JP2887060B2 - グリセンチンの生産方法 - Google Patents

グリセンチンの生産方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は糖尿病治療薬などの医薬
用途に有用なヒト型グリセンチンの製法に関する。
【0002】
【従来の技術及び問題点】グリセンチンは69アミノ酸
よりなる消化管ペプチドホルモンで、消化管の生理作用
に重要な役割を演じており、例えば特願平6−8058
4号に示されている様に糖尿病治療薬等の医薬品として
期待される。グリセンチンは1976年にF. Sandbyら
によってブタの小腸より初めて単離精製され〔F. Sandb
y, et. al.,Horm. Metab. Res. vol 18, 366〜371(197
6)〕、ついでA.J. Moodyにより構造決定がなされた〔A.
Thim and A.J. Moody Regul. Pept. vol 2, 139-150(1
981)〕。その後数種の動物のグリセンチン遺伝子の構造
が解明され、遺伝子の構造から各々のアミノ酸配列が明
らかにされた。そのアミノ酸配列には動物種特異性があ
る。しかしヒト型グリセンチンはヒト臓器の入手が困難
であることから単離精製されたことはない。
【0003】グリセンチンの生産法としては動物臓器か
らの抽出、化学合成などが考えられる。しかし動物臓器
からの抽出法は臓器中のグリセンチンの含有量が微量で
あるため多量の臓器を必要とし、しかも上述のように動
物種によりアミノ酸配列に差異があるためブタなど多量
に入手できる動物臓器からのものは単離、精製が可能で
あるものの、このように精製して得られるグリセンチン
は動物種に固有のものでヒト型と異なる。そしてヒト臓
器からの抽出精製は臓器入手が不可能に近いのでこれを
抽出源とすることはできない。化学合成法はアミノ酸配
列が長いため反応収率が低くしかも試薬が高価であるた
め安価に多量のグリセンチンを供給することはできな
い。
【0004】これに対し本発明者等は既にヒト型グリセ
ンチンのアミノ酸配列をコードするDNAを合成しこれ
をベクターにつなぎこれにより形質転換された微生物を
培養することによってヒト型グリセンチンを製造する技
術を開発した(消化管ホルモン(XI)、394〜401、
(1992);消化管ホルモン研究会編三好秋馬等編、
医学図書出版参照)。そしてこの遺伝子発現のためにla
c. trc, trp, λPL等一般に使用されるプロモーターを
用い種々の大腸菌宿主でのヒト型グリセンチンの生産を
検討したが得られたグリセンチンはアミノ末端にメチオ
ニンが付加しており天然型とは異なっていた。
【0005】すなわち、一般に遺伝子組換えにより蛋白
質を製造する際は、アミノ末端に遺伝子翻訳開始コドン
ATGによりコードされるメチオニンが付加したペプチ
ドが得られる。ところが組換えDNA技術により製造し
た有用蛋白質を、医薬品、又は食品等として使用する場
合には、メチオニン残基の付加した有用蛋白質は、抗原
性をもたらす可能性があるためできる限り除去しておく
必要がある。そこで、メチオニンを切断して天然型蛋白
質を得る方法としては、ブロムシアンを用いてメチオニ
ンの部位で部位特異的に分解する化学的方法や、適当な
ペプチドと目的の天然型蛋白質の間に特定の部位特異的
蛋白質分解酵素の認識配列を挿入した融合蛋白質を作り
その酵素で部位特異的に加水分解する酵素的方法などが
ある。しかしながら、グリセンチンにこれらの方法を適
用する場合は前者の方法ではグリセンチン配列内にもメ
チオニンが存在するためこのメチオニン部位でグリセン
チンが分解されてしまうことになる。又後者の方法では
グリセンチン配列内の蛋白分解酵素により分解され易い
部位が存在するため副生成物が多く、目的とするグリセ
ンチンの収率が悪い。更に目的ペプチドと他のペプチド
との融合蛋白質をアミノ末端から1アミノ酸ずつ加水分
解するアミノペプチダーゼや、カルボキシ末端から加水
分解するカルボキシペプチダーゼで処理して付加したペ
プチドを除き目的蛋白質を生産する方法も考えられる。
しかしこれらの酵素は基質特異性が低いので必要とする
部位で反応を停止するためには微妙な反応条件の調節を
