JP2970320B2 - 人工血管 - Google Patents

人工血管

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JP2970320B2
JP2970320B2 JP16316693A JP16316693A JP2970320B2 JP 2970320 B2 JP2970320 B2 JP 2970320B2 JP 16316693 A JP16316693 A JP 16316693A JP 16316693 A JP16316693 A JP 16316693A JP 2970320 B2 JP2970320 B2 JP 2970320B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医療用途に用いられる
人工血管に関し、さらに詳しくは、四弗化エチレン樹脂
(以下、PTFEと略記)多孔質体からなる人工血管に
関する。
【0002】
【従来の技術】PTFEを材料とする多孔質体は、PT
FE自体のもつ耐熱性、耐薬品性、耐候性、不燃性など
の特性、さらには低摩擦係数、撥水・撥油性、非粘着性
等の表面特性に加えて、多孔質であるため、可撓性、流
体透過性、微粒子の捕集・濾過性、低誘電率・誘電正接
等の特性が付加されており、これらの独自の特性から一
般工業分野のみならず医療分野などへの用途が拡大して
いる。例えば、PTFE多孔質体は、濾過膜、隔膜、シ
ール材の他、人工血管等の医療材料としても用いられて
いる。
【0003】人工血管は、生体血管の病変部位と切除し
た欠損部の補填や病変部を迂回して血行を維持するバイ
パスとして、あるいは血液透析で血液の体外循環のため
使用する血液導管として、さらにはシャントチューブな
どとして使用されている。人工血管としての用途のう
ち、透析シャント用人工血管は、大きな利用分野であ
る。長期透析患者に対し血液透析用のブラッドアクセス
として内シャントが広く用いられているが、これは、頻
回のシャントの再手術により吻合ないしは穿刺する自己
血管の無くなった症例に対するものである。血液透析用
シャントは、通常、前腕及び上腕の動脈と静脈の間をつ
なぐバイパス状に吻合されるが、この用途には、可撓性
や生体適合性に優れるPTFE多孔質チューブがよく用
いられている。
【0004】このPTFE多孔質チューブは、生体適合
性や可撓性には優れているものの、生体血管に比べると
弾力性に劣っている。このため、PTFE多孔質チュー
ブを血液透析用シャントとして用いる場合、透析装置の
太針を繰り返し穿刺すると、穿刺針抜去後に穿刺針の孔
が塞がらないで残り、そこから血液・血漿の漏出が起こ
り、その結果、血腫や血清腫が起こったり、この穿刺に
よる血液漏出、血液凝固を繰り返す内に内膜が異常肥厚
し、最終的に動脈瘤・血管閉塞に至るという問題があっ
た。
【0005】これに対し、弾力性に富む樹脂、例えばシ
リコンゴム樹脂やウレタン樹脂を用いた人工血管は、穿
刺抜去後、容易にその孔は塞がり止血は良好であるもの
の、引裂強度や耐座屈性に問題がある。即ち、これらの
弾性樹脂チューブは、生体血管との吻合の際、手術糸等
に対する引裂強度が低く吻合できないため、人工血管と
しては不適であり、特に、内シャント用途としては、前
腕及び上腕等の狭い領域への移植に必要となる可撓性が
なく、座屈しやすいなどの問題があった。さらに、弾性
樹脂チューブは、PTFE多孔質チューブに比べ、局部
的な止血性はよいものの、度重なる穿刺によるチューブ
全体の強度劣化が激しいこともあって、チューブ破裂の
危険性が高く、また、PTFE多孔質チューブのような
繊維性でないため、粒塊物の血中への遊離の危険性もあ
る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、PT
FE多孔質チューブの有する表面特性、生体適合性、易
屈曲性を損なうことなく、針穿刺時における穿刺孔の閉
塞性に優れた人工血管を提供することである。本発明者
らは、鋭意研究した結果、PTFE多孔質チューブを多
層化することによって、穿刺孔の閉塞性が得られること
