JP3073922B2 - 乳酸ポリマーの製造方法 - Google Patents

乳酸ポリマーの製造方法

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忠基 酒井
憲明 橋本
幸弘 炭廣
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生分解性ポリマー
として有用な乳酸ポリマーの製造方法に関し、更に詳し
くは、乳酸を重縮合化させて乳酸ポリマーを製造する工
程において、副反応であるラクチドの生成を抑えなが
ら、乳酸の重縮合反応を優先的に進行させ、短時間で効
率的に高分子量のポリマーを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】生分解性ポリマーは、使用目的を果たし
た後には環境下で分解され、最終的に低分子化合物の形
で自然界へ還元されていく材料として、昨今注目を集め
ている。その中でも脂肪族のポリエステル類は、微生物
や水分などにより完全にモノマーにまで分解され、最終
的には二酸化炭素や水として自然界の物質循環の中へ組
み込まれていくことから、従来の医用材料を初め、最近
では使用後に環境中へ廃棄されることが予想される汎用
資材への応用展開も検討され始めている。
【0003】このような脂肪族ポリエステル系生分解性
ポリマーの代表として、乳酸ポリマーはその優れた分解
特性や透明性、更には防カビ性を有することに加えて、
用済み後には熱分解やコンポスト化処理などにより、容
易にモノマーに還元することが可能なことから、環境に
優しいエコマテリアルとしてその用途開発が非常に期待
されている。
【0004】前記のように優れた特長をもつ乳酸ポリマ
ーの製造法には、乳酸の環状二量体であるラクチドを原
料とし、これを開環重合する方法と、乳酸を脱水重縮合
することによりポリマーを得る二通りの方法がある。
【0005】工業的には、前者のラクチドを経由するプ
ロセスの方が、イオン重合によって反応が連鎖的に進行
し、かつ得られるポリマーの分子量も数十万以上と非常
に高いことから有利であり、そのプロセスが既に確立さ
れている。
【0006】しかしながら、このような分子量の高いポ
リマーを得るためには、原料であるラクチドを酢酸エチ
ルなどの溶剤を用いて数回再結晶化させる精製工程(特
公昭44−15789号公報参照)を経由しなければな
らず、また、精製したラクチドは非常に吸湿、潮解しや
すい性質をもつことから、その保管は五酸化二リンの雰
囲気下で完全に排除した状態で行う必要があるなど、取
扱い上留意すべき事項も多く、ポリマーの製造プロセス
としては工業的に不利な点を有していた。
【0007】このような問題を解決するものとして、特
公平2−52930号公報では、乳酸を不活性ガス雰囲
気中において、触媒の存在下で加熱、重縮合させ(実施
例では180℃、4時間)、最終的に220〜260
℃、10mmHg以下の条件で重縮合反応を完結させて(実
施例では260℃、2mmHg、8時間)分子量が4,00
0〜20,000の乳酸ポリマーを乳酸から直接製造す
る方法が提案されている。
【0008】この方法では、ラクチドを経由せずに乳酸
から直接ポリマーを得ることが可能なことから、ポリマ
ーの製造コストを大幅に削減できるという有利な点を持
つ反面、乳酸の脱水重縮合反応が、様々な競合反応との
平衡関係の上に成立している反応系であることから、こ
れに付随して以下のような問題点が指摘されていた。 (1)乳酸の重縮合反応はモノマー間のエステル結合の
生成により進行するが、この反応を促進するために通常
用いられるスズ系の触媒は、反応条件(反応温度、減圧
度)によっては重縮合により形成されたエステル結合を
切断し、ポリマーの解重合反応を促進することから、結
果的にラクチドのような環状構造体を形成する環化反応
が優先して、ポリマーの生成反応速度が低下してしま
う。 (2)乳酸の重縮合反応は、遊離水及び反応副生水など
の脱離成分を減圧下で強制的に系外へ留去しながら進行
させるが、ポリマーの分子量が増大化するに従って、こ
れらの脱離成分が反応系内から除去されにくくなり、そ
の結果ポリマー生成反応が定常状態となって、それ以上
の高分子量体を得ることが困難となる。 (3)ポリマー生成反応が定常状態になると、加熱、減
圧下というポリマーの合成条件下においては、副反応で
あるラクチドの生成反応の方が優先的に進行し、その結
果多量に発生したラクチドが結晶として析出して反応系
