JP2683444B2 - 内燃機関の動弁機構用焼結合金 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 この発明は、内燃機関の動弁機構を構成する部材のう
ち、カムと摺接する部材で高温の耐摩耗性を必要とする
ロッカーアーム、バルブリフタなどに好適な鉄系焼結合
金に関するものである。

〔従来の技術〕

従来の熱処理された鋼材や合金鋳鉄材、または硬質ク
ロム鍍金や自溶性合金を溶射した部材に代わって、耐摩
耗性及び価格に勝る各種の動弁機構用焼結合金が提案さ
れている。

特開昭63−7350号公報記載の焼結合金はその一つで、
組成（重量％）がC1〜４％、Cr5〜30％、Mo1〜５％、Ni
〜5.5〜10％、Sn0.2〜５％、Ｗ及びＶの少なくとも１種
0.1〜４％、Ｐ及びＢの少なくとも１種0.05〜５％、Fe
及び不可避不純物が残部で、熱処理して用いられる焼結
合金であり、この合金は特にNiとSnの添加量を適切に選
択し、耐摩耗性を向上したものである。

しかし、前記合結合金を製造する場合、焼結時間を通
常より長くする必要があった。

それは、前記組成の合金粉末を用いて圧縮成形するの
では合金粉末が硬すぎるので、Ｃは黒鉛粉の形で、Snは
錫粉の形で、ＰまたはＢは鉄燐粉及びフェロボロン粉の
形で添加し、残りの成分をそれぞれの合金鉄粉にする
か、または合金鉄粉をCr−Mo−Ｗ−Ｖ系合金鉄粉とし、
Niをニッケル粉の形で添加する方法が考えられるが、前
者の合金鉄粉ではNiが６〜12重量％と多量なため粉末の
圧縮性が悪く、高い密度を得ることが困難である。そこ
で、一般的には後者のようにNiの一部または全部をニッ
ケル粉の形で添加する方法によれば圧縮性は解決でき
る。しかし後者の場合、短い焼結時間ではニッケルの拡
散が不十分となり、熱処理した材料は、硬さが所望する
より低く、耐摩耗性も悪いという結果を招く。よって後
者においては拡散するに十分な焼結時間が必要になるわ
けである。

〔発明が解決しようとする課題〕

本発明は、原料粉末の圧縮成形性がよく、短時間で焼
結可能で、しかも従来材に勝る耐摩耗性を持つ焼結合金
を提供し、上記従来技術の欠点を解決しようとするもの
である。

〔課題を解決するための手段〕

本発明は上記課題を解決するために、C:1.5〜４重量
％、Mn:1.5〜４重量％、Cr:8〜28重量％、Ni:2重量％以
下、V:0.3〜３重量％、Sn:5重量％以下、Mo及びＷの少
なくとも１種:0.7〜７重量％、１重量％以下のＰ及び２
重量％以下のＢの少なくとも１種:0.1〜２重量％、Fe及
び不可避不純物：残部からなり、マルテンサイト鉄基地
中に粒状の金属炭化物が分散した組織であることを特徴
とする内燃機関の動弁機構用焼結合金を提供するもので
ある。

〔作用〕

本発明は前記従来技術に比し、Ni含有量を大幅に減少
させると共にMnを多量に含有させることにより目的を達
成し得たものである。

本発明に係る焼結合金は、基調としてマルテンサイト
のマトリックスに金属炭化物の硬質粒子を分散させるこ
とにより、材料自身の耐摩耗性を高め、同時に金属炭化
物の種類、量及び相互の組合せの適切な選択によって相
手カム材の摩耗減少にも寄与している。

次に、各成分の作用について説明する。

Cr:マトリックスを強化すると共に、硬質な炭化物を形
成し、焼入れ性を向上し、耐摩耗性を向上させるもの
で、合金鉄粉の形で添加することができる。

含有量は、焼結合金で８〜28重量％の範囲で安定して
摩耗が少なく、８重量％より少なくても28重量％より多
くても摩耗が大きい。

V,Mo及びW:これらの元素は、Crと同様にマトリックスを
強化すると共に、Ｃと反応して硬質な炭化物を形成して
耐摩耗性を向上させる。また、焼入れ効果を大きくする
作用がある。

Ｖは炭化物が比較的硬質で、Cr、Mo及びＷと共存した
時、0.3重量％以上の点で耐摩耗性に効果がある。３重
量％を越えて添加すること材料が脆くなり、相手材を摩
耗させ易くする。

MoとＷは、同様の性質を示すが、Moの方が効果が大き
い。炭化物生成元素のCr,Vと共存した時少なくとも一方
が0.7重量％以上で効果がある。一方、７重量％を越え
る添加は相手材を摩耗させ易くする。

これらの元素は前記Crと共に合金鉄粉の形で添加する
ことができる。

Ni:鉄に拡散してマトリックスを強化すると共に相手材
とのなじみ性を良くする作用をする元素であるが、前記
の合金鉄粉中に2.5重量％を越えて添加すると粉末が硬
くて圧縮性が悪くなる。一方、ニッケル粉の形で添加す
ると、拡散させるのに長時間の焼結を必要とする。この
ことから上記合金鉄粉に2.5重量％以下添加すればよ
く、これは焼結合金に換算すると、２重量％に相当す
る。

