JP2882269B2 - 溶接性に優れた熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

溶接性に優れた熱延鋼板およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ア−ク溶接性に優れ
た引張強さが50kgf/mm2 以下の熱延鋼板およびその製造
方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、廃棄された食缶および自動車など
の鉄スクラップの量が増加し、製鉄業においては環境問
題対策上、鉄源としてこのような鉄スクラップを使用す
る必要性が高まりつつある。しかしながら、鉄スクラッ
プ中に含有されるCu、Sn、Mo、NiおよびCrなどの所謂ト
ランプエレメントは、Feよりの酸化され難いため、現在
の製鉄プロセスにおいては殆ど除去されず鋼中に残存
し、鋼材の製造性や材質、あるいは表面品質特性に悪影
響を及ぼすことが、例えば、特開平4-162943号公報およ
び特開平4-371528号公報において指摘されている。更
に、トランプエレメントのうち、特に、Snは低融点元素
であるため、ア−ク溶接などの溶融溶接時に凝固割れを
誘発し、溶接性を劣化させることが懸念される。従っ
て、従来技術においては、耐食性、強度および表面特性
の改善を目的として意識的にCu、CrおよびNi等の元素を
有効な元素として添加する技術、例えば、特開平4-3256
57号公報および特開平4-365813号公報に記載されて技術
( 以下、先行技術という) の場合を除けば、本来トラン
プエレメントは一般的には鋼中に含有されておらず、ま
た添加しないものであるので、鉄スクラップの使用には
種々の制約を伴っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
たような環境問題対策上から、食缶および自動車などか
ら発生する、トランプエレメントを含有した鉄スクラッ
プを鉄鋼原料として鉄鋼製品を製造する場合、それによ
って品質が劣化しないようにすることが重要な課題とな
った。
【0004】従って、この発明の目的は、鋼成分中にト
ランプエレメントを含有した鋼を用いた場合でも、鋼材
の溶融溶接時に凝固割れ等が発生することなく、その溶
接性が劣化しない熱延鋼板およびその製造方法を提供す
ることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
目的を達成するために、トランプエレメントを含有しら
鋼において想定される前記問題点を解決し、特に、ア−
ク溶接をはじめとする溶融溶接性に優れた熱延鋼板を製
造すべく鋭意研究を行ない、下記の知見を得た。
【0006】前記凝固割れとは、溶接中に発生した応力
が凝固中の溶接金属の破断強さを超える時に発生する割
れのことであり、冶金学的には凝固温度幅(液相線温度
と固相線温度との温度幅)増大させる元素を多く含有す
る鋼において、割れ感受性が高められることが知られて
いる。この凝固温度幅を増大させる元素としては、C、S
、P およびSnなどがあるが、S およびP は凝固温度幅
を増大させるだけでなく、FeP (融点:1190℃)および
FeS (融点:1160℃) などの低融点化合物を形成し、割
れ感受性を高める。そこで、凝固割れ防止策としては、
凝固温度幅を狭くすることを目的として、C 、P および
S の含有量の低減や、低融点化合物の析出を抑制するた
めに、Mnを添加することなどの方策がとられてきた。Mn
を添加するのは、高融点化合物であるMnS (融点:1610
℃)の析出を促進させるためである。
【0007】P.W.Jones 等は、Welding Journal 6,1959
において、C <0.10wt.%の鋼において、Mn/ S > 22の範
囲内に成分組成を制御することにより、凝固割れが防止
されることを明らかにしているが、本発明者らは、トラ
ンプエレメントであるCuおよびSnが含有された場合に
は、上記の関係式のみでは凝固割れを防止するためには
不十分であることを明らかにした。即ち、C 、S 、P 、
Cu、SnおよびMnの各元素の含有量を種々変化させた鋼板
をア−ク溶接し、凝固割れの発生の有無について試験し
た。その結果を、図1に示した。
【0008】図1は、C ≦0.15wt.%の鋼において、凝固
割れの発生の有無に及ぼす鋼の成分組成の影響を、鋼の
Mn含有量( wt.%) および2 S +(1/3) P +(1/15)Cu+(1
/5)Snによって算出される値( wt.%) で整理したグラフ
である。同図から、鋼の成分組成が、 Mn /{2 S +(1
/3) P +(1/15)Cu+(1/5) Sn}≧15の関係を満たす場合
にのみ、凝固割れが抑制されることが判明した。
【0009】この発明は、上記知見に基づいて、トラン
プエレメントが含有された鋼材にみられる前記問題点を
解決し、溶接性に優れた引張強さが50kgf/mm2 以下の熱
延鋼板を開発したものであり、その要旨は以下のとおり
である。
【0010】第1の発明の溶接性に優れた熱延鋼板は、
重量% で、C : 0.01 〜0.15% 、Si:0.2%以下、Mn:0.
