JP2950888B2 - カロチノイドの合成に有用なdna鎖 - Google Patents

カロチノイドの合成に有用なdna鎖

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Description

【発明の詳細な説明】 〔発明の背景〕 <技術分野> 本発明は、リコピン、β−カロチン、ゼアキサンチ
ン、ゼアキサンチン−ジグルコシド等のカロチノイドの
合成に有用なDNA鎖に関するものである。
<先行技術> カロチノイド(carotenoid)は、緑色植物に広く分布
しており、また、ある種のかび、酵母等に含まれる黄色
〜橙色〜赤色を示す脂質であり、食品等の天然着色料と
して最近特に注目を集めているものである。その中で、
β−カロチン(β−carotene)は、代表的なカロチノイ
ドであるが、着色料としての利用の他、動物体内ではビ
タミンAの前駆体として利用され、最近では、ガン予防
素材としての利用も検討されている重要なものである
(たとえば、食品と開発,24,61−65(1989)を参照され
たい)。β−カロチンをはじめとしてカロチノイドは緑
色植物に広く分布しているので、植物組織培養によっ
て、自然環境に支配されない形でカロチノイドを多量生
産しようとする試みがなされている(たとえば、Plant
Cell Physiol.、12、525−531(1971)を参照された
い)。また、もともとカロチノイドを高生産するかび、
酵母、緑藻等の微生物を検出し、これらの微生物により
カロチノイドを多量生産しようとする試みがなされてい
る(たとえば、昭和63年度日本発酵工学会大会講演要旨
集、p139を参照されたい)。しかし、いずれの場合も、
商業生産用途としては生産能力が低く、β−カロチンの
製造において合成法を凌駕することができないのが現状
である。もし、カロチノイドの生合成に関与する遺伝子
群を取得することができれば、非常に有用であると思わ
れる。なぜなら、この遺伝子群における適当な遺伝子が
多量発現するように再構成したものを、適当な宿主、た
とえば、もともとカロチノイドを生産しているような植
物組織培養細胞、かび、酵母等に導入することにより、
カロチノイドを多量に生産することが可能になるからで
ある。このことが、β−カロチンの製造においては、合
成法を凌駕することを可能にするかもしれず、また、そ
れ以外の有用なカロチノイドにおいても、これを多量に
生産する道を開くものである。
また、カロチノイドの生合成に関与する遺伝子群を取
得することは、カロチノイドを全く産生していない細胞
や器官でのカロチノイドの合成に道を開くものであり、
このことが、生物に新たな価値を与えることにつながる
ものと思われる。たとえば、花卉植物において、最近、
遺伝子操作を利用して、自然には存在しない花色を作り
出した例が出始めた(たとえば、Nature、330、677−67
8(1987)を参照されたい)。花の色はアントシアニン
やカロチノイドなどの色素によって現われる。アントシ
アニンは、赤色〜紫色〜青色の花色の原因であり、カロ
チノイドは、黄色〜橙色〜赤色の花色の原因である。ア
ントシアニンを合成する酵素の遺伝子は解明されてきて
おり、前述の新しい花色を作り出したという成功例はア
ントシアニンに関するものである。しかし、花弁でカロ
チノイドを合成できないために濃黄色花を有さない花卉
植物は多く存在している(たとえば、ペチュニア、セン
トポーリア、シクラメン、プリムラ・マラコイデスな
ど)。カロチノイドの生合成に関与する遺伝子群におけ
る適当な遺伝子が花弁で発現するように再構成したもの
を、これらの花卉植物に導入することにより、黄色花を
有する花卉植物の作出が可能になると行われる。
しかし、カロチノイドを合成する酵素やこれをコード
する遺伝子についての解明はほとんど行われていないの
が現状である。最近になって、ようやく、光合成細菌ロ
ドバクター・キャプスラタス(Rhodobacter capsulatu
s)において、ある種のカロチノイドの生合成に関与す
る遺伝子群の塩基配列が明らかになった(Mol,Gen,Gene
t.,216,254−268(1989))。しかし、この細菌はノイ
ロスポレン(neurosporene)を経由して、閉環すること
なく、特殊なカロチノイドであるスフェロイデン(sphe
roidene)を合成するので、リコピン(lycnpene),β
−カロチンおよびゼアキサンチン(zeaxanthin)のよう
な、一般的なカロチノイドを合成することはできない。
エルビニア属細菌の黄色系色素またはカロチノイドに
関する先行例として、J.Bacteriol.、168、607−612(1
986)、J.Bacteriol.,170,4675−4680(1988)、及び、
J.Gen.Microbiol.、130、1623−1631(1984)がある。
最初の文献は、エルビニア・ハービコラ(Erwinia her
bicola)Eho10ATCC39368より、黄色系色素を合成する遺
伝子群を大腸菌に12.4キロ塩基対(kb)の断片としてク
ローニングしたという内容である。なお、12.4kbの断片
の塩基配列は報告されていない。2番目の文献によりク
ローニングした遺伝子群により合成された黄色系色素が
カロチノイドに属することが、紫外−可視スペクトルの
分析結果より報告されている。最後の文献は、エルビニ
ア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)20D3 ATCC1932
1に存在する260kbの大プラスミドが脱落すると黄色色素
を生産しなくなることより、黄色色素生産に関与する遺
伝子がこの大プラスミド上に存在することを示唆し、ま
た、紫外−可視吸収スペクトルの結果よりこの色素がカ
ロチノイドに属することを報告している。
しかしながら、エルビニア属細菌が産生するカロチノ
イドや中間代謝産物の化学構造、その生合成に関与する
酵素やこれをコードする遺伝子の塩基配列については、
全く知られていないのが現状である。
<要旨> 本発明は、リコピン、β−カロチン、ゼアキサンチ
ン、ゼアキサンチン−ジグルコシド等のカロチノイドの
合成に有用なDNA鎖、すなわちカロチノイド生合成酵素
をコードするDNA鎖を提供するものである。
すなわち、本発明によるカロチノイドの合成に有用な
DNA鎖は、下記の(1)〜(6)に記載された〜のD
NA鎖である。
(1) アミノ酸配列が実質的に第1図(イ)および
(ロ)に示されているAからBまでのアミノ酸配列であ
るポリペプチドをコードする塩基配列を有するDNA鎖(D
NA鎖)。
(2) ゼアキサンチンをゼアキサンチン−ジグルコシ
ドに転換する酵素活性を有していてアミノ酸配列が実質
的に第2図(イ)および(ロ)に示されているCからD
までのアミノ酸配列であるポリペプチドをコードする塩
基配列を有するDNA鎖(DNA鎖)。
(3) リコピンをβ−カロチンに転換する酵素活性を
有していてアミノ酸配列が実質的に第3図(イ)および
(ロ)に示されているEからFまでのアミノ酸配列であ
るポリペプチドをコードする塩基配列を有するDNA鎖(D
NA鎖)。
(4) フィトエンをリコピンに転換する酵素活性を有
していてアミノ酸配列が実質的に第4図(イ)、(ロ)
および(ハ)に示されているGからHまでのアミノ酸配
列であるポリペプチドをコードする塩基配列をするDNA
鎖(DNA鎖)。
(5) アミノ酸配列が実質的に第5図(イ)および
(ロ)に示されているIからJまでのアミノ酸配列であ
るポリペプチドをコードする塩基配列を有するDNA鎖(D
NA鎖)。
(6) β−カロチンをゼアキサンチンに転換する酵素
活性を有していてアミノ酸配列が実質的に第6図に示さ
れているKからLまでのアミノ酸配列であるポリペプチ
ドをコードする塩基配列を有するDNA鎖(DNA鎖)。
<効果> 本発明によりリコピン、β−カロチン、ゼアキサンチ
ン、ゼアキサンチン−ジグルコシド等のカロチノイドの
合成に有用な遺伝子群(カロチノイド生合成酵素をコー
ドする遺伝子群)を取得したことは、この遺伝子の多量
発現を可能な状態にしたプラスミドを作製し、これによ
り形質転換された適当な植物組織培養細胞または微生物