Mn:フェロマンガン粉の形で添加することができる。

他の元素に比べて焼入れ効果能を向上させる作用が大
きい。

炭化物生成能があり硬さの向上に寄与するが、V,Mo,W
のようにあまり大きな親和力を持たないため、マトリッ
クスの強化と相手材とのなじみ性をよくする作用が大き
い。靭性及び耐破壊荷重を向上させ、Niの作用に類似し
ている。

耐摩耗性の向上には1.5重量％以上の添加が必要であ
るが、４重量％を越えて添加すると焼結中の酸化の問題
があり、強度が低下して耐摩耗性が低下する。

Sn:錫粉の形で添加することができる。溶融してマトリ
ックス中に拡散固溶し、焼結を促進すると共に基地を強
化する作用があるが、５重量％より多く添加すると、気
孔及び炭化物粒子を粗大化させ、強度を低下させて耐摩
耗性が悪くなる。

Ｐ及びB:鉄燐または鉄ボロン合金粉の形で添加すること
ができる。

焼結を促進し、焼結合金の密度を高くする作用があ
る。いずれか１種でもよく、双方を添加してもよい。添
加量は0.1重量％以上で所望する効果が得られるが、Ｐ
の場合１重量％、Ｂの場合２重量％、両方の場合２重量
％を越えて添加すると液相が過剰になり、焼結時の寸法
変化が大きくなり、材料が脆くなる。

C:鉄及び前述の炭化物生成元素と反応する。

黒鉛粉の形で添加することができ、十分な炭化物を生
成するには1.5〜４重量％必要で、４重量％を越える添
加は脆性をきたす。

〔実施例〕

まず、黒鉛粉、錫粉、フェロマンガン粉、フェロボン
粉、鉄燐粉、Cr−Ｖ−Mo−Ｗ−Ni合金鉄粉及びステアリ
ン酸亜鉛粉を準備し、第１表に示す組成になるように配
合した。

次いで、これらの混合粉を、パッド形状に圧縮成形
し、下記の条件で焼結及び熱処理を施して試料を作製し
た。

焼結雰囲気：真空（１×10^-3mmHg） 焼結温度:1130℃ 焼結時間:30分 焼入れ条件:900℃から油中急冷 焼戻し条件:180℃ なお、試料番号34,35は従来材であり、Niはニッケル
粉の形で添加してある。また、焼結時間は試料番号34が
60分間、試料番号35は30分間、他は実施例と同様であ
る。

各試料はロッカーアーム本体に接合して水冷直列４気
筒エンジンに組み込み、モータでカム軸を回転する台上
試験によりパッドとカムの総合摩耗量を調べた。相手カ
ムはカムトップ面をチル化した低合金鋳鉄製で、潤滑油
は2.5体積％の水を添加したSAE＃30相当のエンジン油を
用い、回転数650rpmで50時間連続運転した。

第１表に測定結果を示す。

摩耗量の評価は、従来材の評価基準40μｍよりも25％
低い30μｍとした。

試料１〜７はCr添加量の効果を表わしており、８〜28
重量％Crの場合に摩耗が少ない。

試料８〜12はV,Mo,Wの効果を表わしており、V0.3〜３
重量％でMo及びＷが0.7〜７重量％のとき良好な結果を
示している。添加量が多すぎると相手カムを攻撃してい
る。

試料13〜14はNiについてであり、合金鉄粉に2.5重量
％を越えてNiを添加すると粉末の圧縮性が悪化した。

試料15〜18はMnの効果であるが、1.5〜４重量％の時
良い結果を示している。多量の添加はかえって強度が低
くなりパッドの摩耗が増加してしまう。

試料19〜26はＰとＢの効果を示している。

添加量0.1重量％で効果が認められ、0.5〜１重量％で
最も良好である。Ｐは１重量％を、Ｂは２重量％を越え
ると脆化する傾向があり、摩耗が大きくなる。

試料27〜30はSnの効果である。添加量の増加と共に摩
耗は減少し３重量％の時最小値で、それ以上では再び摩
耗が増加し、５重量％を越えると添加は不適切である。

試料31〜33はＣの効果である。1.5〜４重量％Ｃで摩
耗量が低い水準を保っている。

試料34は、従来材の60分間焼結したもので耐摩耗性が
良好であるが、30分間焼結した試料35は摩耗量が大きい
ことがわかる。

〔発明の効果〕

本発明の動弁機構用焼結合金は、原料粉末の成形性が
良好であり、短時間の焼成で従来材より優れた耐摩耗性
を示し、合金の製造においてはコストが低減され、使用
においてはエンジ品質を向上することができる。

Claims (1)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】C:1.5〜４重量％ Mn:1.5〜４重量％ Cr:8〜28重量％ Ni:2重量％以下 V:0.3〜３重量％ Sn:5重量％以下 Mo及びＷの少なくとも１種:0.7〜７重量％ １重量％以下のＰ及び２重量％以下のＢの少なくとも１
   種:0.1〜２重量％ Fe及び不可避不純物：残部 からなり、マルテンサイト鉄基地中に粒状の金属炭化物
   が分散した組織であることを特徴とする内燃機関の動弁
   機構用焼結合金。