JP2798896B2 - フェニル基含有光学活性アルコールの製造法 - Google Patents

フェニル基含有光学活性アルコールの製造法

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JP2798896B2 JP6317696A JP31769694A JP2798896B2 JP 2798896 B2 JP2798896 B2 JP 2798896B2 JP 6317696 A JP6317696 A JP 6317696A JP 31769694 A JP31769694 A JP 31769694A JP 2798896 B2 JP2798896 B2 JP 2798896B2
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  • Enzymes And Modification Thereof (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は医薬品、農薬等の原料ま
たは中間原料、液晶等のファインケミカル分野の合成中
間体として重要な光学活性アルコールの製法に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】光学活性アルコールは医薬品、農薬、強
誘電性液晶等のファインケミカル製品等の原料や合成中
間体として利用されており、近年、その需要の高まりと
ともに種々の化合物が開発されている。例えばフェニル
基を有する光学活性アルコールでは、1−フェニル−1
−エタノール、1−フェニル−1−ペンタノール、1−
(p−クロロフェニル)−1−エタノール等の有用なも
のが多い。また光学活性アルコールでは、その十分な機
能発現のため、物質としての純度のみならず光学的純度
も高いものが要求される。
【0003】光学活性アルコールの物質純度を高めるた
めには溶剤抽出、分別、再結晶、単蒸留、共沸蒸留、分
子蒸留、カラムクロマトグラフィー等の公知の手段が利
用されている。一方、光学純度を高めるためにはラセミ
体アルコールからその鏡像異性体(対掌体)である光学
活性アルコールを酵素(リパーゼ、リポプロテインリパ
ーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ等)を用いて分割す
る方法が有効である。すなわち通常の高温をともなう化
学反応ではラセミ体アルコールから鏡像異性体を分離す
ることは困難であるが、前記酵素を用いる反応ではその
識別が可能となる。このためかかる酵素反応を利用した
光学活性アルコールの製造法が鋭意研究されている。
【0004】前記酵素を用いてラセミ体アルコールから
光学活性アルコールを分割する方法として、(i)ラセ
ミ体アルコールのエステルを加水分解する(特開平1−
137996号、特開平1−257484号各公報
等)、(ii)ラセミ体アルコールとトリグリセリドと
をエステル交換する(特開昭62−166898号、特
公平6−34752号各公報)、(iii)ラセミ体ア
ルコールのエステルとアルコールとをエステル交換する
(特開昭63−173597号公報)等が提案されてい
る。
【0005】このうち(i)の方法は、多量の水を用い
る反応であるため、例えば低級2−アルカノールのよう
な水と親和性の高いラセミ体アルコールのエステルを原
料として所望の光学活性アルコールを高純度(物質純度
および光学純度ともに高いことを意味する。以下同じ)
で得ようとすれば、目的物に対して選択的溶解性のある
溶剤を大量に使用して抽出、分別等および/または共沸
蒸留、分子蒸留あるいは分取液体クロマトグラフィー等
の、操作が煩雑かつ製造コストが高価になる精製手段を
用いなければならない。またこの方法では、水系反応で
あること、反応副産物として例えばカルボン酸が生成す
ること等により酵素が失活しやすく、粉末状酵素を用い
れば反応物から回収、再使用することは実際上困難であ
る。
【0006】(ii)および(iii)の方法では、反
応系中の水分量が微量であり、反応により酵素の失活の
原因となる物質も副生しないから、(i)のような水系
反応物から目的物を抽出、分離する操作は不要となり、
また酵素の回収、再使用も可能である。しかしながらか
かる酵素反応においてリパーゼを用いる場合、従来の反
応温度は通常20〜70℃程度、実質的には20〜50
