JP2715315B2 - 電子放出素子の製造方法 - Google Patents

電子放出素子の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、電子放出素子に関し、特に安定した放出電
流を得られる電子放出素子の製造方法に関する。
[従来の技術] 従来、簡単な構造で電子の放出が得られる素子とし
て、例えば、エム アイ エリンソン(M.I.Elinson)
等によって発表された冷陰極素子が知られている。[ラ
ジオ エンジニアリング エレクトロン フィジィッス
(Radio Eng.Electron.Phys.)第10巻、1290〜1296頁、
1965年] これは、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に
平行に電流を流すことにより、電子放出が生ずる現象を
利用するもので、一般には表面伝導形電子放出素子と呼
ばれている。
この表面伝導形電子放出素子としては、前記エリンソ
ン等により開発されたSnO2(Sb)薄膜を用いたもの、Au
薄膜によるもの[ジー・ディトマー“スイン ソリド
フィルムス”(G.Dittmer:“Thin Solid Films"),9巻,
317頁,(1972年)]、ITO薄膜によるもの[エム ハー
トウェル アンド シー ジー フォトスタッド“アイ
イー イー イー トランス”イー ディー コンフ
(M.Hartwell and C.G.Fonstad:“IEEE Trans.ED Con
f.")519頁,(1975年)]、カーボン薄膜によるもの
[荒木久他:“真空",第26巻,第1号,22頁,(1983
年)]などが報告されている。
これらの表面伝導形電子放出素子の典型的な素子構成
を第2図に示す。同第2図において、1及び2は電気的
接続を得る為の電極、3は電子放出材料で形成される薄
膜、4は絶縁性基板、5は電子放出部を示す。
従来、これらの表面伝導形電子放出素子に於ては、電
子放出を行う前に予めフォーミングと呼ばれる通電処理
によって電子放出部を形成している。即ち、前記電極1
と電極2の間に電圧を印加する事により、薄膜3に通電
し、これにより発生するジュール熱で薄膜3を局所的に
破壊、変形もしくは変質せしめ、電気的に高抵抗な状態
にした電子放出部5を形成することにより電子放出機能
を得ている。
上述の電気的に高抵抗状態とは薄膜3の一部に0.5μ
m〜5μmの亀裂を有し、且つ亀裂内が所謂島構造を有
する不連続状態膜をいう。島構造とは一般に数十Åから
数μm径の微粒子が基板4上にあり、各微粒子は空間的
に不連続で電気的に連続な膜を云う。
上記、表面伝導形電子放出素子は上述高抵抗不連続膜
に電極1,2により電圧を印加し、素子表面に電流を流す
ことにより、上述微粒子より電子放出せしめるものであ
る。
[発明が解決しようとする課題] しかしながら、上記の様な従来の通電によるフォーミ
ング処理によって製造された電子放出素子は、電子放出
部となる島構造の設計がしにくいことから、フォーミン
グを使用せず、上記島構造を作製する方法として、微粒
子を分散形成する方法や熱処理による居所的な析出現象
を利用する方法、微粒子を直接吹き付けて島構造に堆積
する方法等が提案されている。
ところが、いずれの方法を用いて作製された電子放出
素子でも水や酸素を含む環境にさらすと、その特性にバ
ラツキを生じ、不安定で再現性に乏しいことが分かっ
た。このことは、その素子を応用したり製造する際にお
いて、その特性を制御して作製することを困難にしてい
た。このような問題点があるため、従来の表面伝導形電
子放出素子は、素子構造は簡単であるという利点がある
にもかかわらず、産業上積極的に応用されるには至って
おらず、環境に左右されにくい素子が望まれていた。
以上の点に鑑み、本発明は、前述従来の問題を除去す
る為になされたものであり、電子放出素子において、電
子放出部の表面改質を施すことにより、環境による特性
のバラツキが少なく、低真空でも安定で寿命の長い電子
放出素子を容易に製造できるようにすることを目的とす
る。
[課題を解決するための手段] 本発明の第1の方法は、相対向する電極間に電子放出
材料の微粒子を付設して電子放出部を形成した後、少な
くとも該電子放出部に、フッ素を含む有機化合物の被覆
を施しておくことを特徴とする電子放出素子の製造方法
である。
また、本発明の第2の方法は、相対向する電極間に設
けられた電子放出材料の薄膜に、通電によるフォーミン
グ処理を施して電子放出部を形成した後、少なくとも該
