JP3181629B2 - 能動型騒音制御装置 - Google Patents

能動型騒音制御装置

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JP3181629B2 JP17967491A JP17967491A JP3181629B2 JP 3181629 B2 JP3181629 B2 JP 3181629B2 JP 17967491 A JP17967491 A JP 17967491A JP 17967491 A JP17967491 A JP 17967491A JP 3181629 B2 JP3181629 B2 JP 3181629B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、騒音源からの騒音に制
御音源で発生させた騒音抑制信号を干渉させることによ
り騒音を抑制する能動型騒音制御装置に係り、特に発散
による異常音の発生を未然に防止することができる能動
型騒音制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の能動型騒音制御装置とし
ては、例えば特許出願公表平1−501344号公報に
記載されているものがある。この従来例は、ラウドスピ
ーカから制御音を放音することにより、車室内に騒音源
から伝達される騒音を低減させる能動型騒音制御装置で
あって、車室内の残留騒音を複数のマイクロフォンで検
出すると共に、騒音源の任意に選択し得る高調波を含む
少なくとも一つの基準信号を発生させ、これら残留騒音
検出信号と基準信号とをプロセッサ/記憶ユニットに供
給することにより、基準信号を適応フィルタ処理してラ
ウドスピーカの駆動信号を形成するようにしている。こ
こで、適応フィルタ処理では、その第i番目のフィルタ
係数Wmi(n+1)を、LMSアルゴリズムに従って、複数
のマイクロフォンの検出信号Vekの平均自乗和として設
定された評価関数Jを最小とするように、下記(1) 式に
従って順次更新するようにしている。
【0003】 ここで、Wmi(n) は前回即ちn番目のサンプル時のフィ
ルタ係数、μは収束係数、Vekはk番目のマイクロフォ
ン出力、xは騒音源に相関のある基準信号、Ckmはm番
目のスピーカとk番目のマイクロフォンとの間の実空間
伝達関数である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来の能動型騒音制御装置にあっては、適応フィルタのフ
ィルタ係数を更新する制御アルゴリズムで、ラウドスピ
ーカ及びマイクロフォン間の実際の空間伝達関数Ckm
のものではなく、これをモデル化したモデル空間伝達関
数Ckm′を使用しているので、例えばラウドスピーカ,
マイクロフォンの劣化或いは閉空間の温度変化等によっ
て実際の伝達関数が変化したときには、前記(1) 式で算
出される適応フィルタのフィルタ係数Wmi(n+1)に誤差
を生じて評価関数Jが収束せずに発散し、異状音を発生
するおそれがあるという未解決の課題があった。
【0005】そこで、この発明は、上記従来例の未解決
の課題に着目してなされたものであり、評価関数Jを常
時監視し、一定の条件の下に所定の値に収まっていない
場合には、評価関数Jが発散傾向にありシステムが不安
定になったと判別し、システムの作動を抑制し、異状音
の発生を未然に防止することができる能動型騒音制御装
置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、この発明に係る能動型騒音制御装置は、図1に示す
ように、騒音源の騒音発生状態に応じた基準信号を発生
する基準信号発生手段と、該基準信号発生手段の基準信
号が適応フィルタを介して供給される制御音源と、観測
位置の残留騒音を検出する残留騒音検出手段と、前記基
準信号を制御音源及び残留騒音検出手段との間の空間伝
達関数に対応するモデル空間伝達関数を表すフィルタ係
数でフィルタ処理するフィルタ手段と、該フィルタ手段
のフィルタ処理された基準信号と前記残留騒音検出手段
の残留騒音検出信号とに基づいて最急降下法によって前
記適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数
更新手段とを備えた能動型騒音制御装置において、前記
残留騒音検出信号に基づいて評価関数を演算する評価関
数演算手段と、該評価関数演算手段で演算した評価関数
が予め設定した評価関数閾値以上であり、且つ当該評価
関数の前記適応フィルタのフィルタ係数に対する勾配の