℃であるため、原料はこの温度領域で液状となるものに
限定されるか、有機溶媒に溶解して反応させる必要があ
った。しかも反応時間は、とりわけフェニル基のような
分子サイズの大きい置換基を有するラセミ体アルコール
では、その化学構造による立体障害から反応性が小さ
く、前記のような低温反応では数日間あるいはそれ以上
の長期間を必要とするものであった。
【0007】なお(ii)および(iii)のエステル
交換反応を従来法において無溶媒系で行う場合、前述の
ように実際上使用できる原料(ラセミ体アルコール、そ
のエステル、トリグリセリド、アルコール等)は、その
融点が酵素反応温度と同等もしくはそれ以下であること
を必要とし、したがって原料の融点や沸点、溶剤に対す
る溶解性等の物理的性状が相互に近似したものを採用せ
ざるを得ない。また(iii)の反応を有機溶媒系で行
う場合(例えば特開昭63−173597号公報)で
も、原料の一方であるアルコールは炭素数が1〜10の
ものであり、原料の他方であるラセミ体アルコールのエ
ステルと融点が近似している。このように物理的性状が
ほぼ近似する原料を使用すると、通常、原料成分と反応
成分とが複雑な平衡組成になるエステル交換反応物の中
から光学活性アルコールを効率良く分離回収し、その物
質的純度ならびに光学的純度を高めるための精製手段と
しては各成分の前記物性の差を利用し難く、結局(i
i)および(iii)の方法においても前記(i)の方
法と同様に煩雑かつ高価な精製方法、手段に依存しなけ
ればならないという問題点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】かかる状況に鑑み、本
発明では、フェニル基を有する光学活性アルコールの製
法において、酵素反応を短時間で行い、なおかつ簡単な
操作で目的物を高純度に分離、精製できるような前記方
法を開発することを目的とした。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記問題点
を解決し、工業的に簡便かつ有利な方法でフェニル基を
有する光学活性アルコールを得るために鋭意研究を行っ
た。その結果、特定のラセミ体アルコールを特定の二塩
基酸でエステル化したジエステルと特定のアルコールと
を原料とし、これを耐熱性リパーゼを用いて高温でエス
テル交換反応せしめることにより、該反応が短時間で完
了し、かつ該反応物から高純度の光学活性アルコールが
簡単に高収率で単離できることを見い出し、本発明を完
成するに至った。
【0010】すなわち本発明の要旨は、a)特定の構造
式で表されるフェニル基を有するラセミ体アルコールと
炭素数14以上の直鎖状飽和二塩基酸とのジエステルお
よびb)炭素数16以上の非光学活性かつ非ラセミ体ア
ルコールを原料とし、耐熱性リパーゼを用い、前記原料
の溶媒を使用することなく、実質的に水分を含まない条
件下で、常圧状態かつ81℃以上にてエステル交換反応
せしめ、ついで該反応物からフェニル基を有する光学活
性アルコールを分離することを特徴とするフェニル基含
有光学活性アルコールの製造法である。
【0011】以下に本発明を詳細に説明する。まず本発
明では、a)特定の構造式で表されるフェニル基を有す
る(以下、フェニル基置換という)ラセミ体アルコール
特定の二塩基酸とのジエステルおよびb)炭素数16
以上の非光学活性かつ非ラセミ体アルコールを原料とす
る。a)のジエステルは当該フェニル基置換ラセミ体ア
ルコールと二塩基酸とを公知の化学的エステル合成法、
例えば硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸等の無機
酸、亜鉛、スズ、ニッケル等の金属、該金属の酸化物、
塩化物等を触媒とし、フェニル基置換ラセミ体アルコー
ルと二塩基酸とを100〜250℃に加熱しながら反応
系から副生する水を除去してエステル化せしめ、エステ
ル化反応生成物を必要に応じてアルカリ(水酸化ナトリ
ウム、炭酸ナトリウム等)による脱酸処理、吸着剤(活
性炭、活性白土等)による脱色処理、減圧下に水蒸気や
窒素ガス吸込みによる脱臭処理を施して得ることができ
る。
【0012】ここに特定の構造式で表されるフェニル基
置換ラセミ体アルコールとは、少なくともフェニル基も
しくは官能基が置換したフェニル基を有する、ラセミ体
である直鎖状飽和の、ハロゲン(塩素、臭素、フッ
素)、酸素、窒素、リン、イオウ等原子で置換されてい
てもよい1級アルコールをいう。そして下記一般式