電子放出部に、フッ素を含む有機化合物の被覆を施して
おくことを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
以下、図面に基づいて、上記本発明を更に詳細に説明
する。
第1図は本発明の方法で得られる電子放出素子の一例
を示す説明図である。同第1図に於いて、4は絶縁性基
板、1及び2は電圧印加用の低抵抗体からなる一対の電
極、6は電子放出材料で形成される島状構造体で、電極
1、2間の微小間隔部分に配置され、これが電子放出部
5となる。さらに、この素子上の少なくいとも電子放出
部には、フッ素を含む有機化合物膜15が被覆されてい
る。
本発明でいう島状構造体は、微粒子あるいは微粒子の
集合体で粒径が数十Å〜数μmでさらに各微粒子間の間
隔が数10Å〜0.5μmの範囲内で形成されるとよい。こ
の島状構造体で使われる電子放出材料としては、非常に
広い範囲におよび通常の金属、半金属、半導体といった
導電性材料の殆ど全てを使用できる。なかでも低仕事関
数で高融点かつ低蒸気圧という性質をもつ通常の陰極材
料や、また従来のフォーミング処理で表面伝導形電子放
出素子を形成する薄膜材料や、2次電子放出係数の大き
な材料等が好適である。
こうした材料から、必要とする目的に応じて適宜材料
を選んで微粒子として用いることにより、所望の電子放
出素子を形成することができる。
具体的には、LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiC,Zr
C,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化
物、Nb,Mo,Rh,Hf,Ta,W,Re,Ir,Pt,Ti,Au,Ag,Cu,Cr,Al,C
o,Ni,Fe,Pb,Pd,Cs,Ba等の金属、In2O3,SnO2,Sb2O3等の
金属酸化物、Si,Ge等の半導体、カーボン、AgMg等を一
例として挙げることができる。尚、本発明は上記材料に
限定されるものではない。
電極材としては、一般的な導電性材料、Au,Pt,Ag等の
金属の他のSnO2,ITO等の酸化物導電性材料でも使用でき
る。図1において電極の厚みは数100Åから数μm程度
が適当であるが、この数値に限るものではない。また電
極間隔Lの寸法は1000Å〜数100μm,幅Wの寸法は数μ
mから数mm程度が適当であるがこのL及びWの寸法に限
定するものではない。
フッ素を含む有機化合物としてはポリテトラフルオロ
エチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプ
ロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、
テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニ
ルフルオライド等のいわゆるフッ素樹脂あるいはフッ素
系ランダム共重合樹脂、パーフロロアルキル基を一成分
とした共重合体、例えば幹鎖がパーフロロアルキルメタ
クリレート系で技鎖がPMMAであるグラフト共重合アクリ
ル樹脂、より低分子量のものとしては、パーフロロアル
キル基(Rf)を含む化合物(例えば一般式RfCOOH及びそ
の塩、CH2=CHCOOCH2Rf,RfCH2CH2Si−(OCH33,RfC2H4
OH,RfCH=CH2等)や市販のフッ素系界面活性剤(例えば
パーフロロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキ
ルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリ
メチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルリン酸エ
ステル等)、市販のフッ素系潤滑油(例えば商品名モン
テフルオス(社)のフォンブリン、デュポン(社)のク
ライトックスに代表されるパーフルオロポリエーテル
等)、フッ素化オイル、フッ素化グリース、フッ素系オ
リゴマー化合物等を一例として挙げることができる。
フッ素を含む有機化合物の塗布量は、電子放出特性を
損わない程度の量が好適である。電子放出材料や電子放
出部の形状にもよるが、膜厚150Å相当以下が好まし
い。
次に、本発明の電子放出素子の製造方法について説明
する。第1図において先ず洗浄されたガラス、石英等か
らなる絶縁基板上に蒸着もしくはスパッタ法、メッキ法
等により電極材料となる薄膜を形成する。次いで、フォ
