JP3167371B2 - 耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結合金及びその製造方法 - Google Patents

耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結合金及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、旋削工具,フライス工
具,ドリル,エンドミル等の切削工具、又はスリッタ
ー,ワイヤカッター,ガイド等の耐摩耗工具として適す
る耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結合金及びその製造方法
に関するものである。
【0002】
【従来の技術】超硬合金に代表される焼結合金の基材表
面にダイヤモンド及び/又はダイヤモンド状カーボンの
被膜を形成したダイヤモンド被覆焼結合金を切削工具に
応用しようという試みがなされている。
【0003】ダイヤモンド被覆焼結合金を切削工具とし
て用いる場合、最大の問題点は、基材と被膜との密着性
である。
【0004】焼結合金の基材とダイヤモンド被膜とその
密着性について注目し、切削工具に適するダイヤモンド
被覆焼結合金としての提案が多数なされており、その代
表的なものに、特開昭58−126972号公報及び特
開昭63−53269号公報がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】特開昭58−1269
72号公報には、超硬合金の基材に隣接する内層が周期
律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物,ホウ
化物,酸化物,及びこれらの化合物,混合物並びにAl
23,AlN,B4C,Si34,SiO2,SiCから
選ばれた1種以上よりなり、外層がダイヤモンドよりな
るダイヤモンド被覆焼結合金が開示されている。同公報
の発明は、NiやCoを含む焼結合金の基材に直接ダイ
ヤモンド被膜を被覆すると、グラファイトが析出し易く
基材と被膜との密着性の低下が顕著になるという問題に
対し、基材と被膜との間に化学蒸着法(CVD法)又は
物理蒸着法(PVD法)でもってWCやW2Cの内層を
介在させることにより解決しようとしたものである。
【0006】しかしながら、同公報に開示の内層とダイ
ヤモンド被膜との密着性は、切削工具として実用化でき
る程度に達しておらず、しかも製造工程の中に内層の形
成工程を別に設ける必要があるという工程の煩雑化、及
び内層の形成工程時のカーボン量の制御がダイヤモンド
被膜の材質と、基材と被膜の密着性に影響を及ぼすとい
う品質管理上の問題がある。
【0007】特開昭63−53269号公報には、1〜
wt%のCoと残りが炭化タングステンからなる超硬
合金の表面をエッチング処理し、超硬合金の表面にエッ
チング層を介在させて、ダイヤモンド被膜を形成してな
るダイヤモンド被覆超硬合金が開示されている。
【0008】同公報の発明は、超硬合金の表面部のCo
を酸液で除去してエッチング層とし、エッチング層の表
面にダイヤモンドの被膜を形成するのであるが、酸液で
Coが除去された後の空隙部分には、再びダイヤモンド
被膜形成時に超硬合金内部のCoが滲み出して埋められ
るために、局所的にダイヤモンドが粒成長しやすくなる
こと及びダイヤモンドの被膜とエッチング層との界面に
グラファイトが発生しやすいために被膜と超硬合金との
密着性が低いという問題がある。
【0009】本発明は、上述のような問題点を解決した
もので、具体的には、金属間化合物の層又は金属間化合
物の存在する基材表面層でもってダイヤモンド被膜形成
時におけるグラファイトの発生を抑制し、良質なにダイ
ヤモンド被膜を形成すると共に基材とダイヤモンド被膜
との密着性を高めること及び基材の強度低下を抑制する
ことができたダイヤモンド被覆焼結合金の提供を目的と
するものである。
【0010】
【問題点を解決するための手段】本発明者らは、超硬合
金の基材表面にダイヤモンドの被膜を形成する場合、基
材表面に 析出するグラファイトを抑制する方法及び基
材と被膜との密着性を高めることについて検討していた
所、基材中に結合相として含有している鉄族金属がダイ
ヤモンド被膜形成時にグラファイトを析出させる作用を
するのに対し、基材の表面層に存在する結合相中に金属
間化合物が含まれている場合、特に結合相中の鉄族金属