行わねばならずしかも条件の調節が非常に困難であるた
めおよそ工業的な製法とはなり得ない。この様に従来知
られた方法では天然型グリセンチンを十分生産すること
が出来なかった。
【0006】
【課題を解決するための手段】これらの背景の基に本発
明者らはグリセンチンの生産方法につき研究を続けグリ
センチンのアミノ末端がアルギニンであることに着目
し、カテプシンCが蛋白質のアミノ末端から2アミノ酸
ずつ加水分解するがアミノ末端に塩基性アミノ酸が現れ
るとそこで反応が停止しそれ以上の加水分解が起こらな
いことを利用して遺伝子組換え法により、カテプシンC
による加水分解時において偶数個のアミノ酸よりなる様
にペプチドをグリセンチンのアミノ末端側に付加した融
合蛋白質を生産し、かくして得られた融合グリセンチン
をカテプシンCで加水分解して除去することにより効果
的に天然型グリセンチンを生産する方法を開発した。
【0007】更に詳細にその方法を説明するとグリセン
チンのアミノ末端側にペプチドを付加した融合グリセン
チンの遺伝子を宿主細胞で発現可能なプロモーターの下
流につないで作成したベクターで、この遺伝子を発現出
来る細胞を形質転換し、かくして得られた細胞を培養
し、必要に応じて遺伝子の誘導発現を行い、融合グリセ
ンチンを生産せしめ、更にグリセンチンのアミノ末端が
アルギニンであることに着目し、カテプシンCがペプチ
ドをアミノ末端から2アミノ酸ずつ加水分解するがアミ
ノ末端に塩基性アミノ酸またはプロリンが現れるとそこ
で反応が停止しそれ以上の加水分解が起こらないことを
利用して、カテプシンCによる加水分解時において偶数
個のアミノ酸よりなるペプチドをグリセンチンのアミノ
末端側に付加した融合蛋白質をカテプシンCで加水分解
して除去することにより効果的に天然型グリセンチンを
生産するものである。
【0008】遺伝子発現の為のプロモーターとしては、
バクテリオファージT7のφ10プロモーターが用いら
れ、又、宿主細胞としてはプロモーターT7のφ10が
発現するものであればどの様な細胞でも使用できるが大
腸菌が望ましい。
【0009】本発明のヒトグリセンチンの生産方法とし
ては、融合蛋白質が下記の配列Met−A−グリセンチ
ン(式中Metは翻訳開始コドンATGによりコードさ
れるメチオニンであり、AはT7s10ペプチドであ
る)で示されるアミノ酸配列をコードするように遺伝子
を構築し、融合蛋白質を生産する。この場合、融合蛋白
質のアミノ末端メチオニンが生産菌によりプロセッシン
グされて除かれるために、生成した融合蛋白質の付加さ
れたペプチド部分のアミノ酸数は偶数個となる。融合蛋
白質の付加されたペプチド、すなわちグリセンチンのア
ミノ末端に融合させるペプチドはグリセンチン生産を増
すものであって、T7s10ペプチドが用いられる。
【0010】この融合グリセンチンの生産は、組換え遺
伝子技術の分野で周知の微生物、細胞を用いて行うこと
が出来、その典型例として大腸菌を宿主とし、これをグ
リセンチン遺伝子を挿入したプラスミドで形質変換した
形質変換体を用いて行われる。そしてこの大腸菌を用い
る場合には、φ10プロモーターからグリセンチン遺伝
子を発現するためには大腸菌でT7RNAポリメラーゼ
が生産されることが必要である。T7RNAポリメラー
ゼを大腸菌で生産させるためには大腸菌にT7バクテリ
オファージを感染させる、T7RNAポリメラーゼ遺伝
子を有するプラスミドを保有する大腸菌を用いる、また
は染色体にT7RNAポリメラーゼ遺伝子を組み込んだ
大腸菌を用いるなどによりこの要件を満たすことが出来
る。T7RNAポリメラーゼ発現の制御のためには大腸
菌で発現制御できるよう構築したT7RNAポリメラー
ゼ遺伝子を染色体に組み込んだ大腸菌を用いるのが好ま
しい。この様な菌株としてEscherichia coli HMS174(DE
3)、Escherichia coli HMS174(DE3)pLysS、 Escherichia
coli HMS174(DE3)pLysE、 Escherichia coli BL21(DE
3)、 Escherichia coli BL21(DE3)pLysS、 Escherichia c
