JP3101711B2 - 生体高分子からなる吸着体/徐放体及びその製造方法 - Google Patents

生体高分子からなる吸着体/徐放体及びその製造方法

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JP3101711B2
JP3101711B2 JP09319905A JP31990597A JP3101711B2 JP 3101711 B2 JP3101711 B2 JP 3101711B2 JP 09319905 A JP09319905 A JP 09319905A JP 31990597 A JP31990597 A JP 31990597A JP 3101711 B2 JP3101711 B2 JP 3101711B2
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農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、以下記載する有効
成分を吸着する機能、吸着した有効成分を徐放する機能
を有する生体高分子からなる吸着体/徐放体、およびそ
れらの製造方法に関する。吸着体とは、上記有効成分
(すなわち、生理活性物質、酵素、毒素、生体細胞、抗
生物質、医薬品、ワクチン、ホルモン、フェロモン、農
薬、肥料、香料等)を効率的に吸着させる機能を持つ素
材である。また、徐放体とは、これらの吸着された有効
成分の放出を長期間維持できる機能を持つ素材である。
【0002】
【従来の技術・発明が解決しようとする課題】従来、吸
着体としては、植物素材または有機素材、例えば、セル
ロースやリグニンの加水分解物、木粉、デンプン、塩素
化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニ
ル、ポリ塩化ビニル等が用いられていた。また、徐放体
用の素材としては、例えば、尿素、ホルムアルデヒド樹
脂、ポリウレタン等が用いられていた。しかし、これら
の吸着体や徐放体の製造は化学合成手法が複雑であり、
また、粉末、ゲル状、膜状、塊状物等のようにさまざま
な形状の材料を成形することは困難であることから、こ
れらの点が技術的な問題となっていた。
【0003】例えば、医薬品の血中濃度を長期間にわた
って有効なレベルに維持させるために、徐放体が用いら
れている。この徐放体として従来用いられているシリコ
ンゴムやエチレン/酢酸ビニル共重合体の場合、有効成
分の徐放速度を有効に制御することは困難であり、ま
た、緩効性や持続性を備えたものを得ることも困難であ
った。通常、徐放体に有機高分子材料を用いるときに
は、この材料に有効成分を含有させ、固定化した後に架
橋薬剤で有機高分子材料を処理して不溶化させる必要が
あった。徐放体からの有効成分の徐放量は、含有させる
べき有効成分の量を変えたり、徐放体である高分子材料
の架橋度等を変えることによって制御されていたが、従
来の有機高分子を徐放体に用いた場合には、徐放体の分
子間に架橋を形成させる等の繁雑な工程が必要であっ
た。そのため、より簡便で経済性に優れ、効率的な新た
な徐放体の出現が望まれていた。
【0004】また、農学分野では、農薬等の有効成分が
長時間にわたって徐放できる素材が望まれている。従来
は、農薬等の有効成分の徐放速度を制御するため、農薬
等をカプセル化する技術が利用されている。例えば、毒
性の強いメチルパラチオンを、架橋ポリアミド/ポリ尿
素膜でカプセル化する方法が採用されている。このよう
な従来法により農薬をカプセル化して徐放体を合成する
場合、徐放体素材を合成するための化学反応を制御しな
がら有効成分を含んだカプセルを調製するために、特別
な化学反応装置が必要である。かくして、特殊な技術を
習熟する必要があり、従来法は経済的で効率的な製造方
法ではないという欠点があり、こうした欠点を補う技術
開発が求められていた。
【0005】さらに、医薬品による化学療法において
は、徐放性医薬品の投薬法が広く用いられている。薬効
は確かであるものの副作用の強い抗ガン剤のような医薬
品では、徐放効果を持たせた投薬法が望まれている。血
液中での薬剤濃度を長期間にわたり一定に維持するよう
な徐放性製剤が好ましいが、医薬品の徐放体としては、
従来から用いられてきたシリコンゴムやエチレン/酢酸
ビニル共重合体などの有機高分子材料が主流を占め、こ
うした好ましい徐放体を調製するには困難が伴ってい
た。
【0006】このように、上記従来法では、有効成分と
の相互作用の強くない鉱物性素材、植物性素材、あるい
は有機高分子素材が用いられてきた経過がある。しか
し、これら従来の素材を徐放体とした場合には、十分な
徐放効果を発現させることが困難であった。また、従来
の有機高分子材料の形態を所望の形態、例えば、粉末、
膜、塊状物等に調製するには、特別の装置が必要であっ
たり、化学反応、溶解処理、製膜処理などの複雑なプロ
セスを必要とする等の問題があった。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、カイコ由
来の絹蛋白質および羊毛のケラチンについて、調製方
法、溶解方法、製膜条件、蛋白質膜の分子形態、高次構
造の解析を行いつつ、新らしい利用技術の開発を進めて
きた。絹蛋白質または羊毛ケラチン等の生体高分子と有
効成分との間には親和性、すなわち分子レベルでの相互
作用が生ずることから、かかる生体高分子が有効成分の
吸着体または吸着された有効成分の徐放体に利用できる
ことを確かめ、本発明を完成させるに至った。すなわ
ち、有効成分と本発明に用いた生体高分子との間には強
い分子相互作用が生じ、生体高分子が有効成分を吸着さ
せたり、徐放させたりする素材として利用できることを
見い出したのである。
【0008】本発明の目的は、有効成分を効率良く吸着
する吸着体、また、吸着された有効成分の徐放速度を制
御することのできる徐放体、それらの製造方法、ならび
に吸着方法を提供することにある。
【0009】本発明の目的は、有効成分を吸着する吸着
機能を有し、一旦吸着させた有効成分を徐放する徐放機
能を有する生体高分子からなり、該生体高分子が絹蛋白
質または動物由来のケラチンである有効成分の吸着体ま
たは徐放体によって達成される。
【0010】また、生体高分子が絹フィブロインまたは
羊毛ケラチンである場合、結晶化度がX線回折強度分析
結果に基づき7%以上であることが望ましい。7%以上
で水不溶性となるからである。また、生体高分子はSH
基を有する還元ケラチンまたはS−(置換)アルキルケ
ラチンであることが望ましい。また、生体高分子は不溶
化剤により水不溶化されたものであることが望ましい。
さらに、該生体高分子は、ビニル基含有モノマー(例え
ば、メタクリルアミド(MAA)、メタクリル酸メチル
(MMA)、スチレン(St)、メタクリル酸ベンジル
(BzMA))等によりグラフト共重合されたものであ
ってもよい。また、該生体高分子の形状は、粉末状、ゲ
ル状、膜状、ブロック体状、多孔質体状、または繊維状
等であることが望ましい。該有効成分としては、例え
ば、生理活性物質、酵素、毒素、生体細胞、抗生物質、
医薬品、ワクチン、ホルモン、フェロモン、農薬、肥
料、香料等から選ばれる。
【0011】また、本発明による有効成分の吸着された
吸着体または徐放体の製造方法は、吸着機能を有し、ま
た徐放機能を有する、絹蛋白質または動物由来のケラチ
ンのいずれかである生体高分子からなる吸着体/徐放体
の製造方法であって、該生体高分子を有効成分を含む水
溶液中に浸漬し、次いで該生体高分子を取り出して乾燥
し、該有効成分の吸着された該生体高分子を調製せしめ
ること、または、有機高分子支持体を該有効成分を含む
生体高分子水溶液中に浸漬し、次いで該支持体を取り出
して乾燥し、該有効成分の吸着された生体高分子膜を該
支持体表面に被覆せしめること、または、該有機高分子
支持体上に該有効成分を含む生体高分子水溶液を広げ、
次いで乾燥し、該有効成分の吸着された生体高分子膜を