等を利用すること等によって、有用なカロチノイドを多
量に製造することを可能にするものである。また、本発
明によりリコピン、β−カロチン、ゼアキサンチン、ゼ
アキサンチン−ジグルコシド等のカロチノイドの合成に
有用な遺伝子群を取得したことは、この遺伝子の目的と
する細胞や器官での発現を可能な状態にしたプラスミド
を作製し、これにより適当な宿主を形質転換することに
より、カロチノイドを全く産生していない細胞や器官で
のカロチノイドの合成に道を開くものである。
〔発明の具体的説明〕
本発明によるDNA鎖は、前記〜のDNA鎖であり、カ
ロチノイドの生合成反応に関与する各酵素のポリペプチ
ド、具体的には、例えばエルビニア、ウレドボラ(Erwi
nia uredovora)20D3ATCC19321に於けるカロチノイド
の生合成反応に関与する各酵素のポリペプチド、をコー
ドする遺伝子である。
これら〜のDNA鎖のうちの複数の組合せによるDNA
鎖を含む種々の遺伝子群は、微生物、植物等で発現させ
て、それぞれ微生物、植物等にリコピン、β−カロチ
ン、ゼアキサンチン、ゼアキサンチン−ジグルコシド等
のカロチノイドの生合成能を付与することができる。こ
の遺伝子群を構成する各DNA鎖は、一つのDNA鎖上に存在
していてもよいし、互いに独立して別々のDNA鎖として
存在してもよいし、あるいは必要があれば一つのDNA鎖
上に複数のDNA鎖が存在するものと単独のDNA鎖が独立し
て存在するものとの組合せの状態で存在しているもので
もよい。
上記遺伝子群は、カロチノイドの生成反応に関与する
複数の酵素のポリペプチドをコードするものであり、こ
れらを適当なベクターに組入れて組換DNA鎖を作製し、
この組換DNA鎖を適当な宿主に導入して形質転換体を作
製し、この形質転換体を培養することにより、主として
形質転換体中にカロチノイドの生成反応に関与する複数
の酵素が産生されると共に、これらの酵素によって形質
転換体中でカロチノイドが生合成される。
本発明によるDNA鎖の一例である第7図(イ)〜
(ト)のDNA鎖は、エルビニア・ウレドボラ20D3 ATCC1
9321から取得したものであり、エルビニア・ハービコラ
Eho10ATCC39368の黄色系色素合成遺伝子群を含むDNA
鎖(前記先行技術参照)と、DNA−DNAハイブリダイゼー
ション法による相同性を示さない(後記実験例参照)。
<各酵素のポリペプチドをコードするDNA鎖> 本発明のDNA鎖は、〜のいずれかのDNAであり、各
DNA鎖は、アミノ酸配列が実質的に第1図〜第6図にお
ける前記したような特定範囲(たとえば第1図ではA〜
B)のアミノ酸配列であるポリペプチドをコードする塩
基配列を有するもの、である。ここで「DNA鎖」とは、
ある長さを有するポリデオキシリボ核酸鎖を意味するも
のである。そして、本発明では、この「DNA鎖」は、そ
れがコードするポリペプチドのアミノ酸配列によって特
定されているところ、このポリペプチドは上記のように
有限の長さのものであるから、このDNA鎖も有限の長さ
である。しかし、このDNA鎖は、各酵素をコードする遺
伝子を含んでいてこのポリペプチドの生物工学的産生を
行わせるに有用なものであるところ、この有限の長さの
DNA鎖のみによってこのような生物工学的産生が行える
のでなく、その5′−側上流および(または)3′−側
下流に適当な長さのDNA鎖が結合した状態でのこのポリ
ペプチドの生物工学的産生が可能となる訳である。従っ
て、本発明で「DNA鎖」というときは、この特定の長さ
のもの(第1図の対応アミノ酸配列でいえば、A〜Bの
長さ)の外にこの特定の長さのDNA鎖を構成員とする鎖
状または環状DNA鎖の形態にあるものを包含するものと
する。(ただし、エルビニア・ウレドボラ20D3が有して
ちるカロチノイド生合成に関連する遺伝子を含むプラス
ミド等、天然の鎖状または環状DNA鎖は、本発明によるD
NA鎖には含まれない。) 本発明による各DNA鎖の存在形態のうち代表的なもの
の一つは、この各DNA鎖を構成員の一部とするプラスミ
ドの形態ならびにプラスミドとして宿主、たとえば大腸
菌、中に存在する形態、である。本発明による各DNA鎖
の好ましい存在形態の一つとしてのプラスミドは、パッ
センジャーないし外来遺伝子としての本発明のDNA鎖
と、宿主中で安定に存在して複製可能なプラスミドベク
ターとプロモーター(原核生物の場合はリボソーム結合
部位を含む)とを一体に結合させたものである。プラス
ミドベクターおよびプロモーターとしては公知のものを
適宜組み合わせて用いることができる。
<DNA鎖がコードするポリペプチド> 本発明によるDNA鎖がコードするポリペプチドは、ア
ミノ酸配列が実質的に第1〜第6図における前記したよ
うな特定範囲(たとえば第1図ではA〜B)のアミノ酸
配列を有するものである。本発明においては、このDNA
鎖〜によってコードされる6種のポリペプチド(す
なわちカロチノイド生成反応に関与する6種の酵素)
は、基質−転換物質の関係において前述のような各酵素
の活性を有する限りアミノ酸のいくつかについて欠失、
置換、付加などの変化があってもよい。このことは、
「アミノ酸配列が実質的に…」ということと対応してい
る。たとえば、各酵素の第1番目のアミノ酸(Met)が
欠失しているものなどもこのアミノ酸配列の変化による
ポリペプチドないしは酵素に包含される。
本発明での典型的な各酵素活性を有するポリペプチド
は、第1〜第6図の前記特定範囲のものであって、従来
これらのアミノ酸配列は知られていなかったものであ
る。
<DNA鎖の塩基配列> 各酵素をコードするDNA鎖は、第1〜6図の前記特定
範囲の塩基配列を持つものまたはその縮重異性体並びに
上記のような各酵素のアミノ酸配列の変化に対応する塩
基配列を持つものまたはその縮重異性体、である。ここ
で「縮重異性体」とは、縮重コドンにおいてのみ異なっ
ている同一のポリペプチドをコードすることのできるDN
A鎖を意味する。本発明によるDNA鎖の好ましい具体例
は、3′−末端に接して停止コドン(例えばTAA)を少
なくとも1個を持つものである。さらに、本発明の5′
−側上流および(または)3′−側下流には、非翻訳領
域としてのDNA鎖(3′−側下流の最初の部分は、TAAの
ような停止コドンであることがふつうである)がある長
さで続いていてもよい。
<カロチノイドの合成に用いられる遺伝子群> カロチノイドの合成に用いられる遺伝子群は、前記
〜のDNA鎖のうちの複数の組合せによるものであり、
この代表例が以下の(1)〜(4)に説明されている。
各遺伝子群は複数の各酵素のポリペプチドをコードし、
これらの酵素はカロチノイドの生成反応に関与して基質
となる化合物からカロチノイド生成させる働きを有して
いる。
(1) リコピンの合成に用いられる遺伝子群赤色を呈
するカロチノイドであるリコピン(lycopene)の合成に
用いられる遺伝子群は、上記の、およびのDNA鎖
を含むDNA鎖であり、この遺伝子群としては、それぞれ
のDNA鎖が一つのDNA鎖上に存在するもの、各DNA鎖が互
いに別々のDNA鎖として存在するもの、必要に応じて前
記したような両者の組合せによって構成されるもの、が
ある。
一つのDNA鎖上に複数のDNA鎖が存在する場合には、上
記の、およびのDNA鎖の並ぶ順序および方向は、
その遺伝情報が発現可能な状態、すなわち、宿主内で各
々の遺伝子が適切に転写、翻訳される状態、でありさえ
すれば、どのような順序、どのような方向であっても構
わない。
大腸菌でのリコピンの生合成経路は、概略的に次のよ
うに説明される。すなわち、大腸菌内において、およ
びのDNA鎖がコードする酵素によりゲラニルゲラニル
ピロリン酸(geranylgeratyl pyrophosphate)を経てフ
ィトエン(phytoene)が合成され、さらに、フィトエン
は、のDNA鎖がコードする酵素により、リコピンに転
換されるのである(第8図参照)。
リコピンは赤色を呈するカロチンで、スイカやトマト
の実に多量に存在する赤色色素であり、食用として全く
安全なものである。なお、後記の実験例において本発明
によるDNA鎖により合成されたリコピンは、これらの植
物に存在するリコピンと、立体構造的に同一のものであ
った。
本発明における遺伝子群の代表的な存在形態の一つ