oli BL21(DE3)pLysE等が好ましく使用されるがこれらの
菌株は市販されており当業者は自由に入手することが出
来る。
【0011】グリセンチンの生産に用いる形質転換体を
炭素源、窒素源、微量栄養素、微量金属イオンなどを含
む培地で好気的に培養し、融合グリセンチンの生産を行
う。必要に応じてT7RNAポリメラーゼの誘導発現を
行って融合蛋白質を得る。培養培地は例えば大腸菌を使
用する場合に、この大腸菌がグリセンチンを生産するも
のならどのような培地でも良いがM9ZB培地などが好
ましく、必要に応じ添加物などを加えても良い。菌体に
蓄積した融合グリセンチンは通常用いられるペプチドの
精製法を組み合わせて精製すれば良いが、その1方法と
して消化管ホルモン研究会編集、消化管ホルモンXI、3
94〜401ページ(1992)に示される方法が好ま
しい。
【0012】カテプシンCを用いた融合型グリセンチン
の加水分解反応はこの酵素の反応に用いられる一般的な
反応条件で行えば良い。反応液には必要に応じ混入して
いる蛋白加水分解酵素活性を阻害するためにロイペプチ
ン、アンチパイン、キモスタチン、E−64などのプロ
テアーゼインヒビターを加えても良い。
【0013】実施例1 発現ベクターの構築 T7φ10プロモーターの下流に融合グリセンチン遺伝
子を結合した発現ベクターの構築を行った。一連の実験
操作は一般的な遺伝子組換えの実験法(T. Maniatis,
E. F. Fritsch, J. Sambrook編Molecular Cloning A La
boratory Manual, Second Ed., Cold Spring Harbor La
boratory Press社(1989)等参照)により行った。
【0014】グリセンチン遺伝子DNAを連結するため
Novagen社より入手したベクタープラスミドpET-3aのBam
HI認識配列の下流にStuI認識配列を挿入した。 5′−GATCCTTAGCGTAGGCCTT−3′
(配列表・配列番号1)および 5′−GATCAAGGCCTACGCTAAG−3′
(配列表・配列番号2) の配列の2種のオリゴヌクレオチドをMilliGen/Biosea
rch社製Cyclone Plus DNA合成機で及び同社から供給
される合成試薬を用いて、付属の操作説明書により合成
した。オリゴヌクレオチドの精製はMilligen/Biosearc
h社製のOligo-PaKTMと付属のオリゴヌクレオチド精製マ
ニュアルに従い精製した。これ以下の実験に用いるオリ
ゴヌクレオチドの合成及び精製も全てのこの方法によっ
て行った。各々のオリゴヌクレオチド5μgを宝酒造製
T4 ポリヌクレオチドキナーゼで同社の反応条件によ
りリン酸化した。次いで両反応液を合わせて90℃で5
分保温した後3時間かけて30℃まで温度を下げてオリ
ゴヌクレオチドのアニーリングを行った。プラスミドpE
T-3a(F. W. Studier et. al., Methods in Enzymology
185巻60ページ〜89ページ(1990)参照)を
Bam HIで加水分解し、次いで宝酒造製E. coliアルカリ
フォスターゼで同社の示す反応条件で脱リン酸化した。
得られた線状プラスミドとアニーリングしたオリゴヌク
レオチドを宝酒造製DNAライゲーションキットを用い
て同社のプロトコールに従ってライゲーションした。こ
のライゲーションしたDNAを用いて塩化カルシウム法
によりE.coli JM109の形質転換を行い、アンピシリンを
50μg/mlの濃度で含むLB寒天培地で生育する形質
転換株を選択した。得られた形質転換株を50μg/ml
のアンピシリンを含むLB培地で終夜培養を行い培養菌
体よりプラスミドを抽出精製した。得られたプラスミド
をStuIで加水分解してアガロースゲル電気泳動を行う
ことにより本酵素による切断部位が存在するプラスミド
を選択した。これらのプラスミドの塩基配列をUnited S
tates Biochemical Corporation社製Sequenase version
2.0キットを用いて同社のプロトコールに従ってダイ
デオキシ法によって決定した。新たに得られたプラスミ