該支持体に形成せしめることによって行われる。かくし
て得られた吸着体または徐放体を、さらに不溶化剤で処
理して水不溶性にすることができる。
【0012】なお、吸着機能を有する絹蛋白質または動
物由来のケラチンのいずれかである生体高分子に有効成
分を吸着させるには、該生体高分子を有効成分を含む水
溶液中に浸漬し、次いで該生体高分子を取り出して乾燥
し、該生体高分子に該有効成分を吸着せしめること、ま
たは、有機高分子支持体を該有効成分を含む生体高分子
水溶液中に浸漬し、次いで該支持体を取り出して乾燥
し、該生体高分子に該有効成分を吸着せしめること、ま
たは、該有機高分子支持体上に該有効成分を含む生体高
分子水溶液を広げ、次いで乾燥し、該生体高分子に該有
効成分を吸着せしめることにより行われる。
【0013】絹蛋白質または羊毛ケラチン等の蛋白質を
有効成分の吸着体とするために最も簡便な方法として
は、例えば、次の2つがある。
【0014】(1)昆虫が作る絹蛋白質繊維または動物
由来の羊毛繊維等の蛋白質繊維に有効成分を吸着させる
方法である。すなわち、有効成分を含む水溶液に蛋白質
繊維等を浸漬して取り出した後、これを自然乾燥させ
る。この操作を数回繰り返すだけで、蛋白質繊維等の表
面に有効成分を吸着することができる。
【0015】(2)有機高分子からなるメンブレンフィ
ルター、不織布等の支持体を吸着体とする方法である。
すなわち、有効成分を含む絹蛋白質または羊毛ケラチン
等の蛋白質の水溶液にこれらの支持体を浸漬し、撹拌等
の特別な他の手段を用いることなく試料水溶液中で2〜
3分以上放置してから取り出した後、これを乾燥させる
ことにより、有機高分子支持体の表面が蛋白質薄膜で被
覆される。
【0016】かくして得られた吸着体において、所望の
溶解度に適合するように絹蛋白質等を不溶化処理薬剤で
不溶化することにより、有効成分のための徐放体が製造
できる。あるいはまた、蛋白質水溶液に有効成分を溶解
させた混合水溶液をポリエチレン膜等の成型用支持体の
上に広げ、水分を蒸発させることにより、有効成分を徐
放する支持体となる蛋白質膜が製造できる。有効成分を
吸着、徐放させ得る生体高分子の形状は、繊維状、膜
状、多孔質体状、ブロック状、粉末状、ゲル状等のよう
にさまざまのものであってよい。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明で利用できる生体高分子と
しては、特に制約はなく、家蚕、野蚕由来の絹蛋白質
(例えば、絹フィブロイン、絹セリシン)または動物由
来のケラチン(羊毛ケラチン)、コラーゲン、ゼラチン
であってもよい。例えば、家蚕もしくはクワコ由来の絹
蛋白質、または野蚕であるテンサン、サクサン、エリサ
ン、シンジュサン由来の絹蛋白質が用いられる。家蚕、
野蚕由来の絹繊維、絹繊維製品もしくはその繊維集合
体、または動物繊維のケラチン繊維、ケラチン繊維製品
であってもよい。
【0018】上記生体高分子の蛋白質繊維、またはその
蛋白質繊維製品は、有効成分の吸着体、徐放体として利
用することができる他、それらの蛋白質の水溶液に有効
成分を溶解した後、水分を蒸発することにより調製でき
る粉末状試料、ゲル状試料、膜状試料、多孔質体試料等
の形状が異なる生体高分子も同様に吸着材/徐放体とし
て利用することができる。
【0019】吸着体としての蛋白質繊維または蛋白質繊
維製品に有効成分を吸着させるには、有効成分を溶解し
た水溶液または分散した水分散溶液に当該繊維や当該繊
維製品の試料を浸漬し、試料が十分吸水するまで放置し
た後、試料を取り出し、標準状態で軽く乾燥することに
よって行われる。また、吸着体に有効成分を効果的に吸
着させるには、有効成分を含有する蛋白質水溶液に当該
繊維、当該繊維製品等の試料を浸漬し、軽く乾燥させる
工程を複数回繰り返すとよい。さらに効果的に有効成分
を吸着させるには、常温常圧での浸漬処理よりも、有効
成分の水溶液の入ったガラス製密閉容器内に該繊維試料
を入れ、流水アスピレーターで減圧させた後、急激に減
圧を解除する操作を3〜4回繰り返すとよい。この操作
により、試料の繊維表面・繊維間隙ならびに微細な繊維
組織内にも有効成分が確実に入り込む。こうした方法
で、有効成分を繊維表面のみならず微細繊維組織内にも
吸着させることができる。有効成分が十分に吸着するこ
とから、本発明の吸着体は徐放体としても有効に利用で
きる。
【0020】浸漬処理のための水溶液の温度は、有効成
分の活性が低下しない範囲の温度であれば、制約が無
い。浸漬時間は通常3分以上、好ましくは5分以上が望
ましい。
【0021】蛋白質繊維等を吸着体として利用するに
は、前記のように有効成分の水溶液に蛋白質繊維を浸漬
し、これを取り出して自然乾燥させることにより、蛋白
質繊維表面に有効成分を吸着させるとよい。また、蛋白
質繊維または有機高分子材料を徐放体として利用するに
は、有効成分を含む蛋白質水溶液に、該蛋白質繊維また
は有機高分子材料を浸漬し、これを取り出して軽く自然
乾燥するとよい。有効成分の徐放速度は、バインダーと
しての機能を持つ蛋白質の水不溶性の度合いを変えるこ
とで制御できる。通常、蛋白質を不溶化させるには、エ
ポキシ化合物、アルデヒド化合物等の分子間架橋剤が有
効であるが、絹蛋白質の場合には、アルコール水溶液に
軽く浸漬処理するだけでも分子間凝集構造が密になり不
溶化する。
【0022】有機高分子材料の表面に有効成分を吸着さ
せるには、有効成分を含む生体高分子水溶液に支持体と
しての有機高分子材料を浸漬するとよい。この処理で、
表面が水溶性の有効成分含有生体高分子膜で被覆された
有機高分子材料を調製できる。有機高分子材料表面に被
覆された生体高分子膜(例えば、絹蛋白質膜)は水中で
は吸水して溶解してしまうので、効率的な徐放体にはな
り難い。しかし、例えばランダムリッチな絹蛋白質の分
子形態をβ型に転移させることで水不溶化させることが
できる。同様の分子形態の転移は、有効成分を含む絹蛋
白質膜を延伸、熱処理、吸水処理することによっても達
成できる。メタノール水溶液に有効成分を含む絹蛋白質
膜(以下、絹膜とも称す)を軽く浸漬するだけで、この
試料はゲル化し、結晶化し、これにより目的とする水不
溶性の吸着体または徐放体が得られる。結晶化した絹膜
は、水中に浸漬されて、吸水しても溶解することはなく
ゲル状物質になるので、分子間凝集性が低下し、包括し
てある有効成分の徐放効果が向上する。支持体分子と有
効成分とは、化学結合ではなく、水素結合、疎水結合等
の物理化学的結合で包括的に結合されているからであ
る。
【0023】絹蛋白質繊維の代わりに、カイコを解剖
し、体内から取り出した絹糸腺内の液体状の絹蛋白質を
用いることもできる。年間を通じて随時、多量に試料が
得られる点において、カイコ体内の液体状試料を用いる
よりは、カイコが吐糸した繊維状試料を用いる方が効率
的である。
【0024】羊毛はケラチンと呼ぶ蛋白質からできてお
り、本発明で利用できるのは、羊毛ケラチン繊維をはじ
め、次のようにして調製できるケラチン水溶液またはS
−カルボキシメチルケラチン水溶液である。これらの水
溶液は既存の技術で調製できる。すなわち、羊毛繊維を
溶解するために、まず、分子間のCys結合を窒素中で
メルカプトエタノールまたはチオグリコール酸等の還元
剤を用いて切断し、ケラチン分子を還元して可溶化す
る。メルカプトエタノールを用いる場合には、尿素溶液
中で還元処理を行うとよい。尿素の濃度は一般に7.5
〜8.8M、好ましくは7.8〜8Mである。また、チ
オグリコール酸を用いる場合には、1〜4%のNaCl
を添加するとよい。例えば、還元剤として作用するメル
カプトエタノールを用いる場合、羊毛繊維を上記濃度の
尿素水溶液に浸漬し、脱気後、窒素雰囲気下、45℃以
下、望ましくは20〜25℃の温度で、メルカプトエタ
ノールを10gの羊毛繊維に対し3〜5mL加え、さら
に約3時間攪拌する。こうしてケラチン分子が還元さ
れ、SH基を有するケラチンが得られる。純水を用いて