は、停止コドンを有する各DNA鎖を構成員として含むプ
ラスミドの形態ならびにプラスミドとして宿主、たとえ
ば大腸菌、中に存在する形態、である。本発明による遺
伝子群の好ましい存在形態の一つとしてのプラスミド
は、パッセンジャーないし外来遺伝子としての遺伝子群
と、宿主中ので安定に存在して複製可能なプラスミドベ
クターとプロモーター(原核生物の場合はリボソーム結
合部位を含む)とを一体に結合させたものである。プロ
モーターとしては、例えば大腸菌、ザイモモナス属細菌
のような原核生物の場合には、各DNA鎖に共通するもの
を使用してもよいし、各DNA鎖にそれぞれ使用するよう
にしてもよい。また、例えば酵母、植物のような真核生
物の場合には、各DNA鎖にそれぞれプロモーターを使用
するのが好ましい。
このDNA鎖の好ましい存在形態の一つは、〜のDNA
鎖の説明中で前記した通りである。
(2) β−カロチンの合成に用いられる遺伝子群 黄色〜橙色を呈するカロチノイドであるβ−カロチン
(β−carotene)の合成に用いられる遺伝子群は、上記
の、、およびのDNA鎖を含むDNA鎖である。すな
わち、リコピンの合成に用いられるDNA鎖である、
およびのDNA鎖を含むDNA鎖に、のDNA鎖を加えるこ
とによって、β−カロチンの合成に用いられるDNA鎖と
なる。この遺伝子群としては、それぞれのDNA鎖が、一
つのDNA鎖上に存在するもの、各DNA鎖が互いに別々のDN
A鎖として存在するもの、必要に応じて前記したような
両者の組合せによって構成されるもの、がある。
一つのDNA鎖上に複数のDNA鎖が存在する場合には、上
記の、、およびのDNA鎖の並ぶ順序および方向
は、その遺伝子情報が発現可能な状態、すなわち、宿主
内で各々遺伝子が適切に転写、翻訳される状態でありさ
えすれば、どのような順序、どのような方向であっても
構わない。
大腸菌でのβ−カロチンの生合成経路は、概略的に次
のように説明される。すなわち、大腸菌内において、
およびのDNA鎖がコードする酵素によりゲラニルゲラ
ニルピロリン酸を経てフィトエンが合成され、さらにフ
ィトエンは、のDNA鎖がコードする酵素によりリコピ
ンに転換され、さらに、リコピンは、のDNA鎖がコー
ドする酵素によりβ−カロチンに転換されるのである
(第8図参照)。
β−カロチンは黄色〜橙色を呈する代表的カロチン
で、ニンジンの根や植物の緑葉に多量に存在する橙色色
素であり、食用として全く安全なものである。β−カロ
チンの有用生は、3.発明の詳細な説明〔発明の背景〕<
先行技術>の中で述べた通りである。なお、後記の実験
例において本発明によるDNA鎖により合成されたβ−カ
ロチンは、ニンジンの根や植物の緑葉に広く存在するβ
−カロチンと、立体構造的に同一のものであった。
この遺伝子群および個々のDNA鎖の代表的な存在形態
の一つは(1)で上記した通りである。
(3) ゼアキサンチンの合成に用いられる遺伝子群 黄色〜橙色を呈するカロチノイドであるゼアキサンチ
ン(zeaxanthin)の合成に用いられるDNA鎖は、上記の
、、、およびのDNA鎖を含むDNA鎖である。す
なわち、β−カロチンの合成に用いられるDNA鎖である
、、およびのDNA鎖を含むDNA鎖に、のDNA鎖
を加えることによって、ゼアキサンチンの合成に用いら
れるDNA鎖となる。この遺伝子群としては、それぞれのD
NA鎖が一つのDNA鎖上に存在するもの、各DNA鎖が互いに
別々のDNA鎖として存在するもの、必要に応じて前記し
たような両者の組合せによって構成されるもの、があ
る。
一つのDNA鎖上に複数のDNA鎖が存在する場合には、上
記の、、、およびのDNA鎖の並ぶ順序および
方向は、その遺伝情報が発現可能な状態、すなわち、宿
主内で各々の遺伝子が適切に転写、翻訳される状態であ
りさえすれば、どのような順序、どのような方向であっ
ても構わない。
大腸菌でのゼアキサンチンの生合成経路は、概略的に
次のように説明される。すなわち、大腸菌内において、
およびのDNA鎖がコードする酵素によりゲラニルゲ
ラニルピロリン酸を経てフィトエンが合成され、さらに
フィトエンは、のDNA鎖がコードする酵素によりリコ
ピンに転換され、さらに、リコピンは、のDNA鎖がコ
ードする酵素によりβ−カロチンに転換され、さらに、
β−カロチンは、のDNA鎖がコードする酵素によりゼ
アキサンチンに転換されるのである(第8図参照)。
ゼアキサンチンは黄色〜橙色の呈するキサントフィル
(xanthophyll)で、トウモロコシの種子に存在する黄
色色素であり、食用として全く安全なものである。ゼア
キサンチンは、ニワトリ、錦鯉等の飼料中に含まれてお
り、これらの着色のための色素源として重要なものであ
る。なお、後記の実験例において本発明によるDNA鎖に
より合成されたゼアキサンチンは、上記ゼアキサンチン
と、立体構造的に同一のものであった。
この遺伝子群および個々のDNA鎖の代表的な存在形態
の一つは(1)で上記した通りである。
(4) ゼアキサンチン−ジグルコシドの合成に用いら
れる遺伝子群 黄色〜橙色を呈するカロチノイドであるゼアキサンチ
ン−ジグルコシド(zeaxanthin−diglucoside)の合成
に用いられるDNA鎖は、上記のからまでのDNA鎖を含
むDNA鎖である。すなわち、ゼアキサンチンの合成に用
いられるDNA鎖である、、、およびのDNA鎖を
含むDNA鎖に、のDNA鎖を加えることによって、ゼアキ
サンチン−ジグルコシドの合成に用いられるDNA鎖とな
る。この遺伝子群としては、それぞれのDNA鎖が一つのD
NA鎖上に存在するもの、各DNA鎖が互いに別々のDNA鎖と
して存在するもの、必要に応じて前記したような両者の
組合せによって構成されるもの、がある。
一つのDNA鎖上に複数のDNA鎖が存在する場合には、上
記のからまでのDNA鎖の並ぶ順序および方向は、そ
の遺伝子情報が発現可能な状態、すなわち、宿主内で各
々の遺伝子が適切に転写、翻訳される状態でありさえす
れば、どのような順序、どのような方向であっても構わ
ない。
この遺伝子群および個々のDNA鎖の代表的な存在形態
の一つは(1)で上記した通りである。
大腸菌でのゼアキサンチン−ジグルコシドの生合成経
路は、概略的に次のように説明される。すなわち、大腸
菌内において、およびのDNA鎖がコードする酵素に
よりゲラニルゲラニルピロリン酸を経てフィトエンが合
成され、さらにフィトエンは、のDNA鎖がコードする
酵素によりリコピンに転換され、さらに、リコピンは、
のDNA鎖がコードする酵素によりβ−カロチンに転換
され、さらに、β−カロチンは、のDNA鎖がコードす
る酵素によりゼアキサンチンに転換され、さらに、ゼア
キサンチンは、のDNA鎖がコードする酵素によりゼア
キサンチン−ジグルコシドに転換されるのである(第8
図参照)。
ゼアキサンチン−ジグルコシドは、黄色〜橙色を呈す
る、水溶性の高いカロチノイド配糖体で、室温の水に十
分量溶け、鮮明な黄色を与える色素である。一般にカロ
チノイド色素は疎水性であるため、それが食品等の天然
着色料として使用する際の制約となっている。したがっ
て、ゼアキサンチン−ジグルコシドはカロチノイド色素
のこの欠点を克服するものである。また、ゼアキサンチ
ン−ジグルコシドは、食用植物サフラン(saffron、Cro
ccus sativus)から単離されており(Pure & Appl.Ch
em.,47,121−128(1976))、食用として安全性が確認
されていると考えられる。したがって、ゼアキサンチン
−ジグルコシドは食品等の黄色天然着色料として有望な
ものである。なお、ゼアキサンチン−ジグルコシドの微
生物から単離の報告は従来は無かったものである。
なお、本発明によるDNA鎖によって、リコピン、β−
カロチン、ゼアキサンチンおよび、ゼアキサンチン−ジ
グルコシドなどのカロチノイド色素を産生させる場合、
宿主が大腸菌である場合には、それぞれ、上記の、
およびのDNA鎖、、、およびのDNA鎖、、
、、およびのDNA鎖、および、からまでのD
NA鎖が必要であるが、他の宿主、特にカロチノイドを産
生できる生物、を利用する場合には、それらの宿主内に
生合成におけるさらに下流のカロチノイド前駆体まで含
まれている可能性が高いので、上記の、およびの