ドをpET110と命名した。pET110はBamHI認識配列の下流
に新たにStuI認識配列が存在することを確認した。pET
110のBam HI及びStuI認識配列間の塩基配列は配列表・
配列番号3に示す通りである。
【0015】pGL5(消化管ホルモン研究会編集、消化管
ホルモンXI394ページ〜401ページ(1992)参
照)のグリセンチン遺伝子下流のPstI認識配列をSmaI
認識配列に変換した。 5′−CATGGCCCGGGACAGCACA−3′
(配列表・配列番号4)及び 5′−AGCTTGTGCTGTCCCGGGC−3′
(配列表・配列番号5) の配列の2種の配列のオリゴヌクレオチドを合成し上記
と同様の方法で精製、リン酸化、及びアニーリングを行
った。pGL5をNcoI及びHind IIIで加水分解し、反応物
をアガロースゲル電気泳動で展開し、約4kbのバンドを
ゲルより抽出することにより目的断片を精製した。次い
でアニーリングしたオリゴヌクレオチドと精製した直鎖
状プラスミドをライゲーションした。ライゲーションし
たDNAを用いてpET110作製の際と同様にE. coli JM10
9を形質転換した。pET110の際と同様に形質転換株より
プラスミドを抽出し精製した。得られたプラスミドをSm
aIで加水分解し、本酵素による切断部位が存在するプ
ラスミドを選択した。これらのプラスミドの塩基配列の
決定を行い、目的の配列の存在するプラスミドを選択し
pGL44と命名した。新たに得られたプラスミドpGL44はグ
リセンチン遺伝子下流のPstIの認識配列が失われ新た
にSmaI認識配列サイトが付加されていた。pGL44のグリ
センチン遺伝子下流の新たなSmaIサイトを含むNcoI−
Hind III 間の塩基配列は配列表・配列番号6に示す通
りである。
【0016】pGL44のグリセンチン遺伝子5′末端領域
の改変を行った。 5′-AATTCAGATCTATCGAAGGTCGACGTTCTCTGCA-3′(配列表
・配列番号7) 及び5′-GAGAACGTCGACCTTCGATAGACTG-3′(配列表・配列
番号8) の2種の配列のオリゴヌクレオチドを合成し上記と同様
な方法で精製、リン酸化、及びアニーリングした。pGL4
4をEco RI及びPstIで加水分解した後上記と同様に脱リ
ン酸化し、アニーリングしたオリゴヌクレオチドとライ
ゲーションした。アニーリングしたDNAを用いてE. c
oli JM109を形質転換した。形質転換株よりプラスミド
を抽出しBgl IIで処理し新たに本酵素により切断される
プラスミドを選択した。これらのプラスミドの塩基配列
の決定を行い、目的の塩基配列を持つプラスミドをpGL1
22と命名した。pGL122はpGL44のEco RI〜PstIサイトに
合成オリゴヌクレオチドが挿入されたものであることを
確認した。pGL122の改変された部位の塩基配列を配列表
・配列番号9に示す。
【0017】pGL122をBgl II及びSmaIで加水分解し、
グリセンチン遺伝子を含むDNA断片の精製を行った。
pET110をBam HI及びStuIで加水分解した後脱リン酸化
した。これをグリセンチン遺伝子を含むDNA断片と混
合しT4 DNAリガーゼでライゲーションした。反応
物をE. coli JM109と混合し形質転換を行い新たにプラ
スミドpGL125を得た。pGL125はT7φ10プロモーター
の下流にT7 s10ペプチド、挿入アミノ酸配列及び
グリセンチンの融合蛋白質遺伝子が連結した発現ベクタ
ーである。pGL125構築の過程を簡単に図1に示した。
【0018】参考例1 Met-Arg付加グリセンチン遺伝子の構築 A) pGL144の構築 pUC18を制限酵素DraIで切断しアガロース電気泳動を行
って、アンピシリン耐性遺伝子を含む断片を精製した。
pGL125を制限酵素DraIで切断し、アガロースゲル電気
泳動を行ってアンピシリン耐性遺伝子を含まない断片を
精製した。それぞれの断片を、T4 DNAリガーゼを
用いてライゲーション反応を行った。反応産物を大腸菌
JM109株のコンピテントセルに導入し、アンピシリンを
含む選択培地上で形質転換体を選択した。
【0019】得られた形質転換体より定法に従ってプラ
