JP3200159B2 - 消耗電極式ガスシールドアーク溶接の溶接状態検出方法および溶接装置 - Google Patents

消耗電極式ガスシールドアーク溶接の溶接状態検出方法および溶接装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、消耗電極式ガスシール
ドアーク溶接の溶接状態検出方法およびその溶接装置に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】ワイヤを略定速度で送給し、短絡とアー
クを交互に繰返しながら溶接をするCO2あるいはマグ
溶接では、安定なアークを維持するために、アークの状
態を検出しながら各種の制御を行っている。例えば、特
開昭60−162577号公報(以下、第1の従来技術
という)には、溶接電圧を電圧計により測定することに
より短絡期間とアーク期間とを判別し、それぞれの期間
における溶接電流と溶接電圧波形の観測結果を所定の関
数で演算し、演算した値が最小となるように出力電圧を
設定する技術が開示されている。また、特開昭62−2
8075公報(以下、第2の従来技術という)には、
接電流波形が基準電流波形に一致するように制御して
定なアークとする技術が開示されている。さらに、特開
昭61−216858号公報(以下、第3の従来技術と
いう)には、出力回路に2次巻線を備える直流リアクタ
を配置し、2次巻線のリアクタンスとその端子間電圧と
から電流の時間的変化を演算し、その結果をインバータ
回路にフィードバックすることにより電源の出力を制御
して安定なアークとする技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記第1の従
来技術場合、出力側回路の負荷の大きさは一様ではない
から、すなわち例えば延長ケーブルを使用すると検出さ
れる溶接電圧の値が変化するから、トーチに制御線を設
けなければならないし、電流が大きくなると、電圧も大
きくなるため(電圧はインピーダンスと電流の積であ
る。)、電流値によって変える必要がある。また、上記
第2の従来技術の場合、基準電流波形を記憶し比較する
ための記憶・演算装置を別に設ける必要がある。なお、
上記第3の従来技術の場合、2次巻線の端子間電圧を利
用してはいるものの短絡期間とアーク期間を判別するこ
とは考慮されていない。本発明の目的は、上記した課題
を解決し、特別な装置を設けることなく、かつ、より正
確に短絡期間とアーク期間を判別することができる消耗
電極式ガスシールドアーク溶接の溶接状態検出方法およ
びその方法を実行するための溶接装置を提供することに
ある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決する
ため、請求項1の発明は、ワイヤを略定速度で送給し、
出力回路に接続された直流リアクタに発生する端子間電
圧の測定値を用いて、交互に繰返される短絡期間とアー
ク期間を判別するようにした消耗電極式ガスシールドア
ーク溶接の溶接状態検出方法において、前記測定値が負
の場合は短絡期間、前記測定値が正または0の場合はア
ーク期間とすることを特徴とする。また、請求項2の発
明は、ワイヤを略定速度で送給し、出力回路に接続され
た直流リアクタに発生する端子間電圧を測定しながら、
短絡期間とアーク期間を交互に繰返して溶接をする消耗
電極式ガスシールドアーク溶接の溶接装置において、比
較手段を設け、測定した端子間電圧の測定値と0とを比
較することにより、短絡期間とアーク期間を判別するこ
とを特徴とする。
【0005】
【作用】インダクタンスがL2である直流リアクタの端
子間に誘起される電圧e2は、溶接電流の時間的変化d
i/dtを用いて、式1で表わすことができる。 e2=−L2・di/dt 式1 ところで、短絡とアークを交互に繰返す消耗電極式ガス
シールドアーク溶接では、短絡期間中は電流が増加し、
アーク期間中は電流が減少する。すなわち、短絡期間中
のdi/dtは正、アーク期間中のdi/dtは負とな
る。したがって、直流リアクタの端子間の電圧e2が0
よりも小さいときは短絡期間、e2が0以上のときはア
ーク期間と判断できる。
【0006】図1は、本発明を適用して溶接電圧を自動
的に選定するように構成した溶接装置の一構成例図であ
る。同図において、1は商用交流を直流に変換するため
の入力側整流器、2はパワー半導体素子で構成されたイ
ンバータ回路で、上記直流を高周波交流に変換する。3
は溶接トランスでその入力側はインバータ回路2に接続
されている。4は溶接トランス3の出力側に接続された