DNA鎖(リコピン産生の場合)、、、およびのD
NA鎖(β−カロチン産生の場合)、、、、およ
びのDNA鎖(ゼアキサンチン産生の場合)、あるい
は、からまでのDNA鎖(ゼアキサンチン−ジグルコ
シド産生の場合)すべてが必要であるとは限らない。
すなわち、この場合は宿主内に存在する最も下流のカ
ロチノイド前駆体から目的のカロチノイド色素の生成反
応に関与するDNA鎖のみ(1つまたは複数)の使用でも
よいことになり、従って、たとえばフィトエンがすでに
存在している宿主に目的のカロチノイド色素としてリコ
ピンを産生させる場合には、本発明DNA鎖、、の
うちのDNA鎖のみの使用でもよいということになる。
また、本発明DNA鎖およびを使用して、フィトエ
ンを目的のカロチノイド色素関連化合物として宿主に産
生させることもできる。
<DNA鎖の取得> 上記の各酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を
有する〜のDNA鎖を取得する一つの手段は、核酸合
成の方法に従ってその鎖長の少なくとも一部を化学合成
することであるが、結合アミノ酸が多数であるというこ
とを考えれば、この化学合成法によりもエルビニア・ウ
レドボラ20D3 ATCC19321のトータルDNAを適当な制限酵
素で消化したものを用いて大腸菌でライブラリーを作製
し、このライブラリーから遺伝子工学の分野で慣用され
ている方法、例えば適当なプローブによるハイブリダイ
ゼイション法、によりこれを取得する方が好ましいとい
える。
これにより各DNA鎖あるいはこれらのすべてを含むDNA
鎖が得られる。
<形質転換体> 上記のようにして取得されるDNA鎖を用いて、DNA鎖
〜のうちの複数の組合わせによる前記遺伝子群を構成
することができる。このようにして得られるDNA鎖はカ
ロチノイドの生成反応に関与する酵素蛋白をつくるため
の遺伝情報を含んでいるので、これを生物工学的手法に
よって適当な宿主に導入して形質転換体をつくり、この
形質転換体に酵素蛋白、ひいてはカロチノイド色素ない
しはカロチノイド色素関連化合物をつくらせることがで
きる。
(1)宿 主 適当な宿主・ベクター系が存在する限り、植物および
各種の微生物が上記DNA鎖を構成員として含むベクター
により形質転換の対象となりうるが、少なくとも宿主に
おいて本発明DNA鎖を用いたカロチノイド合成の出発と
なる酵素の基質化合物であるゲラニルゲラニルピロリン
酸あるいはそれより下流の化合物が存在しているもので
ある必要がある。
ゲラニルゲラニルピロリン酸は、カロチノイドだけで
なくステロール(sterol)やテルペン(terpene)の生
合成の初期段階における共通の酵素であるジメチルアリ
ルトランスフェラーゼ(dimethylallyltransferase)に
より合成されることが知られている(J.Biochem.,72,11
01−1108(1972))。したがって、カロチノイドを合成
できない細胞でも、ステロールまたはテルペンを合成す
ることができれば、細胞にゲラニルゲラニルピロリン酸
が存在しているばずである。ステロールとテルペンの両
方を有さない細胞はほとんど存在しないと考えられる。
したがって、理論的には、適当な宿主・ベクター系が
存在する限り、ほとんどすべての宿主において、本発明
DNA鎖を用いたカロチノイド合成が可能であると考えら
れる。
宿主・ベクター系が存在するものは、植物では、例え
ばタバコ(Nicotiana tabacum)、ペチュニア(Petuni
a hybrida)など、また、微生物では、例えば大腸菌
Eucherichia coli)、ザイモモナス属細菌(Zymomon
as mobilis)等の細菌、酵母(Saccharomyces cerevi
siae)などである。
(2)形質転換 前記のように本発明DNA鎖の持つ遺伝子情報が微生物
中で発現したということは本発明によってはじめて確認
されたことであるが、形質転換体の作製(およびそれに
よる酵素、ひいてはカロチノイド色素ないしはカロチノ
イド色素関連化合物の産生)のための手順ないし方法そ
のものは、分子生物学、生物工学ないし遺伝子工学の分
野において慣用されているものでありうるので、本発明
においても下記したところ以外のものについてはこれら
慣用技術に準じて実施すればいよい。
宿主中で本発明DNA鎖の遺伝子を発現させるために
は、まずその宿主中に導入するためのベクター中にこの
遺伝子をつなぎかえる必要がある。この際用いられるベ
クターは、植物の(タバコ、ペチュニア)に対してはpB
I121など、大腸菌に対してはpUC19、pACYC184など、ザ
イモモナス属細菌に対してはpZA22(特開昭62−228278
号公報参照など、酵母に対してはYEp13など種々知られ
ているものすべてが用いられる。
一方、本発明DNA鎖の遺伝子を宿主で発現させるため
には、そのDNAをmRNAへ転写させる必要がある。そのた
めには、転写のためのシグナルであるプロモーターを本
発明DNA鎖の5′−側上流に組込めばよい。このプロモ
ーターについてはCaMV35S、NOS、TR1′、TR2′(以上、
植物用)、1ac、Tcr、CAT、trp(以上、大腸菌用)、Tc
r、CAT(以上、ザイモモナス属細菌用)、ADH1、GAL7、
PGK、TRP1(以上、酵母用)等種々知られており、本発
明でもこれらのいずれをも利用することができる。
また、原核生物の場合、mRNAを蛋白に翻訳させる段階
で蛋白合成の場であるリボソームが翻訳開始部位の先端
に結合するために必要な配列、すなわちボソーム結合部
位(大腸菌ではSD配列と呼ばれる)を、蛋白合成の開始
信号である。ATGの数塩基上流につけておく必要があ
る。
さて、一般的には、上記酵素蛋白を作ろうとすれば、
上記のような操作が必要であるが、酵素蛋白をつくる場
合に各酵素活性させ保持されれば、第1〜6図の特定範
囲に示されているポリペプチド(たとえば第1図に示さ
れているA〜Bのポリペプチド)に1個以上のアミノ酸
を挿入または付加するか、あるいは1個以上のアミノ酸
を欠落させるかまたは別のアミノ酸で置換してもよいこ
とは前記したところである。
このようにしてつくったプラスミドによる宿主の形質
転換は、遺伝子工学ないし生物工学の分野で慣用されて
いる合目的的な任意の方法によって行うことができる。
その一般的な事項については適当な成書または総説、た
とえば微生物の形質転換であればT.Maniatis,E.F.Frits
ch,J.Sambrook:「Molecular Cloning A Laboratory Man
ual」,Cold Spring Harbor Laboratory,(1982)、を参
照することができる。
形質転換体は、本発明DNA鎖によって導入された遺伝
情報による新しい形質(すなわちカロチノイド生成反応
に関与する酵素の産生及びその酵素によるカロチノイド
等の合成)および使用ベクター由来の形質ならびに場合
によって生じているかも知れない遺伝子組換時の使用ベ
クターからの一部の遺伝情報の欠落による対応遺伝子の
欠落を除けば、そのジェノタイプないしフェノタイプあ
るいは菌学的性質において使用宿主と同じである。本発
明による形質転換体の一例Escherichia coliJM109(pC
AR1)は、微工研条寄第2377号(FERM BP−2377)とし
て寄託されている。
<遺伝情報の発現/カロチノイドの生産> 上記のようにして得られる形質転換体のクローンは、
これを培養すれば主として形質転換体中にカロチノイド
生成反応に関与する酵素を産生すると共に、これらの酵
素によって種々のカロチノイドないしはカロチノイド色
素関連化合物が合成される。
形質転換体の培養ないし培養条件は、使用宿主に対す
るそれと本質的には変らない。
カロチノイドの回収は、例えば後記実験例3および4
に示される方法によって行うことが可能である。
また、本発明DNA鎖によってコードされる酵素蛋白
は、例えば大腸菌を形質転換した場合には主として菌体
内に産生されるが、これらは合目的的な方法により回収
することが可能である。
<実験例> 以下の実験例において使用した菌株は、すべて、ATC
C、その他の寄託機関のカタログに掲載されていて、自
