JP3081531B2 - 手投げ消火液弾 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明はカリウム化合物、ナト
リウム化合物およびアンモニウム化合物等の薬剤水溶液
を合成樹脂製等の衝撃破損性容器に密封した手投げ用の
消火液弾の改良に関するものである。なお以下の記載に
おいて用いられる「重量％」とは製品中の固形分重量の
合計を１００とした表示である。

【０００２】

【従来の技術】在来の備え付き消火器は、応急時におい
て使用する者が咄嗟の異常恐怖に襲われ、自らの冷静を
失い、正しく操作出来ず、又、容器内の消火薬剤が経年
変化して有効に作用しなかったことなどの理由により、
初期消火に役立たなかった例は多い。一般に、火災の予
防と防火手段について、今日なお種々の問題点を残して
いるのが現状である。

【０００３】これらの問題点を解決するために、本発明
者は、先に、塩化アンモニウム５７％、重炭酸ナトリウ
ム６％、無水炭酸ナトリウム２７％および第二リン酸ア
ンモニウム１０％から成る混合物を適当量の水に溶解
し、反応させて得た比重１．１２の溶液を、投てきし易
く形成した樹脂容器に密封した手投げ用の消火液弾を開
発した（特開昭５８−１２７６６８号）。かかる液弾
は、火元に投てきすると、容器の破裂と同時に消火液剤
の分解、拡散により、燃焼物から熱と酸素が逃げて、火
焔を消火させることができる。

【０００４】又、特開平４−８２５７１号には、ゼラチ
ン質にて形成される硬カプセル中に粉末、液体、あるい
はこれらの混合物よりなる消火剤を収容した硬カプセル
消火剤が開示されている。この硬カプセル消火剤は、窒
素ガスなどの高圧ガスとノズル装置を用いて、火災現場
に放射され、所定の消火能力を発揮させるものである。

【０００５】又、特開平４−１４１１８４号には、ゼラ
チン基質のシート間に粉末、液体、あるいはこれらの混
合物よりなる消火剤を収容し、カプセル化した軟カプセ
ル消火剤が開示されている。この軟カプセルも、窒素ガ
スなどの高圧ガスとノズル装置を用いて、火災現場に放
射され、所定の消火能力を発揮させるものである。

【０００６】又、特開平７−３１３６１６号には、熱伝
導率が良く耐熱性を有し液体が漏洩しない微細穴或は流
出する細穴の噴出口を設けた容器内に、本材・竹材・草
材・藻材・海草類等の植物の乾溜物か発酵物か抽出物か
微粉末か液化物などの任意処理物と、鉄、ニッケル、コ
バルト、シリコン、アルミニウムなどの任意金属を単体
或は錯体又は複合体、更には化合物を混合した消火・消
煙用の混合液と空気を封入した火炎用緊急救命器具が開
示されている。この火炎用緊急救命器具は、初期の火災
或は火災による煤煙や有毒ガスの発生を防ぎ且つ火災現
場よりの脱出を容易ならしめんとするものであり、適当
な場所に置くだけで火災の発生に応じて自動的に消火消
煙を行うことが出来、又、携帯することによって、火災
時に投下すれば、消火消煙を行うことも出来、逃げ遅れ
た人が煤煙にて窒息することなく且つ火傷を最少限に止
めながら脱出することが可能となる。

【０００７】しかしながら、更に消火性能が優れた消火
液弾の開発が要請されている。

【０００８】

【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、火災
発生時に誰でも容易に使用でき、しかも長期間保存後も
有効な、簡便な消火器具を提供することである。

【０００９】本発明の他の目的は、本発明者による前述
の消火液弾よりも更に消火性能が優れた、手投げ用の消
火液弾を提供することである。

【００１０】

【問題点を解決するための手段】本発明者は、消火液剤
について更に多年にわたり研究した結果、本発明者が先
に提案した、前述の消火液弾中の消火液剤において、無
水炭酸ナトリウムの代わりに炭酸カリウム（Ｋ^２Ｃ
Ｏ_３）を使用し、更にタングステン酸ナトリウム（Ｎａ
_２ＷＯ_４・２Ｈ_２Ｏ）を使用することにより、相乗効果
により消火効力が著しく増大し、且つ消火時間が短縮さ
れることを発見した。更に、以前の消火液剤よりも薬剤
濃度を約１１〜１６％高めて、比重を約１．２〜約１．
３にすることにより、消火効力が一層増大することを発
見した。

