JP2716525B2 - L―セリンの分離方法 - Google Patents

L―セリンの分離方法

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【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、グリシンを原料に用いて、酵素法または醗
酵法より得られるL−セリンを原料グリシンと分離し、
回収する方法に関する。
L−セリンは、輸液原料、医薬原料、トリプトファン
などのアミノ酸合成中間体として有用な化合物である。
〔従来の技術〕
グリシンを原料として酵素法で、L−セリンを製造す
る方法としては、セリンヒドロキシメチルトランスフェ
ラーゼ(EL.2.1.2.1)を利用する方法が知られている。
(特開昭62−19092号公報)すなわち、原料であるグリ
シンとホルムアルデヒドに対して、補酵素であるピリド
リサール−5′−リン酸およびテトラヒドロ葉酸の存在
下、該酵素生産能を有する微生物を作用させてL−セリ
ンを製造する方法である。この反応は平衡反応のためグ
リシンのL−セリンへの転換率は、75%程度であり、反
応終了液中には必ず、グリシンとL−セリンが共存して
しまう。グリシンとL−セリンの分離は、L−セリンを
製品として得るために必要であり、また、回収されたグ
リシンを反応に再使用して、コストダウンをはかるため
になくてはならない技術である。一方、醗酵法によるL
−セリンの製造法としては、グリシン含有培地に微生物
を生育させ、培地中にL−セリンを蓄積させる方法(特
開昭58−31995号公報、特開昭56−88798特開昭55−3716
9号公報)などが知られている。
グリシンとL−セリンは、水に対する溶解度が非常に
近接しており、(中性付近の20℃での飽和濃度は、グリ
シンで22%、L−セリンで18%)両者の一方を溶解度差
で淘汰する方法で高純度のL−セリンを単離することは
出来ない。
そのため、たとえば特開昭58−31995号公報に記載さ
れているようなm−キシレン−4−スルホン酸のグリシ
ンおよびL−セリンの塩の溶解度差を利用して、L−セ
リンを単離する方法があるが、操作が繁雑であり、かつ
ロスも多く工業的には難点がある。また、イオン交換樹
脂を用いてグリシンとL−セリンを分離する方法も知ら
れているが、両者は等電点も近接しているため(グリシ
ンで5.97、L−セリンで5.68)、通常のイオン交換によ
る保持、溶離手段により両者を分離するのは困難であ
る。そこで特開昭53−72893号公報には、グリシンとL
−セリンを強酸性陽イオン交換樹脂に保持させたあと、
クエン酸などの緩衝液のpHを変えながら、分別溶出させ
る方法が記載されている。しかしながら、その操作は繁
雑であり、工業的に実施可能であると言い難い。
さらに、特開昭62−111953号公報には、強酸性陽イオ
ン交換樹脂を用いる方法として、その粒径が、汎用タイ
プのものより小さくて特定の大きさを有し、かつ、粒径
分布の狭い樹脂を用いることにより、クロマト的にグリ
シンとL−セリンを分離する方法が開示されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
前記特開昭62−111953号公報に記載の方法は操作上単
純なので、工業的に使用しうる技術ではあるが、次のよ
うな欠点がある。すなわち溶離が進行して溶出中のL−
セリン濃度が減少してくると、かわって、グリシンの溶
出が始まり、L−セリンとグリシンが同時に溶出してく
るフラクションが存在することである。これは、グリシ
ンを含まない高純度のL−セリン結晶を効率よく単離す
る上での障害となる。本発明は、高純度のL−セリン結
晶を単離するために、グリシンとL−セリンの混合溶液
を強酸性陽イオン交換樹脂に保持させたあと、L−セリ
ンのみをグリシンの混入なしに溶出させる簡便、確実で
かつ効率よい方法を提供するためになされたものであ
る。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者は、強酸性陽イオン交換樹脂に保持されたグ
リシンとL−セリンの溶出方法について鋭意検討を重ね
た結果、保持されたL−セリンに対して1.0〜1.5倍モル
のアルカリ溶液を線速度2.0m/hr以下で通液したあと、
水押し出しすることによりL−セリンのみをグリシンの
混入なく高い回収率で溶出させうることを見い出し、こ
の知見にもとづいて、本発明を完成するにいたった。