由に入手可能なものである。
実験例1: 黄色色素の生合成に関与する遺伝子群(以
下、黄色色素合成遺伝子群)のクローニング (1)トータルDNAの調製 トータルDNAは、エルビニア・ウレドボラ(Erwinia
uredovora)20D3 ATCC19321を100ミリリットル(ml)
のLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラ
クト、1%NaCl)で定常期前期まで増殖させた菌体から
調製した。集菌の1時間前にペニシリンG(明治製菓
製)を50ユニット/mlになるように加えた。集菌後、TES
緩衝液(20mMトリス、10mM EDTA、0.1M NaCl、pH8)
で洗浄し、68℃で15分間熱処理した後、5mg/mlリゾチー
ム(生化学工業製)と100μm/ml RNase A(シグマ社
製)を含むI液(50mMグルコール、25mMトリス、10mM
EDTA、pH8)に懸濁した。37℃で30分から1時間インキ
ュベートした後、250μg/mlになるようにプロナーゼE
(科研製薬製)を加え、37℃で10分間インキュベートし
た。さらに、最終濃度が1%になるようにザルコシール
(N−Lauroylsarcosine・Na)(半井化学製)を加え、
よく混合した後、37℃で数時間インキュベートした。さ
らに、フェノール/クロロホルム抽出を数回行った後、
2倍量のエタノールをゆっくりと加えながら、析出して
きたトータルDNAをガラス棒に巻き付け、70%エタノー
ルでリンスした後、2mlのTE緩衝液(10mM トリス、1mM
EDTA、pH8)に溶解して、トータルDNA調製液とした。
(2)大腸菌コスミドライブラリーの作製および黄色を
呈する大腸菌形質転換株の取得 トータルDNA調製液50μlに対して、1ユニットの制
限酵素Sau3A Iを用い、37℃、30分間インキュベートし
た後、68℃、10分間の処理で制限酵素を失活させた。こ
の条件で40キロ塩基対(kb)付近に多くのSau3A I部分
分解断片が得られた。この反応液のエタノール沈澱を行
った後、この半量を用いて、コスミドpJB8をBamH I消化
後アルカリフォスファターゼ処理したもの2.5μg、お
よび、pJB8をSal I/BamH I消化後右アーム(小さい方の
断片)をゲルから回収したもの0.2μgと混ぜ、全量40
μlで12℃、2日間、T4DNAリガーゼにより連結反応を
行った。なお、コスミドpJB8は、以前にアマーシャム社
から購入したものである。また、制限酵素および遺伝子
操作に用いる酵素類は、ベーリンガー・マンハイム社、
宝酒造(株)または和光純薬工業(株)から購入した。
この連結反応を行ったDNAを用い、ギガパック・ゴール
ド(Gigapack Gold)(Stratagene社製、フナコシ販
売)によりインビトロ・パッケージングを行い、コスミ
ド・ライブラリーを作るに十分量のファージ粒子を得
た。このファージ粒子を大腸菌(Escherichia coli)D
H1(ATCC33849)に感染させた後、1プレート当り数百
コロニーになるように希釈し、LBプレートにプレーティ
ングし、37℃で1晩培養後、さらに30℃で6時間以上イ
ンキュベートした。その結果、このコスミド・ライブラ
リーから約1100株に1株の割合で、黄色を呈する大腸菌
形質転換株が出現した。これらの黄色を呈する大腸菌形
質転換株には、pJB8に33から47kbのSau3A I部分分解断
片が挿入されたプラスミドが含まれていた。
(3)黄色色素合成遺伝子群を含む断片の縮小化黄色色
素合成遺伝子群は、pJB8に33から47kbのSau3A I部分分
解断片として挿入されていたので、この中の1つのもの
を用い、Sau3A Iによりさらに部分分解し、大腸菌ベク
ターpUC19(宝酒造より購入)のBamH I部位に連結し、
大腸菌JM109(宝酒造製)を形質転換することによっ
て、黄色色素合成遺伝子群を含む断片の縮小化(ローカ
ライゼーション)を試みた。アンピシリンを含むLBプレ
ートに出現した黄色を呈する大腸菌形質転換株50株から
プラスミドDNAを調製し、分析した結果、その中で最も
小さな挿入断片を有するものは8.2kbであった。このプ
ラスミドをpCAR1と名づけ、このプラスミドを有する大
腸菌JM109をEscherichia coli JM109(pCAR1)と名づ
けた。この株は、エルビニア・ウレドボラと同じ黄色色
素を産生した。この8.2kbの断片の1acプロモーター側の
末端近くにKpn I部位が、反対側の末端近くにHind III
部位が存在したので、Kpn I/Hind III(Hind IIIは部分
分解、この8.2kb断片にはHind III部位が2カ所存在し
た。)で二重消化後、このKpn I−Hind III断片(6.9k
b)を切り出し、pUC18のKpn I−Hind III部位に連結し
(このハイプリッドプラスミドをpCAR15と名づけ
た。)、大腸菌JM109を形質転換したところ、この大腸
菌形質転換株は黄色を呈しエルビニア・ウレドボラと同
じ黄色色素を産生した。したがって、黄色色素合成に必
要な遺伝子群は、このKpn I−Hind III断片(6.9kb)に
存在することが明らかとなった。すなわち、黄色色素合
成遺伝子群は6.9kb断片まで縮小することができた。
実験例2:黄色色素合成遺伝子群の解析 (1)黄色色素合成遺伝子群の塩基配列決定黄色色素合
成遺伝子群を含むKpn I−Hind III6.9kb断片の全塩基配
列を、キロシークエンス用デレーションキット(宝酒造
製)を用いたキロシークエンス法およびProc.Natl.Aca
d.Sci.USA,74,5463−5467(1977)に基づいたダイオキ
シ法により決定した。その結果、この黄色色素合成遺伝
子群を含む断片(DNA鎖)は、6918塩基対(bp)からな
り、GC含量は54%であることが明らかとなった。この全
塩基配列を第7図(イ)〜(ト)に示した。Kpn I部位
を塩基番号1として示されている。
(2)黄色色素合成遺伝子群の確定 キロシークエンス用デレーションキットを用いて、黄
色色素合成遺伝群を含む6918bpの断片(DNA鎖)(第7
図)のHind III側(第7図右末端側)を欠失させた。Hi
nd III側から6504bpまで欠失させた断片、すなわち、塩
基番号1から6503までの断片をPUC19に挿入したハイブ
リッドプラスミド(pCAR25と名づけられた)を有する大
腸菌JM109(以後、大腸菌(pCAR25)と表示する。)
は、黄色を呈し、エルビニア・ウレドボラと同じ黄色色
素を産生した。したがって、黄色色素の合成には、第7
図における塩基番号6504から6918の領域は不要であると
考えられた。この黄色色素合成遺伝子群を含む6918bpの
DNA鎖における塩基番号1から6503までの領域の塩基配
列の解析を行った。その結果、6個のオープン・リーデ
ィング・フレーム(ORF)が存在することが明らかとな
った。すなわち、塩基番号225から1130までの分子量325
83のタンパク質をコードするORF(ORF1とする。第1
図、第7図におけるAからBに対応している。)、塩基
番号1143から2435までの分子量47241のタンパク質をコ
ードするORF(ORF2とする。第2図、第7図におけるC
からDに対応している。)、塩基番号2422から3567まで
の分子量43047のタンパク質をコードするORF(ORF3とす
る。第3図、第7図におけるEからFに対応してい
る。)、塩基番号3582から5057までの分子量55007のタ
ンパク質をコードするORF(ORF4とする。第4図、第7
図におけるGからHに対応している。)、塩基番号5096
から5983までの分子量33050のタンパク質をコードするO
RF(ORF5とする。第5図、第7図におけるIからJに対
応している。)、塩基番号6452から5928までの分子量19
816のタンパク質をコードするORF(ORF6とする。第6
図、第7図におけるKからLに対応している。このORF6
のみ他のORFと方向が逆向きである。)であった。な
お、これら6個のORFの各開始コドンの数塩基上流に
は、大腸菌の16SリボゾームRNAの3′領域と相同性のあ