【００１１】即ち、本発明によって、４７重量％からほ
ぼ飽和量の塩化アンモニウム（ＮＨ_４Ｃｌ）と、４〜８
重量％の重炭酸ナトリウム（ＮａＨＣＯ_３）と、２５〜
３５重量％の炭酸カリウム（Ｋ_２ＣＯ_３）と、８〜１４
重量％の第二リン酸アンモニウム（（ＮＨ_４）_２ＨＰＯ
_４）と、２〜６重量％のタングステン酸ナトリウム（Ｎ
ａ_２ＷＯ_４・２Ｈ_２Ｏ）とから成る薬剤混合物を適当量
の水に溶解して得た消火液剤を、手投げ可能な大きさで
且つ衝撃により破損し得る薄材樹脂製等の容器内に密封
して成ることを特徴とする手投げ消火液弾が提供され
る。本発明においては、後記実施例１に示す量比から成
る薬剤混合物を用いた消火液弾が、特に好ましい。

【００１２】上記各成分の量比が少な過ぎる場合には、
消火能力が弱く、投てきの回数が多くなる。一方、多過
ぎる場合には、各成分が水に溶解せず、薬剤が沈澱し、
消火能力が著しく低下する。

【００１３】上記薬剤混合物を通常約２．８〜約３．０
倍の水に溶解して、比重約１．２０〜１．３０、好まし
くは約１．２５〜１．２９、特に約１．２９の消火液剤
とすることが好ましい。比重が１．２０未満の場合、燃
焼物は、化学反応が弱いため、消火時間がかかると同時
に、再燃する場合があり得る。一方、比重が１．３を超
すと、薬剤が水に溶解しにくくなり、結晶物となって沈
澱する傾向がある。

【００１４】上記の樹脂容器は、例えば図１に示される
ような薄材角形円筒状で、容積約５００〜１２００ｍ
ｌ，特に約８００〜１０００ｍｌであるのが便利であ
る。該容器の材質は、例えば塩化ビニル、低圧ポリエチ
レン、高圧ポリエチレン、ポリプロピレン等であり得
る。

【００１５】

【作用】本発明の消火液弾を、１秒を争う火急の場合に
つかんで火元に投てきすると、容器が破裂し、拡散した
消火液が燃焼物の熱で化学反応をおこして熱と酸素を奪
い、水蒸気の発生により空気を遮断し、火焔を消失させ
る。消火液弾の各成分の作用は以下の通りである。 （１）塩化アンモニウムと炭酸カリウムとは常温でもわ
ずかながら次の様に反応し、弱いアンモニア臭を発す
る： ２ＮＨ_４Ｃｌ＋Ｋ_２ＣＯ_３ → ２ＮＨ_３＋ＣＯ_２＋２
ＫＣｌ＋Ｈ_２Ｏ 温度の上昇とともに反応は急速に進行するから、薬剤を
火中に投げた場合、激し反応し、発生したＮＨ３は酸素
と次のように反応して分解する： ４ＮＨ_３＋３Ｈ_２Ｏ → ２Ｎ_２＋６Ｈ_２Ｏ 従って、これら（ＣＯ_２、Ｎ_２、ＮＨ_３、Ｈ_２Ｏ）の気
体により、空気（酸素）が急速に排除され、燃焼が抑止
される。 （２）第二リン酸アンモニウムは消火剤として知られて
おり、以前から消火器に使用されている物質であるが、
塩化アンモニウムと炭酸カリウムとの相乗作用により、
一層強力に消火作用に寄与する。 （３）重炭酸ナトリウムは常温における（１）の反応を
抑制し、安定化作用をなしているが、高温では分解して
ＣＯ_２を発生し、消火作用の一翼を担うものである。 （４）タングステン酸ナトリウムは、塩化アンモニウム
および炭酸カリウムとの相乗作用を著しく増大し、一層
強力に消火作用に寄与する。 （５）火中に投げられ拡散した薬剤は、気体となって放
散することなく残った塩化物、リン酸塩等が物体をカバ
ーし、延焼を防止するので、再発火を抑止する効果があ
る。なお、これらの薬品を溶解している水自体の多大の
蒸発熱（吸熱）及び発生する水蒸気による空気の排除に
基づく消火作用については言うまでもない。