(1)
【化2】 〔式(1)においてD1 、D2 、D3 、D4 およびD5
は水素、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基また
は炭素数1〜3のアルコキシ基で表される置換基であ
り、Aは炭素数1〜3のアルキル基またはCF3 または
CN〕で表される化合物である。
【0013】かかるフェニル基置換ラセミ体アルコール
としては、例えば1−フェニル−1−エタノール、1−
フェニル−1−プロパノール、1−フェニル−1−ブタ
ノール、2−フェニル−2−ブタノール、1−フェニル
−1−ペンタノール、2−フェニル−2−ペンタノー
ル、1位炭素がフェニル基で置換された1−ヘキサノー
ル、2位炭素がフェニル基で置換された2−ヘキサノー
ル、1位がフェニル基で置換された1−ヘプタノール、
2位炭素がフェニル基で置換された2−ヘプタノール、
1位炭素がフェニル基で置換された1−オクタノール、
2位炭素がフェニル基で置換された2−オクタノール、
1位炭素がフェニル基で置換された1−ノナノール、2
位炭素がフェニル基で置換された2−ノナノール、1位
炭素がフェニル基で置換された1−デカノール、2位炭
素がフェニル基で置換された2−デカノール、1−フェ
ニル−2,2,2−トリフルオロ−1−エタノール、1
−(2−クロロフェニル)−1−エタノール、1−(4
−クロロフェニル)−1−エタノール、1−(2,4−
ジクロロフェニル)−1−エタノール、1−(2−ブロ
モフェニル)−1−エタノール、1−(4−ブロモフェ
ニル)−1−エタノール、1−(2,4−ジブロモフェ
ニル)−1−エタノール、1−(2−フルオロフェニ
ル)−1−エタノール、1−(4−フルオロフェニル)
−1−エタノール、1−(2,4−ジフルオロフェニ
ル)−1−エタノール、1−(2−メチルフェニル)−
1−エタノール、1−(4−メチルフェニル)−1−エ
タノール、1−(2,4−ジメチルフェニル)−1−エ
タノール、1−(2−エチルフェニル)−1−エタノー
ル、1−(4−エチルフェニル)−1−エタノール、1
−(2,4−ジエチルフェニル)−1−エタノール、1
−(2−n−プロピルフェニル)−1−エタノール、1
−(2−メトキシフェニル)−1−エタノール、1−
(2−エトキシフェニル)−1−エタノール、前記のフ
ェニル基が置換した1−プロパノール、2−プロパノー
ル、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノー
ル、2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサ
ノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オ
クタノール、2−オクタノール、1−ノナノール、2−
ノナノール、1−デカノールおよび2−デカノールにお
いてフェニル基が2−クロロフェニル基、4−クロロフ
ェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2−ブロモフ
ェニル基、4−ブロモフェニル基、2,4−ジブロモフ
ェニル基、2−フルオロフェニル基、4−フルオロフェ
ニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2−メチルフ
ェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフ
ェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル
基、2,4−ジエチルフェニル基、2−n−プロピルフ
ェニル基、4−n−プロピルフェニル基、2−メトキシ
フェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフ
ェニル基または4−エトキシフェニル基のいずれか1つ
の基に置き換えられたもの等のラセミ体アルコールがあ
る。このうち好ましくは1−フェニル−1−エタノー
ル、1−フェニル−1−プロパノール、1−フェニル−
1−ブタノール、1−フェニル−1−ペンタノール、1
−(4−クロロフェニル)−1−エタノール、1−(2
−ブロモフェニル)−1−エタノールであり、最も好ま
しくは1−フェニル−1−エタノール、1−フェニル−
1−プロパノール、1−(4−クロロフェニル)−1−
エタノールである。