出力側整流器で、上記インバータ回路2で作り出す高周
波交流を再び直流に変換する。5は直流リアクタで、出
力側整流器4で整流された直流出力を平滑する。なお、
直流リアクタ5は2次巻線5aを備えており、2次巻線
5aのインダクタンスはL2である。6はワイヤで、ワ
イヤ送給装置7により溶接部に供給される。8は母材。
9は溶接電流設定器で、ワイヤ6の送給速度を設定する
ためのものである。なお、インバータ回路2は外部特性
が定電圧特性となるように制御される。10は出力電圧
設定器で、出力電圧V0を設定するためのものである。
11は加減算回路で、出力電圧設定器10で設定される
出力電圧V0と、後述するファジィ制御器22から出力
される出力電圧の操作量△Vとを合成し、その結果をパ
ルス幅制御回路12に出力する。パルス幅制御回路12
は加減算回路11からの信号に基づき駆動回路13を介
してインバータ回路2の出力を制御する。
【0007】14は検出器で、2次巻線5aの端子間に
誘起される電圧を検出する。15は電圧検出器14のサ
ンプリング条件設定器。16は判定基準設定器。17は
短絡かアークかを判定する判定器で、サンプリング条件
設定器15で設定されるサンプリング間隔およびサンプ
リング時間に従って、検出器14で検出された電圧と
定基準設定器16で設定された値とを比較する。なお、
本実施例の場合、判定基準設定器16で設定する値は0
である。そして、判定器17は、e2<0のときには短
絡期間であることの判定信号をTs測定器18へ、また
2≧0のときには、アーク期間であることの判定信号
をTa測定器19へ、それぞれ出力する。上記Ts測定器
18およびTa測定器19は、短絡とアークが交互に繰
返される各短絡周期毎に、それぞれの時間の計測値(T
sおよびTaの値)を、短絡期間の標準偏差sTsの演算
器20ならびにアーク期間の標準偏差sTaの演算器21
へ入力する。なお、演算器20は、上記Ts測定器18
の出力を用いて、Tsの総和ΣTsおよびTsの平方和
ΣTs2の演算、ならびにTsの個数Nのカウントを行
い、標準偏差sTsの値を下記の式2により算出し、その
値をファジィ制御器22へ出力する。演算器21も上記
演算器20と同様にして標準偏差sTaの値を下記の式3
により算出し、その値をファジィ制御器22へ出力す
る。
【0008】
【数1】
【0009】
【数2】
【0010】設定器23は、ファジィ推論の前件部を構
成する因子である標準偏差sTs、sTaおよび後件部を構
成する因子△V(出力電圧操作量)のファジィ変数、な
らびにこれらの因子についての推論規則を入力するため
のものである。そして、ファジイ制御器22は、上記設
定器23により設定されるファジィ変数と推論規則に基
づき、入力された標準偏差sTsおよび標準偏差sTaの推
論規則への適合度を求め、その適合度に見合った推論結
果を各規則ごとに算出する。そして、各推論規則ごとに
得られた推論結果を総合し、全体としての推論結果△V
を重心法で求め、上記加算回路11へ出力する。なお、
24は表示器で、得られた出力電圧設定値の増減値を表
示する。
【0011】以下、ファジィ制御器22における推論方
法をさらに詳しく説明する。 (1)ワイヤ先端に形成される溶滴の母材への移行形態
が短絡移行の場合。溶滴の移行形態が短絡移行の場合、
ワイヤ送給速度は比較的遅く、溶接電流は比較的小さ
い。そして、この時の標準偏差sTsおよび標準偏差sTa
は、アーク電圧に応じてそれぞれ図2および図3に示す
ように変化する。そこで、標準偏差sTsおよび標準偏差
Taおよび出力電圧の操作量△Vのファジィ変数を、そ
れぞれ図4〜図6のように定めるとともに、表1に示す
合計15個の推論規則を設定する。
【0012】
【表1】
【0013】なお、表1における推論規則のうち、
1,R2,R3を代表例にとり、以下に説明する。な
お、括弧内の記号は表1に示すものである。 R1; もしsTsが小さく(S)、かつsTaがやや小さ
い(SM)ときには出力電圧を変化させない(△V=Z
0) R2; もしsTsが小さく(S)、かつsTaが極めて大
きい(BB)ときには出力電圧を大幅に低下させる(△
V=NB) R3; もしsTsが大きく(B)、かつsTaがやや大き
い(MB)ときには出力電圧を大幅に上昇させる(△V
=PB) すなわち出力電圧設定器10で設定された出力電圧V0
が適正電圧に対して低過ぎた場合、上記図2および図3
に示したように、sTsの値が大きくまたsTaの値がやや
大きくなるため、上記の推論規則R3が適用されて出力
電圧を大幅に上昇させるという推論結果(△V=PB)