トリングラフィーにより、電子放出部となる微小間隔を
有する電極パターンを形成する。次いで電子放出材料の
島状構造体を形成する。その方法としては、電子放出材
料の微粒子を付設する方法があり、これには、微粒子を
吹き付けて直接堆積させる方法や、微粒子を塗布する方
法、熱処理による局所的な析出現象を利用する方法が挙
げられる。また、電子放出材料となる薄膜を先に形成し
次いで電極材料をマスク蒸着してパターンを形成し、電
極間に電圧を印加して電子放出材料の薄膜をジュール熱
で局所的に破壊、変形、もしくは変質せしめて、電気的
に高抵抗な状態の電子放出部をする方法でもよい。この
ようにして形成した少なくとも電子放出部にフッ素を含
む有機化合物をEB蒸着や抵抗加熱法,イオンプレーティ
ング等の真空蒸着により形成する乾式コーティング、溶
剤に溶かして塗布するディッピング法、バーコート法、
リバースロールコーティング法、ロッドコーティング
法、スピンコート法等に代表される湿式コーティングの
公知の技術で被覆することができる。この時、電子放出
部以外の部分にも、このフッ素を含む有機化合物が被わ
れることもあるが、本発明の被覆厚では、殆どの場合に
問題にならない。場合によっては、電極表面をマスクし
て被着させることも可能である。
本発明のフッ素を含む有機化合物で電子放出させる領
域の表面を被うことにより特性のバラツキが少なくな
り、安定で寿命が長くなる理由については詳細は不明で
あるが、フッ素を含む有機化合物は、撥水性が高く、表
面エネルギーを小さくさせるため有極性ガス分子特に酸
素や水が吸着しにくく、電子放出部の島状構造体の表面
変質が避けられ、特性変化を防いでいるためと考えられ
る。
[実施例] 以下、図面に基づいて実施例により本発明を詳細に説
明する。
実施例1 先ず、洗浄な石英基板上にNi電極3000Å真空蒸着法で
形成し、フォトリソグラフィー手法を用いて、第1図の
電極パターンを形成する。第1図中のLは30μm、Wは
400μmとした。次に試料基板を第3図に示した真空装
置にセットする。第3図に示した装置は、微粒子生成室
7と微粒子堆積室8及び前記両室を継ぐノズル9から構
成され、試料素子10は同図中10の位置にセットされる。
排気系11で真空度を5×10-7Torrまで排気した後導入Ar
ガス12を微粒子生成室7へ60SCCM流した。作成条件は、
微粒子生成室7の圧力5×10-2Torr、微粒子堆積室8の
圧力1×10-4Torr、ノズル径5φ、ノズル−基板間距離
150mmとした。次にカーボン製るつぼの蒸発源13よりPd
を前述条件下で蒸着させて生成したPd微粒子をノズル9
より吹き出させシャッター14の開閉により所定量堆積さ
せる。このとき、Pd微粒子の堆積厚は100Åである。微
粒子は試料全面に配置されるが、形成される電子放出部
以外のPd微粒子は、実質的に電圧が印加されないため何
ら支障はない。Pd微粒子の径は約50〜200Åで中心粒径
は100Å、基板に島状に散在していた。
次に、同じ試料上にFEP(4フッ化エチレン−6フッ
化プロピレン共重合)樹脂を真空中でEB蒸着する。FEP
の蒸着速度は約3.0Å/secで、150Åの厚さを電子放出部
付近にマスク蒸着した。
この試料を、温度30℃、湿度70%RHの大気中環境に24
Hrさらした後、1×10-6Torrの真空下に引いて素子に対
し、引き出し電極を基板鉛直方向に5mm離した位置に設
定し、第1図中電極1,2間に15Vの印加電圧で測定した。
その結果平均放出電流0.9μA、放出電流の安定性±9
%の安定な電子放出を得た。また、素子間の再現性も良
く特性(安定性)のバラツキは5〜17%であった。電子
放出のくり返し寿命も100Hr以上の動作が可能である。
比較例1 実施例1に於いてFEP樹脂を蒸着しなかった他は、実
施例1と同様に試料を作製して評価した。その結果、平
均放出電流1.0μA、放出電流の安定性±37%でそのバ
ラツキは、±12〜73%であり、バラツキが非常に大き
い。電子放出のくり返し寿命は20〜62Hrであった。
実施例2 実施例1に於いてFEP樹脂を蒸着するのに代えて、パ
ーフロロアルキル基の一成分としたグラフト共重合アク
リル樹脂(総研化学(株)製くし型ポリマーLF−40)を
トルエン/MEK=1:1に溶かし、スピンコート法により塗
布し、80℃15分乾燥を行った。被着厚みは重量法換算で
約65Åであった。それ以外は、実施例1と同様に処理し
評価した。その結果、平均放出電流1.2μA、放出電流