【0014】一方、二塩基酸としては直鎖状飽和のもの
を任意に使用でき、具体的にはドデカメチレンジカルボ
ン酸、テトラデカメチレンジカルボン酸、ヘキサデカメ
チレンジカルボン酸、ヘプタデカメチレンジカルボン
酸、オクタデカメチレンジカルボン酸、ノナデカメチレ
ンジカルボン酸、エイコサメチレンジカルボン酸、ドコ
サメチレンジカルボン酸、テトラコサメチレンジカルボ
ン酸、ヘキサコサメチレンジカルボン酸、オクタコサメ
チレンジカルボン酸等を例示できる。これらの二塩基酸
は単独もしくは混合物として用いてよく、また前記のほ
かには木ロウ、ゴマ原油の沈澱物から分離した長鎖二塩
基酸等を用いてもよい。
【0015】なお本発明では、後述するようにエステル
交換反応温度が130℃を上限とするため、前記したフ
ェニル基置換ラセミ体アルコールと二塩基酸とは、その
ジエステルが該温度において液状を呈するように組み合
わせることが重要である。またエステル交換反応物から
目的の光学活性アルコールを分離する精製工程における
簡便性の点から、二塩基酸は炭素数が14以上、好まし
くは16〜30、より好ましくは18〜28、最も好ま
しくは20〜28の直鎖状飽和二塩基酸であることが望
ましい。炭素数が14未満の二塩基酸や不飽和二塩基酸
等では光学活性アルコールを高純度かつ高収率で単離す
るための精製条件に厳密さを必要とする傾向が大きくな
る。炭素数が45を超える二塩基酸は工業的原料として
入手しにくい。本発明で用いる二塩基酸ジエステルは高
融点(好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以
上)であることが望ましい。
【0016】本発明のもう一方の原料であるb)炭素数
16以上の非光学活性かつ非ラセミ体アルコールの具体
例としては1−ヘキサデカノール(セタノール)、1−
ヘプタデカノール、1−オクタデカノール(ステアリル
アルコール)、オレイルアルコール、1−エイコサノー
ル、1−ドコサノール(ベヘニルアルコール)、1−テ
トラコサノール、1−ヘキサコサノール、1−オクタコ
サノール、1−ノナコサノール、ミリシルアルコール
(炭素数30)、メリシルアルコール(炭素数31)、
ラッセロール(炭素数32)等をあげることができる。
このうち炭素数が好ましくは16〜30、より好ましく
は18〜28の直鎖状飽和アルコールが望ましい。炭素
数が16未満のものでは精製工程において目的の光学活
性アルコールを分離しにくく、また炭素数が34を超え
るアルコールは工業的に入手しにくい。
【0017】本発明のエステル交換反応では耐熱性リパ
ーゼを用いることを特徴とする。これにより前記a)お
よびb)の原料を高温で液状に維持でき、従来法のよう
に原料を溶解させるための溶媒を必要とせず、またエス
テル交換反応を速やかに進行させることができ、さらに
高融点のエステル類およびアルコール類を使用すること
が可能となるため光学活性アルコールの分離、精製が容
易になる。
【0018】本発明の耐熱性リパーゼとは81℃以上で
もエステル交換活性を有するものをいい、例えば特公昭
58−36953号公報に記載のアルカリゲネス エス
ピー(Alcaligenes sp.PL−266)(微工研菌寄第
3187号)が生産するリパーゼPL−266、特公昭
60−15312号公報に記載のアルカリゲネス エス
ピー(Alcaligenes sp.PL−679)(微工研菌寄第
3783号)が生産するリパーゼPL−679、特公昭
59−156282号公報に記載のリゾプスキネンシス
(Rhizopus chinensis)を起源とするリパーゼ等をあげ
ることができ、このうち前二者が好ましい。本発明の実
施にあたっては、前記アルカリゲネスエスピー由来のリ
パーゼとして、名糖産業(株)製のリパーゼQLおよび
リパーゼPL(いずれも同社商品名)を用いるのが簡便
であり、とりわけリパーゼQLが望ましい。かかる耐熱
性リパーゼは活性炭、セライト、吸着性樹脂、イオン交
換樹脂、ガラスビーズ、セラミックス等の公知の担体に
固定化して用いてもよいが、後述するように粉末状態の
ままで原料に共存させることが望ましい。
【0019】エステル交換反応は、前記a)のフェニル
基置換ラセミ体アルコールのジエステルとb)のアルコ
ールとをa)を基準にして1:5以下、好ましくは1:
5〜3のモル比率で混合して原料とし、該原料を溶解さ
せるための有機溶媒を使用することなく、なおかつ実質