を得る。また、出力電圧設定器10で設定された出力電
圧V0が適正であった場合、sT sの値が小さくまたsTa
の値がやや小さくなるため、上記の推論規則R1が適用
され、出力電圧を変化させないという推論結果(△V=
Z0)を得る。さらに、出力電圧設定器10で設定され
た出力電圧V0が適正電圧に対して高過ぎた場合、sTs
の値が小さくまたsTaの値が極めて大きくなるため、上
記推論規則R2が適用され、出力電圧を大幅に低下させ
るという推論結果(△V=NB)を得る。なお、その他
のケースの場合も上記R1,R2,R3の場合と同様に、
出力電圧の設定値が適正電圧より低い場合には、適正電
圧からのズレ量に応じた出力電圧の増加量が、また出力
電圧の設定値が適正電圧より高い場合には、その程度に
応じた出力電圧の減少量がファジィ推論結果△Vとして
与えられる。すなわち、当初の出力電圧の設定がどのよ
うな値であっても、その設定値のもとで所定の時間テス
ト溶接を行い、その時のsTsおよびsTaの値を用いて上
述のファジィ推論を行えば、出力電圧を常に適正な値に
設定できる。
【0014】(2)ワイヤ先端に形成される溶滴の母材
への移行形態がグロビュール移行の場合。溶滴の移行形
態がグロビュール移行の場合、ワイヤ送給速度は比較的
速く、溶接電流は中程度ないし比較的大きい。そして、
この時の標準偏差sTsおよび標準偏差sTaは、アーク電
圧に応じてそれぞれ図7および図8に示すように変化す
る。そこで、標準偏差sTsおよび標準偏差sTaおよび出
力電圧の操作量△Vのファジィ変数を、それぞれ図9〜
図11のように定めるとともに、表2に示す推論規則を
設定すると、上記(1)の短絡移行の場合と同様に、当
初の出力電圧の設定がどのような値であっても、その設
定値のもとで所定の時間テスト溶接を行い、その時のs
TsおよびsTaの値を用いて上述のファジィ推論を行え
ば、出力電圧を常に適正な値に設定できる。
【0015】
【表2】
【0016】以下(A),(B)に、良好な結果が得ら
れたファジィ変数の例を、図4〜6ならびに図9〜11
に基づいて示す。 (A)溶滴の母材への移行形態が短絡移行の場合。な
お、ワイヤ送給速度は3m/minである。図4におい
て、a1=1.2ms、a2=1.5ms、a3=2.0m
s、a4=2.4ms、a5=2.7ms、a6=3.2m
s、a7=3.5ms、図5において、b1=−0.3m
s、b2=0.5ms、b3=3.0ms、b4=3.8m
s、b5=4.7ms、b6=7.2ms、b7=b8=8.
0ms、b9=11.3ms、b10=13.0ms、b11
=15.5ms、b12=18.0ms、b13=19.7m
s図6において、c1=c2=−6.5V、c3=c4=c5
=−4.3V、c6=c7=c8=−2.2V、c9=c10
11=0V、c12=c13=c14=2.2V、c15=c16
=c17=4.3V、c18=c19=6.5V (B)溶滴の母材への移行形態がグロビュール移行の場
合。なお、ワイヤ送給速度は7.5m/minである。
図9においてa´1=1.3ms、a´2=1.4ms、a´
3=a´4=a´5=1.6ms、a´6=1.8ms、a´7
=1.9ms図10においてb´1=6ms、b´2=7m
s、b´3=10ms、b´4=12ms、b´5=13m
s、b´6=17ms、b´7=18ms、b´8=20m
s、b´9=23ms、b´10=24ms、b´11=25m
s、b´12=28ms、b´13=29ms図11において
c´1=c´2=−4.3V、c´3=c´4=c´5=−
2.2V、c´6=c´7=c´8=0V、c´9=c´10
=c´11=2.2V、c´12=c´13=c´14=4.3
V、c´15=c´16=6.5Vのようである。そして、
この構成例では、表示器24を設けたから、同一の溶接
作業を引き続き行う場合、表示器24の表示に合わせて
出力電圧の設定値を変更すれば、初めから適切な溶接が
できる。
【0017】なお、上記したように、外部特性が定電圧
特性の場合、短絡期間中は電流が増加し、アーク期間中
は電流が減少する。しかし、図12に示すように、アー
ク期間の後半ではアーク長が短くなることにより、電源
の自己制御作用に基づいたゆるやかな電流増加を生じる
場合がある。ここで、アーク期間の後半に生じる溶接電
流の時間的増加率は数十A/msであり、一方、短絡期
間中の溶接電流の時間的増加率は数百A/msであるか
ら、無視しても実用上問題はない。しかし、アーク期間
の後半に生じる電流の時間的変化、すなわちdi/dt