透析し、尿素、過剰のメルカプトエタノールを除去する
とケラチン水溶液が得られる。これは、本発明における
水溶性生体高分子として利用できる。
【0025】また、上記のようにして得られたSH基を
有するケラチンをさらにアルキル化剤、例えば(置換)
アルキルハライド等の既知アルキル化剤と反応させて、
S−(置換)アルキルケラチンとすれば、この水溶液も
また本発明において利用することができる。このアルキ
ル化は公知の方法に従って行えばよい。一例として、ア
ルキル化剤としてヨード酢酸を用いた場合について説明
する。上記の還元ケラチンに、窒素中、20〜25℃の
温度で、攪拌しながら、10gの羊毛繊維に対して10
〜17gのヨード酢酸(分子量185.95)を加えて
反応させる。1〜2時間後、pHをほぼ8.5に調整
し、純水を用いて透析することによって過剰のヨード酢
酸を除いて、S−カルボキシメチルケラチン水溶液を得
る。
【0026】このS−カルボキシメチルケラチン水溶液
は、上記したように、本発明における水溶性生体高分子
として利用できる。S−カルボキシメチルケラチン水溶
液に有効成分を混合して均一に攪拌し、この混合水溶液
をポリエチレンテレフテレート、ポリアミド、ポリエチ
レン、ポリスチレンもしくはポリフルオロエチレン等の
有機高分子材料の表面またはガラス等の無機材料の表面
等のような支持体表面上に広げ、水分を蒸発させ、乾燥
固化させることで、有効成分を含んだケラチン膜を調製
できる。かかる支持体としては、乾燥後の膜が容易に剥
がれるものであれば、特に制限はない。
【0027】有効成分の吸着体としては、上記したよう
に、生体高分子繊維が利用できる。吸着体としては、例
えば、絹蛋白質繊維または羊毛ケラチン繊維でもよい
し、これら繊維の集合体である編地、不織布などの繊維
製品であってもよい。あるいはまた、これら天然繊維を
溶解して製造した蛋白質水溶液を第二物質の表面に被覆
したものでもよい。セルロースアセテートとニトロセル
ロースとの混合物からなる材料、グラスファイバー製の
材料、その他の有機高分子材料を吸着用の支持体として
利用できる。繊維の集合体である織地、編地、不織布な
ども吸着用の支持体として利用できるが、微細繊維から
なる繊維製品や不織布が吸着体として好ましい。
【0028】有機高分子材料に、例えば絹蛋白質被膜を
付着させるには、有効成分を含む0.1〜10重量%の
絹蛋白質水溶液に有機高分子材料を軽く浸漬処理すると
よい。絹蛋白質水溶液濃度が高いと有機高分子材料に付
着する絹蛋白質膜の結晶構造はSilk I 型になり、試料
濃度が概ね3%以下だとランダム分子形態となることが
知られている。ランダム分子形態の絹蛋白質膜をアルコ
ール処理、あるいは熱処理すると Silk II 型の結晶形
態に転移する。本発明で利用できる絹蛋白質の結晶形態
は Silk I あるいは Silk IIでもよく、分子形態がラン
ダム状分子のものでも同様に利用できる。吸着体または
徐放体調製用として利用できる絹蛋白質水溶液の最適濃
度は、乾燥重量法で0.2〜5重量%である。絹蛋白質
の薄膜を被覆した吸着体は、絹蛋白質の薄膜を被覆しな
い対照区の吸着体に比べて、植物病原細菌を10〜10
0倍以上も吸着する。
【0029】繊維状生体高分子に有効成分を吸着させる
には、この生体高分子試料を有効成分を溶解した水溶液
に入れ、長時間浸漬処理するだけでよい。効率的に吸着
させるには、この浸漬処理を濾過ビンなどの減圧に耐え
る容器中で行って、減圧、減圧解除操作を繰り返せば、
繊維間隙または繊維組織内に被吸着物質が十分に吸着さ
れる。簡便な操作としては、室温で1〜20分、好まし
くは3〜7分の浸漬処理が最も好ましい。こうした簡単
な処理で絹蛋白質の薄膜が吸着支持体表面に形成される
が、浸漬処理により調製できる絹蛋白質薄膜は水溶性で
あるため、目的に応じて不溶化処理するのが好ましい。
絹膜は、30〜70重量%エタノール、メタノールなど
のアルコールで浸漬処理すると、分子間の凝集密度が向
上し、その結果、結晶性が増加して水不溶性になる。絹
蛋白質膜はアルコールの他、エポキシ化合物あるいはア
ルデヒド化合物による処理でも水不溶性となる。エポキ
シ化合物は、エチレングリコール ジグリシジルエーテ
ルなどの二官能性エポキシ化合物、その他三官能性およ
び多官能性エポキシ化合物であってもよい。アルデヒド
化合物としては、通常用いられるグルタルアルデヒドま
たはアセトアルデヒドが簡便に用いられる。
【0030】生体高分子に有効成分を効率的に吸着させ
るには、微細の繊維構造の繊維状物質よりも表面積が大
きくかつ構造が疎な粉末、または多孔質体の方が優れて
いる。しかも、一旦吸着した有効成分を長時間にわたっ
て徐放するという機能を発現することが本発明の吸着体
または徐放体の特徴であるが、徐放体からの有効成分の
徐放効果は、微細の繊維構造の繊維状物質の方が優れて
いる。従って、吸着効果を優先するか、徐放効果を優先
するかによって、また、所望する用途によって生体高分
子の形態を選ぶとよい。
【0031】本発明の徐放体は次のようにして製造でき
る。すなわち、セルロースアセテートとニトロセルロー
スとの混合物または有機高分子材料等の支持体を、水溶
性の有効成分を含む蛋白質水溶液に浸漬し、撹拌等の特
別な他の手段を用いることなく試料水溶液中で2〜3分
以上放置してから取り出した後、これを自然状態で乾燥
させれば製造できる。吸着体の場合と同じように、アル
コール、エポキシ化合物、アルデヒド化合物等で不溶化
させることにより徐放効率は著しく向上する。不溶化の
程度をかえることで有効成分の徐放速度を制御すること
ができる。
【0032】生体高分子のうち、徐放体として効果的な
素材は、絹フィブロインのような絹蛋白質または羊毛ケ
ラチンである。その理由は、有効成分の吸着能が高く、
これらの蛋白質の変性特性を利用することによって、徐
放速度のコントロールが可能となるからである。これら
の蛋白質を徐放制御製剤として利用するには、カプセ
ル、ラミネート、コーティング等の形態が好ましい。
【0033】有効成分を含む生体高分子膜を調製するに
は、生体高分子水溶液に有効成分を溶解させ、この溶液
を静かに攪拌しながら、ポリエチレン、ポリスチレン等
の成型用支持体の膜上に拡げて水分を蒸発する方法が簡
便である。
【0034】生体組織と絹蛋白質との抗原抗体反応の起
こり方は軽微であるため、絹糸は従来より外科用縫合糸
として生体組織に埋め込んで利用されている。そのた
め、有効成分を含む絹膜を所定の体内部位に埋め込むこ
とにより、必要な部位に必要な量の医薬品を供給するこ
とができる。
【0035】特に絹フィブロイン膜は、透明であり、酸
素透過性が良好であり、生体組織との適合性がよい。こ
うした生化学的特性に加えて、さらに成形性にも優れて
おり、また有効成分を包括した絹フィブロイン膜は、優
れた徐放効果を持つので、視力補正用のコンタクトレン
ズ素材として最適である。緑内障治療に有効な医薬品を
包括した絹フィブロイン膜を有するコンタクトレンズ
は、メタノール浸漬処理により該膜の不溶化する程度を
かえるだけで、医薬品の放出速度を大幅に制御できるな
どの効果がある。
【0036】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明す
るが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではな
い。
【0037】以下の実施例において細菌活性を評価する
ための抗菌性評価は、次の方法に基づいて行われた。実
施例で用いた植物病原細菌については、植物病原細菌の
中でも比較的数の少ないグラム陽性菌であり、生理活性
物質に対して感受性が比較的強いトマトかいよう病細菌
(Corynebacterium属細菌のCorynebacterium michiganes
e pv. michiganese)を選んだ。
【0038】(1)細菌に対する抗菌活性検定評価:加
熱溶解後55℃に保持したキングB培地25mLと、検