的に水分を含まない(すなわち原料中の平衡水分含量で
ある約0.1重量%以下、望ましくは0.05重量%以
下の)反応系に、好ましくは前記耐熱性リパーゼの粉末
を分散させ、攪拌もしくは振とうしながら反応を行う。
このとき耐熱性リパーゼ粉末の粒子の90%以上が1〜
100μm、好ましくは20〜50μmの大きさになる
ようにコントロールしてエステル交換反応を行うことが
望ましい。この粒子サイズをそろえる手段としては、必
要に応じて加温し溶解した原料に耐熱性リパーゼ粉末を
分散させた後、超音波処理、分散液の精密膜または限外
ろ過膜による濾過処理、遠心沈降処理等を施せばよい
が、好ましくは反応温度以下、20〜150kHz 、10
0〜250Wの条件下で1〜30分間超音波を照射処理
することが簡便である。
【0020】反応温度は81℃以上、より好ましくは9
1〜130℃、最も好ましくは101〜120℃に設定
し、常圧状態のまま緩やかに攪拌もしくは振とうしなが
ら反応率を例えばガスクロマトグラフィーでチェックし
て、所定の時間、望ましくは数時間〜100時間エステ
ル交換反応を行わせる。反応温度が81℃を下回ると該
反応の進行が遅くなり長時間を必要とし、逆に130℃
を超えると耐熱性リパーゼといえども失活する傾向が大
きくなる。
【0021】本発明のエステル交換反応物は、下記反応
【化3】 〔但し、(a):ラセミ体アルコールの二塩基酸ジエス
テル、(b):非光学活性かつ非ラセミ体アルコール、
(c):光学活性アルコールの二塩基酸ジエステル、
(d):非光学活性かつ非ラセミ体アルコールの二塩基
酸ジエステル、(e):光学活性アルコールである。〕
で示されるように、原料であるラセミ体アルコールのジ
エステルが非光学活性かつ非ラセミ体アルコールによっ
ていわばアルコリシスされ、R体またはS体のいずれか
一方の光学活性アルコールが遊離するとともに非光学活
性かつ非ラセミ体アルコールの二塩基酸ジエステルが新
たに生成し、また未反応のR体またはS体のいずれか一
方の光学活性アルコールの二塩基酸ジエステルも共存
し、さらに未反応の原料成分をも含む多種成分からなる
組成物となる。しかも従来法ではこのような反応物中の
各成分の物理的性状が近似するため、光学活性アルコー
ルを回収するには複雑な精製工程を必要としたが、本発
明では原料として炭素数16以上の非光学活性かつ非ラ
セミ体アルコールを用いることを特徴とし、この物理的
性状(融点、沸点、溶媒に対する溶解性等)が前記ラセ
ミ体アルコールとは大きく異なるため、光学活性アルコ
ールの単離が容易になる。
【0022】すなわちエステル交換反応物は、まず濾紙
等の精密濾過膜を用いてリパーゼ粉末を除去した後、減
圧蒸留、溶剤の存在下あるいは非存在下に分別、再結
晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の比較的簡
単な方法、より好適には減圧蒸留のみで処理して高純度
の光学活性アルコールを高収率で単離することができ
る。なお本発明の方法ではモノエステルもしくはジエス
テルのままで残存する未反応の鏡像異性体は、反応物か
らカラムクロマトグラフィー等の公知方法で分離し、酸
(塩酸、硫酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、
水酸化カリウム等)により加水分解すれば同様に高純度
で単離できる。また反応に使用した耐熱性リパーゼは回
収後、新たな同様のエステル交換反応に使用できる。
【0023】
【実施例】以下の実施例および比較例において得られた
化合物の物質純度はガスクロマトグラフィー((株)島
津製作所製、GC−14A)を用いて、また光学純度は
旋光度計(日本分光(株)製、DIP−370)を用い
てそれぞれ測定し、その測定値を標準試料の値と比較す
ることにより算出した。
【0024】実施例1 アルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)由来の
リパーゼPL (名糖産業(株)製)10g、(R,S)
−1−フェニル−1−エタノールの1,14−テトラデ
カジカルボン酸(ドデカメチレンジカルボン酸)ジエス
テル100gおよびオレイルアルコール300gを50
0mlセパラブルフラスコに入れ、80℃で超音波発生装
置((株)島津製作所製、SUS−103)を用いて4
5kHz で1分間超音波を照射した。その後、常圧状態、
85℃にて攪拌速度350rpm で攪拌し、48時間エス