内に閉塞させてしまう。 (4)生成したポリマー中に未反応モノマーであるラク
チドが残存すると、得られたポリマーの立体規則性が乱
れて、成形加工性や製品の品質安定性が著しく低下す
る。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来
の製造技術における上記(1)〜(4)の問題点を解決
し、より短時間でかつ効率的に高分子量体を製造できる
乳酸ポリマーの製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目
的を達成するために鋭意研究を行ったところ、乳酸の脱
水重縮合反応において、重縮合反応の途中で塩基を添加
して副生するラクチドを開環しながら乳酸に戻して反応
を進めれば、反応液中に存在するラクチド(原系)−ポ
リマー(生成系)間にみられる環鎖平衡を原系側へ戻し
て、ポリマー生成反応を優先的に進行させることがで
き、その結果より短時間で効率的に高分子量の乳酸ポリ
マーが得られることを見出し、本発明を完成するに至っ
た。
【0011】すなわち、本発明は、乳酸を重縮合させて
重量平均分子量50,000〜200,000の乳酸ポ
リマーを得る方法において、重縮合反応の途中に塩基を
添加することを特徴とする乳酸ポリマーの製造方法を提
供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明においては乳酸の重縮合反
応の途中に塩基を添加することを特徴とするが、まず乳
酸の重縮合反応について説明する。
【0013】本発明に用いる乳酸は、D−体、L−体な
どの光学活性体又は光学活性を持たないD,L−体及び
これらの混合物のいずれでもよく、好ましくは純度が8
5%以上のものである。
【0014】重縮合反応は、加熱下かつ減圧条件下で行
われるが、例えば乳酸を回分式の重合反応槽に仕込み、
槽内を窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスで置換
した後、加熱下かつ減圧条件下で行うのが好ましい。
【0015】加熱温度は110〜200℃が好ましく、
140〜180℃が更に好ましい。加熱温度が低すぎる
と重縮合反応が進行せず、逆に高すぎると解重合反応が
起こりラクチドの生成が促進されるので、反応温度は必
ず所定の範囲内となるように厳密に制御しながら行うの
が望ましい。
【0016】また、減圧レベルは0.1〜100mmHg、
更に好ましくは1〜10mmHgの範囲である。これは、反
応槽内がこの減圧範囲にあるときに、先に述べた温度域
にて乳酸と水の共沸温度が存在するためである。これ以
上減圧レベルを低く(<0.1mmHg)させることは、反
応槽の構造やポンプの排気能力から考えると難しく、ま
た逆に減圧レベルを高く(>100mmHg)する場合は、
反応副生水が留去されにくくなるので適当ではない。
【0017】反応に際しては、重縮合を促進させる目的
で触媒を用いることができる。通常、塩化第一スズ、オ
クチル酸スズ、酸化アンチモン等の金属系酸触媒が触媒
活性の高いことで良く知られているが、本発明では、酢
酸マンガン、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸亜鉛、
ジエチル亜鉛、酸化ゲルマニウム等の非金属系酸触媒を
用いるのが好ましい。その理由としては、前記の金属系
酸触媒群は毒性が強く、生分解性ポリマーの触媒として
は残存による環境への影響が懸念される他、本発明の塩
基と組み合わせて用いると、両者の触媒活性が相殺され
て、その使用効果が十分発揮されないためである。
【0018】触媒の使用量は、原料である乳酸モノマー
1重量部に対して0.001〜0.5重量部が好まし
く、更に好ましくは0.01〜0.2重量部の範囲であ
る。
【0019】また、このときの触媒の添加時期として
は、乳酸の重縮合反応における初期の脱水工程で行う
と、触媒の加水分解によって失活する可能性があるた
め、乳酸の遊離水が完全になくなる脱水工程の終了後に
行うのが望ましい。
【0020】乳酸の脱水重縮合において、その反応速度
を高めるためには副生水を迅速に系外へ留去させること
に加えて、上記のようなラクチドの生成を抑えることが
非常に重要であるが、こうしたラクチドの生成反応を完
全に阻止することは現実的には不可能であるため、反応
槽に還流管を設置して生成、気化したラクチドや乳酸の
低分子化合物を回収し、再び反応系内へ戻す還流操作を
行って、反応液に存在する化学平衡をポリマー生成側へ