符号変化回数が設定値以上であるときに異常と判定する
異常判定手段と、該異常判定手段で異常と判定されたと
きに前記制御音源からの制御音の放音を中止乃至抑制す
る放音制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0007】
【作用】本発明においては、評価関数演算手段で演算し
た評価関数が予め設定した評価関数閾値未満であるとき
には、フィルタ手段でのモデル空間伝達関数が実際の制
御音源及び残留騒音検出手段間の実空間伝達関数と略一
致して騒音源から伝達される騒音を効果的に能動制御し
て抑制しているものと判断するが、演算した評価関数が
評価関数閾値以上であるときには、評価関数の適応フィ
ルタのフィルタ係数に対応する勾配の符号変化回数が設
定値以上となったときに、モデル空間伝達関数と実空間
伝達関数とがずれて発散状態にある異常状態と判断し、
制御音源からの制御音の放音を遮断して騒音抑制制御を
中止する。
【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明
する。図1は、本発明の機能ブロック図であり、図2
は、本発明を車両に適用した場合の一実施例を示す概略
構成図である。図2において、1は車体であって、車室
2の前方に騒音源としての4気筒エンジン3が配置され
ている。車室2内には、前部座席4F及び後部座席4R
が配設されていると共に、例えばダッシュボードの下部
及び後部座席4Rの後方側に制御音源としてのオーディ
オ信号を出力する制御音源を兼ねるラウドスピーカ5a
及び5bが配設され、さらに天井の前方、中央及び後方
部に夫々残留騒音検出手段としてのマイクロフォン6
a,6b及び6cが配設されている。
【0009】また、エンジン3には、クランク角センサ
7が取付けられ、このクランク角センサ7からクランク
軸が180度回転する毎に1つのパルスでなる騒音発生
状態検出信号xが出力される。そして、マイクロフォン
6a〜6cから出力される残留騒音検出信号e1 〜e 3
がプロセッサユニット15に入力されると共に、クラン
ク角センサ7の検出信号xがプロセッサユニット15に
入力される。
【0010】プロセッサユニット15は、図3に示すよ
うに、入力される基準信号xをA/D変換して出力する
A/D変換回路22と、このA/D変換回路22の出力
信号を基準信号xとして入力するディジタルフィルタ2
4及び適応ディジタルフィルタ26と、マイクロフォン
6a〜6cからの残留騒音補正信号e1 〜e3 をA/D
変換するA/D変換器30a〜30cと、このA/D変
換器30による変換信号及び前記ディジタルフィルタ2
4の出力信号rkmを入力するマイクロプロセッサ34
と、適応ディジタルフィルタ26の処理信号をD/A変
換するD/A変換器36a,36bとを備えている。
【0011】ここで、ディジタルフィルタ24は、基準
信号xを入力し、マイクロフォン及びスピーカ間の空間
伝達関数の組合せ数に応じて、モデル化したモデル空間
伝達関数に対応するフィルタ係数でフィルタ処理された
基準信号rkm(後述する(6),(7) 式参照)を生成するも
のであり、適応ディジタルフィルタ26は機能的にはス
ピーカ5a及び5bへの出力チャンネル数に応じたフィ
ルタを個々に有し、基準信号xを入力し、その時点で設
定されているフィルタ係数に基づきたたみ込み処理を行
ってスピーカ駆動信号y1,2 をアナログスイッチ8
a,8bを介してラウドスピーカ5a,5bに出力す
る。
【0012】マイクロプロセッサ34は、残留騒音検出
信号e1 〜e3 並びにフィルタ処理された基準信号rlm
を入力し、適応フィルタ26のフィルタ係数をLMS(L
eastMean Square) アルゴリズムを用いて変更する騒音
抑制処理を実行すると共に、このLMSアルゴリズムに
おける後述する評価関数Jの状態を判断することにより
制御系の発散状態を判定する診断処理を実行する。
【0013】ここで、プロセッサユニット15の制御原
理を一般式を用いて説明する。今、k番目のマイクロフ
ォン6a〜6cが検出した残留騒音検出信号をek (n)
、ラウドスピーカ5a及び5bからの制御音(二次
音)が無いときのk番目のマイクロフォン6a〜6cが
検出した残留騒音検出信号をept(n) 、m番目のラウド
スピーカ5a及び5bとk番目のマイクロフォン6a〜
6cとの間の伝達関数HkmをFIR(有限インパルス応
答)関数で表したときのj番目(j=0,1,2,──
c - 1 )の項に対応するフィルタ係数をCkmj ′、基