即ち、本発明はグリシンを原料として、酵素法また
は醗酵法により得られた未反応グリシンを含むL−セリ
ン溶液を、有効径0.15〜0.40mm、均一係数1.7以下でH
+型の強酸性陽イオン交換樹脂の充填層に通液してグリ
シンとL−セリンを保持し、続いて保持されたL−セ
リンに対して1.0〜1.5倍モル量のアルカリ溶液を通液
後、水による押出しをすることによってグリシンを含ま
ないL−セリン溶液を溶出させることからなっている。
本発明におけるグリシンを原料とした酵素法によるL
−セリンの製造方法としては、セリンヒドロキシメチル
トランスフェラーゼの触媒能を利用する方法を使用する
ことができる。セリンヒドロキシメチルトランスフェラ
ーゼの供給源としては、エシェリヒア・コリMT−10350
(FERM P−7437)、エシェリヒア・コリMT−10351(FER
M P−7438)をあげることができる。これらの培養菌体
から得た酵素を水に溶かし、補酵素としてテトラヒドロ
葉酸とピリドキサール−5′−リン酸を添加する。原料
のグリシンを添加し、20〜60℃に保温して適当なアルカ
リ溶液でpH6〜9に調整する。アルカリ溶液としては、
たとえばNaOH、KOH、K4P2O7、アンモニア等の水溶液を
使用することができる。反応液を撹拌しながらもう一方
の原料であるホルムアルデヒドを連続的に挿入して、L
−セリンの合成反応を行う。セリンヒドロキシメチルト
ランスフェラーゼは、高濃度のホルムアルデヒドによっ
て失活するので、反応中のホルムアルデヒド濃度を分析
し、20mM以下となるようにホルムアルデヒドの装入を行
う。反応液のpHは酸性側に変化していくので、アルカリ
溶液を添加して、pH6〜9に調整する。アルカリ溶液と
しては、たとえばNaOH、KOH、K4P2O7、アンモニア等の
水溶液を使用することができる。
この反応は平衡反応なので、原料のグリシンが全量L
−セリンに転換されることはなく転換率が75%程度に達
したところで反応は停止する。この反応液を酸性とした
上で、活性炭を装入し、加熱、濾過を行って酵素や菌体
の成分を除去する。こうして得た濾過液はL−セリンと
未反応グリシンの混合液である。この混合液を強酸性陽
イオン交換樹脂の充填塔に通液して、L−セリンとグリ
シンの分離を行う。
本発明で用いられる強酸性陽イオン交換樹脂は、有効
径0.15〜0.40mm、均一係数1.7以下、という条件を有し
ている必要がある。このようなイオン交換樹脂として
は、たとえばレバチットTSW−40、同TSW−40−FK、同MD
S−1368(以下バイエル社製)、ダイヤイオンFRK−01
(三菱化成(株)製)などの銘柄として市販されており
容易に入手することができる。ここでいう有効径とは、
通常業界で定義づけられているように樹脂全体の90%を
網上に残すふるい目の大きさである。また、均一係数と
は粒径分布の程度を示す指標であって、樹脂全体の40%
を網上に残すふるい目の大きさを前記有効系で割った値
である。すなわち、均一係数の値が1に近いほど粒径分
布がシャープとなる。
本発明で用いられる強酸性陽イオン交換樹脂は、あら
かじめ塩酸で処理することによって、H+型にしておく。
これにグリシンを原料として、酵素法または醗酵法によ
り得られる、未反応グリシンを含むL−セリンの溶液を
塔頂より通液し、イオン交換樹脂にアミノ酸を含む陽イ
オン類を保持する。該L−セリン溶液には、L−セリ
ン、グリシンの他に、夾雑アミノ酸、カリウムイオン、
ナトリウムイオン、アンモニウムイオン等の各種陽イオ
ン類が含まれているが、これら全陽イオンのモル数が、
イオン交換樹脂の総交換容量をこえないように、通液す
るL−セリン溶液量を決める。該L−セリン溶液の通液
速度は、線速度にして2.0m/hr以下に設定する。イオン
交換樹脂に陽イオン類を保持したあと、塔頂より純水を
通液してイオン交換樹脂に保持されない陰イオンや、電
気的に中性の夾雑物質を洗い流す。純水の通液量は塔内
に充填したイオン交換樹脂と同体積程度とし、線速度に
して2.0m/hr以下で通液する。
次にアルカリ溶液を塔頂から通液して、イオン交換樹
脂に保持された陽イオンのうちから、L−セリンのみを
溶出させる。アルカリ溶液としては、たとえば、アンモ
ニア、NaOH、KOHの水溶液を使用することができる。い
ずれの場合も0.5〜1.2Mの濃度範囲で使用する。L−セ
リンを溶出させる場合、純水では溶出させることができ
ない。低濃度のアルカリ水溶液では、L−セリンの溶出