【００１６】

【実施例】実施例１ ａ．消火液剤の調製 容量１０００リットルの撹拌機付設の溶解槽に６５０リ
ットル〜７００リットルの水を入れ、常温（３０℃〜４
０℃）に維持のもとで撹拌機を作動させながら、（１）
ＮＨ_４Ｃｌ １６３．０ｋｇ（４９．２ｗｔ％）、
（２）Ｋ_２ＣＯ_３ １０３．０ｋｇ（３１．１ｗｔ
％）、（３）（ＮＨ_４）２ＨＰＯ_４ ３１．０ｋｇ
（９．４ｗｔ％）、（４）ＮａＨＣＯ_３ ２５．０ｋｇ
（７．６ｗｔ％）を（１）、（２）、（３）、（４）の
順序で暫時投入し、溶解する。溶解後、（５）Ｎａ_２Ｗ
Ｏ_４・２Ｈ_２Ｏ ９．０ｋｇ（２．７ｗｔ％）を投入
し、溶解する。所要時間９０分〜１５０分で全部溶解し
終わると、水を２５０リットル〜３５０リットル投入
し、希釈調節する。所要時間は、約４０分〜６０分であ
る。溶相は無色透明で、比重１．２９０、ｐＨ７．５〜
１０．０である。 ｂ．消火液弾の製造 容器本体１は、図１〜２に示されるように、０．８ｍｍ
〜１．０ｍｍ厚の赤色塩化ビニル（商品名：コンパウン
ド）なら成り、底面４は、８０ｍｍ×８０ｍｍのほぼ方
形、高さ１６０ｍｍの角筒（満液部）に、頂部注入口３
と連続するＬ形湾曲部２を表面接続してなる角ビン状で
あって、角筒の側部周面に、周面より２ｍｍの凸面ａ、
ｂ、ｃ、ｄ、ｅを横巻状に囲設し、それらに対応する容
器内側部にｄ’、ｅ’のように凹面を形成する。そし
て、凸面の巾を、ａは１２ｍｍ、ｂは１０ｍｍ、ｃは８
ｍｍ、ｄは１０ｍｍ、ｅは１２ｍｍと寸法違いになし、
筒体の中央部位に相当するｂ、ｃ、ｄをａ、ｅよりも小
巾に形成したことにより、筒体の手握り、投てきを容易
ならしめ、周而や凹面の交わる角にアールを施して手触
り感を良くするほか、平時において屋内装飾品との調和
を保つため、審美性のある色彩（赤色）を配した。これ
は、防火用品として常備する人が日頃から用品に馴染み
を持つことにより、非常の際の有効利用を期待する意図
からの工夫であって、不慮の火災に当面した時、自他の
区別なく誰でもが、何ら煩わしい操作をすることなく、
手に把って、投げるだけで初期消火の目的を達成できる
よう配慮している。キャップは、白色ポリプロピレン
（商品名：アロンコンパウンド）を、パッキンは、自然
色のポリエチレン（商品名：ソフトロン）を使用し、形
成した。かかる容器１個に、前記の消火液剤８００ｃｃ
定量を注入密閉して角形の弾筒を形成した。使用温度範
囲は、−１０℃〜７０℃である。本発明の消火液剤は、
食品添加用物質を使用しているので、人や物に対して無
害であり、液を冠濡した燃焼物への延焼を防止する効果
がある。容器に強い物理的衝撃を与えない限り、６年間
は有効持続可能である。 ｃ．消火試験 本発明に係る消火液弾の性能について、昭和３９年自治
省令第２７号第３条第２項に定める第２模型を用いて、
実験を行った。 火災模型の種類： 第２模型 模型に用いる木材の水分含有率： １４．０％ 模型への最接近距離： １ｍ 予燃時間： ３分 消火試験の結果を表１に示す。

【００１７】

【表１】 試験 投てき個数 投てき時間 投てき者 結果 １ １ １４秒 男４５才 消火 ２ １ １５秒 男５４才 消火 ３ ２ ２０秒 女５６才 消火 ４ ２ １９秒 男８８才 消火 ５ １ １６秒 男８８才 消火