スミドを抽出し、制限酵素切断地図を作成し目的のプラ
スミドが構築されていることを確認し、このプラスミド
をpGL144とした。pGL144構築過程を簡単に図2に示し
た。
【0020】B) pGL146の構築 A)で構築したpGL144を制限酵素NdeIとPstIで切断
し、ここに合成DNAリンカーを挿入した。合成DNA
リンカーの配列を以下に示す。 5′−TATGCGTCGTTCCCTGCA−3′
(配列表・配列番号10)および 5′−GGGAACGACGCA−3′(配列表・配列
番号11)
【0021】それぞれの合成DNA2μgをT4ポリヌ
クレオチドキナーゼでリン酸化した。次いで両反応液を
合わせて94℃で5分加熱した後1時間で室温まで温度
を下げてアニーリングを行った。このようにして作成し
た合成DNAリンカーと、制限酵素NdeIとPstIで切断
しアガロースゲル電気泳動により精製した直鎖状のpGL1
44を宝酒造のDNAライゲーションキットを用いて、結
合した。この結合したDNAを大腸菌JM109株のコンピ
テントセルに導入し、アンピシリンを含む選択培地上で
形質転換体を選択した。得られた形質転換体より定法に
従ってプラスミドを抽出し、サンガーらのダイデオキシ
法により目的の塩基配列を有していることを確認し、こ
のプラスミドをpGL146とした。pGL146構築過程を簡単に
図3に示した。
【0022】実施例2 s10−ペプチド付加グリセン
チン遺伝子の構築 F. W. Studier, et.al., Methods in Enzymology, 185,
74頁(1990)に示されたs10ペプチドのN末端側の翻
訳開始コドンATGに対応するメチオニンを含み11ア
ミノ酸よりなるペプチドとグリセンチンとの融合蛋白質
の遺伝子の構築を行った。参考例1−A)で構築したpG
L144を制限酵素NdeIとPstIで切断し、ここに合成DN
Aリンカーを挿入した。合成DNAリンカーの配列を以
下に示す。 5′-TATGGCTAGCATGACTGGTGGACAGCAAATGGGTCGTTCCCTGCA-
3′(配列表・配列番号12) および 5′-GGGAACGACCCATTTGCTGTCCACCAGTCATGCTAGCCA-3′(配
列表・配列番号13)
【0023】それぞれの合成DNA2μgをT4ポリヌ
クレオチドキナーゼでリン酸化した。次いで両反応液を
合わせて95℃で5分加熱した後、1時間で室温まで温
度を下げてアニーリングを行った。このようにして作成
した合成DNAリンカーと、制限酵素NdeIとPstIで切
断し、アガロースゲル電気泳動により精製した直鎖状の
pGL144を宝酒造のDNAライゲーションキットを用い
て、結合した。この結合したDNAを大腸菌JM109株の
コンピテントセルに導入し、アンピシリンを含む選択培
地上で形質転換体を選択した。得られた形質転換体より
定法に従ってプラスミドを抽出し、サンガーらのダイデ
オキシ法により目的の塩基配列を有していることを確認
し、このプラスミドをpGL145とした。pGL145構築過程を
図4に示す。
【0024】参考例2 融合グリセンチンの生産 pGL146で大腸菌HMS174(DE3)pLysSを形質転換し融合グリ
センチン生産能を有する形質転換体を得た。この形質転
換体を培地1リットル当たりNZ−アミン10g、Na
Cl 5g、NH4Cl 1g、KH2PO4 3g、Na2
HPO4 6g、グルコース4g、MgSO4 7H2O 2
64mgを含む培地に接種し37℃で振盪培養した。菌体
濃度がA550=0.6の時点でイソプロピル−β−D−チ
オガラクトピラノシドを終濃度0.5mMとなるよう加え
てさらに2.5時間培養した。菌体に蓄積した融合グリ
センチンの量をグリセンチンのアミノ末端に対する抗体
とカルボキシ末端に対する抗体を用いた酵素免疫測定法
(消化管ホルモン研究会編集、消化管ホルモンXI、35
8〜363ページ参照)により測定したところ培養液1
リットル当たりグリセンチン換算で30mgだった。培養
液1リットルの菌体より消化管ホルモン研究会編集、消
化管ホルモンXI、394〜401ページ(1992)に
記載した方法で融合グリセンチンを精製し精製標品7.