はブロードとなる。アルカリの濃度が増すにしたがっ
て、溶出がシャープになると同時に、グリシンの溶出も
早くなる。そしてついには、グリシンとL−セリンが同
時に溶出するにいたり、両者の分離は不可能になる。し
たがってアルカリの濃度は0.5〜1.2Mの範囲に設定しな
ければならない。ここで重要なことは通液するアルカリ
の総量が、イオン交換樹脂に保持されたL−セリンに対
して1.0〜1.5倍モルであることである。アルカリの量が
この範囲を越える場合には、所定のアルカリ濃度範囲内
であってもL−セリンの溶出の後期にグリシンの溶出が
始まって、L−セリンとグリシンが混合した画分が生じ
てしまい本発明の目的を達することができないことがあ
る。
一方、少なすぎる場合には、グリシンを含まないL−
セリン溶出液が得られるものの、L−セリンの回収量が
少なくなる傾向がある。
流速が大きい場合にもL−セリンとグリシンの分離不
良が生じるので、溶出操作は、線速度にして2.0m/hr以
下で行う。
塔頂からのアルカリ溶液の通液が終了した時点では、
樹脂充填層内はまだアルカリ溶液が充液された状態であ
り、L−セリンの溶出は完了していない。そこで、塔頂
より純水を通液してアルカリ溶液を押し出し、L−セリ
ンの溶出を完全にする。純水の量は、塔内に充填したイ
オン交換樹脂体積の1〜3倍量が好ましい。流速は線速
度にして2.0m/hr以下とする。
グリシンを含まないL−セリン水溶液が、溶出したあ
と、グリシンと若干量のL−セリンがイオン交換樹脂に
保持されたままになっているので、L−セリンの溶出と
同様の操作によりグリシンと若干量のL−セリンの溶出
ができる。すなわち、塔頂よりアルカリ溶液を通液す
る。アルカリ溶液としては、たとえば、アンモニア、Na
OH、KOHなどの水溶液を使用することができる。いずれ
の場合も0.5〜1.2Mの濃度範囲で使用する。
ただし、今度の溶出では、アルカリの量を保持された
グリシンのモル数に対して1.0〜1.5倍使用する。アルカ
リが過剰の場合でもグリシンの溶出は可能であるが、グ
リシンの溶出終了後もアルカリを樹脂充填層内に流し続
けることになり、経済的ではない。アルカリが少ない場
合には、グリシンの溶出が不十分となり回収率が低下す
る可能性がある。流速は線速度にして2.0m/hr以下とす
る。溶出操作後、純水を塔頂より通液して水押し出しを
行って、グリシンの溶出を完全にする。純水の量は塔内
に充填したイオン交換樹脂と同体積程度とする。流速は
線速度にして2.0m/hr以下とする。
以上の操作終了後、イオン交換樹脂はNH4 +型となって
いるので、塔頂より適宜酸溶液を通液して、H+型に再生
して次回のグリシンとL−セリンの分離操作にそなえ
る。イオン交換樹脂の再生には、例えば、イオン交換樹
脂の総交換容量の1.2倍のモル数の塩酸を含む10重量%
の塩酸水溶液を線速度にして1.1m/hrで通液した後、塔
内に充填したイオン交換樹脂の体積の約2倍の純水を線
速度1.5m/hrで通液して洗浄する方法などを採用するこ
とができる。
〔発明の効果〕
このような操作を行うと、塔底からは、まず、グリシ
ンを含まないL−セリン溶液が溶出する。この溶液に常
用されるアミノ酸の単離操作をほどこすことにより高純
度のL−セリンの結晶を得ることができる。
つづいて、グリシンを主体にした、グリシンとL−セ
リンの混合溶液が溶出してくる。この溶液は濃縮操作を
へて、グリシンを原料としたL−セリン合成反応原料の
一部として再使用することができ、L−セリンのコスト
ダウンに寄与することができる。
〔実施例〕
グルコース4g/、クエン酸2g/、MgSO4・7H2O0.2g/
、K2HPO410g/、NaNH4HPO4−4H2O0.2g/、酵母エキ
ス0.5g/(pH7.0)の組成からなる培地200mlずつを含
む1容三角フラスコ10本に、ブイヨン寒天培地で生育
したエシェリヒア・コリMT−10350(FERM P−7434)の
菌体を1白金耳ずつ接種し、30℃、210rpmで24時間振盪
培養した。得られた培養液より遠心分離による湿菌体8g
を得た。
この湿菌体8gを10mMリン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し
た後、4℃で15分間超音波処理し、粗酵素液20mlを得
た。
グリシン117g、テトラヒドロ葉酸0.21g、ピリドキサ
ール−5′−リン酸3mg、粗酵素液20mlを含む反応液420
mlを調整し、反応液中のホルムアルデヒド濃度を4−ア