の安定性±11%でそのバラツキは、±6〜14%であっ
た。電子放出のくり返し寿命も100Hr以上の動作が可能
であった。
実施例3 実施例1のPd微粒子に代えて、1次粒径80〜200ÅのS
nO2分散液(SnO2:1g,溶剤:MEK/シクロヘキサノン=3/1
1000cc,ブチラール:1g)をスピンコートして塗布し、25
0℃で加熱処理して形成した。次に、パーフルオロカプ
リル酸C7F15COOHをIPAに溶かし、スピンコート法で塗布
し60℃10分乾燥させた。被着厚みは約120Åであった。
他は実施例1と同様に処理し評価した。その結果、平均
放出電流0.7μA、放出電流の安定性5%でバラツキは
±4〜12%、電子放出のくり返し寿命も100Hr以上の動
作が可能であった。
実施例4 第2図の如く、白板ガラス基板からなる絶縁性基板4
上に膜厚1000ÅのIn2O3からなる薄膜3と膜厚1000ÅのA
lからなる電極1,2をフォトリソグラフィーの手法を使っ
て形成した。次いで電極1,2間に約30Vの電圧を印加し、
薄膜3に通電し、これにより発生するジュール熱で薄膜
3を局所的に、電気的に高抵抗な状態にした電子放出部
を形成し、該電子放出部の表面に、熱硬化型フッ素樹脂
(旭硝子(株)製ルミフロン)をキシレン:メチルイソ
ブチルケトン:イソシアネート(硬化剤)=1:1:0.3の
配合比の溶剤に溶かし、試料上にスピンコーティング
し、230℃5分間で硬化させた。このときの被着厚は約4
0Åであった。この様にして得られた電子放出素子の電
子放出特性を1×10-5Torrの条件下で測定した結果、15
Vの印加電圧で平均放出電流0.6μA、放出電流の安定性
±9%程度、そのバラツキ7〜20%を得た。電子放出の
くり返し寿命も100Hr以上の動作が可能であった。
[発明の効果] 以上説明したように、本発明の電子放出素子は、電子
放出部の少なくとも電子が放出される領域の表面がフッ
素を含む有機化合物で被われていることにより、真空度
や、空気中に存在するガス質環境に左右されにくく、ゆ
らぎの小さい安定した放出電流が得られ、高寿命で素子
ごとのバラツキも少なく、再現性も良好になる等の効果
があり、その素子を産業上応用するにあたっても、極め
て信頼度の高い製品に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の方法で得られる電子放出素子の一例を
示す概略図、第2図は本発明の方法で得られる電子放出
素子の別の例を示すフォーミング型電子放出素子の概略
図、第3図は、電極間に微粒子を堆積させる一実施例の
真空装置図である。 1,2……電極、3……薄膜、 4……絶縁基板、5……電子放出部、 6……島状構造体、7……微粒子生成室、 8……微粒子堆積室、9……ノズル、 10……試料素子、11……排気系、 12……導入Arガス、13……蒸発源、 14……シャッター、15……有機化合物膜。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 武田 俊彦 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (72)発明者 坂野 嘉和 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (56)参考文献 特開 昭56−130057(JP,A) 特開 昭64−51406(JP,A) 特開 昭61−243850(JP,A) 特開 昭63−184230(JP,A)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】相対向する電極間に電子放出材料の微粒子
    を付設して電子放出部を形成した後、少なくとも該電子
    放出部に、フッ素を含む有機化合物の被覆を施しておく
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  2. 【請求項2】相対向する電極間に設けられた電子放出材
    料の薄膜に、通電によるフォーミング処理を施して電子
    放出部を形成した後、少なくとも該電子放出部に、フッ
    素を含む有機化合物の被覆を施しておくことを特徴とす
    る電子放出素子の製造方法。
  3. 【請求項3】電子放出部が、電極間に形成された電気的
    な高抵抗部であることを特徴とする請求項1又は2に記
    載の電子放出素子の製造方法。
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