3mgを得た。
【0025】精製標品をペプチドシークエンサーにかけ
てアミノ末端側5個のアミノ酸の配列を調べたところM
et−Arg−Arg−Ser−Leu−の配列が得ら
れ、天然型グリセンチンのアミノ末端側に設計した通り
2個のアミノ酸が付加した融合型グリセンチンであっ
た。
【0026】実施例3 pGL145で大腸菌HMS174(DE3)pLysSを形質転換し、融合型
グリセンチン生産能を有する形質転換体を得た。この形
質転換体を参考例2と同様の条件下で培養および融合型
グリセンチンの精製を行い、参考例2に記載されている
方法に従って、菌体内に蓄積した融合型グリセンチンの
量と精製した融合型グリセンチンの量を測定した。菌体
内に蓄積した融合型グリセンチンは、培養液1リットル
当たり90mgであった。精製した融合型グリセンチン
は、22mgであった。
【0027】精製標品をペプチドシークエンサーにかけ
てアミノ末端側の13アミノ酸の配列を調べたところ配
列はAla−Ser−Met−Thr−Gly−Gly
−Gln−Gln−Met−Gly−Arg−Ser−
Leu−であり、天然型グリセンチンのアミノ末端側に
s10ペプチドのN末端側の10個のアミノ酸が付加し
た融合型グリセンチンであった。
【0028】参考例3 天然型グリセンチンの調製 カテプシンCの基質としては、Met−Arg付加グリ
センチンを用いた。基質である融合型グリセンチン15
mgを終濃度1mg/mlとなるように50mM酢酸ナトリウム
(pH5.0)5mM NaCl 5mM DTTを含む溶液の中
に溶かした。この溶液にベーリンガー・マンハイム・山
之内社のカテプシンC(20units/ml)を3unit加え
た。さらに夾雑プロテアーゼによる非特異的切断を押さ
えるためにロイペプチンを終濃度25μMとなるように
添加した。22℃で1時間反応した後、ODSカラムを
用いる逆相HPLCにより保持時間11.27分の主ピ
ークを分離回収した。分離条件は、流速1.0ml/分、
モニター220nm、GLサイエンス社製Inertsil OD
S−2カラム(4.6×250mm)、A液;20%アセ
トニトリル+0.002M HCl、B液;40%アセト
ニトリル+0.002M HClで20分間の直線グラジ
エントである。
【0029】主ピークのペプチドを回収し、アミノ末端
の配列をペプチドシークエンサーで解析した結果、天然
型グリセンチンの配列であるArg−Ser−Leu−
Gln−Asp−Thr−が得られた。また回収した主
ピークを定法に従いベーリンガー・マンハイム・山之内
社製のリシルエンドペプチダーゼで切断し、HPLCに
より分離してペプチドマッピングを行った。分離条件は
下記の通りである。流速1.0ml/分、モニター220n
m、GLサイエンス社製Inertsil ODS−2カラム
(4.6×250mm)、A液;0.05%トリフルオロ酢
酸水溶液、B液;80%アセトニトリル+0.05%ト
リフルオロ酢酸水溶液で、A液とB液の割合を60分間
でA液100%、B液0%からA液20%、B液80%
に直線的に変えてHPLCを行った。HPLCのクロマ
トグラムを図5に示した。
【0030】それぞれのピークを分取し、気相式自動ペ
プチドシークエンサー(PSQ−1、島津製作所)によ
り解析したところピークa,b,c,d,eの画分はア
ミノ酸配列が配列表・配列番号14、15、16、1
7、18に示したものであり、それぞれがグリセンチン
の63−69、1−9、32−44、10−31、45
−62の部分に相当した。これにより得られたペプチド
は天然型グリセンチンの全構造を保持していることが確
認された。
【0031】実施例4 天然型グリセンチンの調製 カテプシンCの基質としてはs10−ペプチド付加グリ
センチンを用いた。基質である融合型グリセンチン15
mgを終濃度1mg/mlとなるように50mM酢酸ナトリウム
(pH5.0)5mM NaCl 5mM DTTを含む溶液の中
に溶かした。この溶液にベーリンガー・マンハイム・山
之内社のカテプシンC(20units/ml)を3unit加え
た。さらに夾雑プロテアーゼによる非特異的切断を押さ
えるためにロイペプチンを終濃度25μMとなるように
添加した。22℃で1時間反応した後、ODSカラムを
用いる逆相HPLCにより主ピークを分離回収した。分
離条件は、参考例3と同一である。
【0032】保持時間11.44分の主ピークを採集し
アミノ末端の配列をペプチドシークエンサーで解析した
結果、天然型グリセンチンの配列であるArg−Ser
−Leu−Gln−Asp−Thr−が得られた。また
回収した主ピークを定法に従いリシルエンドペプチダー
ゼで切断し、ペプチドマッピングを行った。HPLCの
クロマトグラムは図5と同様であった。各断片のアミノ
