JP3041655B2 - アクリロニトリル系繊維及びその製造方法 - Google Patents

アクリロニトリル系繊維及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、無機系レドックス開始
剤を使用して水系懸濁重合で得られたアクリロニトリル
系重合体を原料とした、紡糸安定性のよい高品質のアク
リロニトリル系繊維及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アクリロニトリル系繊維は、羊毛に似た
優れた嵩高性、風合、染色鮮明性等の性質を有し、広範
囲の用途に利用されている。このアクリロニトリル系繊
維は、原料となるアクリロニトリル系重合体を有機溶
媒、又は無機溶媒に溶解する溶解工程を経て、湿式紡糸
法、乾式紡糸法又は半乾式紡糸法によりステ−プル又は
フィラメントとして製品化されている。この原料となる
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル単量体
及びそれと共重合可能な単量体をラジカル重合により製
造するのが一般的である(繊維総合研究所発行「繊維ハ
ンドブック、1991年度版」)。
【0003】無機系レドックス開始剤による水系での不
均一重合である懸濁重合方式は、歴史も古くかつ広く採
用されているアクリロニトリル系重合体の製造方法であ
る。この方法は、重合体の品質の管理が容易なこと、未
反応単量体の回収が容易なこと及び工程全体の管理が容
易なこと等の特徴がある(丸善株式会社発行、繊維学会
編「繊維便覧 原料編」)。このアクリロニトリル系重
合体の製造には、水を反応媒体として、連続懸濁重合方
式で製造されるが、このときの重合開始剤としては、一
般的に無機系開始剤が使用される。水系懸濁重合で無機
系開始剤(例えば、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナ
トリウム−硫酸第一鉄の酸化−還元系の組合せ)により
アクリロニトリル単量体を主成分とする単量体を、反応
媒体として硫酸酸性の水を使用して重合反応すると、粒
子状の重合体が形成され、水性分散液の状態でアクリロ
ニトリル系重合体が得られる。
【0004】また、連続水系懸濁重合でアクリロニトリ
ル系重合体を得るには、反応容器としてアルミニウム製
反応容器が必須となる。アクリロニトリル系重合体を水
系連続懸濁重合反応で製造実施する場合、ステンレス製
の反応容器、グラスライニング製の反応容器では、アク
リロニトリル系重合体の付着によるスケ−ル生成のため
実質的には連続使用不可能となるからである。そして反
応容器としてアルミニウム製反応容器を使用した場合に
は、反応系内が酸性水溶液となっているために、アルミ
ニウム表面が腐食溶解することにより、スケ−ル生成を
阻止しているといわれている。
【0005】また、重合反応終了のためには、重合停止
剤を添加する。この該重合体を水系懸濁重合で製造する
場合の重合停止剤としては、反応系の酸性水溶液を中和
する機能を保持することが必要であり、シュウ酸ナトリ
ウム、重炭酸ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸2ナ
トリウム塩の電解質水溶液が用いられる。
【0006】このように、アクリロニトリル系重合体
は、少なくとも重合開始剤による電解質、重合釜の腐食
による電解質及び重合停止剤添加による電解質の存在下
で製造されていることになる。しかも該アクリロニトリ
ル系重合体は、前述したように重合反応の進行と共に、
数十ミクロンの重合体粒子を形成して水系に分散粒子と
なるので、該重合体粒子中には、上記各種電解質が混入
する。
【0007】ところで、従来のこのような水系懸濁重合
によるアクリロニトリル系重合体を用いたのアクリル繊
維の製造においては、重合後に水洗浄工程を経て乾燥工
程へ移行し、アクリロニトリル系重合体を溶解する溶媒
に溶解してアクリロニトリル系重合体ド−プ溶液とし、
湿式又は乾式で紡糸してアクリル繊維を製造している。
しかし、従来のこの製造方法では、最近の高品質アクリ
ル繊維を製造する際、種々の問題をもたらしている。例
えば、アクリル繊維製造に使用するド−プ溶液を長時間
加熱(約100℃)保持すると、ド−プ溶液自体がゲル
化して溶液流動性の低下をもたらし、更に黄着色が顕著
となる。このド−プ溶液のゲル化は溶液流動性の低下を
もたらし、安定した紡糸性が確保できず、その結果糸切
れ現象が生じ、充分品質のよい高品質アクリル繊維を製
造することが困難になる。またド−プ溶液の黄着色はひ
いては製品たるアクリル繊維自体の黄着色化現象を生じ