準信号をx(n) 、基準信号x(n) を入力しm番目のラウ
ドスピーカ5a及び5bを駆動する適応フィルタのi番
目(i=0,1,2,─IF -1)の係数をWmiとする
と、下記(2) 式が成立する。
【0014】 ここで、(n)が付く項は、いずれもサンプリング時刻
nのサンプル値であり、また、Kはマイクロフォン6a
〜6cの数(本実施例では3個)、Mはラウドスピーカ
5a及び5bの数(本実施例では2個)、IC はFIR
ディジタルフィルタで表現されたフィルタ係数Ckm′の
タップ数(フィルタ次数)、IF は適応フィルタで表現
されたフィルタ係数Wmiのタップ数(フィルタ次数)で
ある。
【0015】上記(2) 式中の右辺第2項は、k番目のマ
イクロフォン6a〜6cに到達する二次音の総和を表
す。次いで、評価関数Jを下記(3) 式のように置く。 そして、本実施例では、LMSアルゴリズムを採用
し、評価関数Jを最小とするフィルタ係数Wmiを求め、
適応ディジタルフィルタの各フィルタ係数Wmiを更新す
る。最急降下法であるLMSアルゴリズムは、適応ディ
ジタルフィルタのフィルタ係数としてn番目の値W
mi(n) を用い、平均自乗誤差の勾配∂J/∂Wmiを算出
し、これをα倍して(n+1)番目の値Wmi(n+1)を求
め、評価関数Jの値を小さくするように演算を実行する
(図5参照)。
【0016】この勾配∂J/∂Wmiの計算式は、(3) 式
より、 そして、前記 (2)式より、 となるので、 ここで、(5) 式の右辺を、 とおくと、フィルタ係数に対する評価関数の勾配∂J/
∂Wmiは、 で表すことができる。
【0017】したがって、フィルタ係数の更新式は、重
み係数γk も含めた形で下記(9) 式で与えられる。 ここで、αは収束係数であり、フィルタが最適に収束
する速度や、その際の安定性に関与する。
【0018】このように、適応ディジタルフィルタ26
のフィルタ係数Wmi(n+1) を、マイクロフォン6a〜6
cから出力される残留騒音検出信号e1(n)〜e3(n) とク
ランク角センサ7からの基準信号x(n) とに基づいてL
MSアルゴリズムに従って順次更新することにより、入
力される残留騒音検出信号e1(n)〜e3(n)を最小とする
駆動信号y1(n)及びy2(n)が形成され、これらがラウド
スピーカ5a及び5bに供給されて、これらから出力さ
れる制御音によって車室2内の騒音が相殺される。
【0019】次に、上記実施例の動作をマイクロプロセ
ッサ34の処理手順を示す図4のフローチャートを伴っ
て説明する。なお、全体のシステムはキースイッチがオ
ン状態となったときに、電源が投入され、マイクロプロ
セッサ34で図4に示すタイマ割込処理を所定時間(例
えば5msec)毎に実行する。すなわち、ステップS1
で、残留騒音検出信号e1 〜e3 、基準信号x及びディ
ジタルフィルタ24から出力されるフィルタ処理された
基準信号rkmを読込み、次いでステップS2に移行し
て、前記(9) 式に従ってフィルタ係数Wmi(n+1)を算出
し、次いでステップS3に移行して算出されたフィルタ
係数Wmi(n+1) を適応ディジタルフィルタ26に出力し
てからステップS4に移行する。
【0020】このステップS4では、前述した(3) 式に
基づいて逐次最小値を求めて変化する評価関数Jを演算
し、次いでステップS5に移行して、前述した(8) 式に
従って平均自乗誤差の勾配∂J/∂Wmiを算出してから
ステップS6に移行する。このステップS6では、演算
した評価関数Jが予め設定した評価関数閾値JO 以上で
あるか否かを判定する。この判定は、騒音抑制制御が正
常であるか否かを判定するものであり、J<J0 である
ときには、評価関数Jが最適値に収束して騒音抑制制御
が正常であるものと判断して後述するステップS13に
移行し、J≧J0 であるときにはステップS7に移行す
る。
【0021】このステップS7では、記憶部に形成され
た現在勾配記憶領域に記憶されている前回の評価関数J
のフィルタ係数Wmi(n+1) に対する勾配∂J/∂W
mi(n) を同様に記憶部に形成された前回勾配記憶領域に
更新記憶すると共に、前記ステップS5で算出した評価
関数Jのフィルタ係数Wmi(n+1) に対する勾配∂J/∂
mi(n+1) を記憶部に形成された現在勾配記憶領域に記
憶する。
【0022】次いで、ステップS8に移行して、現在勾
配記憶領域及び前回勾配記憶領域に記憶されている勾配
∂J/∂Wmi(n+1) 及び∂J/∂Wmi(n) の符号を比較
して両者が一致するか否かを判定し、両者の符号が一致