るSD(Shine−Dalgarno)配列が存在した。したがっ
て、これら6個のORFにより、大腸菌で実際にタンパク
質が合成されていると考えられた。このことは、下記の
イン・ビトロ転写・翻訳実験によって確認された。
すなわち、ORF1からORF6までを含むプラスミド pCAR
25をScaIで消化したDNA、及び、ORF1からORF6までの各
ORF(SD配列を含む)を適当な制限酵素で切り出すこと
によって単離したものをpUC19またはpUC18にlacプロモ
ーターの転写のリードスルーを受けるように挿入して作
製された各種ハイプリッドプラスミドをScalで消化し
たDNAを用いて、イン・ビトロ転写・翻訳による解析を
行った。この実験には、アマシャム社のDNA発現キット
を用いた。その結果、転写・翻訳産物として、上記の各
ORFに対応するタンパク質のバンドが生じることを確認
することができた。
また、後述(実験例3,4,5)のように、エルビニア・
ウレドボラと同じ黄色色素を産生するのに、これら6つ
のORFはすべて必要であった。以上の結果から、ORF1,OR
F2,ORF3,ORF4,ORF5,および、ORF6を、それぞれ、zexA
(またはcrtE)、zexB(またはcrtX)、zexC(またはcr
tY)、zexD(またはcrtI)、zexE(またはcrtB)および
zexF(またはctrZ)遺伝子と命名する。
なお、第1図から第6図での塩基番号は、第7図にお
けるKpn I部位を塩基番号1として示されたものであ
り、互いに対応している。また、第1図から第6図まで
におけるAからLまでの記号は、第7図のAからLまで
の記号に対応している。また、第6図におけるKからL
までのDNA鎖は、第7図におけるKからLまでのDNA鎖の
相補鎖を読んだものである。すなわち、第6図に示され
たDNA鎖は、第1図から第5図までのDNA鎖と、もとのDN
A鎖(第7図)に於いて転写の方向が逆向きになってい
る。
(3) DNA−DNAハイブリダイゼーション法による相同
性の分析 エルビニア・ハービコラ(Erwinia herbicola)Eho1
0 ATCC39368のトータルDNAを、実験例1(1)と同様
の方法により調製した。第7図のDNA鎖を含む7.6kb断片
を、ハリブリッドプラスミドpCAR1よりKpn I消化により
切り出し、DIG−ELISA法によるDNAラベリング&ディテ
クション・キット(ベーリンガー・マンハイム社製)に
より標識し、プローブDNAとした。このプローブDNAを用
いて、エルビニア・ハービコラEho10 ATCC39368及びエ
ルビニア・ウレドボラ 20D3 ATCC19321のトータルDNA
(そのまま及びKpn I消化したもの)のアガラロースゲ
ル電気泳動法を行ったものについて、前述のDNAラベリ
ング&ディデクション・キットを用いたDNA−DNAハイブ
リダイゼーション法による分析を行った。その結果、プ
ローブDNAは、後者のエルビニア・ウレドボラ20D3 ATC
C19321のトータルDNAと、強くハイブリダイズしたのに
対して、前者のエルビニア・ハービコラEho10 ATCC393
68のトータルDNAとハイブリダイズするところは全く無
かった。また、第7図のDNA鎖から示される制限酵素切
断点地図は、J.Bacteriol.,168,607−612(1986)によ
り報告されている制限酵素切断点地図と全く異なってい
た。以上の結果より、第7図のDNA鎖、すなわち、本発
明によるカロチノイドの合成に有用なDNA鎖は、エルビ
ニア・ハービコラEho10 ATCC39368の黄色系色素合成遺
伝子群を含むDNA鎖と相同性を示さないと結論した。
実施例3: 黄色色素の分析 大腸菌(pCAR25)は、エルビニア・ウレドボラ 20D3
ATCC19321およびエルビニア・ハービコラ Eho10 AT
CC39368と同じ黄色色素を産生し、その生産量は、前者
の5倍、後者の6倍であった(乾重量当り)。大腸菌
(pCAR25)(黄色を呈している)の8リットル2×YT
(1.6%トリプトン、1%イーストエキストラクト、0.5
%NaCl)培養液より集菌した菌体を、メタノールによ
り、1.2リットルで1回抽出した。これを濃縮乾固し、
メタノールに溶解後、メルク社製のシリカゲル60(クロ
ロホルム:メタノール4:1で展開)を用いた薄層クロマ
トグラフィー(TLC)を行った。この黄色色素は、このT
LCにより、Rf値0.93、0.62および0.30の3スポットに分
かれた。黄色色素全体の49%に相当する、最も濃いRf値
0.30の黄色(〜橙色)色素をTLCプレートから、かきと
り、少量のメタノールで抽出後、セファデックスLH−20
カラムクロマトグラフィー(30cm×3.0cm(φ))にか
けメタノールで展開溶出することにより純品4mgを得
た。得られた黄色(〜橙色)色素はメタノール以外の有
機溶媒に難溶性であり、水溶性が強いことからカロチノ
イド配糖体の可能性が示唆された。FD−MSスペクトルに
よる分子量892もこれを支持した(ゼアキサンチン(後
述)からグルコール2個分増えている)。そこで本物質
を1NのHClで100℃、10分間加水分解した結果、ゼアキサ
ンチンが得られた。そこで常法に従い、アセチル化を行
った。すなわち、10mlのピリジンに本物質を溶解し、大
過剰の無水酢酸を加え、室温撹はん、一晩放置した。反
応終了後、水を加えクロロホルムで抽出し、濃縮後、シ
リカゲルカラムクロマトグラフィー(30cm×3.0cm
(φ))にかけ、クロロホルムで展開溶出した。1H−NM
Rを測定したところ、ゼアキサンチン−β−ジグルコシ
ドのテトラアセチル体と一致するスペクトル(Helvetic
a Chimica Acta,57,1641−1651(1974))を与えたた
め、本物質をゼアキサンチン−β−ジグルコシド(zeax
anthin−β−diglucoside)(構造は下記式)と同定し
た。
この生産量は、1.1mg/g乾重量であった。本物質は、1
00mlの水及びメタノールに少なくとも2mgは溶解した
が、溶解度はメタノールより、むしろ水の方があった。
また、クロロホルム及びアセトンに対する本物質の溶解
度は低く、室温で100mlに対する溶解度は、両者とも0.5
mgであった。
実験例4: カロチノイド中間代謝産物の分析 (1) 各種デレーションプラスミドの作製 キロシークエンス用デレーションキットを用いて、黄
色色素合成遺伝子群を含む6918bpの断片(DNA鎖)(第
7図)のHind III側(第7図の右末端側)から6010bpま
で欠失させた断片、すなわち、塩基番号1から6009まで
の断片をpUC19に挿入したハイブリッドプラスミド(pCA
R16と名づけられた)を作製した。pCAR16は、zexAからz
exEまでの遺伝子を含んでいる。これと、前述したpCAR2
5(zexAからzexFまでの遺伝子を含んでいる)を土台と
して、第1表に示すように、各種デレーションプラスミ
ドを作製した。
(2) ゼアキサンチンの同定 大腸菌(pCAR25delB)(橙色を呈している)の3リッ
トル2×YT培養液より集菌した菌体を、低温下、アセト
ンにより、400mlずつ2回抽出し、濃縮後、クロロホル
ム:メタノール9:1で抽出し、濃縮乾固した。これをシ
リカゲルカラムクロマトグラフィー(30cm×3.0cm
(φ))にかけクロロホルムでカラムを洗浄した後、ク
ロロホルム:メタノール100:1で橙色バンドを溶出し
た。これをエタノールに溶解し、低温で再結晶を行い、
純品8mgを得た。紫外−可視吸収スペクトル、1H−NMR、
13C−NMR、FD−MSスペクトル(m/e568)の結果より、本
物質は、ゼアキサンチンと同一の平面構造を持つもの
(β,β−carotene−3,3′−diol)であることが明ら
かとなった。そこで、ジエチルエーテル:イソペンタ
ン:エタノール5:5:2に溶解し、CDスペクトルを測定し
た結果、3R,3′Rの立体構造(Phytochemistry,27,3605
−3609(1988)をとることがわかったため本物質をゼア
キサンチン(zeaxanthin、β,β−carotene−3R,3′R
−diol)(構造は下記式)と同定した。この生産量は2.
