JP3202310B2 - 大入熱溶接熱影響部靱性の優れた建築用耐火鋼板の製造法 - Google Patents

大入熱溶接熱影響部靱性の優れた建築用耐火鋼板の製造法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は建築、土木および海洋構
造物等の分野において各種構造物に用いる厚み50mm
以上の、特にエレクトロスラグ溶接などの大入熱溶接
(溶接入熱=500〜1500kJ/cm)における熱
影響部(HAZ)の靱性が優れた耐火鋼板の製造法に関
する。
【0002】
【従来の技術】一般に低合金鋼のHAZ靱性は、(1)
結晶粒のサイズ、(2)高炭素島状マルテンサイト、上
部ベイナイト(Bu)などの硬化相の分散状態、(3)
粒界脆化の有無、(4)元素のミクロ偏析など種々の冶
金学的要因に支配される。なかでもHAZの結晶粒のサ
イズは低温靱性に大きな影響を与えることが知られてお
り、HAZ組織を微細化するために数多くの技術が開
発、実用化されている。TiNなど高温でも比較的に安
定な窒化物を鋼中に微細分散させ、これによってHAZ
のオーステナイト(γ)粒の粗大化を抑制する技術は特
に有名である。しかしHAZの1400℃以上に加熱さ
れる領域では、TiNは粗大化もしくは溶解し、γ粒の
粗大化抑制能力は消失する。このため溶融線近傍での靱
性劣化が大きく、HAZの全域で安定して高靱性を得る
ことができない。すなわち溶融線近傍に切欠を入れたシ
ャルピー試験において頻度は少ないが、低い値が出現し
溶接構造物の安全性の観点から好ましくない。これに対
しTi酸化物(主としてTi23)を微細分散させた鋼
(特願昭59−203099号)は溶融線近傍でも粒内
アシキュラーフェライト(以下IGFと呼ぶ)を生成さ
せることによりHAZ組織を小さくすることができ、T
iN鋼に比較して優れた低温靱性が得られる。しかし、
特開平2−77523号の公報等で示されている耐火鋼
板ではMo含有量が高く、特に大入熱溶接(溶接入熱=
500〜1500kJ/cm)の場合ではIGFが生成
しにくく、この方法でも十分なHAZ靱性が得られな
い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は大入熱溶接に
おいてHAZ靱性の極めて優れた耐火鋼板を安価に製造
する技術を提供するものである。本発明法で製造した鋼
は、大入熱溶接時に溶融線近傍においてもHAZ組織が
微細化し、HAZの全域で優れた低温靱性を示す。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は前述の課題を克
服し目的を達成するもので、その具体的手段を下記
(1)、(2)に示す。 (1)重量比でC 0.05〜0.12%、Si 0.
6%以下、Mn 0.8〜1.6%、P 0.03%以
下、S 0.005%以下、Mo 0.48〜0.80
%、Ti 0.005〜0.025%、Al 0.00
5%以下、N 0.001〜0.004%、O 0.0
01〜0.006%を含有し、残部が鉄および不可避的
不純物からなる実質的にAlを含有しない鋼を1000
〜1150℃の温度域で再加熱後、900℃以下の累積
圧下率が30%以上となるように圧延を行った後、75
0℃以上の温度から3〜40℃/秒の冷却速度で350
〜650℃の温度範囲まで冷却し、その後空冷すること
を特徴とする厚み50mm以上(好ましくは50〜10
0mm)の大入熱溶接熱影響部靱性の優れた建築用耐火
50kgf/mm2級鋼板の製造法。 (2)重量比でC 0.05〜0.12%、Si 0.