するときには、一応正常であると判断して後述するステ
ップS13に移行し、両者が不一致であるときには、ス
テップS9に移行する。
【0023】このステップS9では、監視タイマTがセ
ットされたか否かを表すフラグFが“1”にセットされ
ているか否かを判定し、フラグFがセットされていない
ときには、ステップS10に移行して監視タイマTをセ
ットして計時を開始し、次いでステップS11に移行し
てフラグFを“1”にセットしてからステップS12に
移行し、ステップS9でフラグFがセットされていると
きには直接ステップS12に移行する。
【0024】ステップS12では、勾配の符号変化回数
を表すカウンタのカウント値Nをインクリメントし、次
いでステップS13に移行して監視タイマTがタイムア
ップしているか否かを判定し、タイムアップしていると
きにはステップS14に移行して、監視タイマT、カウ
ンタN及びフラグFを夫々リセットしてからタイマ割込
処理を終了して所定のメインプログラムに復帰し、監視
タイマTがタイムアップしていないときには、ステップ
S15に移行する。
【0025】このステップS15では、カウンタのカウ
ント値Nが予め設定した設定値NS 以上であるか否かを
判定し、N<NS であるときにはそのままタイマ割込処
理を終了して所定のメインプログラムに復帰し、N≧N
S であるときにはモデル空間伝達関数Ckm′と実際の空
間伝達関数Ckmとにずれが生じて、制御系が発散状態と
なったものと判断して、ステップS16に移行する。
【0026】このステップS16では、論理値“1”の
制御信号CSをアナログスイッチ8a,8bに出力し
て、ラウドスピーカ5a,5bへの駆動信号を遮断し、
騒音抑制制御を中止する。この図4の処理において、ス
テップS2の処理がフィルタ係数更新手段に対応し、ス
テップS3の処理が評価関数演算手段に対応し、ステッ
プS5〜ステップS15の処理が異常判定手段に対応
し、ステップS16の処理及びスイッチ8a,8bが放
音制御手段に対応している。
【0027】したがって、今、ラウドスピーカ5a,5
b及びマイクロフォン6a〜6cに劣化がなく、これら
間の実際の空間伝達関数Ckmとディジタルフィルタ24
に設定されるモデル空間伝達関数Ckm′とが略一致して
いる正常状態であるものとすると、マイクロプロセッサ
34でLMSアルゴリズムに従って適応デジタルフィル
タ26のフィルタ係数を順次更新するので、評価関数J
とフィルタ係数Wkmとの関係は図5に示すようになり、
評価関数Jが評価関数閾値J0 より小さい最小値Jmin
に収束することになるので、図4の処理において、ステ
ップS6で正常状態であると判断されて、ステップS1
3に移行するため、監視タイマTがセットされずにタイ
ムアップ状態を継続するので、ステップS13からステ
ップS14に移行する。このため、常にフラグF、監視
タイマT及びカウンタNがリセットされた状態となって
いると共に、制御信号CSが論理値“0”となって、ア
ナログスイッチ8a,8bがオン状態とされて適応デジ
タルフィルタ26から出力されるスピーカ駆動信号y1,
2 がラウドスピーカ5a,5bに供給されて、騒音抑
制処理によりエンジン騒音が抑制される。
【0028】この正常状態から、ラウドスピーカ5a,
5bやマイクロフォン6a〜6cに劣化が生じたり、車
室内の温度変化等によって、ラウドスピーカ5a,5b
及びマイクロフォン6a〜6c間の実際の空間伝達関数
kmが変化するか、又はディジタルフィルタ24内のモ
デル空間伝達関数Ckm′を同定する際に、異常が発生し
て、実際の空間伝達関数Ckmとモデル空間伝達関数
km′との間にずれが発生すると、評価関数Jの最小点
を探索していくLMSアルゴリズムに誤差が生じる。こ
のような場合、適応ディジタルフィルタ26のフィルタ
係数Wmi(n) が最適値から外れ、駆動信号ym (n) が発
散し、マイクロフォン6a〜6cから入力される残留騒
音検出信号e1(n)〜e3(n)が大きく変動することにな
る。
【0029】すなわち、図6に示すように、特性曲線A
で表されるデジタルフィルタ24でのモデル空間伝達関
数Ckm′を使用した場合の適応フィルタのフィルタ係数
miに対する評価関数Jの特性に対して、実際の空間伝
達関数Ckmに変化が生じて評価関数Jが特性曲線Bで表
すように変化すると、正常時には前述したように、特性
曲線A上で評価関数Jの最小点を探索して大きい値のフ
ィルタ係数Wkm(n+1)から小さい値のフィルタ係数W
km(n+2) に更新して評価関数閾値J0 未満の最小点に収