2mg/g乾重量であった。本物質は、実験例4(1)のRf
値0.93の黄色(〜橙色)色素に相当した。
(3) β−カロチンの同定 大腸菌(pCAR16)(橙色を呈している)の3リットル
LB培養液より集菌した菌体を、低温下、冷メタノールに
より、500mlずつ3回抽出し、さらに、メタノール抽出
液を1.5リットルのヘキサンにより抽出した。ヘキサン
層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(30
cm×3.0cm(φ))にかけ、ヘキサン:酢酸エチル50:1
で展開溶出し、橙色バンドを集めた。橙色フラクション
を濃縮し、エタノール中から再結晶を行い、8mg(水分
を除いた換算値)を得た。本物質は、紫外−可視吸収ス
ペクトルよりβ−カロチンに属するものと推定され、FD
−MSスペクトルによる分子量536もこの推定を支持し
た。そこでβ−カロチンの標準品(シグマ社製)と、13
C−NMRによる比較を行った結果、炭素のケミカルシフト
がすべて一致したため本物質をβ−カロチン(β−caro
tene、all−trans−β,β−carotene)(構造は下記
式)と同定した。また、類似の方法によって、大腸菌
(pCAR16delB)も、上記と同一のβ−カロチンを蓄積す
ることを確認した。この生産量は、2.0mg/g乾重量であ
った。これは、組織培養13、379−382(1987)で報告さ
れた、キントキニンジン培養細胞における全カロチノイ
ド生産量の2〜8倍の値であった(乾重量当り)。
(4) リコピンの同定 大腸菌(pCAR16delC)(赤色を呈している)の3リッ
トルLB培養液より集菌した菌体を、低温下、冷メタノー
ルにより、500mlで1回抽出し、これを遠心分離した沈
澱物を、1.5リットルのクロロホルムにより抽出した。
クロロホルム層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグ
ラフィー(30cm×3.0cm(φ))にかけ、ヘキサン:ク
ロロホルム1:1で展開溶出し、赤色バンドを集め、この
フラクションを濃縮した。本物質は、紫外−可視吸収ス
ペクトルよりリコピンに属するものと推定され、FD−MS
スペクトルによる分子量536もこの推定を支持した。そ
こで、リコピンの標準品(シグマ社製)を用いて、1H−
NMRの比較を行った結果、水素のケミカシフトがすべて
一致し、また、メルク社製のシリカゲル60(ヘキサン:
クロロホルム50:1で展開)及びRP−18(メタノール:ク
ロロホルム4:1で展開)を用いた薄層クロマトグラフィ
ーを行ったところ、移動距離が完全に一致したため、本
物質をリコピン(lycopene、all−trans−ψ,ψ−caro
tene)(構造は下記式)と同定した。また、類似の方法
によって、大腸菌(pCAR−ADE)、及び、大腸菌(pCAR
−ADFF)も、上記と同一のリコピンを蓄積することを確
認した。前者の生産量は、2.0mg/g乾重量であった。こ
れは、組織培養13、379−382(1987)で報告された、キ
ントキニンジン培養細胞の高リコピン産生変異株におけ
るリコピン生産量の2倍の値であった(乾重量当り)。
(5) フィトエンの同定 大腸菌(pCAR−AE)の1.5リットル2×YT培養液より
集菌した菌体を、アセトンにより、200mlづつ2回抽出
し濃縮後、100mlのヘキサンで2回抽出し、濃縮乾固し
た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(30cm
×3.0cm(φ))にかけ、ヘキサン:クロロホルム1:1で
展開溶出し、強い紫外部吸収を有するバンドを分けと
り、紫外部吸収スペクトルを測定してフィトエンである
ことを確認した。さらにセファデックスLH−20カラムク
ロマトグラフィー(30cm×3.0cm(φ))にかけクロロ
ホルム:メタノール1:1で展開溶出することにより純品4
mgを得た。1H−NMRスペクトルを測定し、トランス及び
シスフィトエンのスペクトル(J.Magnetic Resonance,1
0,43−50(1973))と比較した結果、本物質は、トラン
スとシスの混合物であることが判明した。また、類似の
方法によって、大腸菌(pCAR25delD)も、上記と同一の
フィトエンを蓄積することを確認した。
実験例5: カロチノイド合成遺伝子群の同定 大腸菌(pCAR25)がゼアキサンチン−ジグルコシドを
生産し、pCAR25からzexB遺伝子が除かれたプラスミドを
有する(大腸菌pCAR25delB)がゼアキサンチンを蓄積す
ることから、zexB遺伝子は、ゼアキサンチンをゼアキサ
ンチン−ジグルコシドに変換できる酵素であるグリコシ
ル化酵素(glycosylation enzyme)をコードしているこ
とが明らかとなった。同様に、pCAR25delBからzexF遺伝
子が除かれたプラスミドを有する大腸菌(pCAR16delB)
がβ−カロチンを蓄積することから、zexF遺伝子は、β
−カロチンをゼアキサンチンに変換する酵素である水酸
化酵素(hydroxylation enzyme)をコードしていること
が明らかとなった。同様に、pCAR16delBからzexC遺伝子
が除かれたプラスミドを有する大腸菌(pCAR−ADE)が
リコピンを蓄積することから、zexC遺伝子は、リコピン
をβ−カロチンに変換する酵素である環化酵素(cycliz
ation enzyme)をコードしていることが明らかとなっ
た。また、リコピン合成に必要な遺伝子であるzexAze
xDzexE、及び、水酸化酵素をコードするzexFの両方の
遺伝子を有する大腸菌(pCAR−ADEF)は、リコピンしか
合成できなかった。これは、カロチノイド合成における
水酸化は環化反応の後に起こるということを、直接実証
するものである。さらに、大腸菌(pCAR−ADE)がリコ
ピンを生産し、pCAR−ADEからzexD遺伝子が除かれたプ
ラスミドを有する大腸菌(pCAR−AE)がフィトエンを蓄
積することから、zexD遺伝子は、フィトエンをリコピン
に変換する酵素である脱水素酵素(desaturation enzym
e)をコードしていることが明らかとなった。また、大
腸菌(pCAR−A)及び大腸菌(pCAR−E)は、フィトエ
ンを合成することができなかった。このことにより、大
腸菌にフィトエンを合成させるには、zexAzexEの両方
が必要であると考えられた。以上の分析により、6つの
zex遺伝子すべてが同定されたとともに、カロチノイド
の生合成経路が明らかになった。これらは、第8図にま
とめられている。
大腸菌(pCAR25delE)からカロチノイド中間代謝産物
は検出できなかったが、大腸菌(pCAR25delA)及び大腸
菌(pCAR−CDE)は、微量のカロチノイドを合成するこ
とができた。すなわち、大腸菌(pCAR25delA)及び大腸
菌(pCAR−CDE)は、大腸菌(pCAR25)及び大腸菌(pCA
R16delB)と比較して、それぞれ、4%のゼアキサンチ
ン−グルコシド及び2%のβ−カロチンを合成した。こ
の結果は、プレフィトエンピロリン酸からフィトエンへ
の反応は、微量であるけれども、非酵素的に起こるかも
しれないということを示唆するものである。
以上のように、一般的かつ有名なカロチノイドであ
る、リコピン、β−カロチン及びゼアキサンチン、及
び、水溶性のカロチノイドであるゼアキサンチン−ジグ
ルコシドを含むカロチノイドの詳細な生合成経路を初め
て明らかにしたとともに、これらの生合成に有用な遺伝
子群を初めて取得することができた。なお、前記実験例
において本遺伝子群により合成されたリコピン、β−カ
ロチン、及び、ゼアキサンチンは、高等植物からのもの
(T.W.Goodwin:「Plant Pigments」,Academic Press(1
988))と立体構造的に同一であった。
また、ゼアキサンチン−ジグルコシドは、植物から単
離の報告(Pure & Appl.Chem.,47,121−128(1976))
があるのみで、微生物からは従来単離されていなかった
ものである。