させ、その品質を低下させる。この原因は、従来の製造
方法における重合後の洗浄工程では、重合体中の電解質
を充分に除去できず、この重合体を溶解した紡糸原液た
るド−プ溶液に電解質が不純物として存在するためと考
えられる。
【0008】また、半乾式紡糸によるアクリル長繊維の
製造においては、アクリロニトリル系重合体のド−プ溶
液内に溶解した不純物たる電解質が紡糸浴内ガイドで凝
縮し、糸切れの原因となり、その生産性が著しく低下す
るばかりか、フィラメントの強度性能の低下等が生じる
とされている。さらにまた、乾式紡糸法によるアクリロ
ニトリル系繊維の製造においては、アクリロニトリル系
重合体のド−プ溶液の加熱感度は130℃程度に設定し
ないと紡糸できないために、さらにド−プ溶液安定性の
要求は強くなる。実質的に、乾式紡糸法によるアクリロ
ニトリル系繊維の糸切れの原因のほとんどは、無機電解
質のノズル詰まりによるものといわれている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、水系懸濁重
合方式で得られたアクリロニトリル系重合体を有機溶媒
に溶解したド−プ溶液中の電解質を著しく減少させ、も
って、熱安定性に優れたド−プ溶液、ひいては紡糸安定
性に優れ、耐黄着色性に優れた高品質のアクリロニトリ
ル系繊維を提供することを目的とする。更に本発明は、
紡糸安定性に優れ、耐黄着色性に優れた高品質のアクリ
ロニトリル系繊維を製造する方法を提供することを目的
とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、無機
系レドックス開始剤を使用した水系懸濁重合法で得られ
たアクリロニトリル系重合体を原料として製造され、か
つ不純物としての鉄化合物又はそのイオンが0〜3pp
m、好ましくは0〜1ppm、アルミニウム化合物又は
そのイオンが0〜10ppm好ましくは0〜5ppmで
ある紡糸安定性に優れたアクリロニトリル系繊維にあ
る。また本発明は、無機系レドックス開始剤を使用した
水系懸濁重合で得られたアクリロニトリル系重合体を、
該重合体を溶解できる有機溶剤に溶解してド−プ溶液を
作り、次いで該ド−プ溶液から、該有機溶剤に溶解しな
いイオン交換能ある物質により、該重合体中に含有した
不純物である鉄化合物又はそのイオン、アルミニウム又
はそのイオンを精製除去し、その後該ド−プ溶液を、湿
式法又は半乾湿式法又は乾式法により紡糸することを特
徴とするアクリロニトリル系繊維の製造方法である。
【0011】以下本発明を詳細に説明する。本発明は無
機系レドックス開始剤を使用した水系懸濁重合で得られ
たアクリロニトリル系重合体を有機溶媒に溶解しド−プ
溶液を作り、このド−プ溶液に混在した不純物としての
鉄化合物又はそのイオン、アルミニウム化合物又はその
イオンを精製除去し、もって紡糸安定性に優れた高品質
のアクリロニトリル系繊維にするものである。無機系レ
ドックス開始剤を使用した水系懸濁重合で得られたアク
リロニトリル系重合体は粒子状であり、その中には電解
質が補足され、この電解質は通常の水洗では除去し難い
が、この粒子状の重合体を有機溶媒に溶解しド−プ溶液
となすと、イオン交換能ある物質により容易に除去でき
る。そのため、鉄化合物又はそのイオン、アルミニウム
化合物又はそのイオンの含有量が極めて少ない紡糸安定
性に優れ、着色のない高品質のアクリロニトリル系繊維
を得ることができる。
【0012】無機系レドックス開始剤としては、通常の
酸化剤、還元剤の中から選ぶことができる。酸化剤と還
元剤との組合せからなるレドックスの場合、代表的なも
のは、酸化剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸カリ
ウム、過硫酸ナトリウム等の通常使用されるものであ
り、還元剤は亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、
亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ
硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜二チオン酸
ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシ
レ−ト、L−アルコルビン酸、デキストロ−ズ等の通常
使用されているものである。硫酸第一鉄又は硫酸銅など
の化合物も組合せて使用できる。その中で、過硫酸アン
モニウム−亜硫酸水素ナトリウム(アンモニウム)−硫
酸第一鉄の組合せが好ましい。還元剤と酸化剤の比率は
どんな割合でも可能であるが、重合をより効率よく進め