6%以下、Mn 0.8〜1.6%、P 0.03%以
下、S 0.005%以下、Mo 0.48〜0.80
%、Ti 0.005〜0.025%、Al 0.00
5%以下、N 0.001〜0.004%、O 0.0
01〜0.006%、さらにNb 0.003〜0.0
1%、V 0.003〜0.03%、Ni 0.05〜
1.0%、Cu 0.05〜1.0%、Cr 0.05
〜1.0%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物か
らなる実質的にAlを含有しない鋼を1000〜115
0℃の温度域で再加熱後、900℃以下の累積圧下率が
30%以上となるように圧延を行った後、750℃以上
の温度から3〜40℃/秒の冷却速度で350〜650
℃の温度範囲まで冷却し、その後空冷することを特徴と
する厚み50mm以上(好ましくは50〜100mm)
の大入熱溶接熱影響部靱性の優れた建築用耐火50kg
f/mm2級鋼板の製造法。(3)鋼成分が、重量比でさらに、Ca:0.001〜
0.006%を含有したことを特徴とする前記(1)ま
たは(2)記載の板厚50mm以上の大入熱溶接熱影響
部靱性の優れた建築用耐火鋼板の製造法にある。
【0005】
【作用】以下、本発明について説明する。溶接構造用圧
延鋼材(JIS G3106)に規定する性能と600
℃の高温での高い耐力を維持し、かつ大入熱溶接熱影響
部の靱性を向上させるには、鋼成分と共に組織の微細化
を行うことが重要である。本発明の特徴は適量のMoを
添加し、さらにTi、N、OによりTi23、TiNを
鋼中に微細分散させた鋼片を1000〜1150℃の温
度域で再加熱後、900℃以下の累積圧下率が50%以
上となるように圧延を行った後、750℃以上の温度か
ら3〜40℃/秒の冷却速度で350〜650℃の温度
範囲まで冷却し微細なフェライト−ベイナイト組織にし
て、耐火性と優れた大入熱溶接HAZ靱性を同時に得る
ことにある。
【0006】Moは微細な炭窒化物を形成し、さらに固
溶体強化によって高温強度を増加させるために、耐火性
を確保するために必須の元素である。しかしながらMo
量が高すぎると溶接性及びHAZ靱性が劣化するので、
その含有量の上限は0.80%とする必要がある。とこ
ろがMo単独添加だけでは、600℃という高温領域に
おいて十分な耐力が得ることは難しい。そこで組織をフ
ェライト−ベイナイト組織にすることが、該高温領域に
おける耐力を増加させるのに有効である。故に高い高温
強度、低温靱性及び優れたHAZ靱性を得るためには、
鋼板の製造条件も適切にする必要がある。Mo添加によ
る高温強度の増加を図るには、Moを再加熱時に溶体化
させる必要がある。このため再加熱温度の下限を100
0℃とする。再加熱温度が高すぎると結晶粒が大きくな
って低温靱性が劣化するので、その上限は1150℃に
しなければならない。
【0007】続いて圧延では900℃以下の累積圧下率
を30%以上とすることが必須である。これはγ粒を微
細化して優れた低温靱性を得るためである。圧延に続く
鋼板の冷却条件は750℃以上の温度から3〜40℃/
秒の冷却速度で350〜650℃の温度範囲まで加速冷
却を行う必要がある。750℃未満の温度から冷却した
場合にはフェライト主体組織となり、十分な高温強度が
得られないためである。冷却速度を3℃/秒以上とする
のは、組織をフェライト−ベイナイト化するために必要
な最小の冷却速度である。また40℃/秒を超える冷却
速度で冷却した場合には、マルテンサイトが多量に生成
し十分な高温強度が確保できないためである。冷却停止
温度の下限を350℃にした理由は、それ以下の温度ま
で加速冷却を行うと島状マルテンサイトなどの低温変態
生成物により靱性の劣化を招くためである。また冷却停
止温度の上限を650℃にしたのはそれ以上の温度では
適量のベイナイト組織を得ることができないためであ
る。なおMo添加量の下限は、600℃で十分な耐力を
確保するため、その下限を0.35%とする必要があ
る。
【0008】つぎに本発明におけるMo以外の成分限定
理由について説明する。Cは本発明鋼のようなフェライ
ト−ベイナイト組織では、高温強度に対して重要な元素
であり、0.05%以上の添加により高温強度は増大す
る。このため下限は0.05%とする。またC量が多す
ぎると大入熱溶接HAZ部でIGFが生成しなくなるた
め0.12%を上限とする。Siは脱酸上鋼に含まれる
元素でSi量が多くなると溶接性、HAZ靱性が劣化す
るため、その上限を0.6%とした。Mnは強度、靱性
を確保するうえで不可欠の元素であり、その下限は0.
8%である。しかしMn量が多すぎると焼入性が増加し
て溶接性、HAZ靱性が劣化するためMnの上限を1.