束するものが、ステップS4で算出した評価関数Jは、
現実の車室内の空間伝達関数Ckmに基づく残留騒音検出
信号e1 〜e3 によって算出されるので、常にJ≧J0
となると共に、フィルタ係数の更新は、特性曲線Aに沿
って行われるため、ステップS2で更新されるフィルタ
係数はWkm(n+1) となるまでは、正常状態と略同様にフ
ィルタ係数の更新が行われるが、フィルタ係数がWkm(n
+1)に更新されたときの実際の空間伝達関数Ckmに基づ
く評価関数Jはかなり大きな値となっており、その算出
のもとになるマイクロフォン6a〜6cで検出した残留
騒音検出信号ek が大きな値となっているので、前述し
た(9) 式の右辺第2項の値が大きな値となって、ステッ
プS2で更新されるフィルタ係数Wkm(n+2) は、最適フ
ィルタ係数Wopt を越えて減少することになり、前回の
特性曲線Aの勾配∂J/∂Wkm(n+1) と今回の特性曲線
Aの勾配∂J/∂Wkm(n+2) とで符号が異なることにな
る。
【0030】このため、ステップS6からステップS7
に移行して、現在の勾配∂J/∂W km(n+2) を更新記憶
し、現在の勾配∂J/∂Wkm(n+2) と前回の勾配∂J/
∂W km(n+1) とが不一致となるので、ステップS8から
ステップS9〜11で監視タイマTをセットしてからス
テップS12に移行してカウンタのカウント値Nをイン
クリメントし、次いで監視タイマTがタイムアップして
おらず、且つカウント値Nが設定値NS 以下であるの
で、そのままタイマ割込処理を終了する。この結果、騒
音抑制制御を継続する。
【0031】このように、フィルタ係数Wkm(n+2) が最
適フィルタ係数Wopt を越えて減少すると、ラウドスピ
ーカ5a,5bから出力される騒音信号の逆相分が増加
することになり、マイクロフォン6a〜6cで検出され
る残留騒音検出信号の逆相分が増加するため、ステップ
S2で算出されるフィルタ係数Wkm(n+3) が前回のフィ
ルタ係数Wkm(n+2) より増加することになり、特性曲線
A上での勾配∂J/∂Wkm(n+3) の符号がさらに反転す
る。
【0032】これを繰り返して、監視タイマTがタイム
アップする前にカウンタNのカウント値が設定値NS
上となると、ステップS15で発散状態であると判断し
てステップS16に移行することにより、制御信号CS
をオン状態とし、ラウドスピーカ5a,5bへの駆動信
号の供給を遮断し、騒音抑制処理を中止する。この結
果、制御系の発散によって制御音源としてのラウドスピ
ーカ5a,5bから異状音を放声することを未然に防止
することができる。
【0033】同様に、実際の空間伝達関数Ckmの変化に
よって評価関数Jが図6で一点鎖線図示の特性曲線Cに
変化した場合にも、ステップS4で算出され評価関数J
が評価関数閾値J0 以上となり、且つフィルタ係数更新
時のマイクロフォン6a〜6cで検出される残留騒音検
出信号の騒音成分が大きい値となるので、フィルタ係数
を更新する場合の(9) 式の右辺第2項の値がより大きな
値となって、最適フィルタ係数Wopt を越えるフィルタ
係数の減少が生じ、特性曲線A上での勾配の符号が反転
することになる。この反転回数が設定値NS 以上となる
と発散状態であると判断して騒音抑制処理を中止する。
【0034】また、監視タイマTがセットされてからタ
イムアップするまでの間にカウンタNのカウント値が設
定値NS に達しないときには、空間伝達関数の一時的な
ずれであると判断して、フラグF及びカウンタを夫々リ
セットする。なお、上記実施例では、制御音源としてラ
ウドスピーカを適用した場合について説明したが、これ
に限定されるものではなく、振動子を適用することもで
き、また残留騒音検出手段としてのマイクロフォンも加
速度振動センサを適用することもできる。
【0035】また、上記実施例では、平均自乗誤差の勾
配∂J/∂WmiをステップS5で別個に算出する場合に
ついて説明したが、これに限定されるものではなく、ス
テップS2のLMSアルゴリズムに従ったフィルタ係数
の更新演算を行う際に、勾配∂J/∂Wmiを算出して一
時記憶すると共に、算出した勾配に収束係数α及び重み
係数γを乗算して、(9) 式の演算を行うようにすれば、
ステップS5の演算処理を省略することができる。
【0036】さらに、ラウドスピーカ及びマイクロフォ
ンの設置数は上記実施例に限定されるものではなく、1
以上の任意数とすることができる。さらにまた、上記実
施例では、発散状態であると検出したときに、制御音の
出力を停止させる場合について説明したが、これに限ら