【００１８】参考例１ 特開昭５８−１２７６６８号の発明に従って、ＮＨ_４Ｃ
ｌ １８０ｋｇ、Ｎａ_２ＣＯ_３ ８５ｋｇ、（ＮＨ_４）
２ＨＰＯ_４ ３０ｋｇ、ＮａＨＣＯ_３ ２０ｋｇの混合
物水に溶解して、比重１．１２、ｐＨ１０〜１１の溶液
を得、これを消火液剤として用いる以外は実施例１と同
様にして、消火液弾を製造した。

【００１９】この消火液弾の消火試験を、実施例１と同
様にして、模型が消火されるまで投てきして、行った。
その結果を表２に示す。

【００２０】

【表２】 試験 投てき個数 投てき時間 投てき者 結果 １ ４ ２１秒 男７５才 消火 ２ ４ ２２秒 女５５才 消火 ３ ４ １９秒 男７２才 消火

【００２１】実施例１および参考例１の結果から、本発
明の消火液弾は、以前の消火液弾と比べて、少ない個数
の液弾にて、より短い時間内に同じ模型を消火し得る。

【００２２】実施例２つぎのような組成により消火液弾を製造した。ＮＨ _４ Ｃ
ｌを１６３．０Ｋｇ（４９．２ｗｔ％）；Ｋ _２ ＣＯ _３ を
１０３．０Ｋｇ（３１．１ｗｔ％）； （ＮＨ_４）_２ＨＰ
Ｏ_４を３３．４Ｋｇ（１０．１ｗｔ％）；ＮａＨＣＯ _３
を２５．０Ｋｇ（７．６ｗｔ％）；Ｎａ_２ＷＯ_４２Ｈ_２
Ｏを６．６Ｋｇ（２．０ｗｔ％）。

【００２３】実施例３つぎのような組成により消火液弾を製造した。ＮＨ _４ Ｃ
ｌを１６３．０Ｋｇ（４９．２ｗｔ％）；Ｋ _２ ＣＯ _３ を
１０３．０Ｋｇ（３１．１ｗｔ％）； （ＮＨ_４）_２ＨＰ
Ｏ_４を２０．１Ｋｇ（６．１ｗｔ％）；ＮａＨＣＯ _３ を
２５．０Ｋｇ（７．６ｗｔ％）；Ｎａ_２ＷＯ_４２Ｈ_２Ｏ
を１９．９Ｋｇ（６．０ｗｔ％）。

【００２４】

【発明の効果】本発明の消火液弾は、下記の特徴を有す
る。 （１）投げ易い大きさと形状を有するため、老若男女を
問わず火元に投げ込むだけで消火ができる。 （２）燃焼物は、化学反応により瞬時に消火する（瞬間
消火作用）。 （３）一度消火した物体は、再燃しない（再燃防止作
用）。 （４）燃焼物を急速に無酸素冷却化するので、消火後、
すぐに手を触れても熱くなく、やけどを防止できる（急
速冷却作用）。 （５）有害な煙を水蒸気化する（水蒸気化作用）。 （６）水溶液自体は全く人畜無害であるから、子供まで
消火活動に参加できる。 （７）各家庭で常備できるほど低廉である。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の消火液弾の正面図である。

【図２】図１の消火液弾の底面図である。

【符号の説明】

１ 容器本体 ２ Ｌ形湾曲部 ３ 頂部注入口 ４ 底面 ａ、ｂ、ｃ、ｄ、ｅ 凸面 ｄ’、ｅ’ 凹面

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】４７重量％からほぼ飽和量の塩化アンモニ
   ウムと、４〜８重量％の重炭酸ナトリウムと、２５〜３
   ５重量％の炭酸カリウムと、６〜１４重量％の第二リン
   酸アンモニウムと、２〜６重量％のタングステン酸ナト
   リウムとから成る薬剤混合物を適当量の水に溶解して得
   た消火液剤を、手投げ可能な大きさの衝撃破損性容器内
   に密封して成ることを特徴とする手投げ消火液弾。
2. 【請求項２】 該薬剤混合物を、該消火液剤の比重が
   １．２〜１．３となる量の水に溶解したことを特徴とす
   る請求項１記載の消火液弾。