1 〜0.8%、P :0.04% 以下、S :0.015%以下、可溶性
アルミニウム(sol.Al) : 0.01 〜0.07% 、N: 0.012% 以下、C
u:0.40% 以下、Sn:0.040%以下、Ni:0.10% 以下、C
r:0.10% 以下、および、Mo:0.10% 以下を含有し、か
つ(1) および(2) 式、 Cu +10Sn ≦ 0.40% ───(1) Mn /{2 S +(1/3) P +(1/15)Cu+(1/5) Sn}≧15 ───(2) の関係を満たし、残部が鉄および上記元素以外の不可避
的な不純物元素からなる化学成分組成を有することに特
徴を有するものである。
【0011】第2発明の溶接性に優れた熱延鋼板の製造
方法は、第1発明の化学成分組成を有する鋼を溶製した
後、連続鋳造法によってスラブを鋳造し、次いで前記ス
ラブを1100℃以上の温度に加熱した後、Ar3変態点−10
0 〜Ar3変態点+100 ℃の温度範囲内で仕上げ熱間圧延
を行ない、このようにして得られた鋼帯を500 〜700℃
の温度範囲内で巻き取ることに特徴を有するものであ
る。
【0012】
【作用】この発明の鋼板の化学成分組成を上述した範囲
内に限定した理由について述べる。 (1) C 、Si、Mn :C 、Si、Mnは鋼の強度を上げる基本的
な元素である。また、C は含有量が0.01% 未満では、2
次加工脆化が生じ易くなり、Mnは含有量が0.1%未満では
鋼板表面に疵が発生し易くなる。一方、C は含有量が0.
15% 超、Siは含有量が0.2%超、Mnは含有量が0.8%超で
は、引張強さを50kgf/mm2 以下にすることができない。
従って、C の含有量は0.01〜0.15% 、Siの含有量は0.2%
以下、Mnの含有量は0.1 〜0.8%の範囲内に限定すべきで
ある。
【0013】(2) S :S は、鋼板の曲げ加工性および伸
びフランジ性等の加工性を高めるために、その含有量が
少ない方が望ましい。S 含有量が0.015%以下の領域にお
いて穴拡げ率は高い値が得られる。その理由は、S 含有
量が0.015%超となると、鋼中のMnS 等の硫化物系介在物
の量が多くなり、鋼板を加工した時の亀裂発生点となる
ためと考えられる。従って、S の含有量は0.015%以下に
限定すべきである。
【0014】(3) P :P は、鋼板のプレス成形後に2 次
加工割れと呼ばれる粒界脆性破壊を生じさせる元素であ
り、その含有量が少ない方が望ましく、P の含有量は0.