移行させても良い。このとき、還流管内の温度はラクチ
ド及び反応液である乳酸の減圧沸点以下に設定すれば、
選択的に水のみが留去されることになり好都合である。
【0021】ラクチドの還流にあたっては、還流管内が
ラクチドの融点以下(95〜98℃)となると即結晶化
を起こして管内を閉塞させてしまうため、これを防ぐ目
的で適当な溶剤を用いても良い。ラクチドの溶剤として
は、クロロホルム、アセトン、キシレン、ベンゼン、乳
酸エステル類、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジク
ロロベンゼン、ジプロピルケトンなどがあるが、その中
でも減圧沸点が比較的高いキシレン(10mmHg;27
℃)、ジクロロベンゼン(10mmHg;59℃)、ジプロ
ピルケトン(10mmHg;55℃)等が適当である。ま
た、還流操作の面からすると、ラクチドに近似した減圧
沸点(10mmHg;146℃)をもつジフェニルエーテル
(10mmHg;114℃)、ジメチルベンジルエーテル
(10mmHg;144℃)、ベンジルフェニルエーテル
(10mmHg;144℃)などが好ましい。このとき、使
用する溶剤の減圧沸点が低過ぎると、還流管内で液化し
てラクチドと共に還流されることなく反応系外へ留去さ
れ、これらの損失分は新規に反応系内へ補充しなければ
ならないため煩雑な操作を要し、経済的にみても適当な
方法とは言えない。また、これとは逆に溶剤の減圧沸点
が高過ぎると、上記温度範囲にて水と共沸することがな
く、副生水が留去されにくくなるため好ましくない。こ
のときの溶剤の添加量は、原料の仕込み量1重量部に対
して5〜30重量部が好ましく、より好ましくは10〜
20重量部の範囲である。
【0022】これらの溶剤と共に、ラクチドは再び反応
液中に還流するが、溶剤についてはその還流を完全に行
うために、還流管の上部に専用冷却管を取り付け、溶剤
の沸点に応じて冷却水やドライアイス、もしくは液体窒
素を使用しながら冷却回収して還流操作を行うと良い。
【0023】このようにすると重量平均分子量が5,0
00〜50,000程度の乳酸オリゴマーが得られる。
この状態で更に重縮合反応を進めようと加熱、減圧条件
下にすると、主反応と並行して起こるラクチド生成反応
が優先的に起こりポリマーの生成反応が定常状態とな
る。そこで本発明ではこの現象を防止する目的で塩基を
重縮合反応の途中に添加する。塩基の添加時期は、重縮
合反応の途中、すなわち乳酸オリゴマーが生成した段階
であれば制限されないが、重量平均分子量5,000以
上の乳酸オリゴマーが生成した時が好ましい。反応液で
ある乳酸オリゴマーの重量平均分子量が5,000以下
の場合、塩基がラクチドの加水分解のみならず、乳酸の
重縮合により生成した数量体のエステル結合切断に作用
して、ラクチドを多量に生成させることになるので好ま
しくない。従って、ラクチドに対して効果的に塩基を作
用させるためには、乳酸オリゴマーの重量平均分子量が
5,000〜45,000の範囲において添加すること
が望ましい。
【0024】用いられる塩基としては、ラクチド加水分
解作用を有し、生成した乳酸ポリマー中に残存しても生
物に悪影響を及ぼさない塩基性化合物が好ましく、塩基
性アミノ酸がより好ましく、ヒスチジンが特に好まし
い。
【0025】塩基の添加濃度は反応液である乳酸オリゴ
マーに対して0.001〜0.5重量部が好ましく、更
に好ましくは0.01〜0.2重量部の範囲である。当
該塩基の添加濃度が0.001重量部以下だと十分なラ
クチド加水分解活性が発揮されず、また0.5重量部以
上の場合は乳酸の重縮合用触媒である前記の非金属系酸
触媒の触媒活性を阻害することになるので望ましくな
い。
【0026】そのときの反応温度は90〜200℃が好
ましく、より好ましくは140〜180℃の範囲であ
る。反応温度が90℃以下の場合は、乳酸の重縮合反応
が十分に進行しないので適当ではなく、また200℃以
上のときはヒスチジン等の塩基が熱により失活するため
適当ではない。
【0027】このようにして、乳酸オリゴマーに塩基を
添加し、副生するラクチドを逐次分解しながら重縮合反
応を進め、最終的に重量平均分子量が50,000〜2
00,000の乳酸ポリマーを得る。重量平均分子量が
50,000以下だとフィルムやコーティング材として
の成形加工が困難となり、一方重量平均分子量が20
0,000以上の乳酸ポリマーを製造しようとすると、
反応終了までに長時間を要し、かつ同工程中にポリマー
の着色や分子量の低下などを引き起こし易いなど、プロ