を見出した。即ち、人工血管の管壁を複数のPTFE多
孔質体層により構成し、かつ、各層間の界面あるいは少
なくとも2層間の界面において、単に密着させるか、部
分的に融着または接着させるなどして、非接着部分を設
けることにより、針穿刺時に剪断力によって非接着部分
の層間にずれが生じた状態で針が穿刺され、その結果、
針抜去後に穿刺孔が連続した貫通孔を形成せず、有効穿
刺孔面積が小さくなることを見出した。また、PTFE
多孔質チューブの繊維の配向方向を、通常の管軸方向か
ら円周方向にずらせることによって、穿刺孔の閉塞性が
向上することを見出した。さらに、これら2つの方法を
組み合わせることにより、より効果的に穿刺孔の閉塞性
を向上させ得ることを見出した。本発明は、これらの知
見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】かくして、本発明によれ
ば、管壁が2層以上の四弗化エチレン樹脂多孔質体層か
ら構成された多層構造を有し、かつ、該四弗化エチレン
樹脂多孔質体層の内の少なくとも2層間の界面において
非接着部分を有しており、その非接着部分に18G(直
径1.20mm)針を穿刺することによって形成される
針孔からの漏水量が内圧120mmHgの負荷条件下で
78ml/min以下であることを特徴とする人工血管
が提供される。また、本発明によれば、管壁が繊維と該
繊維を連結する結節とからなる微細繊維状構造を有する
四弗化エチレン樹脂多孔質体から構成された人工血管に
おいて、該繊維の配向方向と管の長軸方向との交差角が
10度以上であることを特徴とする人工血管が提供され
る。
【0008】さらに、本発明によれば、管壁が2層以上
の四弗化エチレン樹脂多孔質体層から構成された多層構
造を有し、該多孔質体層の内の少なくとも2層間の界面
において非接着部分を有する人工血管であって、該多孔
質体層の内の少なくとも1層が、繊維と該繊維を連結す
る結節とからなる微細繊維状構造を有する四弗化エチレ
ン樹脂多孔質体からなり、かつ、該繊維の配向方向と管
の長軸方向との交差角が10度以上であることを特徴と
する人工血管が提供される。本発明において、繊維と該
繊維を連結する結節とからなる微細繊維状構造を有する
四弗化エチレン樹脂多孔質体とは、多孔質構造が、非常
に細い繊維(即ち、フィブリル)と、該繊維により互い
に連結された多数の結節(即ち、ノード)とからなる繊
維状組織を有する四弗化エチレン樹脂多孔質体を意味す
る。したがって、繊維とは、多孔質体を構成する微細な
フィブリルを意味する。
【0009】以下、本発明について詳述する。PTFE
多孔質チューブは、穿刺孔が塞がりにくいという問題を
有している。本発明は、この問題に対し、構造的な面か
ら解決を図ったものである。本発明において、PTFE
多孔質体としては、チューブ成型品やシート成型品をチ
ューブ状にさらに成型したものを用いることができる。
【0010】本発明に用いるPTFE多孔質チューブ
は、例えば、特公昭42−13560号公報に記載の方
法により製造することができる。具体的には、先ず、P
TFE未焼結粉末に液状潤滑剤を混和し、押出し等によ
りチューブ状に成形する。この成形物から液状潤滑剤を
加熱蒸発等により除去、あるいは除去せずして成形物を
少なくとも一軸方向に延伸する。熱収縮防止状態にて焼
結温度の327℃以上に加熱して延伸した構造を焼結固
定すると強度の向上したPTFE多孔質チューブが得ら
れる。
【0011】このPTFE多孔質チューブは、非常に細
い繊維(フィブリル)と該繊維により互いに連結された
結節(ノード)とからなる微細繊維状組織を有してお
り、この微細繊維状組織が多孔性空間を形成している。
その繊維径と長さ、結節の大きさやそれらの数は延伸と
焼結の条件により変化させることが可能であり、得られ
たPTFE多孔質チューブの孔径と気孔率も自由に決定
できる。PTFE多孔質シートも同様の方法で得ること
ができる。各結節間を結ぶ繊維(フィブリル)の長軸方
向を繊維の配向方向という。これらのPTFE多孔質体
は、穿刺による孔が塞がらないことは、前述したとおり