04% 以下に限定すべきである。
【0015】(4) N :N は、加工性を高めるためにその
含有量が少ない方が望ましく、その含有量は0.012%以下
に限定すべきである。
【0016】(5) Al :Alは、鋼の脱酸のために有効な元
素であるが、sol.Alの含有量が0.01% 未満ではその効果
が不十分である。一方、その含有量が0.07% 超では脱酸
生成物である介在物の量が増加し、加工性が劣化する。
従って、sol.Alの含有量は0.01〜0.07% の範囲内に限定
すべきである。
【0017】(6) Cu :Cuは、トランプエレメントとして
含有される元素である。その含有量が多いとCu疵と呼ば
れる表面疵が発生し、表面品質が劣化する。その含有量
が0.40% 超ではCu疵が発生し易くなる。更に、Cuに加う
るにSnが含有される鋼板においては、Cu富化相にSnが濃
化しそのCu富化相の融点が低下するため、Cuを含有しSn
を含有しない鋼板よりもCu疵が発生し易くなり、大幅に
表面品質が劣化する。従って、Cuの含有量は0.40% 以下
に限定し、しかも、Cu+10×Sn≦0.40% が満たされるよ
うにCuの含有量を限定すべきである。
【0018】(7) Sn :Snは、トランプエレメントとして
含有される元素である。Snの含有量が0.040%超では表面
品質および加工性が劣化する。更に、Snに加うるにCuが
含有される鋼板においては、上述した現象と同様、Cu富
化相にSnが濃化しそのCu富化相の融点が低下するため、
Snを含有しCuを含有しない鋼板よりもCu疵が発生し易く
なり、大幅に表面品質が劣化する。従って、Snの含有量
は0.040%以下に限定し、しかも、Cu+10×Sn≦0.40% が
満たされるようにSnの含有量を限定すべきである。
【0019】(8) Ni :Niは、トランプエレメントとして
含有される元素である。しかしながら、Cu疵発生の防止
に有効なので適正量以内含有されることが望ましい。即
ち、Niは焼入性の向上に有効である。しかしながら、そ
の含有量が0.10% 超では強度が増加し加工性が劣化す
る。従って、Niの含有量は0.10% 以下に限定すべきであ
る。
【0020】(9) Cr、Mo :CrおよびMoは、トランプエレ
メントとして含有される元素である。いずれもその含有
量が0.10% 超では強度上昇により加工性が劣化し、ま
た、亜鉛めっき層の密着性を劣化させる。従って、Crお
よびMoの含有量はいずれも、0.10% 以下に限定すべきで
ある。
【0021】(10) Mn 、S 、P 、CuおよびSnの各含有量
間の関係:前述したように、鋼材の溶融溶接時に凝固割
れ等が発生することなく、その溶接性が劣化しないよう
にするために、 Mn 、S 、P 、CuおよびSnの各含有量
は、Mn /{2 S +(1/3) P +(1/15)Cu+(1/5) Sn}≧1
5の関係を満たすべきである。
【0022】次に、この発明の鋼板の製造方法を上述し
た条件の範囲内に限定した理由について述べる。鋼の溶
解および精錬については、転炉法または電気炉法のいず
れの製法によってもよく、また、スラブの製造について
は、その品質上、歩留上および生産能率上等の有利性か
ら連続鋳造法によってスラブを鋳造する。
【0023】スラブの加熱温度については、常法の1100
℃以上であればよい。熱間圧延の仕上温度については、
仕上温度がAr3変態点−100 ℃未満の温度では、鋼板の
フェライト粒に歪みが加わり、混粒組織となり延性が劣
化する。一方、仕上温度がAr3変態点+100 ℃超では、
設備能力上圧延することが困難となり、また、熱間圧延
過程で生成するスケ−ルにより鋼板表面の品質が劣化す
る。従って、熱間圧延の仕上温度は、Ar3変態点−100
〜Ar3変態点+100 ℃の範囲内に限定すべきである。巻
取温度は常法の500 〜700 ℃の温度範囲内に限定すべき
である。
【0024】
【実施例】次に、この発明を実施例により、比較例と対
比しながら説明する。表1 に示した、この発明の範囲内
の化学成分組成を有する本発明例No.1〜9 、および、比
較例No.2、並びに、少なくとも1 つの元素がこの発明の
範囲外の化学成分組成を有する比較例No.1および3 〜9
の鋼を電気炉にて溶製し、次いで連続鋳造法によってス
ラブを鋳造した。次いで、表2 に示したように、本発明
例No.1〜9 、および、比較例No.3〜7 および9 のスラブ
に対してはこの発明の範囲内の製造条件で、また、比較
例No.1、2 および8 のスラブに対してはこの発明の範囲
外の製造条件で熱間圧延を施し、板厚3.2 mmの熱延鋼帯
を調製し、このようにして得られた熱延鋼帯に対して1%
の調質圧延を施すことによって熱延鋼板を製造した。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】上記のようにして製造された熱延鋼板から
試験材を採取し、JIS5号試験片による引張試験、およ