定菌(濃度109-10個/mL)2mLとを混合してシャ
ーレに流し込んで平板状に固めた。この菌液混合平板培
地上に繊維状試料または約5mm四方の膜状試料を置
き、ピンセットで注意深く試料を培地に密着させるよう
にした。2日間、20〜25℃に保った後、試料周辺に
現れる菌増殖阻害阻止帯の大きさから、検定試料の菌増
殖阻害程度を下記の判定基準により4段階で評価した。
【0039】++++:極めて強い(幅33mm以上の菌増
殖阻止帯を形成)。
【0040】+++:かなり強い(幅21mmから33m
m未満までの菌増殖阻止帯を形成)。
【0041】++:強い(明瞭で幅10mmから21mm
未満までの菌増殖阻止帯を形成)。
【0042】+:弱い(不明瞭な阻止帯を形成、幅15
mmから19mm未満までの菌増殖阻止帯を形成)。
【0043】±:軽微(幅8mmから15mm未満まで
の菌増殖阻止帯を形成)。
【0044】-:抗菌活性は認められない。
【0045】実施例1:絹フィブロイン多孔質体からの
無機イオンの徐放 次の方法で再生絹フィブロインを調製した。家蚕の絹フ
ィブロイン繊維5gを55℃の8M臭化リチウム水溶液
40mLに溶解させた。これをセルロース製透析膜に入
れ、5℃で1週間純水に置換し、濃度1.3%の絹フィ
ブロイン水溶液を作製した(以下これを再生絹フィブロ
イン水溶液と略記する)。
【0046】2Nの硝酸カルシウム(Ca(N032
4H20)水溶液15mLと2Nの硝酸アンモニウム
(NH4N03)水溶液15mLとを等量宛混合した合計
30mLの混合水溶液に、上記1.3%再生絹フィブロ
イン水溶液180mLを加えた。攪拌用のホモジナイザ
ーを用いて混合水溶液を1500rpmで15分攪拌す
ると、ホモジナイザーによる機械的な剪断応力が絹フィ
ブロイン分子に加わることとなり、分子間の分子凝集が
高まり、硝酸カルシウムと硝酸アンモニウムとを含む絹
フィブロインが溶液内で沈殿した。次いで、デカンテー
ション法で上澄を除去し、沈殿物を濾紙で濾過すること
により、硝酸カルシウムと硝酸アンモニムウムとを含む
絹フィブロイン沈殿物が得られた。この沈殿物を60℃
で1.5時間乾燥すると、堅くて、軽石状の多孔質状固
形物が得られた。
【0047】この固形物をメノウ製の乳ばちで微粉末化
した。この粉末3.13gに5gの石英砂(Quartz san
d,和光純薬工業株製、172-00015)を加え、組成的に均
一となるように十分混合して混合粉末を得た。直径18
mmφ、長さ11cmのガラス製のカラム管を用い、そ
の底面にガラスウールを敷き、続いてこの混合粉末の全
量を入れ、その上に再度ガラスウールを敷いて、混合粉
末がサンドイッチ状になるように充填した。カラム管に
約25mLの蒸留水を入れ、所定の溶出経過時間毎にカ
ラム管より25mLの水溶液を取り出し、その内の2m
Lを無機イオン測定用に用いた。その後、カラム管に
は、25mLの蒸留水を補給した。Merckoquantのカル
シウムイオンテスト(10083-1M;range 0-100mg/L)およ
び Merckoquantの硝酸イオンテスト(10050-1M;range 1
0-500mg/L)に基づく簡易テストキットによる呈色評価
法で、浸出液中のCa2+とNO3 -とを測定した。NO3 -
の測定にはMERCK社製の硝酸塩試験用試験紙を用いて、
紫色に着色する度合いごとに7段階に区別して評価し
た。Ca2+の定量実験により得られた結果を表−1に示
す。
【0048】 表−1から明らかなように、絹蛋白質からなる吸着体/
徐放体は、無機イオンを長時間にわたり徐放するので、
徐放素材として利用できる。
【0049】実施例2:家蚕絹フィブロイン膜からの抗
生物質および酵素の徐放 (1)カナマイシン含有家蚕絹フィブロイン膜 実施例1で用いた1.3%再生絹フィブロイン水溶液を
扇風機により室温で送風乾燥させて、濃度6%の再生絹
フィブロイン水溶液を調製した。
【0050】0.65mLの10,000ppmカナマ
イシン水溶液に6%再生絹フィブロイン水溶液1.13
mLを加え、ガラス棒で静かに攪拌した後、この混合水
溶液をポリエチレン膜の上に広げて、25℃で乾燥固化
させ、カナマイシンを固定化した水溶性の透明絹フィブ
ロイン膜を調製した。この絹膜を以下No.1と略記す
る。この絹膜を50重量%のメタノール水溶液に15分
間浸漬することで、抗生物質を固定化した水不溶性の絹
フィブロイン膜が得られた。これを以下No.2と略記
する。
【0051】(2)アルカリフォスファターゼ含有家蚕
絹フィブロイン膜 上記6%再生絹フィブロイン水溶液0.99mLにアル
カリフォスファターゼ12.7mgを加え、静かに攪拌
した後、ポリエチレン膜上に広げて乾燥固化させ、アル
カリフォスファターゼを含有する水溶性の絹フィブロイ
ン膜を調製した。以下、この絹膜をNo.3と略記す
る。アルカリフォスファターゼを固定化した水溶性の絹
フィブロイン膜を50重量%のメタノール水溶液に15
分間浸漬することで、水不溶性の絹フィブロイン膜を調
製した。この絹膜を以下、No.4と略記する。
【0052】No.1およびNo.2について、トマトか
いよう病細菌の増殖阻害に及ぼす影響を次のようにして
評価した。成形直後のNo.1およびNo.2を何も処理
しなかったもの(成形直後試料)、2mLの蒸留水中に
入れ、振盪することなく2日間静置したもの(水中静置
区)、または6時間流水で水洗いしたもの(水洗区)
を、トマトかいよう病細菌を含んだKB培地に置床セッ
トし、2日後に細菌の増殖状態をチェックした。得られ
た阻止円の数値(mm)を表−2に表示すると共に抗菌
性を評価した。
【0053】 表−2から明らかなように、カナマイシンを含んだ絹フ
ィブロイン膜は、トマトかいよう病細菌の増殖を強く阻
害する。また、水洗区のデータから明らかなように、水
不溶化処理をすることで徐放効果が一層持続するように
なる。
【0054】加熱溶解後55℃に保ったKB培地25m
Lとトマトかいよう病細菌(濃度108-9個/mL)2m
Lとを混合してシヤーレに流し込んで平板状に固めたも
のを用い、No.1−No.4について、トマトかいよう
病細菌の増殖阻害に及ぼす抗菌性評価実験を次ぎの2つ
の方法(α法、β法)で行った。α法は、被検定試料を
そのまま培地に良く接するように置床した成形直後試料
の結果であり、β法(溶出処理試料)は、被検定試料
を、20mLの蒸留水に2日間浸漬し、試料から可溶成
分を溶出させた後、この被検定試料を培地表面に置床し
2日目の抗菌性を評価した結果である。得られた結果を
表−3に示す。表中の括弧内の数値は阻止円の大きさを
mmで表示したものである。
【0055】 絹膜を水中に2日間浸漬し続けても、抗生物質や酵素は
持続的に溶出し続ける。これらの結果は、絹膜が徐放担
体として有望であることを示している。
【0056】実施例3:徐放体素材の種類の違いによる
抗生物質の徐放効果 テトラサイクリン2mgを2mLのメタノールに溶解さ
せた後、4mLの蒸留水を加えた。この水溶液にペーパ
ーディスク(AVANTEC,Thin 8mm Lot No.040495)を10
分間浸漬処理した後、取り出して105℃で30分間乾
燥させた。こうして調製した抗生物質付着ディスクを6
%再生絹フィブロイン水溶液に浸漬し、取り出して25
℃で自然乾燥させた。これをディスクAと略記する。一
方、上記のようにしてディスクを6%再生絹フィブロイ
ン水溶液に浸漬した後、取り出して105℃で1時間乾
燥したものをディスクBと略記する。トマトかいよう病
細菌の増殖阻害効果を実施例2に準じて評価した。得ら
れた結果を表−4に示す。
【0057】 表−4から明らかなように、ペーパーディスクに水不溶
性の絹フィブロインが支持体となって付着し、テトラサ
イクリンを包括したもの(ディスクB)は、浸漬時間7
2時間後においても抗生物質の徐放が見られる。水溶性
の絹フィブロインが付着したディスクAからの抗生物質
の徐放は48時間で終了している。