酸配列をペプチドシークエンサーを用いて解析したとこ
ろ、天然型グリセンチンの全構造を保持していることが
確認された。
【0033】次に、比較のために同様のヒト型グリセン
チンのアミノ末端側にペプチドが付加した融合グリセン
チンについて、ファクターXaまたはエンテロキナーゼ
を用いて加水分解する方法を参考例として示す。
【0034】参考例4 ヒト型グリセンチンのアミノ末端側にAla−Ser−
Met−Thr−Gly−Gly−Asn−Agn−M
et−Gly−Asn−Gly−Ser−Ile−Gl
u−Gly−Argの配列を有するペプチドが付加した
融合グリセンチンをファクターXaで加水分解した。基
質の融合グリセンチン100μgを2mMCaCl2を含
む20mMトリスー塩酸緩衝液(pH8.0)200μlに
溶解し、ファクターXaを0.08unit加えた。28℃
で2時間反応した後実施例5と同一条件下でHPLCを
行い、2種の反応生成物を得た。生成物のアミノ末端側
のアミノ酸配列を気相シーケンサーにより解析したとこ
ろ、生成物の一方のアミノ末端側10アミノ酸の配列は
Arg−Ser−Leu−Gln−Asp−Thr−G
lu−Glu−Lys−Serであり、グリセンチンの
アミノ末端側10アミノ酸の配列と一致した。他の生成
物のアミノ末端側10アミノ酸の配列はSer−Phe
−Ser−Ala−Ser−Gln−Ala−Asp−
Pro−Leuで、グリセンチンのアミノ末端から12
番目のアミノ酸以降の10アミノ酸の配列と一致した。
即ちファクターXaはグリセンチンの11番目のアミノ
酸Argと12番目のアミノ酸Serの間を加水分解し
てアミノ末端側11アミノ酸が欠損した不完全なグリセ
ンチンを生ずる。反応中の融合グリセンチン、グリセン
チン、アミノ末端欠損グリセンチンの量の変化を経時的
に調べた。結果を次の表に示した。
【0035】
【表1】 反応時間 融合グリセンチン グリセンチン アミノ末端欠損グリセンチン 1時間 56.8% 32.1% 11.1% 2時間 36.8 34.5 28.7 4時間 2.5 33.5 64.0
【0036】反応により生ずるグリセンチンは最初に添
加した融合グリセンチンの35%以下で、ファクターX
aによるグリセンチンの生産法はカテプシンCを用いた
方法より劣る。
【0037】参考例5 参考例4と同一の融合グリセンチンをエンテロキナーゼ
で加水分解した。基質の融合グリセンチン100μgを
10mM CaCl2を含有する40mM酢酸ナトリウム緩衝
液(pH5.0)1mlに溶解し、エンテロキナーゼ1unit
を加えた。37℃で3時間反応した後参考例3と同一条
件下でHPLCを行い生成物を分析したところ、少なく
とも6個の断片に切断されていた。エンテロキナーゼは
グリセンチンを非特異的に加水分解するのでグリセンチ
ンの生産には不適当である。
【0038】
【配列表】
配列番号:1 配列の長さ:19 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GATCCTTAGC GTAGGCCTT
【0039】 配列番号:2 配列の長さ:19 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GATCAAGGCC TACGCTAAG
【0040】 配列番号:3 配列の長さ:19 配列の型:核酸 鎖の数:二本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成 DNA 配列: GGATCCTTAG CGTAGGCCT
【0041】 配列番号:4 配列の長さ:19 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: CATGGCCCGG GACAGCACA
【0042】 配列番号:5 配列の長さ:19 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: AGCTTGTGCT GTCCCGGGC
【0043】 配列番号:6 配列の長さ:23 配列の型:核酸 鎖の数:二本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成 DNA 配列: CCATGGCCCG GGACAGCAAG CTT
【0044】 配列番号:7 配列の長さ:34 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: AATTCAGATC TATCGAAGGT CGACGTTCTC TGCA
【0045】 配列番号:8 配列の長さ:25 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GAGAACGTCG ACCTTCGATA GACTG
