JP3033307B2 - 回転力伝達機構 - Google Patents

回転力伝達機構

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、駆動側回転体と従動側
回転体とが嵌め合わされて、両者の間に所定値以上のト
ルクが加わった時に、駆動側回転体と従動側回転体との
間で滑りを生じるように設定された回転力伝達機構に関
する。
【0002】
【従来の技術】従来の減速型スタータでは、ピニオンの
噛合時あるいはアーマチュア回転中の始動により発生す
る衝撃荷重によって、各ギヤやシャフト等が破損する虞
を有していた。そこで、実公昭56−15404号公報
では、インターナルギヤをピニオンシャフトに圧入する
構造が設けられ、両者の間に所定値以上のトルクが加わ
ると滑りを生じることで、スタータの駆動系に所定値以
上の衝撃が加わるのを防止する技術が開示されている。
そして、インターナルギヤが圧入されるピニオンシャフ
トの嵌合面には、ボンデライト処理によってリン酸亜鉛
の皮膜が形成された上に、さらにタンブラー等の方法で
二硫化モリブデンの粉末から成る潤滑皮膜が形成される
ことにより、インターナルギヤとピニオンシャフトとの
間の潤滑が行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述の二硫
化モリブデンは、粒子間の空間を伝って空気中の湿気が
浸入することで摩擦係数が変化する性質を有しており、
湿度の上昇に伴って摩擦係数が上昇する。また、二硫化
モリブデンの粒子間に浸入した湿気によって、インター
ナルギヤの嵌合面(研磨面)が錆びることにより、イン
ターナルギヤとピニオンシャフトとの間の摩擦係数が変
化する。従って、従来技術では、湿度の変化に伴う摩擦
係数の変化によって、インターナルギヤとピニオンシャ
フトとの間の滑りトルクが変化してしまうという課題を
有していた。本発明は、上記事情に基づいて成されたも
ので、その目的は、滑りトルクの変化を防止して、安定
した回転力の伝達を行うことのできる回転力伝達機構の
提供にある。
【0004】
【0005】
【課題を解決するための手段】 本発明は上記目的を達成
するために、請求項1では、 回転力を受けて回転する駆
動側回転体と、この駆動側回転体に嵌め合わされて前記
駆動側回転体と一体に回転可能に設けられた従動側回転
体とを備え、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との
間に所定値以上のトルクが加わった時に、前記駆動側回
転体と前記従動側回転体との間で滑りを生じるように設
定された回転力伝達機構において、前記駆動側回転体と
前記従動側回転体との両嵌合面にそれぞれ化成皮膜を形
成するとともに、その両化成皮膜の上に、カーボンまた
は二硫化モリブデン等の固体潤滑材と樹脂との混合体か
ら成り、その混合比が異なる潤滑皮膜がそれぞれ形成さ
れたことを技術的手段とする。
【0006】また、請求項2では、回転力を受けて回転
する駆動側回転体と、この駆動側回転体に嵌め合わされ
て前記駆動側回転体と一体に回転可能に設けられた従動
側回転体とを備え、前記駆動側回転体と前記従動側回転
体との間に所定値以上のトルクが加わった時に、前記駆
動側回転体と前記従動側回転体との間で滑りを生じるよ
うに設定された回転力伝達機構において、前記駆動側回
転体と前記従動側回転体との一方の嵌合面に化成皮膜を
形成するとともに、その化成皮膜の上に、カーボンまた
は二硫化モリブデン等の固体潤滑材と樹脂との混合体か
ら成る潤滑皮膜を形成し、他方の嵌合面にメッキを施し
たことを技術的手段とする。
【0007】
【作用】上記構成より成る本発明の回転力伝達機構は、
化成皮膜の上に形成される潤滑皮膜が固体潤滑材と樹脂
との混合体であることから、固体潤滑材の粒子間に形成
される空間が樹脂で充填されるため、空気中の湿気の浸
入が防止される。また、駆動側回転体と従動側回転体の
両嵌合面に化成皮膜および潤滑皮膜を形成した場合に
は、両者の間で潤滑皮膜の固体潤滑材と樹脂との混合比
が異なることから互いの潤滑皮膜の境界面が明確とな
り、良好な滑り面が形成される。さらに、他方の嵌合面
にメッキを施した場合には、メッキによる円滑な表面が
得られることにより、一方の嵌合面に形成した潤滑層
(化成皮膜と潤滑皮膜)の耐久性向上を図ることができ
る。
【0008】
【実施例】次に、本発明の回転力伝達機構の一実施例を
図1ないし図3を基に説明する。図1は減速型スタータ
に適用された回転力伝達機構の要部断面図、図3は減速
型スタータの全体概略図である。減速型スタータ1は、
アーマチュア2の回転速度を所定のギヤ比で減速させピ
ニオンギヤ3を駆動するもので、アーマチュア2の回転
力は、ドライブギヤ4、アイドルギヤ5、クラッチギヤ