により形成される金属間化合物が含まれている場合、基
材自体の強度低下が殆どないこと、ダイヤモンドの被膜
形成時においてグラファイトの析出が抑制されること、
及び基材とダイヤモンド被膜との密着性が顕著に向上す
るという知見を得た。
【0011】本発明は、上述の知見に基づいて完成する
に至ったものである。
【0012】 本発明の耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結
合金は、周期律表の第4a,5a,6a族金属の炭化
物,窒化物及びこれらの相互固溶体の中の1種以上の硬
質相80〜99体積%と、残りがCo及び/又はNiを
主成分とする結合相でなる焼結合金の基材表面にダイヤ
モンド及び/又はダイヤモンド状カーボンの被膜を形成
してなるダイヤモンド被覆焼結合金であって、該基材と
該被膜との間にFe3Al,NiAl,Ni3Al,Co
Al,Co4Al13,Zr3Al,Ni3(Al,W),
Ni2(Al,Ti),TiAl,TiAl3,Nb3
lの中の1種以上でなる金属間化合物の層を形成する
か、もしくは該基材の表面から内部に向かって100μ
m以下の表面層における該結合相に該金属間化合物が含
まれていることを特徴とするものである。
【0013】本発明の被覆焼結合金における基材を構成
している硬質相は、具体的には、例えばWCのみ、WC
を主成分とし、他にTiC,ZrC,HfC,TaC,
NbC,VC,Mo2C,Cr32,(W,Ti)C,
(W,Ta)C,(W,Ta,Ti)C,(W,Ta,
Nb,Ti)C,TiN,Ti(C,N)及びこれらの
相互固溶体を含んでいる場合、TiC又はTi(C,
N)を主成分とし、他にWC,ZrC,HfC,Ta
C,NbC,VC,Mo2C,Cr32,TiN,Zr
N及びこれらの相互固溶体を含んでいる場合を挙げるこ
とができる。この硬質相が基材全体に対して80体積%
未満になると、相対的に結合相が20体積%を超えて多
くなり、その結果基材の硬さ低下が著しく、被膜がなく
なった時点における基材の耐摩耗性が極端に劣下し、逆
に硬質相が基材全体に対して99体積%を超えて多くな
ると、相対的に結合相が1体積%未満となり、その結果
基材の強度低下が著しく、欠損しやすく、被膜の効果を
充分に発揮させるのが困難になる。
【0014】本発明の被覆焼結合金における基材を構成
している結合相は、具体的には、Co及び/又はNiの
みからなる場合、もしくは、Co及び/又はNiと他
に、例えばTi,Zr,Hf,Mo,Cr,W,Feの
1種以上からなるものである。
【0015】本発明の被覆焼結合金における金属間化合
物の存在する位置は、上述の硬質相と上述の結合相とで
なる基材の表面に金属間化合物の層を形成する場合、又
は基材表面から基材内部に向って100μm以下の基材
表面層における結合相に金属間化合物が含まれている場
合、もしくは基材表面に金属間化合物の層を形成し、か
つ基材表面層における結合相に金属間化合物が含まれて
いる場合を挙げることができる。この金属間化合物は、
基材の表面で最大となり、基材内部に向って連続的に減
少している場合が基材の強度、及び基材と被膜との耐剥
離性から特に好ましい構成である。表面層は、0.5〜
20μmの厚さが特に好ましい。
【0016】 この金属間化合物は、Fe3Al,Ni
Al,Ni3Al,CoAl,Co4Al13,Zr3
l,Ni3(Al,W),Ni2(Al,Ti),TiA
l,TiAl3,Nb3Alの中の1種以上でなり、Co
及び/又はNiと、Alとからなる金属間化合物でなる
場合が基材の強度と、被膜の耐剥離性とのバランスが優
れることから、特に好ましいことである。
【0017】本発明の被覆焼結合金を構成している被膜
は、ラマン分光分析においてダイヤモンドの結晶構造を
示す約1333cm-1 にピークを示すダイヤモンド膜、
又はこのダイヤモンドと他に非晶質カーボンやガラス状
カーボン等を含有している場合、もしくはダイヤモンド
に近い性質を示すといわれているダイヤモンド状カーボ
ンからなる場合がある。この被膜の厚さは、用途及び形
状により選定する必要があり、特に耐衝撃性よりも耐す
きとり摩耗性を重要視する用途には、例えば3〜10μ
m厚さが好ましく、切削工具には0.5〜7μm厚さが
好ましく、切削工具の中でもフライス用切削工具のよう
に耐衝撃性を重要視する用途、又はドリル,エンドミル
等の切削工具やスリッター,切断刃,裁断刃等の耐摩耗
工具のように鋭角な切刃を有する形状には、例えば0.
