JP3197701B2 - 炭素繊維/炭素複合材の炭化ケイ素被覆形成方法 - Google Patents

炭素繊維/炭素複合材の炭化ケイ素被覆形成方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、炭素繊維/炭素複合材
の表層部に炭化ケイ素被覆を形成する方法の改良に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】軽量・高強度でありながら耐熱性、耐酸
化性を備えた材料として炭素繊維/炭素複合材(以下、
C/C材とする)が知られており、近年、航空宇宙分野
において構造用材料として採用される例が増加してい
る。このようなC/C材を宇宙往還機(いわゆる、スペ
ースシャトル)の構造用外皮などとして使用するために
は、大気圏突入時の機械的衝撃及び空力加熱による熱的
衝撃に耐え得るようにC/C材の表層部にSiC(炭化
ケイ素)の被覆を形成しており、このC/C材に炭化ケ
イ素被覆を形成する方法としては従来から炭化ケイ素固
相拡散処理、炭化ケイ素気相拡散処理、炭化ケイ素CV
D処理などが知られている。
【0003】これら従来の炭素繊維/炭素複合材に炭化
ケイ素被覆を形成する方法についてそれぞれ概略を説明
する。
【0004】まず、炭化ケイ素固相拡散処理としては、
例えば図5に示すように、コップ状に成型されたC/C
材のワーク1を炉3の内部に収容したケイ素パウダ4へ
埋め込んでから、炉3の内部を1700〜2000゜C
に加熱するもので、ワーク1のC/C材の表層部の炭素
に接触するケイ素パウダ4のケイ素が拡散反応し、ワー
ク1の表層部が炭化ケイ素に転化して被覆を形成するも
のである。なお、ケイ素パウダ4はケイ素またはSiC
(炭化ケイ素)の粉体、粒子などで構成することができ
る。ここで、加熱温度を1700〜2000゜Cとした
のは、1700゜Cを下まわると反応が遅くなってコー
ティングが不充分であり、一方、2000゜Cを越える
とSiCが分解してしまうからである。
【0005】次に、炭化ケイ素気相拡散処理としては、
図6に示すように、炉3の内部にケイ素パウダ4を収容
する一方、炉3の空間内部にワーク1をケイ素パウダ4
と接触しないよう配設し、炉3の内部を1700〜20
00゜Cに加熱するもので、ケイ素パウダ4中のケイ素
が気化してワーク1の表層部の炭素と接触、反応し、ワ
ーク1の表層部に炭化ケイ素被覆を形成するものであ
る。なお、ケイ素パウダ4をSiO(一酸化ケイ素)な
どで構成してもよく、この場合、次式により炭化ケイ素
被覆が形成される。
【0006】2C+SiO → SiC+CO 一方、炭化ケイ素CVD処理としては、図7に示すよう
に、炉3の空間内部にワーク1を配設するとともに、炉
3の内部を1200〜1300゜Cに加熱し、この炉3
の内部へSiCl4(四塩化ケイ素)等からなる反応ガ
スを圧送することによりワーク1の表層部に炭化ケイ素
を蒸着させて炭化ケイ素の被覆を形成するものである。
【0007】この他、C/C材に炭化ケイ素被覆を形成
する技術に関するものとして、特開昭63−25275
号公報、特開昭63−85073号公報などが知られて
いる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記炭
化ケイ素気相拡散処理または炭化ケイ素ガスCVD処理
においては、装置が複雑になるだけでなく、ワーク1と
反応ガスまたはケイ素ガスを接触させるとき、ワーク1
はコップ状に成型されて一端が封止されているため、ワ
ーク1の内周へ流入するガスに乱れが生じるだけでな
く、ワーク1の内周にはガスと充分に接触できない部分
も生じ、このような場合にはワーク1の内周に形成され
た炭化ケイ素の被覆にはムラが生じてしまう。また、ワ
ーク1が複雑な形状である場合には、ガスの流れの影と
なった部分に炭化ケイ素被覆が形成されないこともあ
る。
【0009】一方、上記炭化ケイ素固相拡散処理におい
ては、ワーク1のすべての表層部がケイ素パウダ4と均
一に接触できるため、ワーク1の表層部に均一な炭化ケ