である。
【0012】本発明の第一の特徴は、PTFE多孔質体
を多層構造とすることにより、各層における穿刺孔は、
そのままでも、各層間のずれが生じると、結果的に外面
から内面にかけて貫通した孔の面積が小さくなることを
利用したものである。多層構造を構成する複数のPTF
E多孔質体層の内の少なくとも2つの層が平面方向への
ずれを生じる自由度をもつ場合、針穿刺時における平面
方向への剪断力によって、2つの層間においてずれが生
じた状態で、針が穿刺される。この針を抜去すると、穿
刺時に与えられた各層の歪が互いに戻ろうとする力が働
き、結果的に各層の穿刺孔は、連続した貫通孔ではなく
なり、有効穿刺孔面積が小さくなる。
【0013】一般に透析時に用いられる穿刺針は、外径
1mm以上の太さのものが使用されるため、有効穿刺孔
面積を効果的に小さくするためには、少なくとも0.1
mm以上の各層間のずれを生じるような自由度を持たせ
ることが好ましい。
【0014】多層構造において、このような「ずれの自
由度」をもたせるためには、(1)単に膨張させたPT
FEチューブを、内層となるPTFEチューブ上にかぶ
せて、融点未満の温度で収縮させ、各層間を摩擦力のみ
で密着させて固定する方法、(2)積層した各層を部分
的に融点以上に加熱して、融着させた部分と融着してい
ない部分を設ける方法、(3)PTFEよりも低融点の
樹脂、例えばFEPやシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、
フッ素ゴム、熱可塑性エラストマーなどを用いて、各層
間を部分的に接着するが接着していない部分も存在させ
る方法、及びこれらの方法を組み合わせた方法等が採用
できる。
【0015】発明の第二の特徴は、PTFE多孔質チュ
ーブの繊維の配向方向を円周方向に漸近させることによ
り、穿刺孔断面が細長い形状に変化し、結果的に、長軸
配向品よりも孔の面積が小さくなることを利用したもの
である。一般に、針を穿刺する場合、針の長軸を人工血
管の長軸に一致させて行われるため、針の先端のカッテ
ィングエッジは、人工血管の長軸に対し、約90度の進
入角度をもつことになる。この時、人工血管の繊維が円
周方向に配向している場合、カッティングエッジの進入
角度と繊維の配向方向が一致し、穿刺孔は、繊維の方向
に裂けるように開くため、穿刺針抜去後には、孔の断面
が細く長い形状になり、結果的に穿刺孔の面積を小さく
抑えることができる。
【0016】上記のように、穿刺孔を効果的に小さくす
るためには、穿刺針のカッテイングエッジの繊維の配向
方向に対する進入角度を少なくとも80度以下にする必
要があるため、人工血管の繊維の配向方向は長軸方向に
対し、10度以上の角度をもつことが必要である。一般
に、PTFE多孔質チューブを製造する場合、管の長軸
方向への延伸倍率が大きいため、繊維の配向方向は、管
の長軸方向と一致する。繊維の配向方向を管の長軸方向
に対し10度以上の角度を持たせるには、例えば、膨張
させたPTFEチューブ成型品を、ネジリ変形を与えた
状態で固定し、融点以上の温度に一定時間加熱し、冷却
する方法が採用できる。この方法により、繊維が管の長
軸方向を中心として、円周上を螺旋状に配向した構造の
PTFE多孔質チューブが得られる。
【0017】また、繊維の配向方向を管の長軸方向に対
し10度以上の角度を持たせたPTFE多孔質チューブ
は、PTFEシート成型品を、繊維の配向が円周方向に
なるように、円柱に巻きつけて固定し、融点以上の温度
に一定時間加熱し、冷却した後、円柱をとり除くことに
より得ることができる。繊維の配向方向が円周方向と一
致する場合、繊維の配向方向と管の長軸方向との交差角
は90度となる。
【0018】このようにして、繊維の配向方向と管の長
軸方向との交差角が10度以上のPTFE多孔質チュー
ブを作成することができる。なお、ここで、交差角が1
0度以上とは、繊維の配向方向と管の長軸方向とがなす
2つの交差角のうち、小さい方の交差角が10度以上で
あることを意味する。さらに、本発明の第一と第二の特
徴を組み合わせることにより、より大きな穿刺孔の閉塞