テル交換反応を行った。反応系の水分量(カールフィッ
シャー法):0.03%重量、リパーゼ粒子のサイズ
(コールターエレクトロニクス社製の粒度分布測定装
置:マルチサイザーによる測定):95%以上が30〜
70μmであった。反応終了後、反応物をガスクロマト
グラフィーで測定したところ、(R,S)−1−フェニ
ル−1−エタノールの1,14−テトラデカジカルボン
酸ジエステルの50モル%がエステル交換されていた。
リパーゼをメンブレンフィルター0.5μm(アドバン
テック社製)を用いて濾過により取り除いた後、90
℃、3mmHgの条件下で蒸留を行い、(R)−1−フェニ
ル−1−エタノール(収率:90%、物質純度:100
%、光学純度:100%ee)を得た。一方、反応物中に
残存する1−フェニル−1−エタノールの1,14−テ
トラデカジカルボン酸ジエステルをシリカゲルカラムク
ロマトグラフィーで分離し、アルカリ加水分解して
(S)−1−フェニル−1−エタノール(収率:95
%、物質純度:100%、光学純度:100%ee)を得
た。
【0025】実施例2 アルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)由来の
リパーゼQL(名糖産業(株)製)10g、(R,S)
−1−フェニル−1−プロパノールの1,20−エイコ
サジカルボン酸(オクタデカメチレンジカルボン酸)ジ
エステル100gおよびステアリルアルコール300g
を500mlセパラブルフラスコに入れ、実施例1と同様
に105℃で超音波処理を行った後、常圧状態、105
℃にて攪拌速度350rpm で攪拌し、24時間エステル
交換反応を行った。実施例1に記載の方法で測定した反
応系の水分量:0.05重量%、リパーゼ粒子のサイ
ズ:95%以上が20〜60μmであった。反応終了
後、反応物をガスクロマトグラフィーで測定したとこ
ろ、(R,S)−1−フェニル−1−プロパノールの
1,20−エイコサジカルボン酸ジエステルの49モル
%がエステル交換されていた。リパーゼをメンブレンフ
ィルター0.5μm(実施例1と同じ)を用いて濾過に
より取り除いた後、95℃、2mmHgの条件下で蒸留を行
い、(R)−1−フェニル−1−プロパノール(収率:
90%、物質純度:100%、光学純度:99%ee以
上)を得た。一方、反応物中に残存する1−フェニル−
1−プロパノールの1,20−エイコサジカルボン酸ジ
エステルをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離
し、アルカリ加水分解して(S)−1−フェニル−1−
プロパノール(収率:92%、物質純度:100%、光
学純度:99%ee以上)を得た。
【0026】実施例3 実施例2に記載のリパーゼQL10g、(R,S)−2
−(2,4−ジフルオロフェニル)−2−オクタノール
の1,28−オクタコサジカルボン酸(ヘキサコサメチ
レンジカルボン酸)ジエステル100gおよびベヘニル
アルコール330gを500mlセパラブルフラスコに入
れ、実施例1と同様に超音波処理を行った後、常圧状
態、110℃にて攪拌速度250rpm で攪拌し、20時
間エステル交換反応を行った。実施例1に記載の方法で
測定した反応系の水分量:0.02重量%、リパーゼ粒
子のサイズ:95%が20〜50μmであった。反応終
了後、反応物をガスクロマトグラフィーで測定したとこ
ろ、(R,S)−2−(2,4−ジフルオロフェニル)
−2−オクタノールの1,28−オクタコサジカルボン
酸ジエステルの50モル%がエステル交換されていた。
リパーゼをメンブレンフィルター0.5μm(実施例1
と同じ)を用いて濾過により取り除いた後、95℃、2
mmHgの条件下で蒸留を行い、(R)−2−(2,4−ジ
フルオロフェニル)−2−オクタノール(収率:93
%、物質純度:99%、光学純度:100%ee)を得
た。一方、反応物中に残存する2−(2,4−ジフルオ
ロフェニル)−2−オクタノールの1,28−オクタコ
サジカルボン酸ジエステルをシリカゲルカラムクロマト
グラフィーで分離し、アルカリ加水分解して(S)−2
−(2,4−ジフルオロフェニル)−2−オクタノール
(収率:93%、物質純度:100%、光学純度:10
0%ee)を得た。
【0027】実施例4 実施例2に記載のリパーゼQL15g、(R,S)−1
−(p−クロロフェニル)−1−エタノールの1,20
−エイコサジカルボン酸(オクタデカメチレンジカルボ
