板状電極として、他の片側
をリング状電極とすることもできる。又、電極の構造
は、リング状或いは板状に限られず、ガス5又はプラズ
マを流通することができるものであれば何でもよい。
【0017】尚、上記実施例のような高周波電圧による
放電に限らず、パルス状の印加電圧、或いは低周波の交
流電圧の印加によっても、同様に2個の電極間に高密度
プラズマを形成できる。交流電圧を放電部に印加するこ
とにより、電圧がくり返し印加されるので、電極間空間
に残存したイオンや電子が加速され、ガスや電極等と衝
突し、2次電子の放出効果が強まり、放電電圧を低減す
る効果を生じる。
【0018】磁場を備えると、放電電圧の低減、高密度
プラズマの形成を一層容易にすることができる。縦磁場
は、図1、2の実施例では、電極面に垂直な方向に磁力
線が存在するものである。縦磁場は、例えば外筒23の
外筒にコイルを巻回して通電することによって形成する
ことができる。横磁場は、電極面に平行な方向に磁力線
が存在する場合である。横磁場は、例えば外筒23の両
側に外筒23を挟むようにN極とS極の永久磁石を配置
することによって形成することができる。多極性(マル
チポール)磁場は、放電部外周に、置かれたいくつかの
棒を想定し、その棒を中心に磁界が発生している様な磁
場が放電部に存在する形式である。縦磁場、横磁場、多
極性(マルチポール)磁場のいづれも、放電部(電極
間)における、電子とイオンの運動行程を活性化して、
ガスとの衝突回数を増すことにより、一層放電電圧を下
げ、高密度プラズマを生成することができる。
【0019】
【発明の効果】本発明による交流電圧を用いた高速原子
線源では、従来の直流電圧のみを用いた高速原子線源と
比較して放電電圧を低くでき、低エネルギーの高速原子
線を放出することができる。又、例えばフィラメントを
利用する熱電子放出に比べると、放電部における外乱や
ガスの不純物を小さくすることができる。エネルギーの
低い粒子線は、固体に衝突した際に大きなダメージを与
えること無く、固体表面を削り、あるいは変性させ得る
のが特徴で、半導体の微細加工、分析等に重用可能であ
る。特に高速原子線は電気的に中性であるが故に、金
属、半導体ばかりでなく、イオンビーム法が不得意とす
るプラスチック、セラミックスなどの絶縁物を対象とす
る場合にもその威力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例の高速原子線源の構造の説
明図。
【図2】本発明の第2実施例の高速原子線源の構造の説
明図。
【図3】従来の高速原子線源の構造の説明図。
【符号の説明】
1 円筒形陰極 2 ドーナッツ状の陽極 3 直流高圧電源 4 ガスノズル 5 アルゴンガス 6,27 プラズマ 7 原子放出孔 8 高速原子線 21 板状陰極 22,22a 電極 28,28a 電極
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H05H 3/02 G21K 1/00 G21K 5/04 G21K 1/14 H01J 27/00 H01J 37/08

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 多数の原子放出孔を有する板状電極と、
    前記板状電極にそれぞれ対向して配置された放電部を形
    成する2個の電極と、該2個の電極間に交流電圧を印加
    する電源と、前記板状電極と該対向する電極間に直流電
    圧を印加する電源と、前記板状電極及び該2個の電極間
    に放電を起こすガスを導入するガス導入部とから構成さ
    れることを特徴とする高速原子線源。
  2. 【請求項2】 前記放電部に印加する交流電圧は、高周
    波電圧であることを特徴とする請求項1記載の高速原子
    線源。
  3. 【請求項3】 前記高速原子線源において、前記放電部
    に縦磁場を備えることを特徴とする請求項1乃至2記載
    の高速原子線源。
  4. 【請求項4】 前記2個の放電部を形成する電極は、そ
    れぞれ板状であり、該板状電極には流通孔を有すること
    を特徴とする請求項1乃至記載の高速原子線源。
  5. 【請求項5】 前記2個の放電部を形成する電極は、そ
    れぞれリング状であることを特徴とする請求項1乃至
    記載の高速原子線源。
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