実験例6: ザイモモナス属細菌でのカロチノイドの合成 ザイモモナス属細菌(Zymomonas mobilis)は、通性
嫌気性のエタノール生産細菌である。エタノール生成速
度が酵母(Saccharomyces cerevtsiae)より速いの
で、将来の燃料用アルコール生産菌として有望視されて
いる。また、ザイモモナス属細菌は、解糖系ではなく、
エントナー・ドゥドルフ(Entner−Doudoroff)という
特殊な代謝系を有しており、カロチノイドは全く産生す
ることができない。このザイモモナス属細菌に付加価値
を与える目的で、カロチノイド合成遺伝子群のザイモモ
ナス属細菌への導入を行った。
第7図のDNA鎖を含む7.6kb断片を、ハイブリッドプラ
スミドpCAR1よりKpn I消化により切り出し、そのDNAポ
リメラーゼI(Klenow enzyme)処理したものを、ザイ
モモナス属細菌のクローニングベクターであるpZA22(A
gric.Biol.Chem.,50,3201−3202(1986)、及び、特開
昭62−228278号公報参照)のEcoRV部位に連結すること
により、ハイブリッドプラスミドpZACAR1を作製した。
また、第7図のDNA鎖における1−6009断片を、pCAR16
よりKpn I/EcoR I消化により切り出し、そのDNAポリメ
ラーゼI処理したものを、ザイモモナス属細菌のクロー
ニングベクターであるpZA22のEcoRV部位に連結すること
により、ハイブリッドプラスミドpZACAR16を作製した。
これらのプラスミドにおける挿入断片の方向は、第7図
の方向を順方向とすると、Tcr遺伝子の方向の逆向きに
挿入されていた。これらのプラスミドは、ヘルパープラ
スミドpRK2013(ATCC37159)を用いた接合伝達法によ
り、Z.mobilis NRRL B−14023株に導入され、安定に保
持された。
pZACAR1、及び、pZACAR16が導入されたmobilis N
RRL B−14023は、黄色を呈し、それぞれ、0.28mg/g乾重
量のゼアキサンチン−ジグルコシド、及び、0.14mg/g乾
重量のβ−カロチンを合成した。したがって、本発明に
よるカロチノイド合成遺伝子群により、ザイモモナス属
細菌にカロチノイドを合成させることに成功した。
微生物の寄託 本発明に関係する微生物は、工業技術院微生物工業技
術研究所に下記の通りに寄託されている。
【図面の簡単な説明】
第1図から第6図は、それぞれコーディング領域のDNA
鎖〜の塩基配列とコードされるタンパク質のアミノ
酸配列を示すものである。 第7図は、エルビニア・ウレドボラ20D3 ATCC19321か
ら取得したカロチノイドの生合成に関与するKpn I−Hin
d III断片、すなわち、第1図から第6図のDNA鎖を含む
6918塩基対のDNA鎖の全塩基配列を示すものである。 第8図は、上記のDNA鎖〜がコードするポリペプチ
ドの機能を示すものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12N 9/12 C12N 9/12 9/90 9/90 (C12N 15/09 ZNA C12R 1:18) (56)参考文献 The Journal of Ge neral Microbiolog y,130[7](1984)p.1623−1631 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12N 15/00 - 15/90 EPAT(QUESTEL) BIOSIS(DIALOG) WPI(DIALOG)

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】アミノ酸配列が下記の配列1に示されてい
    るAからBまでのアミノ酸配列であるポリペプチドをコ
    ードする塩基配列を有するDNA鎖。
  2. 【請求項2】アミノ酸配列が下記の配列2に示されてい
    るCからDまでのアミノ酸配列、またはその配列におい
    て1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしく
    は付加されたアミノ酸配列であり、かつゼアキサンチン
    をゼアキサンチン−ジグルコシドに転換する酵素活性を
    有するポリペプチド、をコードする塩基配列を有するDN
    A鎖。
  3. 【請求項3】アミノ酸配列が下記の配列3に示されてい
    るEからFまでのアミノ酸配列、またはその配列におい
    て1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしく
    は付加されたアミノ酸配列であり、かつリコピンをβ−
    カロチンに転換する酵素活性を有するポリペプチド、を
    コードする塩基配列を有するDNA鎖。
  4. 【請求項4】アミノ酸配列が下記の配列4に示されてい
    るGからHまでのアミノ酸配列、またはこの配列におい
    て1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしく
    は付加されたアミノ酸配列であり、かつフィトエンをリ
    コピンに転換する酵素活性を有するポリペプチド、をコ
    ードする塩基配列を有するDNA鎖。
  5. 【請求項5】アミノ酸配列が下記の配列5に示されてい
    るIからJまでのアミノ酸配列であるポリペプチドをコ
    ードする塩基配列を有するDNA鎖。
  6. 【請求項6】アミノ酸配列が下記の配列6に示されてい
    るKからLまでのアミノ酸配列、またはこの配列におい
    て1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしく
    は付加されたアミノ酸配列であり、かつβ−カロチンを
    ゼアキサンチンに転換する酵素活性を有するポリペプチ
    ド、をコードする塩基配列を有するDNA鎖。
  7. 【請求項7】請求項5記載のDNA鎖を用いて宿主を形質
    転換し、該宿主に該DNAがコードするポリペプチドを発
    現させることによりプレフィトエンピロリン酸を産生さ
    せることを特徴とする、カロチノイドの製造方法。
  8. 【請求項8】請求項1記載のDNA鎖および請求項5記載
    のDNA鎖のすべてを用いて宿主を形質転換し、該宿主に
    該DNAがコードするポリペプチドのすべてを発現させる
    ことによりフィトエンを産生させることを特徴とする、
    カロチノイドの製造方法。
  9. 【請求項9】請求項1記載のDNA鎖、請求項5記載のDNA
    鎖および請求項4記載のDNA鎖のすべてを用いて宿主を
    形質転換し、該宿主に該DNAがコードするポリペプチド
    のすべてを発現させることによりリコピンを産生させる
    ことを特徴とする、カロチノイドの製造方法。
  10. 【請求項10】請求項1記載のDNA鎖、請求項5記載のD
    NA鎖、請求項4記載のDNA鎖および請求項3記載のDNA鎖
    のすべてを用いて宿主を形質転換し、該宿主に該DNAが
    コードするポリペプチドのすべてを発現させることによ
    りβ−カロチンを産生させることを特徴とする、カロチ
    ノイドの製造方法。
  11. 【請求項11】請求項1記載のDNA鎖、請求項5記載のD
    NA鎖、請求項4記載のDNA鎖、請求項3記載のDNA鎖およ
    び請求項6記載のDNA鎖のすべてを用いて宿主を形質転
    換し、該宿主に該DNAがコードするポリペプチドのすべ
    てを発現させることによりゼアキサンチンを産生させる
    ことを特徴とする、カロチノイドの製造方法。
  12. 【請求項12】請求項1〜6に記載のDNA鎖のすべてを
    用いて宿主を形質転換し、該宿主に該DNAがコードする
    ポリペプチドのすべてを発現させることによりゼアキサ
    ンチン−ジグルコシドを産生させることを特徴とする、
    カロチノイドの製造方法。
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