5〜3μm厚さと、被膜を薄くすることが好ましい。
【0018】本発明の被覆焼結合金の作製は、粉末冶金
法における粉末圧粉体成形時に、表面に金属間化合物の
層を形成した後焼結し、次いで気相合成法で被膜を形成
する方法、又は粉末冶金法において金属間化合物の粉末
又はその前駆体の含有した粉末に粉末圧粉体を詰めて焼
結し、焼結時に拡散させて基材表面層に金属間化合物を
含有させ、次いで気相合成法で被膜を形成する方法で行
なうこともできる。しかし、基材表面層の調整の容易性
から次の本発明の方法で行なうことが好ましい。
【0019】 本発明の耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結
合金の製造方法は、周期律表の第4a,5a,6a族金
属の炭化物,窒化物及びこれらの相互固溶体の中の1種
以上の粉末でなる第1出発物質を80〜99体積%と、
残りがCo及び/又はNiを主成分とする粉末でなる第
2出発物質とを混合,成形及び焼結して得た焼結合金の
基材表面に化学蒸着法(CVD法)又は物理蒸着法(P
VD法)でもってダイヤモンド及び/又はダイヤモンド
状カーボンの被膜を形成するダイヤモンド被覆焼結合金
の製造方法であって、該基材の表面にFe3Al,Ni
Al,Ni3Al,CoAl,Co4Al13,Zr3
l,Ni3(Al,W),Ni2(Al,Ti),TiA
l,TiAl3,Nb3Alの中の1種以上でなる金属間
化合物又は該金属間化合物の前駆体を被覆し、該基材の
表面に該金属間化合物の層を形成させるか、もしくは該
基材の表面から内部に向かって100μm以下の表面層
における該結合相に該金属間化合物を含有させた後、ダ
イヤモンド及び/又はダイヤモンド状カーボンの被膜を
形成することを特徴とする方法である。
【0020】本発明の被覆焼結合金の製造方法における
金属間化合物の前駆体とは、金属間化合物を構成する金
属又はその構成元素を含んだ化合物であり、具体的に
は、例えばNiAlの金属間化合物の形成を目的とする
場合にはNiとAlの金属からなるものである。
【0021】
【作用】本発明の耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結合金
は、基材の表面に存在する金属間化合物の層、又は基材
表面層に含有している金属間化合物が被膜形成初期にお
けるグラファイトの発生を抑制する作用をしているこ
と、被膜形成の促進作用をしていること、高温における
基材の強度、硬さを高める作用をしていること、及び被
膜形成後は被膜と基材との密着性を高める作用をしてい
るものである。
【0022】
【実施例1】WC−6.8 vol%Coの超硬合金の基
材を研削及び洗浄した後、基材表面にスパッター法によ
り約5μm厚のAlを被覆した。このときのスパッター
条件は、99.99%Alターゲット,200W出力,
10-3Torr圧力,10SCCMArガス流量雰囲
気,600℃基材温度,80mmのスパッター距離,2
時間保持で行なった。次いで、真空中,約1400℃の
条件でもってAlの被覆された基材を加熱した後、酸処
理を行って基材表面の未反応Alを除去した。
【0023】このAl処理した基材の表面に、ダイヤモ
ンド粉で傷付処理を行なった後、マイクロ波ブラスマC
VD法により9 vol%H2−1 vol%CH4ガス雰
囲気,20SCCMガス流量,50Torr圧力,4時
間保持,930〜950℃基材温度の条件でもって約5
μm厚の被膜を形成して本発明品1を得た。
【0024】比較として、本発明品1のAl処理工程の
み除き、他は同様に行なって比較品1を得た。
【0025】こうして得た本発明品1及び比較品1の被
膜状態を観察したところ、比較品1の被膜は被膜形成用
反応炉から取り出したときにすでに一部が剥離していた
のに対し、本発明品1の被膜は剥離していなかった。ま
た、本発明品1はロックウェル圧子圧入法による被膜剥
離試験を行なった所、60kg荷重においても被膜の剥
離が生じなかった。
【0026】ラマン分光分析及び顕微鏡でもって被膜を
調べた所、本発明品1の被膜は、約1333cm-1 にシ
ャープなピークがあり、結晶化したダイヤモンドであっ
たのに対し、比較品1の被膜は、約1333cm-1 では
弱いピークで、他に約1500cm-1 近辺にブロードな
ピークを示すグラファイト状カーボンが見られた。ま
た、本発明品1の基材の表面から基材内部へ約10μm
までの表面層は、CoAlの金属間化合物が存在してい
た。
【0027】
【実施例2】WC−10 vol%Niの超硬合金の基材
を研削及び洗浄した後、アルミナイジング処理を行っ
た。アルミナイジング条件は、塩化水素ガスと金属アル
ミニウムを反応させて得た塩化アルミニウムと水素とア