【0058】実施例4:家蚕絹フィブロイン膜からの抗
生物質の徐放 リファンピシン10.1mgに1.83mLの6%再生
絹フィブロイン水溶液を加え、更にエタノール0.55
mLを添加した混合水溶液をポリエステレン容器に広
げ、送風乾燥して膜状試料を作製した。この試料を以下
No.5と略記する。
【0059】テトラサイクリン−塩酸塩11.4mgに
1.83mLの6%再生絹フィブロイン水溶液を加え、
更にエタノール0.55g加えた混合水溶液をポリエス
チレン容器に拡げ、送風乾燥して膜状試料を作製した。
この試料を以下No.6と略記する。
【0060】カナマイシン10,000ppmの水溶液
0.65mLに1.83mLの6%再生絹フィブロイン
水溶液を入れ、更にエタノールを0.55g加えた混合
水溶液をポリエスチレン容器に広げ、送風乾燥して膜状
試料を作製した。この試料を以下No.7と略記する。
得られた結果を表−5に示す。
【0061】 表−5から明らかなように、抗生物質の徐放性が観測さ
れる。
【0062】実施例5:抗生物質の付着した家蚕生糸、
家蚕絹糸からの抗生物質の徐放 繊度が250d(デニール)の家蚕生糸、およびアルカ
リで精練した家蚕絹フィブロイン繊維(家蚕絹糸)表面
に、それぞれ、次のようにして抗生物質(テトラサイク
リン)を付着させた。約0.2gの家蚕生糸、家蚕絹フ
ィブロイン繊維を20mgのテトラサイクリンを含む2
mLの水溶液中に40分間浸漬した。浸漬処理後、各試
料を取り出し、表面に付着する抗生物質水溶液を濾紙で
軽く拭き取り、20℃、65%RHで40分間風乾させ
た後、再び、該抗性物質水溶液に40分浸漬させ、取り
出して繊維表面の水分を濾紙で再度拭き取り乾燥させ
た。こうして調製した家蚕生糸、絹フィブロイン繊維の
表面または内部にテトラサイクリンが付着した処理試料
を、100mLの水が入った200mLの三角フラスコ
の中に入れ、タイティク社製の振盪機(Double shaker
NR-30)で、1時間、1日、3日、5日、7日の間連続
的に振盪した。振盪速度は120rpmであり、試料を
取り出す毎に、三角フラスコ中の100mLの水は全量
取り換えた。振盪処理開始前、振盪時間が1時間、1
日、3日、5日、7日に対応する処理試料を室温で乾燥
させた。トマトかいよう病細菌に対するこれらの繊維試
料の増殖阻害の程度(mm)を評価した。なお、培地に
は、KBと半合成培地とを等量宛混合した培地を用い
た。得られた結果を表−6に示す。また、家蚕生糸、家
蚕絹フィブロイン繊維は、それぞれ、試料No.8、N
o.9として表−6に示した。
【0063】実施例6:抗生物質の付着した柞蚕生糸、
柞蚕絹糸からの抗生物質の徐放 実施例5と同様の方法で、振盪時間を変えて、柞蚕生
糸、柞蚕絹フィブロイン繊維(柞蚕絹糸)について、テ
トラサイクリン浸漬処理を行った。繊維試料のトマトか
いよう病細菌の増殖阻害の程度(mm)を評価した。得
られた結果を表−6に併せて示す。柞蚕生糸、柞蚕絹フ
ィブロイン繊維をそれぞれ、No.10、No.11と略
記した。
【0064】 表−6から明らかなように、表面に抗生物質(テトラサ
イクリン)を付着・吸着せしめた家蚕生糸、家蚕絹糸、
柞蚕生糸、および柞蚕絹糸は、振盪初期の段階で抗菌活
性が低下するが、1日〜7日にかけて徐放効果が認めら
れた。特に絹セリシンを除去した柞蚕絹フィブロイン繊
維(No.11)では長期にわたり抗菌活性が持続す
る。これは、一旦絹フィブロイン繊維内部に入り込んだ
抗生物質が長時間徐放し続けるためである。
【0065】実施例7:抗生物質の付着した各種繊維か
らの抗生物質の徐放 合成繊維および天然繊維をテトラサイクリンの水溶液に
浸漬する簡単な方法を用いて、それぞれの繊維表面を抗
生物質で薄く覆った。用いた各種の繊維試料は、合成繊
維としては、ポリプロピレン(以下、PPと略記)、ポ
リエチレン(以下、PEと略記)、ジアセテート(以
下、DAと略記)、ポリエステル(以下、PETと略
記)、ナイロン(以下、NYと略記)、天然繊維として
は、木綿(以下、COTと略記)、羊毛(以下、WOと
略記)、絹糸(以下、SIと略記)であった。各繊維試
料を、20mgのテトラサイクリンを含む2mLの水溶
液に20℃で40分間浸漬した。その後、取り出して室
温で40分間風乾させた。再びテトラサイクリン水溶液
に各試料を40分間浸漬させ、各試料を取り出して室温
で十分に風乾させた。このようにして調製した各処理繊
維を、それぞれNo.12、13、14、15、16、
17、18、19と略記する。実施例6と同様に水10
0mLを入れた三角ビーカーに各処理繊維を入れ、所定
時間振盪処理し、得られた試料の抗菌性を実施例6と同
様にして評価した。なお、試料を取り出す毎に蒸留水は
全量を交換した。得られた各試料の阻止円をmm単位で
表示したものを表−7に示す。
【0066】なお、用いた合成繊維の組成上の特徴は次
のとおりであった。
【0067】PP No.12 長繊維(丸断面)
200デニール/40フィラメント PE No.13 長繊維 85デニール/20フィ
ラメント DA No.14 長繊維 75デニール/21フィ
ラメント PET No.15 長繊維 50デニール/36フィ
ラメント(三角断面) NY No.16 長繊維 80デニール/30フィ
ラメント COT No.17 木綿繊維、20/3 絹100%
スタクロバー家庭糸(Y−KT2525) WO No.18 メリノ種由来の羊毛繊維(64’
S) SI No.19 家蚕絹繊維250dを2本合糸し
たもの 表−7の結果から明らかなように、合成繊維および木綿
の表面に付着した抗生物質は振盪時間1〜4時間を過ぎ
ると殆どが溶出してしまうため、いずれの繊維の抗菌性
も1日以内に失われる。一方、羊毛、絹などの天然繊維
の場合は、通常1時間振盪処理しても大部分の抗生物質
が残留し、振盪処理8日間でも一部の抗菌活性の残留す
ることが確かめられた。
【0068】実施例8:酵素被覆した各種繊維からの徐
放 次の方法で各種繊維表面にアルカリフォスファターゼを
吸着・被覆させた。すなわち、100mLの蒸留水に3
3mgのアルカリフォスファターゼ(シグマ社(Sigma C
hemical Company)製、No.P-3877)を溶解させて、これ
を原液とした。各繊維試料(実施例7で用いたPP、P
E、DA、PET、NY、COT、WO、SI)約30
mgをそれぞれ15mL容量のガラス瓶に入れ、この中
にアルカリフォスファターゼの原液13mLを加えた。
繊維試料にアルカリフォスファターゼが良く浸透するよ
うに、ガラス瓶をガラス製密閉容器に入れ、流水アスピ
レーターで密閉容器内を減圧にさせた後、圧力を解除し
た。この操作を3回繰り返した後、圧力を解除し、密閉
容器内より試料を取り出し、5℃で12時間放置し、水
分を徐々に蒸発させた後、最後に凍結乾燥器に入れて減
圧環境下で試料含有水分を完全に除去した。こうして乾
燥した約30mgの繊維状試料を木綿製の日本薬局方ガ
ーゼ(タイプI、蕨衛材(株)製)に包んだ。ガラス製
の200mL三角フラスコに100mLの蒸留水を入
れ、これにガーゼに包んだ試料を入れて、タイテック社
製の振盪機(Double shaker NR-30)を用いて振盪さ
せ、試料に付着、吸着したアルカリフォスファターゼを
溶出させた。振盪時間は0、1、4、24時間とし、振
盪速度は140rpmに設定した。所定時間振盪した各
試料は、一旦4℃冷蔵庫で保存した後、試料から溶出し
たアルカリフォスファターゼの量を次の方法で定量し
た。ガーゼより取り出した繊維試料の全量(約30m
g)を10mLのガラス瓶に入れ、これに後述の方法で
調製した基質溶液を添加し、酵素反応により生ずる基質
溶液の発色程度を、東ソ株式会社製の吸光度測定装置
(Micro Plate Reader MPR A4i)を用いて、波長405
nmにおける吸光度(O.D.)として求めて評価した。
【0069】なお、基質溶液の作製方法は次のとおりで
ある。和光純薬工業製試薬のジエタノールアミン(Cat.