6を介して、オーバランニングクラッチのアウタチュー
ブ7に連結された筒状のバレル8に伝達される。
【0009】バレル8は、オイルレスブッシュ9を介し
てオーバランニングクラッチのインナーチューブ10に
回転自在に嵌合され、そのインナーチューブ10は、先
端にピニオンギヤ3を有するピニオンシャフト11の外
周にスプライン嵌合されている。従って、バレル8に伝
達された回転力は、アウタチューブ7、ローラ12、イ
ンナチューブ10を介してピニオンシャフト11へ伝達
される。ピニオンシャフト11は、その後端部に配され
たスチールボール13を介してマグネットスイッチのプ
ランジャシャフト14と係合されており、スタータスイ
ッチ15のONによってプランジャ16が吸引される
(図3で左側へ移動)ことにより、前方へ押し出され
る。
【0010】バレル8(本発明の従動側回転体)は、ク
ラッチギヤ6との間に所定の金属間締代を持って外周が
研磨されており、その研磨面(クラッチギヤ6との嵌合
面)には潤滑層が形成されている。この潤滑層は、研磨
面にボンデライト処理を施して形成したリン酸マンガン
皮膜17(本発明の化成皮膜)と、このリン酸マンガン
皮膜17の上にコーティングされた潤滑皮膜18よりな
る。クラッチギヤ6(本発明の駆動側回転体)の内周面
(バレル8との嵌合面)には、バレル8と同様のボンデ
ライト処理によるリン酸マンガン皮膜19と、このリン
酸マンガン皮膜19の上にコーティングされた潤滑皮膜
20から成る潤滑層が形成されている。
【0011】上記のリン酸マンガン皮膜17、19は、
共に所定の厚さ(3〜6μ)に設けられ、潤滑皮膜1
8、20は、共に二硫化モリブデン18a、20a(以
下MoS2 と略す)と樹脂18b、20bとの混合液を
所定の厚さ(10〜15μ)にスプレーあるいはディッ
ピング塗装した後、加熱乾燥して形成されている。な
お、バレル8側にコーティングされる潤滑皮膜18とク
ラッチギヤ6側にコーティングされる潤滑皮膜20とで
は、図2(潤滑層の拡大断面図)に示すように、MoS
2 18a、20aと樹脂18b、20bとの混合割合が
異なり、バレル8側の方がクラッチギヤ6側よりMoS
2 18aの割合が多く、樹脂18bの割合が少なく配合
されている。このバレル8とクラッチギヤ6は、所定の
金属間締代と互いの潤滑層とを圧入代として(約80
μ)、バレル8の外周にクラッチギヤ6が圧入(または
焼きばめ)により嵌合されており、バレル8とクラッチ
ギヤ6との間に所定値以上のトルク(約16kgfm)が加
わった時に、両者の間で滑りが生じるように設定されて
いる。
【0012】次に、本実施例の作動を説明する。スター
タスイッチ15のONによってプランジャ16が吸引さ
れることにより、プランジャシャフト14、スチールボ
ール13を介してピニオンシャフト11が前方へ押し出
される。ピニオンシャフト11とともにピニオンギヤ3
が押し出されてリングギヤ21と噛み合うことにより、
接点22が閉じてアーマチュア2が高速回転する。この
アーマチュア2の回転力は、各ギヤ4〜6を介して減速
された後、ピニオンシャフト11に伝達されてピニオン
ギヤ3を回転させ、リングギヤ21を介して内燃機関を
駆動する。この作動中において、ピニオンギヤ3とリン
グギヤ21との噛合時あるいはアーマチュア2の回転中
の始動による衝撃荷重によって、バレル8とクラッチギ
ヤ6との間に所定値以上のトルクが加わると、バレル8
とクラッチギヤ6との間で滑りが生じることにより、ス
タータ1の駆動系に所定値以上の衝撃が加わるのが防止
され、各ギヤやシャフト等の破損が防止できる。
【0013】バレル8およびクラッチギヤ6に形成され
た潤滑層は、図2に示すように、それぞれMoS2 18
a、20aの粒子間に形成される空間に樹脂18b、2
0bが充填されているため、空気中の湿気が浸入するこ
とがない。従って、従来のように湿度の変化に伴って摩
擦係数が変化するのを防止することができる。また、バ
レル8とクラッチギヤ6との両嵌合面にそれぞれ潤滑層
を形成することで、両嵌合面(研磨面)の防錆が可能と
なる。これらの結果、MoS2 18a、20aの湿度に
関わる摩擦係数の変化から生ずる滑りトルクの変化を防
止することができ、安定した回転力の伝達を行うことが
できる。また、バレル8側の潤滑層とクラッチギヤ6側
の潤滑層とで、潤滑皮膜18のMoS2 18a、20a
と樹脂18b、20bとの混合割合が異なるように構成
したことにより、バレル8側とクラッチギヤ6側との潤
滑層の境界面が明確となって良好な滑り面が形成される
ことから、各潤滑層の耐久性を向上させることが可能と
なる。
【0014】上記実施例では、バレル8の外周面とクラ
ッチギヤ6の内周面の両嵌合面に潤滑層を形成したが、
何方か一方の嵌合面、例えばバレル8側の嵌合面には、
上記実施例で示した潤滑層(リン酸マンガン皮膜17+