び、ア−ク溶接試験を行なった。ア−ク溶接試験は、溶
接法がTIG溶接法、溶接入熱が230A-23V、そして、溶
接速度が130cm/min の条件で重ね継手を作製して実施し
た。そして、溶接性については、溶接ビ−ド部の目視に
よる外観検査、および、ミクロ組織検査により、凝固割
れの発生の有無を調査し、割れ発生有りを×印、割れ発
生無しを○印とした。また、表面品質については、熱延
鋼板の表面疵発生の有無を調査し、表面疵発生有りを×
印、表面疵発生無しを○印とした。以上の試験結果を、
表2に併記した。
【0028】表1および2から下記事項が明らかとなっ
た。比較例No.1および2 では、仕上圧延温度がこの発明
の範囲外の低い温度であったため、ミクロ組織がフェラ
イト混粒組織となり延性が大幅に劣化した。
【0029】比較例No.1、3 、4 、5 、6 、8 および9
では、Mn/{2 S +(1/3) P +(1/15)Cu+(1/5) Sn}の
値が、この発明の範囲外の低い値であったため、溶接凝
固割れが発生し、溶接性が劣化した。
【0030】比較例No.3、4 、6 、8 および9 は、Cu、
Snの含有量が過多であったため熱延鋼板に表面疵が発生
し、表面品質が劣化した。比較例No.7はMn含有量が、ま
た、比較例No.9はC 含有量がそれぞれこの発明の範囲を
超えて多かったため、引張強さが50kgf/mm2 超となり、
この発明の目標範囲を外れた。
【0031】これに対して、鋼の化学成分組成および製
造条件がこの発明の範囲内である本発明例No.1から12は
いずれも、溶接凝固割れおよび鋼板の表面疵の発生は無
く、機械的性質についても良好な結果が得られた。
【0032】以上のように、鋼の化学成分組成および製
造条件について、そのうち1 つでもこの発明の範囲外で
ある熱延鋼板は、溶接性、表面品質または機械的性質に
おいて劣化したのに対し、すべての条件がこの発明の範
囲内である熱延鋼板は、溶接性、表面品質および機械的
性質のいずれにおいても優れていた。
【0033】
【発明の効果】従来トランプエレメントを含有した鉄ス
クラップを鉄鋼原料として製造する場合、鋼中に残存し
て含有されるトランプエレメントのために鋼材の溶接性
あるいは表面性状が劣化した。そのため、鉄スクラップ
の使用には種々の制約を伴っていた。しかしながら、こ
の発明は、上述したように構成されているので、トラン
プエレメントを含有した鋼を用いた場合でも、製品の表
面品質等を損なうことなく、引張強さが50kgf/mm2 以下
であって溶接性に優れた熱延鋼板およびその製造方法を
提供することができる、工業上有益な効果をもたらすこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】C ≦0.15wt.%の鋼における、凝固割れの発生の
有無に及ぼす鋼の成分組成の影響を、鋼のMn含有量( w
t.%) および2 S +(1/3) P +(1/15)Cu+(1/5)Sn によ
って算出される値( wt.%) で整理したグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 - 38/60 C21D 8/00 - 8/02

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量% で、 炭素(C) : 0.01 〜0.15% 、 シリコン(Si) : 0.2% 以下、 マンガン(Mn) : 0.1〜0.8%、 燐(P) : 0.04% 以下、 硫黄(S) : 0.015% 以下、 可溶性アルミニウム(sol.Al) : 0.01 〜0.07% 、 窒素(N) : 0.012% 以下、 銅(Cu) : 0.40% 以下、 錫(Sn) : 0.040% 以下、 ニッケル(Ni) : 0.10% 以下、 クロム(Cr) : 0.10% 以下、および、 モリブデン(Mo): 0.10% 以下、 を含有し、かつ下記(1) および(2) 式、 Cu +10Sn ≦ 0.40% ───(1) Mn /{2 S +(1/3) P +(1/15)Cu+(1/5) Sn}≧15 ───(2) の関係を満たし、残部が鉄および上記元素以外の不可避
    的な不純物元素からなる化学成分組成を有することを特
    徴とする、溶接性に優れた熱延鋼板。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の化学成分組成を有する
    鋼を溶製した後、連続鋳造法によってスラブを鋳造し、
    次いで前記スラブを1100℃以上の温度に加熱した後、A
    r3変態点−100 〜Ar3変態点+100 ℃の温度範囲内で仕
    上げ熱間圧延を行ない、このようにして得られた鋼帯を
    500 〜700 ℃の温度範囲内で巻き取ることを特徴とす
    る、溶接性に優れた熱延鋼板の製造方法。
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