No.093-03115)を蒸留水で希釈し、1Mの溶液を作り、
10N HClでpH3.8に調整した。この溶液に1
mg/mLの濃度になるようにジソジウム p−ニトロ
フェニルホスフェート六水和物(和光純薬工業製、Cat
No.147-02343)を添加したものを基質溶液とした。4m
Lの基質溶液に上述の繊維試料を入れ、25℃で30分
間反応させた。得られた結果を表−8に示す。
【0070】 注):アンダーラインを引いた繊維状試料は比較例である。
【0071】表−8の結果から、天然生体高分子の絹蛋
白質(絹フィブロイン)繊維、羊毛ケラチン繊維は、合
成繊維や木綿繊維に比べて、アルカリフォスファターゼ
の表面吸着量が多く、また、その徐放性があることが明
らかとなった。振盪時間24時間後においても十分な徐
放性が観察された。一方、PP、PETに見られるよう
な合成繊維および木綿繊維の表面では、酵素が物理的に
吸着しているだけで、徐放効果は認められなかった。
【0072】実施例9:酵素付着絹不織布からの酵素の
徐放 実施例8によると、絹フィブロイン繊維は、合成繊維お
よび木綿繊維に比べてアルカリフォスファターゼの吸着
・徐放効果が良好であることが確かめられたので、これ
が絹フィブロイン繊維によるものかまたは絹フィブロイ
ン被膜によるものかを次に検討した。絹フィブロイン繊
維から成り水流交絡法で調製した絹フィブロイン不織布
に、次の方法でアルカリフォスファターゼを付着させ
た。
【0073】すなわち、1997年6月クヌギの生葉で
飼育した柞蚕の熟蚕(吐糸1日前)体内より取り出した
絹糸腺内の液状絹フィブロインを蒸留水に分散させ、ま
た必要に応じて送風乾燥させて、絶乾重量で2.2重量
%の柞蚕絹フィブロイン水溶液(以下、単に絹フィブロ
イン水溶液と略記する場合もある)として調製した。
【0074】1.93mLの絹フィブロイン水溶液に実
施例8で用いたアルカリフォスファターゼ28mgを十
分に溶解した。こうして作製した酵素入り絹フィブロイ
ン水溶液に、約38mgの該不織布3枚を25℃で5分
間浸漬させた後、取り出してポリエチレン膜の上に並べ
て2時間乾燥させた。このアルカリフォスファターゼ担
持絹フィブロイン試料を次の方法で不溶化処理した。
【0075】A:50重量%のメタノール水溶液に30
秒間浸漬した。
【0076】B:2重量%グルタルアルデヒドに30秒
間浸漬処理した。
【0077】なお、絹フィブロインの酵素担持効果を明
らかにする対象区として下記の2区を用いた。
【0078】C:不織布を酵素入り絹フィブロイン水溶
液に浸漬した後、不溶化処理は全く行わなかったもの。
【0079】D:酵素入り絹フィブロイン水溶液の代わ
りに酵素を溶解した蒸留水を使用して不織布を浸漬処理
したが、不溶化処理は全く行わなかったもの。
【0080】A、B、C、Dについての徐放効果を実施
例8と同様にして調べた。ただし、振盪時間は、0時
間、1時間、4時間、24時間、3日、6日、10日
に、また基質反応時間は、30分に設定した。試料から
徐放する酵素液は振盪時間が0〜24時間までは、所定
の振盪時間毎に三角フラスコ中の水溶液100mLの全
量を交換し、振盪時間3日〜10日までは1日毎に水溶
液全量を交換した。所定の振盪時間毎に得られた徐放酵
素溶液中のアルカリフォスファターゼについて実施例8
と同様の方法で定量実験を行った。得られた結果を表−
9に示す。
【0081】 表−9から明らかなように、絹不織布を酵素入り絹フィ
ブロイン水溶液に浸漬した後、不溶化処理を行わなかっ
たもの(C)、および酵素入り絹フィブロイン水溶液の
かわりに酵素を溶解した蒸留水を使用して不織布を浸漬
処理し、不溶化処理を行わなかったもの(D)は、両者
に差が見られず、半価時間は4時間であった。一方、不
溶化処理を施したものの場合(AおよびB)、半価時間
は著しく延長し、メタノール処理では40時間(A)、
グルタルアルデヒド処理では28時間(B)となった。
ここで、半価時間とは、振盪時間0時間におけるアルカ
リフォスファターゼの定量値が1/2に低下するまでに
要した時間を意味する。
【0082】実施例10:グラフト加工絹糸表面へのア
ルカリフォスファターゼの吸着 家蚕絹糸へのグラフト加工を次のようにして行った。す
なわち、非イオン/アニオン混合界面活性剤のニューカ
ルゲン1515−2H(竹本油脂(株)製)を6重量%
含む加工液に希薄蟻酸を加えて、加工溶液のpHを3.
0に調整した後、メタクリルアミド(以下MAAと略
記)(65owf%)を添加し、シェーカーにより十分攪
拌した。更に、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム
を、絹糸重量とモノマー重量との合計重量に対して1.
8owf%添加した。なお、浴比は1:15に設定した。
グラフト加工溶液の温度を、25℃から45分かけて8
5℃まで昇温せしめ、次いで80℃の一定温度で60分
間加熱処理してグラフト加工を進め、グラフト加工絹糸
を調製した。この絹糸試料表面に付着した未反応薬品を
除去するため、1g/LのノイゲンHC(商品名、第一
工業製薬製)水溶液で80℃、30分間処理した。流水
で十分に洗浄した試料を標準状態(20℃,65%R
H)に1時間放置し、軽く乾燥してから105℃恒温装
置にて2時間乾燥させた。このようにしてMAAでグラ
フト加工した家蚕絹糸であって、グラフト率が48%の
ものを製造した。調製した試料を以下、試料Eと略記す
る。
【0083】次いで、グラフト加工した家蚕絹糸の他
に、グラフト加工していない家蚕絹糸の対照試料および
野蚕絹糸についても酵素付着の実験を行った。これらの
後者の2つの試料を以下、それぞれ試料F、Gと略記す
る。
【0084】すなわち、グラフト加工した家蚕絹糸、対
照家蚕絹糸および野蚕絹糸をそれぞれ、アルカリフォス
ファターゼ水溶液に浸漬し、取り出して室温で自然乾燥
し、絹糸表面にアルカリフォスファターゼを付着させ
た。具体的には、50mgのアルカリフォスファターゼ
を10mLの蒸留水に溶解し、この溶液2mLに7mg
の各試料を別々に入れ、これをガラス製密閉容器に人
れ、流水アスピレーターで30分減圧と減圧解除とを3
回繰り返し、繊維内部にアルカリフォスファターゼを含
浸させた。含浸試料を自然乾燥させた後、この試料を基
質溶液に入れ、室温静置し、10分間反応せしめた。1
0分後に、基質溶液について、波長405nmで吸光度
を求め、各試料からの酵素の徐放量を測定した。得られ
た結果を表−10に示す。用いた試料をまとめれば、下
記のとおりである。
【0085】 E:MAAグラフト加工家蚕絹糸(グラフト加工率48
%) F:家蚕絹糸対照区(未グラフト加工) G:野蚕絹糸(未グラフト加工) 表−10から明らかなように、家蚕絹糸では、グラフト
加工することにより対照区より酵素が多く吸着し、ま
た、野蚕絹糸では、未加工絹糸であっても酵素を多く吸
着する。各繊維試料に付着したアルカリフォスファター
ゼが基質溶液に溶出・徐放する量は増量値で判断でき
る。1日毎に溶出水溶液の全量を取り換えながら振盪5
日目における溶出水溶液のO.D.値を測定した。MA
Aでグラフト加工することで付着酵素の徐放効果は向上
し、対照区の家蚕絹糸に比べて約40%増加する。ま
た、野蚕絹糸はグラフト加工しなくても家蚕絹糸に比べ
てアルカリフォスファターゼの徐放効果を持つ。
【0086】また、上記MAAの代わりに、メタクリル
酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸メ
チル(MMA)、スチレン(St)、メタクリル酸ベン
ジル(BzMA)等のビニル基含有モノマーを使用して
も同じような結果が得れられる。 実施例11 熟蚕の柞蚕体内より取り出した絹糸腺から未変性の液状
絹フィブロインを取り出した。絶乾重量法で測定した柞
蚕絹フィブロイン水溶液の濃度は、2.2%であった。
この柞蚕絹フィブロイン水溶液4.4mLにアルカリフ
ォスファターゼ11.8mgを溶解し、静かにガラス棒
で攪拌し、ポリスチレン膜の上に広げ、25℃で、1昼
夜放置し、緩やかに試料水分を蒸発させて、アルカリフ
ォスファターゼ含有の柞蚕絹フィプロイン膜を調製し、
その後2%グルタルアルデヒドで不溶化処理した。