ルゴンの混合ガス雰囲気中、1080℃の温度、10分
間保持によるCVD処理で行った。X線回析及びSEM
観察の結果、基材表面にNiAlの金属間化合物の層が
約1μm形成されていた。
【0028】次いで、実施例1と同様にしてダイヤモン
ド被膜処理を行って本発明品2を得た。
【0029】比較として、本発明品2の内アルミナイジ
ング処理のみ除いて他は本発明品2と同様に行って比較
品2を得た。
【0030】こうして得た本発明品2及び比較品2を調
べた所、比較品2の被膜は、被膜形成用反応炉から取り
出したときにすでに一部が剥離していたのに対し、本発
明品2の被膜は剥離していなかった。また、本発明品2
は、実施例1の本発明品1と同様に被膜剥離試験を行な
った所、50kg荷重まで被膜の剥離が生じなかった。
【0031】ラマン分光分析及びSEM観察の結果、本
発明品2の被膜は、本発明品1の被膜と同等であり、比
較品2の被膜は、比較品1の被膜と略同等であった。
【0032】
【発明の効果】本発明の耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結
合金は、従来のダイヤモンド被覆焼結合金に比べて基材
の表面に形成される金属間化合物の層、又は基材の表面
層における結合相に含まれる金属間化合物によりダイヤ
モンド及び/又はダイヤモンド状カーボンからなる良質
な被膜が形成されやすいこと、基材と被膜との密着性が
高く、被膜の耐剥離性が顕著に優れるという効果があ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C23C 14/06 C23C 14/06 C30B 29/04 C30B 29/04 Q (56)参考文献 特開 平2−250967(JP,A) 特開 平2−54768(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 16/26 - 16/27 B22F 3/24 B23B 27/00 B23P 15/28 C22C 1/05 C23C 14/06 C30B 29/04

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 周期律表の第4a,5a,6a族金属の
    炭化物,窒化物及びこれらの相互固溶体の中の1種以上
    の硬質相80〜99体積%と、残りがCo及び/又はN
    iを主成分とする結合相でなる焼結合金の基材表面にダ
    イヤモンド及び/又はダイヤモンド状カーボンの被膜を
    形成してなるダイヤモンド被覆焼結合金において、該基
    材と該被膜との間にFe3Al,NiAl,Ni3Al,
    CoAl,Co4Al13,Zr3Al,Ni3(Al,
    W),Ni2(Al,Ti),TiAl,TiAl3,N
    3Alの中の1種以上でなる金属間化合物の層を形成
    するか、もしくは該基材の表面から内部に向かって10
    0μm以下の表面層における該結合相に該金属間化合物
    が含まれていることを特徴とする耐剥離性ダイヤモンド
    被覆焼結合金。
  2. 【請求項2】 上記金属間化合物がCo及び/又はNi
    と、Alとからなり、かつ上記基材の表面で該金属間化
    合物の量が最大になっていることを特徴とする請求項1
    に記載の耐剥離性ダイヤモンド被覆焼結合金。
  3. 【請求項3】 周期律表の第4a,5a,6a族金属の
    炭化物,窒化物及びこれらの相互固溶体の中の1種以上
    の粉末でなる第1出発物質を80〜99体積%と、残り
    Co及び/又はNiを主成分とする粉末でなる第2出発
    物質とを混合,成形及び焼結して得た焼結合金の基材表
    面に化学蒸着法又は物理蒸着法でもってダイヤモンド及
    び/又はダイヤモンド状カーボンの被膜を形成するダイ
    ヤモンド被覆焼結合金の製造方法において、該基材の表
    面にFe3Al,NiAl,Ni3Al,CoAl,Co
    4Al13,Zr3Al,Ni3(Al,W),Ni2(A
    l,Ti),TiAl,TiAl3,Nb3Alの中の1
    種以上でなる金属間化合物又は該金属間化合物の前駆体
    を被覆し、該基材の表面に該金属間化合物の層を形成さ
    せるか、もしくは該基材の表面から内部に向かって10
    0μm以下の表面層における該結合相に該金属間化合物
    を含有させた後、ダイヤモンド及び/又はダイヤモンド
    状カーボンの被膜を形成することを特徴とする耐剥離性
    ダイヤモンド被覆焼結合金の製造方法。
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