性を得ることが可能となる。少なくとも一層の穿刺孔の
面積が小さければ、各層間のずれが小さくても有効穿刺
孔面積は、極端に小さくなる。
【0019】上記のように、多層構造の人工血管に針を
穿刺抜去すると、穿刺孔に軸方向にずれが生じ、内面か
ら外面にかけて連続する孔の有効面積が減少する。この
ため、孔からの出血は、最小限に抑えられるとともに、
孔が早く血栓で塞がれ、止血時間を短縮させることがで
きる。また、繊維の配向方向が円周方向に漸近した人工
血管では、穿刺孔が繊維の配向方向に平行に一文字的に
孔が開き、孔の面積が減少する。このため、孔からの出
血は、最小限に抑えられるとともに、孔が早く血栓で塞
がれ、止血時間を短縮させることができる。さらに、多
層構造とし、かつ、繊維の配向方向が円周方向に漸近し
た層を組み合わせることにより、有孔穿刺孔の面積が極
端に小さくなる。このため、孔からの出血量は、極めて
少なくなるとともに、血栓による閉塞が極めて、早くな
り、止血時間を極端に短縮させることができる。
【0020】
【実施例】以下、本発明について実施例及び比較例を挙
げてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例
のみに限定されるものではない。
【0021】[実施例1]PTFEファインパウダー
(ダイキン工業株式会社製、F104)100重量部に
対して、ナフサ(エッソ社製、商品名ドライゾール)2
3重量部を助剤として混合し、ラム押出機によってチュ
ーブ状に成型した後に、ドライゾールを50℃、48時
間で乾燥させた。この押出チューブを電気炉中400
℃、炉内滞在時間80秒の条件で加熱しながら500%
延伸し、気孔率77%、繊維長33μm、内径4mm、
肉厚300μmのPTFE多孔質チューブ(サンプルN
o.1)を得た。
【0022】さらに、室温下で、このチューブの内腔に
内径5mmまたは6mmのステンレス鋼製の円柱を挿入
して膨張し、肉厚300μm以下の内径5mmのチュー
ブと内径6mmのチューブを得た。この内径4mmのチ
ューブの内腔に外径4mmのステンレス鋼製の円柱を挿
入したものを、外層となる内径5mmのチューブの内腔
に挿入し、300℃の炉内で内径5mmのチューブを径
方向に収縮させることで、内層の内径4mmのチューブ
に密着させ、内層、外層からなる内径4mmの2層構造
のチューブ(サンプルNo.2)を得た。
【0023】同様に、内径4mmのチューブの内腔に外
径4mmのステンレス鋼製の円柱を挿入したものを、中
間層となる内径5mmのチューブの内腔に挿入し、さら
に、それを外層となる6mmのチューブに挿入し、30
0℃の炉内で内径5mm及び6mmのチューブを径方向
に収縮させることで、内層の内径4mmのチューブに密
着させ、内層、中間層、外層からなる内径4mmの3層
構造のチューブ(サンプルNo.3)を得た。
【0024】多層構造化を行わない、元の内径4mmの
チューブ(サンプルNo.1)と本発明による2層構造
チューブ(サンプルNo.2)及び3層構造チューブ
(サンプルNo.3)について、18G針による穿刺孔
からの内圧120mmHgにおける漏水量を測定した。
その結果を表1に示す。表1から明らかなように、層の
数を増加させることにより、漏水量を減少させる効果が
得られることが分かった。また、各層の穿刺孔を観察す
ると、図1に示すように、層間のずれにより、穿刺孔の
有効面積が減少していた。
【0025】[実施例2]実施例1で用いた内径4mm
のチューブの内腔に外径4mmのステンレス鋼製の円柱
を挿入し、チューブの繊維が長軸方向に対し60度の角
度を持って配向するようにチューブに捻れ変形を与えた
状態で円柱に固定し、350℃の炉内で5分間の加熱を
行うことで、繊維が管の長軸方向に対し60度の角度を
持って配向した内径4mmの配向チューブ(サンプルN
o.4)が得られた。この場合、繊維は、管の長軸方向
に対し60度の角度をもって、円周上を螺旋状に配向し
ている。
【0026】得られた螺旋配向チューブ(サンプルN
o.4)について、実施例1と同様に漏水量の測定を行