るうえで還元剤と酸化剤との当量比を1〜4にすること
が好ましい。
【0013】本発明に用いられるアクリロニトリル系重
合体は、アクリロニトリル単量体の他にこれと共重合可
能なモノオレフィン性単量体とからなる繰り返し単位か
らなるものであってもよい。ここでアクリロニトリル系
重合体は、少なくとも60重量%のアクリロニトリル単
量体から構成される必要がある。アクリロニトリル単量
体の含有量が60重量%未満であると、アクリロニトリ
ル系合成繊維が本来有する繊維機能を保有することがで
きないためである。ここで共重合可能なモノオレフィン
性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸及
びそれらのエステル、アクリルアミド、酢酸ビニル、ス
チレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、無水マレイン
酸、N−置換マレインイミド、ブタジエン、イソプレン
等を挙げることができる。また、P−スルフォニルメタ
リルエ−テル、メタリルスルフォン酸、アリルスルフォ
ン酸、スチレンスルフォン酸、2−アクリルアミド−2
−メチルプロパンスルフォン酸、2−スルフォエチルメ
タクリレ−ト及びこれらの塩も共重合可能な単量体とし
て使用できる。
【0014】アクリロニトリル系単量体の重合は、次の
ような条件で行う。すなわち、重合反応温度は30〜8
0℃にすることが好ましい。重合温度が80℃を超える
とアクリロニトリルが蒸発し、反応系外へ離散し、重合
転化率が低下する。また30℃未満では重合速度が低下
し、生産性が低下するばかりでなく、重合安定性を損な
う。重合媒体としての水はイオン交換水を使用すること
が好ましい。さらに単量体に対するイオン交換水の割合
(以下、水/単量体比という)は如何なる比率でも可能
であるが、好ましくは水/単量体比は1.0〜5.0の
範囲である。重合反応釜内での単量体の平均滞在時間
は、アクリロニトリル系重合体を水系懸濁重合方式で製
造する際に採用される通常の時間でよい。重合反応釜内
での水素イオン濃度は使用される触媒がすみやかに酸化
・還元反応を起こす範囲であればよく、好ましくはpH
2.0〜3.5の酸性領域がよい。
【0015】重合釜から取り出した重合体に、重合停止
剤を添加し反応を停止させる。重合反応の停止剤は通常
アクリロニトリル系重合体を水系懸濁重合で製造する際
使用されるものであれば問題はない。重合体水溶液に重
合停止剤を添加した後、未反応単量体の回収を行う。未
反応単量体の回収方法としては重合体水溶液を直接蒸留
する方法、また一旦脱水し未反応単量体を重合体と分離
した後蒸留する方法があるが両方式とも採用が可能であ
る。後者における脱水洗浄機としては通常公知の瀘過脱
水機である回転式真空濾過器、遠心脱水機等が使用され
る。これらの装置を用いて重合体水溶液から重合体を分
離するにあたり、より効率よく行うために硫酸アンモニ
ウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム等の凝集剤を
添加したり、重合体の凝集を促進する意味で重合体水溶
液を昇温する等の操作を行うこともできる。重合体中に
残った水分は通常の乾燥方式によって取り除かれる。
【0016】上記のごとくして得られたアクリロニトリ
ル系重合体を有機溶剤に溶解する。本発明方法において
用いられる有機溶媒は、上記アクリロニトリル系重合体
を溶解する溶媒であることが必要である。その中でジメ
チルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルス
ルフォキシドが好ましい。水系懸濁重合で得られた該ア
クリロニトリル系重合体5〜35重量%と該アクリロニ
トリル系重合体を溶解し得る上記有機溶媒95〜65重
量%とからなる溶液にするのが好ましい。アクリロニト
リル系重合体5〜35重量%としたのは、該溶液を紡糸
することを考慮してであり、5重量%未満では、該重合
体の濃度が低過ぎるために満足なアクリル繊維の紡糸性
を確保できなく、また35重量%を超える場合には、該
重合体溶液の粘度が高くなりすぎ、紡糸性を確保できな
いためである。
【0017】本発明方法において用いる有機溶剤に溶解
しないイオン交換能ある物質としては、架橋型イオン交
換樹脂、又は架橋型イオン交換繊維等が挙げられるが、
その中で、ジビニルベンゼン−スチレンからなる架橋型
イオン交換樹脂が一般的であり好ましい。アクリロニト
リル系重合体を有機溶媒に溶解したド−プ溶液の状態に
して、該重合体中から不純物を架橋型イオン交換樹脂に
より精製除去するためには、イオン交換樹脂は有機溶媒