【0087】上記不溶化処理の結果、得られた絹フィブ
ロイン膜は不溶化されていることが確認された。
【0088】実施例12 水溶性高分子として、羊毛を溶解したケラチン水溶液を
次のようにして調製した。メリノ種羊毛(64’S)に
含まれる色素、脂肪分を、ベンゼン/エタノール(50
/50容積%)の混合溶媒を用いて、ソックスレー抽出
器で2.5時間処理することにより除去した。
【0089】三つ口フラスコを用意し、その一つの口に
は三方コックを介して乾燥窒素ボンベからのゴム管を接
続し、反応系のpH調節のためのpH電極を別の口に常
時挿入し、残りの口は必要な薬剤投与用として利用す
る。繊維長が約1cmとなるように細断した8.18g
のメリノ種羊毛繊維を三つ口フラスコに投入し、これに
450mLの8M尿素溶液を加えた。窒素ガスでパージ
し、アスピレーターで15分間三つ口フラスコ内を45
mmHg程度に減圧し、次いで急激に大気圧に戻す操作
を3〜4回繰り返した。このようにすると、三つ口フラ
スコ内の羊毛繊維間に含まれる空気が完全に除去でき、
尿素水溶液とケラチン分子との反応が効率的となる。窒
素置換が完了した後、三つ口フラスコ内に、還元剤とし
て、4.8mLのメルカプトエタノールを加えて、8M
尿素水溶液中で2〜3時間放置した。更に、約100m
Lの5N KOH溶液を微量づつ加えて、三つ口フラス
コの混合溶液のpH を10.5に調節した。室温で3
時間かけて羊毛繊維が完全に溶解するのを待った。繊維
状の羊毛繊維が溶解したものがケラチン水溶液である。
セルロース透析膜を用い、ケラチン水溶液を純水で2日
間透析した。送風乾燥させたり、あるいは必要により純
水を加えることにより、所定濃度のケラチン水溶液を調
製した。
【0090】こうして調製した0.01%のケラチン水
溶液450mLに室温で9.5gのヨード酢酸を加え
て、ケラチンのS−カルボキシメチル化反応を1時間行
った。5N KOH水溶液でケラチン水溶液のpHを
8.5に調製することによりS−カルボキシメチルケラ
チン水溶液を得た。セルロース製の透析膜を用いてこの
水溶液を純水で2日間透析した。次いで、実施例8で用
いたのと同じ各種繊維を用い、アルカリフォスファター
ゼを含むS−カルボキシメチルケラチン水溶液にこれら
の繊維をそれぞれ浸漬し、各繊維表面での酵素の徐放量
を評価した。実施例8の各繊維の場合について得られた
表−8のデータと同様の結果が得られた。すなわち、天
然生体高分子の絹蛋白質(絹フィブロイン)繊維、羊毛
ケラチン繊維は、合成繊維や木綿繊維に比べて、アルカ
リフォスファターゼの表面吸着量が多く、また、その徐
放性があることが確認され、また、振盪時間24時間後
においても十分な徐放性が観察された。一方、PP、P
ETに見られるような合成繊維および木綿繊維の表面で
は、酵素が物理的に吸着しているだけで、徐放効果は認
められなかった。
【0091】また、コラーゲン及びゼラチンについて
も、上記ケラチンの場合と同様に、吸着されたアルカリ
フォスターゼの徐放性が認められた。
【0092】実施例13:絹蛋白質で被覆したプレフィ
ルターでの細菌の吸着 グラスファイバーからなる日本ミリポアー株式会社製の
プレフィルター(AP25035KOO、アクリル樹脂接着メンブ
レン用プレフィルター)を2.2%の再生絹フィブロイ
ン水溶液に1分間浸漬した後、ピンセットで取り出し、
濾紙の上で自然乾燥させ、更に65℃の乾燥機で乾燥さ
せた。その後、50%メタノールで不溶化処理し、再び
65℃で乾燥させた。このようにして作製した絹フィブ
ロイン付着のプレフィルター、および絹フィブロインを
付着させなかったプレフィルターを濃度107個/mL
に希釈したトマトかいよう病細菌の水溶液に2分間浸漬
した直後、(1)流水で2分間洗浄(流水区)、または
(2)100mLの蒸留水で2分間激しく揉み洗い(揉み
洗い区)した。以下の方法で、プレフィルターに吸着し
たトマトかいよう病細菌の菌数を計測した。すなわち、
流水区、揉み洗い区のプレフィルター試料を半合成培地
上に別々に置き、各試料表面に付着した細菌を広げ、2
日目の細菌コロニーの出現を調べた。その結果、絹フィ
ブロインが付着したプレフィルター試料では、両区とも
絹フィブロインを付着させなかったプレフィルター試料
の場合と比べ、10〜100倍の細菌付着率の増加が認
められた。
【0093】このことから、絹フィブロインでプレフィ
ルターの表面を被覆した試料では、細菌を効率良く吸着
することが明らかとなった。
【0094】実施例14:絹フィブロインで被覆したメ
ンブレンフィルターへの酵素吸着 日本ミリポアー株式会社製のメンブレンフィルター(HA
WP02500、孔径0.45μm、直径25mm、セルロースア
セテートとニトロセルロースとからなる混合物製)を
2.2%の絹フィブロイン水溶液に1分間浸漬した後、
ピンセットで取り出し、濾紙の上で、室温で乾燥させ
た。室温で乾燥したこのメンブレンフィルターを2.2
%の絹フィブロイン水溶液に1分間再度浸漬した後、ピ
ンセットで取り出し、濾紙の上で乾燥させた。これを6
5℃の乾燥機で3時間乾燥させた。このフィルターを5
0%メタノールに5分間浸漬処理して、フィルターに付
着した絹フィブロインを不溶化処理し、再び65℃で乾
燥させた。こうして作製した絹フィブロイン付着メンブ
レンフィルターを日本ミリポアー株式会社のマイクロシ
リンジフィルターホルダー(XX300250、ステンレス製、
直径32mm)に入れ、アルカリフォスファターゼ溶液を
通過させながら吸着実験を行った。
【0095】すなわち、300mLの蒸留水に1mgの
アルカリフォスファターゼを溶解した溶液2mLをマイ
クロシリンジで取り、上述のメンブレンフィルターをセ
ットしたフィルターホルダーに注入した。フィルターが
溶液中のアルカルフォスファターゼを均一に吸着できる
ようにゆっくりと(200μm/min.)酵素溶液を
フィルターホルダーに注入してメンブレンフィルターを
通過させた。この操作を10回繰り返し、10回メンブ
レンフィルターを通過させた後の溶液中のアルカリフォ
スファターゼの定量を希釈倍率を変えることにより測定
した。なお、反応時間は30分である。得られた結果を
表−11に示す。
【0096】 表−11から明らかなように、メンブレンフィルター表
面に水不溶性の絹フィブロインを付着させると、絹フィ
ブロインを付着させなかったメンブレンフィルターの場
合(対照区)と比べ、アルカリフォスファターゼを10
%程度多く吸着することができる。
【0097】実施例15 メタノール処理前後の家蚕絹フィブロイン膜の結晶化度
をX線回折に基づいて次のようにして求めた。電学電機
(株)製X線回折測定装置(RU-200)を用い、管電圧4
0KV、管電流50mA、Niで濾光したCuKα線
(λ=1.542Å)を用いた。回折角は5〜35゜、回折
スピードは1゜/min.、タイムコンスタントは1sであ
った。結晶化度はハーマンス(Hermans)らの方法(J.A
ppl.Phys,19,(1948))によった。メタノール処理前後の
家蚕絹フィブロイン膜の結晶化度は、それぞれ5.1%
及び9.0%であった。なお、メタノール浸漬処理は、
家蚕絹フィブロイン膜をメタノール50重量%の水溶液
に室温で15分浸漬した後取り出し、自然乾燥すること
によって行われた。メタノール処理前の家蚕絹フィブロ
ン膜は、蒸留水に浸漬すると3〜4分以内に溶解してし
まうが、メタノール処理後の該膜は、水により膨潤する
ものの溶解はしなくなった。このことから、絹フィブロ
イン膜の溶解挙動と結晶化度とは密接に関連しており、
結晶化度が7%前後で溶解挙動が変わることが分かっ
た。
【0098】また、ケラチン膜についても、上記絹フィ
ブロイン膜の場合と同様に、結晶化度が7%前後で溶解
挙動が変わり、結晶化度が低いと水溶性であり、高いと
水不溶性であることが分かった。
【0099】
【発明の効果】生体高分子の蛋白質からなる本発明の吸
着体/徐放体は、有効成分を効率的に吸着することがで
きると共に、これらの有効成分の包括力に優れているた
め、これらの有効成分を効率的に徐放することができる
ものである。
【0100】本発明における生体高分子は、吸水すると
分子間凝集性が低下し、良好な徐放効果を示すようにな