6%とした。Alは一般に脱酸上鋼に含まれる元素であ
るが、本発明では好ましくない元素であり0.005%
以下と限定した。これはAlが鋼中に含まれていると酸
素と結合してTi酸化物が生成しなくなるためである。
Si及びTiによっても脱酸は行われるので本発明鋼に
ついてはAlは少ないほど良く、0.003%以下が望
ましい。
【0009】Tiはその酸化物を生成させるために0.
005%以上が必要であり、0.025%を超えるとT
iCの生成によるHAZ靱性の劣化を招くため、0.0
05〜0.025%に限定する。NはTiNを確保する
ために必要な元素で、最低量を確保するため0.001
%以上が必要であり、N量が多くなると固溶NによるH
AZ靱性の劣化を招くため、その範囲を0.001〜
0.004%とした。OはTi23を生成させるために
BR>必要な元素で、その最低必要量は0.001%であ
り、0.006%を超えると鋼の清浄度、靱性の劣化を
招くので、0.001〜0.006%に限定する。な
お、本発明鋼は不可避的不純物としてP及びSを含有す
る。P、Sは高温強度に与える影響は小さいのでその量
について特に限定しないが、一般に靱性、板厚方向強度
等に関する鋼の特性は、これらP、Sの量が少ないほど
向上する。望ましいP、S量はそれぞれ0.03%、
0.005%以下である。本発明鋼の基本成分は以上の
とおりであり、十分に目的を達成できるが、さらに目的
に対し特性を高めるため、以下に述べる元素即ちNb、
V、Ni、Cu、Cr、Caを選択的に添加すると強
度、靱性の向上について、さらに好ましい結果が得られ
る。
【0010】つぎに、前記添加元素とその添加量につい
て説明する。Nbは微細な炭窒化物を形成し、高温強度
を増加させる。しかし、0.003%以下では効果がな
く0.01%を超えると大入熱溶接HAZ靱性に好まし
くない影響がある。VはNbとほぼ同じ効果をもつ元素
であり、高温耐力に対する効果はNbに比較して小さい
が0.03%以下では効果がなく0.03%を超えると
HAZ靱性に好ましくない影響がある。つぎに、Niは
溶接性、HAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく、母材の
強度、靱性を向上させるが、0.005%以下では効果
が薄く、1.0%以上では極めて高価になるため経済性
を失うので、上限は1.0%とした。
【0011】CuはNiとほぼ同様な効果を持つほか、
Cu析出物による高温強度の増加や耐食性や耐候性の向
上にも効果を有する。この場合Cu量が0.5%以上
で、その効果が著しい。しかし、Cu量が1.0%を超
えると熱間圧延時にCu割れが発生し製造が困難にな
り、また0.05%以下では効果がないのでCu量は
0.05〜1.0%に限定する。Crは母材および溶接
部の強度を高める元素であり、Cr量が0.5%以上で
耐候性も向上するが、1.0%を超えると溶接性やHA
Z靱性を劣化させ、また0.05%以下では効果が薄
い。従ってCr量は0.05%〜1.0%とする。Ca
は硫化物(MnS)の形態を制御し、シャルピー吸収エ
ネルギーを増加させ低温靱性を向上させる効果がある。
しかしCa量は0.001%未満では実用上効果がな
く、0.006%を超えるとCaO、CaSが多量に生
成して大型介在物となり、鋼の靱性のみならず清浄度も
害し溶接性、耐ラメラテア性にも悪影響を与えるので、
Ca添加量の範囲を0.001〜0.006%とする。
【0012】
【実施例】周知の転炉、連続鋳造、厚板工程により鋼板
を製造し、常温と600℃の強度及び母材の低温靱性を
調査した。表1の1〜10に本発明鋼、11〜25に比
較鋼の化学成分を示す。表2に本発明鋼と比較鋼の鋼板
製造条件とその機械的性質を示す。表2の本発明鋼1〜
10は、600℃の降伏強度が常温の規格降伏強度の7
0%以上を有しているとともに、優れた母材の低温靱性
が得られ、優れた大入熱溶接HAZ靱性が得られてい
る。
【0013】これに対し比較鋼11ではC量が少ないた
めに、600℃の降伏強度が低く、常温の規格降伏強度
に対する600℃の降伏強度の割合が70%に達しな
い。比較鋼12ではC量が多いために、HAZ靱性が低
い。比較鋼13ではMoの量が少ないために、600℃
の降伏強度が低く、常温の規格降伏強度の70%に達し
ない。比較鋼14ではMoの量が多いためにHAZ靱性
が低い。比較鋼15ではTiの量が少なく、また比較鋼
16ではTiの量が多すぎ、共にHAZ靱性が低い。比