った。その結果、表1に見られるように、繊維が管の長
軸方向に配向した元の内径4mmのチューブ(サンプル
No.1)に対して、20%以上の漏水量減少効果が認
められた。また、穿刺孔を観察すると、図2に示すよう
に、穿刺孔の形状が長軸配向品とは異なっており、孔の
面積が減少していた。
【0027】[実施例3]PTFEファインパウダー
(旭硝子株式会社製、CD123)100重量部に対し
て、ナフサ(エッソ社製、商品名ドライゾール)23重
量部を助剤として混合し、ラム押出機によってチューブ
状に成型した後に、ドライゾールを50℃、48時間で
乾燥させた。この押出チューブを電気炉中550℃、炉
内滞在時間30秒の条件で加熱しながら450%延伸
し、気孔率82%、繊維長40μm、内径6mm、肉厚
800μmの厚肉のPTFE多孔質チューブ(サンプル
No.5)を得た。
【0028】一方、実施例1で用いた内径4mmのチュ
ーブを室温下で外径6mmのステンレス鋼製の円柱に挿
入しながら膨張させ、かつ、繊維が管の長軸方向に対し
60度の角度を持って配向するように捻れ変形を加え、
350℃の炉内で5分間の加熱を行うことで、内径6m
m、肉厚300μm以下の螺旋配向薄肉チューブを得
た。肉厚チューブの内腔に内径6mmのステンレス鋼製
の円柱を挿入し、その上に螺旋配向薄肉のチューブを膨
張させながら被覆し、内層に繊維が管の長軸方向に配向
したPTFE多孔質体層、外層には、繊維が螺旋配向し
たPTFE多孔質体層の2層構造のチューブ(サンプル
No.6)が得られた。
【0029】得られた2層構造のチューブ(サンプルN
o.6)と、このチューブの製作に用いた厚肉チューブ
(サンプルNo.5)について、実施例1と同様に漏水
量の測定を行った。その結果、表1に見られるように、
単層構造の厚肉チューブに対し、螺旋配向薄肉チューブ
を被覆した2層構造のチューブにすることにより、約8
0%の漏水量の減少が得られた。チューブの内面及び外
面を観察すると、内層の穿刺孔の面積は大きいが、外層
の穿刺孔は殆ど塞がっていた。
【0030】[実施例4]一軸延伸PTFEシート・F
P030(肉厚80μm、孔径30μm、住友電気工業
株式会社製)を用いた。図3に示すように、該PTFE
シートを外径6mmのステンレス鋼製の円柱に、繊維が
円柱の円周方向に配向するように、10周巻き付け、シ
ートの両端を融点以上の温度に熱したコテを用いて融着
させた後に円柱を引き抜くことで、繊維が円周方向に配
向した(管の長軸方向との交差角は90度)10層のチ
ューブ(サンプルNo.7)を作製した。
【0031】得られた10層のチューブ(サンプルN
o.7)を用い、実施例1と同様に漏水量の測定を行っ
た。その結果、表1に見られるように、単層長軸配向品
(サンプルNo.1または5)に対し、約75%の漏水
量の減少が得られた。また、内面および外面を観察する
と、内層および外層の穿刺孔は殆ど塞がっていた。
【0032】
【表1】 (脚注) (Mean±S.D.) 各n=4、内圧=120mmHg(0.16kg/cm
2) 18G(φ1.20mm)針穿刺
【0033】[実施例5]実施例3のサンプルNo.6
と同様な方法で製作した長さ約40mmの人工血管(サ
ンプルNo.8)と、長さ約40mmの市販の人工血管
(住友電気工業株式会社製、内径6mmのテクノグラフ
ト)を、それぞれウサギ(体重約3kg、成熟ニュージ
ーランド・ホワイト・ラビット雄、2羽)の腹部大動脈
に置換し、18G針穿刺抜去後の止血に要する時間につ
いて比較検討した。
【0034】ウサギの耳翼静脈よりペントバルビタール
(ダイナボット株式会社製、商品名ペントシリン)を静
注し、深麻酔に達したところで、腹部を切開し、腹部大
動脈を露出し周辺組織から剥離した後、腎動脈、下腸間
膜動脈を4−0号シルク縫合糸で結紮した。次に、腹部
大動脈の上流と下流をバスキュラークリップを用いて血
流を停止させた。そして、φ6mmの人工血管を吻合す
るために、特別製のコネクターを介して、腹部大動脈に
人工血管を端々吻合し、クリップを取り除き、血流を再
開した。