イ素被覆を形成可能ではあるが、処理終了後にケイ素パ
ウダ4が硬化してワーク1を取り出す際に損傷を与える
可能性があり、さらに、上記従来の方法ではC/C材の
所望の部分のみに炭化ケイ素被覆を形成することが難し
いという問題があった。
【0010】そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなさ
れたもので、複雑な装置を必要とせずに簡易かつ確実に
所望の部分に炭化ケイ素被覆を形成可能な炭素繊維/炭
素複合材の炭化ケイ素被覆形成方法を提供することを目
的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、熱分
解性を備えるとともに熱分解後の残炭率が10%以下の
バインダとケイ素パウダとを混合する工程と、このバイ
ンダとケイ素パウダの混合体を炭素繊維/炭素複合材の
表面の一部ないし全部に塗布する工程と、前記炭素繊維
/炭素複合材を真空中又は不活性雰囲気中で、200〜
600°C/hの温度上昇率で1700〜2000°C
に加熱する焼成工程とからなる。
【0012】
【0013】
【0014】
【作用】請求項1の発明は、熱分解性を備えて熱分解後
の残炭率(炭素含有率、以下同じ)が10%以下のバイ
ンダとケイ素パウダとの混合体をC/C材の表面の一部
ないし全部に塗布したC/C材を真空中又は不活性雰囲
気中で1700〜2000゜Cに加熱する焼成工程を施
すことにより、バインダは熱分解して混合体中のケイ素
とC/C材の炭素が反応して混合体を塗布したC/C材
の所望の表層部へ炭化ケイ素被覆を形成することができ
る。ここで、バインダの残炭率を10%以下としたの
は、このバインダと混合されたケイ素パウダ中のケイ素
とバインダ中の炭素との反応が抑制される一方、ケイ素
パウダ中のケイ素はワークを構成するC/C材の表層部
の炭素と円滑に反応することができ、ワークのC/C材
の表層部は炭化ケイ素に転化され、割れや剥離を生じる
ことなく混合体を塗布したワークに炭化ケイ素被覆を形
成することができる。
【0015】また、前記焼成工程において温度上昇率を
200〜600°C/hとしたため、混合体中のケイ素
パウダが融解してC/C材へ溶け込むのを抑制し、ケイ
素と炭素の反応時の発熱によるC/C材の剥離、割れを
防止して良好な炭化ケイ素被覆を形成することができ
る。ここで、温度上昇率を200〜600°C/hとし
たのは、200°C/hより低い場合にはケイ素が金属
としてC/C材の中に入り込んでしまい、ワークの炭素
と反応して炭化ケイ素が生成されてC/C材の内部で膨
張することによりC/C材が相間剥離を起こしてしま
い、一方、600°C/hを越えるとC/C材への含浸
量が少なくなり、コーティングによる耐熱強度を確保す
るに耐え得るためのコーティング膜厚20〜50μmが
確保されないためである。
【0016】
【0017】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて
説明する。
【0018】図1に示すように、1はC/C材を所定の
深さのコップ状に成型したワークであり、このワーク1
の内周にはバインダとケイ素パウダを予め混合した混合
体2が所定の厚さに塗布される。
【0019】この混合体2は、熱分解性を備えるととも
に熱分解後の残炭率が10%以下のバインダとしてα−
シアノアクリレートを主成分とする接着剤(例えば、商
品名アロンアルファとして市販されている瞬間接着剤)
に所定の割合でケイ素パウダを予め混合したもので、ケ
イ素パウダとしてはカーボランダム(ケイ素炭化物)の
粉末を使用する。
【0020】混合体2はワーク1の所定の内周に塗布さ
れた後に自然乾燥を施す。
【0021】混合体2を乾燥させた後に、ワーク1をア
ルゴン等の不活性気体で満たされた炉中に収容して焼成
処理を行う。なお、炉中は真空であってもよい。
【0022】焼成処理は、図2に示すように、200〜
600゜C/hの温度上昇率で1700〜2000゜Cの
所定の温度にワーク1を加熱する。ワーク1が所定の温
度に到達した時間T1からこの温度を所定の時間(例え