と親和性が必要であり、また該有機溶媒に溶解しないよ
うな架橋樹脂でなくてはならない。
【0018】イオン交換能を有する官能基としては、ス
ルフォン酸基を保有する強陽イオン交換樹脂が挙げられ
る。イオン交換により精製されるイオン種が、陽イオン
種、陰イオン種双方の場合には、スルフォン酸基を保有
する強陽イオン交換樹脂と第4級アミノ基を保有する強
陰イオン交換樹脂とからなるイオン交換樹脂との双方使
用する。重金属を捕捉するには、イミノジ酢酸型、ポリ
アミン型からなるキレ−ト樹脂が挙げられる。さらにメ
タクリル酸、アクリル酸からなる弱陽イオン交換樹脂、
及び第1、2、3、級アミン型からなる弱陰イオン交換
樹脂等があげられる。また該弱陽イオン交換樹脂と同弱
陰イオン交換樹脂の双方を使用することができる。その
中で、スルフォン酸基を保有する強陽イオン交換樹脂、
或いはスルフォン酸基を保有する強陽イオン交換樹脂と
第4級アミノ基を保有する強陰イオン交換樹脂との双方
使用が特に好ましい。
【0019】イオン交換樹脂は、アクリロニトリル系重
合体溶液100重量%に対して、0.01〜100重量
%使用するのが好ましい。0.01重量%未満の場合に
は、イオン交換能力の低下が著しく、実用的でなくな
る。100重量%を超える場合は、経済的に不利なこ
と、イオン交換樹脂の回収に必要以上の手間を要するこ
とから実際的ではない。
【0020】アクリロニトリル系重合体溶液をイオン交
換樹脂により精製するには、管型反応器又は槽型反応器
のどちらを使用してもよい。管型反応器内に該イオン交
換樹脂を充填して、その中にアクリロニトリル系重合体
ド−プ溶液を連続的に供給して、流動させながら通過さ
せて精製するのが現実的である。アクリロニトリル系重
合体溶液のイオン交換樹脂による精製は、15〜150
℃の温度範囲で実施される。15℃未満では、該アクリ
ロニトリル系重合体溶液の粘度が上昇し、流動性に劣り
実質的にイオン交換反応が進行しにくくなる。また、1
50℃を超える場合、使用するイオン交換樹脂自体の熱
安定性が不足し、実際、長期間使用できない。
【0021】本発明の方法により該イオン交換樹脂でア
クリロニトリル系重合体溶液を精製すると、不純物とし
ての鉄化合物又はそのイオンが0〜3ppm、アルミニ
ウム化合物又はそのイオンが0〜10ppmに減少す
る。鉄化合物又はそのイオンが0〜1ppm、アルミニ
ウム化合物又はそのイオンが0〜5ppmに減少させる
のが好ましい。ここで、鉄化合物又はそのイオン、アル
ミニウム化合物又はそのイオンの各々の量を上記のよう
に規定をしたのは、本発明においては、無機系レドック
ス開始剤を使用した水系懸濁重合で得たアクリロニトリ
ル系重合体を対象とするものであって、この水系懸濁重
合では硫酸第1鉄を重合助剤として使用すること、及び
この水系懸濁連続重合反応での反応釜にアルミニウム釜
を使用することによる。硫酸第1鉄の使用により、生成
したアクリロニトリル系重合体中に鉄化合物又はそのイ
オンが不純物として存在し、また反応釜にアルミニウム
釜を使用すると反応系が酸性水溶液であるためにアルミ
ニウム釜が腐食溶解し、生成したアクリロニトリル系重
合体中にアルミニウム化合物又はそのイオンが不純物と
して存在するからである。
【0022】不純物としての鉄化合物又はそのイオンが
3ppmを超え、アルミニウム化合物又はそのイオンが
10ppmを超えると、アクリロニトリル系重合体ド−
プ溶液の熱安定性が低下する原因となり、また紡糸時の
ノズル詰まり等の原因となる。そしてアクリロニトリル
系重合体ド−プ溶液の熱安定性の低下は、前述したよう
にアクリル繊維の製造工程時に紡糸安定性等について種
々の悪影響を及ぼし、また製品たるアクリル繊維の熱安
定性及び品質を低下させる。
【0023】なお、水系懸濁重合によりアクリロニトリ
ル系重合体を製造する際、ガラス容器を使用し、重合助
剤として鉄化合物等の金属化合物を使用しない場合に
は、アクリロニトリル系重合体中に、不純物としての鉄
化合物又はそのイオン、アルミニウム化合物又はそのイ
オンは実質的に存在しない。しかし、実際にはこの方法
で水系懸濁連続重合を行うことは不可能であり、そのた
め実験室での検討に留まるが、上記の方法で得たアクリ
ロニトリル系重合体ド−プ溶液の熱安定性は良好で、紡
糸安定性も良いものであった。
【0024】
【実施例】以下本発明を具体的に実施例によって説明す
る。部及び%は、重量部及び重量%を表わす。 実施例1 容量11.6m3の撹拌機付き重合反応釜(反応容器は
アルミニウム製ベッセル、撹拌翼はアルミニウム被覆タ
−ビン型)にイオン交換水(pH=3に設定)を8m3
仕込み、アクリロニトリル91.4部、酢酸ビニル8.