【0046】 配列番号:9 配列の長さ:36 配列の型:核酸 鎖の数:二本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成 DNA 配列:
【0047】 配列番号:10 配列の長さ:18 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: TATGCGTCGT TCCCTGCA
【0048】 配列番号:11 配列の長さ:12 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GGGAACGACG CA
【0049】 配列番号:12 配列の長さ:45 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: TATGGCTAGC ATGACTGGTG GACAGCAAAT GGGTCGTTCC CTGCA
【0050】 配列番号:13 配列の長さ:39 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GGGAACGACC CATTTGCTGT CCACCAGTCA TGCTAGCCA
【0051】 配列番号:14 配列の長さ:7 配列の型:アミノ酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列: Arg-Asn-Arg-Asn-Asn-Ile-Ala
【0052】 配列番号:15 配列の長さ:9 配列の型:アミノ酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列: Arg-Ser-Leu-Gln-Asp-Thr-Glu-Glu-Lys
【0053】 配列番号:16 配列の長さ:13 配列の型:アミノ酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列: Arg-His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Ly
s
【0054】 配列番号:17 配列の長さ:22 配列の型:アミノ酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列: Ser-Arg-Ser-Phe-Ser-Ala-Ser-Gln-Ala-Asp-Pro-Leu-Se
r-Asp-Pro-Asp-Gln-Met-Asn-Glu-Asp-Lys
【0055】 配列番号:18 配列の長さ:18 配列の型:アミノ酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列: Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln-Asp-Phe-Val-Gln-Tr
p-Leu-Met-Asn-Thr-Lys
【図面の簡単な説明】
【図1】プラスミドpGL125の構築過程を示す図。
【図2】プラスミドpGL144の構築過程を示す図。
【図3】プラスミドpGL146の構築過程を示す図。
【図4】プラスミドpGL145の構築過程を示す図。
【図5】カテプシンC処理後の精製物をリシルエンドペ
プチダーゼで処理した加水分解物の高速液体クロマトグ
ラムを示す図。
フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI (C12P 21/02 C12R 1:19) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12P 21/00 A61K 38/00 C07K 14/575 C12N 15/00 C12P 21/00

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヒトグリセンチンのアミノ末端に付加ペ
    プチドが結合した式Met−A−グリセンチン (式中、Metは翻訳開始コドンATGによりコードさ
    れるメチオニンであり、AはT7s10ペプチドであ
    る)のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含み、大腸菌
    にて該遺伝子の発現を指令できる組換えベクターで形質
    転換された該グリセンチン融合蛋白質を発現できる菌株
    を培養してグリセンチン融合蛋白質を生産し、次いでカ
    テプシンCによる加水分解で付加ペプチドを切断して天
    然型ヒトグリセンチンを得ることを特徴とするヒトグリ
    センチンの生産方法。
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