ミノ−3−ヒドラジド−5−メルカプト−1,2,4−トリ
アゾールを用いて比色分析しつつ、その濃度が20mMを越
えないように制御しながら、37%ホルマリンをペリスタ
ポンプにより連続的に供給することによって、L−セリ
ンの合成反応を行った。反応温度は50℃、pHは2M K4P2O
7を添加することにより、常時7.0に制御した。撹拌は20
0rpmで行った。
反応液へのホルマリン供給は42時間継続し、反応液に
添加したホルマリン(37重量%ホルムアルデヒド溶液)
の総量は96.5gだった。
反応終了後、硫酸を用いて反応液のpHを4.0に調整、
活性炭3gを装入後、90℃で30分間の熱処理を行い、熱濾
過して菌体由来の残渣を除去した。こうしてL−セリン
溶液705gを得た。このL−セリン溶液246ml(L−セリ
ンを17.43g/dl、グリシンを4.02g/dl、K+を1.07g/dl含
む)を内径40mmの円筒に強酸性陽イオン交換樹脂レバチ
ットMDS−1368(バイエル社製)を480ml充填し、H+型に
再生した樹脂塔に通液し(総交換容量0.77eq)、L−セ
リン、グリシン、K+をイオン交換樹脂に保持した。引続
き純水480mlを通液してイオン交換樹脂に保持されない
不純物を洗い流した。0.88Mアンモニア水544mlを通液し
たあと純水900mlで押し出し、L−セリンのみを溶出さ
せた。さらに0.88Mアンモニア水182mlの通液、純水400m
lによる押し出しにより、グリシンを主体としたグリシ
ンとL−セリンの混合液を溶出させた。全工程、線速度
1.5m/hrで通液を行った。
溶出液を250mlずつ分取し、HLCにてグリシンとL−セ
リンを分析した結果は表1に示すごとくであり、図示す
ると図1のようになる。L−セリンの溶出画分をフラク
ションNo.5からNo.7とし、L−セリン濃度は4g/dlでグ
リシンを含まない溶出液を得た。このL−セリン溶液か
ら単離したL−セリンの純度は99.9%で、L−セリン以
外のアミノ酸を含有していなかった。
〔比較例〕 実施例で調整したL−セリン溶液246ml(L−セリン
を17.43g/dl、グリシンを4.02g/dl、K+を1.07g/dl含
む)を、内径40mmの円筒に強酸性陽イオン交換樹脂レバ
チットMDS−1368(バイエル社製)を480ml充填し、H+
に再生した樹脂塔(総交換容量0.77eq)に通液し、L−
セリン、グリシン、K+を保持させた。純水480mlを通液
してイオン交換樹脂に保持されない不純物を洗い流し
た。アルカリによる溶出を2回に分けて行わず、今度は
連続して実施した。すなわち、0.88Mアンモニア水816ml
を通液、L−セリンとグリシンを溶出させた。全工程線
速度1.5m/hrで通液を行った溶出液を250mlずつ分取し、
HLCにてグリシンとL−セリンを分析した結果は表2に
示すごとくであり、図示すると図2のようになる。
L−セリンの溶出画分をフラクションNo.6からNo.7と
し、L−セリン濃度8.4g/dl、グリシン濃度0.4g/dlの溶
出液を得た。このL−セリン溶液から単離したL−セリ
ンの純度は98.5%でグリシンを1.2%含有していた。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明実施例における表1をプロットした図で
あり、図2は、本発明比較例における表2をプロットし
た図である。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】グリシンを原料として酵素法、または醗酵
    法により得られる未反応グリシンを含むL−セリン溶液
    から、L−セリンを分離する方法において、該L−セリ
    ン溶液を有効径0.15〜0.40mm、均一係数1.7以下でH+
    の強酸性陽イオン交換樹脂の充填層に通液して、グリシ
    ンとL−セリンを保持し、続いて保持されたL−セリン
    に対して、1.0から1.5倍モル量のアルカリ溶液を線速度
    2.0m/hr以下で通液した後、充填層に充填した強酸性陽
    イオン交換樹脂の1〜3倍量の水で押し出しをすること
    を特徴とするL−セリンの分離方法。
  2. 【請求項2】強酸性陽イオン交換樹脂に保持されたL−
    セリンを溶出させるのに通液するアルカリの濃度が、0.
    5〜1.2Mである請求項1記載の方法。
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