6部、過硫酸アンモニウム0.4部、亜硫酸水素ナトリ
ウム1.3部、硫酸第1鉄(FeSO4・7H20)0.
00005部、硫酸0.085部になるようにそれぞれ
イオン交換水に溶解し連続的に供給を開始した。更にイ
オン交換水の全量が200部になるようにイオン交換水
を別途供給した。重合温度を55℃に保ち、充分な撹拌
を行い平均滞在時間90分として連続的に原料を供給し
重合反応した。反応器溢流口より連続的に重合体水系分
散液を取り出し、これにシュウ酸ナトリウム0.5部、
重炭酸アンモニウム1.5部、エチレンジアミンテトラ
酢酸2ナトリウム塩0.5部を100部のイオン交換水
に溶解した重合停止剤水溶液を0.2部の速度で更に加
え、さらにイオン交換水を加えた後回転式真空濾過機で
未反応単量体、余剰の重合助剤の残渣を除去洗浄した。
得られた湿潤重合体をスクリュ−式押出機によりペレッ
ト状に成形した後、通気乾燥機で乾燥し、表1に示すア
クリロニトリル系重合体を得た。
【0025】上記の乾燥した重合体24.3部をジメチ
ルアセトアミド75.7部に溶解して重合体溶液とし、
この重合体100部に対して、スルフォン酸基を保有す
る強イオン交換樹脂(ダイヤPK228LH、三菱化成
(株)製)5部を添加して、80℃で、平均滞在時間3
0分間ニ−ダ−内で連続的に撹拌し、その後100メッ
シュ金網で濾過して、イオン交換樹脂を除いてアクリロ
ニトリル系重合体溶液を得た。このアクリロニトリル系
重合体溶液を、35000ホ−ル、0.06mmψの口
金を通して、55%のジメチルフォルムアミド水溶液
(40℃)に湿式紡糸し、引き続き洗浄、延伸を施した
のちカチオン−ノニオン油剤をアクリロニトリル系繊維
に対し0.5%付与し、更に乾燥後、捲縮処理を施しア
ニ−ル処理後、カットして3デニ−ルのアクリロニトリ
ル系繊維製品を得た。得られたアクリロニトリル系繊維
の特性を表1に示す。
【0026】実施例2 容量8.5m3の撹拌機付き重合反応釜(反応容器はア
ルミニウム製ベッセル、撹拌翼はアルミニウム被覆タ−
ビン型)にイオン交換水(pH=3に設定)を5m3
込みアクリロニトリル90.9部、酢酸ビニル8.9部
メタリルスルフォン酸ソ−ダ0.2部、過硫酸アンモニ
ウム0.5部、亜硫酸水素ナトリウム2.0部、硫酸第
1鉄(FeSO4・7H2O)0.00005部、硫酸
0.085部になるようにそれぞれイオン交換水に溶解
し、連続的に供給を開始した。更にイオン交換水の全量
が250部になるようにイオン交換水を別途供給した。
重合温度を55℃に保ち、充分な撹拌を行い平均滞在時
間90分として連続的に原料を供給し重合反応した。反
応器溢流口より連続的に重合体水系分酸液を取り出し、
これにシュウ酸ナトリウム0.5部、重炭酸ナトリウム
1.5部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩
0.5部を100部のイオン交換水に溶解した重合停止
剤水溶液0.2部の速度で更に加え、さらにイオン交換
水を加えた後回転式真空濾過機で未反応単量体、余剰の
重合助剤の残渣を除去洗浄した。得られた湿潤重合体を
スクリュ−式押出機によりペレット状に成形した後、通
気乾燥機で乾燥し、表1に示すアクリロニトリル系重合
体を得た。
【0027】上記の乾燥した重合体26部をジメチルア
セトアミド74部に溶解して重合体溶液とし、この重合
体100部に対して、スルフォン酸基を保有する強イオ
ン交換樹脂(ダイヤPK228LH、三菱化成(株)
製)5部を添加して、80℃、平均滞在時間30分間ニ
−ダ−内で連続的に撹拌し、100メッシュ金網で濾過
して、イオン交換樹脂を除いて、アクリロニトリル系重
合体を得た。このアクリロニトリル系重合体溶液を使用
して、60ホ−ル、0.15mmφの口金を通して、7
3%のジメチルアセトアミド水溶液(40℃)に半乾湿
式紡糸を行い、引き続き洗浄、延伸を施した後、アニオ
ン−ノニオン油剤をアクリロニトリル系繊維に対し0.