ば、30〜60分間)保持し、ワーク1の温度を均一化
する。所定の時間を経過したT2からは炉中にて所定の
温度(例えば、100゜C)まで冷却し、焼成処理を終
了する。
【0023】この焼成処理において、混合体2のバイン
ダは熱分解するが、α−シアノアクリレートを主成分と
する接着剤の残炭率が10%以下(ここでは6%であっ
た)であるため、このバインダと混合されたケイ素パウ
ダ中のケイ素とバインダ中の炭素との反応が抑制される
一方、ケイ素パウダ中のケイ素はワーク1を構成するC
/C材の表層部の炭素と円滑に反応することができ、ワ
ーク1のC/C材の表層部は炭化ケイ素に転化され、割
れや剥離を生じることなく混合体2を塗布したワーク1
の内周に炭化ケイ素被覆を形成することができる。
【0024】この焼成処理において、温度上昇率が20
0゜C/h未満とした場合、混合体2中のケイ素パウダ
中のケイ素が融解してワーク1の表層部へ溶け込んでし
まい、C/C材の内部で炭素とケイ素が反応し、このと
きの熱膨張によってワーク1の表層部に割れや剥離を生
じてしまう。このため、上記焼成処理においては温度上
昇率を200〜600゜C/hとすることにより、混合
体2中のケイ素の融解を防止することでワーク1の表層
部に生じる割れや剥離を抑制することができるのであ
る。
【0025】こうして、熱分解性を備えるとともに熱分
解後の残炭率が10%以下のバインダとケイ素パウダと
の混合体2をC/C材で構成されたワーク1の所望の部
位に塗布し、乾燥させた後、上記焼成処理を施したた
め、複雑な処理又は装置を必要とせずに簡易かつ確実に
C/C材の所望の部分へ炭化ケイ素被覆を形成すること
が可能となって製造コストの低減を推進することがで
き、前記従来例に示した炭化ケイ素気相拡散処理、炭化
ケイ素CVD処理において炭化ケイ素被覆を形成しにく
い又は形成不能な複雑な形状のワークについても容易か
つ確実に炭化ケイ素被覆を形成することができるのであ
る。
【0026】上記方法によりC/C材のワーク1に炭化
ケイ素被覆を形成した後に、必要に応じてクラックシー
リング(マイクロクラックをガラスで埋める処理)また
は炭化ケイ素CVD処理を施すことにより、さらに品質
の高いC/C材を提供することができる。
【0027】なお、上記ワーク1はコップ状に形成した
内周に炭化ケイ素被覆を形成したが、図3に示すよう
に、平板状のC/C材で形成したワーク10の全面に混
合体2を塗布して上記焼成処理を行えば、ワーク10の
全面に炭化ケイ素被覆を形成することができ、または、
図4に示すように、ワーク10の1部に混合体2を塗布
してから上記焼成処理を行えば、混合体2を塗布したワ
ーク10の部分にのみ炭化ケイ素被覆を形成することが
できる。
【0028】他の実施例として、上記第1の実施例によ
りワーク1の内周に炭化ケイ素被覆を形成した後、前記
従来例の炭化ケイ素気相拡散処理、炭化ケイ素CVD処
理をそれぞれ施すことにより、ワーク1の内周には混合
体2の反応によって形成された炭化ケイ素被覆が、ワー
ク1の外周には炭化ケイ素気相拡散処理、炭化ケイ素C
VD処理によってワーク1と雰囲気との反応による炭化
ケイ素被覆が形成され、上記混合体2の塗布、乾燥後に
焼成処理で形成された炭化ケイ素被覆とワーク1のC/
C材の熱膨張差に起因する内部応力を緩和する応力緩和
傾斜層を形成することができ、上記第1の実施例よりさ
らに緻密な炭化ケイ素被覆を形成することが可能となっ
て、内部欠陥が少ない高強度かつ耐衝撃性の高い高品質
のC/C材を製造することができる。
【0029】さらに他の実施例として、前記図3に示し
た平板状のC/C材で形成されるワーク10の一部に上
記第1実施例と同様に混合体2を塗布、乾燥した後、前
記従来例に示した炭化ケイ素気相拡散処理を施す。
【0030】すなわち、炭化ケイ素気相拡散処理は、図
6に示したように、炉3の内部にケイ素パウダ4を収容
する一方、炉3の空間内部に図3に示すワーク10をケ
イ素パウダ4と接触しないよう配設し、炉3の内部を1
700〜2000゜Cに加熱するもので、ケイ素パウダ