【0035】その移植人工血管に対し、18G針をin
situで穿刺し、抜去直後の出血の様子を迅速に観
察した後、即座に、特別に製作した圧迫器で穿刺部位を
120mmHgの圧力で圧迫し、1分毎に止血の確認を
行う一連の操作を、4回行った。その結果、テクノグラ
フトでは、比較的出血量も多く15分以上の時間を要す
るのに対し、サンプルNo.8では、殆ど出血せずに0
〜3分の間に止血が完了した。
【0036】
【発明の効果】本発明によれば、PTFE多孔質チュー
ブの持つ生体適合性と、特殊な構造による穿刺孔閉塞性
を合わせ持つ優れた人工血管が提供される。したがっ
て、本発明による人工血管は、特に血液透析内シャント
用人工血管として非常に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1の多層人工血管(サンプルN
o.2)の18G針穿刺抜去後の穿刺孔の断面を拡大し
た図である。
【図2】図2は、実施例2の螺旋配向人工血管(サンプ
ルNo.4)の18G針穿刺抜去後の穿刺孔を外面から
見た拡大図である。
【図3】図3は、実施例4の10層の人工血管(サンプ
ルNo.7)の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
1:実施例1で用いた互いに接着していない2層のPT
FE多孔質体の人工血管である。 2:PTFE多孔質体の内層チューブ。 3:PTFE多孔質体の外層チューブ。 4:18G針の穿刺・抜去の操作によって生じる層のズ
レである。 5:層のズレによって、各層の孔が重なった部分(有効
孔)である。 6:実施例2で用いた螺旋配向PTFE多孔質体による
人工血管である。 7:繊維の配向方向を示す矢印である。 8:18G針の穿刺抜去後に残った細長い形状を示す孔
である。 9:実施例4で用いた10層の人工血管である。 10:各層が接着されていない、10層構造の穿刺孔閉
塞の効果が得られる部分である。 11:各層を融点以上の温度で接着した部分である。 12:繊維の配向方向を示す矢印である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭51−5897(JP,A) 特開 昭49−22792(JP,A) 特開 昭55−24095(JP,A) 特開 昭63−139926(JP,A) 実開 昭58−136122(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A61L 27/00 A61F 2/06

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 管壁が2層以上の四弗化エチレン樹脂多
    孔質体層から構成された多層構造を有し、かつ、該四弗
    化エチレン樹脂多孔質体層の内の少なくとも2層間の界
    面において非接着部分を有しており、その非接着部分に
    18G(直径1.20mm)針を穿刺することによって
    形成される針孔からの漏水量が内圧120mmHgの負
    荷条件下で78ml/min以下であることを特徴とす
    る人工血管。
  2. 【請求項2】 管壁が繊維と該繊維を連結する結節とか
    らなる微細繊維状構造を有する四弗化エチレン樹脂多孔
    質体から構成された人工血管において、該繊維の配向方
    向と管の長軸方向との交差角が10度以上であることを
    特徴とする人工血管。
  3. 【請求項3】 管壁が2層以上の四弗化エチレン樹脂多
    孔質体層から構成された多層構造を有し、該多孔質体層
    の内の少なくとも2層間の界面において非接着部分を有
    する人工血管であって、該多孔質体層の内の少なくとも
    1層が、繊維と該繊維を連結する結節とからなる微細繊
    維状構造を有する四弗化エチレン樹脂多孔質体からな
    り、かつ、該繊維の配向方向と管の長軸方向との交差角
    が10度以上であることを特徴とする人工血管。
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