を予め実測するか、あるいは上記したようにアーク期間
の後半に生じる溶接電流の時間的増加率は数十A/ms
であり、一方、短絡期間中の溶接電流の時間的増加率は
数百A/msであるから、アーク期間の後半に生じる溶
接電流の時間的増加率よりも大きい値例えば100A/
msとし、上記式1を用いて定基準設定器16で設定
する値αを定めることが出来る。そして、e2<αのと
きには短絡期間であることの判定信号をTs測定器18
へ、またe2≧αのときには、アーク期間であることの
判定信号をTa測定器19へ、それぞれ出力するように
すれば短絡期間とアーク期間の判定をさらに正確にする
ことができる。
【0018】以上、2次巻線5aを備えた直流リアクタ
5を用いる場合について説明したが、直流リアクタとし
ては2次巻線を持たないものであっても良い。しかし、
直流リアクタの端子間電圧を用いる場合、2次巻線を利
用する場合に比較してノイズによる影響を受けやすいこ
とに注意する必要がある。
【0019】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
特別な装置を設けることなく、かつ、より正確に短絡期
間とアーク期間を判別することができるという効果があ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するための溶接装置の構成例。
【図2】短絡移行領域における標準偏差sTsとアーク電
圧の関係を示す図。
【図3】短絡移行領域における標準偏差sTaとアーク電
圧の関係を示す図。
【図4】短絡移行領域を対象としたsTsのファジィ変数
の一例。
【図5】短絡移行領域を対象としたsTaのファジィ変数
の一例。
【図6】短絡移行領域を対象とした△Vのファジィ変数
の一例。
【図7】グロビュール移行領域におけるsTsとアーク電
圧の関係を示す図。
【図8】グロビュール移行領域におけるsTaとアーク電
圧の関係を示す図。
【図9】グロビュール移行領域を対象としたsTsのファ
ジイ変数の一例。
【図10】グロビュール移行領域を対象としたsTaのフ
ァジイ変数の一例。
【図11】グロビュール移行領域を対象とした△Vのフ
ァジイ変数の一例。
【図12】電流波形の一例を示す図。
【符号の説明】
2 インバータ回路 5 直流リアク
タ 6 ワイヤ 10 出力電圧設
定器 11 加減算回路 12 パルス幅
制御回路 14 電圧検出器 15 サンプリ
ング条件設定器 16 判定電圧設定器 17 判定器 18 Ts測定器 19 Ta測定
器 20,21 演算器 22 フ
ァジィ制御器 23 設定器 24 表示器
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−266178(JP,A) 特開 昭60−64763(JP,A) 実開 平3−80380(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 9/073 B23K 9/095 B23K 9/173

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ワイヤを略定速度で送給し、出力回路に
    接続された直流リアクタに発生する端子間電圧の測定値
    を用いて、交互に繰返される短絡期間とアーク期間を判
    別するようにした消耗電極式ガスシールドアーク溶接の
    溶接状態検出方法において、前記測定値が負の場合は短
    絡期間、前記測定値が正または0の場合はアーク期間と
    することを特徴とする消耗電極式ガスシールドアーク溶
    接の溶接状態検出方法。
  2. 【請求項2】 ワイヤを略定速度で送給し、出力回路に
    接続された直流リアクタに発生する端子間電圧を測定し
    ながら、短絡期間とアーク期間を交互に繰返して溶接を
    する消耗電極式ガスシールドアーク溶接の溶接装置にお
    いて、比較手段を設け、測定した端子間電圧の測定値と
    とを比較することにより、短絡期間とアーク期間を判
    別することを特徴とする消耗電極式ガスシールドアーク
    溶接の溶接装置。
  3. 【請求項3】 出力回路に接続された直流リアクタが2
    次巻線を備える直流リアクタであり、測定する端子間電
    圧を直流リアクタの2次巻線の端子間電圧とすることを
    特徴とする請求項に記載の消耗電極式ガスシールドア
    ーク溶接の溶接装置。
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