4のケイ素が気化して混合体2を塗布していないワーク
10の表層部の炭素と接触して表層部に炭化ケイ素被覆
を形成する一方、混合体2を塗布したワーク10は17
00〜2000゜Cの加熱によって上記第1実施例の焼
成処理と同様に反応して炭化ケイ素被覆を形成すること
ができ、したがって、ワーク10の全面に炭化ケイ素被
覆が形成されるのである。
【0031】なお、炉3の加熱において、温度上昇率は
上記第1の実施例と同様に200〜600゜C/hに設
定される。
【0032】この方法によれば、複雑な形状のワークで
あっても、炉中の雰囲気と接触しにくい又は接触不能な
部分に混合体2を塗布してから炭化ケイ素気相拡散処理
を行うことにより、炭化ケイ素気相拡散処理と前記焼成
処理を同時に進行させてワーク全体に炭化ケイ素被覆を
ムラなく形成することが可能となり、複雑な形状のワー
クへ炭化ケイ素被覆を形成する際に前記焼成処理を省略
して作業工程を低減することができ、複雑な形状のC/
C材へ確実に炭化ケイ素被覆を形成することが可能とな
る。
【0033】なお、上記実施例において、混合体2を構
成するバインダとしては、α−シアノアクリレートに限
定されることはなく、HTPB(主成分;ポリブタジエ
ン)等の残炭率が10%以下のものをバインダとしても
よく、混合体2を塗布した後の乾燥工程はこのバインダ
の特性に応じて適宜行えばよい。
【0034】また、混合体2を構成するケイ素パウダと
しては、カーボランダムに限定されることはなく、バイ
ンダと混合可能なケイ素またはケイ素の化合物であれば
よい。
【0035】
【発明の効果】以上説明したように請求項1の発明は、
熱分解性を備えて熱分解後の残炭率(炭素含有率)が1
0%以下のバインダとケイ素パウダとの混合体をC/C
材の表面の一部ないし全部に塗布したC/C材を真空中
又は不活性雰囲気中で1700〜2000゜Cに加熱す
る焼成工程を施すことにより、混合体中のケイ素とC/
C材の炭素が熱分解とともに反応するため、複雑な処理
又は装置を必要とせずに混合体を塗布したC/C材の所
望の部分へ炭化ケイ素被覆を確実に形成することが可能
となって製造コストの低減を推進することができ、炭化
ケイ素気相拡散処理、炭化ケイ素CVD処理において炭
化ケイ素被覆を形成しにくい又は形成不能な複雑な形状
のワークについても容易かつ確実に炭化ケイ素被覆を形
成することができる。
【0036】また、前記焼成工程において温度上昇率を
200〜600°/hとしたため、融解したケイ素と炭
素の反応時の発熱によるC/C材の剥離、割れを防止し
て良好な炭化ケイ素被覆を形成することができ、C/C
材の品質を向上することが可能となる。
【0037】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示すC/C材の断面図であ
る。
【図2】同じく焼成工程における温度と時間の関係を示
すグラフである。
【図3】他の実施例を示すC/C材の断面図である。
【図4】さらに他の実施例を示す断面図である。
【図5】炭化ケイ素固相拡散処理を示す炉の断面図であ
る。
【図6】炭化ケイ素気相拡散処理を示す炉の断面図であ
る。
【図7】炭化ケイ素CVD処理を示す炉の断面図であ
る。
【符号の説明】
1 ワーク 2 混合体 3 炉 4 ケイ素パウダ 10 ワーク

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 熱分解性を備えるとともに熱分解後の残
    炭率が10%以下のバインダとケイ素パウダとを混合す
    る工程と、 このバインダとケイ素パウダの混合体を炭素繊維/炭素
    複合材の表面の一部ないし全部に塗布する工程と、 前記炭素繊維/炭素複合材を真空中又は不活性雰囲気中
    、200〜600°C/hの温度上昇率で1700〜
    2000°Cに加熱する焼成工程とからなることを特徴
    とする炭素繊維/炭素複合材の炭化ケイ素被覆形成方
    法。
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