ず制御音の出力を漸次減少させるようにしてもよい。
【0037】また、上記実施例ではエンジン騒音を抑制
する場合について説明したが、これに限定されるもので
はなく、車輪に路面からの振動入力を検出してロードノ
イズを抑制したり、窓ガラスの振動を検出して風切り音
を抑制したりすることができ、これらの複合音を抑制す
ることもできる。さらに、上記実施例では、フィルタ処
理された基準信号rkmをディジタルフィルタ24で得る
ようにした場合について説明したが、これに限らずマイ
クロプロセッサ34に直接基準信号xを入力し、このマ
イクロプロセッサ34でディジタルフィルタ処理を行う
ようにしてもよく、さらにはディジタルフィルタ24、
適応フィルタ26及びマイクロプロセッサ34を1つの
マイクロプロセッサで構成するようにしてもよく、この
場合にはアナログスイッチ8a,8bを省略し、これら
に代えて、異常時に駆動信号y1,y2を零とするように
してもよい。
【0038】さらにまた、上記実施例では本発明を車両
に適用した場合について説明したが、これに限定される
ものではなく、航空機の室内の騒音低減の場合等にも適
用できる。
【0039】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る能動
型騒音制御装置によれば、制御音源及び残留騒音検出手
段間の実際の空間伝達関数をモデル化したモデル空間伝
達関数を使用して能動型騒音制御を行う場合に、実際の
空間伝達関数とモデル空間伝達関数とのずれによって制
御系が発散状態となることを残留騒音検出信号に基づく
実際の評価関数の状態を監視することにより検出し、こ
の発散状態を検出したときに、放音中止手段によって制
御音源からの制御音の発生を中止又は抑制するようにし
ているので、制御系の発散に伴う制御音源からの異状音
の放声を未然に防止することができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本構成を示す機能ブロック図であ
る。
【図2】実施例の概略構成図である。
【図3】実施例のプロセッサユニットのブロック図であ
る。
【図4】実施例のフローチャートである。
【図5】評価関数Jの特性曲線である。
【図6】モデル空間伝達関数Clm′による評価関数Jの
特性曲線と、変化した実際の空間伝達関数Clmによる評
価関数Jの特性曲線との比較図である。
【符号の説明】
5 ラウドスピーカ 6 マイクロフォン 8 スイッチ 24 ディジタルフィルタ 26 適応フィルタ 34 マイクロプロセッサ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 佐藤 憲治 茨城県勝田市大字高場2520番地 株式会 社日立製作所佐和工場内 (56)参考文献 実開 平3−70490(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G10K 11/178 B60R 11/02

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 騒音源の騒音発生状態に応じた基準信号
    を発生する基準信号発生手段と、該基準信号発生手段の
    基準信号が適応フィルタを介して供給される制御音源
    と、観測位置の残留騒音を検出する残留騒音検出手段
    と、前記基準信号を制御音源及び残留騒音検出手段との
    間の空間伝達関数に対応するモデル空間伝達関数を表す
    フィルタ係数でフィルタ処理するフィルタ手段と、該フ
    ィルタ手段のフィルタ処理された基準信号と前記残留騒
    音検出手段の残留騒音検出信号とに基づいて最急降下法
    によって前記適応フィルタのフィルタ係数を更新するフ
    ィルタ係数更新手段とを備えた能動型騒音制御装置にお
    いて、前記残留騒音検出信号に基づいて評価関数を演算
    する評価関数演算手段と、該評価関数演算手段で演算し
    た評価関数が予め設定した評価関数閾値以上であり、且
    つ当該評価関数の前記適応フィルタのフィルタ係数に対
    する勾配の符号変化回数が設定値以上であるときに異常
    と判定する異常判定手段と、該異常判定手段で異常と判
    定されたときに前記制御音源からの制御音の放音を中止
    乃至抑制する放音制御手段とを備えたことを特徴とする
    能動型騒音制御装置。
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