る。徐放体としては、繊維状の生体高分子そのものを利
用できるし、または絹蛋白質水溶液等に有効成分を溶解
させてから水分を蒸発させることで調製できる有効成分
包括絹蛋白質等の膜として、もしくは有効成分が溶解し
た絹蛋白質等の混合水溶液に徐放支持体を浸漬すること
によって調製できる絹蛋白質等の膜で被覆された素材と
しても利用できる。こうして調製できる絹蛋白質等の膜
または徐放支持体表面の絹蛋白質等の膜は水溶性である
ので、所望により不溶化処理する。例えば、人体に無害
なアルコール水溶液で軽く浸漬処理すれば、分子間凝集
状態が高まるため、他の従来の有機高分子素材とは違っ
て有害な架橋剤を用いなくてもよい。そのため、本発明
の徐放性基材は、放出制御型製剤、または、薬物の新し
い投与システムのドラッグデリバリーシステム(DD
S)用の製剤に利用できる。
【0101】本発明の生体高分子からなる吸着体/徐放
体は、有効成分を吸着したり、包括できるので、徐放支
持体としても利用できる。薬物の有効成分や肥料成分は
徐放支持体中を拡散しながら溶出するので、有効成分の
持続性を高めることができる。固定化した有効成分また
は肥料成分の全量を溶出した後、本発明の吸着体/徐放
体は、土壌中の微生物、バクテリアの作用により加水分
解的に劣化し、土壌中に還元されてしまうので環境の汚
染源とならないという特徴がある。
【0102】本発明の生体高分子は、抗生物質、医薬
品、生理活性物質等の有効成分との分子相互作用が強い
ので、各種産業資材として利用できる。農学分野におい
て被吸着物質、被徐放物質として利用できるものには、
例えば、(1)殺虫剤、フェロモン、ホルモン、殺ダニ
などの害虫防除剤、(2)殺菌剤、(3)除草剤、
(4)植物生長調節剤、(5)殺鼠剤等がある。また、
農薬の徐放をさせる例としては、農薬成分の消失に見合
った速度で農薬剤を放出する放出制御製剤担体に利用で
きる。放出速度は、担持する農薬量、固定化後の不溶化
処理の程度を変えることで制御できる。また、担持する
農薬の水に対する溶解性によっても変化させることがで
きる。一般的に、多くの肥料成分は、水溶性であり速効
性があるため、持続性が無く、降雨で流出し無駄になっ
てしまう。本発明の徐放性基材を用いると、肥料成分に
持続性を付与することが可能となり、作物が必要とする
時期に必要十分な量を持続的に施肥することができ、肥
料の利用効率を上げることができる。農薬成分の放出制
御製剤に対応する緩効性肥料の徐放体として利用でき
る。
【0103】本発明の吸着体および徐放体は、低分子物
質に対する吸着性、物質徐放速度を、常温常圧におい
て、しかも健康に害を与える恐れの無い薬剤処理により
制御できるので、例えば、アフィニティークロマトグラ
フィー用担体、医薬品、生理活性物質、ホルモン及びワ
クチン等のマイクロカプセル化基材としても優れた特性
を発揮する。農薬または肥料成分を物質吸着体および物
質徐放体に封入してカプセル化したものは、土壌改良剤
として利用できる。
【0104】本発明の生体高分子からなる吸着体/徐放
体は、動物性蛋白質であるので、バクテリア、微生物の
作用を受けると、低分子化して、最終的にはアミノ酸に
まで分解してしまう。そのため、医薬品、生理活性物質
等の有効成分を本発明の吸着体/徐放体に包括させて
も、人間、生体組織に対して安全であるので、バイオ材
料として付加価値の高い利用が可能となる。また、殺虫
剤、フェロモン、ホルモン、殺ダニ剤などを固定化した
生体高分子は農薬活性がある。
【0105】本発明の吸着体/徐放体は、害虫防除剤の
徐放支持体として利用できる。このようにバイオ分野ま
たは農学分野において、本発明の吸着体/徐放体は効果
面、安全性のいずれの面でも優れた素材である。
【0106】本発明によれば、生体に有毒な分子間架橋
薬剤を用いることなく、常温常圧で容易に使用可能なア
ルコールを用いて、この水溶液中に該生体高分子を浸漬
するだけで容易に水不溶性の生体高分子に変化せしめる
ことができる。絹蛋白質等は、環境に有害な薬品を用い
ることなく、メタノールなどのアルコール水溶液で短時
間浸漬処理をするだけで水不溶化してしまう。こうした
簡単な処理により生体高分子の分子凝集状態は密になる
ので、こうした性質を利用することにより、反応薬剤と
の浸漬時間を変えるだけで、生体高分子に固定・包括し
た酵素、医薬品、生理活性物質等の有効成分の徐放速度
を簡単な方法で制御できる。従来は、固定化担体の架橋
度、壁厚、ポリマー組織を変えなくてはならなかった
が、本発明によれば、生体高分子の膜厚を変えたり、粉
末試料では粒径を変えたり、不溶化程度を変えるだけで
徐放体からの有効成分の放出速度制御が可能である。
【0107】本発明の徐放体は医薬品の徐放素材として
有効であり、医薬品の投与部位が皮膚であれば、軟骨
剤、プラスター剤、ハップ剤、ローション剤に本発明の
絹フィブロイン等の水溶液、ゲル、粉末状態のものを入
れることで徐放性効果を上げることができ、また、本発
明の徐放体を治療システム用に適用すればDDS製剤を
適用でき、皮膚のみでなく、眼、口腔、鼻、子宮等の粘
膜への医薬成分の徐放が可能である。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C08H 1/00 C08H 1/00 (56)参考文献 特開 昭64−40418(JP,A) 特開 平7−277981(JP,A) 特開 平6−293631(JP,A) 特開 昭62−209161(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B01J 20/24 A61K 9/00 A61K 47/42

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 有効成分を吸着する吸着機能を有し、一
    旦吸着させた有効成分を徐放する徐放機能を有する生体
    高分子からなり、該生体高分子が絹蛋白質または動物由
    来のケラチンであることを特徴とする有効成分の吸着体
    徐放体。
  2. 【請求項2】 前記生体高分子が絹フィブロインまたは
    羊毛ケラチンからなり、該絹フィブロインおよび羊毛ケ
    ラチンの結晶化度がX線回折強度分析結果に基づき7%
    以上である請求項1に記載の吸着体徐放体。
  3. 【請求項3】 前記生体高分子がSH基を有する還元ケ
    ラチンまたはS−(置換)アルキルケラチンである請求
    項1または2に記載の吸着体徐放体。
  4. 【請求項4】 前記生体高分子が水不溶化されたもので
    ある請求項1〜3のいずれかに記載の吸着体徐放体。
  5. 【請求項5】 前記生体高分子が、メタクリルアミド、
    メタクリル酸メチル、スチレン、またはメタクリル酸ベ
    ンジルのいずれかであるビニル基含有モノマーによりグ
    ラフト共重合されたものである請求項1〜4のいずれか
    に記載の吸着体徐放体。
  6. 【請求項6】 吸着機能を有し、また徐放機能を有す
    る、絹蛋白質または動物由来のケラチンのいずれかであ
    る生体高分子からなる吸着体/徐放体の製造方法であっ
    て、該生体高分子を有効成分を含む水溶液中に浸漬し、
    次いで該生体高分子を取り出して乾燥し、該有効成分の
    吸着された該生体高分子を調製せしめること、または、
    有機高分子支持体を該有効成分を含む生体高分子水溶液
    中に浸漬し、次いで該支持体を取り出して乾燥し、該有
    効成分の吸着された生体高分子膜を該支持体表面に被覆
    せしめること、または、該有機高分子支持体上に該有効
    成分を含む生体高分子水溶液を広げ、次いで乾燥し、該
    有効成分の吸着された生体高分子膜を該支持体に形成せ
    しめることを特徴とする有効成分の吸着された生体高分
    子からなる吸着体/徐放体の製造方法。
  7. 【請求項7】 前記得られた吸着体/徐放体を、さらに
    不溶化剤で処理して水不溶性にする請求項6に記載の吸
    着体/徐放体の製造方法。
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