潤滑皮膜18)を形成し、クラッチギヤ6側の嵌合面に
は、図4(嵌合部の断面図)および図5(嵌合部の拡大
断面図)に示すように、メッキ23(特にNiメッキが
良い)を施しても良い。メッキ23を施すことで嵌合面
(研磨面)に対して優れた防錆効果を得ることができ、
上記実施例と同様に、摩擦係数の変化による滑りトルク
の変化を防止することができる。なお、固体潤滑材とし
てMoS2 を使用したが、カーボン(C)を用いても良
い。本実施例では、バレル8とクラッチギヤ6との間で
回転力伝達機構を採用したが、アーマチュア2からピニ
オンギヤ3までの間のスタータ駆動系に駆動側回転体と
従動側回転体とを設けて本発明の回転力伝達機構を構成
しても良い。また、本発明の回転力伝達機構の用途はス
タータに限定されるものではない。
【0015】
【発明の効果】本発明の回転力伝達機構は、駆動側回転
体と従動側回転体との間で、湿度の変化に伴う摩擦係数
の変化を防止することができるため、滑りトルクの変化
を防いで安定した回転力の伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】減速型スタータに適用された回転力伝達機構の
嵌合部断面図である。
【図2】図1に示す潤滑層の拡大断面図である。
【図3】減速型スタータの全体概略図である。
【図4】他の実施例を嵌合部の断面図である。
【図5】図4に示す嵌合部の拡大断面図である。
【符号の説明】
6 クラッチギヤ(駆動側回転体) 8 バレル(従動側回転体) 17 リン酸マンガン皮膜(化成皮膜) 18 潤滑皮膜 18a 二硫化モリブデン 18b 樹脂 19 リン酸マンガン皮膜(化成皮膜) 20 潤滑皮膜 20a 二硫化モリブデン 20b 樹脂
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C23C 22/07 C23C 22/07 F02N 15/02 F02N 15/02 N // C10N 40:02 40:04 50:08 80:00 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C10M 111/04 C10M 103/02 C10M 103/06 C10M 107/00 F02N 15/02 C10N 40:02 C10N 40:04 C10N 50:08 C10N 80:00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 回転力を受けて回転する駆動側回転体と、
    この駆動側回転体に嵌め合わされて前記駆動側回転体と
    一体に回転可能に設けられた従動側回転体とを備え、前
    記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に所定値以上
    のトルクが加わった時に、前記駆動側回転体と前記従動
    側回転体との間で滑りを生じるように設定された回転力
    伝達機構において、 前記駆動側回転体と前記従動側回転体との両嵌合面にそ
    れぞれ化成皮膜を形成するとともに、その両化成皮膜の
    上に、カーボンまたは二硫化モリブデン等の固体潤滑材
    と樹脂との混合体から成り、その混合比が異なる潤滑皮
    膜がそれぞれ形成された回転力伝達機構。
  2. 【請求項2】 回転力を受けて回転する駆動側回転体と、
    この駆動側回転体に嵌め合わされて前記駆動側回転体と
    一体に回転可能に設けられた従動側回転体とを備え、前
    記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に所定値以上
    のトルクが加わった時に、前記駆動側回転体と前記従動
    側回転体との間で滑りを生じるように設定された回転力
    伝達機構において、 前記駆動側回転体と前記従動側回転体との一方の嵌合面
    に化成皮膜を形成するとともに、その化成皮膜の上に、
    カーボンまたは二硫化モリブデン等の固体潤滑材と樹脂
    との混合体から成る潤滑皮膜を形成し、他方の嵌合面に
    メッキを施したことを特徴とする回転力伝達機構。
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JP2009209843A (ja) * 2008-03-05 2009-09-17 Denso Corp スタータ
DE102008042444A1 (de) 2008-09-29 2010-04-01 Robert Bosch Gmbh Startergetriebe mit Gleitlackbeschichtung

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