ン酸)ジエステル100gおよびn−ヘキサデカノール
320gを500mlセパラブルフラスコに入れ、実施例
1と同様に超音波処理を行った後、常圧状態、103℃
にて攪拌速度350rpm で攪拌し、25時間エステル交
換反応を行った。実施例1に記載の方法で測定した反応
系の水分量:0.03重量%、リパーゼ粒子のサイズ:
95%以上が20〜60μmであった。反応終了後、反
応物をガスクロマトフラフィーで測定したところ、
(R,S)−1−(p−クロロフェニル)−1−エタノ
ールの1,20−エイコサジカルボン酸ジエステルの5
0モル%がエステル交換されていた。リパーゼをメンブ
レンフィルター0.5μm(実施例1と同じ)を用いて
濾過により取り除いた後、95℃、3mmHgの条件下で蒸
留を行い、(R)−1−(p−クロロフェニル)−1−
エタノール(収率:95%、物質純度:99%以上、光
学純度:100%ee)を得た。一方、反応物中に残存す
る1−(p−クロロフェニル)−1−エタノールの1,
20−エイコサジカルボン酸ジエステルをシリカゲルカ
ラムクロマトグラフィーで分離し、アルカリ加水分解し
て(S)−1−(p−クロロフェニル)−1−エタノー
ル(収率:87%、物質純度:99%、光学純度:10
0%ee)を得た。
【0028】比較例1 実施例4において、n−ヘキサデカノール320gの代
わりにミリスチルアルコール300gを用いて同様の条
件で処理したところ、分離した(R)−1−(p−クロ
ロフェニル)−1−エタノール相当成分は収率:93
%、物質純度:95%、光学純度:93%eeであり、
(S)−1−(p−クロロフェニル)−1−エタノール
相当成分は収率:81%、物質純度:93%、光学純
度:91%であった。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、フェニル基置換ラセミ
体アルコールのエステルから光学活性アルコールを分割
するにあたり、耐熱性リパーゼを用いることにより、原
料の溶媒を使用することなく高融点の原料を使用でき、
従来にはない高温のエステル交換反応が可能となり、該
反応時間を短縮化できる。更に高融点、高沸点の長鎖ア
ルコールを原料として使用できるため、エステル交換反
応物中の物理的性状の差を利用して、該反応物からR体
またはS体いずれか一方の光学活性アルコールを、高純
度に、収率良く、簡便な精製手段により分離できる。ま
た前記光学活性アルコールとは対掌体のR体またはS体
いずれか一方の光学活性アルコールも容易に高純度に単
離できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12P 41/00 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 a)下記一般式(1)で表されるフェニ
    ル基を有するラセミ体アルコールと炭素数14以上の直
    鎖状飽和二塩基酸とのジエステルおよびb)炭素数16
    以上の非光学活性かつ非ラセミ体アルコールを原料と
    し、耐熱性リパーゼを用い、前記原料の溶媒を使用する
    ことなく、実質的に水分を含まない条件下で、常圧状態
    かつ81℃以上にてエステル交換反応せしめ、ついで該
    反応物からフェニル基を有する光学活性アルコールを分
    離することを特徴とするフェニル基含有光学活性アルコ
    ールの製造法。 【化1】 〔式(1)においてD1 、D2 、D3 、D4 およびD5
    は水素、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基また
    は炭素数1〜3のアルコキシ基で表される置換基であ
    り、Aは炭素数1〜3のアルキル基またはCF3 または
    CN〕
  2. 【請求項2】 耐熱性リパーゼがアルカリゲネス属に属
    する微生物から得られるものである請求項1に記載の製
    造法。
  3. 【請求項3】 耐熱性リパーゼが粉末状であり、その粒
    子の90%以上が1〜100μmである請求項1または
    に記載の製造法。
  4. 【請求項4】 耐熱性リパーゼを用いるエステル交換反
    応温度が101〜120℃である請求項1〜のいずれ
    か1項に記載の製造法。
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