較鋼17ではAlの量が多いためTi酸化物が生成せ
ず、HAZ靱性が低くなっている。比較鋼18では再加
熱温度が低く十分にMoの固溶が図られなかったため、
600℃の降伏強度が常温の規格降伏強度の70%に達
しない。比較鋼19では再加熱温度が高すぎ組織の粗大
化を招き、母材の低温靱性の劣化並びにHAZ靱性が低
下している。比較鋼20では900℃以下の累積圧下率
が低く、圧延による組織の細粒化が十分行われず、母材
の低温靱性の劣化並びにHAZ靱性が低下している。
【0014】比較鋼21では水冷開始温度が低くフェラ
イト量が多くなりすぎ、600℃の降伏強度が常温の規
格降伏強度の70%に達しない。比較鋼22では水冷停
止温度が低く島状マルテンサイトが生成し、母材の低温
靱性が劣化している。比較鋼23では水冷停止温度が高
いためベイナイト量が少なく、600℃の降伏強度が常
温の規格降伏強度の70%に達しない。比較鋼24では
冷却速度が低くベイナイト組織が生成せず、600℃の
降伏強度が常温の規格降伏強度の70%に達しない。比
較鋼25では冷却速度が高く多量のマルテンサイトが生
成し、母材の低温靱性が劣化している。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【発明の効果】本発明の化学成分及び製造法で製造した
厚鋼板、形鋼、棒鋼などの鋼材は高い600℃の降伏強
度、優れた低温靱性と優れた大入熱溶接HAZ靱性を有
する鋼であり、建築、土木、海洋構造物の安全性を大き
く高めることができる。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−207812(JP,A) 特開 平3−236420(JP,A) 特開 平5−112823(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 8/00 - 8/10 C22C 38/00 - 38/60

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量比で C :0.05〜0.12%、 Si:0.6%以下、 Mn:0.8〜1.6%、 P :0.03%以下、 S :0.005%以下、 Mo:0.48〜0.80%、 Ti:0.005〜0.025%、 Al:0.005%以下、 N :0.001〜0.004%、 O :0.001〜0.006% を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる実質
    的にAlを含有しない鋼を1000〜1150℃の温度
    域で再加熱後、900℃以下の累積圧下率が30%以上
    となるように圧延を行った後、750℃以上の温度から
    3〜40℃/秒の冷却速度で350〜650℃の温度範
    囲まで冷却し、その後空冷することを特徴とする板厚5
    0mm以上の大入熱溶接熱影響部靱性の優れた建築用耐
    火鋼板の製造法。
  2. 【請求項2】 重量比で C :0.05〜0.12%、 Si:0.6%以下、 Mn:0.8〜1.6%、 P :0.03%以下、 S :0.005%以下、 Mo:0.48〜0.80%、 Ti:0.005〜0.025%、 Al:0.005%以下、 N :0.001〜0.004%、 O :0.001〜0.006% さらに Nb:0.003〜0.01%、 V :0.003〜0.03%、 Ni:0.05〜1.0%、 Cu:0.05〜1.0%、 Cr:0.05〜1.0% の1種または2種以上を含有し、残部が鉄および不可避
    的不純物からなる実質的にAlを含有しない鋼を100
    0〜1150℃の温度域で再加熱後、900℃以下の累
    積圧下率が30%以上となるように圧延を行った後、7
    50℃以上の温度から3〜40℃/秒の冷却速度で35
    0〜650℃の温度範囲まで冷却し、その後空冷するこ
    とを特徴とする板厚50mm以上の大入熱溶接熱影響部
    靱性の優れた建築用耐火鋼板の製造法。
  3. 【請求項3】 鋼成分が、重量比でさらに、Ca:0.
    001〜0.006%を含有したことを特徴とする請求
    項1または2記載の板厚50mm以上の大入熱溶接熱影
    響部靱性の優れた建築用耐火鋼板の製造法。
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