5%付与し、更に乾燥後、アニ−ル処理し、巻き取り
後、3デニ−ルのアクリロニトリル系長繊維製品を得
た。得られたアクリロニトリル系繊維の特性を表1に示
す。半乾湿式法で得られたアクリロニトリル系長繊維
は、紡糸糸切れが極めて少ないものであった。
【0028】実施例3 容量8.5m3の撹拌機付き重合反応釜(反応容器はア
ルミニウム製ベッセル、撹拌翼はアルミニウム被覆タ−
ビン型)にイオン交換水(pH=3に設定)を6m3
込みアクリロニトリル94部、アクリル酸メチル5.5
部、メタリルスルフォン酸ソ−ダ0.5部、過硫酸アン
モニウム0.5部、亜硫酸水素ナトリウム2.0部、硫
酸第1鉄(FeSO4・7H2O)0.00005部、硫
酸0.07部になるようにそれぞれイオン交換水に溶解
し、連続的に供給を開始した。更にイオン交換水の全量
が250部になるようにイオン交換水を別途供給した。
重合温度を55℃に保ち、充分な撹拌を行い平均滞在時
間90分として連続的に原料を供給し重合反応した。反
応基溢流口より連続的に重合体水系分散液を取り出し、
これにシュウ酸ナトリム0.5部、重炭酸ナトリウム
1.5部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩
0.5部を100部のイオン交換水に溶解した重合停止
剤水溶液0.2部の速度で更に加え、さらにイオン交換
水を加えた後回転式真空濾過機で未反応単量体、余剰の
重合助剤の残渣を除去洗浄した。得られた湿潤重合体を
スクリュ−式押出機によりペレット状に成形した後、通
気乾燥機で乾燥し、表1に示すアクリロニトリル系重合
体を得た。
【0029】上記の乾燥した重合体30部をジメチルフ
ォルムアミド70部に溶解して重合体溶液とし、この重
合体100部に対して、スルフォン酸基を保有する強イ
オン交換樹脂(ダイヤPK228LH 三菱化成(株)
製)5部を添加して、80℃、平均滞在時間30分間ニ
−ダ−内で連続的に撹拌し、100メッシュ金網で濾過
して、イオン交換樹脂を除いて、アクリロニトリル系重
合体溶液を得た。このアクリロニトリル系重合体溶液を
使用して、800ホ−ル、0.2mmφの口金を通し
て、230℃の窒素雰囲気下の紡糸塔内へ導き、乾式紡
糸を行い、引き続き洗浄、延伸を施したのち、アニオン
−ノニオン油剤をアクリロニトリル系繊維に対し1.5
%付与し、更に乾燥後、緩和処理、捲縮処理を施し、カ
ットして、3デニ−ルのアクリロニトリル系繊維を得
た。得られたアクリロニトリル系繊維の特性を表1に示
す。乾式法で得られたアクリロニトリル系繊維は、紡糸
糸切れが極めて少ないものであった。
【0030】比較例1 容量11.6m3の撹拌機付き重合反応釜(反応容器は
アルミニウム製ベッセル、撹拌翼はアルミニウム被覆タ
−ビン型)にイオン交換水(pH=3に設定)を8m3
仕込みアクリロニトリル91.4部、酢酸ビニル8.6
部、過硫酸アンモニウム0.4部、亜硫酸水素ナトリウ
ム1.3部、硫酸第1鉄(FeSO4・7H2O)0.0
0005部、硫酸0.085部になるようにそれぞれイ
オン交換水に溶解し、連続的に供給を開始した。更にイ
オン交換水の全量が200部になるようにイオン交換水
を別途供給した。重合温度を55℃に保ち、充分な撹拌
を行い平均滞在時間90分として連続的に原料を供給し
重合反応した。反応器溢流口より連続的に重合体水系分
散液を取りだし、これにシュウ酸ナトリウム0.5部、
重炭酸ナトリウム1.5部、エチレンジアミンテトラ酢
酸2ナトリウム塩0.5部を100部のイオン交換水に
溶解した重合停止剤水溶液0.2部の速度で更に加え、
さらにイオン交換水を加えた後回転式真空濾過機で未反
応単量体、余剰の重合助剤の残渣を除去洗浄した。得ら
れた湿潤重合体をスクリュ−式押出機によりペレット状
に成形した後、通気乾燥機で乾燥し、表1に示すアクリ
ロニトリル系重合体を得た。
【0031】上記の乾燥した重合体24.3部をジメチ
ルアセトアミド75.7部に溶解して重合体溶液として
アクリロニトリル系重合体溶液を得た。このアクリロニ
トリル系重合体溶液を使用して、35000ホ−ル、
0.06mmφの口金を通して、55%のジメチルアセ
トアミド水溶液(40℃)に湿式紡糸を行い、引き続き