セスの実用化に際して様々な問題点を有する。
【0028】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳しく説明
するが、本発明はこれらの実施例により限定されるもの
ではない。
【0029】実施例1 攪拌装置、熱電対、窒素ガス導入管、還流管を取り付け
た10L容量の回分式重合反応槽に脱水終了後のL−乳
酸を仕込み、これに触媒として酢酸亜鉛を原料1重量部
に対して0.3重量部の割合で添加した。次に、5〜1
0mmHgの減圧下で反応温度を120〜170℃に設定
し、重量平均分子量が10,940の乳酸オリゴマーを
得た。このオリゴマー1重量部に対して0.05重量部
のヒスチジンを添加し、7〜10mmHgの減圧下で反応温
度を170℃に設定して、ラクチドの副生を抑えながら
重縮合反応を行った。約18時間後に得られた乳酸ポリ
マーは、重量平均分子量が78,400であり、ラクチ
ド残存率は2.4%であった。なお、ポリマーは着色も
なく透明性も良好であった。
【0030】実施例2 実施例1に記載の回分式重合反応槽に脱水操作を行った
L−乳酸を仕込み、これに触媒として酢酸マンガンと酢
酸亜鉛を原料1重量部に対してそれぞれ0.05重量部
ずつ添加した。次に、7〜9mmHgの減圧下で反応温度を
120〜170℃に設定し、重量平均分子量が32,2
60の乳酸オリゴマーを得た。このオリゴマー1重量部
に対して、0.03重量部のヒスチジンを添加し、7〜
10mmHgの減圧下で反応温度を165℃に設定して、ラ
クチドの副生を抑えながら重縮合反応を行った。約21
時間後に得られた乳酸ポリマーは、重量平均分子量が1
00,630であり、ラクチド残存率は1.8%であっ
た。なお、ポリマーは着色もなく透明性も良好であっ
た。
【0031】
【発明の効果】本発明の製造方法は、乳酸を重縮合させ
て重量平均分子量が50,000〜200,000の乳
酸ポリマーを得るプロセスにおいて、ポリマーの生成反
応速度が低下し、副反応であるラクチドの生成が一方的
に進行するのを阻止するために、ラクチドの加水分解触
媒である塩基を添加し、生成したラクチドを逐次分解し
ながら乳酸の重縮合反応のみを優先的に行わせようとす
るものである。本発明のプロセスにより以下のような効
果が得られる。 1.製造コストの低下 本発明は、重合原料として高価なラクチドを用いるので
はなく、安価で大量に生産できる乳酸を用いるので、従
来の方法に比べると乳酸ポリマーの製造コストを大幅に
引き下げることができる。 2.ラクチドの生成反応を抑えることによって、反応液
の平衡関係上、従来では達成が難しいとされていた重量
平均分子量50,000以上のポリマーを効率的に製造
することができるようになり、乳酸ポリマーを汎用材と
して用途展開することが可能となる。 3.乳酸ポリマー中のラクチド残存率を大幅に低減化す
ることが可能となり、同ポリマーの物性や成形加工性、
更には成形品の品質安定性を著しく向上させることがで
きる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 炭廣 幸弘 広島県広島市安芸区船越南一丁目6−1 株式会社日本製鋼所内 (72)発明者 小柳 邦彦 広島県広島市安芸区船越南一丁目6−1 株式会社日本製鋼所内 (56)参考文献 特開 平5−271051(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C08G 63/06 C08G 63/78 - 63/87

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 乳酸を重縮合させて重量平均分子量5
    0,000〜200,000の乳酸ポリマーを得る方法
    において、重縮合反応の途中に塩基を添加することを特
    徴とする乳酸ポリマーの製造方法。
  2. 【請求項2】 塩基の添加時期が、重量平均分子量5,
    000以上の乳酸オリゴマーが生成した時である請求項
    1記載の乳酸ポリマーの製造方法。
  3. 【請求項3】 塩基が、ヒスチジンである請求項1又は
    2記載の乳酸ポリマーの製造方法。
  4. 【請求項4】 塩基の添加濃度が、生成乳酸オリゴマー
    1重量部に対し0.01〜0.5重量部である請求項1
    〜3のいずれか1項記載の乳酸ポリマーの製造方法。
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