洗浄、延伸を施した後、カチオン−ノニオン油剤をアク
リロニトリル系繊維に対し0.5%付与し、更に乾燥
後、捲縮処理を施しアニ−ル処理後、カットして3デニ
−ルのアクリロニトリル系繊維製品を得た。得られたア
クリロニトリル系繊維の特性を表1に示す。湿式紡糸法
で得られたアクリロニトリル系繊維は、紡糸糸切れがあ
り、また繊維の黄着色が認められた。
【0032】比較例2 容量8.5m3の撹拌付き重合反応釜(反応容器はアル
ミニウム製ベッセル、撹拌翼はアルミニウム被覆タ−ビ
ン型)にイオン交換水(pH=3に設定)を5m3仕込
みアクリロニトリル90.9部、酢酸ビニル8.9部、
メタリルスルフォン酸ソ−ダ0.2部、過硫酸アンモニ
ウム0.5部、亜硫酸水素ナトリウム2.0部、硫酸第
1鉄(FeSO4・7H2O)0.00005部、硫酸
0.08部になるようにそれぞれイオン交換水に溶解
し、連続的に供給を開始した。更にイオン交換水の全量
が250部になるようにイオン交換水を別途供給した。
重合温度を55℃に保ち、充分な撹拌を行い平均滞在時
間90分として連続的に原料を供給し重合反応した。反
応器溢流口より連続的に重合体水系分散液を取り出し、
これにシュウ酸ナトリウム0.5部、重炭酸ナトリウム
1.5部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩
0.5部を100部のイオン交換水に溶解した重合停止
剤水溶液0.2部の速度で更に加え、さらにイオン交換
水を加えた後回転式真空濾過機で未反応単量体、余剰の
重合助剤の残渣を除去洗浄した。得られた湿潤重合体を
スクリュ−式押出機によりペレット状に成形した後、通
気乾燥機で乾燥し、表1に示すアクリロニトリル系重合
体を得た。
【0033】上記の乾燥した重合体26部をジメチルア
セトアミド74部に溶解して重合体溶液として、アクリ
ロニトリル系重合体溶液を得た。このアクリロニトリル
系重合体溶液を使用して、60ホ−ル、0.15mmφ
の口金を通して、73%のジメチルアセトアミド水溶液
(40℃)に半乾湿式紡糸を行い、引き続き洗浄、延伸
を施した後、アニオン−ノニオン油剤をアクリロニトリ
ル系繊維に対し0.5%付与し、更に乾燥後、アニ−ル
処理し巻き取り後、3デニ−ルのアクリロニトリル系長
繊維製品を得た。得られたアクリロニトリル系繊維の特
性を表1に示す。半乾湿式法で得られたアクリロニトリ
ル系長繊維は、紡糸糸切れがあり、繊維の黄着色が認め
られた。
【0034】比較例3 容量8.5m3の撹拌付き重合反応釜(反応容器はアル
ミニウム製ベッセル、撹拌翼はアルミニウム被覆タ−ビ
ン型)にイオン交換水(pH=3に設定)を6m3仕込
みアクリロニトリル94部、アクリル酸メチル5.5
部、メタリルスルフォン酸ソ−ダ0.5部、過硫酸アン
モニウム0.5部、亜硫酸水素ナトリウム2.0部、硫
酸第1鉄(FeSO4・7H5O)0.00005部、硫
酸0.07部になるようにそれぞれイオン交換水に溶解
し、連続的に供給を開始した。更にイオン交換水の全量
が250部になるようにイオン交換水を別途供給した。
重合温度を55℃に保ち、充分な撹拌を行い平均滞在時
間90分として連続的に原料を供給し重合反応した。反
応器溢流口より連続的に重合体水系分散液を取り出し、
これにシュウ酸ナトリウム0.5部、重炭酸ナトリウム
1.5部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩
0.5部を100部のイオン交換水に溶解した重合停止
剤水溶液0.2部の速度で更に加え、さらにイオン交換
水を加えた後回転式真空濾過機で未反応単量体、余剰の
重合助剤の残渣を除去洗浄した。得られた湿潤重合体を
スクリュ−式押出機によりペレット状に成形した後、通
気乾燥機で乾燥し、表1に示すアクリロニトリル系重合
体を得た。
【0035】上記の乾燥した重合体30部をジメチルフ
ォルムアミド70部に溶解して重合体溶液として、アク
リロニトリル系重合体溶液を得た。このアクリロニトリ
ル系重合体溶液を使用して、800ホ−ル、0.2mm
φの口金を通して、230℃の窒素雰囲気下の紡糸塔内
へ導き、乾式紡糸を行い、引き続き洗浄、延伸を施した
後、アニオン−ノニオン油剤をアクリロニトリル系繊維
に対し1.5%付与し、更に乾燥後、緩和処理、捲縮処
理を施し、カットして、3デニ−ルのアクリロニトリル
系繊維を得た。得られたアクリロニトリル系繊維の特性
を表1に示す。乾式法で得られたアクリロニトリル系繊
維は、紡糸糸切れがあり、なた繊維の黄着色が認められ
た。
【0036】
【表1】
【0037】表1から、本発明による重合体溶液を使用
してなるアクリロニトリル系繊維の紡糸安定性は優れ、
しかもその繊維の着色も少ないことがわかる。なお、表
1ににおいて、ANはアクリロニトリル、AVは酢酸ビ
ニル、MAはアクリル酸メチル、MSはメタリルスルフ
ォン酸ソ−ダである。また表1における各物性の測定方
法は次の通りである。 重合率測定:重合上がりの水系分散液を採取し、重合体
分を瀘別回収して重合体収率を重合率とした。 比粘度測定:濃度0.5グラムの重合体を100mlの
ジメチルフォルムアミドに溶解し、25℃で、溶液粘度
(ウベロ−デ型粘度計)を測定した。 ナトリウムイオン量測定:重合体及び繊維を燃焼し、得
られた灰分を使用して炎色測定により測定した。 アンモニウムイオン量測定:重合体及び繊維を水で加熱
して、アンモニウムイオンを抽出し、比色法で測定し
た。
【0038】鉄及びアルミニウム量測定:重合体及び繊
維を燃焼し、得られた灰分を使用して原子吸光法で測定
した。 アクリロニトリル系繊維着色の測定:得られたアクリロ
ニトリル系繊維の着色状況を目視評価した。 重合体組成の測定:プロトンNMR測定機を使用して、
重合体組成を求めた。 糸切れ度合い:各々一つの紡糸機台を使用して、連続3
0日間紡糸を実施して、製品1トンあたりの糸切れ回数
を示した。各々の実施例と比較例は同一紡糸機を使用
し、同一紡糸条件で実施した。
【0039】
【発明の効果】本発明のアクリロニトリル系繊維は、不
純物である鉄化合物又はそのイオン、アルミニウム化合
物又はそのイオン等の電解質の含量を著しく減少させた
ので、紡糸安定性に優れ、しかも着色が少なく高品質で
ある。また本発明方法によると、アクリロニトリル系重
合体を有機溶媒に溶解してド−プ溶液となし、イオン交
換能ある物質により電解質を除去したので効率よく精製
することができ、紡糸安定性に優れ、しかも着色が少な
く高品質のアクリロニトリル系繊維を製造することがで
きる。本発明におけるこのような効果は、工業的に最も
優位とされる無機系レドックス開始剤を使用して水系懸
濁重合法式で製造したアクリロニトリル系重合体から、
高品質で高性能のアクリロニトリル系繊維を安定性よく
製造することを可能とした点で工業上の意義が大きい。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 加藤 治 広島県大竹市御幸町20番1号 三菱レイ ヨン株式会社大竹事業所内 (72)発明者 真鍋 由雄 広島県大竹市御幸町20番1号 三菱レイ ヨン株式会社大竹事業所内 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) D01F 6/18 C08F 20/44

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】無機系レドックス開始剤を使用して水系懸
    濁重合法で得られたアクリロニトリル系重合体を原料と
    して製造され、かつ不純物としての鉄化合物又はそのイ
    オンが0〜3ppm、アルミニウム化合物又はそのイオ
    ンが0〜10ppmである紡糸安定性に優れたアクリロ
    ニトリル系繊維。
  2. 【請求項2】無機系レドックス開始剤を使用した水系懸
    濁重合で得られたアクリロニトリル系重合体を、該重合
    体を溶解できる有機溶剤に溶解してド−プ溶液を作り、
    次いで該ド−プ溶液から、該有機溶剤に溶解しないイオ
    ン交換能ある物質により、該重合体中に含有した不純物
    である鉄化合物又はそのイオン、アルミニウム又はその
    イオンを精製除去し、その後該ド−プ溶液を、湿式法又
    は半乾湿式法又は乾式法により紡糸することを特徴とす
    るアクリロニトリル系繊維の製造方法。
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